説明

ロール

【課題】ロールから被洗浄面への異物の転写、及び付着、泡立ちによる排水処理の支障等の界面活性剤に起因する弊害が発生すること無く、効率的に被洗浄面に付着した液体の除去、搾取、洗浄、及び被洗浄面に液体を塗布すると共に、耐久性に優れたロールを、安価にて提供する。
【解決手段】ロール1はロール部2及び台座3を有し、前記ロール部2はロール片4が前記台座3の外周面に形成されてあり、前記ロール片4は繊維及び高分子弾性体を有する不織布にて形成されてあると共に、前記高分子弾性体はアイオノマー型樹脂を有するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼板、非鉄金属板、樹脂板、あるいはフィルム状からなる被洗浄面に付着した水分、油分、あるいは薬品成分等の液体の除去、搾取、洗浄、及び前記被洗浄面に水分、油分、あるいは薬品成分等の液体を塗布する為のロールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
鋼板、非鉄金属板、樹脂板、あるいはフィルム状からなる被洗浄面に付着した水分、油分、あるいは薬品成分等の液体の除去、搾取、洗浄、及び前記被洗浄面に水分、油分、あるいは薬品成分等の液体を塗布する為のロールに関しては、さまざまな改良がなされ、例えば、繊維、及びNBR(アクリロニトリルブタジエンラバー)、SBR(スチレンブタジエンラバー)、MBR(メタクリル酸メチルブタジエンラバー)等の高分子弾性体を有する不織布を、概円環状のロール片に形成し、複数の前記ロール片を台座に積層したロール部からなるロールが、一般的に知られている。
【0003】
ところで、前記NBR、SBR、MBR等の高分子弾性体は、不織布を製造する際において、繊維の表面に付着して複数本の繊維を結合させる為の結合剤として用いられているが、前記高分子弾性体は、界面活性剤を媒介して水に分散させた水中油型エマルジョンの水系高分子弾性体である。従って、不織布を構成する繊維には高分子弾性体と共に、必然的に界面活性剤も付着していることになる。
【0004】
上記の如くの不織布からなるロール片を、ロールに形成して洗浄工程で用いた場合、ロール部が、特に、水分、水系溶剤、あるいは水溶性の薬品成分等の水溶性液体と接触すると、ロール片に必然的に含まれている界面活性剤が水溶性液体に溶解し、ロール部の表面に溶出する。ロール部の表面に溶出した界面活性剤は、ロール部と被洗浄面が接触すると、被洗浄面に転写して付着し、揮発しないまま白化して被洗浄面に残り、製品不良を招くという課題があった。
【0005】
また、被洗浄面に付着しなかった界面活性剤は、前記水溶性液体と共に、洗浄機内部、排水溝、排水槽に流出する。しかしながら、水溶性液体には界面活性剤が溶解している為、洗浄機内部、排水溝、排水槽にて、水溶性液体は界面活性剤により泡立ち、排水処理に支障をきたすという課題も有していた。
【0006】
界面活性剤による上記の如くの課題を解決する為、不織布を製造する際に、例えば、石油系溶剤等にウレタン樹脂を溶解させた溶剤系高分子弾性体を、繊維を結合させる為の結合剤として採用し、前記不織布をロールに形成する方法もある。前記ロールは、不織布に界面活性剤が含まれていないので、上記の如くの界面活性剤による弊害は解消されるものの、不織布の製造工程において、溶剤系高分子弾性体から揮発した石油系溶剤の回収装置等の設備が必要となり、製造工程が複雑化することにより、不織布の生産コストが嵩む為、ロールのコストの上昇につながるという課題を有していた。
【0007】
上記課題を解決するために、不織布を製造する際に、繊維を結合させるのに高分子弾性体を用いず、熱圧着、ニードルパンチング、高圧水流等により繊維を絡合させて不織布を製造し、前記不織布で構成されたディスク状物を多数枚重畳させてなる不織布ロール(例えば、特許文献1)が考案されている。
