説明

ロボット教示装置

【課題】イネーブルスイッチを備えるロボット教示装置において、ロボットの動作に関する物理量の調整を効率的に行うことのできる技術を提供する。
【解決手段】ロボット教示装置300は、所定の操作可能範囲内における操作量が大きくなるにつれ、ロボットを停止状態、作動状態、停止状態の順に切り換えるイネーブルスイッチ316と、前記操作可能範囲内のロボットが作動状態となる区間におけるイネーブルスイッチ316の操作量を検出する検出部と、ロボットが作動状態にある場合に、前記検出された操作量に応じて、ロボットの動作に関する物理量を調整する制御部と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロボットに動作を教示するためのロボット教示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ティーチングペンダントとも呼ばれるロボット教示装置には、通常、イネーブルスイッチ(デッドマンスイッチともいう)が備えられている。作業者は、このイネーブルスイッチをオン状態に保持している場合に限りロボットに対する教示作業が可能である。ロボットが不測の動作を行った場合には、このイネーブルスイッチをオフ状態にすることにより、直ちにロボットを停止させることができる。
【0003】
教示作業中には、作業者は、片手でイネーブルスイッチを保持している必要があるため、従来は、ロボット教示装置に対する操作の大部分を、もう一方の手だけで行う必要があった。例えば、特許文献1に記載されたロボット教示装置では、インチング動作時の移動量を調整しようとすると、イネーブルスイッチに触れていないもう一方の手だけでGUI(グラフィカルユーザインタフェース)を操作して数値入力を行わなければならず、煩雑な操作が必要であった。また、GUI操作時には、作業者は、ロボットからGUIに視線を移す必要があるため、ロボットの動きを目視で確認しつつ移動量を調整するという作業を行うことは困難であった。これらの問題は、移動量の調整に限らず、関節の位置や動作速度、回転トルク、ハンドの把持力など、ロボットの動作に関する物理量を調整する作業に共通した問題であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−262884号公報
【特許文献2】特開2010−76055号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の問題を考慮し、本発明が解決しようとする課題は、イネーブルスイッチを備えるロボット教示装置において、ロボットの動作に関する物理量の調整を効率的に行うことのできる技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
【0007】
[適用例1]ロボット教示装置であって、所定の操作可能範囲内における操作量が大きくなるにつれ、ロボットを停止状態、作動状態、停止状態の順に切り換えるイネーブルスイッチと、前記操作可能範囲内の前記ロボットが作動状態となる区間における前記イネーブルスイッチの操作量を検出する検出部と、前記ロボットが作動状態にある場合に、前記検出された操作量に応じて、前記ロボットの動作に関する物理量を調整する制御部と、を備えるロボット教示装置。
【0008】
このような構成のロボット教示装置であれば、ロボットを作動状態あるいは停止状態に切り換え可能なイネーブルスイッチの操作量に応じて、ロボットの動作に関する物理量を調整することができる。そのため、物理量の大まかな調整から微調整までを、特別な設定操作や視線の移動なしに、一連の作業として行うことが可能になる。この結果、教示作業を極めて効率的に行うことが可能になり、教示時間の短縮を図ることが可能になる。また、上記構成によれば、イネーブルスイッチの保持のために片手が専有されたとしても、その手でイネーブルスイッチの操作量を調整して、ロボットの動作に関する物理量を調整することができるので、もう一方の手とともに、ロボットに対する教示作業を極めて効率的に行うことができる。また、操作量が大きくなるにつれ、ロボットを停止状態、作動状態、停止状態の順に切り換えることが可能なイネーブルスイッチによってロボットの動作に関する物理量を調整するので、仮に、ロボットが想定外の速度やトルクで動作したとしても、このイネーブルスイッチから手を離したり、握りしめるなどの操作を行うことで、直ちにロボットを停止させることができる。
