説明

ワイピングフィルム及びその製造方法

【課題】被処理面にスクラッチや異物を発生させずに異物を除去することのできる機能を持ち、且つ安定したクリーニング特性を有するワイピングフィルム及びその製造方法を提供する。
【解決手段】基材1と、基材1上に配置された凹凸を有する下地層2と、凹凸を有する下地層2上に配置されたコーティング層3とコーティング層3内に分散する研磨粒子4とを含む表面層5とを備えるワイピングフィルムである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はワイピングフィルム及びその製造方法に関し、特に、磁気ディスク等の磁気記録媒体表面のクリーニング処理やバニッシュ処理等の仕上げ処理に好適なワイピングフィルム及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ハードディスク装置(HDD)は、パソコンの記録装置にとどまらず、テレビの録画装置や車載ナビゲータ、サーバー等のあらゆる機器の大容量ストレージとして使用されてきている。今後も増え続けているデジタル情報に対応するためにも、HDDの大容量化は不可欠となっている。
【0003】
HDDの大容量化により磁気ディスクの記録密度はますます高まり、磁気記録面上と磁気ヘッドの間隔も狭くなり、磁気ディスクの表面には高い平坦度が求められている。HDDは動作中において磁気ヘッドがディスク面上を数10nm程度浮上しながら記録および再生を行う。このため、ハードディスク表面に異物があると、その異物と磁気ヘッドが衝突してヘッドクラッシュを起こす場合がある。
【0004】
磁気ディスクの製造工程では、磁気ディスク表面に付着した突起物を除去するために、研磨テープを用いて磁気ディスク表面を平坦化するバニッシュ工程が設けられている。バニッシュ工程は、通常、ポリエステル製のベースフィルム上に粒子(アルミナ粒子等)を使用した研磨層からなる研磨テープが使用されるが、研磨テープの使用により磁気ディスク表面に研磨屑や研磨テープから脱粒した微小な粒子が残る場合がある。
【0005】
磁気ディスク表面上の微小な異物を除去するフィルムとして、例えば特開2002−224966号公報(特許文献1)では、磁気ディスク表面クリーニング処理用のワイピングフィルムが記載されている。このワイピングフィルムは、柔軟なフィルム状の基材上に結合剤とプラスチック製微粒子が混在した形で構成されている。特開2010−69609号公報(特許文献2)では、多孔質球状粒子を結合剤内に分散させたクリーニング材が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−224966号公報
【特許文献2】特開2010−69609号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載された発明では、異物除去のためのワイピング層の表面粗さが0.01〜5μm程度と小さいため、5μm以上の大きい異物を除去することが難しい。また、ワイピング層の表面粗さが小さいため、被処理物表面との接触面積が大きくなり、クリーニング始動時のトルクが比較的大きくなる。これにより、被処理物表面に結合剤が付着して被処理物を汚染させ、クリーニング特性が不安定になる場合がある。
【0008】
また、特許文献2に記載された発明のように、大きい異物を除去する際に異物がクリーニングフィルムのチップポケット(凹部)捕獲するように構成した場合でも、チップポケットが浅いために、異物がワイピングフィルム表面よりも突き出した状態となる恐れがある。この状態でクリーニングし続ける事により、異物が磁気ディスクの表面を擦ってしまい、スクラッチの発生原因となる恐れがある。
【0009】
上記課題を鑑み、本発明は、被処理面にスクラッチや異物を発生させずに異物を除去することのできる機能を持ち、且つ安定したクリーニング特性を有するワイピングフィルム及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明者は鋭意検討の結果、凹凸を有する下地層と、凹凸を有する下地層上に配置されたコーティング層及びコーティング層内に分散する研磨粒子を含む表面層とを備えるワイピングフィルムを見出した。このワイピングフィルムの下地層により大きな異物を捕捉除去させ、表面層により小さな異物を捕捉除去させることで、被処理面にスクラッチや異物を発生させずに異物を有効に除去することのできる機能を持ち、且つ安定したクリーニング特性を得ることができる。
