説明

ローラユニット、及び、シート部材分離供給機構

【課題】耐久性を向上することが可能なローラユニット、及び、シート部材分離供給機構を提供する。
【解決手段】ローラ軸24と、当該ローラ軸の外周に巻装されたコイルバネ25と、当該コイルバネを間に介してローラ軸の外周に遊嵌されたローラ部23と、からなり、ローラ軸に対するローラ部の一方向への相対的な回転は許容される一方、ローラ軸に対するローラ部の他方向への相対的な回転はコイルバネがローラ軸に巻き締まることで阻止されるように構成されたリタードローラ13(ローラユニット)において、ローラ軸を金属で作製し、ローラ軸の外周面におけるコイルバネの巻装位置に、潤滑剤を保持可能な窪部48を形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ローラユニット、及び、シート部材分離供給機構に関し、特に、積層状態で支持された複数枚の記録紙等のシート部材を最上位のものから1枚ずつ給送するローラユニット、及び、シート部材分離供給機構に関する。
【0002】
例えば、プリンタ、複写機、或いはファクシミリ等の記録装置では、記録媒体としての記録用紙(シート部材の一種。以下、用紙と略記する。)を複数枚積層状態でセット可能な給送装置(オートシートフィーダ)が設けられている。この給送装置は、例えば、用紙と接して回転することにより用紙を下流側へ送る給送ローラと、用紙を支持するとともに支持した用紙を給送ローラに圧接させる姿勢と離間させる姿勢とを切換可能なホッパと、給送時に重送されようとする用紙を分離する分離機構とを備えており、積層状態でホッパに支持された複数枚の用紙を最上位のものから1枚ずつ給送するように構成されている(例えば、特許文献1)。
【0003】
ここで、分離機構として、特許文献1に示されるようなリタードローラ(分離ローラ)が用いられることがある。リタードローラは、所定の回転抵抗(トルク)が付与された状態に設けられ、リタードローラに所定以上のトルクが加わった場合、より具体的には給送ローラとリタードローラとの間に用紙が無いか、或いは1枚だけ存在する場合には、給送ローラに対して従動回転する。逆に、リタードローラに加わるトルクが所定以下になった場合、より具体的には給送ローラとリタードローラとの間に2枚以上の用紙が存在する場合には、給送ローラに対して従動回転しない。これにより、給送されるべき最上位の用紙に伴って重送されようとする次位以降の用紙が、リタードローラによって留まり、用紙の重送が防止される。
【0004】
【特許文献1】特開2007−254154号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このリタードローラには、ホルダに固定状態で軸支される軸部(ローラ軸)と、当該ローラ軸の外周に巻装されたコイルバネと、このコイルバネを間に介してローラ軸の外周に遊嵌されたローラ部とから構成されたものがある。このリタードローラは、ローラ軸に対するローラ部の一方向への相対的な回転は許容される。この一方向への回転時には、コイルバネによってローラ部が他方向へ付勢されるので、この付勢力が上記の回転抵抗となる。一方、ローラ軸に対するローラ部の他方向への相対的な回転はコイルバネがローラ軸に巻き締まることで阻止される。
【0006】
従来のリタードローラにおけるローラ軸の材料は、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール(PBO)を液晶紡糸した繊維であるザイロン(Zylon(登録商標))が好適に用いられていた。しかしながら、ローラ部の回転に伴ってローラ軸にコイルバネが摺動するため、ローラ軸とコイルバネとの間の摺動部分で焼き付きが生じ、コイルバネが破損する等の不具合が生じる場合があった。また、ローラ軸のコイルバネとの摺動部分が摩耗することで必要な回転抵抗が確保できなくなり、これにより、用紙を正常に分離することができなくなる虞があった。
【0007】
本発明は、この様な事情に鑑みなされたものであり、その目的は、耐久性を向上することが可能なローラユニット、及び、シート部材分離供給機構を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のローラユニットは、上記目的を達成するために提案されたものであり、ローラ軸と、当該ローラ軸の外周に巻装されたコイルバネと、当該コイルバネを間に介してローラ軸の外周に遊嵌されたローラ部と、からなり、
