説明

ローカルRTKシステムと、地域、広域、またはグローバル搬送波位相測位システムを組み合わせて利用する方法

【課題】浮動バイアス値を短時間で決定する。
【解決手段】ローカルRTKシステムと、地域、広域、またはグローバル差分搬送波位相測位システム(WADGPS)を組み合わせて利用する。静止しているユーザー受信器の既知の位置を用いるか、あるいはユーザー受信器が移動中である場合、RTKシステムを用いてWADGPSシステムにおける浮動バイアス値を初期化する。その後、ユーザーGPS受信器において取得された屈折補正された搬送波位相測定値が、対応する初期浮動バイアス値を含めることにより調整され、後続の処理において浮動バイアス値が周知として扱われて、WADGPSシステム内でユーザー受信器を測位する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般に、衛星群を利用する測位およびナビゲーションに付随する技術に関し、より具体的には地域、広域、またはグローバル搬送波位相測位および/またはナビゲーションシステムにおける搬送波浮動バイアスの解決に関する。
【背景技術】
【0002】
全地球測位システム(GPS)は、宇宙空間の衛星群を用いて地上の対象物の位置を特定する。GPSを用いて、衛星群からの信号がGPS受信器に到達し、GPS受信器の位置を決定するために利用される。現在、固定GPS衛星信号を有する各々の相関器チャネルに対応する2種類のGPS測定値が民間GPS受信器に利用できる。2種類のGPS測定値とは、擬似距離、および各々周波数が1.5754GHz、1.2276GHzすなわち波長が0.1903m、0.2442mである2つの搬送波信号L1、L2の積分搬送波位相である。擬似距離測定値(またはコード測定値)とは、全ての種類のGPS受信器が生成可能な基本的なGPS可観測値である。これは、搬送波信号上へ変調されたC/AまたはPコードを利用する。この測定値は、関連するコードが衛星から受信器まで移動するのに要した真太陽時、すなわち受信器時計に基づき信号が受信器へ到達した時刻から、衛星時計に基づき信号が衛星から離脱した時刻を差し引いて記録する。搬送波位相測定値は、信号が受信器に到達した際に、再構築された搬送波を積分することにより得られる。このように、搬送波位相測定値はまた、衛星時計に基づき信号が衛星から離脱した時刻から、受信器時計に基づき信号が受信器へ到達した時刻を減ずることにより定まる通過時差である。しかし、信号の搬送波位相を受信器が追跡し始めたときの、衛星と受信器との間を遷移中の整数周期の初期値は通常未知であるため、複数の搬送波周期により通過時差に誤差があり得る、すなわち搬送波位相測定値において整数周期バイアスが存在する。
【0003】
利用可能なGPS測定値を用いて、GPS受信器と複数の衛星の各々とのレンジ乃至は距離は、信号の移動時間に光速度を乗算することにより計算される。これらの距離は、受信器時計は一般に測定された距離に共通のバイアスを引き起こす重大な時間誤差を有するため、通常は擬似距離(偽距離)と呼ばれる。受信器時計誤差によるこの共通のバイアスは、通常のナビゲーション計算の一部として受信器の位置座標と共に解決される。天体暦誤差、衛星時計タイミング誤差、大気の影響、受信器ノイズ、およびマルチパス誤差を含む各種の他の要因もまた、計算された距離における誤差またはノイズを引き起こす場合がある。GPS受信器を有するユーザーが、どの基準局も参照することなく視界内の複数の衛星に関するコードおよび/または搬送波位相距離を得るスタンドアロン型GPSナビゲーションにおいて、ユーザーにとって距離の誤差またはノイズを減らす方法が極めて制約される。
【0004】
これらの誤差を除去または減少させるべく、GPSアプリケーションでは通常、差分動作が用いられる。差分GPS(DGPS)動作には通常、ベース基準GPS受信器、ユーザー(またはナビゲーション)GPS受信器、およびユーザーと基準受信器との間の通信リンクが関与する。基準受信器は、既知の場所に設置され、その既知の場所を用いて、上述の誤差要因のいくつかまたは全てに関連付けられた補正値を生成する。補正値はユーザー受信器へ送られ、次いでユーザー受信器がこの補正値を用いて、計算された位置を適宜補正する。補正値は、基準サイトで決定される基準受信器位置に対する補正値の形式であっても、あるいは特定のGPS衛星時計および/または軌道に対する補正値の形式であってもよい。搬送波位相測定値を用いる差分動作は、リアルタイムキネマティック(RTK)測位/ナビゲーション動作と呼ばれることが多い。
【0005】
差分GPS(DGPS)の基本概念は、GPS測定値に固有な誤差の空間的且つ時間的相関を利用して、これらの誤差要因から生じる擬似距離および/または搬送波位相測定値におけるノイズ要因を相殺することにある。しかし、擬似距離または搬送波位相測定値のバイアスとして現れるGPS衛星時計のタイミング誤差は、基準受信器とユーザー受信器との間で完全に相関があるため、他の誤差要因の大部分は相関していないか、あるいは広域アプリケーションすなわち基準受信器とユーザー受信器との間の距離が遠ざかるほど相関が減少する。
【0006】
広域アプリケーションにおけるDGPSシステムの不正確さを解決すべく、各種の地域、広域、またはグローバルDGPS(以下、広域DGPSまたはWADGPSと呼ぶ)の技術は開発されてきた。WADGPSは、計算センターまたはハブと通信する複数の基準局のネットワークを含んでいる。誤差補正値は、基準局の既知の位置およびそこで採取された測定値に基づいてハブにおいて計算される。計算された誤差補正値は次いで、衛星、電話、またはラジオ等の通信リンクを介してユーザーへ送信される。複数の基準局を用いることにより、WADGPSは誤差補正値のより正確な推定値を提供する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このように、GPS搬送波位相測定値を用いて高精度差分ナビゲーションを得るために多くの異なる技術が開発されてきた。最高精度の技術がRTK技術であり、通常、1センチメートルの精度を有する。しかし、この精度を得るためには、差分搬送波位相測定値における整数周期バイアスを決定しなければならない。ユーザー受信器と基準受信器との間の距離(基線距離)が短い場合、RTK技術が極めて有利であるが、それは整数周期バイアスが正確に解決されるだけでなく、迅速に解決できるためである。一方、基線距離が数十キロメートルを超える場合、整数周期バイアスを決定することが不可能になって、通常のRTK精度が実現できない恐れがある。RTK技術の別の制約として、基準受信器とナビゲーション受信器との間にローカル無線リンクを維持することが必要な点がある。
