説明

ロータリーピストンエンジン

【課題】リーン化した混合気の燃焼遅れを抑制し、スキッシュ流に起因するトレーリング側混合気の燃焼遅れを抑制し、冷却損失の低減と排気損失の増加の抑制とを図り、ロータリーピストンエンジンの熱効率を改善する。
【解決手段】ロータリーピストンエンジンは、燃焼行程では理論空燃比よりもリーンな混合気が燃焼され、ローター2の外周面2aに形成されたリセス2b内に乱流生成部材51が設けられ、トレーリング側点火プラグ22が、短軸Zから圧縮トップのときのローター2のトレーリング側頂点までのトレーリング側燃焼室の長さをLとしたときに、短軸Zから(L/2)以上離れた位置に配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱効率の改善のために燃焼プロセスが改良されたロータリーピストンエンジンに関する。
【背景技術】
【0002】
地球環境への関心が高まるなか、排気がクリーンな水素エンジンが注目されている。ロータリーピストンエンジンは、ローターがローターハウジングのトロコイド状内周面に複数の頂点で摺接して複数の作動室を画成しつつ回転するという構造上、吸気室と燃焼室とが分離され、また吸気室にスパークプラグ等の熱源もないため、バックファイア等の異常燃焼が起き難い。そのため、ロータリーピストンエンジンは、レシプロエンジンに比べて、水素エンジンとしての用途に適している。例えば、特許文献1には、気体燃料として水素を採用したロータリーピストンエンジンが開示されている。
【0003】
また、特許文献2には、燃料がガソリンのような液体燃料であるか水素のような気体燃料であるかに拘わらず、ローターの外周面に凹状ポケット及び凹状ポケットに沿って延びる流れ変更部材が設けられたロータリーピストンエンジンが開示されている。そして、これによれば、流れ変更部材によって燃焼室内の燃料と空気との混合気に乱流が発生し、燃料と空気とのミキシング及び火炎伝播が促進されて燃焼効率が向上することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−250024号公報(段落0024)
【特許文献2】特開2008−185027号公報(段落0014〜0016)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、一般に、水素の燃焼はガソリンよりも速いため、水素エンジンはガソリンエンジンよりも冷却損失が大きい。冷却損失を低減するためにリーン燃焼を行うことが考えられるが、混合気をリーン化すると、燃焼速度が遅くなり、燃焼遅れが生じ、排気損失が増加する。よって、混合気をリーン化しても混合気の燃焼遅れを抑制できる技術が望まれる。
【0006】
また、ロータリーピストンエンジンは、ローターの回転に起因して、燃焼行程において燃焼室内をローターの回転方向のトレーリング側からリーディング側へ強いスキッシュ流が流れる。このスキッシュ流のため、点火プラグの点火によって生じた火炎は、点火プラグよりもリーディング側には伝播し易いがトレーリング側には伝播し難い。そのため、点火プラグの点火時に点火プラグよりもトレーリング側に存在する混合気は、ローターの回転に伴って点火プラグよりもリーディング側に移動するまで燃焼が開始しない。これによっても混合気の燃焼遅れが生じ、排気損失が増加する。よって、スキッシュ流に起因するトレーリング側混合気の燃焼遅れを抑制できる技術もまた望まれる。
【0007】
以上のような問題は、燃料の種類に拘わらず、ロータリーピストンエンジンで混合気をリーン燃焼する場合に一般的に生じる問題である。
【0008】
そこで、本発明は、リーン化した混合気の燃焼遅れを抑制し、かつ、スキッシュ流に起因するトレーリング側混合気の燃焼遅れを抑制して、冷却損失の低減と排気損失の増加の抑制とを図り、ロータリーピストンエンジンの熱効率を改善することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するため、本発明に係るロータリーピストンエンジンは、トロコイド状内周面を有するローターハウジングと、前記内周面に頂点が摺接しつつ回転するローターと、前記内周面のトロコイド曲線の短軸を挟んでリーディング側及びトレーリング側に配置されたリーディング側点火プラグ及びトレーリング側点火プラグとを備えるロータリーピストンエンジンであって、燃焼行程では理論空燃比よりもリーンな混合気が燃焼され、前記ローターの外周面に形成されたリセス内に乱流生成部材が設けられ、前記短軸から圧縮トップ(圧縮上死点:TDC)のときのローターのトレーリング側頂点までのトレーリング側燃焼室の長さをLとしたときに、前記トレーリング側点火プラグが、前記短軸から(L/2)以上離れた位置に配置されていることを特徴とする。
【0010】
このような構成によれば、燃焼行程では理論空燃比よりもリーンな混合気が燃焼されるから、燃焼温度の上昇が抑制される(リーンな混合気は燃料に対する空気の量が相対的に多いから)。そのため、冷却損失の低減が図られる。また、燃焼温度の上昇が抑制されることにより、NOxの低減も図られる。
【0011】
