説明

ワイパブレード

【課題】粘弾性特性を確保しつつ、環境に与える負荷を低減させるワイパブレードを提供する。
【解決手段】ワイパブレードに有するブレードラバーは、ゴム材として天然ゴムとエポキシ化された天然ゴムとを使用し、補強材としてシリカ等の鉱物系補強材を使用する。これにより、天然由来の成分のみで高い粘弾性特性を有するものを得ることができる。好ましくは、エポキシ化率50%のエポキシ化された天然ゴムの天然ゴムとの合計に対する配合量を23重量%以上とすることで、先に述べた天然ゴムと石油由来のゴムとの組み合わせより優れた粘弾性特性を得ることができる。また、表面改質を電子線等の照射により行うことで、さらに高いレベルでの環境負荷低減を実現できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はガラス面上を払拭するワイパブレードに関し、特にワイパブレードに設けられるブレードラバーに適用して有効な技術である。
【背景技術】
【0002】
乗用車、バス、トラック等の車両では、フロントウインドガラス、リアウインドガラス等のウインドガラスに付着した雨、雪、虫、前方を走行する車両により跳ね上げられた泥水等の付着物を払拭して運転者の視界を確保するためにワイパブレードが用いられる。
【0003】
このワイパブレードに設けられるブレードラバーは、かつてはゴム材として天然ゴム(NR)のみを用いることが一般的であった。例えば特許文献1では、NRを用いたブレードラバーがフロントガラスに貼り付くことを防ぐ目的で、リップ部にハロゲン処理等をしたブレードラバーのリップ部のカット面に極性のない塗料を塗布することが提案されている。
【0004】
しかし、粘弾性特性によるブレードラバー騒音低減や耐劣化性の向上の要求により、NRとクロロプレンゴム(CR)やブタジエンゴム(BR)とのブレンドが行われるようになってきた。そして、現在では、特許文献1の提案のような天然ゴムのみを用いたブレードラバーに代わって、上述のCR等とブレンドしたものが一般的になっている。また、ブレードラバーでは、カーボンブラックがゴムの補強性に非常に優れており、ゴム補強材として圧倒的な実績があるため、これにより必要とされるゴム強度を得ている。
【0005】
ここで、天然ゴムやブレンドゴムを用いた際には、表面改質のために塩素処理等が行われることが多かったため、これを防ぐ目的でシリコーン系ゴム製ワイパブレードも使用されている。例えば特許文献2では、シロキサン皮膜の形成を防ぐ等の目的で、ガラス面と接触する端縁部分の0.5mm以上の範囲が、シリコーン系生ゴムおよび充填材からなるシリコーン系ゴム組成物100重量部に対して界面活性剤を0.5〜20重量部配合した混合物からなるワイパブレードが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−136616号公報
【特許文献2】特開平11−139259号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、近年では、地球温暖化防止のためのCO排出削減、化石燃料の枯渇問題などにより脱石油資源の要求が急速に高まっている。ブレードラバー材料においても例外でなく、脱石油資源と天然由来材料への転換が求められている。
【0008】
しかしながら、CRやBRは石油由来である。また、耐久性向上を狙ってエチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)が使用され始めているが、これについても同様である。さらに、ゴム補強材として使われているカーボンブラックも石油由来である。先にも述べたように、世界の動向がCO排出削減、脱石油資源の方向に進んでいる中で、ブレードラバー材として石油由来材料を多量に用いるのは好ましくない。特に、CRは石油由来であるのみならず、多量のハロゲン(塩素)を含有している。近年の環境への負荷を配慮すると、多量のハロゲンを用いることは一層好ましくない。
【0009】
ここで、特許文献2の提案のように、シリコーンゴムを用いた場合には、既に述べたように、天然ゴムを用いた場合にはない弊害が生じ、これを防ぐには新たな添加剤が必要となってしまう。また、シリコーンゴムも合成ゴムであるため、合成のためにコストがかかることは避けられず、環境負荷を十分に低減させることはできない。