【0008】
搬送波位相差分法を採用したWADGPS技術はまた、極めて高いナビゲーション精度を実現することができる。WADGPS差分技術はまた、信頼性の高い長距離低周波数通信リンク、あるいは信頼性の高い衛星通信リンクにより特徴付けられる。このように、補正値は一般に、顕著な中断無しにナビゲーション受信器へ通信され得る。しかし、WADGPS技術は通常、整数周期バイアスを実数値(非整数)変数として扱い、「浮動バイアス」を解決するが、これは通常、衛星の配置に顕著な変化の時間間隔をカバーする測定データが得られるまで、定義が極めて不十分である。このように、WADGPSアプリケーションにおいて、ナビゲーションされた位置で10センチメートル未満の精度を与えるためには「浮動バイアス」の解決に1〜2時間程度の時間が必要とされる場合が多い。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本出願は、RTKおよびWADGPSナビゲーション技術を組み合わせて利用することにより、各々の技術の短所を一方の技術の長所で補完できるようにする方法を含んでいる。WADGPS技術の基本的な短所は、ナビゲーション受信器が浮動バイアスの値を決定するのに長時間(往々にして1時間を超える)かかる点であり、これは搬送波位相測定値を正確な範囲測定値に変換するために必要とされる。RTK技術の基本的な短所は、ユーザーGPS受信器と基準GPS受信器との間にリアルタイム(通常はサイト線)のデータリンクを必要とし、また、基準GPS受信器とユーザーGPS受信器との間の分離距離が比較的短い場合にしか整数周期バイアスを決定することができない点である。
【0010】
これらの別個の短所は、本発明の一実施形態に従いRTKとWADGPSナビゲーション技術を組み合わせて用いる方法を利用して除去することができる。本方法には、WADGPSシステムにおける浮動バイアス値を初期化すべくユーザー受信器の既知の位置を使用することが含まれる。ユーザー受信器が静止している場合、ユーザー受信器の既知の位置は調べられた位置であっても、または先行動作から得られた位置であってもよい。ユーザー受信器が移動中である場合、RTKシステムを用いて既知の位置を取得することができる。
【0011】
このように、組み合わされた動作において、RTKナビゲーションの通信リンクが利用可能な場合、RTKシステムを用いてユーザー受信器の位置、速度、および時間(PVT)の出力を取得することができる一方、WADGPSシステムはバックグラウンドで動いており、その出力はRTKシステムからの出力に一致するよう常に初期化されている。RTKナビゲーションの通信リンクが失われた場合、あるいは、ユーザー受信器がRTKシステム内の基準局から遠く離れ過ぎた場合、ユーザー受信器のPVT出力は、RTKが動作中に初期化されたWADGPSシステムを用いて取得することができる。この初期化により、ユーザーGPS受信器の位置が未知である場合に、浮動バイアス値を求めるために通常15分〜2時間を要する「プルイン」時間が回避される。これは、RTKシステムが利用不可能または不正確な場合にWADGPSシステムから極めて正確なPVT解決を提供するとともに、WADGPS技術をリアルタイムの高精度測位およびナビゲーション目的でより現実的なものにする。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施形態によるWADGPSシステムとローカルRTKシステムの組み合わせのブロック図である。
【図2】ユーザーGPS受信器に接続されたコンピュータ・システムのブロック図である。
【図3A】WADGPSシステムとローカルRTKシステムを組み合わせて用いる方法を示すフロー図である。
【図3B】ローカルRTKシステムを用いて受信器位置を更新する方法を示すフロー図である。
【図4】WADGPSシステムとローカルRTKシステムの両方を用いる、組み合わされた動作の処理フローを示すフロー図である。
【図5】組み合わされた動作が使用可能な状況を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1に、本発明の一実施形態による広域またはグローバル差分GPS(WADGPS)システム100を示す。図1に示すように、WADGPSシステム100は、各々がGPS受信器122および1個以上の処理ハブ105を有する基準局120のネットワークを含んでいる。基準局120は、処理用にハブ105へ未処理GPS可観測値を連続的に提供する。これらの可観測値はGPSコード、搬送波位相測定値、天体暦および基準局120で複数の衛星110から受信した信号に従い得られた他の情報を含んでいる。基準局120は、広域DGPSシステムの場合、大陸等の広い領域101にわたり、またはグローバルDGPSネットワークの場合は地球全体にわたり既知の場所に設置されている。ハブ105は、GPS可観測値が処理されてDGPS補正値が計算される施設である。複数の独立ハブが提供される場合、地理的に分離されて並列に動作することが好ましい。
【0014】
