説明

レール破断検知システム及びレール破断検知装置

【課題】レール破断を検知すること。
【解決手段】レール上の複数の区間にそれぞれ設けられて、レールを電気回路の一部として利用し、列車の有無を検知する複数の軌道回路Tと、列車自ら位置検知を行い、無線を使って車上と地上との間で双方向に情報通信を行うことにより列車を制御する列車制御システムと、レール破断を検知するレール破断検知装置110とを備え、レール破断検知装置110は、各軌道回路Tにて検知されたレール上の各区間における列車の有無の情報と、列車制御システムにて検知された列車の位置の情報とに基づいて、レール上の各区間にレール破断が起きているか否かを判定するレール破断判定部を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レール破断検知システム及びレール破断検知装置に関する。特に本発明は、レール破断を検知するレール破断検知システム、並びにレール破断検知装置に関する。
【背景技術】
【0002】
レール破断が起きた場合には、レールの重要な役割である車両の円滑な誘導、案内機能が失われる。そのため、レール破断の防止は、重要である。レール破断を防止するための技術としては、様々なものが知られている(例えば、特許文献1から4参照。)。
【0003】
特許文献1に記載のレール破断検知方法は、鉄道の軌道におけるレール破断を検知する方法である。このレール破断検知方法は、左右一対のレールに流れる各々の帰線電流を検知し、各々の帰線電流から不均衡を求めて、不均衡が予め設定した値を越えたことにより、レール破断を検知する。
【0004】
特許文献2に記載のレール破断検出装置は、例えば鉄道においてレールの破断を検出する装置である。このレール破断検出装置は、車両側から線路へ電気信号を出力する。そして、このレール破断検出装置は、線路を伝わってくる電気信号を車両側で受信する。そして、このレール破断検出装置は、受信している電気信号に変化があったときに、レール破断が生じていると検出する。
【0005】
特許文献3に記載のレール破断検査方法は、鉄道用のレールに破断が生じているか否かを検査する方法である。このレール破断検査方法は、レールにパルス信号を入射する。そして、このレール破断検査方法は、パルス信号の入射位置においてパルス信号の入射波に対する反射波を観測して、位相が同相の波形が観測された場合に、レール破断の可能性有と判断する。
【0006】
特許文献4に記載のレール破断検知方法は、レールを通じて送信部から送信された軌道回路信号を受信部で受信し、信号の受信状態に基づいて列車を検知する軌道回路が線路に沿って構成された併設する2本の線路が、それぞれのインピーダンスボンドを介して2箇所で電気的に接続されることで形成される還流電気経路中のレール破断の発生を検知する方法である。このレール破断検知方法は、送信部が軌道回路の識別情報を軌道回路信号に含めて送信する。そして、このレール破断検知方法は、受信部により受信された信号の中から、他軌道回路の軌道回路信号を抽出する。そして、このレール破断検知方法は、抽出された他軌道回路の軌道回路信号の信号レベルに基づいて、他軌道回路のレールの破断可能性を推定する。そして、このレール破断検知方法は、抽出された他軌道回路の軌道回路信号に含まれる識別情報に基づいて他軌道回路を特定する。そして、このレール破断検知方法は、破断可能性有りと推定された場合に、特定した他軌道回路に破断発生推定信号を通知する。そして、このレール破断検知方法は、他軌道回路から軌道回路に向けて破断発生推定信号が通知されたことを取得する。そして、このレール破断検知方法は、取得結果を用いて軌道回路におけるレール破断の発生を判定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平06−321110号公報
【特許文献2】特開2002−294609号公報
【特許文献3】特開2010−059688号公報
【特許文献4】特開2011−057995号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、出願人は、軌道回路に代わるATACS(Advanced Train Administration and Communications System)と呼ばれる列車制御システムによって、コンピュータと無線技術によりコストダウン、安全性の向上、輸送効率の向上を目指している。ATACSは、軌道回路による位置検知ではなく、列車自らが検知する車上位置検知としている点が大きな特徴である。より具体的に説明すると、ATACSは、列車間隔制御、進路制御、踏切制御、保守作業の安全制御等の機能を有している。