その際、ローターの外周面に形成されたリセス内に乱流生成部材が設けられるから、この乱流生成部材によって燃焼室内の燃料と空気との混合気に乱流が生成し、燃料と空気とのミキシング及び火炎伝播が促進される。そのため、混合気の燃焼遅れが抑制され、排気損失の増加の抑制が図られる。つまり、乱流生成部材により、混合気の燃焼速度が大幅に高まるため、リーン燃焼の効果(冷却損失の低減)を減損することなく、リーン化した混合気の燃焼遅れを抑制して排気損失の増加を抑制することが可能となる。
【0012】
さらに、トレーリング側点火プラグが、圧縮トップのときのトレーリング側燃焼室の長さ、すなわち、ローターハウジングの内周面のトロコイド曲線の短軸から、圧縮トップのときのローターのトレーリング側頂点までの長さをLとしたときに、前記短軸から(L/2)以上の位置に配置されているから、トレーリング側点火プラグは、圧縮トップのときのトレーリング側燃焼室の中心よりもトレーリング側に位置している。したがって、圧縮トップ近傍で点火されるトレーリング側点火プラグの点火時には、比較的多量の混合気がトレーリング側点火プラグよりもリーディング側に存在し、比較的少量の混合気がトレーリング側点火プラグよりもトレーリング側に存在する。そのため、トレーリング側点火プラグの点火時にトレーリング側点火プラグよりもトレーリング側に存在する混合気は、ローターの回転に伴ってトレーリング側点火プラグよりもリーディング側に移動するまで燃焼が開始しないけれども、そのような混合気の量が可及的に少なくされ、結果的に、混合気の燃焼遅れの程度、排気損失の増加の程度が低減される。よって、スキッシュ流に起因するトレーリング側混合気の燃焼遅れを抑制して排気損失の増加を抑制することが可能となる。
【0013】
なお、このトレーリング側点火プラグ位置のトレーリング側への偏倚(オフセット)により、トレーリング側点火プラグとリーディング側点火プラグとの間に存在する混合気のうち特にリーディング側点火プラグに近い混合気がトレーリング側点火プラグからより離間することになって燃焼遅れが生じるところであるが、前述の乱流生成部材の作用によって、そのような燃焼遅れは抑制される。つまり、乱流生成部材により、混合気の燃焼速度が大幅に高まるため、トレーリング側点火プラグ位置のトレーリング側への偏倚の効果(スキッシュ流に起因するトレーリング側混合気の燃焼遅れの抑制)を減損することなく、トレーリング側点火プラグとリーディング側点火プラグとの間に存在する混合気の燃焼遅れを抑制して排気損失の増加を抑制することが可能となる。
【0014】
本発明のより具体的な構成として、前記混合気に含まれる燃料は水素であり、前記混合気の空気過剰率λは2.2以上であるものを挙げることができる。
【0015】
このような構成によれば、排気がクリーンな水素を燃料として採用する水素ロータリーピストンエンジンにおいて、λ≧2.2という超リーン燃焼を行うことにより、燃焼温度の上昇が抑制され、冷却損失の低減及びNOxの低減が図られると共に、乱流生成部材及びトレーリング側点火プラグ位置のトレーリング側への偏倚により、排気損失の増加の抑制が図られる。
【0016】
本発明のさらに具体的な構成として、燃焼行程では圧縮トップ後に熱発生するようにリーディング側点火プラグの点火時期をリタードするものを挙げることができる。
【0017】
このような構成によれば、例えば高負荷領域で燃料が増量されても、圧縮トップ後に熱発生するようにリーディング側点火プラグの点火時期をリタードすることによって、ノッキングの回避が図られる。つまり、乱流生成部材により、混合気の燃焼速度が大幅に高まるため、リタード幅を大きくすることができ、リタードの効果(ノッキングの回避)を減損することなく、リタードによる混合気の燃焼遅れを抑制して排気損失の増加を抑制することが可能となる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、燃料がガソリンのような液体燃料であるか水素のような気体燃料であるかに拘わらず、リーン化した混合気の燃焼遅れが抑制され、かつ、スキッシュ流に起因するトレーリング側混合気の燃焼遅れが抑制されるので、冷却損失の低減と排気損失の増加の抑制とが両立し、ロータリーピストンエンジンの熱効率の改善が図られる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施形態に係るロータリーピストンエンジンの概要を示す斜視図である。
【図2】前記ロータリーピストンエンジンのローターハウジング及びローターの正面図である。
【図3】圧縮トップにあるローターの燃焼室に接する外周面の平面図である。
【図4】図3のIV−IV線による前記ローター及び前記ローターハウジングの部分断面図である。
【図5】従来のロータリーピストンエンジンの燃焼プロセスを説明するための、(a)はエキセントリックシャフトの回転角と熱発生率との関係を示すグラフ、(b)は(a)の熱発生が燃焼室内のどの範囲にある混合気の燃焼によるものであるかを示す対応図である。
【図6】ローターに乱流生成部材を設けた場合及び設けない場合の、エキセントリックシャフトの回転角と熱発生率との関係を示すグラフである。
【図7】トレーリング側点火プラグ位置をトレーリング側へ偏倚した場合及び偏倚しない場合の、エキセントリックシャフトの回転角と熱発生率との関係を示すグラフである。