WADGPSシステム100は、各々が測位および/またはナビゲーション目的でユーザーGPS受信器142を有する1人以上のユーザー(またはユーザー装置あるいは対象物)140により利用されることができる。本発明の一実施形態において、ユーザー140には、RTK無線リンクを介して近傍の基準局120が関連付けられていて、ユーザー受信器142および当該近傍基準局120がローカルRTKシステム150を形成する。システム100は更に、GPS可観測値を基準局120からハブ105へ送る信頼性の高い運搬局を提供すべく、また、計算された補正値をハブ105から基準局120およびユーザー140へ放送すべく、従来型のデータリンク(図示せず)を含んでいる。ハブ105へデータを供給するために、大陸WADGPSシステムは通常、約3〜10個の基準受信器を有し、グローバルWADGPSシステムは通常、約20〜100個の基準受信器を有する。本発明の一実施形態において、インターネットを介してGPS可観測値は基準局120からハブ105へ送られ、計算された補正値もインターネットを介して、更に別の1個の衛星群(図示せず)にアップリンクされるようハブから1個以上の地上局(図示せず)へ送られ、これら衛星群は次いで、計算された補正値を基準局120およびユーザー受信器142が受信すべく放送する。
【0015】
本発明の一実施形態において、ユーザーあるいは対象物140はまた、ユーザーGPS受信器142に接続されたコンピュータ・システム144を備えている。図2に示すように、コンピュータ・システム144は中央処理装置(CPU)146、メモリ148、1個以上の入力ポート154、1個以上の出力ポート156、および(オプションとして)ユーザー・インターフェース158を含み、これらは1個以上の通信バス152により互いに接続されている。メモリ148は、高速ランダム・アクセス・メモリを含んでいてよく、1個以上の磁気ディスク記憶装置またはフラッシュメモリ装置等の不揮発性大容量記憶装置を含んでいてよい。
【0016】
メモリ148は、好適にはオペレーティングシステム162、GPSアプリケーション・プロシージャ164、およびデータベース170を格納する。以下に詳述するように、GPSアプリケーション・プロシージャ164は、ローカルRTKシステム150とWADGPSシステム160を組み合わせて用いる方法300を実行するプロシージャ166を含んでいてよい。メモリ148に格納されたオペレーティングシステム162およびアプリケーション・プログラム、およびプロシージャ164は、コンピュータ・システム144のCPU146により実行されるために存在する。好適にはメモリ148はまた、GPSアプリケーション・プロシージャ164の実行中に用いる、GPS擬似距離および搬送波位相測定値168、ハブから受信したGPS補正値172を含むデータ構造、並びに本明細書において議論する他のデータ構造を格納している。
【0017】
入力ポート154は、GPS受信器142からデータを受信するため、無線リンク124を介してローカルRTKシステム120内の基準局120から情報を受信するため、および衛星リンク107を介してハブ105からGPS補正値その他の情報を受信するために存在する。出力ポート156を用いて、無線リンク124を介してデータを基準局120へ出力する。本発明の一実施形態において、図2で示すように、コンピュータ・システム144のCPU146およびメモリ148はGPS受信器142と単一の筐体内で、単一の装置として一体化される。しかし、このような一体化は、本発明の方法を実施するために必須ではない。
【0018】
従って、ユーザーまたは対象物140は、または異なる時点で、2つの異なる動作モードに係わることができる。ユーザーまたは対象物140は、ユーザーまたは対象物140が自身を測位するかまたはWADGPSシステム100を用いてナビゲートするWADGPSモードで、および/または、ユーザーまたは対象物140が自身を測位するかまたはローカルRTKシステム150を用いてナビゲートするRTKモードで動作することができる。ユーザーまたは対象物140が、自身に関連付けられた基準局120の近傍にあって、ユーザーまたは対象物140と基準局120との間の無線リンクが維持できる場合、ユーザーはローカルRTKシステム150を用いて自身を基準局120に関して測位することができる。ローカルRTKシステム150はWADGPSシステム100に比べて、より正確であって、以下に説明するように、整数周期整数バイアスが迅速に解決できる点で優れている。
【0019】
ローカルRTKシステム150を用いれば、測定値が基準GPS受信器122および関連付けられたユーザーGPS受信器142から見てn個の衛星110に関して取得された場合、測定値を用いて、次式に従い配列形式でユーザーまたは対象物140の位置を求めることができる。
(∇Φ+N)λ=Hx+nφ (1)
ここで∇Φ=[∇φ ∇φ ・・・∇φはn個の衛星110の各々に関する差分搬送波位相測定値により形成された搬送波位相測定値ベクトルであり、N=[N ・・・ Nは搬送波位相測定値ベクトルにおける各々の差分搬送波位相測定値に関連付けられた差分整数バイアスにより形成された整数バイアス・ベクトルであり、H=[h ・・・ hはユーザーまたは対象物140からn個の衛星110への単位ベクトルにより形成される測定値感度行列、xはローカルRTKシステム150における基準局120からユーザーまたは対象物140への位置ベクトルを含む実数未知状態ベクトル(または実数ベクトル)、およびnφ=[nφ1φ2 ・・・ nφnはn個の衛星110の各々に関して差分搬送波位相ノイズにより形成される測定値ノイズ・ベクトル(または位相距離残差ベクトル)である。
【0020】
式(1)を用いて実数ベクトルxを求めるには、整数バイアス・ベクトルNを解決する必要がある。整数バイアス・ベクトルNに含まれる整数バイアス値を解決するために多くの異なる方法は開発されており、これらの方法は通常、測定値残差ベクトルΔΦの最小ノルム等、特定の基準を満たす整数バイアス値の組み合わせを見つける探索処理を用いる。
【数1】


ここでΔΦは、整数バイアス値の組み合わせを含む候補整数バイアス・ベクトル
【数2】


に対応する位相距離残差ベクトル、および
【数3】


は式(1)の最小2乗解である。
【数4】


または
【数5】


ここで
【数6】


