説明

ロープ類の緊張装置

【課題】小型軽量で操作性に優れ、ロープの耐久性を向上でき、伸びの大きなロープ類であっても容易迅速にロープを緊張できるロープ類の緊張装置を提供する。
【解決手段】巻取用回転部材2に回転駆動用の歯部2Gを設けるとともに、巻取用回転部材2のドラム部2Dに形成した導入孔2Hと、巻取用回転部材2の両側部の少なくとも一方に形成した導出孔とを連通するロープ類の挿通路2Lを設け、巻取用回転部材2の歯部2Gに噛み合って巻取用回転部材3を回転操作するための歯部6Gを有するギヤ6を、巻取用回転部材2を挟んでフック5とは反対側のケーリング4内に設け、ギヤ6の回転軸7の端部に、ギヤ6を手動操作するための工具装着部7Sを設け、巻取用回転部材2として歯部2Gを補強する金属製の補強板2Mをインサート成形した合成樹脂からなるものを用いた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数本の鋼線を撚り合わせてなるワイヤーロープなどの伸びの小さいロープだけでなく、天然繊維や合成繊維を撚り合わせたり編成又は製織したりしてなるロープや平ベルトなどの比較的伸びの大きなロープ類に対しても適用可能なロープ類の緊張装置に関する。
【背景技術】
【0002】
高所作業の転落防止用の親ロープを緊張させるロープ緊張装置に関する従来技術として、対向する左右一対の側板と、該両側板の一端側同士を間隔をあけて連結する連結部と、前記両側板の他端側同士の間に回転自在に設けた巻取用回転部材と、前記両側板の一方の外面に設けて前記巻取用回転部材の逆回転を阻止するラチェット機構とを備え、前記巻取用回転部材に挿通孔が形成され、該挿通孔に前記ロープの端を引っ掛けて巻き取ることができる巻取部を構成してなるロープ緊張装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。この従来のロープ緊張機は、巻取用回転部材の軸端にレンチを装着してこれを回転させ、手動操作でロープを巻取用回転部材に巻き取って緊張させる構造となっている。
【特許文献1】特開2002−147540号公報(第1〜2頁、図1〜図5)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
前記従来のロープ緊張装置は、一端が固定されたロープの端が引っ掛けられている巻取用回転部材を回転させて巻き取っていくことによって、弛んでいる状態のロープを張っていくことになるが、巻取用回転部材のロープ巻取部が角のある矩形状であるため、高所作業の転落防止用に用いられる被覆ワイヤーロープからなる親綱など、剛性の高いワイヤーロープを巻き取りこれを緊張する目的に対しては最適な形状であるとは言えない。即ち前記従来のロープ緊張装置は、角張った前記巻取部にロープを巻き取ると、ロープの被覆が損傷して内部の素線が断線して被覆表面に素線の先端が棘状に突き出し、これが手指のけがや作業衣を引っ掛かけて傷めるなどの原因になるだけでなく、弛んだ状態のロープを巻き取ると、ロープが乱巻き状となり、下層の乱れたロープの隙間に上層のロープが食い込んでしまい、次回のロープの緊張時にロープを緩めることが困難になったり、ロープの劣化が激しく耐久性が劣るなどといった問題がある。
【0004】
また、この装置の場合、ロープ端から順次巻き取る方式であるため、弛んでいるロープ(余長)が長い場合は巻き取りに時間を要し作業性が劣るだけで、巻き太るにつれて巻取用回転部材の回転操作が重くなるという不都合がある。前記必要量の長さのロープを巻取部に巻き取るためには巻取用回転部材の径方向の寸法や横幅寸法を大きくする必要があり、装置の大型化と重量の増大化を招き、特に高所での取扱に困難が伴うなどといった問題もあった。しかも、巻取用回転部材が1回転する毎に、巻取用回転部材と連結部と両側板とで囲まれる空間にロープ端部側を挿通させる必要があるので、ロープに弛みが多い場合には、何度もロープ端部を通す必要があり、また巻取用回転部材からロープ端までの長さが長い場合には、ロープ端部を通す作業が煩雑になるという問題がある。
【0005】
更に、ロープが乱巻きになると、次回のロープの緊張時にロープを緩めるためにラチェットを外すだけではロープを緩めることが困難で、装置を支える人とハンドルを逆転操作する人とロープを引き出す人など、2〜3人がかりでロープを引っ張り出す作業が必要となる場合もある。