【0009】
しかしながら、ATACSは、レール破断を検知するための機能を有していないため、その機能の追加が急務である。そこで、上述した特許文献1から4に記載の技術によっては、一応、レール破断を検知することが可能になると思われる。しかしながら、これらの技術は、ATACSが導入されていることを想定していない技術である。そのため、これらの技術は、ATACSとは全く関係のないシステムとして導入する必要があり、その導入や運用が高コストとなる等の問題が想定され、ATACSと共に採用されるべきレール破断検知システムとしては適切でない。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明の第1の形態によると、レール破断を検知するレール破断検知システムであって、レール上の複数の区間にそれぞれ設けられて、レールを電気回路の一部として利用し、列車の有無を検知する複数の軌道回路と、列車自ら位置検知を行い、無線を使って車上と地上との間で双方向に情報通信を行うことにより列車を制御する列車制御システムと、レール破断を検知するレール破断検知装置とを備え、レール破断検知装置は、各軌道回路にて検知されたレール上の各区間における列車の有無の情報と、列車制御システムにて検知された列車の位置の情報とに基づいて、レール上の各区間にレール破断が起きているか否かを判定するレール破断判定部を有する。
【0011】
列車制御システムにて検知された列車の位置に対応するレール上の区間を特定する列車検知区間特定部を更に有し、レール破断判定部は、各軌道回路にて検知された各区間における列車の有無の情報と、列車検知区間特定部が特定したレール上の区間の情報とに基づいて、レール上の各区間にレール破断が起きているか否かを判定してよい。
【0012】
軌道回路にて列車の在線が検知されている区間があり、列車制御システムにて当該区間における列車の在線が検知されていない場合、レール破断判定部は、当該区間にレール破断が起きていると判定してよい。
【0013】
軌道回路にて列車の在線が検知されていない区間があり、列車制御システムにて当該区間における列車の在線が検知されている場合、レール破断判定部は、当該区間にレール破断が起きていないと判定すると共に、当該レール破断検知システムに障害が発生していると判定してよい。
【0014】
本発明の第2の形態によると、レール破断を検知するレール破断検知装置であって、レール上の複数の区間にそれぞれ設けられて、レールを電気回路の一部として利用し、列車の有無を検知する複数の各軌道回路にて検知されたレール上の各区間における列車の有無の情報と、列車自ら位置検知を行い、無線を使って車上と地上との間で双方向に情報通信を行うことにより列車を制御する列車制御システムにて検知された列車の位置の情報とに基づいて、レール上の各区間にレール破断が起きているか否かを判定するレール破断判定部を備える。
【0015】
なおまた、上記の発明の概要は、本発明の必要な特徴の全てを列挙したものではなく、これらの特徴群のサブコンビネーションもまた、発明となり得る。
【発明の効果】
【0016】
以上の説明から明らかなように、この発明は、列車自ら位置検知を行い、無線を使って車上と地上との間で双方向に情報通信を行うことにより列車を制御する列車制御システムと共に採用されるべきレール破断検知システムとして適切なシステムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】一実施形態に係る鉄道施設Fの一例を示す図である。
【図2】一実施形態に係るレール破断検知システム100の利用環境の一例を示す図である。
【図3】レール破断検知装置110のブロック構成の一例を示す図である。
【図4】情報集約装置130aのブロック構成の一例を示す図である。
【図5】ATACS拠点装置150aのブロック構成の一例を示す図である。
【図6】区間情報格納部154に格納されている情報の一例をテーブル形式で示す図である。
【図7】レール破断検知装置110、情報集約装置130、ATACS拠点装置150、軌道回路T、及びATACS車上装置の動作シーケンスの一例を示す図である。
【図8】レール破断検知装置110、情報集約装置130、及びATACS拠点装置150をコンピュータ等の電子情報処理装置で構成した場合のハードウェア構成の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではなく、また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0019】
