説明

ロープ・綱類

【課題】 バイオマス由来のポリマーを少なくとも一部に含有した複合繊維を使用することで、二酸化炭素発生量を低減できるなど環境に優しく、かつ石油系由来のポリマーを使用した製品と比較してバイオマス由来のポリマーを使用した製品が劣る耐摩耗性等の欠点を解消することができるロープ・綱類を提供する。
【解決手段】 横断面形状が芯鞘形状を呈しており、鞘部が石油系由来のポリマー、芯部がバイオマス由来のポリマーからなる複合繊維で構成されているロープ・綱類。このロープ・綱類は、85kgの砂袋に装着して3mの高さから落下させたときのロープにかかる荷重の最大値である最大衝撃荷重が7.0kN以下であることが好ましい。また、ロープ・綱類を構成する複合繊維の鞘部はポリエチレンテレフタレート、芯部はポリ乳酸であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオマス由来のポリマーを一成分とする複合繊維から構成されるロープ・綱であって、係船索、タグライン、ポートホール、ガイロープ、リギングロープ、スリングロープ等の船舶用ロープ、ザイル、レンジャロープ、リードロープ等の荷役用ロープや安全帯等に代表される用途に好適なロープ・綱類に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の合成繊維は、その大部分が石油などの限りある貴重な化石資源を原料としているが、近年、化石資源はその資源不足が懸念されるだけでなく、二酸化炭素発生量についても社会に大きな影響を与えている。二酸化炭素固定化は地球温暖化防止に効果があることが期待され、特に二酸化炭素削減目標値を課した京都議定書に対応するために、二酸化炭素固定化物質は非常に注目度が高く、バイオマス由来物質の積極的な使用が望まれている。
【0003】
バイオマス由来の合成繊維や合成樹脂を燃焼させた際に出る二酸化炭素は、もともと空気中にあったもので、大気中の二酸化炭素は増加しない。このことをカーボンニュートラルと称し、重要視する傾向となっている。しかしながら、バイオマス由来の合成繊維の多くは、耐摩耗性が従来の汎用合成繊維よりも劣っている。
【0004】
また、石油系由来のポリマーとバイオマス由来のポリマーからなる複合繊維については、ポリ乳酸系樹脂を芯部に、芳香族ポリエステル系樹脂を鞘部に配した複合繊維が提案されている(例えば特許文献1〜3参照)。しかし、これらは原糸に関するもので、具体的な用途については詳細が記載されておらず、各用途についての要求特性についても開示されていない。
【0005】
一方、ロープ・綱類については、その形態や縫製方法について各種のものが開示されている(例えば特許文献4〜14参照)。しかし、これらには一般の合成繊維が使用されており、環境に配慮されたものではない。また、バイオマス系の繊維を使用してロープ・綱類を作製する方法についても開示されている(例えば特許文献15参照)。しかし、このロープ・綱類にはポリ乳酸繊維が用いられているので耐摩耗性が不良であり、環境面に配慮し、かつ耐摩耗性にも優れたロープ・綱類は未だ提案されていない。

【特許文献1】特開2004-353161号公報
【特許文献2】特開2005-187950号公報
【特許文献3】特開2005-232627号公報
【特許文献4】特開平7-070962号公報
【特許文献5】特開平8-052238号公報
【特許文献6】特開平9-137391号公報
【特許文献7】特開平10-168772号公報
【特許文献8】特開平10-168773号公報
【特許文献9】特開平11-293574号公報
【特許文献10】特開2000-78888号公報
【特許文献11】特開2000-355887号公報
【特許文献12】特開2002-038386号公報
【特許文献13】特開2002-266263号公報
【特許文献14】特開2004-300609号公報
【特許文献15】特開2001-303464号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記のような現状に鑑みて行われたもので、従来の石油系由来のポリマーだけからなる合成繊維ではなく、バイオマス由来のポリマーを少なくとも一部に含有した複合繊維を使用することで、二酸化炭素発生量を低減できるなど環境に優しく、かつ石油系由来のポリマーを使用した製品と比較してバイオマス由来のポリマーを使用した製品が劣る耐摩耗性等の欠点を解消できるロープ・綱類を提供することを技術的な課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、横断面形状が芯鞘形状を呈しており、鞘部が石油系由来のポリマー、芯部がバイオマス由来のポリマーで構成される複合繊維を用いたロープ・綱類は、耐摩耗性が優れていることを見出して本発明に到達した。