【0006】
更にまた、天然繊維や合成繊維を編成又は製織してなるロープやベルトなどのロープ類においては、ロープ類自体が引っ張り力により比較的大きく伸びることから、巻取用回転部材に対するロープ類の巻き付け回数がどうしても多くなり、前述のような問題の発生が顕著になることから、前記特許文献1記載のロープ緊張装置を用いて、このようなロープ類を緊張させることは困難であった。
【0007】
本発明が前述の状況に鑑み、解決しようとするところは、小型軽量化を図ることができながらも、ロープの損傷の少ない状態で、かつ、容易迅速にロープを張ることができ、さらにはレンチなどの工具を操作して巻取用回転部材を回転させる場合に、フックを係止させているパイプや柱などの固定部材に工具を接当させることなく操作することができ、しかも伸びの大きなロープ類であっても、操作性を低下させることなく容易迅速にロープを緊張させることができるロープ類の緊張装置を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るロープ類の緊張装置は、ロープ類を巻き取るためのドラム部を有する巻取用回転部材と、巻取用回転部材の逆転を阻止する解除可能な逆転防止手段と、巻取用回転部材及び逆転防止手段を収容するケーシングと、ケーシングに取り付けたフックとを備えてなるロープ類の緊張装置であって、前記巻取用回転部材に回転駆動用の歯部を設けるとともに、巻取用回転部材のドラム部に形成した導入孔と、巻取用回転部材の両側部の少なくとも一方に形成した導出孔とを連通するロープ類の挿通路を設け、前記巻取用回転部材の歯部に噛み合って巻取用回転部材を回転操作するための歯部を有する操作用回転部材を、巻取用回転部材を挟んで前記フックとは反対側のケーリング内に設け、前記操作用回転部材の回転軸の端部に、操作用回転部材を手動操作するための工具装着部を設け、前記巻取用回転部材として歯部を補強する金属製の補強板をインサート成形した合成樹脂からなるものを用いたものである。
【0009】
従って、この緊張装置では、一端が固定されたロープ類の他端を巻取用回転部材に形成されたロープ類の挿通路に通して外部に取り出し、その他端を手で引っ張ることにより、弛んだ状態のロープ類を迅速に張った状態(緊張状態)にすることができる。この状態からレンチなどの工具を用いて操作用回転部材を回転させて、ロープ類を巻取用回転部材に数回(例えば1〜3回転程度)巻き付けるだけでロープ類を強力に緊張させることができる。しかも、ロープ類の他端を引っ張ってある程度緊張させた状態で巻取用回転部材に巻くことができると同時に数回巻くだけであるから、ロープ類が乱巻き状態となることを回避することができ、緊張状態を解除するときでも、逆転防止手段を解除するだけで直ちに巻取用回転部材から巻き付けられているロープ類を解いて送り出すことができる。
【0010】
また、巻取用回転部材を挟んで前記フックとは反対側のケーリング内に操作用回転部材を設けているので、特にレンチなどの大きな回転揺動範囲を有する工具を操作用回転部材の工具装着部に装着して操作する場合に、フックを係止させている固定部材に工具を接当させるといったことがないだけでなく、固定部材からできるだけ離した状態で工具を操作することができる。前記操作用回転部材を巻取用回転部材よりも小径に構成しておけば、小さな操作力で巻取用回転部材を回転操作することができる。
【0011】
更に、巻取用回転部材から側方へロープ類の他端を繰り出すことから、巻取用回転部材が回転する毎にロープ類の他端側にはロープ類の長さ方向を中心に回転しようとするが、巻取用回転部材から導出されるロープ類の他端側が短尺である場合には、該他端側のロープ類が回転して吸収され、該他端側のロープ類が長尺の場合には、該他端側のロープ類が捩じれることで吸収される。つまり、特許文献1記載の緊張装置のように巻取用回転部材が1回転する毎に、巻取用回転部材と連結部と両側板とで囲まれる空間にロープ端部側を挿通させる必要がないので、緊張装置の操作性を低下させることなく、巻取用回転部材に対してロープ類を順次巻き付けることが可能となり、しかも巻取用回転部材からロープ類の他端までの長さに関係なく、ロープ類を容易に巻き取ることができる。このため、複数本の鋼線を撚り合わせてなるワイヤーロープなど、伸びの小さいロープ類は云うまでもなく、天然繊維や合成繊維を寄り合わせたり編成又は製織したりしてなるロープや平ベルトなどのロープ類のように、引っ張り力に対する伸びの大きなロープ類であっても、無理なく容易に緊張させることができる。また、緊張しない余剰のロープ類の長さが長くても、容易にロープ類を緊張できるので、現場におけるロープ類の張設長さの測定作業を省略することも可能となる。