図1は、一実施形態に係る鉄道施設Fの一例を示す。鉄道施設Fには、駅S、複数のレールR10、R20、R30(以下、レールRと総称する。)、複数の軌道回路T11、T12,T13、T14、T21、T22、T23、T24、T31、T32、T33、T34(以下、軌道回路Tと総称する。)、及び複数の地上子G11、G12、G21、G22、G31、G32(以下、地上子Gと総称する。)が設けられている。
【0020】
駅Sは、旅客の乗降、又は貨物の積卸しを行うために使用される場所のことである。
【0021】
レールRは、鉄道において車輪を直接支持、案内して車両を安全に走行させる地上設備である。鉄道施設Fの場合、駅Sから3本のレールR10、R20、R30が設けられている。
【0022】
軌道回路Tは、レールR上の複数の区間にそれぞれ設けられて、レールRを電気回路の一部として利用し、列車の有無を検知するための情報を伝送する装置である。鉄道施設Fの場合、レールR10には、軌道回路T11、T12、T13、T14が設けられている。同様に、レールR20には、軌道回路T21、T22、T23、T24が設けられている。同様に、レールR30には、軌道回路T31、T32、T33、T34が設けられている。
【0023】
地上子Gは、ある地点で地上と車上間の伝送を行うために地上側に設ける装置である。鉄道施設Fの場合、レールR10には、地上子G11、G12が設けられている。同様に、レールR20には、地上子G21、G22が設けられている。同様に、レールR30には、地上子G31、G32が設けられている。
【0024】
図2は、一実施形態に係るレール破断検知システム100の利用環境の一例を示す。レール破断検知システム100は、レール破断を検知するシステムである。ここで、レール破断とは、使用中のレールに傷が発生し、破断に至ることである。
【0025】
レール破断検知システム100は、レール破断検知装置110、複数の情報集約装置130a〜c(以下、情報集約装置130と総称する。)、複数のATACS拠点装置150a〜c(以下、ATACS拠点装置150と総称する。)、及び通信回線170を備える。ここで、通信回線170は、インターネット等のコンピュータネットワーク、通信事業者のコアネットワーク、及び種々のローカルネットワークを含む。
【0026】
レール破断検知装置110は、レール破断を検知する装置である。より具体的に説明すると、レール破断検知装置110は、各情報集約装置130と通信回線170を介して通信接続される。そして、レール破断検知装置110は、各軌道回路Tにて検知されたレールR上の各区間における列車の有無の情報と、ATACSにて検知された列車の位置の情報とに基づいて、レールR上の各区間にレール破断が起きているか否かを判定する。なおまた、ATACSは、この発明における「列車制御システム」の一例であってよい。
【0027】
情報集約装置130は、各軌道回路Tにて検知されたレールR上の各区間における列車の有無の情報と、ATACSにて検知された列車の位置の情報とを集約する装置である。より具体的に説明すると、情報集約装置130は、上述したように、レール破断検知装置110と通信接続される。また、情報集約装置130は、各軌道回路T、及びATACS拠点装置150と電気的に接続されている。例えば、情報集約装置130aは、軌道回路T11、T12、T13、T14とそれぞれ信号線L11、L12、L13、L14(以下、信号線Lと総称する。)により電気的に接続されている。また、情報集約装置130aは、ATACS拠点装置150aと信号線L15、L16、L17、L18(以下、信号線Lと総称する。)により電気的に接続されている。同様に、情報集約装置130bは、軌道回路T21、T22、T23、T24とそれぞれ信号線L21、L22、L23、L24(以下、信号線Lと総称する。)により電気的に接続されている。また、情報集約装置130bは、ATACS拠点装置150bと信号線L25、L26、L27、L28(以下、信号線Lと総称する。)により電気的に接続されている。同様に、情報集約装置130cは、軌道回路T31、T32、T33、T34とそれぞれ信号線L31、L32、L33、L34(以下、信号線Lと総称する。)により電気的に接続されている。また、情報集約装置130cは、ATACS拠点装置150cと信号線L35、L36、L37、L38(以下、信号線Lと総称する。)により電気的に接続されている。ここで、ATACS拠点装置150と情報集約装置130とに接続されている信号線Lは、レールR上の個別の区間における列車の有無を示す電気信号を送信するための信号線である。例えば、信号線L15、L16、L17、L18は、それぞれ軌道回路T11、T12、T13、T14が設けられた区間における列車の有無を示す電気信号を送信するための信号線である。