【0010】
そこで、ブレードラバーを構成する材料において、ゴムポリマー、補強材を天然由来として、高いレベルでの環境負荷低減を図ることが望まれていた。
【0011】
本発明の目的は、粘弾性特性を確保しつつ、環境に与える負荷を低減させるワイパブレードを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明のワイパブレードは、ガラス面上を払拭するワイパブレードであって、天然ゴムと、エポキシ化された天然ゴムと、鉱物系補強材とを含むブレードラバーを有することを特徴とする。
【0013】
本発明のワイパブレードは、前記エポキシ化された天然ゴムは、前記天然ゴムとの合計に対する配合量が23重量%以上であることを特徴とする。
【0014】
本発明のワイパブレードは、前記エポキシ化された天然ゴムは、エポキシ化率が50%であることを特徴とする。
【0015】
本発明のワイパブレードは、前記鉱物系補強材はシリカであることを特徴とする。
【0016】
本発明のワイパブレードは、前記ブレードラバーに照射処理がされることを特徴とする。
【0017】
なお、本発明において単に「天然ゴム」という場合には、エポキシ化されていない天然ゴムを意味するものとする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、ワイパブレードが有するブレードラバーは、天然ゴムと、エポキシ化された天然ゴムと、鉱物系補強材とを含むので、天然由来の成分のみで高い粘弾性特性を有するものを得ることができる。これにより、粘弾性特性を確保しつつ、環境に与える負荷を低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施の形態であるワイパブレードを示す斜視図である。
【図2】図1のA−A線に沿う断面図である。
【図3】(a)、(b)はそれぞれ図1に示す保持部の詳細を示す説明図である。
【図4】(a)〜(d)は、ブレードラバーの製造方法の手順を概略的に示す概略手順図である。
【図5】(a)、(b)は、それぞれ照射処理の反応形態を示す説明図である。
【図6】(a)は図2のリップ部のみにモノマーが結合された状態を示す拡大図であり、(b)は図2のブレードラバー全体にモノマーが結合された状態を示す拡大図である。
【図7】天然ゴムに対するエポキシ化天然ゴムの配合量とtanδとの相関を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態を詳細に説明する。図1は本発明の一実施の形態であるワイパブレードを示す斜視図であり、図2は図1のA−A線に沿う断面図であり、図3(a)、(b)はそれぞれ図1に示す保持部の詳細を示す説明図である。
【0021】
図1に示すように、ワイパブレード11は車両12のワイパアーム13の先端に取り付けられ、図示しないワイパモータの駆動によりワイパアーム13が揺動すると、ワイパアーム13とともに揺動して車両12のフロントウインドガラス14(以下、ウインドガラス14とする。)を払拭する。
【0022】
このワイパブレード11は、ウインドガラス14の面上に直接接触するブレードラバー15とブレードラバー15を保持するラバーホルダ16とを有し、ラバーホルダ16の長手方向の両側には一対のカバー17が設けられている。
【0023】
図2に示すように、ブレードラバー15は、断面矩形のヘッド部21とリップ部22およびネック部23とを備えた長手方向に略一様断面の棒状に形成されており、リップ部22にてウインドガラス14の面上に接触するようになっている。ネック部23はヘッド部21やリップ部22に対して払拭方向の幅が狭く形成されており、これによりリップ部22はヘッド部21に対して払拭方向に傾動自在に結合されている。
【0024】
ヘッド部21とネック部23との間にはそれぞれ払拭方向の両側面に開口するとともに長手方向に延びる保持溝24が形成され、また、ヘッド部21の両側面にはそれぞれ装着溝21aが長手方向に延びて形成されている。そして、これらの装着溝21aにはそれぞれ板ばね部材25が装着されている。
【0025】