【0012】
更にまた、前記巻取用回転部材として、歯部を補強する金属製の補強板をインサート成形した合成樹脂からなるものを用いているので、最も大きな力が作用する歯部の強度剛性を十分に確保しつつ、巻取用回転部材を軽量に構成することができ、延いては緊張装置全体の軽量化を図ることができる。
【0013】
ここで、前記ドラム部の両側部にフランジ部をそれぞれ設け、両フランジ部の外周部に歯部をそれぞれ形成するとともに、フランジ部に歯部を補強する補強板をそれぞれインサート成形すること、前記巻取用回転部材として、略円筒状の内側環状部と、前記ドラム部及び両フランジ部を有する外側環状部と、前記内側環状部と外側環状部とを径方向で連結する複数のリブとを備えたものを用いること、などが好ましい実施の形態である。また、この場合には、前記両補強板の外側面側における巻取用回転部材の樹脂厚を内側面側における樹脂厚よりも薄く設定することも好ましい実施の形態である。
【0014】
また、前記補強板として、外周部に巻取用回転部材の歯部内に延びる歯部を有するものを用いること、前記巻取用回転部材の歯部が一定量摩耗すると補強板の外周部が外部に露出するように、補強板の外周側における巻取用回転部材の樹脂厚を設定すること、前記ケーシングが、左右1対の分割ケースからなり、両分割ケース内に、前記巻取用回転部材、逆転防止手段、操作用回転部材を内装すること、前記工具がレンチからなり、前記装着部がレンチ装着部からなること、などが好ましい実施の形態である。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係るロープ類の緊張装置によれば、巻取用回転部材にロープ類の挿通路を形成するだけで、弛んだロープ類を外部へ引きだしてある程度張った状態にしてからロープ類を巻取用回転部材に数回(例えば1〜3回転程度)巻き付けるだけでロープ類を緊張状態にすることができ、弛んだ状態のロープ類を巻き取りながら徐々に張っていく場合に比べて、ロープ類の緊張作業時間の短縮化を図ることができるだけでなく、ロープ類が乱巻き状になることがない。しかも、ロープ類を巻取用回転部材に数回(例えば1〜3回転程度)巻き付けることができる容量のものから装置を構成することができるから、その分小型軽量化を図ることができる。
【0016】
また、巻取用回転部材を挟んで前記フックとは反対側のケーリング内に操作用回転部材を設けているので、操作用回転部材の工具装着部に工具を装着して操作する場合に、フックを係止させている固定部材に工具を接当させるといったことがないだけでなく、固定部材からできるだけ離した状態で工具を容易に操作することができ、より一層ロープ類の緊張作業を迅速に行うことができる。又、操作用回転部材を巻取用回転部材よりも小径に構成しておけば、小さな操作力で巻取用回転部材を回転操作することができ、ロープ類の緊張作業を軽い操作力で迅速かつ容易に行える利点がある。
【0017】
更に、巻取用回転部材から側方へロープ類の他端を繰り出すことから、巻取用回転部材が回転する毎にロープ類の他端側にはロープ類の長さ方向を中心に回転しようとするが、巻取用回転部材から導出されるロープ類の他端側が短尺である場合には、該他端側のロープ類が回転して吸収され、該他端側のロープ類が長尺の場合には、該他端側のロープ類が捩じれることで吸収される。つまり、特許文献1記載の緊張装置のように巻取用回転部材が1回転する毎に、巻取用回転部材と連結部と両側板とで囲まれる空間にロープ端部側を挿通させる必要がないので、緊張装置の操作性を低下させることなく、巻取用回転部材に対してロープ類を順次巻き付けることが可能となり、しかも巻取用回転部材からロープ類の他端までの長さに関係なく、ロープ類を容易に巻き取ることができる。このため、複数本の鋼線を撚り合わせてなるワイヤーロープなど、伸びの小さいロープ類は云うまでもなく、天然繊維や合成繊維を寄り合わせたり編成又は製織したりしてなるロープや平ベルトなどのロープ類のように、引っ張り力に対する伸びの大きなロープ類であっても、無理なく容易に緊張させることができる。また、緊張しない余剰のロープ類の長さが長くても、容易にロープ類を緊張できるので、現場におけるロープ類の張設長さの測定作業を省略することも可能となる。