同様に、信号線L25、L26、L27、L28は、それぞれ軌道回路T21、T22、T23、T24が設けられた区間における列車の有無を示す電気信号を送信するための信号線である。同様に、信号線L35、L36、L37、L38は、それぞれ軌道回路T31、T32、T33、T34が設けられた区間における列車の有無を示す電気信号を送信するための信号線である。そして、情報集約装置130は、各軌道回路Tにて検知されたレールR上の各区間における列車の有無の情報と、ATACSにて検知された列車の位置の情報とを集約して、これらの情報を示すデータを、レール破断検知装置110へ送信する。
【0028】
ATACS拠点装置150は、列車自ら位置検知を行い、無線を使って車上と地上との間で双方向に情報通信を行うことにより列車を制御するATACSにおける情報処理を行う装置である。より具体的に説明すると、ATACS拠点装置150aは、レールR10上の列車を制御するATACSの拠点装置である。同様に、ATACS拠点装置150bは、レールR20上の列車を制御するATACSの拠点装置である。同様に、ATACS拠点装置150cは、レールR30上の列車を制御するATACSの拠点装置である。ATACS拠点装置150は、上述したように、情報集約装置130と信号線Lにより電気的に接続されている。そして、ATACS拠点装置150は、ATACSにて検知された列車の位置に対応するレールR上の区間を特定する。そして、ATACS拠点装置150は、レールR上の各区間における列車の有無を示す電気信号を、情報集約装置130へ信号線Lを介して送信する。以下の説明において、ATACS拠点装置150は、各信号線Lから電気信号を常に送信して、列車の位置に対応する区間として特定された区間がある場合、その区間に対応する信号線Lから電気信号を送信しないようにするものとする。
【0029】
なおまた、本実施形態においては、説明が煩雑になることを防ぐことを目的として、レール破断検知システム100が一のレール破断検知装置110を備える構成について説明する。しかしながら、レール破断検知装置110は、複数のレール破断検知装置110を備えてよい。
【0030】
図3は、レール破断検知装置110のブロック構成の一例を示す。レール破断検知装置110は、集約データ受信部111、レール破断判定部112、及び表示データ出力部113を有する。以下、各構成要素の機能及び動作を説明する。
【0031】
集約データ受信部111は、各軌道回路Tにて検知されたレールR上の各区間における列車の有無の情報と、ATACS拠点装置150にて検知された列車の位置の情報とが集約されたデータを、情報集約装置130から受信する。
【0032】
レール破断判定部112は、各軌道回路Tにて検知されたレールR上の各区間における列車の有無の情報と、ATACSにて検知された列車の位置の情報とに基づいて、レールR上の各区間にレール破断が起きているか否かを判定する。例えば、軌道回路Tにて列車の在線が検知されている区間があり、ATACSにてその区間における列車の在線が検知されていない場合、レール破断判定部112は、その区間にレール破断が起きていると判定する。また、軌道回路Tにて列車の在線が検知されていない区間があり、ATACSにてその区間における列車の在線が検知されている場合、レール破断判定部112は、その区間にレール破断が起きていないと判定すると共に、レール破断検知システム100に異常が発生していると判定する。
【0033】
表示データ出力部113は、レール破断判定部112が判定した判定結果をディスプレイに表示させるための表示データを、ディスプレイへ出力する。
【0034】
図4は、情報集約装置130aのブロック構成の一例を示す。情報集約装置130aは、電気信号受信部131a、情報集約部132a、及び集約データ送信部133aを有する。以下、各構成要素の機能及び動作を説明する。
【0035】
なおまた、情報集約装置130a以外の情報集約装置130b、cも、情報集約装置130aが有する構成要素と同じ構成要素を有する。以後の説明では、情報集約装置130が有する構成要素がいずれの情報集約装置130の構成要素であるかを区別する場合には、各構成要素を有する情報集約装置130と同じ添え字(a、b、c)を各構成要素の末尾に付して区別する。例えば、電気信号受信部131a、電気信号受信部131b、及び電気信号受信部131cは、それぞれ情報集約装置130a、情報集約装置130b、及び情報集約装置130cの構成要素であることを示す。
【0036】