【0009】
[適用例2]適用例1に記載のロボット教示装置であって、前記制御部は、前記物理量として、前記ロボットが備えるモータの回転速度を調整する、ロボット教示装置。
このような構成であれば、イネーブルスイッチの操作量に応じてモータの回転速度を調整することができるので、ティーチングポイントの大雑把な調整や微調整を容易に行うことが可能になる。
【0010】
[適用例3]適用例2に記載のロボット教示装置であって、前記制御部は、前記物理量として、前記ロボットが備えるモータに印加する電流値を調整する、ロボット教示装置。
このような構成であれば、イネーブルスイッチの操作量を調整することで、各軸の回転トルクやハンドの把持力を容易に調整することが可能になる。
【0011】
[適用例4]適用例1から適用例3までのいずれか一項に記載のロボット教示装置であって、前記制御部は、前記検出された操作量が、前記区間内に予め設定された閾値を超えるまでは前記検出された操作量に応じて前記物理量を増加させ、前記閾値を超えた場合には、前記物理量を減少させる、ロボット教示装置。
このような構成であれば、ロボットが作動状態から停止状態に切り換えられるよりも前に、ロボットの動作に関する物理量を減少させることができる。そのため、例えば、イネーブルスイッチによってロボットを停止させなければならない不測の状況が発生したとしても、速やかにロボットを停止させることが可能になる。
【0012】
本発明は、上述したロボット教示装置としての構成のほか、ロボットに動作を教示する方法や、コンピュータプログラムとしても構成することができる。コンピュータプログラムは、コンピュータが読取可能な記録媒体に記録されていてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】ロボットシステムの概略構成を示す説明図である。
【図2】ロボット教示装置の正面図である。
【図3】ロボット教示装置の背面図である。
【図4】イネーブルスイッチの状態遷移を示す説明図である。
【図5】ロボット教示装置の電気的構成を示すブロック図である。
【図6】速度調整処理のフローチャートである。
【図7】圧力センサから取得される入力値とイネーブルスイッチの操作量の関係を示す説明図である。
【図8】力調整処理のフローチャートである。
【図9】第2実施例における入力値の変換の様子を示す説明図である。
【図10】入力値の変換の他の態様を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
A.第1実施例:
以下、本発明の実施の形態を図面を参照しつつ実施例に基づき説明する。
図1は、本発明の実施例としてのロボット教示装置300を含むロボットシステム10の概略構成を示す説明図である。ロボットシステム10は、多関節型の産業用ロボットとして構成されたロボット本体100と、ロボット本体100の動作を制御するロボット制御装置200と、ロボット制御装置200に接続され、ロボット本体100の動作を教示するためのロボット教示装置300とを有している。ロボット本体100とロボット制御装置200、および、ロボット制御装置200とロボット教示装置300は、所定の接続ケーブルを介してそれぞれ接続されている。
【0015】
ロボット本体100は、例えば、工場内等に固定されるベース部101と、水平方向に旋回可能な軸によってベース部101に支持されたショルダ部102と、鉛直方向に旋回可能な軸によってショルダ部102に下端が支持された下アーム103と、鉛直方向に旋回可能な軸によって下アーム103の先端に略中央部が支持された上アーム104と、鉛直方向に旋回可能な軸によって上アーム104の先端に支持された手首105とを備えている。手首105の先端には、手首105の円周方向に回転可能な軸を有するフランジ部106が備えられている。フランジ部106には、ワークを把持するハンド107が取り付けられている。
【0016】