【0008】
【特許文献1】特開2004−28162号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1の不織布ロールは、不織布に界面活性剤が含まれていないので、上記の如くの界面活性剤による弊害は解消される。また、1ラインで不織布を製造することができる為、不織布の製造コストも安価で、ロールの生産コストも抑えることができる。しかしながら、不織布ロールとして多数枚重畳されたディスク状物の不織布は、熱圧着、ニードルパンチング、高圧水流等により繊維を絡合させているのみなので、高分子弾性体からなる結合剤により繊維が強固に結合されていない。その為、鋼板、非鉄金属板等の被洗浄面が不織布ロールに繰り返し当接すると、不織布を構成する繊維の切れ、ほつれ、脱落等が発生し、不織布ロールは早期に摩耗するので、耐久性に劣るという課題があった。
【0010】
また、不織布は高分子弾性体を有していないので、不織布ロールの弾力性は極めて弱く、効率的に被洗浄面に付着した水分、油分、あるいは薬品成分等の液体を除去、搾取、洗浄することができないという課題も有していた。
【0011】
即ち、ロールの液体除去機能は、ロールに一定の圧力がかかりながら回転することにより、液体を被洗浄面の両端部から流し去るダム機能と、ロールが回転しながら圧力により圧縮される圧縮ゾーンにおいて、不織布層からなるロール部の空隙部に吸収された液体を、被洗浄面に一旦放出し、次いでロールが圧力による圧縮から開放される開放ゾーンにおいて、不織布を形成する繊維の毛細管現象により被洗浄面の液体がロール部に吸い上げられ、ロール部の空隙部に放出される吸排機能とから構成されている。前記ダム機能は、不織布層を有するロールだけでなく、ゴムロール等にも発現する機能であるが、前記吸排機能は、高分子弾性体を有する不織布層からなるロール特有の現象であり、不織布の有する高分子弾性体が弾性変形する為、ロール部の空隙率が前記圧縮ゾーンで0%となり、前記開放ゾーンで元の空隙率に復元することにより発現する。しかし、前記従来技術においては、不織布は高分子弾性体を有していないので、前記圧縮ゾーンでロール部の空隙率は0%になるが、前記開放ゾーンで元の空隙率に復元することができず、ロールは塑性変形するものの、弾性変形することはできない。その為、空隙率が減少したロール部の空隙部には、前記開放ゾーンにおいて繊維により吸い上げられた液体の全量を放出することができず、ロール部の空隙部に放出されなかった液体は、被洗浄面上に放出されることになり、効率的に液体を除去することができないのである。
【0012】
本発明は、上記従来の課題を解決するもので、ロールから被洗浄面への異物の転写、及び付着、泡立ちによる排水処理の支障等の界面活性剤に起因する弊害が発生すること無く、効率的に被洗浄面に付着した液体の除去、搾取、洗浄、及び被洗浄面に液体を塗布すると共に、耐久性に優れたロールを、安価にて提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記従来の課題を解決する為に、請求項1の発明のロールは、鋼板、非鉄金属板、樹脂板、あるいはフィルム状からなる被洗浄面に付着した水分、油分、あるいは薬品成分等の液体の除去、搾取、洗浄、及び前記被洗浄面に水分、油分、あるいは薬品成分等の液体を塗布する為のロールにおいて、前記ロールはロール部及び台座を有し、前記ロール部はロール片が前記台座の外周面に形成されてあり、前記ロール片は繊維及び高分子弾性体を有する不織布にて形成されてあると共に、前記高分子弾性体はアイオノマー型樹脂を有するもので、アイオノマー型樹脂は界面活性剤を含んでいない水系高分子弾性体である。その為、ロールは、特に、水溶性液体と接触した場合においても、ロール部から界面活性剤の如くの異物が溶出することが無いので、被洗浄面に異物が転写して付着することが無く、排水処理に支障をきたすことも無い。