【0011】
上記知見を基礎として完成した本発明は一側面において、基材と、基材上に配置された凹凸を有する下地層と、凹凸を有する下地層上に配置されたコーティング層及びコーティング層内に分散する研磨粒子を含む表面層とを備えるワイピングフィルムが提供される。
【0012】
本発明に係るワイピングフィルムの一実施態様では、凹凸を有する下地層が、2種以上の樹脂の相分離により形成された樹脂層であることを含む。
【0013】
本発明に係るワイピングフィルムの別の一実施態様では、凹凸を有する下地層が、基材上に配置された海部と海部から島状に突出する複数の島部とを備え、島部が第1の樹脂から少なくとも形成され、海部が第1の樹脂と相分離する第2の樹脂から少なくとも形成されることを含む。
【0014】
本発明に係るワイピングフィルムの更に別の一実施態様では、下地層の表面に対する島部表面の面積率が、20〜80%である。
【0015】
本発明に係るワイピングフィルムの更に別の一実施態様では、表面層の表面粗さが、0.1〜10.0μmである。
【0016】
本発明に係るワイピングフィルムの更に別の一実施態様では、下地層の表面粗さが、2.0〜20.0μmである。
【0017】
本発明は別の一側面において、第1の樹脂と、第1の樹脂と溶剤の蒸発過程で相分離する第2の樹脂を溶剤中で混合した下地塗料を作製する工程と、下地塗料を基材上に塗布して乾燥させ、第1の樹脂と第2の樹脂との相分離により海島構造の凹凸を有する下地層を形成させる工程と、研磨粒子を分散させたコーティング塗料を凹凸を有する下地層上に塗布して乾燥させて、凹凸を有する下地層上に表面層を形成させる工程とを含むワイピングフィルムの製造方法が提供される。
【0018】
本発明は更に別の一側面において、第1の樹脂と、第1の樹脂と相分離する第2の樹脂と、第1の樹脂と第2の樹脂の両方と相溶性を有する第3の樹脂とを溶剤中で混合した下地塗料を作製する工程と、下地塗料を基材上に塗布して乾燥させ、第1の樹脂と第2の樹脂との相分離により海島構造の凹凸を有する下地層を形成させる工程と、研磨剤粒子を分散させたコーティング塗料を凹凸を有する下地層上に塗布して乾燥させ、凹凸を有する下地層上に表面層を形成させる工程とを含むワイピングフィルムの製造方法が提供される。
【0019】
本発明に係るワイピングフィルムの製造方法の一実施態様では、溶剤として、沸点の異なる2種以上の溶剤を用いることを含む。
【0020】
本発明に係るワイピングフィルムの製造方法の別の一実施態様では、下地塗料を作製する工程が、下地層の表面粗さが2.0〜20.0μmとなるように、第1の樹脂と第2の樹脂の混合比を調製することを更に含む。
【0021】
本発明に係るワイピングフィルムの製造方法の更に別の一実施態様では、表面層の表面粗さが0.1〜10.0μmとなるように、研磨粒子とコーティング塗料の混合比を調製することを更に含む。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、被処理面にスクラッチや異物を発生させずに異物を除去することのできる機能を持ち、且つ安定したクリーニング特性を有するワイピングフィルム及びその製造方法が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施の形態に係るワイピングフィルムの一例を示す断面図である。
【図2】ベナードセル対流によって通常形成される亀甲模様の微細な凹溝のクラック形状を有する凹凸の例を示す平面図である。
【図3】本発明の実施の形態に係るワイピングフィルムの表面層の面積率の評価方法を示す図である。