【図8】燃料として水素を採用する水素ロータリーピストンエンジンにおいて、ローターに乱流生成部材を設けた場合及び設けない場合の、アイドル領域での、空気過剰率λと熱効率との関係を示すグラフである。
【図9】燃料として水素を採用する水素ロータリーピストンエンジンにおいて、ローターに乱流生成部材を設けた場合及び設けない場合の、アイドル領域での、エキセントリックシャフトの回転角と熱発生率との関係を示すグラフである。
【図10】燃料として水素を採用する水素ロータリーピストンエンジンにおいて、ローターに乱流生成部材を設けた場合及び設けない場合の、高速度中負荷領域での、空気過剰率λと熱効率との関係を示すグラフである。
【図11】燃料として水素を採用する水素ロータリーピストンエンジンにおいて、ローターに乱流生成部材を設けた場合及び設けない場合の、高速度中負荷領域での、エキセントリックシャフトの回転角と熱発生率との関係を示すグラフである。
【図12】燃料として水素を採用する水素ロータリーピストンエンジンにおいて、ローターに乱流生成部材を設けた場合及び設けない場合の、中速度中負荷領域での、エキセントリックシャフトの回転角と熱発生率との関係を示すグラフである。
【図13】図11の圧力−体積曲線である。
【図14】燃料として水素を採用する水素ロータリーピストンエンジンにおいて、ローターに乱流生成部材を設けた場合及び設けない場合の、中速度高負荷領域での、リーディング側点火プラグの点火時期と熱効率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面に基いて本発明の実施形態を説明する。なお、本実施形態は例示に過ぎず、本発明はこの実施形態に何等限定されるものではない。
【0021】
本実施形態において、本発明は、図1及び図2に示すロータリーピストンエンジン1に適用されている。このエンジン1は、2つのローター2を備えた2ローター型エンジンであり、インターミディエイトハウジング4の両側に、フロント側(図1の右側)及びリヤ側(図1の左側)の2つのローターハウジング3及び2つのサイドハウジング5がこの順に積層され、一体化されることによって構成されている。
【0022】
なお、図1では、フロント側のローターハウジング3及びサイドハウジング5は、内部を示すために一部が切り欠かれている。また、リヤ側のサイドハウジング5は、内部を示すためにローターハウジング3から分離されている。また、図中の符号Xは、出力軸としてのエキセントリックシャフト6(図2参照)の回転軸心を示す。
【0023】
前記ロータハウジング3の平行トロコイド曲線で描かれるトロコイド状内周面3aと、前記サイドハウジング5の内側面5aと、前記インターミディエイトハウジング4の側面4aとによって、ローター収容室7が形成されている。ローター収容室7は、図2に示すように、回転軸心Xの方向から見て繭のような略楕円形状を呈している。なお、図中の符号Yは、トロコイド状内周面3aのトロコイド曲線の長軸を示し、符号Zは、短軸を示す。
【0024】
前記ローター収容室7にローター2が回転自在に収容されている。ローター2は、回転軸心Xの方向から見て各辺の中央部が外側に膨出する略三角形状をしたブロック体からなる。図中の符号2aは、後述する作動室8に接するローター2の外周面(フランク面)を示す。各フランク面2aの長手方向の中央部分に、エンジン1の圧縮比を調整するための窪みであるリセス2bが形成されている。
【0025】
ローター2の3つの頂点には、図示略のアペックスシールが備えられ、これらのアペックスシールがローターハウジング3のトロコイド状内周面3aに当接することにより、前記ローターハウジング3のトロコイド状内周面3aと、前記ローター2のフランク面2aと、前記サイドハウジング5の内側面5aと、前記インターミディエイトハウジング4の側面4aとによって、ローター収容室7の内部に3つの作動室8が画成されている。
【0026】
図示されていないが、ローター2は、ローター2の中央部に設けられた内歯車(ローターギア)とサイドハウジング5に設けられた外歯車(固定ギア)とが噛合しつつ、インターミディエイトハウジング4及びサイドハウジング5を貫通するエキセントリックシャフト6に対して遊星回転運動をするように支持されている。
【0027】
ローター2は、3つのアペックスシールがロータハウジング3のトロコイド状内周面3aに摺接しつつ、エキセントリックシャフト6の偏心輪6aの周りを自転し、かつ、回転軸心Xの周りを自転と同じ方向に公転する(単にローター2の回転というときは、この自転及び公転を含めたローター2の遊星回転を意味する)。このローター2の回転に伴い、3つの作動室8がトロコイド状内周面3aに沿って周方向に移動し、各作動室8において、吸気、圧縮、燃焼及び排気の各行程が行われ、発生するトルクがローター2を介してエキセントリックシャフト6から出力される。
【0028】
図2において、ローター2は、矢印で示すように、時計回りに回転する。ローター収容室7は、長軸Yより左側(図2においていう。以下同様)の部分が概ね吸気行程と排気行程の領域となり、右側の部分が概ね圧縮行程と燃焼行程の領域となる。
【0029】