【0014】
アイオノマー型樹脂は、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ウレタン樹脂、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、アクリル樹脂等の疎水性の樹脂の主鎖、あるいは側鎖に、金属酸化物、水酸化物、炭酸塩、酢酸塩等をイオン源とするイオン基が付加された水系高分子弾性体である。イオン基が親水性を有する為、アイオノマー型樹脂は界面活性剤を用いること無く、水にコロイド状に分散させることができるのである。水に分散されたアイオノマー型樹脂の粒径は約0.01〜0.2μ程度である。
【0015】
なお、アイオノマー型樹脂は、エチレン、プロピレン等のα−オレフィンと、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸等の不飽和カルボン酸を共重合して、重合体側鎖のカルボキシル基を、ナトリウム、亜鉛、カリウム等の金属カチオンで中和、架橋したイオン橋架け結合を有するアイオノマー樹脂とは異なる。
【0016】
また、本発明のロールに用いられる不織布は1ラインで製造することができるので、安価であり、ロールの生産コストが抑えられる。
【0017】
また、ロール片を構成する不織布は、繊維を結合する為の結合剤として、アイオノマー型樹脂を有する高分子弾性体が用いられており、繊維の表面には高分子弾性体が付着して、繊維を強固に結合している。その為、ロール部に被洗浄面が繰り返し当接しても、繊維の切れ、ほつれ、脱落等が発生し難いので、ロールは優れた耐久性を有する。
【0018】
さらに、不織布は、高分子弾性体を有している為、ロールは弾力性を発現することができる。その為、ロールはダム機能、及び吸排機能が発揮されるので、効率的に被洗浄面に付着した液体の除去、搾取、洗浄、及び被洗浄面に液体を塗布することが可能である。
【0019】
アイオノマー型樹脂を有する高分子弾性体は、不織布を製造する際には、繊維を強固に結合させる為の結合剤として作用し、不織布がロール片としてロールに形成された場合においては、ロールに弾力性と耐久性を付与する作用を担っている。
【0020】
請求項2の発明のロールは、特に、請求項1の発明のロールにおいて、前記アイオノマー型樹脂がウレタン樹脂であるもので、ウレタン樹脂は優れた弾力性、耐摩耗性、接着性を有する。その為、不織布を構成する繊維はアイオノマー型ウレタン樹脂により、一段と強固に結合されるので、ロールの弾力性、及び耐久性が大幅に向上する。
【0021】
ウレタン樹脂は、ウレタン結合(−NH−CO−O−)を有する樹脂の総称であり、ポリイソシアネート(OCN−R−NCO)とポリオール(HO−R−OH)との反応生成物である。ウレタン樹脂は下記化学式にて示すことができる。
【0022】
【化1】

【0023】
ウレタン樹脂は、ポリオール成分に起因する凝集力の弱いソフトセグメントと、ウレタン結合に起因する凝集力の強いハードセグメントとの直鎖型構造を有している。従って、ウレタン樹脂は、分子構造に起因して、ソフトセグメントにより優れた弾力性、形状復元力を有し、ハードセグメントにより優れた基材への接着性、耐摩耗性を有しているのである。
【0024】
がエーテル結合(−O−)の場合は、ポリエーテル系ウレタン樹脂と呼ばれ、特に、優れた弾力性、耐薬品性を得ることができる。Rは炭化水素結合等である。
【0025】
がエステル結合(−COO−)の場合は、ポリエステル系ウレタン樹脂と呼ばれ、特に、優れた耐摩耗性を得ることができる。
【0026】
がカーボネート結合(−O−(C=O)−O−)の場合は、ポリカーボネート系ウレタン樹脂と呼ばれ、特に、優れた耐薬品性、耐衝撃性を得ることができる。