は、従来の方法を用いて計算した差分搬送波位相ノイズnφiの標準偏差であるかσにより形成された測定値共分散行列である。σを計算する方法の例が、「GPS位相およびコード観測の精度、相互相関、および時間相関(Precision,Cross Correlation,and Time Correlation of GPS Phase and Code Observations)」(ピーター・ボナ(Peter Bona)、GPS Solutions、第4巻、第2号、2000年秋季、p.3〜13)、または「低コスト慣性ナビゲーション用の緊密に一体化された姿勢決定方法:2アンテナGPSおよびGPS/磁気探知器(Tightly Integrated Attitude Determination Methods for Low−Cost Inertial Navigation:Two−Antenna GPS and GPS/Magnetometer)」(Y.ヤン(Yang Y.)、カリフォルニア大学電気工学科(Electrical Enginieering、University of California)博士課程学位論文、カリフォルニア州リバーサイド(California、Riverside)、2001年6月)に掲載されており、共に本明細書に引用している。
【0021】
探索方式の他の例が、本明細書に引用した「即時バイアス解決」(ハッチ(Hatch R.)、KISシンプジウム会報、1990、バンフ、カナダ(Banff、Canada))、および同様に本明細書に引用している共同所有の特許出願「リアルタイムキネマティック探索およびナビゲーション用の高速バイアス解決(Fast Ambiguity Resolution for Real Time Kinematic Survey and Navigation)」(特許出願第10/338,264号明細書)に掲載されている。
【0022】
整数バイアスが解決されたならば、ローカルRTKシステム150の解としてユーザー受信器142の位置、速度、および時間(PVT)を正確に計算することができる。
【0023】
多くの利点があるもかかわらず、ユーザーまたは対象物140はローカルRTKシステム150を常時利用することはできない。その理由は、ユーザーが基準局120から遠過ぎる場所へ移動したり、基準局120のサイト外にいて、ユーザーまたは対象物140と基準局との間の無線リンク124が維持できないためである。これらの状況において、電離層に起因する誤差は、ユーザーまたは対象物140と基準局120との間における測定値の差異を考慮することで充分に除去することはできない。この誤差は、測定値残差ベクトルΔΦに含まれる測定値残差を増大させるため、整数バイアス・ベクトルに対する上述の探索方法に影響を及ぼす。
【0024】
従って、ユーザーGPS受信器と基準局との間が離れすぎたためにローカルRTKシステム150が利用できないか、または精度を喪失した状況において、ユーザーは整数バイアスを解決するために別の方法が用いられるWADGPSモードで動作することが必要になる場合がある。WADGPSシステム100を用いれば、各々の整数周期バイアスは実数値(非整数)変数として推定される。この作業は、しばしば「浮動バイアス」値の決定と呼ばれる。「浮動バイアス」値を決定する一方法は、ユーザーまたは対象物140で取得された未処理GPS測定値に基づく屈折補正値コードおよび搬送波位相測定値の形成、コード測定値と同一単位への搬送波位相測定値のスケーリング、および対応するコード測定値から各々のスケーリングされた搬送波位相測定値を減算してオフセット値を求めることを含んでいる。本発明の一実施形態において、PRCで表わす屈折補正されたコード測定値は、次式のように形成される。
【数7】


ここで、PおよびPは、各々L1およびL2周波数f、f上の、特定の測定時点における未処理擬似距離コード測定値である。LRCで表わす屈折補正された搬送波位相測定値は、同様に次式のように形成される。
【数8】


ここで、LおよびLは、各々L1およびL2信号の波長によりスケーリングされた搬送波位相測定値であり、その各々が、スケーリングされた搬送波位相測定値が、対応するコード測定値と同じ値に近くなるように加算された近似的整数周期バイアス値を含んでいる。このように、
=(ψ+N)λ1, (8)
=(ψ+N)λ2、 (9)
ここで、ψおよびψは、各々同一測定時点におけるL1およびL2周波数上の未処理搬送波位相測定値であり、NおよびNの整数周期値は、ユーザーまたは対象物140による搬送波位相の追跡の開始時点で初期化されて、対応するコード測定値の1搬送波波長の範囲内にある値を与えることにより、スケーリングされた搬送波位相測定値と対応するコード測定値の差異を小さい状態に維持する。式(7)の形式から、λが約0.1070メートル(すなわち、c/(f+f)であるように、屈折補正された搬送波位相測定値が、fとf(約2.803GHz)の合計として定義される波長λを有する整数周期バイアスを含むことに注意されたい。
【0025】
式(6)〜(9)に従い、コードおよび搬送波位相測定値の両方から電離層効果が除去され、擬似距離および搬送波位相測定値に対する衛星時計および軌道誤差の影響が同一であるため、ステップ310で得られたPRCおよびLRCの値は、搬送波位相測定値LRCおよびより高次のマルチパス・ノイズPRCに関連付けられた可能な整数周期バイアスを除いて、ほぼ一致する筈である。これにより、オフセットが「浮動バイアス」の一層正確な推定値になるように、屈折が補正されたコード測定値と屈折が補正された搬送波位相測定値との間のオフセット(O=PRC−LRC)を一連の測定時点にわたって平滑化することにより、LRCにおける整数周期バイアスの解決が可能になる。平滑化されたオフセット値は、後置測定値残差を用いて、調整された測定値残差がゼロに近くなるように追加的な搬送波位相測定値に調整を施すことにより更に調整することができる。
【0026】
本発明の一実施形態において、オフセットは次式のようにオフセットの拡張平均を求めることにより平滑化される。
【数9】


ここで、i=1,2、3、...を用いて測定時点示し、ηの値はOが浮動バイアス値のより正確な推定値になるにつれて増加する信頼度である。本発明の一実施形態において、平均化の最大値が実現されるまでηはiに等しい。例えば、搬送波位相測定値がコード測定値のノイズの1/100に過ぎないと仮定するならば、「η」の値は100の2乗すなわち10,000未満に制限される。式(9)はこのように、浮動バイアス値が所定の精度に達するまで、再帰的に計算することができる。
