説明

ワイピングクロス

【課題】例えば、自動車用の内装材、特に表面に細かな凹凸を備えた皮や皮シボ調の内装材、布地などに対しても十分な拭き取り性能を備え、しかも表面を傷付けることのないワイピングクロスを提供する。
【解決手段】立毛を備えた布帛から成るワイピングクロスにおいて、上記立毛が直径5〜18μmの繊維と共に、直径23〜50μmの繊維を含み、望ましくは断面に複数のフィンを備えた異形断面繊維を含むようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、立毛を有し、拭取り性能に優れた布帛から成るワイピングクロスに係わり、例えば、自動車や建物などの内装や、ソファや椅子などの家具に使用されている皮革、皮シボ調の材料、あるいは布地に付着した汚れを拭取るのに好適に用いられるワイピングクロスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
立毛を有する布帛として、例えば特許文献1には、複数のポリエステルカットパイル繊維からなるカットパイル層を備えた立毛布帛において、上記ポリエステルカットパイル繊維に、3箇所以上の凹部を有する異型断面繊維や十字断面繊維、扁平断面繊維を含ませることが記載されている。
【特許文献1】特開2006−316370号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記特許文献1に記載された立毛布帛は、カーシート用、家庭やオフィス、展示場などの内装用、あるいは衣料用のものであって、立毛表面が見る角度によって黒ずんで見えるという問題点の解消を目的とするものである。
したがって、ワイピングクロスとしての用途は必ずしも考慮されておらず、自動車用内装材、特に表面に細かな凹凸を備えた内装材用のワイピングクロスとして、所望の拭き取り性能を発現させることは困難である。
【0004】
本発明は、従来の立毛布帛をワイピングクロスとして用いた場合における上記課題に着目してなされたものであって、その目的とするところは、例えば自動車用の内装材、特に表面に細かな凹凸を備えた皮や皮シボ調の内装材、布地等に対しても十分な拭き取り性能を備えたワイピングクロスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記目的を達成すべく、鋭意検討を重ねた結果、内装材の凹凸形状を考慮して、立毛の繊維径を調整することによって、上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0006】
すなわち、本発明は上記知見に基づくものであって、本発明のワイピングクロスは、立毛を備えた布帛から成るものであって、上記立毛が直径5〜18μmの繊維と直径23〜50μmの繊維を含んでいることを特徴としている。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、立毛布帛における立毛繊維径を5〜18μmのものと23〜50μmのものとの2種類を含むものとしたため、表面に細かな凹凸を有する皮や皮シボ調の内装材、布地等に対しても十分な拭き取り性能を発揮することになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明のワイピングクロスについて、詳細かつ具体的に説明する。
【0009】
本発明のワイピングクロスは、上記したように、立毛布帛から成り、当該立毛が直径5〜18μmの繊維と直径23〜50μmの繊維を含むものであって、例えば自動車の内装材、特に皮や皮シボ調の内装材、布地等に好適に用いることができる。なお、必ずしも自動車用のみならず、航空機や船舶、一般家屋を始めとする各種建造物における天井や壁などの内装材、椅子やシート、応接セットなどの表装材にも広く適用することができる。
【0010】
図1は、皮シボ調の自動車用内装材の表面形状を示すものであって、このような自動車用内装材には、表面に微細な凹凸があり、図1から明らかなように、凸部間距離は15〜20μmである。加えて、汚れは自動車内装材の凹部と凸部に関係なく、均一に付着する。 そこで、凹部に付着した汚れを掻き取るためには、立毛に凸部間距離と太さを合わせた直径5〜18μmの繊維を用いることが効果的である。
【0011】
一方、凸部に付着した汚れを掻き取るためには、太く剛性が高い直径23〜50μmの繊維を用いることが効果的である。
立毛に直径50μmよりも太い繊維を用いると、相手材を傷付けることがあるため、立毛に直径5〜18μmと直径23〜50μmの少なくとも2種類の繊維を用いることによって、皮あるいは皮シボ調の自動車用内装材に付着した汚れを十分に拭取ることが可能となる。
【0012】
本発明のワイピングクロスである立毛布帛は、例えば、繊維糸条から成り編織組織を有する地組織部と、少なくとも1層の立毛層とから成るものとすることができる。このような立毛層は、地組織部に編み込まれ、又は織り込まれ、地組織部からその少なくとも1面側に伸び出ており、上記したように、立毛は直径5〜18μmと直径23〜50μmである少なくとも2種類の繊維から成る。