【図4】図4(a)は、樹脂A、樹脂B、樹脂CそれぞれのIRスペクトル測定結果を示し、図4(b)は本発明の実施の形態に係るワイピングフィルムの下地層に形成された海部と島部のIRスペクトル測定結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の実施の形態に係るワイピングフィルムは、図1に示すように、基材1と、基材1上に配置された凹凸を有する下地層2と、凹凸を有する下地層2上に配置されたコーティング層3及びコーティング層3内に分散する研磨粒子4を含む表面層5とを備える。
【0025】
(基材1)
基材1には、機械的強度、寸法安定性、耐熱性等が要求されるため、例えば合成紙やプラスチックフィルムが適用される。プラスチックフィルムとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、延伸ポリプロピレン、ポリカーボネート、アセチルセルロースジエステル、アセチルセルローストリエステル、延伸ポリエチレン、ポリブチレンテレフタレート等を挙げることができる。基材1の厚さとしては、例えば厚さ10〜100μm程度のものが好適に用いられる。
【0026】
(下地層2に用いられる樹脂)
下地層2に用いられる樹脂としては、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、ポリアクリル系もしくはポリメタクリル系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、エチレン共重合体、ポリビニルアセタール系樹脂、ゴム系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、フェノール系樹脂、アミノ−プラスト系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリエステルウレタン樹脂、シリコーン系樹脂、セルロース系樹脂等からなる樹脂を構成するモノマー、プレポリマー若しくはオリゴマーまたはポリマーの一種ないしそれ以上を主成分とする組成物を挙げることができる。
【0027】
下地層2に用いられる樹脂は、少なくとも2種以上の樹脂(第1の樹脂A、第2の樹脂B)が用いるのが好ましく、更に好ましくは、2種類以上の樹脂の両方に対して相溶性を有する樹脂(第3の樹脂C)を更に含有させることである。本実施形態において、「相溶性」とは、2種類以上の物質が相互に親和性を有する性質をいう。具体的には、「相溶性を有する」とは、2種類以上の物質を溶媒を介して混ぜ、溶媒を蒸発させた場合に相互に分離しない性質を指す。逆に「相溶性を有しない」又は「相溶性が悪い」とは、2種類以上の物質を溶媒を介して混ぜ、溶媒を蒸発させた場合に相互に分離する性質を指す。
【0028】
第1の樹脂Aと第2の樹脂Bは相溶性を有すること、即ち、溶剤中に混ぜた後に溶剤の蒸発過程で互いに相分離する性質を有することが好ましい。表1に、第1の樹脂A、第2の樹脂B、第3の樹脂Cを希釈溶剤に溶解・混合し、膜厚10μmの塗膜に作製したときのOM画像、表面形状プロファイル(3D)、塗液状態を示す。それぞれの樹脂を単体で塗布した場合、塗液状態は透明であり、表面観察結果より塗膜表面はフラットである。
【表1】

【0029】
第1の樹脂Aに第2の樹脂Bを添加すると、塗液状態は不透明となり、表面観察結果より塗膜上には不均一な凹凸ができている。第1の樹脂Aに第3の樹脂Cを添加すると、塗液状態は透明となり、表面観察結果より塗膜は表面がフラットであることがわかる。第1の樹脂Aに第2樹脂B及び第3の樹脂Cを添加すると、塗液状態は透明となり、表面観察結果より表面形状が均一な凹凸形状を有していることが分かる。
【0030】
以上のことから、第1の樹脂Aと第2の樹脂Bとを混合させることにより、溶剤の蒸発過程で相分離が起こり、塗膜の表面上に海島構造の凹凸が形成されることが分かる。更に、第1の樹脂A、第2の樹脂Bに対して、第1の樹脂A、第2の樹脂Bの両方と相溶性を有する第3の樹脂を混合することにより、巨視的には分離しない混合溶液が作製できる。混合溶液を乾燥させて塗膜にする際には上方又は下方から一様に温める事により、ベナードセル対流を起こさせることが好ましい。ベナードセル対流により、通常は、図2に示すような、亀甲模様の微細な凹溝のクラック形状を有した凹凸が塗膜表面に形成されるが、本実施形態では、第1の樹脂Aと第2の樹脂Bとが非相溶性の関係にあるため、塗膜の乾燥が進むにつれてベナードセル対流内で第1の樹脂Aと第2の樹脂Bとが相分離する。この相分離現象により、図1に示すように、基材1上に配置された海部2aと海部2aから島状に突出する複数の島部2bとを備える海島構造の凹凸を有する下地層2が作製できる。