【発明の効果】
【0027】
請求項1の発明のロールは、繊維、及びアイオノマー型樹脂からなる高分子弾性体を有して形成されてある不織布を、ロール片に採用し、ロール部が構成されてあるので、ロールは、特に、水溶性液体と接触した場合においても、ロール部から界面活性剤の如くの異物が溶出することが無い。その為、被洗浄面に異物が転写して付着することが無く、排水処理に支障をきたすことも無いので、鋼板、非鉄金属板等の生産性が向上する。
【0028】
また、ロールは高分子弾性体を有する不織布にて形成されてあるので、弾性変形し、ダム機能、及び吸排機能が発現することから、効率的に被洗浄面に付着した液体の除去、搾取、洗浄、及び被洗浄面に液体を塗布することができると共に、ロール部の摩耗による繊維の切れ、ほつれ、脱落等が発生し難く、優れた耐久性も具備することができる。
【0029】
さらに、ロールを構成する不織布は、1ラインで製造することができるので、安価である。その為、ロールの生産コストを抑え、ロールを提供することができる。
【0030】
請求項2の発明のロールは、優れた弾力性、耐摩耗性、接着性を有するアイオノマー型ウレタン樹脂が、不織布を構成する高分子弾性体に採用されているので、ロールの弾力性、及び耐久性が大幅に向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。なお、この実施の形態により本発明が限定されるものではない。
【0032】
(実施例1)
図1は、本発明のロールを鋼板、非鉄金属板表面の水分、あるいは油分除去用として使用した形態の正面図、図2(a)は、ロール片を前面側から見た斜視図、図2(b)は、不織布を構成する弾性繊維を前面側から見た斜視図である。
【0033】
図1において、ロール1は、台座3、止め金具5、プレート6、及び複数のロール片4から形成されてあるロール部2より構成されてある。台座3は、鉄等の金属材料からなる略円柱形状、あるいは略円筒形状であり、外周面にロール部2が形成されてある。また、ロール部2は、複数のロール片4が重ね合わされて形成されてあり、両側から止め金具5、及びプレート6にて挟み付けられて装着されてある。止め金具5には、スナップリングが使用されてある。なお、ロール部2は、ロール1に使用する総数のロール片4より形成されてある。
【0034】
図2(a)において、ロール片4は、概円環状の平板形状に形成された不織布7であり、中心部には穴部11が形成され、外周部には端部12が形成されてある。また、不織布7を形成する弾性繊維10は、図2(b)の如く、概丸形断面を有する繊維8の外面に高分子弾性体9が付着して形成されてある。
【0035】
次に、ロール1の製作方法について説明する。最初に、平板形状の不織布7を、トムソン型、あるいはレーザーカッター等を用いて、概円環状のロール片4に形成する。次いで、概円環状に形成されたロール片4を複数重ね合わせて、穴部11を台座3にたいして貫通させる。そして、台座3の長手方向からプレス機にて所定長さだけ圧縮させた後、止め金具5、及びプレート6にて挟み付けて固定する。次に、所定時間放置することにより、重ね合わせた複数のロール片4の内部応力を均一化させ、端部12を切削加工及び研磨加工し、台座3の外周面上にロール部2を形成して、ロール1が製作される。
【0036】
ロール部2の硬度は、30°から95°にて設定されるのが望ましい。硬度が30°未満の場合には、液体を吸い上げる繊維8の量が少なく、効率よく確実に液体を除去することが難しく、硬度が95°を超える場合には、ロール部2が硬すぎ、ロール1に弾力性を付与することが難しくなる。なお、硬度は、JISK6253加硫ゴム及び熱可塑性ゴムの硬さ試験方法に記載のデュロメータ硬さ試験により測定した硬度である。
【0037】
次に、ロール片4を構成する不織布7の製造方法について説明する。