【0027】
平滑化されたオフセットOにより、平滑化された屈折補正コード測定値Sは、次式のように平滑化されたオフセットに現在の現測定時点における屈折補正された搬送波位相測定値を加えることにより得られる。
=O+L (11)
これは搬送波位相測定値の精度を有するが、付随するバイアスは存在しない。
【0028】
式(6)〜(11)と関連付けて述べたように、上述のプロセスは、ユーザーGPS受信器142の視界にある複数の衛星の各々について実行される。ユーザーGPS受信器142から見える複数の衛星の各々について利用可能な平滑化された屈折補正済みコード測定値を用いて、これらの衛星群までの擬似距離sを取得することができる。これらの擬似距離は、ハブ105から受信したWADGPS補正値を用いて調整され、加重最小2乗法補正で用いられて状態ベクトルクトルxを計算する。このようにして、ユーザーGPS受信器142の位置、速度、および時間(PVT)を、ユーザーGPS受信器142のPVTに対するWADGPS解として計算することができる。
【0029】
平滑化された屈折補正済みオフセットを求める本方法の他の例が、本明細書に引用する「コードと搬送波測定値の相乗効果(The Synergism of Code and Carrier Measurements)」(ハッチ、R.(Hatch、R.)、衛星ドップラー測位に関する第3回国際測地学シンポジウム会報、DMA、NOS、ラスクルーセス(Las Cruces)、N.M.、ニューメキシコ州立大学、第II巻、p.1213〜1232)、および同様に本明細書に引用している共同所有の特許出願「広域またはグローバル差分GPSシステム用のクロック補正値の生成法(Method for Generating Clock Corrections for a Wide−Area or Global Differential GPS System)」(代理人整理番号009792−0042−999)に掲載されている。
【0030】
また、最小2乗法あるいはカルマン・フィルタ解の別個の状態として、「浮動バイアス」値を求めることも可能である。バイアスが状態として含まれる場合、システムのジオメトリが衛星運動のために変化するにつれて一層正確になるように、各々の浮動バイアス値に対する推定値が分散に従って調整される。このように、この技術もまた、時間の経過に伴ない一層正確な推定値を与える。本明細書に引用しているナビゲーション(Navigation)、第38巻、第1号、1991春季号におけるパトリックH.C.ホアン(Hwang)の論文「差分の測位用のキネマティックGPS:整数バイアスのオンザフライ的解決(Kinematic GPS for Differential Positioning:Resolving Integer Ambiguities on the Fly)」を参照されたい。
【0031】
「浮動バイアス」値を推定するために用いることができる上記技術の多くの組み合わせおよびバリエーションがある。しかし、これらは全てかなり長時間にわたる処理データを含んでいる。その時間は、「浮動バイアス」がユーザー140のナビゲートされた位置の10センチメートル未満の精度を与えるのに充分正確であると確信できるまで往々にして1〜2時間要する場合がある。「浮動バイアス」値を得るまでの時間を短縮すべく、ユーザーGPS受信器142の既知の位置を用いて、後述のようにWADGPSシステムを初期化することができる。
【0032】
図3Aに、WADGPSシステム100を初期化する方法300を示す。図3に示すように、方法300は、ユーザーが既知の場所で静止しているか否かを判定するステップ310を含んでいる。これは、ユーザー入力により、またはユーザー受信器142が静止しているか否かをコンピュータ144が判定できるようにする従来の何らかの機構を介して行なうことができる。ユーザー受信器142が静止していて、ユーザー受信器142の位置が正確にわかっている場合、その位置を用いてローカルRTKシステム150の支援なしに浮動バイアス値を計算することができる。調べられたユーザーGPS受信器142の位置を既知の位置として用いることができ、またはある環境において、単にユーザー受信器142が静止していてユーザー位置が先行動作の間に既に特定されているために位置がわかっているに過ぎないかも知れない。
【0033】
ユーザーが既知の場所で静止しているとの判定に応答して、方法300はステップ320へ進み、ユーザー受信器の位置が既知の場所に設定される。さもなければ、方法300はステップ330へ進み、ローカルRTKシステム150が上述の方法を用いて自動的にユーザー位置を更新すべく起動される。
【0034】
方法300は、ステップ320またはステップ330のいずれにより特定されたにせよ、ユーザー受信器の場所を用いて、衛星群110への理論距離を計算するステップ340を更に含んでいる。これは、WADGPSシステム100から同報通知された天体暦に基づいて衛星群110の位置を計算して、WADGPSシステム100により放送された軌道補正値によりこれらの位置を調整するステップを含んでいてよい。ユーザー受信器位置および衛星位置を直交座標で与えられて、ユーザー140から各々の衛星110までの理論距離を次式のように計算することができる。
【数10】


ここで、下付添字sは衛星の座標を示し、下付添字uはユーザーまたは対象物受信器の座標を示す。
【0035】
方法300は更に、計算された理論距離から同一衛星に関する屈折補正された搬送波位相測定値を減算することにより、各々の衛星に対応する初期浮動バイアス値aを次式のように計算するステップ350を含んでいる。
【数11】


ここで、LRCは、測定開始時点で式(7)に従い計算される屈折補正値搬送波位相測定値を表わす。
【0036】
方法300は更に、次式のように初期の浮動バイアス値を後続の測定時点において対応する屈折補正された搬送波位相測定値に加算することにより、
【数12】