【0031】
第1の樹脂Aとしては、第2の樹脂Bよりも塗膜凝集力の高い樹脂(例えば、ポリアミドイミド等)を用いる事が好ましい。塗膜凝集力の強い樹脂を用いることにより、下地層2を乾燥させる際にベナードセル中央部分に第1の樹脂Aが凝集して、凝集した第1の樹脂Aにより、図1の島部2bが形成される。混合溶液の好ましい組合せとしては、第1の樹脂A、第2の樹脂Bを加えた時に混合溶液が不透明となり、この混合溶液に第3の樹脂Cを添加した際に混合溶液が透明となる材料を採用することが好ましい。透明な溶液となることにより、塗液中の成分が均一となり安定した溶液となることが容易に判別できる。以下に制限されないが、第2の樹脂Bとしては、例えば、多官能エポキシ樹脂などを用いることができる。第3の樹脂Cとしては、例えば、エポキシ樹脂−ビスフェノールA型などを用いることができる。
【0032】
下地層2の表面に形成された凹凸(海部2a及び島部2b)により大きな異物が捕捉除去できるようにするために、下地層2の表面粗さは2.0〜20.0μm、更には5.0〜10.0μmであるのが好ましい。下地層2の表面粗さは、表面粗さ測定器(Taylor&Hobson社製タリサーフ)を用いてプロファイルデータを取得し、取得したプロファイルデータ内の任意の凸ピーク5点の平均値から凹ピーク5点の平均値を引いた値を算出した場合の値を指す(測定条件=触針径:先端φ0.5μm、測定速度:0.25mm/s、測定距離:1.0mm、カットオフ値:80μm)。表面粗さの調製は、第1の樹脂A、第2の樹脂B及び第3の樹脂Cの混合比を調製することにより制御できる。
【0033】
(下地層2の希釈溶剤)
下地層2の希釈溶剤としては、例えば、トルエン、キシレン、アセトン、メチルエチルケトン、n−ヘキサン、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、メチルセルソルブ、エチルセルソルブ、ブチルセロソルブ、メトキシプロパノール、シクロヘキサノン、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、又はエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート等が挙げられる。溶剤は、単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。好ましくは、沸点の差が35℃以上である沸点の異なる2種類以上の溶剤を組み合わせて用いることができる。以下に制限されないが、高沸点溶剤としては、シクロヘキサノン、トルエン等が好ましく、低沸点溶剤としてはエタノール、メチルエチルケトン等が好ましく用いられる。低沸点溶剤を添加することにより、溶剤の揮発スピードが上がり、樹脂の乾燥時に強い対流を起こすことができる。また、高沸点溶剤を添加することにより、コーティング中の溶剤の急激な揮発を抑制でき、塗液を安定化できる。
【0034】
(下地層2の硬化剤)
下地層2には、必要により硬化剤を使用することができる。硬化剤としては、ポリイソシアネート系硬化剤またはアミン系硬化剤を用いることが好ましい。ポリイソシアネート系硬化剤の具体例としては、例えば、トリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ナフチレン−1,5−ジイソシアネート、o−トルイジンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート等のイソシアネート類、また当該イソシアネート類とポリアルコールとの生成物、またポリイソシアネートとポリウレタンとの生成物で末端官能基がイゾシアネートのもの等が挙げられる。
【0035】