前記ローラ軸に対する前記ローラ部の一方向への回転は許容される一方、前記ローラ軸に対する前記ローラ部の他方向への相対的な回転は前記コイルバネが前記ローラ軸に巻き締まることで阻止されるように構成されたローラユニットであって、
前記ローラ軸を金属で作製し、当該ローラ軸の外周面における前記コイルバネの巻装位置に、潤滑剤を保持可能な窪部を形成したことを特徴とする。
【0009】
上記構成によれば、ローラ軸を金属で作製し、さらにローラ軸の外周面におけるコイルバネの巻装位置に、潤滑剤を保持可能な窪部を形成したので、ローラ軸とコイルバネとの摺動による焼き付きや摩耗を抑制することができ、これにより耐久性を向上することができる。その結果、ローラユニットの信頼性を向上することが可能となる。
【0010】
上記構成において、前記ローラ軸を、金属製板材をプレス加工により円筒状に成型することで作製することが望ましい。
【0011】
上記構成によれば、プレス加工によって金属製板材を円筒状に成型することでローラ軸を作製することができるので、生産性を向上させることが可能となる。また、生産コストの低減にも寄与することが可能である。
【0012】
また、本発明のシート部材分離供給機構は、上記各構成のローラユニットと、当該ローラユニットと対に設けられた給送ローラと、を備え、
前記ローラ軸に対する前記ローラ部の一方向への回転時の前記コイルバネによる回転抵抗が、前記給送ローラの回転トルクよりも小さく設定され、
シート部材供給源からのシート部材が前記ローラ部と前記給送ローラとで1枚狭持された状態では、前記ローラ部が前記給送ローラの回転に従動して前記一方向へ回転して当該シート部材を下流側に給送する一方、シート部材供給源からのシート部材が前記ローラ部と前記給送ローラとで複数狭持された状態では、前記ローラ部の回転が停止すると共に最も給送ローラ側に位置するシート部材のみを給送ローラの回転によって下流側に給送するように構成されたことを特徴とする。
【0013】
上記構成によれば、ローラ軸を金属で作製し、さらにローラ軸の外周面におけるコイルバネの巻装位置に、潤滑剤を保持可能な窪部を形成したので、ローラ軸とコイルバネとの摺動による焼き付きや摩耗を抑制することができ、これにより耐久性を向上することができる。その結果、シート部材分離供給機構の信頼性を向上することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための最良の形態を、添付図面を参照して説明する。なお、以下に述べる実施の形態では、本発明の好適な具体例として種々の限定がされているが、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの態様に限られるものではない。また、以下の説明では、本発明におけるローラユニット及びシート部材分離供給機構を、液体噴射装置の一実施形態であるインクジェット式記録装置(以下、単にプリンタという)に適用した場合の構成を例示する。
【0015】
図1はプリンタ1の装置本体(外装カバーを外した状態)の斜視図、図2はプリンタ1の側面の断面概略図である。このプリンタ1は、装置後部にリア給送装置2を備え、装置底部にフロント給送装置3を備え、これら2つの給送装置2,3からシート部材としての記録用紙(以下用紙Pと言う)を紙送り機構5へ給送するように構成されている。用紙Pは紙送り機構5によって記録ヘッド4側へと給送され、記録が実行された後、排出機構6によってスタッカ7へと排出される。
【0016】
リア給送装置2は、装置の基体を構成するフレーム10と、ホッパ12(本発明におけるシート部材供給源の一種)と、給送ローラ11と、リタードローラ13(本発明におけるローラユニットの一種)と、戻しレバー19と、支持板21と、可動エッジガイド17と、固定エッジガイド16と、を備えて構成されている。
【0017】
ホッパ12は板状体から成り、上部の揺動支点12aを中心に揺動可能に設けられ、ホッパ12上に傾斜姿勢に支持された用紙Pを給送ローラ11に圧接させる圧接姿勢と、用紙Pを給送ローラ11から離間させる離間姿勢とを切り換えるようになっている。ホッパ12の下端と対向する位置には用紙Pの先端が当接する先端当接面10aが設けられ、ホッパ12の揺動動作に伴い、セットされた用紙Pの先端が先端当接面10aに摺接しつつ給送ローラ11に対して接離動作する。また給送ローラ11の下流側にはガイド面10bが設けられ、給送ローラ11からの用紙Pは、このガイド面10bに案内されつつ下流側へと搬送される。