および確信度を高く(または分散を小さく)設定するように浮動バイアス値を既知として扱うことにより浮動バイアス値が解決されるステップ360を含んでいる。実際には、ステップ360は、浮動バイアス値を決定する処理において浮動バイアス値を調整すべくゲイン小さい値を用いて実現される。例えば、浮動バイアス値が、式(9)に従い屈折補正されたコード測定値と屈折補正された搬送波位相測定値との間のオフセットを平滑化することにより決定される場合、小さいゲインとは、浮動バイアス値の計算に多数のオフセット値を用いられた、すなわちη=i+(大きい数)となるように扱うことを意味する。バイアス値がカルマン・フィルタ処理で決定される場合、小さい増加は、バイアス状態の分散を小さい値に設定することにより実現される。
【0037】
このように、静止ユーザー受信器142の既知の位置を用いることにより、またはローカルRTKシステム150を用いて浮動バイアス値を初期化することにより、ユーザー受信器位置が未知の場合に浮動バイアス値を求めるために通常は15分〜2時間程度要する「プルイン」時間が回避される。これによりWADGPSシステム100における搬送波位相バイアスを解決する処理の速度が大幅に向上し、WADGPSシステム100がリアルタイム測位および/またはナビゲーション目的に更に適したものになる。
【0038】
方法300においてユーザー受信器位置を更新すべくローカルRTKシステム150を用いるために、ローカルRTKシステム150内の基準局120の位置をWADGPSシステム100内で正確に決定しなければならない。従来型のRTKシステムを相対的な意味で用いることができる。これは、ユーザー受信器142の位置を基準受信器に相対的に決定できることを意味する。このようにして、基準局の座標が特に正確でなく、通常のGPSデータ以外の座標データを用いては基準局を測位する場合であっても、ユーザーGPS受信器142の正確な相対位置を取得することができる。しかし、ローカルRTKシステム150とWADGPSシステム100を組み合わせて用いるには、RTKシステム150内での基準受信器120の正確な位置を決定することが必要である。ローカルRTKシステム150内の基準局120に対して誤った位置を用いた場合、上述のように計算された浮動バイアス値は不正確である。このため、浮動バイアス値が後続のWADGPS処理の間に正しい値に徐々に調整されるにつれて、ユーザー受信器142の計算位置が徐々にドリフトすることにつながる。
【0039】
本発明の一実施形態において、RTKシステム150内の基準局120の平均位置は、信頼性を上げるためにWADGPSシステム100から数時間分の測位データに基づいて決定される。別の実施形態において、基準局120におけるコンピュータ・システムは、自身の位置のオペレータ入力値を受理して、その位置をユーザー140に提供する。これにより、基準局の当該位置を用いて、相対RTK測位を直ちに開始することができる。同時に、基準局120のより正確な位置がWADGPSシステム100で測定されて基準局120へ送信される。オペレータ入力位置と、WADGPSシステム100により決定された基準局120のより正確な位置との、より正確な位置またはオフセットは次いで、ユーザー140へ比較的低速度で送信される。
【0040】
図3Bに、ユーザー位置がローカルRTKシステム150を用いて更新される、方法300のステップ330を更に詳細に示す。図3Bに示すように、ステップ330は、ユーザーまたは対象物140がRTKシステム150内の基準局120のオペレータ入力位置を受信するサブステップ331と、ユーザーまたは対象物140がローカルRTK動作を実行して基準局120の位置に相対的な自身の位置を決定するサブステップ333とを含んでいる。ステップ330は更に、ユーザーまたは対象物140が、WADGPSシステム100により決定された基準局120のより正確な位置、または基準局120のオペレータ入力位置とWADGPSシステム100により決定された基準局120のより正確な位置との間のオフセット、を受信するサブステップ335を更に含んでいる。ステップ330は更に、ユーザーまたは対象物140が、基準局のユーザー入力位置またはWADGPSシステム100(利用できる場合)により決定された基準局120の位置を用いてユーザーGPS受信器142の絶対位置を直交座標で計算するサブステップ337を含んでいる。
【0041】
方法300を用いて利点が得られる例として、列車の測位がある。列車がトンネルを通過する際に、ローカルRTKリンクおよびグローバルWADGPSリンクが共に失われる。この状況において、RTKデータリンクは、電車がトンネルから出る際にWADGPS浮動バイアス値を初期化すべく設定することができる。これにより、正確な浮動バイアス値を決定するのに要する長いデータ間隔が回避される。
【0042】
方法300を用いて利点が得られる別の例として、離陸直後の飛行機の測位がある。この場合、飛行機が離陸の準備をしている空港におけるローカルRTKシステムを用いて、離陸前または離陸中にWADGPSバイアスを初期化することができる。
【0043】
このように、ユーザーGPS受信器142に接続されたユーザーGPS受信器142およびコンピュータ・システム144を含むユーザーまたは対象物140は、RTKモードおよびWADGPSモードの両方において動作可能である。ローカルRTKシステム150はWADGPSシステムより好ましいのは、ローカルRTKシステム150の探索方法が上述のように、WADGPSシステム100において整数バイアス値を解決する平滑化方法よりはるかに短い時間で済むためである。探索処理において、整数周期バイアスを直接決定するのではなく、整数バイアス値の初期集合における不確実性を減らして、後続の探索処理の制約をより厳しくできるように、コード測定値の平滑化が必要でないか、または持続期間がはるかに短いコード測定値の平滑化が実行される。この理由により、バイアス値の初期集合を得るには数秒分のデータだけで充分である。しかし、ローカルRTKシステム150が利用できるのは、ローカルRTKシステム150におけるユーザーGPS受信器142と基準局120との間の通信リンクが維持できて、ユーザーまたは対象物140がローカルRTKシステム150内の基準局120から遠ざかり過ぎない状況においてだけである。これらの条件が満たされない場合、すなわちローカルRTKシステム150が利用できないかまたは不正確である場合、ユーザーはRTKシステム150により最後に決定されたユーザー受信器位置を用いてWADGPSシステムを初期化することにより「浮動バイアス」値を求めるのに要する長い「プルイン」時間を回避することができるため、WADGPSシステム100に頼ってナビゲーションすることができる。