ローター収容室7の長軸Yより左側の部分で短軸Zより上側には、インターミディエイトハウジング4の側面4a及びサイドハウジング5の内側面5aに吸気ポート11,12,13が開口している。エンジン1の低回転領域では第1吸気ポート11のみから吸気され、中回転領域では第2吸気ポート12からも吸気され、高回転領域ではさらに第3吸気ポート13からも吸気される。これにより、エンジン1の全運転領域に亘って効率よく吸気が行われる。
【0030】
ローター収容室7の長軸Yより左側の部分で短軸Zより下側には、インターミディエイトハウジング4の側面4a及びサイドハウジング5の内側面5aに排気ポート10…10が開口している。このように、このエンジン1ではサイド排気方式が採用され、吸気ポート11〜13による吸気のオープンタイミングと、排気ポート10…10による排気のオープンタイミングとがオーバーラップしないように設定されている。これにより、吸気行程に持ち込まれる残留排ガスが低減され、混合気がリーンであっても燃焼安定性が向上する。
【0031】
ロータハウジング3の上部には、作動室8に燃料を直接噴射するインジェクタ15が備えられている。また、ロータハウジング3の長軸Yより右側の部分には、短軸Zを挟んでローター2の回転方向のリーディング側及びトレーリング側にリーディング側点火プラグ21及びトレーリング側点火プラグ22が配置されている。これらの点火プラグ21,22は、ローター2が圧縮トップ(TDC)の近傍にあるときに、リーディング側点火プラグ21、トレーリング側点火プラグ22の順に点火される。
【0032】
図2において、左上の作動室8は吸気行程にある。吸気工程では、吸気ポート11〜13から吸気された空気と、インジェクタ15から噴射された燃料とが混合されて混合気が形成される。次いで、ローター2の回転に伴い圧縮行程に移行すると、作動室8の容積が小さくなり混合気が圧縮される。次いで、右側の作動室8(燃焼室)のように、ローター2が圧縮トップ近傍にあるときに点火プラグ21,22が点火されると、混合気が燃焼して燃焼行程に移行する。次いで、ローター2の回転に伴い排気行程に移行すると、左下の作動室8のように、排ガスが排気ポート10…10から排出される。
【0033】
以上のような構成を基本として、本実施形態に係るエンジン1は、次のような特徴を有している。
【0034】
燃焼行程では理論空燃比よりもリーンな混合気が燃焼される。つまり、混合気の空気過剰率λは1を超えて大きい(λ>1)。混合気に含まれる燃料は水素である。つまり、インジェクタ15は図外の高圧水素タンクにつながっており、気体燃料である水素を吸気行程にある作動室8に噴射する。水素を燃料として含む混合気の空気過剰率λは2.2以上である(λ≧2.2)。好ましくは、2.4以上である(λ≧2.4)。また、好ましくは、2.6以下である(λ≦2.6)。なお、過給機等を用いた場合、水素を燃料として含む混合気の空気過剰率λを3程度まで大きくすることができる。
【0035】
図3に示すように、ローター2のフランク面2aに形成されたリセス2b内に乱流生成部材51が設けられている。本実施形態では、リセス2bの輪郭は矩形状であり、乱流生成部材51は、ローター2の幅方向に延びる壁状の突起である。乱流生成部材51は、矩形状のリセス2bの長手方向の中央部分に配置されている。乱流生成部材51は、リセス2bの底面から立設されており、その高さは乱流生成部材51がリセス2bからフランク面2aに突出しないようにリセス2bの深さよりも低く、その長さは乱流生成部材51の両端とリセス2bの側壁との間に間隙が残るようにリセス2bの最大幅よりも短い。燃焼室内をトレーリング側からリーディング側へ流れるスキッシュ流Wは層流であるが、乱流生成部材51に衝突することにより流れが乱されて、少なくとも一部が乱流に変換される。これにより、混合気のミキシングが促進され、火炎伝播が促進されて、混合気の燃焼速度が大幅に高められる。
【0036】
なお、リーディング側点火プラグ21及びトレーリング側点火プラグ22は、ローター2の幅方向の中心線C上に配置されている。また、乱流生成部材51はローター2と一体に形成してもよく、別体に形成したのち接合等してもよい。
【0037】
図4に示すように、トレーリング側点火プラグ22は、短軸Zから、圧縮トップのときのローター2のトレーリング側頂点までのトレーリング側燃焼室の長さをLとしたときに、短軸Zから(L/2)以上離れた位置に配置されている。つまり、トレーリング側点火プラグ22は、圧縮トップのときのトレーリング側燃焼室の中心よりもトレーリング側に位置している(トレーリング側に偏倚している)。
【0038】
図4において、符号P1は、圧縮トップのときのローター2のトレーリング側頂点を通る短軸Zと平行な線を示し、符号P2は、圧縮トップのときのローター2のリーディング側頂点を通る短軸Zと平行な線を示し、符号P3は、トレーリング側点火プラグ22の軸心を示し、符号P4は、リーディング側点火プラグ21の軸心を示し、符号L1は、短軸Zとリーディング側点火プラグ21との間の長さを示し、符号L2は、短軸Zとトレーリング側点火プラグ22との間の長さを示し、符号L3は、ローター2の隣接する頂点間の長さを示す。本実施形態では、トレーリング側点火プラグ22はトレーリング側に偏倚しているから、L2≧(L/2)となる。なお、圧縮トップのとき、短軸Zからローター2のトレーリング側頂点までの長さとリーディング側頂点までの長さとは同じ(L)である。