また、以後の説明において、添え字が付されていない構成要素の機能及び動作は、同じ符号が付されたいずれの構成要素の機能及び動作を示す。例えば、電気信号受信部131で説明された機能及び動作は、電気信号受信部131a、電気信号受信部131b、及び電気信号受信部131cの機能及び動作を示す。
【0037】
電気信号受信部131は、列車の有無を示す電気信号を、軌道回路Tから信号線Lを介して受信する。また、電気信号受信部131は、レールR上の各区間における列車の有無を示す電気信号を、ATACS拠点装置150から信号線Lを介して受信する。
【0038】
情報集約部132は、電気信号受信部131が受信している電気信号の状況に基づいて、各軌道回路Tにて検知されたレールR上の各区間における列車の有無の情報と、ATACSにて検知された列車の位置の情報とを集約する。
【0039】
集約データ送信部133は、情報集約部133が集約した情報を示すデータを、レール破断検知装置110へ送信する。
【0040】
図5は、ATACS拠点装置150aのブロック構成の一例を示す。ATACS拠点装置150aは、列車位置データ受信部151a、列車検知区間特定部152a、電気信号送信部153a、及び区間情報格納部154aを有する。以下、各構成要素の機能及び動作を説明する。
【0041】
なおまた、ATACS拠点装置150a以外のATACS拠点装置150b、cも、ATACS拠点装置150aが有する構成要素と同じ構成要素を有する。以後の説明では、ATACS拠点装置150が有する構成要素がいずれのATACS拠点装置150の構成要素であるかを区別する場合には、各構成要素を有するATACS拠点装置150と同じ添え字(a、b、c)を各構成要素の末尾に付して区別する。例えば、列車位置データ受信部151a、列車位置データ受信部151b、及び列車位置データ受信部151cは、それぞれATACS拠点装置150a、ATACS拠点装置150b、及びATACS拠点装置150cの構成要素であることを示す。
【0042】
また、以後の説明において、添え字が付されていない構成要素の機能及び動作は、同じ符号が付されたいずれの構成要素の機能及び動作を示す。例えば、列車位置データ受信部151で説明された機能及び動作は、列車位置データ受信部151a、列車位置データ受信部151b、及び列車位置データ受信部151cの機能及び動作を示す。
【0043】
列車位置データ受信部151は、列車の位置情報を示すデータを、ATACS車上装置から受信する。
【0044】
列車検知区間特定部152は、ATACSにて検知された列車の位置に対応するレールR上の区間を特定する。
【0045】
電気信号送信部153は、レールR上の各区間における列車の有無を示す電気信号を、情報集約装置130へ信号線Lを介して送信する。
【0046】
図6は、区間情報格納部154に格納されている情報の一例をテーブル形式で示す。区間情報格納部154には、距離(m)、及び区間の各情報が対応付けられて格納されている。
【0047】
距離(m)は、駅Sからの距離(m)である。区間は、距離(m)によって示される位置に対応する軌道回路Tが設けられた区間である。
【0048】
図7は、レール破断検知装置110、情報集約装置130、ATACS拠点装置150、軌道回路T、及びATACS車上装置の動作シーケンスの一例を示す。この動作シーケンスの説明においては、図1から図6を共に参照する。
【0049】
ATACS車上装置は、線路の配線のデータを記録した線路データベースを持っている。ATACS車上装置は、地上子Gと車輪の回転数とに基づいて、今、駅Sからの自車両がいる距離を算出する。そして、ATACS車上装置は、その距離を示す列車位置データを、そのレールRに対応するATACS拠点装置150へ無線送信する(S101)。ATACS拠点装置150の列車位置データ受信部151は、ATACS車上装置から送信されたデータを受信すると、そのデータを、列車検知区間特定部152へ送る。
【0050】
ATACS拠点装置150の列車検知区間特定部152は、列車位置データ受信部151から送られた列車位置データを受け取ると、ATACSにて検知された列車の位置に対応するレールR上の区間を特定する(S102)。より具体的に説明すると、列車検知区間特定部152は、列車位置データを受け取ると、区間情報格納部154に格納されている情報を参照して、列車位置データによって示される駅Sからの列車の距離に対応するレールR上の区間を特定する。例えば、列車位置データによって示される駅Sからの列車の距離が415(m)であった場合、その位置に対応する区間は、軌道回路T12が設けられている区間となる。そして、列車検知区間特定部152は、特定した区間を示す区間データを、電気信号送信部153へ送る。