【0018】
更にまた、前記巻取用回転部材として、歯部を補強する金属製の補強板をインサート成形した合成樹脂からなるものを用いているので、最も大きな力が作用する歯部の強度剛性を十分に確保しつつ、巻取用回転部材を軽量に構成することができ、延いては緊張装置全体の軽量化を図ることができる。
【0019】
ここで、前記ドラム部の両側部にフランジ部をそれぞれ設け、両フランジ部の外周部に歯部をそれぞれ形成するとともに、フランジ部に歯部を補強する補強板をそれぞれインサート成形すると、巻取用回転部材に対してバランス良く回転操作力を作用させることができるとともに、歯部に作用する荷重を半減できる。
【0020】
前記巻取用回転部材として、略円筒状の内側環状部と、前記ドラム部及び両フランジ部を有する外側環状部と、前記内側環状部と外側環状部とを径方向で連結する複数のリブとを備えたものを用いると、無駄肉を極力少なくして巻取用回転部材を一層軽量に構成できる。
【0021】
1対のフランジ部に歯部を形成する場合には、前記両補強板の外側面側における巻取用回転部材の樹脂厚を内側面側における樹脂厚よりも薄く設定することが好ましい実施の形態である。このように構成すると、補強板の冷却速度を高めて、補強板と樹脂部分との境界部における密着性を高めることができる。また、両フランジ部の内側面にはロープ類を円滑にドラム部側へ案内するための外周側広がりの比較的大きな傾斜角度のテーパ面を形成する必要があるので、補強板を内側面側に配置させるよりも、外側面側に配置させる方が、補強板を外部空間近くに配置させることが可能となり、その分補強板の冷却速度を高めて、補強板と樹脂部分との密着性を向上できる。
【0022】
また、前記補強板として、外周部に巻取用回転部材の歯部内に延びる歯部を有するものを用いることが好ましい実施の形態である。この場合には、補強板に形成した歯部により、巻取用回転部材の歯部を一層効果的に補強することができる。
【0023】
前記巻取用回転部材の歯部が一定量摩耗すると補強板の外周部が外部に露出するように、補強板の外周側における巻取用回転部材の樹脂厚を設定することも好ましい実施の形態である。このように構成すると、巻取用回転部材の交換時期を目視にて容易に識別することができる。
【0024】
前記ケーシングが、左右1対の分割ケースからなり、両分割ケース内に、前記巻取用回転部材、逆転防止手段、操作用回転部材を内装することが好ましい実施の形態である。このように構成すると、ケーシングに内装された多数の部材が外部に露呈されないだけでなく、装置の衝撃強度を向上させることができる。また、左右の側板間に設ける構成の場合には、両側板を連結するための複数本の連結金具などを必要とし、部品点数の増大化を招くことになる。しかも、ケースの形状によっては部材の取り付け位置が規制されることがなく、設計の自由度を高めることができる。また、左右の分割ケースを同一のものから構成しておけば、ケースの製造を1つの金型で行うことができ、コスト面において有利になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
図1〜図4は、例えば高所作業の転落防止用の親ロープを張設するために用いられるロープ緊張装置を示している。このロープ緊張装置は、ロープ(これがロープ類に相当する)1を巻き取るための巻取用回転部材2と、巻取用回転部材2の逆転を阻止する解除可能な逆転防止手段3と、巻取用回転部材2及び逆転防止手段3を収容するケーシング4と、このケーシング4にそれから外部に突出する状態で基端が取り付けられたフック5とを備えているが、図に示される構成に本発明は限定されるものではない。
【0026】