【0018】
図3は、給送ローラ11とリタードローラ13とからなるシート部材分離供給機構の構成を説明する側面図である。
給送ローラ11は、弾性材によって円筒形状に形成された部材であり、図示しない駆動モータによる駆動力によって軸11′を中心として図3において反時計回りに回転することにより、ホッパ12によって圧接された最上位(最も給送ローラ11側)の用紙Pを下流側へ給送する。リタードローラ13は、給送ローラ11と圧接可能に設けられ、用紙Pの重送を防止するための分離手段として機能するものである。このリタードローラ13は、ローラ部23とローラ軸24をホルダ18に備えて構成されており、ローラ部23が後述するコイルバネ25によって用紙給送時の回転方向(図3において矢印Aで示す一方向)とは反対方向(図3において矢印Bで示す他方向)に所定の回転抵抗が与えられた状態に設けられている。
【0019】
ローラ軸24に対するローラ部23の一方向への回転時のコイルバネ25による回転抵抗は、給送ローラ11の回転トルクよりも小さく設定されている。そして、給送ローラ11とリタードローラ13との間に用紙Pが無い状態、又は、給送ローラ11とリタードローラ13との間に用紙Pが1枚だけ存在する場合には、ローラ部23は回転抵抗に抗しながら給送ローラ11の回転に従動して矢印Aで示す一方向に回転する。その一方、用紙Pが給送ローラ11とリタードローラ13との間に複数枚存在する場合には、用紙間の滑り作用によってローラ部23は、初期位置で回転を停止した状態となる。なお、直前まで一方向に回転していた場合、その位相分だけ矢印Bで示す他方向に初期位置まで戻り回転して停止した状態となる。これにより、最も給送ローラ11側に位置する最上位の用紙Pのみが、給送ローラ11の回転によって下流側に給送される。このようにして紙Pの重送が防止される。
【0020】
リタードローラ13は、リア給送装置2の基体を構成するフレーム10において、給送ローラ11に対して進退可能に設けられるとともに、図3に示すように、付勢バネ9によって揺動軸26を中心として給送ローラ11に対してローラ部23が付勢された状態に設けられている。即ち、付勢バネ9の付勢力によってローラ部23が給送ローラ11に圧接し、両ローラのニップ点が形成されるようになっている。なお、このリタードローラ13は、ホッパ12と直接係合可能に設けられ、このホッパ12の揺動動作に連動して、ローラ部23が給送ローラ11に対して進退動作するように構成されている。なお、このリタードローラ13の詳細については後述する。
【0021】
給送ローラ11とリタードローラ13の近傍に設けられた戻しレバー19は、側面視略くの字形状を呈しており、回動軸20を中心に回動可能に設けられている。そして、この戻しレバー19は、回動することにより、給送されるべき最上位の用紙Pに伴って重送されようとする次位以降の用紙Pの先端を上流側、即ち先端支持面10a側へと戻すように構成されている。
【0022】
支持板21(図1参照)は、ホッパ12における用紙支持面を用紙Pの後端方向に延長して用紙Pの後端部を支持する。可動エッジガイド17及び固定エッジガイド16は、ホッパ12において互いに対峙するように設けられ、用紙Pのエッジに当接して当該用紙Pの位置を規制する。これらのガイドのうち可動エッジガイド17はホッパ12において用紙Pの幅方向にスライド可能に設けられていて、これにより、用紙Pの幅寸法に適合した適切な位置に変位することが可能となっている。
【0023】
一方、プリンタ1の底部に設けられ、用紙を装置前方からセットする様構成されたフロント給送装置3は、給紙カセット37と、ピックアップローラ27と、給送ローラ28と、リタードローラ29(本発明におけるローラユニットの一種)とを備えている。
装置前方側から装着及び取り外し可能な給紙カセット37には、複数枚の用紙Pを積層状態でセット可能となっている。図示しないモータによって回転駆動されるピックアップローラ27は、給紙カセット37にセットされた用紙Pの最上位のものと接して回転することにより、当該最上位の用紙Pを給紙カセット37から繰り出す。また、給送ローラ28は、給紙カセット37から繰り出された最上位の用紙Pを湾曲反転させて、ガイド板34を経て紙送り機構5へと給送する。なお、フロント給送装置3における給送ローラ28及びリタードローラ29は、リア給送装置2における給送ローラ11及びリタードローラ13と同様な構成となっている。