板ばね部材25は鋼板等の板材を打ち抜き加工することによりブレードラバー15と同程度の長さ寸法の平板状に形成され、ウインドガラス14に垂直な方向に弾性変形自在となっている。つまり、板ばね部材25が装着されたブレードラバー15は板ばね部材25と一体的にウインドガラス14に垂直な方向つまりその湾曲度合いを変化させる方向に弾性変形自在となっている。また、板ばね部材25は自然状態では、その弾性変形自在な方向に向けてウインドガラス14の曲率より強く湾曲しており、これにより、板ばね部材25が装着されたブレードラバー15もウインドガラス14から離れた状態ではウインドガラス14よりも強く湾曲している。
【0026】
なお、図示する場合では、板ばね部材25は鋼板により形成されているが、これに限らず、例えば硬質の樹脂等により形成するなど、ウインドガラス14に垂直な方向に弾性変形自在なものであればよい。
【0027】
ラバーホルダ16は、樹脂材料により長手方向に延びる天壁部16aと天壁部16aの両側部からウインドガラス14に向けて延びる一対の側壁部16bとを備えた断面コの字形状に形成され、その長さはブレードラバー15のほぼ半分程度に形成されている。ブレードラバー15はその中間部分がラバーホルダ16の内部に配置されてラバーホルダ16により覆われており、リップ部22のみが外部に露出する状態となっている。また、図1に示すように、一方の側壁部16bの長手方向のほぼ中間部には取付部26が固定されており、ラバーホルダ16はこの取付部26においてワイパアーム13の先端に取り付けられている。さらに、天壁部16aにはフィン27が一体に形成されており、このフィン27によりワイパブレード11の空力特性を向上させるようになっている。
【0028】
図1に示すように、ラバーホルダ16の長手方向の一端(ワイパブレード11をワイパアーム13に取り付けたときにワイパアーム13の揺動中心に近い側となる側)には保持部31が設けられている。図3(a)に示すように、保持部31は一対の保持爪32(図中は一方側のみを示すが他方側も同様の保持爪が設けられる。)を備えている。これらの保持爪32は、ブレードラバー15の長手方向に直交し且つ払拭方向に平行な方向に向けて側壁部16bから突出する断面矩形の突起状に形成され、それぞれ保持溝24に係合してブレードラバー15を保持している。また、ブレードラバー15には各保持爪32を長手方向から挟む一対のストッパ部33a,33bが設けられており、これらのストッパ部33a,33bにより保持爪32はブレードラバー15に対して保持溝24に沿う方向への移動が規制されている。つまり、ブレードラバー15は保持部31においては長手方向への位置決めが成された状態でラバーホルダ16に保持されている。
【0029】
同様に、ラバーホルダ16の長手方向の他端には保持部34が設けられており、図3(b)に示すように、この保持部34は、それぞれ断面矩形に形成される一対の保持爪35(図中は一方側のみを示すが他方側も同様の保持爪が設けられる。)を備え、これらの保持爪35は保持溝24に係合し、これによりブレードラバー15を保持している。また、保持爪35が係合する部分ではブレードラバー15にはストッパ部は設けられておらず、保持爪35は保持溝24に沿って移動自在となっている。つまり、ブレードラバー15は保持部34においてはラバーホルダ16に対して軸方向に移動自在に保持されている。
【0030】
このように、このワイパブレード11では、ラバーホルダ16の長手方向の両端に一対の保持部31,34を設け、これらの保持部31,34の2点においてブレードラバー15を保持するようにしている。したがって、ワイパアーム13からの押え力が取付部26を介してラバーホルダ16に加えられると、その押え力はラバーホルダ16の両端の2点、つまり各保持部31,34からブレードラバー15に加えられ、これによりブレードラバー15は弾力的にウインドガラス14に接触する。
【0031】
次に、ブレードラバーの製造方法について説明する。図4(a)〜(d)は、本発明のブレードラバーの製造方法の手順を概略的に示す概略手順図である。図4(a)〜(d)に示すように、上述のブレードラバー15は、このブレードラバーを成形する工程、ブレードラバーに照射処理によりラジカル活性点を生成する工程、ラジカル活性点を起点としてグラフト重合によりモノマーを結合させる工程およびブレードラバーのリップ部を長手方向に切断する工程を経て製造される。