ケーシング4は、図2、図3及び図5に示すように、左右一対の分割ケース4A,4Aからなり、その分割ケース4A,4A内に、巻取用回転部材2、逆転防止手段3、後述する操作用回転部材を備えさせている。分割ケース4A,4Aは左右対称型に構成しているが、左右非対称の分割ケースから構成することもできる。また、ケーシング4を分割ケース4A,4Aから構成することによって、左右一対の側板及びそれら側板を連結するための複数の連結金具などで構成する場合に比べて、部品点数の削減化、強度アップを図れる他、他物が内部の部品に接当することを回避することができる利点があるが、ケーシング4として、左右一対の側板及びそれら側板を連結するための複数の連結金具などからなるものを採用することも可能である。図3及び図5に示す符号R,Rは、分割ケース4A,4Aに形成されたロープ挿入口4Dを介してケーシング4内に挿入したロープ1を上下方向から接当案内して、ロープ1の挿入姿勢を規制するためのガイドローラであり、場合によっては省略することも可能である。また、図2に示す符号4Eは、分割ケース4A,4A内の状態を確認したり、ロープ1の端を後述する巻取用回転部材2の導入孔2Hに挿入するときに目視するための開口であるが、必ずしも必要ではなく、省略することも可能である。
【0027】
図5〜図7に示すように、巻取用回転部材2は、ロープ1を巻き取るための円筒状のドラム部2Aと、ドラム部2Aの両側部に設けたフランジ部2F,2Fと、両フランジ部2F,2Fの外周部に形成した歯部2Gとを備えている。
【0028】
フランジ部2F,2Fの外周部には金属材料からなるリング状の補強板2Mをインサート成形により埋設状に備えさせており、この補強板2Mにより歯部2Gを補強できるように構成している。また、歯部2Gの強度剛性を十分に高めるため、補強板2Mの外周部に歯部2G内に延びる歯部2Nを設けている。そして、歯部2Nの外側における歯部2Gの樹脂厚Tを、例えば0.5mm〜1.5mmに設定し、歯部2Gが摩耗して歯部2Nが外部に露出することによって、利用者が巻取用回転部材2の交換時期を把握できるように構成している。また、両フランジ部2F,2Fの厚さ方向に対する補強板2Mの埋設位置を、歯部2Gの歯先の厚さ方向の中心Cよりもやや外側位置に設定し、巻取用回転部材2を成形するときにおける補強板2Mの冷却速度を早めて、樹脂部分と金属製の補強板2Mとの密着性を高めるように構成している。尚、補強板2Mを歯先の厚さ方向の中心Cよりもやや内側位置に設定することも可能であるが、両フランジ部2F,2Fの内側面(対向面)には外周側へ行くにしたがって間隔が広くなるテーパ面2Rで構成しているので、補強板2Mを外面側に配置させてその冷却速度を高めることができる。尚、樹脂部分と補強板2Mとの結合強度を高めるため、補強板2Mに突起や孔を形成することも好ましい実施の形態である。
【0029】
このような構成の巻取用回転部材2を製作する際には、巻取用回転部材2に適合する形状の成形空間を有する図示外の射出成形装置における金型内の適所に、補強板2Mを中空支持した状態に位置決めセットし、その後合成樹脂材料を金型の成形空間内に射出して成形することになる。尚、符号2Pは、補強板2Mを金型内に中空支持するために、補強板2Mに設けた取付孔で、金型に突出状に設けた段付きピンをこの取付孔2Pに挿通させて、金型の成形空間内に補強板2Mを位置決め支持できるように構成している。巻取用回転部材2は、アルミニウム合金等の金属材料で構成することも可能であるが、金属製の補強板2Mをインサート成形した合成樹脂で製作することで、巻取用回転部材2の軽量化及び材料コストの低減を図ることができる。
【0030】
巻取用回転部材2の重量を極力軽減するため、巻取用回転部材2は、略円筒状の内側環状部2Cと、ドラム部2A及び両フランジ部2F,2Fを備えさせた外側環状部2Dと、内側環状部2Cと外側環状部2Dとを径方向(放射線状に)で連結する複数のリブ2Eとで構成し、内側環状部2C内に横一側方のみを開口した凹部2aを形成し、内側環状部2Cと外側環状部2D間にリブ2Eで仕切られた複数の凹部2bを形成し、リブ2Eにより十分な強度剛性を確保しつつ、両凹部2a,2bにより余分な肉を少なくして極力軽量になるように構成している。但し、重量は多少重たくなるが、凹部2a,2bを省略して、巻取用回転部材2を中実に構成することも可能である。
【0031】
内側環状部2Cの左右両端部に外方へ突出した軸部2Qを形成し、両軸部2Qを分割ケース4A,4Aそれぞれのほぼ中央に形成した貫通孔4B,4Bに嵌合させることによって、巻取用回転部材2を分割ケース4A,4Aに対して回転自在に支持している。
【0032】