【0024】
リア給送装置2及びフロント給送装置3の下流側には、用紙Pの通過を検出する用紙検出手段(図示せず)と、リア給送装置2から給送される用紙Pの給送姿勢を形成するガイドローラ31と、給送される用紙Pを紙送り機構5へと案内するガイド板34と、が設けられている。
【0025】
紙送り機構5は、モータによって回転駆動される給送駆動ローラ32と、該給送駆動ローラ32に圧接して従動回転する給送従動ローラ33とを備えて構成されている。紙送り機構5に到達した用紙Pは、給送駆動ローラ32と給送従動ローラ33とによってニップされた状態で給送駆動ローラ32が回転することにより、記録ヘッド4の下方に配設されたプラテン38上へと搬送される。
【0026】
記録ヘッド4はキャリッジ35の底部に設けられている。キャリッジ35は主走査方向に延在するキャリッジガイド軸36にガイドされながら、図示しない駆動モータによって主走査方向に往復移動しつつ下方に搬送されてきた用紙Pに対して記録動作(インク吐出動作)を行うように構成されている。また、キャリッジ35は、複数の色毎に独立したインクカートリッジ(図示せず)を搭載し、このインクカートリッジから記録ヘッド4へとインクが供給される。
【0027】
記録ヘッド4と対向する位置にはプラテン38が設けられ、当該プラテン38によって、用紙Pと記録ヘッド4との距離が規定される。記録ヘッド4の下流側には、プラテン38からの用紙Pの浮き上がりを防止する補助ローラ41と、記録が行われた用紙Pを排出する排出機構6とが設けられている。排出機構6は図示しないモータによって回転駆動される排出駆動ローラ39と、当該排出駆動ローラ39に接して従動回転する排出従動ローラ40とを備えて構成されている。記録ヘッド4によって画像やテキスト等の記録(インクの吐出)が行われた用紙Pは、排出駆動ローラ39と排出従動ローラ40とによってニップされた状態で排出駆動ローラ39が回転駆動されることにより、装置前方側に設けられたスタッカ7へと排出される。
【0028】
次に、本発明に係るリタードローラについて詳細に説明する。なお、リア給送装置2のリタードローラ13とフロント給送装置3のリタードローラ29とは、同様な構成となっているので、以下では、リア給送装置2のリタードローラ13を代表して説明する。
図4は、リタードローラ13の構成を説明する図であり、(a)はローラ部23を取り外した状態のリタードローラ13の平面図、(b)はローラ部23を取り付けた状態のリタードローラ13の平面図、(c)はローラ部23を取り付けた状態のリタードローラ13の側面図である。
【0029】
本実施形態におけるリタードローラ13は、ローラ軸24と、当該ローラ軸24の外周に巻装されたコイルバネ25と、当該コイルバネ25を間に介してローラ軸24の外周に遊嵌されたローラ部23とをホルダ18に取り付けて構成されている。ホルダ18は、ローラ軸24やローラ部23を保持する保持部18aと、この保持部18aの後方に突設されたアーム部18bとにより構成されている。
【0030】
保持部18aは、所定間隔を隔てて対向配置された1対の保持壁44a,44bを有しており、この保持壁44a,44bの間にローラ軸24、コイルバネ25、及びローラ部23が保持されるようになっている。各保持壁44a,44bには、ローラ軸24の長手方向両端部の断面形状を少し拡大した寸法形状の保持穴45a,45bが開設されており、この保持穴45a,45bにそれぞれローラ軸24の両端部を内側から嵌め込んで係止させることで、保持部18aにローラ軸24を取り付けるようになっている。即ち、ローラ軸24は、ホルダ18に対して回転できない状態で保持される。後述するようにローラ軸24の長手方向両端部の断面形状は、それぞれ異なる形状を呈しており、これに応じて、保持穴45a,45bは、対応するローラ軸24の両端形状に倣った開口形状を呈している。これにより、保持部18aにローラ軸24を取り付ける際、作業者がローラ軸24の取り付け方向を誤ることを防止することができる。
【0031】