【0008】
すなわち、本発明は、次の構成を要旨とするものである。
(1)横断面形状が芯鞘形状を呈しており、鞘部が石油系由来のポリマー、芯部がバイオマス由来のポリマーからなる複合繊維で構成されていることを特徴とするロープ・綱類。
(2)85kgの砂袋に装着して3mの高さから落下させたときのロープにかかる荷重の最大値である最大衝撃荷重が7.0kN以下であることを特徴とする上記(1)記載のロープ・綱類。
(3)複合繊維の鞘部がポリエチレンテレフタレート、芯部がバイオマス由来のポリマーであることを特徴とする上記(1)又は(2)記載のロープ・綱類。
(4)複合繊維の鞘部が石油系由来のポリマー、芯部がポリ乳酸であることを特徴とする上記(1)又は(2)記載のロープ・綱類。
(5)複合繊維の鞘部がポリエチレンテレフタレート、芯部がポリ乳酸であることを特徴とする上記(3)又は(4)記載のロープ・綱類。
【発明の効果】
【0009】
本発明のロープ・綱類は、芯部がバイオマス由来のポリマーで形成された複合繊維を使用しているため、従来の石油系由来のポリマーからなる合成繊維で構成されたものより、製造から廃棄までの段階で発生する二酸化炭素量が低減されて環境に優しく、かつ、バイオマス由来のポリマー単独の繊維を用いたロープ・綱類より耐摩耗性などの物性を向上させることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明のロープ・綱類は、鞘部が石油系由来のポリマー、芯部がバイオマス由来のポリマーからなる芯鞘型の複合繊維で構成されるものである。
【0011】
まず、本発明で用いる芯鞘型の複合繊維の鞘部を構成する石油系由来のポリマーは、溶融紡糸が可能なものであればよく、特に限定されるものではない。具体的には、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、石油由来の1,3−プロパンジオールとテレフタル酸とからなるポリトリメチレンテレフタレート(PTT)などのポリアルキレンテレフタレートに代表されるポリエステル、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン46、ナイロン11及びナイロン12に代表されるポリアミド、ポリプロピレンやポリエチレンに代表されるポリオレフィン、ポリ塩化ビニルやポリ塩化ビニリデンに代表されるポリ塩化ポリマー、ポリ4フッ化エチレン並びにその共重合体、ポリフッ化ビニリデン等に代表されるフッ素系繊維等が挙げられる。これらの中では、低コストであるポリエステル系ポリマーやポリアミド系ポリマーが好ましい。また、バイオマス由来のポリマーとしては脂肪族ポリエステルが多いため、相溶性を考慮するとポリエステル系のものがより好ましく、コストや取り扱い性も考慮すると、特にPETが好ましい。
【0012】
また、粘度、熱的特性、相溶性を鑑みてポリエステル系ポリマーには、イソフタル酸、5−スルホイソフタル酸等の芳香族ジカルボン酸、アジピン酸、コハク酸、スベリン酸、セバシン酸、ドデカン二酸等の脂肪族ジカルボン酸、及びエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノールなどの脂肪族ジオールや、グリコール酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシカプロン酸、ヒドロキシペンタン酸、ヒドロキシヘプタン酸、ヒドロキシオクタン酸等のヒドロキシカルボン酸、ε−カプロラクトン等の脂肪族ラクトン等を共重合していてもよい。
【0013】
次に、本発明で用いる芯鞘型の複合繊維の芯部を構成するバイオマス由来のポリマーについても、溶融紡糸が可能なものであればよく、特に限定されるものではない。具体的には、ポリ乳酸(PLA)、バイオマス由来の1,3−プロパンジオールとテレフタル酸とからなるポリトリメチレンテレフタレート(PTT)やポリブチレンサクシネート(PBS)などバイオマス由来のモノマーを化学的に重合してなるポリマー類や、ポリヒドロキシ酪酸等のポリヒドロキシアルカノエート(PHA)等の微生物生産系ポリマーを挙げることができる。これらの中では、耐熱性が安定し、比較的量産化が進んでいるポリ乳酸が好ましい。
