説明

ロールカバー

【課題】ロール本体との接着性が高い低コストなロ一ルカバーを提供することにある。
【解決手段】本発明のロールカバー40は、接着性官能基を含まない熱可塑性フッ素樹脂により形成された第1の層41と、接着性官能基を含む熱可塑性フッ素樹脂により第1の層の内周面に形成された第2の層42とを有し、第2の層の少なくとも内周面が、第1の層の外側から照射される紫外線により処理されている。これによれば、熱可塑性フッ素樹脂でなるロールカバーの第2の層に含まれる接着性官能基を紫外線照射によって活性化させることができるため、ロール本体との接着性が高い第2の層を有するロールカバーとすることができる。また、ロールカバーの外層をなす第1の層の外側から紫外線を照射すればよいので、ロールカバーの成形処理から表面処理まで一貫して連続的に行うことが可能となり、ロールカバーの更なる低コスト化を図ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複写機やプリンタ等で、例えば、熱定着ロールや加圧ロール等として使用されるロールの一部を構成するロールカバーに関する。
【背景技術】
【0002】
複写機やプリンタ等には、トナーの加熱定着を行う熱ロール型定着装置が設けられており、当該定着装置には、熱定着ロールや該熱定着ロールに押圧される加圧ロール等(以下、「ロール」という)が配設されている。このようなロールは、円筒状のロール本体とその外周面を被覆する管状のロールカバーで構成されている。ロールカバーは、ロール回転時に摩擦抵抗によりロール本体とずれないように、ロールカバーの内周面がロール本体の外周面に接着されている。
【0003】
このようなロールカバーの材質としては、熱定着時の加熱により劣化しない耐熱性や、ロールカバーの外周面が紙等の記録媒体と粘着しない非粘着性が求められるので、フッ素樹脂が最適である。ところが、フッ素樹脂はその特性として非接着性を有するので、ロールカバーの内周面をそのままの状態でロール本体の外周面に接着することができない。そこで、ロールカバーの内周面を一旦表面処理して接着性を発揮させ、その後にロールカバーの内周面にプライマーを塗布してロール本体の外周面に接着する必要がある。
【0004】
このフッ素樹脂でなるロールカバーの内周面の表面処理としては、金属ナトリウムとナフタレンの錯体を有機溶剤に溶解させた溶液や、金属ナトリウムを液体アンモニアに溶解させた液体アンモニア溶液をロールカバーの内部に封入して化学的処理した後、ロールカバーの内部をアルコール、水及びアセトンで洗浄処理する方法がある(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平10−60139号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した従来のフッ素樹脂でなるロールカバーの内周面の表面処理では、金属ナトリウムを含んだ溶液や金属ナトリウムを含んだアルコール等の廃液の取り扱いに注意が必要なために作業工数が増加する。また、液体アンモニア溶液を用いる表面処理では、低温状態で行う必要があるので大掛かりな設備が必要である。よって、ロールカバーがコスト高となる傾向にある。フッ素樹脂でなるロールカバーの内周面の他の表面処理としてプラズマ放射処理やコロナ放電処理があるが、これらの表面処理では接着性を十分に発揮させることが困難である。
【0006】
本発明は上述した事情からなされたものであり、本発明の目的は、ロール本体との接着性が高い低コストなロ一ルカバーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的達成のため、本発明のロールカバーは、熱可塑性フッ素樹脂により形成され、円筒状のロール本体を被覆する管状のロールカバーにおいて、接着性官能基を含まない熱可塑性フッ素樹脂により形成された第1の層と、接着性官能基を含む熱可塑性フッ素樹脂により前記第1の層の内周面に形成された第2の層とを有し、前記第2の層の少なくとも内周面が、前記第1の層の外側から照射される紫外線により処理されていることを特徴としている。
【0008】