ロボット制御装置200は、CPUやメモリを備えるコンピュータとして構成されている。ロボット制御装置200は、予めメモリに記憶された動作プログラムやロボット教示装置300によって教示されたティーチングポイントに基づいて、ロボット本体100の各軸に備えられたサーボモータを駆動し、ロボット本体100の自動制御を行う。また、ロボット制御装置200は、ロボット教示装置300から手動による操作指令があった場合には、その指令に応じてロボット本体100の各軸を駆動する。
【0017】
図2は、ロボット教示装置300の正面図である。本実施例のロボット教示装置300は、その略中央に、タッチパネル302が重畳された液晶表示器304を備えている。液晶表示器304には種々のGUIが表示され、タッチパネル302によってその操作が可能となっている。液晶表示器304の周囲には、種々のスイッチやボタンが配置されている。例えば、液晶表示器304の左上には、モード切替スイッチ306が設けられている。
【0018】
モード切替スイッチ306は、ロボット本体100の動作モードを、手動モード、自動モード、ティーチチェックモード、のいずれかから選択するためのスイッチである。手動モードでは、ロボット教示装置300によって直接的にロボット本体100を操作することが可能になり、これによりティーチングポイントを教示することができる。また、自動モードでは、予め記憶されている動作プログラムに基づいてロボット本体100を動作させることができる。また、ティーチチェックモードでは、ロボット教示装置300によって教示された動作内容に基づいてロボット本体100の実際の動きを確認することができる。
【0019】
液晶表示器304の右上には、非常停止スイッチ308が設けられている。この非常停止スイッチ308は、いつでもロボット本体100を緊急停止させるために用いられる。更に、液晶表示器304の右側には、手動モードにおいて各軸の回転方向(正方向または逆方向)を指定するための方向ボタン310が軸毎に配置されている。また、方向ボタン310の上部には、ティーチングポイントやハンドの把持力等を教示するための教示ボタン311が備えられている。
【0020】
図3は、ロボット教示装置300の背面図である。本実施例のロボット教示装置300は、その左側背面に、イネーブルスイッチ316を備えている。このイネーブルスイッチ316は、3ポジション式のスイッチであり、上述した手動モードでは、このイネーブルスイッチ316がオン状態に保持されている場合に限り、ロボット本体100の操作を行うことができる。つまり、作業者は、このイネーブルスイッチ316を左手で保持しながら、右手で方向ボタン310等を操作することで、手動モードにおいてロボット本体100の操作を行うことになる。なお、イネーブルスイッチ316がオフ状態になれば、方向ボタン等の他のボタンからの入力は無効化され、ロボット本体100は停止状態になる。
【0021】
図4は、イネーブルスイッチ316の状態遷移を示す説明図である。本実施例のイネーブルスイッチ316は、無操作状態から最大操作量までの押し込み量に応じて、オフ状態、オン状態、オフ状態の順にクリック感を伴いながら状態が遷移する。具体的には、無操作状態にある第1のポジションから軽く押し込まれて第2のポジションに遷移すると、イネーブルスイッチ316は、内部の接点316aが接続されてオフ状態からオン状態になる。この状態でイネーブルスイッチ316から手を離せば、イネーブルスイッチ316は、第2のポジションから第1のポジションに自動復帰してオフ状態になる。
【0022】
第2のポジションは、所定の可動区間を有しており、この可動区間内の押し込み量が、イネーブルスイッチ316内に組み込まれた圧力センサ316bによって検出可能になっている。圧力センサ316bとしては、例えば、イネーブルスイッチ316の押し込み量に応じてアナログ的に抵抗値が変化する感圧導電ゴムを用いることができる。また、圧力センサ316b以外にも、ポテンショメータ等によってイネーブルスイッチ316の押し込み量を検出することが可能である。本実施例のロボット教示装置300は、圧力センサ316bから取得した圧力値に応じて、各軸の回転速度またはハンド107の把持力を調整することができる。回転速度または把持力のどちらの調整を行うかは、図2に示す速度選択ボタン312または把持力選択ボタン314を押すことで選択することができる。
【0023】