【0039】
仕様の具体的一例として、Lは85mm、L1は20mm、L2は50mm、L3は170mm等とすることができる。なお、前記長さL、L1、L2、L3は、軸Z、線P1、線P2、軸心P3、軸心P4に垂直な最短長さで表したが、例えば、弧状のフランク面2aに沿った長さで表してもよい。その場合の仕様の具体的一例として、L3に相当する、フランク面2aの弧の長さは180mm等とすることができる。
【0040】
以上のように、本実施形態に係るエンジン1は、(1)リーン燃焼、(2)乱流生成部材51、(3)トレーリング側点火プラグ22位置のトレーリング側への偏倚、を特徴としている。このような構成を採用した理由はおよそ次のようである。
【0041】
(1)水素エンジン1は排気がクリーンという利点があって注目されているが、水素の燃焼はガソリンよりも速いため、ガソリンエンジンよりも冷却損失が大きいという不利益がある。そこで、エンジン1の冷却損失を低減するためにリーン燃焼を行っている。
【0042】
(2)リーン燃焼を行うと、燃焼遅れが生じ、排気損失が増加するという不利益がある。そこで、リーン燃焼を行っても燃焼遅れを抑制するために乱流生成部材51をローター2に設けている。
【0043】
(3)ロータリーピストンエンジン1は、燃焼室内をトレーリング側からリーディング側へ流れるスキッシュ流Wが存在するため、トレーリング側点火プラグ22の点火時にトレーリング側点火プラグ22よりもトレーリング側に存在する混合気は、ローター2の回転に伴ってトレーリング側点火プラグ22よりもリーディング側に移動するまで燃焼が開始せず、これによって燃焼遅れが生じ、排気損失が増加するという不利益がある。そこで、スキッシュ流に起因するトレーリング側混合気の燃焼遅れを抑制するためにトレーリング側点火プラグ22の位置をトレーリング側へ偏倚している。
【0044】
図5(a)に示すように、一般に、ロータリーピストンエンジンの燃焼プロセスは、主燃焼(i)、スキッシュ燃焼(ii)、後燃え(iii)の順に起こる。図5(a)の燃焼プロセスは、燃料として水素を用い、混合気の空気過剰率λを2.2〜2.3とし、図4で例示した前記仕様においてL2を30mmとし、リーディング側点火プラグ21の点火時期をBTDC(圧縮トップ前)10°とし、トレーリング側点火プラグ22の点火時期をBTDC5°とした場合のものである(乱流生成部材51は設けていない)。
【0045】
図5(b)に示すように、主燃焼(i)は、燃焼室内においてトレーリング側点火プラグ22の近傍からリーディング側点火プラグ21を超えて燃焼室のリーディング側最端部を少量残す位置までの範囲にある混合気の燃焼により起こる。スキッシュ燃焼(ii)は、燃焼室内においてトレーリング側点火プラグ22よりもトレーリング側にある混合気の燃焼により起こる。後燃え(iii)は、燃焼室内においてリーディング側最端部にある混合気の燃焼により起こる。
【0046】
このように、スキッシュ燃焼(ii)が主燃焼(i)よりも遅れて起こっていることにより、ロータリーピストンエンジンではスキッシュ流に起因するトレーリング側混合気の燃焼遅れが生じていることを示している。
【0047】
図6は、ローター2に乱流生成部材51を設けた場合と設けない場合とで、燃焼プロセスがどのように変わるかを示すものである。図6の燃焼プロセスは、燃料として水素を用い、回転数をアイドル回転数(1000rpm)とし、図4で例示した前記仕様においてL2を30mmとした上で、図3で例示した乱流生成部材51を設けた場合は、混合気の空気過剰率λを2.45とし、リーディング側点火プラグ21の点火時期をBTDC0°とし、トレーリング側点火プラグ22の点火時期をATDC(圧縮トップ後)5°とし、Pi(図示平均有効圧)を51kPaとした場合のものである。また、図3で例示した乱流生成部材51を設けない場合は、混合気の空気過剰率λを2.2とし、リーディング側点火プラグ21の点火時期をBTDC10°とし、トレーリング側点火プラグ22の点火時期をBTDC5°とし、Piを48kPaとした場合のものである。
【0048】
乱流生成部材51を設けた場合は、設けない場合に比べて、リーディング側点火プラグ21の点火時期を10°リタードしているにも拘らず、主燃焼が早いタイミングで起こっている。これは、乱流生成部材51により、混合気の燃焼速度が大幅に高められていることを示している。よって、本実施形態では、前記理由(2)で述べたように、リーン燃焼に起因する燃焼遅れを抑制するために乱流生成部材51を採用している。
【0049】
図7は、トレーリング側点火プラグ22位置をトレーリング側へ偏倚した場合と偏倚しない場合とで、燃焼プロセスがどのように変わるかを示すものである。図7の燃焼プロセスは、乱流生成部材を設けず、燃料として水素を用い、回転数をアイドル回転数(1000rpm)とし、混合気の空気過剰率λを2.45とし、リーディング側点火プラグ21の点火時期をBTDC10°とし、トレーリング側点火プラグ22の点火時期をBTDC5°とした上で、トレーリング側点火プラグ22位置をトレーリング側へ偏倚した場合は、図4で例示した前記仕様においてL2を50mmとした場合のものである。また、トレーリング側点火プラグ22位置をトレーリング側へ偏倚しない場合は、図4で例示した前記仕様においてL2を30mmとした場合のものである。