【0014】
ポリ乳酸としては、ポリD−乳酸、ポリL−乳酸、ポリD−乳酸とポリL−乳酸との共重合体であるポリDL−乳酸、ポリD−乳酸とポリL−乳酸との混合物(ステレオコンプレックス)、ポリD−乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体、ポリL−乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体、ポリD−乳酸又はポリL−乳酸と脂肪族ジカルボン酸及び脂肪族ジオールとの共重合体、あるいはこれらのブレンド体とすることが好ましい。そして、ポリ乳酸は、上記のようにL−乳酸とD−乳酸が単独で用いられているもの、もしくは併用されているものであるが、中でも融点が120℃以上、融解熱が10J/g以上であることが好ましい。
【0015】
ポリ乳酸のホモポリマーであるポリL−乳酸やポリD−乳酸の融点は約180℃であるが、D−乳酸とL−乳酸との共重合体の場合、いずれかの成分の割合を10モル%程度とすると、融点はおよそ130℃程度となる。さらに、いずれかの成分の割合を18モル%以上とすると、融点は120℃未満、融解熱は10J/g未満となって、ほぼ完全に非晶性の性質となる。このような非晶性のポリマーとなると、製造工程において特に熱延伸し難くなり、高強度の繊維を得ることが困難になり、繊維が得られたとしても、耐熱性、耐摩耗性に劣ったものとなりやすいため好ましくない。
【0016】
そこで、ポリ乳酸としては、ラクチドを原料として重合する時のL−乳酸やD−乳酸の含有割合で示されるL−乳酸とD−乳酸の含有比(モル比)であるL/D又はD/Lが82/18以上のものが好ましく、中でも90/10以上、さらには95/5以上のものが好ましい。また、ポリ乳酸の中でも、上記したようなポリD−乳酸とポリL−乳酸との混合物(ステレオコンプレックス)は融点が200〜230℃と高いため、摩擦熱等の影響を受け難く、特に好ましい。
【0017】
ポリ乳酸とヒドロキシカルボン酸の共重合体である場合は、ヒドロキシカルボン酸の具体例としてはグリコール酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシカプロン酸、ヒドロキシペンタン酸、ヒドロキシヘプタン酸、ヒドロキシオクタン酸等が挙げられる。中でもヒドロキシカプロン酸又はグリコール酸を用いることがコスト面からも好ましい。ポリ乳酸と脂肪族ジカルボン酸及び脂肪族ジオールとの共重合体の場合は、脂肪族ジカルボン酸及び脂肪族ジオールとしては、セバシン酸、アジピン酸、ドデカン二酸、トリメチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール等が挙げられる。このようにポリ乳酸に他の成分を共重合させる場合は、ポリ乳酸を80モル%以上とすることが好ましい。ポリ乳酸が80モル%未満になると、共重合ポリ乳酸の結晶性が低くなり、融点が120℃未満、融解熱が10J/g未満となりやすい。
【0018】
また、ポリ乳酸の分子量としては、分子量の指標として用いられるASTMD−1238法に準じ、温度210℃、荷重2160gで測定したメルトフローレートが、1〜100(g/10分)であることが好ましく、より好ましくは5〜50(g/10分)である。メルトフローレートをこの範囲とすることにより、強度、湿熱分解性、耐摩耗性が向上する。また、ポリ乳酸の耐久性を高める目的で、ポリ乳酸に脂肪族アルコール、カルボジイミド化合物、オキサゾリン化合物、オキサジン化合物、エポキシ化合物等の末端封鎖剤を添加してもよい。
【0019】
上記したポリ乳酸には、本発明の効果を損なわない範囲であれば、必要に応じて熱安定剤、結晶核剤、艶消剤、耐光剤、耐候剤、香料、界面活性剤、難燃剤、表面改質剤、各種無機及び有機電解質、その他類似の添加剤を添加してもよい。
【0020】
上記した石油系由来のポリマーやバイオマス由来のポリマーには、本発明の効果を損なわない範囲であれば、必要に応じて各種充填剤、増粘剤、結晶核剤として効果を示す公知の添加剤を添加することができる。具体的にはカーボンブラック、炭酸カルシウム、酸化ケイ素及びケイ酸塩、亜鉛華、ハイサイトクレー、カオリン、塩基性炭酸マグネシウム、マイカ、タルク、石英粉、ケイ藻土、ドロマイト粉、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化アンチモン、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、アルミナ、ケイ酸カルシウム、窒化ホウ素、ベヘン酸アミド等の脂肪族アミド系化合物、脂肪族尿素系化合物、ベンジリデンソルビトール系化合物、架橋高分子ポリスチレン、ロジン系金属塩や、ガラス繊維、ウィスカー等が挙げられる。これらは、そのまま添加してもよいし、ナノコンポジットとして必要な処理の後、添加することもできる。価格を抑え、良好な物性バランスを達成するためには、無機の充填剤の配合が好ましい。また、結晶核剤の配合も好ましい。