なお、立毛を有する布帛は、平面状のものに限定される訳ではなく、織物、編物等の平面的材料を立体的に加工してもよい。また、立毛は通常無処理であるが、より強固、より多くの汚れ捕集、継続的な捕集効果が要求される場合には、油性の吸着剤としてのオイルや界面活性剤を付与することもできる。
【0013】
上記繊維糸条としては、ポリアミド、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリビニル系の合成繊維が用いられるが、これらのうちポリエステル繊維を好適に用いることができる。 これは、ポリエステル繊維は、弾性率が高いために布帛の掻き取り性能が優れることによる。なお、上記ポリエステル繊維を形成するポリエステル樹脂としては、ジカルボン酸成分とジグリコール成分とから製造される通常のポリエステルでよい。
【0014】
ジカルボン酸成分としては、主としてテレフタル酸を用いることが好ましく、ジグリコール成分としては主としてエチレングリコール、トリメチレングリコール及びテトラメチレングリコールから選ばれた少なくとも1種のアルキレングリコールを用いることが好ましい。
【0015】
ポリエステル樹脂には、上記のジカルボン酸成分やグリコール成分の他に、第3成分を含んでいてもよい。このような第3成分としては、カチオン染料可染性アニオン成分、例えば、ナトリウムスルホイソフタル酸、テレフタル酸以外のジカルボン酸、例えばイソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、及びアルキレングリコール以外のグリコール化合物、例えばジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ビスフェノールA、ビスフェノールスルフォンの1種以上を用いることができる。
また、必要に応じて、上記した艶消し剤以外に、微細孔形成剤(有機スルホン酸金属塩)、着色防止剤、熱安定剤、難燃剤(三酸化二アンチモン)、蛍光増白剤、着色顔料、帯電防止剤(スルホン酸金属塩)、吸湿剤(ポリオキシアルキレングリコール)、抗菌剤、その他の無機粒子の1種以上を含有させてもよい。
【0016】
本発明のワイピングクロスにおいては、上記立毛を構成する繊維の中に、単純な円形断面ではなく、複数のフィンを備えた異形断面を備えた繊維が含まれていることが好ましい。
このように立毛に複数のフィンを有する異形断面の繊維が含まれることによって、掻き取った汚れが立毛に保持され易くなり、ワイピングクロスとしての繰り返し使用性が向上することになる。なお、本発明において、このような異形断面を有する繊維の径とは、最大直径と最小直径の算術平均値を意味することとする。
【0017】
このような異形断面形状の繊維として、具体的には十字断面繊維、Y字断面繊維、星形断面繊維などが例示されるが、良好な掻き取り性能を得る観点から、十字断面繊維(4つのフィンを備えた断面形状)であることが特に好ましい。
また、繊維の断面形状(扁平比)としては、図2に示すように最大直径C1の最小直径C2に対する比(C1/C2)が1.5〜3.5の範囲、さらには2.0〜2.5の範囲内であることが好ましい。
【0018】
すなわち、立毛に用いられる異形断面繊維の扁平比(C1/C2)が1.5よりも小さければ、曲げ剛性は向上するものの、フィンに掻き取った汚れを保持することができず、ワイピングクロスとしての繰り返し使用性が低くなることがある。
一方、上記扁平比(C1/C2)が3.5よりも大きくなると、掻き取った汚れの保持性は向上するが、曲げ剛性が低くなって、掻き取り性能が劣化する傾向があるため、上記断面形状比については1.5〜3.5の範囲とすることが好ましい。
【0019】
また、立毛繊維中における異形断面繊維ではない丸断面繊維と異形断面繊維の構成比については、デニールで表された丸断面繊維と異形断面繊維との繊度比として、100:0〜50:50の範囲であることが望ましい。
すなわち、丸断面繊維と断面に複数のフィンを有する異形断面繊維との繊度比が、前者:後者で50:50よりも異形断面繊維の割合が大きくなると、掻き取った汚れの保持性は向上するものの、曲げ剛性が低くなり、掻き取り性能が劣化して、好ましくなくなることがあることによる。
【0020】
そして、本発明のワイピングクロスにおける立毛密度については、1500〜3500μm/cmの範囲内とすることが好ましい。
立毛密度が1500μm/cmよりも小さくなると、立毛が皮あるいは皮シボ調の自動車用内装材に付着した汚れに到達する機会が少なくなって、汚れの掻き取り性能が低くなることがある。また、立毛密度が3500μm/cmよりも大きくなると、立毛の空隙が小さくなり、これによって上記のような自動車用内装材の表面にある凹凸に立毛が追従しなくなって、汚れの掻き取り性能が低くなる傾向がある。
【0021】
なお、立毛密度は、例えば、光学顕微鏡により打ち込み数を測定し次式に基づいて算出することができる。
【0022】
【数1】