アミン系硬化剤の具体例としては、鎖状脂肪族アミン系硬化剤、環状脂肪族アミン系硬化剤、芳香族アミン系硬化剤、3級アミン系硬化剤、イミダゾール系硬化剤、フェノール系硬化剤、酸無水系硬化剤が挙げられる。鎖状脂肪族アミン系硬化剤としては、例えば、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ポリオキシプロピレンジアミン、ポリオキシプロピレントリアミン等が挙げられる。環状脂肪族アミン系硬化剤としては、例えば、メンセンジアミン、イソフォロンジアミン、ビス(4−アミノ3−メチルシクロヘキシル)メタン、ジアミノジシクロヘキシルメタン、ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、N−アミノエチルピペラジン、3,9−ビス(3−アミノプロピル)2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5,5)ウンデカン等が挙げられる。芳香族アミン系硬化剤としては、例えば、m−キシレンジアミン、α−(m/pアミノフェニル)エチルアミン、m−フェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルフォン、α,α−ビス(4−アミノフェニル)−p−ジイソプロピルベンゼン等が挙げられる。
【0036】
イミダゾール系硬化剤としては、例えば、イミダゾール骨格にイソシアヌル酸を導入したイソシアヌル酸型イミダゾール系硬化剤、イミダゾール骨格にヒドロキシメチル基を導入したヒドロキシメチル基型イミダゾール系硬化剤、イミダゾール骨格の1位の活性水素に対してエチルトリアジンを導入したエチルトリアジン型イミダゾール系硬化剤等が挙げられる。これらのイミダゾール系硬化剤は、単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。フェノール系硬化剤としては、例えば、フェノールノボラック、o−クレゾールノボラック、p−クレゾールノボラック、t−ブチルフェノールノボラック、ジシクロペンタジエンクレゾール等が挙げられる。酸無水物系硬化剤としては、例えば、トリアルキルテトラヒドロ無水フタル酸、フタル酸無水物、トリメリット酸無水物、ピロメリット酸無水物、ベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物、エチレングリコールビスアンヒドロトリメリテート、グリセロールトリスアンヒドロトリメリテート、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ナジック酸無水物、メチルナジック酸無水物、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、5−( 2 ,5−ジオキソテトラヒドロフリル)−3− メチル−3−シクロヘキセン−1 ,2−ジカルボン酸無水物、トリアルキルテトラヒドロ無水フタル酸−無水マレイン酸付加物、ドデセニル無水コハク酸、ポリアゼライン酸無水物、ポリドデカン二酸無水物、クロレンド酸無水物等が挙げられる。
【0037】
(表面層5中の研磨粒子4)
研磨粒子4としては、無機粒子及び有機粒子が好ましい。研磨粒子4として無機粒子と有機粒子の一方の使用又は双方を使用しても構わない。無機粒子としては、シリカ、アルミナ、ジルコニヤ等のセラミックス、ガラス等があり、有機粒子としては、架橋アクリル粒子、架橋ポリスチレン樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリカーボネート等がある。研磨粒子4の粒子径に特に制限はないが、平均粒子径が0.1〜100μm、より好ましくは0.5〜10.0μm、更に好ましくは平均粒径1.0〜5.0μmの微粒子を用いることができる。平均粒径は、レーザー回折散乱法で測定した体積累積50%の値を示す。
【0038】
(表面層5中のコーティング層3)
研磨粒子4を分散させるためのコーティング層3の材料としては、樹脂が好ましく用いられる。例えば、尿素樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、アルキド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステルウレタン樹脂、アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)樹脂、ブタジエンスチレン樹脂、ポリブタジエン樹脂、シリコーン系樹脂、セルロース系樹脂、ゴム系樹脂等が好適に利用できる。