【0051】
ATACS拠点装置150の電気信号送信部153は、列車検知区間特定部152から送られた区間データを受け取ると、レールR上の各区間における列車の有無を示す電気信号を、情報集約装置130へ信号線Lを介して送信する(S103)。より具体的に説明すると、上述したように、ATACS拠点装置150の電気信号送信部153は、各信号線Lから電気信号を常に送信している。そして、例えば、軌道回路T12が設けられた区間のみが区間データによって示されていたとすると、ATACS拠点装置150aの電気信号送信部153aは、信号線L15、L16、L17、L18のうち、信号線L16から電気信号を送信しないようにする。情報集約装置130の電気信号受信部131は、ATACS拠点装置150から送信された電気信号を受信すると、その信号線Lを示すデータを、情報集約部132へ送る。
【0052】
一方、軌道回路Tは、列車の有無を示す電気信号を、情報集約装置130へ信号線Lを介して送信する(S104)。より具体的に説明すると、軌道回路Tは、列車が検知されていない間、ATACS拠点装置150と同様に、信号線Lから電気信号を常に送信している。そして、軌道回路Tは、列車を検知すると、信号線Lから電気信号を送信しないようにする。情報集約装置130の電気信号受信部131は、軌道回路Tから送信された電気信号を受信すると、その信号線Lを示すデータを、情報集約部132へ送る。
【0053】
情報集約装置130の情報集約部132は、電気信号受信部131から送られたデータを受け取ると、電気信号受信部131が受信している電気信号の状況に基づいて、各軌道回路Tにて検知されたレールR上の各区間における列車の有無の情報と、ATACSにて検知された列車の位置の情報とを集約する(S105)。例えば、電気信号受信部131aから受け取ったデータによって示される電気信号を受信した信号線Lが信号線L11、L13、L14、L15、L17、L18だったとすると、情報集約部132aは、軌道回路T11が「列車なし」、軌道回路T12が「列車あり」、軌道回路T13が「列車なし」、軌道回路T14が「列車なし」、ATACSが「軌道回路T12の区間に列車あり」とそれぞれ検知したとの情報を集約する。そして、情報集約部132は、集約した情報を示す集約データを、集約データ送信部133へ送る。
【0054】
情報集約装置130の集約データ送信部133は、情報集約部132から送られた集約データを受け取ると、レール破断検知装置110からの送信要求があるまで、その集約データを保持する。一方、レール破断検知装置110は、集約データの送信要求を、各情報集約装置130に対して順に行う。そして、情報集約装置130の集約データ送信部133は、レール破断検知装置110からの送信要求を受けると、保持していた集約データを、レール破断検知装置110へ送信する(S106)。レール破断検知装置110の集約データ受信部111は、情報集約装置130から送信された集約データを受信すると、その集約データを、レール破断判定部112へ送る。
【0055】
レール破断検知装置110のレール破断判定部112は、集約データ受信部111から送られた集約データを受け取ると、集約データによって示される各軌道回路Tにて検知されたレールR上の各区間における列車の有無の情報と、ATACSにて検知された列車の位置の情報とに基づいて、レールR上の各区間にレール破断が起きているか否かを判定する(S107)。例えば、軌道回路Tにて列車の在線が検知されている区間があり、ATACSにてその区間における列車の在線が検知されていない場合、レール破断判定部112は、その区間にレール破断が起きていると判定する。また、軌道回路Tにて列車の在線が検知されていない区間があり、ATACSにてその区間における列車の在線が検知されている場合、レール破断判定部112は、その区間にレール破断が起きていないと判定すると共に、レール破断検知システム100に異常が発生していると判定する。なおまた、レール破断判定部112は、複数回の判定結果が同じ判定結果であった場合に、その判定結果を正式な判定結果として採用するようにしてもよい。そして、レール破断判定部112は、その判定結果を示す判定結果データを、表示データ出力部113へ送る。
【0056】
レール破断検知装置110の表示データ出力部113は、レール破断判定部112から送られた判定結果データを受け取ると、その判定結果データによって示されるレール破断の判定結果の情報をディスプレイに表示させるための表示データを、レール破断検知装置110と電気的に接続されたディスプレイへ出力する(S108)。このようにして、ディスプレイには、レールR上の各区間にレール破断が起きているか否かの情報が表示されることになる。