【0050】
トレーリング側点火プラグ22位置をトレーリング側へ偏倚した場合は、スキッシュ燃焼がはっきりとは確認されず、スキッシュ燃焼は主燃焼に取り込まれているように見える。これは、トレーリング側点火プラグ22位置のトレーリング側への偏倚により、スキッシュ流に起因するトレーリング側混合気の燃焼遅れが抑制されていることを示している。よって、本実施形態では、前記理由(3)で述べたように、スキッシュ流に起因するトレーリング側混合気の燃焼遅れを抑制するためにトレーリング側点火プラグ22の位置をトレーリング側へ偏倚している。
【0051】
図8は、ローター2に乱流生成部材51を設けた場合と設けない場合とで、熱効率が空気過剰率λに応じてどのように変わるかを示すものである。図8は、燃料として水素を用い、回転数をアイドル回転数(1000rpm)とし、図4で例示した前記仕様においてL2を30mmとし、リーディング側点火プラグ21の点火時期をBTDC0°とし、トレーリング側点火プラグ22の点火時期をATDC5°とし、Pe(正味平均有効圧)を低負荷(0kPa)として、ロータリーピストンエンジン1を運転した場合のものである。
【0052】
図3で例示した乱流生成部材51を設けた場合は、設けない場合に比べて、空気過剰率λが2.2近辺から2.6近辺の範囲で熱効率が向上している。特に、空気過剰率λが2.4近辺から2.5近辺の範囲で熱効率が最も向上している。これは、アイドル領域において、乱流生成部材51により、空気過剰率λが2.2以上にリーン化した混合気の燃焼速度が大幅に高められ、その結果、リーン化した混合気の燃焼遅れが抑制されて排気損失の増加が抑制されていることを示している。よって、本実施形態では、前述したように、水素を燃料として含む混合気の空気過剰率λを2.2以上、好ましくは、2.4以上、また、好ましくは、2.6以下としている。
【0053】
図9は、ローター2に乱流生成部材51を設けた場合と設けない場合とで、燃焼プロセスがどのように変わるかを示すものである。図9の燃焼プロセスは、燃料として水素を用い、混合気の空気過剰率λを2.4とし、回転数をアイドル回転数(1000rpm)とし、図4で例示した前記仕様においてL2を30mmとし、リーディング側点火プラグ21の点火時期をBTDC0°とし、トレーリング側点火プラグ22の点火時期をATDC5°とし、Peを低負荷(0kPa)とした場合のものである。
【0054】
図3で例示した乱流生成部材51を設けた場合は、設けない場合に比べて、主燃焼が早いタイミングで起こっている。これは、空気過剰率λが2.4で、アイドル領域において、乱流生成部材51により、リーン化した混合気の燃焼速度が大幅に高められていることを示している。これによっても、本実施形態では、前記理由(2)で述べたように、リーン燃焼に起因する燃焼遅れを抑制するために乱流生成部材51を採用している。
【0055】
図10は、図8と同様、ローター2に乱流生成部材51を設けた場合と設けない場合とで、熱効率が空気過剰率λに応じてどのように変わるかを示すものである。ただし、図10は、図8と比較すると、回転数を高回転数(3000rpm)とし、Peを中負荷(100kPa)とし、リーディング側点火プラグ21の点火時期をBTDC5°とし、トレーリング側点火プラグ22の点火時期をBTDC0°とした点が異なっている。
【0056】
図3で例示した乱流生成部材51を設けた場合は、設けない場合に比べて、空気過剰率λが2.2近辺から2.4近辺の範囲で熱効率が向上している。これは、高速度中負荷領域において、乱流生成部材51により、空気過剰率λが2.2以上にリーン化した混合気の燃焼速度が大幅に高められ、その結果、リーン化した混合気の燃焼遅れが抑制されて排気損失の増加が抑制されていることを示している。これによっても、本実施形態では、前述したように、水素を燃料として含む混合気の空気過剰率λを2.2以上としている。
【0057】
図11は、図9と同様、ローター2に乱流生成部材51を設けた場合と設けない場合とで、燃焼プロセスがどのように変わるかを示すものである。ただし、図11は、図9と比較すると、回転数を高回転数(3000rpm)とし、Peを中負荷(100kPa)とし、リーディング側点火プラグ21の点火時期をBTDC5°とし、トレーリング側点火プラグ22の点火時期をBTDC0°とした点が異なっている。
【0058】
図3で例示した乱流生成部材51を設けた場合は、設けない場合に比べて、主燃焼が早いタイミングで起こっている。これは、空気過剰率λが2.4で、高速度中負荷領域において、乱流生成部材51により、リーン化した混合気の燃焼速度が大幅に高められていることを示している。これによっても、本実施形態では、前記理由(2)で述べたように、リーン燃焼に起因する燃焼遅れを抑制するために乱流生成部材51を採用している。
【0059】
図12は、図9と同様、ローター2に乱流生成部材51を設けた場合と設けない場合とで、燃焼プロセスがどのように変わるかを示すものである。ただし、図12は、図9と比較すると、混合気の空気過剰率λを2.1とし、回転数を中回転数(1500rpm)とし、Peを中負荷(100kPa)とした点が異なっている。