【0039】
研磨粒子4とコーティング層3を構成する樹脂との混合比は、0.01/1〜10/1の間であることが好ましく、より好ましくは0.1/1〜5/1である。混合比が0.1/1以下であると、図1の表面層5の表層上に存在する研磨粒子4の数が少なくなり、表面層5の表面の大部分がコーティング層3で覆われてしまうことになる場合がある。混合比が5/1以上であると、図1の表面層5の表面上に存在する研磨粒子4の数が多くなりすぎてしまい、脱粒してしまう場合がある。コーティング層3の材料には、複数の樹脂を組み合わせて使用しても構わない。
【0040】
表面層5の表面に形成された微小な凹凸により小さな異物が捕捉除去できるようにするために、表面層5の表面粗さは0.1〜10.0μm、更には2.0〜10.0μm、より好ましくは2.0〜5.0μmであるのが好ましい。表面粗さの調製は、コーティング層3を構成する樹脂と研磨粒子の混合比を調製することにより制御できる。表面層5の表面粗さは、下地層2と同様に、表面粗さ測定器(Taylor&Hobson社製タリサーフ)を用いてプロファイルデータを得、得られたプロファイルデータ内の任意の凸ピーク5点の平均値から凹ピーク5点の平均値を引いた値を算出したものを示す。(測定条件=触針径:先端φ0.5μm、測定速度:0.25mm/s、測定距離:1.0mm、カットオフ値:80μm)
【0041】
(表面層5の希釈溶剤)
表面層5に用いられる希釈溶剤としては、例えば、トルエン、キシレン、アセトン、メチルエチルケトン、n−ヘキサン、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、メチルセルソルブ、エチルセルソルブ、ブチルセロソルブ、メトキシプロパノール、シクロヘキサノン、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、又はエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート等が挙げられる。溶剤は、単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0042】
(表面層5の硬化剤)
表面層5には、必要により硬化剤を添加する。硬化剤としては、ポリイソシアネート系硬化剤またはアミン系硬化剤を用いることが好ましい。ポリイソシアネート系硬化剤の具体例としては、例えば、トリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ナフチレン−1,5−ジイソシアネート、o−トルイジンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート等のイソシアネート類、また当該イソシアネート類とポリアルコールとの生成物、またポリイソシアネートとポリウレタンとの生成物で末端官能基がイゾシアネート等が挙げられる。アミン系硬化剤の具体例としては、鎖状脂肪族アミン系硬化剤、環状脂肪族アミン系硬化剤、芳香族アミン系硬化剤、3級アミン系硬化剤、イミダゾール系硬化剤、フェノール系硬化剤、酸無水系硬化剤、が挙げられる。
【0043】
鎖状脂肪族アミン系硬化剤としては、例えば、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ポリオキシプロピレンジアミン、ポリオキシプロピレントリアミン等が挙げられる。環状脂肪族アミン系硬化剤としては、例えば、メンセンジアミン、イソフォロンジアミン、ビス(4−アミノ3−メチルシクロヘキシル)メタン、ジアミノジシクロヘキシルメタン、ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、N−アミノエチルピペラジン、3,9−ビス(3−アミノプロピル)2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5,5)ウンデカン等が挙げられる。
【0044】