【0032】
図4(a)に示す工程でブレードラバーを成形するために用いるゴム材としては、石油系の材料を避けて環境に与える負荷を低減させる観点から、天然ゴムと、エポキシ化された天然ゴムとを用いる。なお、天然ゴムは、ポリイソプロプレンが主成分である。
【0033】
エポキシ化された天然ゴムのエポキシ化率は、例えば50%が好ましい。天然ゴムおよびエポキシ化された天然ゴムは、双方が含まれていればよいが、優れた騒音低減効果と耐劣化性を得るためには、エポキシ化された天然ゴムの配合量を、天然ゴムとの合計に対して23重量%以上100重量%未満とすることが好ましい。さらには、30重量%以上80重量%以下とすることがより好ましく、40重量%以上80重量%以下とすることが特に好ましい。なお、天然ゴムのみであると騒音低減効果および耐劣化性に劣る。また、エポキシ化された天然ゴムのみの場合には、天然ゴムとブレンドした場合に比して粘弾性特性が低下する傾向が観られる。
【0034】
ゴム材の補強材としては、ゴム材同様の理由で石油系の補強材を避け、鉱物系の補強材を用いる。鉱物系の補強材としては、例えば、シリカ、アルミナ、その他の無機補強材等の公知の補強材と適宜選択して使用することができるが、粘弾性特性等を確保しやすいことから、シリカが好ましい。補強材の配合量は、通常ゴム材に対して20〜60重量%であり、30〜40重量%が好ましい。
【0035】
また、ゴム材は、補強材の他、加硫剤(架橋剤)、加硫促進助剤、加硫促進剤、軟化剤、老化防止剤、充填剤、シランカップリング剤等の通常知られた添加剤を配合してプレス成形等の従来公知の方法によりブレートラバーに成形することができる。
【0036】
図4(b)に示す工程で成形したブレードラバーにラジカル活性点を生成するための照射処理としては、例えば、電子線照射処理、紫外線照射処理、プラズマ照射処理、放射線(α線、β線、γ線、X線)照射処理、レーザ線照射処理、イオンビーム照射処理、コロナ放電照射処理等の活性化を誘引する線源による照射処理が挙げられる。これらの中でも、処理効率が高い等の観点から、電子線照射処理が特に好ましい。このような照射処理を施すことにより、ブレードラバーにラジカル活性点が生成され、図4(c)に示す工程でラジカル活性点が起点となってグラフト重合反応が進行する。
【0037】
図5(a)、(b)は、それぞれ照射処理の反応形態を示す説明図である。なお、図5(a)、(b)では、ブレードラバーが切断される前、つまり一対のブレードラバーのリップ部が向き合うように成形されたブレードラバーのリップ部のみを図示している。図5(a)、(b)に示すように、生成するラジカル活性点を起点としてグラフト重合反応を促進させる照射処理としては2つの手法が挙げられる。
【0038】
図5(a)に示す処理は、ゴムに電子線等を照射してラジカル活性点を生成した後、ブレードラバー表面にモノマーを付着させる工程を経て、グラフト重合により反応物質(モノマー)を結合させる、つまり予め照射処理をしてラジカル活性点を生成する前照射処理である。前照射処理では、照射処理およびグラフト重合反応いずれも窒素雰囲気中で行うことが好ましい。前照射処理の吸収線量は脱酸素状態で50〜500kGyが好ましい。
【0039】
図5(b)に示す処理は、ラジカル活性点の生成とグラフト重合とを同時に行う同時照射処理である。同時照射処理では、例えばグラフト重合に用いる反応物質を塗布や浸漬等によりブレードラバーの表面に付着させた状態で、上述のラジカル活性点を生成するための電子線等による照射を行っている。同時照射処理の吸収線量は10〜200kGyが好ましい。なお、本発明では、前照射処理および同時照射処理のいずれの処理によってもブレードラバーを製造することができる。
【0040】
グラフト重合は、通常知られた方法により行うことができ、グラフト重合に用いる重合性モノマーとしては、疎水性材料および親水性材料のいずれを用いてもよい。疎水性材料としては、分子中にビニル基(CH=CH−)、イソプロペニル基(CH=C(CH)−)およびアリル基(CH=CHCH−)の少なくともいずれかを有する重合性モノマーであって、分子末端に炭化水素、有機ケイ素または炭化フッ素の疎水性構造を有するか、グラフト重合後に2次反応によって疎水性を付与できる官能基を有する化合物が挙げられる。