【0021】
また、石油系由来のポリマーやバイオマス由来のポリマーには、必要に応じて、顔料、染料等の着色剤、活性炭、ゼオライト等の臭気吸収剤、バニリン、デキストリン等の香料、酸化防止剤、紫外線吸収剤等の安定剤、滑剤、離型剤、撥水剤、抗菌剤その他の副次的添加剤を配合することができる。
【0022】
さらに、上記の石油系由来のポリマーやバイオマス由来のポリマーには、本発明の効果を損なわない範囲であれば、必要に応じて可塑剤を配合することもできる。可塑剤を配合することで、加熱加工時、特に押出加工時の溶融粘度を低下させ、剪断発熱等による分子量の低下を抑制することが可能となり、場合によっては結晶化速度の向上も期待できる。可塑剤の種類は、特に限定されるものではないが、バイオマス由来のポリマー、特に脂肪族系ポリエステルの可塑剤としては、エーテル系可塑剤、エステル系可塑剤、フタル酸系可塑剤、リン系可塑剤などが好ましく、ポリエステルとの相溶性に優れる点からエーテル系可塑剤、エステル系可塑剤がより好ましい。
【0023】
具体例として、エーテル系可塑剤としては、例えばポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等のポリオキシアルキレングリコール等を挙げることができる。また、エステル系可塑剤としては、脂肪族ジカルボン酸と脂肪族アルコールとのエステル類等を挙げることができ、脂肪族ジカルボン酸として、例えばシュウ酸、コハク酸、セバシン酸、アジピン酸等を挙げることができ、脂肪族アルコールとして、例えばメタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ヘキサノール、n−オクタノール、2−エチルヘキサノール、n−ドデカノール、ステアリルアルコール等の一価アルコール、エチレングリコール、1、2−プロピレングリコール、1、3−プロピレングリコール、1、3−ブタンジオール、1、5−ペンタンジオール、1、6−ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ポリエチレングリコール等の2価アルコール、また、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリストール等の多価アルコールを挙げることができる。また、上記ポリエーテル系可塑剤とポリエステル系可塑剤との組み合わせからなる共重合体、異なる2種以上の前記共重合体のブレンド物が挙げられる。さらに、エステル化されたヒドロキシカルボン酸等も用いることができる。上記の可塑剤は、必要に応じて1種もしくは複数種を用いることができる。
【0024】
また、石油系由来のポリマー、特にPET等のポリエステルの可塑剤としては、ポリエーテル系可塑剤、エステル系可塑剤、フタル酸系可塑剤及びリン系可塑剤等が挙げられる。好ましくは、耐熱性の点からポリエーテル系可塑剤がよく、特に好ましいポリエーテル系可塑剤は、ポリエチレングリコール誘導体である。
【0025】
ポリエチレングリコール誘導体としては、ポリエチレングリコールと脂肪族ジカルボン酸あるいは芳香族ジカルボン酸から得られ、脂肪族ジカルボン酸としては、例えば、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸等が挙げられる。また、芳香族ジカルボン酸としては、例えば、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、フェノキシエタンジカルボン酸、安息香酸等が挙げられる。
【0026】
本発明のロープ・綱類を構成する複合繊維は、横断面が芯鞘形状を呈しており、鞘部が上記した石油系由来のポリマーで形成されると共に芯部が上記したバイオマス由来のポリマーで形成されていることが必要である。このような複合繊維とすることで、バイオマス由来のポリマーを少なくとも一部、すなわち芯部に含有するので、製造から廃棄までの段階で発生する二酸化炭素量が低減されて環境に優しいものである。また、芯部を石油系由来のポリマーで形成される鞘部で囲んだ複合繊維であるため、石油系由来ポリマーの繊維と比較してバイオマス由来ポリマーの繊維が劣る耐摩耗性等の欠点を解消することができる。このような芯鞘型の複合繊維は、公知の方法によって製造することができる。