【0038】
最初に、複数本の繊維8を、平板状に集積させて布状体となるウエッブを形成し、ニードルパンチングにより3次元に繊維8を絡合する。次に、水系の高分子弾性体9をスプレー、浸漬、含浸等の方法を用いて繊維8の表面に付着させ、加熱することにより水系の高分子弾性体9が分散していた水を揮発させると共に、繊維8が高分子弾性体9により強固に結合した弾性繊維10を形成し、1ラインにて平板状の不織布7を製造する。前記の製造方法は、一般的にケミカルボンド法と呼ばれている。
【0039】
なお、不織布7を構成する繊維8には、綿、レーヨン、セルロース等の天然繊維、ポリエステル、ナイロン、アクリル等の合成樹脂繊維が単独使用、あるいは併用される。
【0040】
繊維8の断面形状は、概丸形以外にも四角形、三角形、菱形、楕円形、十字形、卍形等の異形断面を有していても構わない。また、中実繊維、中空繊維であってもよいし、短繊維、あるいは長繊維のいずれであってもよい。一般的に、短繊維とは糸長が50mm以下の繊維8のことであり、長繊維とは糸長が50mmを超える繊維8のことである。さらに、繊維8の繊度についても、特に限定されるものではない。
【0041】
また、高分子弾性体9には、アイオノマー型ウレタン樹脂が使用されている。アイオノマー型ウレタン樹脂は、ウレタン樹脂の分子の主鎖、あるいは側鎖に、金属酸化物、水酸化物、炭酸塩、酢酸塩等をイオン源とするイオン基が付加された水系の高分子弾性体9である。イオン基が親水性を有する為、アイオノマー型樹脂は界面活性剤を用いること無く、水にコロイド状に分散させることができる。
【0042】
ウレタン樹脂は、ウレタン結合(−NH−CO−O−)を有する樹脂の総称であり、優れた弾力性、耐摩耗性、接着性を有している。
【0043】
繊維8と、高分子弾性体9の重量配合比率は、95:5から30:70にて形成される。高分子弾性体9の重量比が5%未満の場合、ロール1は弾力性が発現しにくく、効果的なダム機能、及び吸排機能を発揮することができない。また、繊維8の重量比が30%未満の場合、鋼板、非鉄金属板の水分、あるいは油分等の液体を吸い上げる繊維8の量が少ないので、液体を完全に除去することができず、鋼板、非鉄金属板に液体が残ることになる。なお、より効果的にダム機能、及び吸排機能をロール1に発現させ、鋼板、非鉄金属板に付着している液体の量や粘度等に対応して、効率よく確実に液体を除去するには、繊維8と、高分子弾性体9の重量配合比率を、80:20から55:45にて設定し、繊維8の比率を、高分子弾性体9の比率より高く設定することが好ましい。
【0044】
また、高分子弾性体9に、架橋剤を配合して用いてもよい。架橋剤は、高分子弾性体9の分子間に橋架け構造を形成し、一段と優れた弾力性、及び耐水性を高分子弾性体9に付与する目的で配合されるものであり、トリメチロールメラミン、ヘキサメチロールメラミン等のメラミン樹脂、ブロックイソシアネート等のイソシアネート樹脂、脂肪族エポキシ等のエポキシ樹脂が単独使用、あるいは併用される。前記架橋剤は、高分子弾性体9の100重量部にたいして、0.5〜5重量部配合されるのが好ましい。0.5重量部未満の場合には、高分子弾性体9の分子間全てに渡り、橋架け構造が形成されず、分子間に未架橋部分が生成され、高分子弾性体9に一段と優れた弾力性を付与することができない。5重量部より多い場合には、高分子弾性体9が硬くなり、却って弾力性が劣ることになる。また、架橋剤に、有機アミン塩、複合金属塩等の架橋助剤を、架橋剤の使用量の10〜50%添加して用いてもよい。架橋助剤は、高分子弾性体9の分子間に橋架け構造が形成されるのを促進する目的で添加されるものである。前記架橋剤、及び架橋助剤は、ホルマリン等の水溶性溶剤に溶解させた形態を採用し、水系の高分子弾性体9に、予め所望の重量を配合して使用する。そして、不織布7の製造工程において、加熱されることにより、高分子弾性体9の分子間に橋架け構造が形成される。さらに、前記架橋剤を用いずに、高分子弾性体9を加熱することにより、高分子間反応を起こし、高分子弾性体9を自己架橋させて、橋架け構造を形成する方法を用いることもできる。