アーム部18bは、保持部18aの長手方向中心部から後方に突出した側方視略三角形状の部材であり、保持部18aと一体的に形成されている。このアーム部18bは、フレーム10に回転可能に軸支される揺動軸26と、この揺動軸26を中心として保持部18aと略90°位相を異ならせた位置に設けられたフック46とを有している。このフック46には、一端がフレーム10に取り付けられた付勢バネ9の他端が係止されるようになっている。これにより、図3を参照して上述したように、付勢バネ9によって揺動軸26を中心として保持部18aに保持されたローラ部23が給送ローラ11に対して付勢されるようになっている。
【0032】
図5は、ローラ軸24の構成を説明する図であり、(a)はローラ軸24の上面図、(b)は(a)におけるb−b線断面図、(c)はローラ軸24の背面図、(d)はローラ軸24の下面図、(e)はローラ軸24の右側面図、(f)はローラ軸24の左側面図である。
このローラ軸24は、金属製板材を断面略真円の細長い円筒状に成型することで作製されている。本実施形態においては、亜鉛メッキ鋼板を用いてプレス加工により円筒状に成型している。
【0033】
ローラ軸24の長手方向両端部における背面側には、それぞれ切欠部47a,47bが形成される。この切欠部47a,47bの形状及び寸法は、両端でそれぞれ異なっており、これにより、上述したようにローラ軸24の長手方向両端部の断面形状が異なるようにしている。また、ローラ軸24の外周面におけるコイルバネ25の巻装位置には、グリスなどの潤滑剤を保持可能な窪部48を形成している。本実施形態における窪部48は、ローラ軸24の長手方向に長尺な溝状の窪み(油溝)となっており、ローラ軸24の表面から肉厚方向の途中(例えば、板厚の約50%)まで窪ませて形成されている。
【0034】
このように、コイルバネ25の巻装位置に窪部48を設け、この窪部48に潤滑剤を保持させることにより、コイルバネ25がローラ軸24に摺動した際の潤滑性を向上させることができる。これにより、摺動部分での焼き付きを抑制することができ、コイルバネ25が破損する等の不具合を防止することができる。また、ローラ軸24におけるコイルバネ25との摺動部分が摩耗することを抑制することができる。これにより必要な回転抵抗を確保することができ、その結果、リタードローラ13の信頼性の向上を図ることが可能となる。なお、窪部48の形状は例示したものには限られず、必要に応じて種々の形状を採用することができる。また、窪部48は、ローラ軸24におけるコイルバネ25との摺動部分に複数設けることも可能である。
【0035】
次に、ローラ軸24を形成する工程を説明する。
図6(a)〜(c)はプレス加工により金属製基板からローラ軸24となる円筒を形成する工程を説明する図、図7(a)〜(c)は図6の各工程での金属製基板の形状を説明する断面図である。まず、本実施形態における金属材料である亜鉛メッキ鋼板に対しブランキングによりローラ軸24を形成するのに必要な寸法形状の基板51を得る。基板51を得たならば、上記の切欠部47a,47b、及び窪部48を形成する。
続いて、以下の第1プレス工程〜第3プレス工程の計3つの工程を経て基板51を円筒形状に成型する。
【0036】
図6(a)及び図7(a)に示すように、第1プレス工程では、図7(c)におけるAに対応する部分(基材51の幅方向両端の合わせ目となる部分からPを中心として両側90°までに対応する領域)の成型を行う。即ち、第1雌型54a上に基板51を載置した状態で基板51上方から第1雌型54a側に向けて第1雄型53aを押し込むことで、基材51に対し円弧Aに対応する部分を内側に彎曲させるように加工する。続いて、図6(b)及び図7(b)に示すように、第2プレス工程に移り、図7(c)における円弧Bに対応する部分(基材51の幅方向両端の合わせ目に対しPを中心として180°反対側の位置から両側に45°までに対応する領域)の成型を行う。即ち、円弧Aが成型された基板51を第2雌型54b上に載置した状態で、この基板51上方から第2雌型54b側に向けて第2雄型53bを下降してプレスすることで、基板51に対し円弧Bに対応する部分を加工する。円弧A及びBの加工を行ったならば、彎曲した基材51の内側に断面真円の芯金55を挿入し、図6(c)及び図7(c)に示すように、第3プレス工程において円弧Cに対応する部分(円弧Aと円弧Bとの間の円弧)の成型を行う。即ち、第3雌型54c上に、芯金55が挿入された基板51を載置した状態で、この基板51上方から第3雄型53cを下降してプレスすることで、基板51を芯金55の外周形状に倣った円筒形状に成型する。