【0041】
このような疎水性材料としては、例えば、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ビニル、スチレン、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ドデシル、アクリル酸エチル、アクリル酸ビニル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸ドデシル、メタクリル酸トリメチルシリル、メタクリル酸トリメトキシシリルプロピル、3−(メタクリロイルオキシ)プロピルトリス(トリメチルシロキシ)シラン、アクリル酸トリメチルシリル、アクリル酸トリメトキシシリルプロピル、3−(アクリロイルオキシ)プロピルトリス(トリメチルシロキシ)シラン、メタクリル酸1H,1H,3H−テトラフルオロプロピル、メタクリル酸2,2,2−トリフルオロエチル、メタクリル酸2−(パーフルオロブチル)エチル、アクリル酸1H,1H,3H−テトラフルオロプロピル、アクリル酸2,2,2−トリフルオロエチル、メタアクリル酸2−(パーフルオロブチル)エチル、これらの誘導体などが挙げられる。これらの疎水性モノマーは、1種単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0042】
親水性材料としては、例えば、ヒドロキシエチルメタアクリレート(2−Hydroxyethyl methacrylate:HEMA)、ヒドロキシエチルアクリレート(2−Hydroxyethyl acrylate:HEA)、グリシジルメタアクリレート(Glycidyl methacrylate:GMA)、アクリルアミド、メタクリル酸、アクリル酸、これらの金属塩などが挙げられる。これらの親水性モノマーは、1種単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0043】
以上説明したブレードラバーはリップ部が互いに向き合うようにして形成された一対のブレードラバー成形体(ブレードラバー中間体)として製造される。そして、一対のブレードラバー成形体は、図4(d)に示す工程でリップ部において長手方向に切断されることによりブレードラバーが形成される。
【0044】
図6(a)は図2のリップ部のみにモノマーが結合された状態を示す拡大図であり、図6(b)は図2のブレードラバー全体にモノマーが結合された状態を示す拡大図である。なお、図6(a)、(b)ではモノマーが結合している部分を斜線で表している。一対のラバー成形体はグラフト重合されたモノマーが付着した状態で切断されるため、図6(a)、(b)に示すように、ブレードラバーの切断面36にはモノマーが付着していない。通常ブレードラバー15は、リップ部22の両側面37a、37bと切断面36との境界となるエッジ部分でウインドガラスを払拭するため、モノマーが結合している両側面37a、37bによりウインドガラスを払拭することができ、モノマーが付着していない切断面36でウインドガラスを払拭することがない。また、ブレードラバー成形体のヘッド部などのウインドガラスに接触しない部分には、上述した電子線等のラジカル活性点を生成するための照射およびグラフト重合処理を行わなくてよい。したがって、電子線等を照射しない部分は予めマスキングを行い、図6(a)、(b)に示す例のようにブレードラバー成形体のリップ部22などの必要な部分のみに電子線等の照射を行ってもよい。
【0045】
このように、本発明のワイパブレードは、ゴム材および補強材として、天然由来の成分を使用したので、COの排出削減や脱石油化に寄与し、環境負荷の低減を図ることができる。
【0046】
また、ゴム材としてエポキシ化された天然ゴムを天然ゴムと併せて使用したことにより、天然ゴムとクロロプレンゴム等の通常の石油由来のゴムとの組み合わせの場合と同等の粘弾性特性を確保できる。特に、エポキシ化された天然ゴムの配合量を、天然ゴムとの合計に対して23重量%以上とすることで、先に述べた天然ゴムと石油由来のゴムとの組み合わせより優れた粘弾性特性を得ることができる。同様に、補強材としてシリカを使用することで、優れた粘弾性特性等を確保できる。
【0047】