【0045】
なお、不織布7の製造方法は、前記ケミカルボンド法以外にも、熱溶融した合成樹脂を連続的に紡糸して繊維8を形成し、繊維8を延伸しながら捕集ネット上に集積して熱ロールで加圧することにより繊維8を結合して不織布7を形成するスパンボンド法、熱溶融した合成樹脂を紡糸口から吐出する際、高温エアーで紡出し、捕集ネット上で加熱された繊維8を結合させて不織布7を形成するメルトブロー法、塩化メチレン、フロン等の低沸点溶剤中に合成樹脂を溶解し、紡糸口から加熱、加圧状態で繊維8を紡糸すると同時に、前記低沸点溶剤を揮発させ、繊維8を捕集ネット上に集積し、熱ロールで加圧して繊維8を結合して不織布7を形成するフラッシュ紡糸法、繊維8に高圧水流をあてることで繊維8を結合させて不織布7を形成する水流絡合法、融点の異なる複数の合成樹脂を溶融して融点の高い方の合成樹脂を紡糸して繊維8を形成し、溶融された融点の低い方の合成樹脂をバインダーとして繊維8を接着させて不織布7を形成するファイバーボンド法やサーマルボンド法等により得られた不織布7にたいして、アイオノマー型樹脂よりなる高分子弾性体9をスプレー、浸漬、含浸等の方法を用いて繊維8の表面に付着させても何ら支障は無い。
【0046】
次に、本発明のロールの水分除去性能、油分除去性能、及び摩耗性能について、下記要領にて試験した。なお、水分除去性能、油分除去性能については、被洗浄面への異物の付着についても、ロールを通過した後の被洗浄面を24時間、室温にて自然乾燥させて目視観察した。本発明のロールに使用した不織布の組成を実施例1、比較例として、比較例1から比較例2に使用した不織布の組成を、それぞれ表1に示す。また、水分除去性能、油分除去性能、及び摩耗性能の試験結果を、それぞれ表2に示す。
【0047】
【表1】

【0048】
(水分除去性能)
外径が120mm、内径が50mm、全長が190mmのロール部を有するロールを、それぞれ2本ずつ作成し、洗浄機に上下一対で前記ロールを設置した。ロール部の硬度は90°にて設定した。次に、幅150mm×長さ300mm×厚み2mmのアルミ板の上面に、市水を毎分6リットルにて散布し、周速を毎分100mにて回転させた前記ロールにたいして、線圧8.3kgf/cmの圧力を加えて押し付け、上下のロールの間にアルミ板を通過させた。
【0049】
そして、コーラーインスツールメント社製のフィルムゲージを用いて、アルミ板の上面の水膜厚みを測定して、下記基準により判断した。
○・・・水膜厚みが1.0μ以下であった
△・・・水膜厚みが1.0μを超え2.0μ以下であった
×・・・水膜厚みが2.0μを超えていた
【0050】
また、ロールの間を通過したアルミ板の24時間後の表面を目視観察し、アルミ板への異物の付着を、下記基準により判断した。
○・・・アルミ板に異物が付着していなかった
×・・・アルミ板に異物が付着していた
【0051】
(油分除去性能)
水分除去性能に用いたのと同様の寸法、表面硬度のロールを、それぞれ2本ずつ作成し、洗浄機に上下一対で前記ロールを設置した。なお、ロール部の表面を研磨加工する際に、クレノートン製の研削液クレカットET50Xをロール部に散布しながら研磨した。前記研削液は、pHが10.5のエタノールアミン系の弱アルカリ性水溶液で、ロール部は必然的に水分を含んでいることになる。次に、幅150mm×長さ300mm×厚み2mmのアルミ板の上面に、出光興産製の洗浄油IPソルベント1620を、毎分6リットルにて散布し、周速を毎分100mにて回転させた前記ロールにたいして、線圧8.3kgf/cmの圧力を加えて押し付け、上下のロールの間にアルミ板を通過させた。なお、判断基準については、上記水分除去機能と同様の判断基準を適用した。水膜厚みは、油膜厚みとして測定した。