【0027】
上記した複合繊維はその芯部と鞘部とがほぼ同心円状に配置された同心芯鞘型の複合繊維であることが好ましく、このような構成とすることで、鞘部に石油系由来のポリマーを均一に配することができる。芯部と鞘部が偏心状に存在すると、鞘部の石油系由来のポリマー層に薄い箇所ができるが、このポリマー層が薄い箇所において、耐摩耗性が不良となりやすい。
【0028】
また、上記した芯鞘型の複合繊維の芯部と鞘部との比率としては、芯/鞘の質量比率で20/80〜80/20が好ましい。芯/鞘の質量比率が20/80未満になるとバイオマス由来のポリマーの比率が少なくなり、二酸化炭素の低減効果等のバイオマス由来のポリマーを用いるメリットが少なくなるため好ましくない。また、芯/鞘の質量比率が80/20を超えると、本発明の目的とする耐摩耗性の向上が得られ難くなるため好ましくない。なお、複合繊維の形態は長繊維、短繊維を用いた紡績糸のいずれでもよいが、耐摩耗性を向上させるには長繊維が好ましい。
【0029】
本発明のロープ・綱類は、上記した芯鞘型の複合繊維を用いて、製綱することによって得ることができる。その製綱方法は、特に限定されるものではない。具体的には、撚り工程による方法、3つ打ち、4つ打ち、6つ打ち等の製綱法、編組機による製紐法等の方法が挙げられる。
【0030】
また、本発明のロープ・綱類は、上記した芯鞘型の複合繊維のみで構成されるものの他、上記の複合繊維と、例えばナイロン6やナイロン66などのポリアミド、PETやPBT、PTTなどの芳香族ポリエステル等の繊維の中から選ばれた1種以上の繊維とで構成されるものでもよい。
【0031】
しかし、製造から廃棄までの段階で発生する二酸化炭素量を低減できる環境考慮型のロープ・綱類とするためには、上記の複合繊維を50質量%以上、特に70質量%以上使用したものが好ましい。
【0032】
また、安全帯等の衝撃吸収性が必要になるロープとしては、85kgの砂袋に装着して3mの高さから落下させた時のロープにかかる荷重の最大値で、ある最大衝撃荷重が7.0kN以下であることが好ましい。ロープを装着した人体等にかかるダメージをより少なくするためである。個人の年齢や特性にもよるが、最大衝撃荷重が7.0kNより大きくなると、人の体に障害を及ぼす可能性が大きくなる。なお、このときのロープ装着方法その他の測定方法は、安全帯に関する厚生労働省の「安全規格」における落下試験項目に準ずるものである。
【実施例】
【0033】
次に、本発明を実施例によって具体的に説明する。なお、実施例における各物性は、次の方法にて測定、評価した。
(1)ポリ乳酸の融点(℃)、融解熱(J/g)
パーキンエルマー社製の示差走査熱量計DSC−2型を使用し、昇温速度20℃/分の条件で測定した。
(2)ポリ乳酸のL−乳酸とD−乳酸の含有比(モル比)
超純水と1Nの水酸化ナトリウムのメタノール溶液との等質量混合溶液を溶媒とし、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)法により測定した。カラムにはsumichiralOA6100を使用し、UV吸収測定装置により検出した。
(3)繊維繊度(dtex)
JIS L−10153正量繊度に準じて測定した。
(4)強度(繊維)(cN/dtex)
JIS L−1013 引張強さ及び伸び率の標準時試験に準じて測定した。
(5)強力(N)
JIS L−2704に準じて測定を行った。
(6)耐摩耗性
JIS D−4604の耐摩耗性試験に準じて試験を行った。試料(編地)の一端に試料の強力値の1.25%の荷重を吊るし、他端を丸やすりの上に渡した後、振動ドラムに固定した。次に振動ドラムをクランク及びクランクアームによって往復運動させ、試料を繰り返し毎分30±1回として5,000回往復摩耗させ、試料の外観を観察した。
(7)ロープの最大衝撃荷重
85kgの砂袋にロープを装着して3mの高さから落下させ、ロープにかかる荷重の最大値をオシログラフにより測定した。
【0034】
(実施例1)