イネーブルスイッチ316は、第2のポジションから更に押し込まれて第3のポジションに遷移すると、内部の接点316aが開放されてオン状態からオフ状態になる。第3のポジションにおいて、イネーブルスイッチ316から手を離すと、内部の接点316aは開放されたまま、イネーブルスイッチ316は第1のポジションに自動復帰する。つまり、本実施例では、イネーブルスイッチ316を軽く押し込んでロボット本体100をオン状態にした後に、更にイネーブルスイッチ316を押し込むか、あるいは、イネーブルスイッチ316から手を離すことにより、ロボット本体100をオフ状態にすることができる。
【0024】
図5は、ロボット教示装置300の電気的構成を示すブロック図である。ロボット教示装置300は、CPUやメモリ等から構成された制御回路350と、通信インタフェース360とを備えている。制御回路350には、上述したタッチパネル302や液晶表示器304、モード切替スイッチ306、非常停止スイッチ308、方向ボタン310、速度選択ボタン312、把持力選択ボタン314、イネーブルスイッチ316、が接続されている。制御回路350は、これらのボタンやスイッチを介して作業者から受け付けた指示に従い、通信インタフェース360を通じてロボット制御装置200に動作指令を送信する。
【0025】
図6は、ロボット本体100の各軸の回転速度を調整する速度調整処理のフローチャートである。この処理は、手動モードが選択されている場合において、速度選択ボタン312が押された場合にロボット教示装置300によって実行される処理である。
【0026】
この速度調整処理の実行が開始されると、まず、ロボット教示装置300の制御回路350は、イネーブルスイッチ316の接点316aの接触状態に基づいて、イネーブルスイッチ316がオン状態であるか否かを判断する(ステップS100)。イネーブルスイッチ316がオン状態であれば、制御回路350は、イネーブルスイッチ316に備えられた圧力センサ316bから入力値(圧力値)を取得する(ステップS105)。一方、イネーブルスイッチ316がオフ状態であれば、制御回路350は、ロボット制御装置200に停止指令を伝送してロボット本体100を停止させ(ステップS110)、当該速度調整処理を終了する。
【0027】
図7は、圧力センサ316から取得される入力値とイネーブルスイッチ316の操作量の関係を示す説明図である。図7(a)〜(c)に示すグラフの横軸は、イネーブルスイッチ316の操作量を示している。図7(a)に示すグラフの縦軸は、作業者がイネーブルスイッチ316を第1のポジション(図4参照)から第3のポジションにまで遷移させるために必要な押し下げ力を示している。また、図7(b)に示すグラフの縦軸は、イネーブルスイッチ316のオン・オフ状態を示している。また、図7(c)に示すグラフの縦軸は、圧力センサ316bから制御回路350に入力される入力値(圧力値)を示している。本実施例では、これらのグラフに示すように、イネーブルスイッチ316を第1のポジション(オフ状態)から第2のポジション(オン状態)に遷移させるためには、やや力を込めてイネーブルスイッチ316を押し込む必要があり、更に第2のポジション(オン状態)から第3のポジション(オフ状態)に遷移させるためには、更に大きな力を込めてイネーブルスイッチ316を押し込む必要がある。イネーブルスイッチ316には、それぞれのポジションに遷移する際にクリック感を生じさせる機構が備えられているからである。そして、イネーブルスイッチ316が第2のポジションおよび第3のポジションにある場合には、圧力センサ316bからは、イネーブルスイッチ316の押し込み量に比例した入力値が出力される。ただし、イネーブルスイッチ316が第3のポジションにある場合には、イネーブルスイッチ316はオフ状態となるため、上記ステップS105における入力値の取得処理は実行されない。
【0028】
上記ステップS105において圧力センサ316bから入力値を取得すると、制御回路350は、ローパスフィルタを用いたフィルタ処理を行って入力値のチャタリングを低減し(ステップS120)、更に、この入力値を、0%から100%までの値に正規化する(ステップS130)。
【0029】