【0060】
図3で例示した乱流生成部材51を設けた場合は、設けない場合に比べて、主燃焼が早いタイミングで起こっている。これは、空気過剰率λが2.1で、中速度中負荷領域において、乱流生成部材51により、リーン化した混合気の燃焼速度が大幅に高められていることを示している。これによっても、本実施形態では、前記理由(2)で述べたように、リーン燃焼に起因する燃焼遅れを抑制するために乱流生成部材51を採用している。
【0061】
図13は、ローター2に乱流生成部材51を設けた場合と設けない場合とで、圧力−体積曲線がどのように変わるかを示すものである。図13の圧力−体積曲線は、図11と同様、燃料として水素を用い、混合気の空気過剰率λを2.4とし、回転数を高回転数(3000rpm)とし、図4で例示した前記仕様においてL2を30mmとし、リーディング側点火プラグ21の点火時期をBTDC5°とし、トレーリング側点火プラグ22の点火時期をBTDC0°とし、Peを中負荷(100kPa)とした場合のものである。
【0062】
図3で例示した乱流生成部材51を設けた場合は、設けない場合に比べて、仕事量が増大している。これは、空気過剰率λが2.4で、高速度中負荷領域において、乱流生成部材51により、リーン化した混合気の燃焼速度が大幅に高められ、その結果、リーン化した混合気の燃焼遅れが抑制されて排気損失の増加が抑制され、熱効率が向上(ひいては燃費も向上)していることを示している。これによっても、本実施形態では、前記理由(2)で述べたように、リーン燃焼に起因する燃焼遅れを抑制するために乱流生成部材51を採用している。
【0063】
図14は、ローター2に乱流生成部材51を設けた場合と設けない場合とで、熱効率がリーディング側点火プラグ21の点火時期に応じてどのように変わるかを示すものである。図14は、燃料として水素を用い、回転数を中回転数(1500rpm)とし、図4で例示した前記仕様においてL2を30mmとし、Peを高負荷(300kPa)として、ロータリーピストンエンジン1を運転した場合のものである。なお、混合気の空気過剰率λ及びリーディング側点火プラグ21の点火時期は、図示の通りであり、トレーリング側点火プラグ22の点火時期は、リーディング側点火プラグ21の点火時期より5°遅くしている。
【0064】
図3で例示した乱流生成部材51を設けた場合(実線)は、設けない場合(破線)に比べて、空気過剰率λが2のときは、リーディング側点火プラグ21の点火時期がBTDC1〜2°近辺よりも遅いときに熱効率が向上し、空気過剰率λが1.6〜1.7のときは、リーディング側点火プラグ21の点火時期がBTDC−4〜−5°近辺よりも遅いときに熱効率が向上している。これは、乱流生成部材51により、混合気の燃焼速度が大幅に高められ、その結果、リーディング側点火プラグ21の点火時期をリタードしても、そのリタードによる混合気の燃焼遅れが抑制されて排気損失の増加が抑制されていることを示している。
【0065】
本実施形態の特徴を以下にまとめる。
【0066】
本実施形態では、前記構成(1)のように、燃焼行程で理論空燃比よりもリーンな混合気が燃焼される。リーンな混合気は燃料に対する空気の量が相対的に多いから、燃焼温度の上昇が抑制され、冷却損失の低減が図られる。また、燃焼温度の上昇が抑制されることにより、NOxの低減も図られる。
【0067】
また、前記構成(2)のように、ローター2のフランク面2aに形成されたリセス2b内に乱流生成部材51が設けられる。これにより、燃焼室内の燃料と空気との混合気に乱流が生成し、燃料と空気とのミキシング及び火炎伝播が促進される。そのため、混合気の燃焼遅れが抑制され、排気損失の増加の抑制が図られる。乱流生成部材51により、混合気の燃焼速度が大幅に高まるため、リーン燃焼の効果(冷却損失の低減)を最大限発揮させつつ、リーン化した混合気の燃焼遅れを抑制して排気損失の増加を抑制できる。したがって、冷却損失の低減と排気損失の増加の抑制とが両立し、ロータリーピストンエンジン1の熱効率が改善する。
【0068】
また、前記構成(3)のように、トレーリング側点火プラグ22が、圧縮トップのときのトレーリング側燃焼室の中心よりもトレーリング側に偏倚している。これにより、トレーリング側点火プラグ22の点火時にトレーリング側点火プラグ22よりもトレーリング側に存在する混合気の量が可及的に少なくなり、混合気の燃焼遅れの程度、排気損失の増加の程度が低減される。よって、スキッシュ流に起因するトレーリング側混合気の燃焼遅れを抑制して排気損失の増加を抑制できる。したがって、ロータリーピストンエンジン1の熱効率が改善する。
【0069】
前記乱流生成部材51を設けることにより、次のような作用も奏される。すなわち、トレーリング側点火プラグ22位置のトレーリング側への偏倚により、トレーリング側点火プラグ22とリーディング側点火プラグ21との間に存在する混合気のうち特にリーディング側点火プラグ21に近い混合気がトレーリング側点火プラグ22からより離間することになって燃焼遅れが生じ得る。しかし、前記乱流生成部材51により、混合気の燃焼速度が大幅に高まるため、トレーリング側点火プラグ22位置のトレーリング側への偏倚の効果(スキッシュ流に起因するトレーリング側混合気の燃焼遅れの抑制)を最大限発揮させつつ、トレーリング側点火プラグ22とリーディング側点火プラグ21との間に存在する混合気の燃焼遅れを抑制して排気損失の増加を抑制できる。したがって、ロータリーピストンエンジン1の熱効率が改善する。