さらに、表面改質を、一般的に行われている塩素処理に代わって、電子線等の照射により行うこととしたので、塩素処理と同等の摩擦特性を確保しつつ、ハロゲンフリー化および処理の高効率化による、さらに高いレベルでの環境負荷低減を実現できる。
【0048】
以上、本発明者によってなされた発明を、実施の形態及び実施例に基づき具体的に説明したが、本発明は実施の形態および実施例に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。
【0049】
例えば、本実施の形態においては、ブレードラバー15はリップ部22が互いに向き合うようにして形成された一対のブレードラバー成形体として製造され、リップ部22において長手方向に切断されることによりブレードラバー15が形成されるが、これに限らず、当初から別々にブレードラバー15を成形して、切断工程を省略してもよい。
【0050】
また、本実施の形態においては、ワイパブレード11は車両12のフロントウインドガラス14を払拭するものとされているが、これに限らず、車両12のリアウインドガラスなどを払拭するものであってもよい。
【0051】
さらに、本実施の形態においては、板ばね部材25はブレードラバー15の装着溝21aに装着されているが、これに限らず、板ばね部材25を接着等によりブレードラバー15に直接固定する構造としてもよい。
【0052】
さらに、本発明は、タンデム式、対向払拭式等、様々な形式のワイパ装置に用いられるワイパブレードに適用することができる。
【実施例】
【0053】
以下、実施例によって、本発明をさらに説明する。なお、本発明は、これらの実施例によって限定されない。
(参考例1)
表1に示すように、天然ゴム(NR)100重量部に、以下の添加剤を配合した。
すなわち、加硫剤として硫黄(鶴見化学工業社製)2.25重量部、酸化亜鉛(堺化学工業社製)5重量部、ステアリン酸(花王社製)2重量部、加硫促進剤としてN−tert−ブチルベンゾチアジル−2−スルフェンアミド(TBBS、三新化学社製)0.7重量部、および補強材としてシリカ(東ソー・シリカ社製)35重量部である。
【0054】
これをプレス成形して一対のブレードラバー成形体を成形し、このブレードラバー成形体をHEMA濃度50重量%の水溶液に浸漬させ、25℃温度下で電子線10kGyの図5(b)に示した同時照射処理を行った(電子線照射によるラジカル活性点の生成とHEMAのグラフト重合とを同時に行った)。
【0055】
得られたブレードラバー成形体について、動的粘弾性測定装置を用いて、100Hz、500Hzおよび1024Hzのそれぞれの周波数における、貯蔵剪段弾性率(G’)と損失剪段弾性率(G’’)との比G’’/G’、つまり損失正接(損失係数)tanδを測定した。
【0056】
tanδは、材料が変形する際にどの程度エネルギーを吸収するか(熱に変えるか)を示している。この値が大きい程エネルギーを吸収し、衝撃緩衝試験では反発弾性率が小さくなり、加振試験では共振倍率が低くなる。また、周波数は、100Hzおよび500Hzがワイパブレードの反転音、1024Hzがスキール音の周波数に相当する。つまり、ブレードラバーにおいては、tanδの値が大きいほど、騒音低減効果と耐劣化性に優れることになる。結果を、表2および図7のグラフに示す。
【0057】
(実施例1)
表1に示すように、参考例1において、ゴム材としてNR80重量部と、エポキシ化された天然ゴム(ENR、三洋貿易社製epoxyprene50、エポキシ化率50%)20重量部とを配合した以外は同様にして、ブレードラバー成形体を成形し、tanδを測定した。結果を表2および図7のグラフに示す。なお、ENRのエポキシ化率はカタログより抜粋したものである。
【0058】
(実施例2)
表1に示すように、実施例1において、NR60重量部と、ENR40重量部とを配合した以外は同様にして、ブレードラバー成形体を成形し、tanδを測定した。結果を表2および図7のグラフに示す。
【0059】
(実施例3)
表1に示すように、実施例1において、NR40重量部と、ENR60重量部とを配合した以外は同様にして、ブレードラバー成形体を成形し、tanδを測定した。結果を表2および図7のグラフに示す。
【0060】
(実施例4)