巻取用回転部材2のドラム部2Aに丸孔からなる導入孔2Hを形成し、巻取用回転部材2の左右両側部の一方のほぼ回転中心位置に丸孔からなる導出孔2Jを形成し、ドラム部2Aに導入孔2Hと導出孔2Jとを連通するロープ1の挿通路2Lを形成している。図4、図6では、導出孔2Jを一方の側部にのみ形成しているが、両側部に形成してどちら側からでもロープ1の端を外部に導き出すことができるようにしてもよい。だたし、この場合には、巻取用回転部材2の強度低下を招くことになるので、一側部にのみ設けることが好ましい。挿通路2Lは、図6に示すように、導入孔2Hと導出孔2Jとをほぼ45度の角度で結んだ一直線状の経路になっているが、湾曲した経路でもよいし、断面形状がL字状の経路であってもよく、経路としての形状は自由に変更可能である。挿通路の直径はロープ1の直径よりも大きな寸法であれば任意の寸法に設定できる。
【0033】
ケーシング4内には操作用回転部材としての左右一対のギヤ6,6を備えさせ、両ギヤ6、6に巻取用回転部材2の歯部2G,2Gに噛み合って巻取用回転部材2を回転操作するための多数の歯部6Gを形成している。具体的には、断面形状が六角の回転支軸7にギヤ6,6を一体回転可能に外嵌し、回転支軸7の両端をギヤ6,6から外側へ突出させた軸部6S,6Sを介して分割ケース4A,4Aの貫通孔4F,4Fにそれぞれ回転自在に支持させている。また、ギヤ6を、ケーシング4に巻取用回転部材2を挟んでフック5とは反対側に位置する箇所、つまりフック5から離間する側に備えさせ、回転支軸7の一端に分割ケース4Aから外部へ設定長さ突出する工具装着部7Sを形成し、工具装着部7Sに工具を装着して、ギヤ6,6を工具にて外部から手動回転操作できるように構成している。従って、工具装着部7Sに工具である六角レンチの先端を嵌合させてから、六角レンチを揺動操作することによりギヤ6,6を回転させると同時に巻取用回転部材2を回転させることで、ロープ1を緊張操作することができ、この緊張操作中に、揺動操作している六角レンチがフック5を係止固定している固定部材(図ではパイプP)に接当することがないように構成している。
【0034】
フック5は、分割ケース4A,4Aの長手方向一端に嵌合固定されるカラー19に揺動自在に外嵌され、一端が他端よりも長い逆U字状の鉤部材5Aと、基端側が鉤部材5Aの基端部にピン9を介して揺動可能に連結支持され、かつ、先端が鉤部材5Aの短い側である他端の内側面に接するように図示していないバネにより揺動付勢された外れ止め部材5Bと、鉤部材5Aの基端部外側に一端がピン10を介して揺動可能に支持され、かつ、他端に形成の長孔8Aに外れ止め部材5Bの基端部から延出された延出部に備えさせた軸11を貫通して外れ止め部材5Bの揺動を規制可能なロックレバー8とを備えている。従って、ロックレバー8をピン10の軸芯周りの図1に矢印で示す方向へ揺動操作することによって、長孔8Aの一端に位置している軸11が他端側へ移動可能となるため、外れ止め部材5Bをピン9の軸芯周りで図1で示す矢印の方向へ揺動操作することで、開いて図4及び図8で示すパイプPに係止しているフック5を係止解除することができるようになっているが、他の構成であってもよい。
【0035】
逆転防止手段3は、図3及び図5に示すように、左右のギヤ6,6の間に位置させて回転支軸7に一体回転状態で外嵌し、かつ、外周に多数の爪12Aが形成された爪車12と、この爪車12の爪12Aに一方側の回転時にのみ噛み合って該爪車12の逆回転を阻止するために分割ケース4A,4Aに嵌合固定されるピン14に外嵌固定される爪部材13と、この爪部材13の爪部13Aが爪車12の爪12Aに噛み合うように該爪部材13を揺動付勢するためのバネ15とからなるラチェット機構から構成されているが、他の構成であってもよい。分割ケース4A,4Aに、爪車12に噛み合っている爪部材13を噛み合い解除操作することができるように外部から指を入れることができる開口4Cを形成している。
【0036】
ロープ緊張装置の使用方法を説明する。ロープ緊張装置は、例えば建設現場の足場に作業者の転落防止用安全ロープの親ロープを張設してこの親ロープを緊張させる作業に用いるほか、工事現場の通路確保用の安全ロープの張設作業、構造物の組み立て時の柱部材などの仮支持など各種作業におけるロープの緊張用の道具として多目的に用いる。