入力値の正規化を行うと、制御回路350は、作業者によって予め設定された速度上限値(0〜100%)をメモリから取得する(ステップS140)。この速度上限値は、ティーチング作業の効率や安全性を考慮して作業者によって予め設定されている。取得された速度上限値が100%であれば、各軸の最大回転速度が設定されていることになる。制御回路350は、速度上限値をメモリから取得すると、この速度上限値と、ステップS130において正規化された入力値とを積算することで、実際に軸を回転させる回転速度(0〜100%)を算出する(ステップS150)。つまり、作業者によって予め速度上限値が50%に設定されていれば、最終的に得られる軸の回転速度は、イネーブルスイッチ316の押し込み量に応じて、0%から50%の間で調整されることになる。
【0030】
以上のようにして回転速度が算出されると、制御回路350は、算出された回転速度と方向ボタン310の操作内容とを表す指令をロボット制御装置200に伝送することで軸の駆動を行う(ステップS160)。ロボット制御装置200は、ロボット教示装置300から前述の指令を受信すると、ステップS150で算出された速度で、作業者から指定された軸が指定された方向に回転するよう、モータに取り付けられたエンコーダからの帰還信号に基づいて速度制御を行う。
【0031】
続いて、ロボット教示装置300の制御回路350は、教示ボタン311が押されたか否かを判断する(ステップS170)。教示ボタン311が押されれば、制御回路350は、現在の各軸の位置(角度)をティーチングポイントとしてメモリに記録する(ステップS180)。教示ボタン311が押されなければ、ステップS180の処理をスキップする。制御回路350は、上述した一連の処理を、速度選択ボタン312が再び押されるか(ステップS190)、イネーブルスイッチがオフ状態になるまで(ステップS100)、繰り返し実行する。
【0032】
図8は、ロボット本体100のハンド107の把持力を調整する力調整処理のフローチャートである。この処理は、手動モードが選択されている場合において、把持力選択ボタン314が押された場合にロボット教示装置300によって実行される処理である。
【0033】
この力調整処理の実行が開始されると、まず、ロボット教示装置300の制御回路350は、イネーブルスイッチ316の接点316aの接触状態に基づいて、イネーブルスイッチ316がオン状態であるか否かを判断する(ステップS200)。イネーブルスイッチ316がオン状態であれば、制御回路350は、イネーブルスイッチ316に備えられた圧力センサ316bから入力値(圧力値)を取得する(ステップS205)。ここで取得される入力値とイネーブルスイッチ316の操作量との関係は図7に示した通りである。一方、イネーブルスイッチ316がオフ状態であれば、制御回路350は、ロボット制御装置200に停止指令を伝送してロボット本体100を停止させ(ステップS210)、当該速度調整処理を終了する。
【0034】
ステップS205において圧力センサ316bから入力値を取得すると、制御回路350は、ローパスフィルタを用いたフィルタ処理を行って入力値のチャタリングを低減し(ステップS220)、更に、この入力値を、0%から100%までの値に正規化する(ステップS230)。
【0035】
入力値の正規化を行うと、制御回路350は、作業者によって予め設定された把持力上限値(0〜100%)をメモリから取得する(ステップS240)。この把持力上限値は、ワークの強度等を考慮して作業者によって予め設定されている。取得された把持力上限値が100%であれば、ハンド107の最大把持力が設定されていることになる。制御回路350は、把持力上限値をメモリから取得すると、この把持力上限値と、ステップS130において正規化された入力値とを積算することで、実際のハンド107の把持力(0〜100%)を算出する(ステップS250)。つまり、作業者によって予め把持力上限値が50%に設定されていれば、最終的に得られるハンド107の把持力は、イネーブルスイッチ316の押し込み量に応じて、0%から50%の間で調整されることになる。
【0036】
以上のようにして把持力が算出されると、制御回路350は、算出された把持力を表す指令値をロボット制御装置200に伝送することでハンド107の駆動を行う(ステップS260)。ロボット制御装置200は、ロボット教示装置300から前述の指令値を受信すると、この指令値からハンド107を駆動するための電流値を算出し、この算出した電流値とハンド107を駆動するモータからの帰還電流値とに基づいてハンド107の力制御を行う。