表1に示すように、実施例1において、NR20重量部と、ENR80重量部とを配合した以外は同様にして、ブレードラバー成形体を成形し、tanδを測定した。結果を表2および図7のグラフに示す。
【0061】
(参考例2)
表1に示すように、参考例1において、ゴム材としてNRに代えてENR100重量部を配合した以外は同様にして、ブレードラバー成形体を成形し、tanδを測定した。結果を表2および図7のグラフに示す。
【0062】
(比較例1)
ゴム材としてNRとクロロプレンゴム(CR)とをブレンドしたNWB製のブレードラバーにおいてtanδを測定した。結果を表2および図7のグラフに示す。なお、図7中の破線部分が本例のtanδに対応している。
【0063】
【表1】

【0064】
【表2】

【0065】
表2および図7の結果から、実施例1〜4のNRとENRとをブレンドしたブレードラバーは、100Hz、500Hzおよび1024Hzのいずれの周波数においても、tanδの値が0.35を超えていた。つまり、粘弾性特性を確保して良好な騒音低減効果および耐劣化性を有しながら、環境負荷の低減を図れることがわかった。
【0066】
参考例1のように、ゴム材としてNRのみしか使用しない場合には、いずれの周波数においてもtanδの値が低く、製品性能は低下してしまうことがわかった。一方、参考例2のように、ゴム材としてENRのみを使用した場合には、tanδの値が最も高い実施例4からは低下する傾向が観られた。このため、高い粘弾性特性を付与するにはNRとENRとをブレンドすることが好ましいことがわかった。
【0067】
また、NRとENRとをブレンドする限りでは、ENRのブレンド量を増加させるに伴い、tanδは上昇する傾向にあった。比較例1のNRとCRをブレンドしたブレードラバーのtanδと比較すると、エポキシ化率50%のENRの配合量をNRとの合計に対して23重量%以上とすることで、比較例1のtanδを常に上回り、騒音低減効果と耐劣化性を向上させられることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明は、ガラス面上を払拭するワイパブレードに設けられるブレードラバーに利用することができる。
【符号の説明】
【0069】
11 ワイパブレード
12 車両
13 ワイパアーム
14 フロントウインドガラス
15 ブレードラバー
16 ラバーホルダ
16a 天壁部
16b 側壁部
17 カバー
21 ヘッド部
21a 装着溝
22 リップ部
23 ネック部
24 保持溝
25 板ばね部材
26 取付部
27 フィン
31 保持部
32 保持爪
33a,33b ストッパ部
34 保持部
35 保持爪
36 切断面
37a 両側面
37b 両側面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス面上を払拭するワイパブレードであって、天然ゴムと、エポキシ化された天然ゴムと、鉱物系補強材とを含むブレードラバーを有することを特徴とするワイパブレード。
【請求項2】
請求項1に記載のワイパブレードにおいて、前記エポキシ化された天然ゴムは、前記天然ゴムとの合計に対する配合量が23重量%以上であることを特徴とするワイパブレード。
【請求項3】
請求項1または2に記載のワイパブレードにおいて、前記エポキシ化された天然ゴムは、エポキシ化率が50%であることを特徴とするワイパブレード。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のワイパブレードにおいて、前記鉱物系補強材はシリカであることを特徴とするワイパブレード。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のワイパブレードにおいて、前記ブレードラバーに照射処理がされることを特徴とするワイパブレード。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−20619(P2011−20619A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−168907(P2009−168907)
【出願日】平成21年7月17日(2009.7.17)
【出願人】(000144027)株式会社ミツバ (2,083)
【Fターム(参考)】