これによれば、熱可塑性フッ素樹脂でなるロールカバーの第2の層に含まれる接着性官能基を紫外線照射によって活性化させることができるため、ロール本体との接着性が高い第2の層を有するロールカバーとすることができる。特に、低圧水銀ランプにより照射される紫外線と、ヒドロキシル基あるいは酸無水物基を含むテトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(変性PFA)の熱可塑性フッ素樹脂との組み合わせ用いることにより、ロール本体との接着性を大幅に向上させることが本発明者によって確認された。また、第2の層の内周面の表面処理を紫外線照射処理のみによって行えるため、作業工数の低減化及び設備の簡易化により低コストなロールカバーとすることができる。そして、ロールカバーの外層をなす第1の層の外側から紫外線を照射すればよいので、ロールカバーの成形処理から表面処理まで一貫して連続的に行うことが可能となり、ロールカバーの更なる低コスト化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明に係る実施の形態について説明する。なお、以下に説明する実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではなく、また実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0010】
図1(A)、(B)は、本発明の実施の形態に係るロールカバーを有するロールの一部を示す斜視図及びX−X線断面図である。このロール100は、芯金10、ロール本体20、ロールカバー40より略構成されている。芯金10は、アルミニウム等の金属材等により中空円筒状又は中実円筒状に形成されている。ロール本体20は、シリコンゴム、シリコンフォーム、ウレタンゴム、フッ素ゴム等の弾性材により中空円筒状に形成されており、ロール本体20の内周に芯金10が挿入されてロール本体20の内周面と芯金10の外周面とが接着されている。
【0011】
ロールカバー40は、熱可塑性フッ素樹脂によりロール本体20の外周面を被覆可能な管状に形成されており、ロールカバー40の外層を構成する第1の層41とロールカバー40の内層を構成する第2の層42とから構成されている。第1の層41は、接着性官能基であるヒドロキシル基を含まない熱可塑性フッ素樹脂で形成され、第2の層42は、ヒドロキシル基を含む熱可塑性フッ素樹脂で形成されている。第1の層41は、ヒドロキシル基を含まないため紙等の記録媒体と粘着しない非粘着性を発揮し、第2の層42は、ヒドロキシル基を含むためロール本体20と接着する接着性を発揮するようになっている。なお、ヒドロキシル基の代わりに酸無水物基を含む熱可塑性フッ素樹脂であっても良い。
【0012】
ロールカバー40の外層を構成する第1の層41に適用可能なヒドロキシル基あるいは酸無水物基を含まない熱可塑性フッ素樹脂としては、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレンコ共重合体(FEP)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等の中から単独もしくはこれらの組合せが選択して使用される。
【0013】
ロールカバー40の耐久性を追及すれば、American Standard Testing Material(ASTM)D3307に定める方法で測定したメルトフローレイト(以下、「MFR」という)が10以下であることが好ましい。また、ロールカバー40の押出加工による十分な生産性を維持する為にMFRが0.2以上であることが好ましい。よって、第1の層41には、PFA又はETFEが好ましいが、非粘着性、耐熱性の観点を加味するとPFAが最も好適である。
【0014】
ロールカバー40の内層を構成する第2の層42に適用可能なヒドロキシル基あるいは酸無水物基を含む熱可塑性フッ素樹脂としては、ヒドロキシル基あるいは酸無水物基を含む単量体(モノマ)とヒドロキシル基あるいは酸無水物基を含まない単量体(モノマ)との共重合で得ることができる。ヒドロキシル基あるいは酸無水物基を含む単量体の例を以下に示すが、ヒドロキシル基あるいは酸無水物基を含む単量体はこれらに制限されることはなく、適用可能なその他のヒドロキシル基あるいは酸無水物基を含む単量体であっても良い。
【0015】
ヒドロキシル基あるいは酸無水物基を含む単量体の例
CF2=CF−R−CH2−OH,
CH3=CH−R−CH2−OH,
CF2=CH−R−CH2−OH,
CF2=CF−O−R−CH2−OH,
CH2=CH−O−R−CH2−OH,
CF2=CFCF2−O−R−CH2−OH,
CH2=CFCF2−R−CH2−OH,
CH2=CFCF2−O−R−CH2−OH,
なお、Rは、
a:−(CX2l−,
b:−(OCF(CF3)CF2m−,
c:−(OCF2CF(CF3))m−,
d:−(OCF(CF3))n−,
e:−(OCF2CF2n−,
の中から選択された何れか1つ又は2つ以上の組合せである。
また、XはH(水素)又はF(フッ素)であり、
l:0〜40、m:0〜10、n:0〜10である。
または、
【0016】
【化1】

【0017】
などである。
【0018】