【0057】
以上説明したように、レール破断検知システム100は、ATACSと共に採用されるべきレール破断検知システムとして適切なシステムである。
【0058】
図8は、レール破断検知装置110、情報集約装置130、及びATACS拠点装置150をコンピュータ等の電子情報処理装置で構成した場合のハードウェア構成の一例を示す。レール破断検知装置110、情報集約装置130、及びATACS拠点装置150は、CPU(Central Processing Unit)周辺部と、入出力部と、レガシー入出力部とを備える。CPU周辺部は、ホスト・コントローラ801により相互に接続されるCPU802、RAM(Random Access Memory)803、グラフィック・コントローラ804、及び表示装置805を有する。入出力部は、入出力コントローラ806によりホスト・コントローラ801に接続される通信インターフェース807、ハードディスクドライブ808、及びCD−ROM(Compact Disk Read Only Memory)ドライブ809を有する。レガシー入出力部は、入出力コントローラ806に接続されるROM(Read Only Memory)810、フレキシブルディスク・ドライブ811、及び入出力チップ812を有する。
【0059】
ホスト・コントローラ801は、RAM803と、高い転送レートでRAM803をアクセスするCPU802、及びグラフィック・コントローラ804とを接続する。CPU802は、ROM810、及びRAM803に格納されたプログラムに基づいて動作して、各部の制御をする。グラフィック・コントローラ804は、CPU802等がRAM803内に設けたフレーム・バッファ上に生成する画像データを取得して、表示装置805上に表示させる。これに代えて、グラフィック・コントローラ804は、CPU802等が生成する画像データを格納するフレーム・バッファを、内部に含んでもよい。
【0060】
入出力コントローラ806は、ホスト・コントローラ801と、比較的高速な入出力装置であるハードディスクドライブ808、通信インターフェース807、CD−ROMドライブ809を接続する。ハードディスクドライブ808は、CPU802が使用するプログラム、及びデータを格納する。通信インターフェース807は、ネットワーク通信装置891に接続してプログラム又はデータを送受信する。CD−ROMドライブ809は、CD−ROM892からプログラム又はデータを読み取り、RAM803を介してハードディスクドライブ808、及び通信インターフェース807に提供する。
【0061】
入出力コントローラ806には、ROM810と、フレキシブルディスク・ドライブ811、及び入出力チップ812の比較的低速な入出力装置とが接続される。ROM810は、レール破断検知装置110、情報集約装置130、及びATACS拠点装置150が起動時に実行するブート・プログラム、あるいはレール破断検知装置110、情報集約装置130、及びATACS拠点装置150のハードウェアに依存するプログラム等を格納する。フレキシブルディスク・ドライブ811は、フレキシブルディスク893からプログラム又はデータを読み取り、RAM803を介してハードディスクドライブ808、及び通信インターフェース807に提供する。入出力チップ812は、フレキシブルディスク・ドライブ811、あるいはパラレル・ポート、シリアル・ポート、キーボード・ポート、マウス・ポート等を介して各種の入出力装置を接続する。
【0062】
CPU802が実行するプログラムは、フレキシブルディスク893、CD−ROM892、又はIC(Integrated Circuit)カード等の記録媒体に格納されて利用者によって提供される。記録媒体に格納されたプログラムは圧縮されていても非圧縮であってもよい。プログラムは、記録媒体からハードディスクドライブ808にインストールされ、RAM803に読み出されてCPU802により実行される。CPU802により実行されるプログラムは、レール破断検知装置110を、図1から図7に関連して説明した集約データ受信部111、レール破断判定部112、及び表示データ出力部113として機能させ、情報集約装置130を、図1から図7に関連して説明した電気信号受信部131、情報集約部132、及び集約データ送信部133として機能させ、ATACS拠点装置150を、図1から図7に関連して説明した列車位置データ受信部151、列車検知区間特定部152、電気信号送信部153、及び区間情報格納部154として機能させる。
【0063】