ポリ乳酸(PLA)として、融点170℃、融解熱38J/g、L−乳酸とD−乳酸の含有比(モル比)であるL/Dが98.5/1.5のものを用い、芳香族ポリエステルとして、イソフタル酸を15モル%共重合した融点217℃の共重合PETを用い、それぞれのチップを減圧乾燥した後、同心芯鞘型複合溶融紡糸装置に供給して溶融紡糸を行った。このとき、共重合PETが鞘部、ポリ乳酸が芯部となるように配し、芯/鞘の質量比率(複合比)を50/50とし、紡糸温度240℃で溶融紡糸を行った。
得られた複合繊維1100dtex96フィラメント(強度4.4cN/dtex, 伸度29%)を6本合わせて50t/mの撚糸を施し、さらにこの撚糸10本を40t/mで合撚して66000dtexのストランドを得た。このストランド3本を用いて3つ打ち(15t/m)し、198000dtexで直径12mmのロープを得た。
【0035】
(実施例2)
実施例1における芯/鞘の質量比率(複合比)を30/70に変更した以外は、実施例1と同様にして溶融紡糸を行った。得られた複合繊維の強度は7.0cN/dtex、4.73cN/dtex荷重時の中間伸度は12.7%、切断伸度は24.5%であり、110℃における熱収縮応力は0.10cN/dtexであった。
得られた複合繊維10本をZ撚50t/mで撚合せてリングヤーンを作製し、このリングヤーン15本をS撚50t/mで撚合わせてロープストランドを作製した。次いで、このロープストランド3本をZ撚33t/mで撚合わせて生ロープとした。さらに、この生ロープを110℃で高周波熱処理して衝撃吸収性繊維ロープを得た。
【0036】
(比較例1)
実施例1で使用したものと同じポリ乳酸のみを融紡糸装置に供給して紡糸温度240℃で溶融紡糸を行った。
得られたポリ乳酸繊維1100cN/dtex96フィラメント(強度4.5cN/cN/dtex, 伸度29%)を用いて実施例1と同様に加工し、198000cN/dtexで直径12mmのロープを得た。
【0037】
(比較例2)
実施例1で使用したものと同じ共重合PETのみを融紡糸装置に供給し、紡糸温度240℃で溶融紡糸を行った。
得られたポリエステル繊維1100cN/dtex96フィラメント(強度4.5cN/dtex, 伸度29%)を用いて実施例1と同様に加工し、198000dtexで直径12mmのロープを得た。
実施例1、2及び比較例1、2で得られたロープの物性について評価した結果を表1に示す。

【表1】

【0038】
表1から明らかなように、実施例1、2で得られたロープは、強力、耐摩耗性、実施試験の全てが満足するものであった。また、これらのロープを構成する複合繊維は、芯部にバイオマス由来のポリマーであるポリ乳酸を使用しているので、環境にも優しい素材であった。さらに、実施例2のロープは、機械的特性に優れ、特に最大衝撃荷重が小さくて衝撃吸収性能に優れたものであり、安全帯用として好適な衝撃吸収性繊維ロープであった。
【0039】
一方、比較例1のロープは、バイオマス由来のポリマーであるポリ乳酸からなる繊維のみを使用しているため耐摩耗性が不良であり、実用に耐え得るものではなかった。また、比較例2のロープの物性は満足するものであったが、石油系由来のポリマーである共重合PETからなる繊維を使用しているため、製造から廃棄までの段階で発生する二酸化炭素量を低減することができず、環境に優しいものではない。







【特許請求の範囲】
【請求項1】
横断面形状が芯鞘形状を呈しており、鞘部が石油系由来のポリマー、芯部がバイオマス由来のポリマーからなる複合繊維で構成されていることを特徴とするロープ・綱類。
【請求項2】
85kgの砂袋に装着して3mの高さから落下させたときのロープにかかる荷重の最大値である最大衝撃荷重が7.0kN以下であることを特徴とする請求項1記載のロープ・綱類。
【請求項3】
複合繊維の鞘部がポリエチレンテレフタレート、芯部がバイオマス由来のポリマーであることを特徴とする請求項1又は2記載のロープ・綱類。
【請求項4】
複合繊維の鞘部が石油系由来のポリマー、芯部がポリ乳酸であることを特徴とする請求項1又は2記載のロープ・綱類。
【請求項5】
複合繊維の鞘部がポリエチレンテレフタレート、芯部がポリ乳酸であることを特徴とする請求項3又は4記載のロープ・綱類。








【公開番号】特開2008−174875(P2008−174875A)
【公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−10244(P2007−10244)
【出願日】平成19年1月19日(2007.1.19)
【出願人】(399065497)ユニチカファイバー株式会社 (190)
【Fターム(参考)】