ヒドロキシル基あるいは酸無水物基を含まない単量体の例としては、エチレン、プロピレン、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、パーフルオロアルキルビニルエーテル、クロロトリフルオロエチレン、フッ化ビニリデン等の中から1つを選択して用いるか、又は、これらの中から2つ以上の組合せを選択して用いることができる。第2の層42には、接着性、耐熱性の観点より変性PFAが最も好適である。
【0019】
このような2層構造のロールカバー40とすることにより、第1の層41と第2の層42とは熱可塑性フッ素樹脂同士であるため溶着され、第2の層42とロール本体20とは第2の層42の内周面を従来の表面処理すること無しにロール本体20の外周面と接着される。これにより、芯金10、ロール本体20、ロールカバー40は結合され、芯金10をその軸方向に回転させることによりロールカバー40も芯金10、ロール本体20と一体となって回転する。
【0020】
ところが、ロールカバー40のロール本体20に対する接着性を更に高めることが要求されてきており、本発明者は、上述した2層構造のロールカバー40を作成して各種の実験を繰り返し行い検討を重ねた結果、特定のヒドロキシル基あるいは酸無水物基を含む熱可塑性フッ素樹脂、即ち変性PFAは、特定の紫外線、即ち低圧水銀ランプから照射される紫外線を照射することにより接着性が大幅に向上することを見出した。
【0021】
このロールカバー40は、PFAでなる第1の層41と変性PFAでなる第2の層42とを有しており、第1の層41の外側から第2の層42に対して低圧水銀ランプにより紫外線が照射されている。この低圧水銀ランプは、波長が185nm及び254nmの紫外線を照射する。この紫外線は、第1の層41及び第2の層42の母材であるPFAを透過する際には母材に何ら影響を与えないことが確認されており、ロールカバー40を成形した後に第1の層41の外側から照射することで第2の層42の接着性を大幅に向上させることができる。
【0022】
また、ロールカバー40の径は、ロール本体20の大きさによって任意に調整することが可能である。また、ロールカバー40の厚さは、ロール100の種類やその使用態様によって任意に選択することが可能であるが、一般的には10μm〜300μmであり、より好ましくは20μm〜150μmである。特に、耐久性、耐摩耗性の観点より、第1の層41の厚さは、ロールカバー40の厚さの3分の1以上であることが好ましく、第2の層42の厚さは、ロール本体20との十分な接着強度を確保するために0.1μm以上であることが好ましい。
【0023】
次に、ロールカバー40の製造方法について説明する。ロールカバー40は、通常の押出成形機及び低圧水銀ランプを備えた紫外線照射装置により製造することができる。例えば、第1の層41の材料であるPFAと第2の層42の材料である変性PFAを各々の押出成形機から2層金型内に押出し、2層金型内で2層に分配する。2層に分配された被成形体をサイジングダイ等を用いて所望の寸法形状に賦形する。所望の寸法形状に賦形する方法としては、真空サイジング法、インサイドマンドレル法等の方法を用いることもできる。
【0024】
続いて、所望の寸法形状に賦形された被成形体を紫外線照射装置内に引き込み、低圧水銀ランプから被成形体に向けて紫外線を照射する。このとき、紫外線は第1の層41の外側から第1の層41及び第2の層42を透過し、第2の層42の内周面に達して該内周面を表面処理する。これにより、第2の層42の内周面のロール本体20の外周面に対する接着性を大幅に向上させることができる。このように、紫外線は、第2の層42の内側から照射する必要は無く、第1の層41の外側から照射すれば良いので、通常の紫外線照射装置を使用することができる。よって、ロールカバー40の押出成形から紫外線照射まで簡易な装置で連続処理できるため、ロールカバー40の製造効率を高めてコストを低減させることができる。なお、紫外線を第2の層42の内側から照射しても良いことはもちろんのことである。
【0025】
次に、上記製造方法により製造したロールカバー40の接着試験について説明する。ロールカバー40としては、第1の層41の素材にPFA(旭硝子社製フルオンP−802UP)、第2の層42の素材に変性PFA(ダイキン工業社製ネオフロンRAP)を選択し、2層押出成形機を用いて、外径29mm、第1の層41の厚さ25μm、第2の層42の厚さ5μmの2層構造(全厚30μm)よりなるロールカバー40と、外径29mm、第1の層41の厚さ45μm、第2の層42の厚さ5μmの2層構造(全厚50μm)よりなる被成形体を作成した。続いて、低圧水銀ランプと第1の層41の外周面との間を所定間隔あけて紫外線を所定時間照射してロールカバー40を作成した。
【0026】