【0052】
(摩耗性能)
外径が120mm、内径が50mm、全長が190mmのロール部を有するロールを、2本ずつ作成した。ロール部の表面硬度は90°にて設定した。その後、前記ロールの1本の表面に、#36の研磨紙を巻き付け固定後、2本のロールを、線圧8.3kgf/cm、周速を毎分100mにて、30分間互いに押し付けて回転させた。
【0053】
そして、#36の研磨紙が巻き付け固定されていないロールにおけるロール部の摩耗量を測定して、下記基準により判断した。
○・・・摩耗量が0.03kg以下であった
△・・・摩耗量が0.03kgを超え0.06kg以下であった
×・・・摩耗量が0.06kgを超えていた
【0054】
【表2】

【0055】
上記試験結果より、実施例1のロールは、繊維、及びアイオノマー型ウレタン樹脂からなる高分子弾性体を有する不織布を、ロール片として使用し、ロール部が形成されてあるので、ロールは高い弾力性を有し、ダム機能、及び吸排機能を発揮することができる為、水分除去性能は水膜厚みが0.6μ、油分除去性能は油膜厚みが0.8μと良好であった。また、アイオノマー型ウレタン樹脂は、界面活性剤を含まない水系の高分子弾性体である為、アルミ板への異物の付着は無かった。さらに、ロール部は耐摩耗性に優れたアイオノマー型ウレタン樹脂を有する不織布にて形成されているので、摩耗量は0.03kgであり、摩耗性能も良好な結果が得られた。
【0056】
比較例1のロールは、繊維、及び乳化型NBRからなる高分子弾性体を有する不織布を、ロール片として使用し、ロール部が形成されてあるので、ロールは弾力性を有し、ダム機能、及び吸排機能を発揮するものの、NBRはウレタン樹脂に比べて弾力性は劣る為、水分除去性能は水膜厚みが1.2μ、油分除去性能は油膜厚みが1.8μとやや劣る結果であった。また、乳化型NBRは、界面活性剤を媒介とした水系の高分子弾性体である為、水分除去においては、ロール部から溶出した界面活性剤がアルミ板に付着し、油分除去においては、ロール部から溶出した界面活性剤を含んだ水が洗浄油と反応して乳化物が生成され、アルミ板に付着した。また、不織布は高分子弾性体であるNBRにより繊維が結合されているものの、NBRはウレタン樹脂に比べて、耐摩耗性は劣る為、摩耗量は0.05kgであり、摩耗性能はやや劣る結果となった。
【0057】
比較例2のロールは、高分子弾性体を用いず、繊維のみで形成された不織布を、ロール片として使用し、ロール部が形成されてあるので、ロールは弾力性が極めて弱く、ダム機能は発揮されるものの、吸排機能を十分に発揮することができず、水分除去性能は水膜厚みが2.4μ、油分除去性能は油膜厚みが3.0μと劣る結果であった。しかし、ロール部は繊維のみにて形成された不織布からなる為、アルミ板への異物の付着は無かった。また、不織布を構成する繊維は、高圧水流により絡合されているのみなので、不織布を構成する繊維の脱落等が見受けられ、摩耗量は0.10kgであり、摩耗性能については劣るものであった。
【0058】
上記の如く、構成されたロール1の動作、作用は下記の通りである。
【0059】
ロール1は、ロール部2、及び台座3を有し、ロール部2は複数のロール片4が台座3の外周面に形成されてあり、ロール片4は繊維8、及び高分子弾性体9を有する不織布7にて形成されてあると共に、高分子弾性体9はアイオノマー型ウレタン樹脂からなるもので、アイオノマー型ウレタン樹脂は界面活性剤を含んでいない水系の高分子弾性体9である。その為、ロール1は、特に、水溶性液体と接触した場合においても、ロール部2から界面活性剤の如くの異物が溶出することが無いので、鋼板、非鉄金属板に異物が転写して付着することが無く、排水処理に支障をきたすことも無い。