芳香族アミン系硬化剤としては、例えば、m−キシレンジアミン、α−(m/pアミノフェニル)エチルアミン、m−フェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルフォン、α,α−ビス(4−アミノフェニル)−p−ジイソプロピルベンゼン等が挙げられる。イミダゾール系硬化剤としては、例えば、イミダゾール骨格にイソシアヌル酸を導入したイソシアヌル酸型イミダゾール系硬化剤、イミダゾール骨格にヒドロキシメチル基を導入したヒドロキシメチル基型イミダゾール系硬化剤、イミダゾール骨格の1位の活性水素に対してエチルトリアジンを導入したエチルトリアジン型イミダゾール系硬化剤等が挙げられる。これらのイミダゾール系硬化剤は、単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0045】
フェノール系硬化剤としては、例えば、フェノールノボラック、o−クレゾールノボラック、p−クレゾールノボラック、t−ブチルフェノールノボラック、ジシクロペンタジエンクレゾール等が挙げられる。酸無水物系硬化剤としては、例えば、トリアルキルテトラヒドロ無水フタル酸、フタル酸無水物、トリメリット酸無水物、ピロメリット酸無水物、ベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物、エチレングリコールビスアンヒドロトリメリテート、グリセロールトリスアンヒドロトリメリテート、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ナジック酸無水物、メチルナジック酸無水物、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、5−(2,5−ジオキソテトラヒドロフリル)−3−メチル−3−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸無水物、トリアルキルテトラヒドロ無水フタル酸−無水マレイン酸付加物、ドデセニル無水コハク酸、ポリアゼライン酸無水物、ポリドデカン二酸無水物、クロレンド酸無水物等が挙げられる。
【0046】
(製造方法)
次に、本発明の実施の形態に係るワイピングフィルムの製造方法を説明する。本発明の実施の形態に係るワイピングフィルムは、2種類以上の樹脂を溶剤中で混合して下地塗料を作製する工程(下地塗料作製工程)と、下地塗料を基材上に塗布して乾燥させ、2種類以上の樹脂の相分離により基材上に下地層を形成させる工程(下地層形成工程)と、研磨剤を内部に分散させたコーティング塗料を作製する工程(コーティング塗料作製工程)と、得られたコーティング塗料を下地層上に塗布して乾燥させ、下地層上に表面層を形成させる工程(表面層形成工程)とを含む。
【0047】
1.下地塗料作製工程
溶剤の蒸発過程において樹脂の相分離が生じうる程度に相溶性の悪い2種類以上の樹脂(第1の樹脂A、第2の樹脂B)を溶剤に溶解させた溶液(下地塗料)を準備する。第1の樹脂A及び第2の樹脂Bの両方と相溶性を有する第3の樹脂を適当な溶剤に溶解させた溶液も準備しておく。第1の樹脂A及び第2の樹脂Bは、それぞれ水と油のようにはじく性質を有する相溶性の悪い(相分離する)組み合わせであるのが好ましい。この混合溶液に含まれる樹脂の両方に相溶性の良い第3樹脂Cを溶解させた溶液を更に混合することにより、巨視的には分離しない混合溶液(下地塗料)が得られる。下地塗料に用いられる樹脂の好ましい組合せとしては、第1の樹脂A、第2の樹脂Bを加えた時に混合溶液が不透明となり、第1の樹脂A、第2の樹脂Bからなる混合溶液に、第3の樹脂Cを添加した際に混合溶液が透明となる組み合わせが好ましい。
【0048】
2.下地層形成工程
下地塗料作製工程で得られた下地塗料を、基材1の表面に塗布して乾燥させ、下地層2を形成させる。下地塗料を乾燥させる際に、基材1の上面又は下面から一様に温める事により、ベナードセル対流をおこさせる。ベナードセル対流内において、下地塗料中の第1の樹脂Aと第2の樹脂Bが相分離する。この相分離現象により、基材1上には、基材1上に配置された海部2aと海部2aから島状に突出する複数の島部2bとを備える海島構造の凹凸を有する下地層2が形成される。この際、第1の樹脂Aに、塗膜凝集力の高い樹脂(例えば、ポリアミドイミド等)を用いる事により、下地層2を形成させる際に、第1の樹脂Aが凝集して島部2bが形成しやすくなる。