【0070】
本実施形態では、混合気に含まれる燃料は水素であり、混合気の空気過剰率λは2.2以上である。これにより、エンジン1は、排気がクリーンな水素を燃料として採用する水素ロータリーピストンエンジンとなる。そして、λ≧2.2という超リーン燃焼を行うことにより、燃焼温度の上昇が抑制され、冷却損失の低減及びNOxの低減が図られ、かつ、乱流生成部材51及びトレーリング側点火プラグ22位置のトレーリング側への偏倚により、排気損失の増加の抑制が図られる。
【0071】
本実施形態では、前記図14の結果から、燃焼行程で圧縮トップ後に熱発生するようにリーディング側点火プラグ21の点火時期をリタードする。これにより、例えば高負荷領域で燃料が増量されても、圧縮トップ後に熱発生するようにリーディング側点火プラグ21の点火時期をリタードすることによって、ノッキングの回避が図られる。乱流生成部材51により、混合気の燃焼速度が大幅に高まるため、リタード幅を大きくとることができ、リタードの効果(ノッキングの回避)を最大限発揮させつつ、リタードによる混合気の燃焼遅れを抑制して排気損失の増加を抑制できる。
【0072】
本実施形態に係るエンジン1は、前記構成(1)リーン燃焼、前記構成(2)乱流生成部材51、前記構成(3)トレーリング側点火プラグ22位置のトレーリング側への偏倚、を採用したことにより、燃焼プロセスが改良され、熱効率が3%程度改善し、トータルの熱効率が40%に近づき、燃焼時のピーク温度が1500K以下に低下した。これにより、燃焼室の最端部にある混合気の燃焼が確実となり、未燃損が低減し、未燃燃料の排出が低減し、前記後燃え(iii)等の燃焼室の最端部にある混合気の燃焼が早いタイミングで起こるようになった。
【0073】
前記実施形態の変形例を以下に説明する。
【0074】
乱流生成部材51の形状、配置、個数等は、特に限定されない。例えば、乱流生成部材51をリセス2b内のリーディング側又はトレーリング側に配置してもよく、2個の乱流生成部材51,51をリセス2b内のリーディング側とトレーリング側とに配置してもよい。
【0075】
燃料は、水素以外の気体燃料、例えばLPG(液化石油ガス)やCNG(圧縮天然ガス)等でも構わない。また、ガソリン等の液体燃料も問題なく使用できる。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明は、燃料の種類に拘わらず、ロータリーピストンエンジンの技術分野において、広範な産業上の利用可能性が期待される。
【符号の説明】
【0077】
1 ロータリーピストンエンジン
2 ローター
2a ローター外周面(フランク面)
2b リセス
3 ローターハウジング
3a トロコイド状内周面
4 インターミディエイトハウジング
4a インターミディエイトハウジング側面
5 サイドハウジング
5a サイドハウジング内側面
6 エキセントリックシャフト
7 ローター収容室
8 作動室
10 排気ポート
11〜13 吸気ポート
15 インジェクタ
21 リーディング側点火プラグ
22 トレーリング側点火プラグ
51 乱流生成部材
L 圧縮トップのときのトレーリング側燃焼室の長さ
W スキッシュ流
X 回転軸心
Y 長軸
Z 短軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トロコイド状内周面を有するローターハウジングと、
前記内周面に頂点が摺接しつつ回転するローターと、
前記内周面のトロコイド曲線の短軸を挟んでリーディング側及びトレーリング側に配置されたリーディング側点火プラグ及びトレーリング側点火プラグとを備えるロータリーピストンエンジンであって、
燃焼行程では理論空燃比よりもリーンな混合気が燃焼され、
前記ローターの外周面に形成されたリセス内に乱流生成部材が設けられ、
前記短軸から圧縮トップのときのローターのトレーリング側頂点までのトレーリング側燃焼室の長さをLとしたときに、前記トレーリング側点火プラグが、前記短軸から(L/2)以上離れた位置に配置されていることを特徴とするロータリーピストンエンジン。
【請求項2】
前記混合気に含まれる燃料は水素であり、前記混合気の空気過剰率λは2.2以上であることを特徴とする請求項1に記載のロータリーピストンエンジン。
【請求項3】
燃焼行程では圧縮トップ後に熱発生するようにリーディング側点火プラグの点火時期をリタードすることを特徴とする請求項1又は2に記載のロータリーピストンエンジン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2013−50040(P2013−50040A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−187123(P2011−187123)
【出願日】平成23年8月30日(2011.8.30)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】