【0060】
また、不織布7は、ケミカルボンド法により、1ラインで製造することができるので、安価である。その為、ロール1の生産コストを抑えることができる。
【0061】
また、ロール片4を構成する不織布7は、繊維8を結合する為の結合剤として、アイオノマー型ウレタン樹脂からなる高分子弾性体9が用いられており、繊維8の表面には高分子弾性体9が付着して、弾性繊維10を形成すると共に、繊維8を強固に結合している。その為、ロール部2に鋼板、非鉄金属板が繰り返し当接しても、繊維8の切れ、ほつれ、脱落等が発生し難いので、ロール1は非常に優れた耐久性を有する。
【0062】
さらに、不織布7は、アイオノマー型ウレタン樹脂からなる高分子弾性体9を有して、繊維8の表面に付着して弾性繊維10を形成している為、ロール1は優れた弾力性を発現することができる。その為、ロール1はダム機能、及び吸排機能を発揮することができ、効率的に鋼板、非鉄金属板に付着した水分、油分等の液体を除去することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明のロールは、主に、鋼板、非鉄金属板、樹脂板、あるいはフィルム状からなる被洗浄面に付着した水分、油分、あるいは薬品成分等の液体を除去、搾取、洗浄するリンガーロール、ワイパーロール、前記被洗浄面に水分、油分、あるいは薬品成分等の液体を塗布するコーティングロール、オイリングロール、アプリケーターロール、プリントロール、プレッシャーロール以外にも、前記被洗浄面を各種装置に引き込むピンチロール、前記被洗浄面にバックテンションを与えるブライドルロール、前記被洗浄面に張力を与える補助をするスナバーロール、前記被洗浄面の方向転換を行うデフレクターロール、前記被洗浄面を各種装置に案内するガイドロール、コイルを支えるコイルホイストロール等の高い耐久性を必要とするロールとして、広く好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明のロールを鋼板、非鉄金属板表面の水分、あるいは油分除去用として使用した形態の正面図
【図2】(a)ロール片を前面側から見た斜視図、(b)不織布を構成する弾性繊維を前面側から見た斜視図
【符号の説明】
【0065】
1 ロール
2 ロール部
3 台座
4 ロール片
5 止め金具
6 プレート
7 不織布
8 繊維
9 高分子弾性体
10 弾性繊維
11 穴部
12 端部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板、非鉄金属板、樹脂板、あるいはフィルム状からなる被洗浄面に付着した水分、油分、あるいは薬品成分等の液体の除去、搾取、洗浄、及び前記被洗浄面に水分、油分、あるいは薬品成分等の液体を塗布する為のロールにおいて、前記ロールはロール部及び台座を有し、前記ロール部はロール片が前記台座の外周面に形成されてあり、前記ロール片は繊維及び高分子弾性体を有する不織布にて形成されてあると共に、前記高分子弾性体はアイオノマー型樹脂を有することを特徴とするロール。
【請求項2】
請求項1記載の構成よりなるロールにおいて、前記アイオノマー型樹脂がウレタン樹脂であることを特徴とするロール。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−241002(P2008−241002A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−86207(P2007−86207)
【出願日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【出願人】(391044797)株式会社コーワ (283)
【Fターム(参考)】