【0044】
図4に、ユーザーコンピュータ・システム144が実行するRTKおよびWADGPSを組み合わせた動作の処理フロー400を示す。処理フローはステップ440、450、および460を含んでいる。図4に示すように、RTK補正値が利用可能な間、ユーザー140はRTKモードで動作する。ユーザーはローカルRTKシステム150内の基準局120の位置401を受信して、ステップ440を実行し、そこでローカルRTKシステム150内の基準受信器120から受信したRTK補正値410を用いてユーザー受信器のPVTが決定される。ステップ440を実行する間、バックグラウンドでWADGPS解決が生成できるように、ユーザー140は連続的にハブ105からWADGPS補正値420を受信することができる。ユーザー140はまた、比較的低速でハブ105からローカルRTKシステム150内の基準局120の更新された位置430を受信することができる。基準局120の更新された位置およびユーザー受信器位置のRTK解決を用いて、上述の方法300に従い、RTK解決に一致するようにWADGPS解決を連続的にバックグラウンドで初期化することができる。
【0045】
RTK補正値が失われた場合、ユーザー140はWADGPS動作モードへ切り替えてステップ450を実行し、そこでユーザー140は、RTK補正値が利用できなくなる直前に、RTK動作モードにおいて決定されたユーザー受信器位置を用いて、上述の方法300に従い、WADGPS動作モードの浮動バイアス値を初期化する。このように、「浮動バイアス」値を、長い「プルイン」時間なしに決定することができる。ステップ450の実行中に、ユーザー140は連続的にハブ105からWADGPS補正値420を受信する。ユーザー140はまた、比較的低速でハブ105からローカルRTKシステム150内の基準局120の更新された位置430を受信することができる。基準局座標を用いて、WADGPSモードで生成されたユーザー受信器位置をローカル基準受信器120に相対的な位置に変換する。このように、ユーザーコンピュータ・システム144が生成したPVT結果は、二つの異なる動作モードの間をシームレスに遷移する。
【0046】
RTK補正値が再び利用可能になったならば、ユーザーはステップ460においてRTK動作を再開するが、これはステップ440のRTK動作と同様である。
【0047】
処理400は、多くのアプリケーションで利用できる。一アプリケーションは、WADGPS通信リンクが少なくとも一般的には利用できるがRTK無線リンクを維持できない領域にRTK動作を拡張することを含む。例えば、図5に示すように、ユーザーまたは物140は、うねりのある丘陵の領域501の列520を移動する農業車両510であってよく、その場合ユーザー受信器142が農業車両または農業車両に接続された農業装置に取り付けられていてよい。領域501は、ローカルRTKシステム150内の基準局120から見える領域503、および基準局120からは見えない領域(陰影付き)505、507を含んでいる。RTK通信リンクは通常サイト線であるため、ユーザーGPS受信器142が領域503から領域505または507へ移動するたびにRTKデータが失われる。しかし、ユーザー受信器142とWADGPSシステム100との間のデータリンクは多くの場合衛星群により稼動されるため、一般に利用可能である。RTK無線リンクが利用可能であってRTKシステム150が動作中の場合はいつでもWADGPSシステム100における浮動バイアスを初期化することにより、RTKリンクが失われた場合にその間におけるRTK動作の精度を現実的に保持することができる。
【0048】
図1のWADGPS/RTKシステム100が上の記述に沿って用いられているが、測位および/またはナビゲーション目的で衛星群からの搬送波位相測定値を利用し、従って位相測定値に付随するバイアス値を決定する必要がある任意の地域、広域、またはグローバルシステムもまた、上述の方法300および処理400の利点を享受することができることを理解されたい。これらのシステムの例として、ジョン・ディア社(John Deere Company)が開発したスターファイア(Starfire(商標))システム、およびいくつかの米国政府機関において開発中の国立高精度差分(HA−ND)GPSシステムが含まれる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の衛星の1個から受信した信号に基づいて、衛星測位システムのユーザーが取得した搬送波位相測定値に対応する浮動バイアス値を決定する方法であって、
ユーザーの位置を決定するステップと、
前記ユーザーの位置に基づいて、前記ユーザーから前記衛星までの理論距離を計算するステップと、
前記理論距離および前記搬送波位相測定値に基づいて初期バイアス値を計算するステップと、
前記初期バイアス値を用いて、前記浮動バイアス値を決定するステップと
を含む方法。
【請求項2】
前記ユーザーが静止していて、前記ユーザーの位置を決定するステップが、前記ユーザーの先行動作に付随する浮動バイアス値を取得するステップを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ユーザーの位置が、前記ユーザー、基準局、および前記ユーザーと前記基準局との間の無線リンクを含むリアルタイムキネマティック方式を用いて決定される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記ユーザーの位置を決定するステップが、
前記ユーザーと前記基準局との間の差分搬送波位相測定値の集合に関連付けられた整数バイアスを解決するステップと、
前記解決された整数バイアスを用いて前記ユーザーの位置を計算するステップと