【0037】
このようにして、金属性の基板51をプレス加工により円筒形状に成型してローラ軸24を形成する。これにより、射出成型や研削によってローラ軸を作製する構成と比較して生産性を向上させることが可能となる。また、生産コストの低減にも寄与することが可能である。
【0038】
また、ローラ軸24を金属で作製し、さらにローラ軸24の外周面におけるコイルバネ25の巻装位置に、潤滑剤を保持可能な窪部48を形成したので、ローラ軸24とコイルバネ25との摺動による焼き付きや摩耗を抑制することができ、これにより耐久性を向上することができる。その結果、シート部材分離供給機構の信頼性を向上することが可能となる。
【0039】
なお、以上では、本発明に係るローラユニット及びシート部材分離供給機構を、プリンタ1に適用した場合の構成を例示したが、これには限られず、シート状部材を1枚ずつ給送するものであれば、他の装置にも用いることができる。例えば、複写機或いはファクシミリの用紙を給送する用途にも用いることができる。また、自動現金預払機(ATM)等の紙幣を給送する用途にも好適である。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】プリンタの構成を説明する斜視図である。
【図2】プリンタの構成を説明する側方断面図である。
【図3】シート部材分離供給機構の構成を説明する模式図である。
【図4】(a)〜(c)はリタードローラの構成を説明する図である。
【図5】(a)〜(f)はローラ軸の構成を説明する図である。
【図6】(a)〜(c)はプレス加工によりローラ軸となる円筒を形成する工程を説明する図である。
【図7】(a)〜(c)は各プレス工程における基板の形状を説明する断面図である。
【符号の説明】
【0041】
1…プリンタ,2…リア給送装置,3…フロント給送装置,4…記録ヘッド,11…給送ローラ,13…リタードローラ,18…ホルダ,23…ローラ部,24…ローラ軸,25…コイルバネ,44…保持壁,45…保持穴,46…フック,47…切欠部,48…窪部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ローラ軸と、当該ローラ軸の外周に巻装されたコイルバネと、当該コイルバネを間に介してローラ軸の外周に遊嵌されたローラ部と、からなり、
前記ローラ軸に対する前記ローラ部の一方向への相対的な回転は許容される一方、前記ローラ軸に対する前記ローラ部の他方向への相対的な回転は前記コイルバネが前記ローラ軸に巻き締まることで阻止されるように構成されたローラユニットであって、
前記ローラ軸を金属で作製し、当該ローラ軸の外周面における前記コイルバネの巻装位置に、潤滑剤を保持可能な窪部を形成したことを特徴とするローラユニット。
【請求項2】
前記ローラ軸を、金属製板材をプレス加工により円筒状に成型することで作製したことを特徴とする請求項1に記載のローラユニット。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のローラユニットと、当該ローラユニットと対に設けられた給送ローラと、を備え、
前記ローラ軸に対する前記ローラ部の一方向への相対的な回転時の前記コイルバネによる回転抵抗が、前記給送ローラの回転トルクよりも小さく設定され、
シート部材供給源からのシート部材が前記ローラ部と前記給送ローラとで1枚狭持された状態では、前記ローラ部が前記給送ローラの回転に従動して前記一方向へ回転して当該シート部材を下流側に給送する一方、シート部材供給源からのシート部材が前記ローラ部と前記給送ローラとで複数狭持された状態では、前記ローラ部の回転が停止すると共に最も給送ローラ側に位置するシート部材のみを給送ローラの回転によって下流側に給送するように構成されたことを特徴とするシート部材分離供給機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−179442(P2009−179442A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−20219(P2008−20219)
【出願日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】