【0037】
続いて、ロボット教示装置300の制御回路350は、教示ボタン311が押されたか否かを判断する(ステップS270)。教示ボタン311が押されれば、制御回路350は、現在の把持力をメモリに記録する(ステップS280)。教示ボタン311が押されなければ、ステップS280の処理をスキップする。制御回路350は、上述した一連の処理を、把持力選択ボタン314が再び押されるか(ステップS290)、イネーブルスイッチがオフ状態になるまで(ステップS200)、繰り返し実行する。
【0038】
以上で説明した本実施例のロボット教示装置300によれば、イネーブルスイッチ316の押し込み量を変化させるだけで、軸の回転速度やハンド107の把持力を容易に調整することができる。そのため、ティーチングポイントや把持力の大まかな調整から微調整までを、特別な設定操作や視線の移動なしに、一連の作業として行うことが可能になる。よって、教示作業を極めて効率的に行うことが可能になり、教示時間の短縮を図ることが可能になる。
【0039】
また、従来は、イネーブルスイッチ316を保持しているだけであった手を、軸の回転速度やハンド107の把持力の調整に充てることができるので、もう一方の手に、これらの調整を行うための新たな作業負担を掛けることがない。よって、従来よりも大幅に作業効率を高めることができる。
【0040】
更に、本実施例では、本来、ロボット本体100を緊急停止させるために用いるイネーブルスイッチ316によって、軸の回転速度やハンド107の把持力を調整することができるため、仮に、ロボット本体100が想定外の速度やトルクで動作したとしても、このイネーブルスイッチ316から手を離すか、握りしめることで、直ちに停止させることが可能になる。特に人は、予測していない事に遭遇すると体が硬直し、手のひらを握りしめてしまう場合がある。そのため、例えば、作業者がイネーブルスイッチ316を用いて軸の回転速度やハンド107の把持力を調整している際に、意図せずにイネーブルスイッチ316を押しすぎてしまうと、ロボット本体100の不測の動作に驚き、イネーブルスイッチ316から手を離すことができず、上記のように体が硬直してイネーブルスイッチ316を更に押しすぎてしまうことがある。しかし、本実施例では、作業者がこのような状況に陥ったとしても、イネーブルスイッチ316が第3のポジション(図4)に遷移してイネーブルスイッチ316の本来の機能であるロボット停止機能が働くため、ロボット本体100を速やかに停止させることができる。よって、本実施例のように、ロボット本体100を停止させる機能を備えるイネーブルスイッチ316に、軸の回転速度やハンド107の把持力を調整する機能を付加することは、作業効率の向上といった観点だけでなく、作業者に対する安全性の観点から見ても、非常に効果的であると言える。
【0041】
B.第2実施例:
上述した第1実施例における速度調整処理および力調整処理では、イネーブルスイッチ316がオン状態(第2のポジション)にある場合において、その操作量に比例するように、軸の回転速度やハンド107の把持力の調整を行った。これに対して、以下に説明する第2実施例では、圧力センサ316bから取得した入力値を所定の変換テーブルに基づき変換して軸の回転速度やハンド107の把持力の調整を行う。なお、本実施例におけるロボット教示装置300の構成は第1実施例と同様である。
【0042】
本実施例では、ロボット教示装置300の制御回路350は、図6に示した速度調整処理のステップS130および図8に示した力調整処理のステップS230において入力値を正規化した後、この正規化後の入力値に対応する変換後の入力値を、メモリに予め記録された所定の変換テーブルから取得することで入力値の変換を行う。なお、入力値の変換は、変換テーブルに限らず、関数やマップ制御など様々な手法で行うことが可能である。
【0043】
図9は、本実施例における入力値の変換の様子を示す説明図である。図9(a)〜(c)に示すグラフは、図7(a)〜(c)とそれぞれ同一である。図9(d)に示すグラフは、図9(c)に示した入力値を変換テーブルに基づいて変換させた後の値を示している。この図9に示すように本実施例では、イネーブルスイッチ316がオン状態(第2のポジション)にある場合において、操作量が第1の閾値Th1よりも少ない場合には、入力値をゼロに変換し、操作量が第1の閾値Th1を超えて第2の閾値Th2に至るまでは、入力値が増加するに連れて、変換後の入力値も増加させるよう変換を行う。これに対して、操作量が第2の閾値Th2を超えた場合には、入力値が増加するほど変換後の入力値を低下させ、最終的に入力値がゼロになるように変換を行う。