このようにして作成したロールカバー40を115mm角に切り出し、第2の層42の表面(内周面)にシリコンゴムを塗布して第2の層42の表面(内周面)同士を張り合わせ、恒温槽内に140°Cで1時間放置した。そして、接着面を引き剥がしたときの、シリコンゴムとの接触面積に対してシリコンゴム層が凝集破壊を起こした面積の割合を目視で判断し、接着面積として数値化した。その結果、全厚30μmのロールカバー40では、110ワット(W)の低圧水銀ランプと第1の層41の外周面との間隔は10mm〜20mm、紫外線の照射時間は2秒〜10秒のときが98%〜100%の接着面積となり、全厚50μmのロールカバー40では、110ワット(W)の低圧水銀ランプと第1の層41の外周面との間隔は10mm、紫外線の照射時間は7秒〜13秒のときが90%以上の接着面積となった。このように、低圧水銀ランプにより紫外線を照射することによりロールカバー40の第2の層42の変性PFAの接着性を大幅に向上させることができることが確認された。
【0027】
以上のように、本実施形態のロールカバー40によれば、変性PFAでなる第2の層42に含まれるヒドロキシル基あるいは酸無水物基を低圧水銀ランプによる紫外線照射によって活性化させることができるため、ロール本体20との接着性を大幅に向上させることができる。また、第2の層42の内周面の表面処理を紫外線照射処理のみによって行えるため、作業工数の低減化及び設備の簡易化により低コストなロールカバー40とすることができる。そして、ロールカバー40の外層をなす第1の層41の外側から紫外線を照射すればよいので、ロールカバー40の成形処理から表面処理まで一貫して連続的に行うことが可能となり、ロールカバー40の更なる低コスト化を図ることができる。
【0028】
なお、本実施形態では、ロールカバー40は第1の層41と第2の層42とから構成される2層構造となっていたが、ロールカバー40は2層構造に限定されず、少なくとも第1の層と第2の層とを有する多層構造であれば、例えば、3層又は4層構造であってもよい。また、ロール100はロール本体20と芯金10とをそれぞれ有していたが、芯金10をロール本体20として利用するロール100の形態であって、芯金10がロール本体20として機能するような構成であってもよい。また、低圧水銀ランプと同様の波長の紫外線を照射するエキシマランプを用いても第2の層42の接着性を大幅に向上させることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明に係るロールカバーは、コピー機やプリンタ等の加熱、加圧定着部で使用される他、種々の分野で使用されるフッ素樹脂よりなるロールに適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の実施の形態に係るロールカバーを有するロールの一部を示す斜視図及びX−X線断面図である。
【符号の説明】
【0031】
10 芯金、20 ロール本体、30 接着剤層、40 ロールカバー、41 第1の層、42 第2の層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性フッ素樹脂により形成され、円筒状のロール本体を被覆する管状のロールカバーにおいて、
接着性官能基を含まない熱可塑性フッ素樹脂により形成された第1の層と、
接着性官能基を含む熱可塑性フッ素樹脂により前記第1の層の内周面に形成された第2の層とを有し、
前記第2の層の少なくとも内周面が、前記第1の層の外側から照射される紫外線により処理されていることを特徴とするロールカバー。
【請求項2】
前記紫外線は、低圧水銀ランプにより発生する紫外線であることを特徴とする請求項1に記載のロールカバー。
【請求項3】
前記接着性官能基を含まない熱可塑性フッ素樹脂は、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体であり、前記接着性官能基を含む熱可塑性フッ素樹脂は、ヒドロキシル基あるいは酸無水物基を含むテトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体であることを特徴とする請求項1又は2に記載のロールカバー。

【図1】
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【公開番号】特開2010−151927(P2010−151927A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−327515(P2008−327515)
【出願日】平成20年12月24日(2008.12.24)
【出願人】(000145530)株式会社潤工社 (71)
【Fターム(参考)】