以上に示したプログラムは、外部の記憶媒体に格納されてもよい。記憶媒体としては、フレキシブルディスク893、CD−ROM892の他に、DVD(Digital Versatile Disk)又はPD(Phase Disk)等の光学記録媒体、MD(MiniDisk)等の光磁気記録媒体、テープ媒体、ICカード等の半導体メモリ等を用いることができる。また、専用通信ネットワークあるいはインターネットに接続されたサーバシステムに設けたハードディスク又はRAM等の記憶媒体を記録媒体として使用して、ネットワークを介したプログラムとして提供してもよい。
【0064】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は、上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更又は改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。そのような変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【符号の説明】
【0065】
100 レール破断検知システム
110 レール破断検知装置
111 集約データ受信部
112 レール破断判定部
113 表示データ出力部
130 情報集約装置
131 電気信号受信部
132 情報集約部
133 集約データ送信部
150 ATACS拠点装置
151 列車位置データ受信部
152 列車検知区間特定部
153 電気信号送信部
154 区間情報格納部
170 通信回線
F 鉄道施設
G 地上子
L 信号線
R レール
S 駅
T 軌道回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レール破断を検知するレール破断検知システムであって、
レール上の複数の区間にそれぞれ設けられて、前記レールを電気回路の一部として利用し、列車の有無を検知する複数の軌道回路と、
列車自ら位置検知を行い、無線を使って車上と地上との間で双方向に情報通信を行うことにより列車を制御する列車制御システムと、
レール破断を検知するレール破断検知装置と
を備え、
前記レール破断検知装置は、
前記各軌道回路にて検知された前記レール上の各区間における列車の有無の情報と、前記列車制御システムにて検知された列車の位置の情報とに基づいて、前記レール上の各区間にレール破断が起きているか否かを判定するレール破断判定部
を有するレール破断検知システム。
【請求項2】
前記列車制御システムにて検知された列車の位置に対応する前記レール上の区間を特定する列車検知区間特定部
を更に有し、
前記レール破断判定部は、前記各軌道回路にて検知された前記各区間における列車の有無の情報と、前記列車検知区間特定部が特定した前記レール上の区間の情報とに基づいて、前記レール上の各区間にレール破断が起きているか否かを判定する
請求項1に記載のレール破断検知システム。
【請求項3】
前記軌道回路にて列車の在線が検知されている区間があり、前記列車制御システムにて当該区間における列車の在線が検知されていない場合、前記レール破断判定部は、当該区間にレール破断が起きていると判定する
請求項2に記載のレール破断検知システム。
【請求項4】
前記軌道回路にて列車の在線が検知されていない区間があり、前記列車制御システムにて当該区間における列車の在線が検知されている場合、前記レール破断判定部は、当該区間にレール破断が起きていないと判定すると共に、当該レール破断検知システムに障害が発生していると判定する
請求項2又は3のいずれか一項に記載のレール破断検知システム。
【請求項5】
レール破断を検知するレール破断検知装置であって、
レール上の複数の区間にそれぞれ設けられて、前記レールを電気回路の一部として利用し、列車の有無を検知する複数の各軌道回路にて検知された前記レール上の各区間における列車の有無の情報と、列車自ら位置検知を行い、無線を使って車上と地上との間で双方向に情報通信を行うことにより列車を制御する列車制御システムにて検知された列車の位置の情報とに基づいて、前記レール上の各区間にレール破断が起きているか否かを判定するレール破断判定部
を備えるレール破断検知装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2013−43618(P2013−43618A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−184571(P2011−184571)
【出願日】平成23年8月26日(2011.8.26)
【出願人】(000221616)東日本旅客鉄道株式会社 (833)
【Fターム(参考)】