を含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記ユーザーの位置を決定するステップが、
前記基準局に相対的な前記ユーザーの位置を決定するステップと、
前記基準局の位置に関する情報を受信するステップと、
前記基準局に相対的な前記ユーザーの位置および前記基準局の位置に関する情報に基づいて前記ユーザーの絶対位置を決定するステップと
を含む、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記搬送波位相測定値が、屈折補正されている、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記浮動バイアス値を決定するステップが、
一連の測定時点の各々において、前記初期バイアス値を用いて搬送波位相測定値を調整するステップと、
前記調整された搬送波位相測定値を用いて前記浮動バイアス値を計算するステップと
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記浮動バイアス値が、前記一連の測定時点の各々において、前記調整された搬送波位相測定値と、対応するコード測定値との間のオフセットの拡張平均を求めることにより計算される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記浮動バイアス値が、計算に際して多数のオフセット値を用いたかのように前記浮動バイアス値を扱うことにより計算される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記搬送波位相測定値およびコード測定値が、屈折補正されている、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記浮動バイアス値がカルマン・フィルタ処理におけるバイアス状態として決定され、かつ前記浮動バイアス値が前記バイアス状態の分散を小さい値に設定することにより計算される、請求項7に記載の方法。
【請求項12】
ローカル基準受信器および広域衛星測位システムの両方に関連付けられた対象物を測位またはナビゲートする方法であって、
前記ローカル基準受信器から受信した情報に基づいて前記対象物の第一の位置を決定するステップと、
前記対象物の前記第一の位置を用いて、前記対象物で得られた搬送波位相測定値に関連付けられた浮動バイアス値を決定するステップと、
前記広域衛星測位システムから受信した情報および前記浮動バイアス値に基づいて前記対象物の第二の位置を決定するステップと、を含む方法。
【請求項13】
前記第一の位置が前記ローカル基準局に相対的であって、前記第二の位置が絶対位置であり、前記方法が更に、
前記広域衛星測位システムから前記ローカル基準局の位置を受信するステップと、
前記浮動バイアス値を決定する前に、前記ローカル基準受信器の位置を用いて、前記第一の位置を絶対位置に変換するステップと、
前記ローカル基準局の位置を用いて、前記第二の位置を前記ローカル基準受信器に相対的な位置に変換するステップと、を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記浮動バイアス値を決定するステップが、前記第一の位置を用いて初期浮動バイアス値を計算するステップを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
初期浮動バイアス値を計算するステップが、前記対象物と複数の衛星との間の理論距離を計算するステップを含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記浮動バイアス値を決定するステップが、前記初期浮動バイアス値を用いて前記搬送波位相測定値を調整するステップを含む、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
前記浮動バイアスを決定するステップが、前記調整された搬送波位相測定値を用いてコード測定値を平滑化するステップを含む、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
プロセッサにより実行された際に、衛星測位システムのユーザーが取得した搬送波位相測定値に対応する浮動バイアス値を、複数の衛星の1個から受信した信号に基づいて決定する方法をプロセスに実行させるコンピュータ可読のプログラム命令を格納したコンピュータ可読媒体であって、前記プログラム命令が、
前記ユーザーの位置を決定させる命令と、
前記ユーザーの位置に基づいて、前記ユーザーから前記衛星までの理論距離を計算させる命令と、
前記理論距離および前記搬送波位相測定値に基づいて初期バイアス値を計算させる命令と、
前記初期バイアス値を用いて前記浮動バイアス値を決定させる命令と
を備えるコンピュータ可読媒体。
【請求項19】
前記ユーザーの位置が、前記ユーザー、基準局、および前記ユーザーと前記基準局との間の無線リンクを含むリアルタイムキネマティック方式を用いて決定される、請求項18に記載のコンピュータ可読媒体。
【請求項20】
前記浮動バイアス値を決定する命令が、
一連の測定時点の各々において、前記初期バイアス値を用いて搬送波位相測定値を調整する命令と、
前記浮動バイアス値が所定の精度に達するまで、小さい値のゲインを用いて前記浮動バイアス値を調整する命令と
を含む、請求項18に記載のコンピュータ可読媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−221035(P2011−221035A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−140584(P2011−140584)
【出願日】平成23年6月24日(2011.6.24)
【分割の表示】特願2006−549294(P2006−549294)の分割
【原出願日】平成16年12月15日(2004.12.15)
【出願人】(504278123)ナヴコム テクノロジー インコーポレイテッド (28)
【Fターム(参考)】