具体的には、外径11mmのビニール被覆付きワイヤーロープ(ワイヤーロープ外径10mm、被覆材の厚さ約0.5mm)を親ロープ1として使用し、その親ロープ1の一端に取り付けられたフック16を、図8に示すように、約10mの間隔で配置された1対のパイプ(支柱)P,Pの一方に係止し、他端を他方のパイプPにフック5を引っ掛けたロープ緊張装置の巻取用回転部材2に前述のように通してロープ1の端を外部に引っ張り出してある程度手で張ってから、六角レンチを用いてロープ緊張装置を操作して(巻取用回転部材2に親ロープ1を1〜3回巻き付けて)、親ロープ1のスパンLが約10m、高さHが約3mになるようにして水平に張設するようにしている。このように張設された親ロープ1の中間部に、作業者に一端が連結されているフック付ロープ17のフック18を親ロープ1に係止させて作業を安全に行えるようにしている。
【0037】
親ロープと称されるロープは、一般に、合成繊維素材からなる外径約16mmの繊維ロープ、または約10mmのワイヤーロープに厚さ約0.5〜1mmのビニール被覆を施した外径が約11〜約12mmのビニール被覆付きワイヤーロープが用いられるが、他の構成のロープであってもよい。
【0038】
ロープ1は巻取用回転部材2の挿通路2Lを通しただけでは係止はされないが、ロープ1に適度な剛性があることと、ロープ1を巻取用回転部材2に数回(通常1〜3回転程度)巻き付けるとロープ1が緊張を増して巻取用回転部材2の外周面との摩擦力が発生するだけでなく、挿通路2Lの導入孔2Hでロープ1が曲げられることなどの理由により、挿通路2Lに適度な移動抵抗力が発生してロープ1の抜け出しが規制されることになる。
【0039】
前記実施の形態では、合成繊維を撚り合わせてなる繊維ロープ、または鋼線を撚り合わせてなるワイヤーロープからなるロープ1を巻き取る巻取用回転部材2を備えた緊張装置について説明したが、合成繊維を編成又は製織してなる平ベルトからなるロープ類を巻き取る巻取用回転部材を備えさせ、張設した平ベルトを緊張可能な緊張装置として利用することもできる。
【0040】
具体的には、巻取用回転部材20として、図9〜図11に示すように、前記巻取用回転部材20の丸孔状の導入孔2H及び導出孔2Jを有する挿通路2Lに代えて、ドラム部21に回転中心方向に細長いスリット状の導入孔22と、巻取用回転部材20の一側に直径方向に細長いスリット状の導出孔23と、導入孔22と導出孔23を連通する挿通路24とをそれぞれ設け、挿通路24を巻取用回転部材20の回転中心に対して傾斜状に設けたものを用いることになる。尚、前記実施の形態と同一部材には同一符号を付してその詳細な説明を省略する。
【0041】
そして、図12に示すように、この巻取用回転部材20を前記緊張装置における巻取用回転部材2と入れ替えて緊張装置を構成し、ケーシング4内に導入した平ベルト25の他端部を導入孔22から挿通路24に導入させて導出孔23から外部へ繰り出し、張設した平ベルト25を緊張させてから、巻取用回転部材20を回転させて、平ベルト25をドラム部2Aに対して略同心状に巻き取って、張設した平ベルト25に必要な張力が作用するように平ベルト25を緊張させることになる。
【0042】
平ベルト25としては、ポリエステルなどの合成繊維を編成してなる、例えば厚さが約1.0mmで幅が約2.5mmの標準サイズのものを適用できる。このような平ベルト25は、柔軟性を有するので、図10に示すように、凹部2b及びリブ2Eを省略してドラム部21を小径に構成することが可能となり、ドラム部21に巻き付ける平ベルト25の長さを長く設定できる。このため、合成繊維を編成又は製織してなる平ベルト25は、引っ張り力に対して比較的大きく伸びることになるが、ドラム部2Aに対して十分な長さの平ベルト25を巻き取ることができるので、平ベルト25を無理なく緊張させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】ロープ緊張装置の平面図である。
【図2】ロープ緊張装置の側面図である。
【図3】ロープ緊張装置の横断面図である。
【図4】ロープ緊張装置の縦断面図である。
【図5】フックを省略したロープ緊張装置の分解斜視図である。
【図6】巻取用回転部材の断面図である。
【図7】巻取用回転部材の一部切欠平面図である。
【図8】所定間隔を置いて立設した一対のパイプ間にロープをロープ緊張装置にて緊張した状態を示す説明図である。