【0044】
以上で説明した第2実施例によれば、イネーブルスイッチ316がオン状態にある場合、すなわち、ロボット本体100が作動状態にある場合では、イネーブルスイッチ316の操作量が第1の閾値Th1よりも少ない場合には、軸の回転速度やハンド107の把持力は変化せず、ゼロのままとなる。つまり、本実施例では、イネーブルスイッチ316がオン状態でかつ操作量が少ない操作範囲に「遊び」が設けられていることになるため、イネーブルスイッチ316の使い勝手を向上させることができる。また、本実施例では、イネーブルスイッチ316の操作量が第2の閾値Th2を超えた場合には、軸の回転速度やハンド107の把持力が徐々に低下することになる。そのため、例えば、イネーブルスイッチ316が第3のポジションに移行するような緊急事態が発生したとしても、イネーブルスイッチ316が実際に第3のポジションに移行するよりも前に、軸の回転速度やハンド107の把持力を低下させることができるので、速やかにロボット本体100を停止させることが可能になる。この結果、教示作業の安全性を向上させることができる。なお、第1の閾値Th1は、例えば、作業者が軸の回転速度やハンド107の把持力を調整する意思がない場合に保持可能なイネーブルスイッチ316の操作範囲を実験的に求めることで設定することができる。また、第2の閾値Th2は、例えば、段階的に閾値を変化させつつ、その閾値を超えると多くの条件下でイネーブルスイッチ316が第3のポジションに移行することになる閾値を実験的に求めることで設定することができる。また、本実施例では、イネーブルスイッチ316の操作量が第2の閾値Th2を超えた場合に、軸の回転速度やハンド107の把持力を徐々に減少させることとしたが、一律にゼロに変換することとしてもよい。
【0045】
入力値の変換は、上述した以外にも様々な観点で行うことが可能である。例えば、図10に示すように、イネーブルスイッチ316がオン状態になる第2のポジションの中間値付近に遊び範囲を設け、イネーブルスイッチ316の操作量がこの中間値付近から増加する場合と減少する場合とで、どちらも、図9(d)に示すような変換を行うこととしてもよい。つまり、図10に示した例では、イネーブルスイッチ316が第2のポジションから第3のポジションに向けて操作される場合にも、第2のポジションから第1のポジションに向けて操作される場合にも、どちらの場合でも、入力値の増加、減少という順に変換が行われることになる。このように入力値を変換することとすれば、イネーブルスイッチ316を押し込む動作と緩める動作の両方の動作において、軸の回転速度やハンド107の把持力を同様に調整することが可能になる。また、イネーブルスイッチ316を握りしめるような状況やイネーブルスイッチ316から手を離すような状況が生じたとしても、どちらの状況でも、イネーブルスイッチ316が実際にオフ状態になる前に軸の回転速度やハンド107の把持力を低下させることが可能になるため、速やかにロボット本体100を停止させることができる。
【0046】
C.変形例:
以上、本発明のいくつかの実施例について説明したが、本発明はこれらの実施例に限定されず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の構成を採ることができる。例えば、以下のような変形が可能である。
【0047】
上記実施例において、ソフトウェアによって実現した機能はハードウェアによって実現することが可能であり、その逆もまた可能である。例えば、図6や図8に示したフィルタ処理は、RC回路等によってハードウェア的に実現することが可能である。また、方向ボタン310や、教示ボタン311、速度選択ボタン312、把持力選択ボタン314は、それぞれ独立したボタンとして構成したが、GUIによってソフトウェア的に実現することも可能である。
【0048】
上記実施例では、速度上限値や把持力上限値は、作業者によって予め設定されていることとしたが、これらの値は、作業者によって予め設定がされていなくても、デフォルト値(例えば50%)が適用されることとしてもよい。