【実施例】
【0023】
以下、本発明を実施例に基づいて、さらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0024】
〔ワイピングクロスの作製〕
(実施例1)
丸断面を有するポリエステル繊維(3.5dtex×48本、単糸径:18μm)と、同じく丸断面のポリエステル繊維(5.6dtex×30本、単糸径:23μm)をパイル糸及び地糸に用いて、二重パイル織機にて製織し、2枚の織物間の経糸(パイル糸)をナイフで切断して2枚のパイル織物を得た。そして、ブラッシングによりパイルの立毛繊維の方向を揃えた後、パイルの長さを刈り揃え、モケット織物を得、当該布帛を本例のワイピングクロスとした。
当該ワイピングクロスの緒元を表1に示す。なお、立毛密度は、立毛の打ち込み数を光学顕微鏡を用いて測定し、次式に基づいて算出した。
【0025】
【数1】

【0026】
(実施例2)
実施例1に用いた2種の丸断面ポリエステル繊維に加えて、4つのフィンを備えた異形断面(十字断面繊維)を有するポリエステル繊維(2.8dtex×24本、単糸径:16μm)を用いたこと以外は、上記実施例と同様の操作を繰り返し、本例のワイピングクロスを得た。
当該ワイピングクロスの緒元を表1に併せて示す。
【0027】
(比較例1)
丸断面を有するポリエステル繊維(27.0dtex×6本、単糸径:50μm)のみを用いたこと以外は、上記実施例と同様の操作を繰り返し、本比較例のワイピングクロスとした。
当該ワイピングクロスの緒元を表1に併せて示す。
【0028】
(比較例2)
4つのフィンを備えた十字断面を備えたポリエステル繊維(2.8dtex×96本、単糸径:16μm)丸断面を有するポリエステル繊維(27.0dtex×6本、単糸径:16μm)のみを用いたこと以外は、上記実施例と同様の操作を繰り返し、本比較例のワイピングクロスとした。
当該ワイピングクロスの緒元を表1に併せて示す。
【0029】
【表1】

【0030】
〔性能評価〕
(1)相手材に対する攻撃性
上記により得られた各ワイピングクロスを相手材に対して摺動させ、相手材の光沢値を測定することによって、相手材に対する攻撃性を評価した。
【0031】
すなわち、相手材として本皮(ホクヨー株式会社製エリオII)を使用し、摺動試験機を用いて330g/cmの圧力で5200回の摺動を行い、摺動試験後、ミノルタ社製Uni−Gloss60を用いて光沢値を測定した。
この結果を表2に示す。なお、表中において、摺動試験前後の光沢値の差が0〜1のものを「○」、5以上のものを「×」と表記した。
【0032】
【表2】

【0033】
表2における比較例1の結果から、立毛に直径50μmよりも太い繊維を用いると、相手材を傷付けることが判明した。
【0034】
(2)汚れ拭き取り性能
上記本皮(ホクヨー株式会社製エリオII)に汚れを付着させた後、各ワイピングクロスを摺動させて拭き取る操作を5回繰り返し、拭き取り前との色差を測定することによって、汚れ拭き取り性能を評価した。
【0035】
すなわち、上記本皮に、人工的な汚れとして、オレイン酸と試験用粉体(JIS Z8901に規定される12種)と、顔料用カーボンブラックの混合物を塗布した後、摺動試験機を用いて330g/cmの拭き取り荷重で1回当たり30回の往復摺動させた。
摺動後、SDG社製測色計(エックスライトsp64)を用いて、色調を測定し、拭き取り試験前後の色差が0〜1のものを「○」、2〜4のものを「△」、5以上のものを「×」と評価した。この結果を表3に示す。
【0036】
【表3】

【0037】
表3の結果から判るように、丸断面繊維のみから成る立毛を備えた実施例1に対して、異形断面繊維が含まれる実施例2のワイピングクロスの拭き取り性能が若干向上しており、異形断面繊維を混合することの有効性が確認された。
これに対して、繊維径が細い異形断面繊維のみから成る比較例2によるワイピングクロスにおいては、立毛の剛性が不足する結果、拭取り性能が低下することが確認された。
【0038】
以上のように、直径5〜18μmの細径繊維と直径23〜50μmの太径繊維とを含む立毛を備えた本発明のワイピングクロスにおいては、例えば、皮あるいは皮シボ調、布地等の自動車用内装に対して、その表面を傷付けることなく、拭き取り性能を向上させることができる。したがって、このようなワイピングクロスを用いることによって、自動車の内装材の初期品質を長期に亘って保持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明のワイピングクロスを適用するのに好適な皮シボ調の自動車用内装材の表面凹凸形状を示すグラフである。
【図2】本発明に用いる異形断面繊維の断面形状を模式的に示す説明図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
立毛を備えた布帛から成り、上記立毛が直径5〜18μmの繊維と直径23〜50μmの繊維を含んでいることを特徴とするワイピングクロス。
【請求項2】
上記立毛を構成する繊維に、複数のフィンを有する異形断面繊維が含まれていることを特徴とする請求項1に記載のワイピングクロス。
【請求項3】
上記異形断面繊維の扁平比(最大直径/最小直径)が1.5〜3.5であることを特徴とする請求項2に記載のワイピングクロス。
【請求項4】
デニールで表された丸断面繊維と異形断面繊維との繊度比が100:0〜50:50の範囲内であることを特徴とする請求項2又は3に記載のワイピングクロス。
【請求項5】
内装材に用いることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つの項に記載のワイピングクロス。
【請求項6】
自動車の内装材に用いることを特徴とする請求項5に記載のワイピングクロス。
【請求項7】
家具に用いることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つの項に記載のワイピングクロス。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−29579(P2010−29579A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−197355(P2008−197355)
【出願日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】