【図9】平ベルトを巻き取る巻取用回転部材の斜視図である。
【図10】同巻取用回転部材の断面図である。
【図11】同巻取用回転部材の一部切欠平面図である。
【図12】同巻取用回転部材を組み込んだロープ緊張装置の縦断面図である。
【符号の説明】
【0044】
1 ロープ 2 巻取用回転部材
2a 凹部 2b 凹部
2A ドラム部 2C 内側環状部
2D 外側環状部 2E リブ
2F フランジ部 2G 歯部
2H 導入孔 2J 導出孔
2L 挿通路 2M 補強板
2N 歯部 2P 取付孔
2Q 軸部 2R テーパ面
3 逆転防止手段
4 ケーシング 4A 分割ケース
4B 貫通孔 4C 開口
4D ロープ挿入口 4E 開口
4F 貫通孔
5 フック 5A 鉤部材
5B 外れ止め部材
6 ギヤ 6G 歯部
6S 軸部
7 回転支軸 7S 工具装着部
8 ロックレバー 8A 長孔
9 ピン
10 ピン 11 軸
12 爪車 12A 爪
13A 爪部 13 爪部材
14 ピン 15 バネ
16 フック 17 フック付ロープ
18 フック 19 カラー
20 巻取用回転部材 21 ドラム部
22 導入孔 23 導出孔
24 挿通路 25 平ベルト
P パイプ R ガイドローラ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロープ類を巻き取るためのドラム部を有する巻取用回転部材と、巻取用回転部材の逆転を阻止する解除可能な逆転防止手段と、巻取用回転部材及び逆転防止手段を収容するケーシングと、ケーシングに取り付けたフックとを備えてなるロープ類の緊張装置であって、
前記巻取用回転部材に回転駆動用の歯部を設けるとともに、巻取用回転部材のドラム部に形成した導入孔と、巻取用回転部材の両側部の少なくとも一方に形成した導出孔とを連通するロープ類の挿通路を設け、
前記巻取用回転部材の歯部に噛み合って巻取用回転部材を回転操作するための歯部を有する操作用回転部材を、巻取用回転部材を挟んで前記フックとは反対側のケーリング内に設け、
前記操作用回転部材の回転軸の端部に、操作用回転部材を手動操作するための工具装着部を設け、
前記巻取用回転部材として歯部を補強する金属製の補強板をインサート成形した合成樹脂からなるものを用いた、
ことを特徴とするロープ類の緊張装置。
【請求項2】
前記ドラム部の両側部にフランジ部をそれぞれ設け、両フランジ部の外周部に歯部をそれぞれ形成するとともに、フランジ部に歯部を補強する補強板をそれぞれインサート成形した請求項1記載のロープ類の緊張装置。
【請求項3】
前記巻取用回転部材として、略円筒状の内側環状部と、前記ドラム部及び両フランジ部を有する外側環状部と、前記内側環状部と外側環状部とを径方向で連結する複数のリブとを備えたものを用いた請求項2記載のロープ類の緊張装置。
【請求項4】
前記両補強板の外側面側における巻取用回転部材の樹脂厚を内側面側における樹脂厚よりも薄く設定した請求項2又は3記載のロープ類の緊張装置。
【請求項5】
前記補強板として、外周部に巻取用回転部材の歯部内に延びる歯部を有するものを用いた請求項1〜4のいずれか1項記載のロープ類の緊張装置。
【請求項6】
前記巻取用回転部材の歯部が一定量摩耗すると補強板の外周部が外部に露出するように、補強板の外周側における巻取用回転部材の樹脂厚を設定した請求項1〜5のいずれか1項記載のロープ類の緊張装置。
【請求項7】
前記ケーシングが、左右1対の分割ケースからなり、両分割ケース内に、前記巻取用回転部材、逆転防止手段、操作用回転部材を内装した請求項1〜6のいずれか1項記載のロープ類の緊張装置。
【請求項8】
前記工具がレンチからなり、前記装着部がレンチ装着部からなる請求項1〜7のいずれか1項記載のロープ類の緊張装置。



【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2007−278317(P2007−278317A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−101534(P2006−101534)
【出願日】平成18年4月3日(2006.4.3)
【出願人】(500073113)リフテック株式会社 (3)
【出願人】(503235167)
【出願人】(503235259)
【Fターム(参考)】