【0049】
上記実施例では、イネーブルスイッチ316の押し込み量に応じて軸の回転速度やハンド107の把持力を調整することとしたが、調整可能な物理量(パラメータ)は、これらに限られない。例えば、各軸の回転トルクを調整することとしてもよいし、各軸の角度を調整可能としてもよい。各軸の角度を調整可能とすれば、ロボット本体100の姿勢をイネーブルスイッチ316の押し込み量に応じて調整することが可能になる。また、軸の角度や回転速度だけではなく、各種座標系(ワールド座標系、ハンド座標系、ツール座標系等)におけるハンドやツールの位置ないし移動速度を調整可能としてもよい。
【0050】
上記実施例では、イネーブルスイッチ316の内部の接点316aの接触状態に応じてロボット本体100を作動状態あるいは停止状態に切り替えている。これに対して、例えば、制御回路350が、イネーブルスイッチ316の押し込み量を抵抗値や圧力値に基づいて検出し、この押し込み量と所定の閾値とを対比することで、ロボット本体100を作動状態あるいは停止状態に切り替えることとしてもよい。例えば、値の異なる閾値を2つ用意すれば、実施例と同様に、イネーブルスイッチ316を3つのポジションに遷移させることが可能になる。
【0051】
上記実施例では、ロボット教示装置300の制御回路350が、イネーブルスイッチ316のオン、オフ状態を判断している。これに対して、イネーブルスイッチ316の接点316aを、接続ケーブルを介して直接的にロボット制御装置200に接続することで、ロボット制御装置200がイネーブルスイッチ316のオン、オフ状態を検出することとしてもよい。このような構成であれば、停止指令の遅延が発生しないため、より迅速にロボット本体100を停止させることができる。
【符号の説明】
【0052】
10…ロボットシステム
100…ロボット本体
101…ベース部
102…ショルダ部
103…下アーム
104…上アーム
105…手首
106…フランジ部
107…ハンド
200…ロボット制御装置
300…ロボット教示装置
302…タッチパネル
304…液晶表示器
306…モード切替スイッチ
308…非常停止スイッチ
310…方向ボタン
311…教示ボタン
312…速度選択ボタン
314…把持力選択ボタン
316…イネーブルスイッチ
316a…接点
316b…圧力センサ
350…制御回路
360…通信インタフェース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロボット教示装置であって、
所定の操作可能範囲内における操作量が大きくなるにつれ、ロボットを停止状態、作動状態、停止状態の順に切り換えるイネーブルスイッチと、
前記操作可能範囲内の前記ロボットが作動状態となる区間における前記イネーブルスイッチの操作量を検出する検出部と、
前記ロボットが作動状態にある場合に、前記検出された操作量に応じて、前記ロボットの動作に関する物理量を調整する制御部と、
を備えるロボット教示装置。
【請求項2】
請求項1に記載のロボット教示装置であって、
前記制御部は、前記物理量として、前記ロボットが備えるモータの回転速度を調整する、ロボット教示装置。
【請求項3】
請求項1に記載のロボット教示装置であって、
前記制御部は、前記物理量として、前記ロボットが備えるモータに印加する電流値を調整する、ロボット教示装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載のロボット教示装置であって、
前記制御部は、前記検出された操作量が、前記区間内に予め設定された閾値を超えるまでは前記検出された操作量に応じて前記物理量を増加させ、前記検出された操作量が前記閾値を超えた場合には、前記物理量を減少させる、ロボット教示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−24848(P2012−24848A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−162421(P2010−162421)
【出願日】平成22年7月20日(2010.7.20)
【出願人】(501428545)株式会社デンソーウェーブ (1,155)
【Fターム(参考)】