【0049】
下地層2の表面(全面)に対する島部表面(島部の突出した上面部分)の面積率は、20〜80%、更には50〜70%程度とするのが好ましい。これにより、島部2bと島部2bの間の海部に大きな異物を捕集できるとともに、ワイピングフィルムの表面全体で安定したクリーニング特性が得られる。また、第1の樹脂A、第2の樹脂B及び第3の樹脂Cは、分子量が20000以下のものが好ましい。分子量が20000以上だと島部2bが孤立せず、隣接する島部2bと繋がってしまう場合があるため、安定した表面凹凸形状を形成することが出来ず、クリーニング特性が不安定となってしまう場合がある。更に、第1の樹脂Aと第2の樹脂Bの混合比は、形成する下地層の表面粗さを2.0〜20.0μmとし、下地層の凹凸を規則的なパターン形状を形成するために、以下の条件に制限されるものではないが、第1の樹脂Aと第2の樹脂Bの混合比を例えば2:5とすることができる。
【0050】
3.コーティング塗料作製工程
コーティング層3を構成する樹脂を適当な溶剤に溶解させ、研磨粒子4を入れて混合分散させたコーティング塗料を作製する。ここでは、最終的に形成する表面層5の表面粗さが0.1〜10.0μmとなるように、研磨粒子4とコーティング層3を構成する樹脂の混合比を調製するのが好ましい。
【0051】
4.表面層形成工程
コーティング塗料作製工程で得られた研磨粒子4入りコーティング塗料を、凹凸が形成された下地層2の表面に塗布して乾燥させて、研磨粒子4により表面に微小な凹凸が形成された表面層5を形成させる。
【実施例】
【0052】
以下に本発明の実施例及び比較例を示すが、これらの実施例は本発明及びその利点をよりよく理解するために提供するものであり、作製順序や作製材料等を含めて本発明が以下の記載に限定されることを意図するものではない。
【0053】
(実施例1)
実施例1のワイピングフィルムを製造するために、条件1に示す材料を使用した。
<条件1>
○ 下地層 塗料組成
基材:PETフィルム(厚さ:25μm、50μm、75μm)
溶剤:エタノール/アノン=1/1(固形分濃度:25%)
第1の樹脂A:ポリアミドイミド 100部
第2の樹脂B:多官能エポキシ樹脂 20部
第3の樹脂C:エポキシ樹脂−ビスA型エポキシ 50部
硬化剤:イミダゾール 30部
塗膜厚:10μm

○ 表面層 塗量組成
溶剤:MEK/トルエン=1/1(固形分濃度:20%)
微粒子:シリカ粒子(平均粒径d50=2.0μm)
樹脂D:ポリエステルウレタン樹脂 100部
硬化剤:イソシアネート 5部
塗膜厚:5μm
【0054】
条件1に示す第1樹脂A、第2の樹脂B、第3の樹脂C、硬化剤、溶剤を添加し、ディスパーを用いて300rpm〜2000rpmにて10min攪拌し、塗液が均一な透明な溶液になっている事を確認した。この溶液をフィルム状の基材(厚み:25μmポリエチレンテレフタレート)表面にダイレクトグラビアコーティング法を用いてコーティングした。塗布量は、樹脂硬化後の下地層2の厚さが10μmとなる量に調節した。これを40〜130℃の雰囲気下で30〜300秒間乾燥させた後、硬化処理を行った。
【0055】
条件1に示した溶剤、微粒子(研磨粒子)、樹脂Dを添加し、300rpm〜2000rpmにて1〜60min攪拌させ、樹脂D中に粒子を均一に分散させた。その後、硬化剤を添加し、さらに10〜30分間攪拌を行い、固形分濃度を20%になるように溶剤(MEK/トルエン=1/1)を添加し調整した。この溶液を下地層2の表面にダイレクトグラビアコーティング法を用いてコーティングを行った。塗布量は硬化後の表面層5の厚さが5μmとなる量に調節した。またこの際に、下地層2が表面の凹凸形状を維持していることを確認した。その後、40〜130℃の雰囲気下で30〜300秒間乾燥させ、硬化処理を行い、ワイピングフィルムを得た。
【0056】
(比較例1)
実施例1の表面層5を形成しないもの(下地層単層)をワイピングフィルムとした。基材1上に下地層2を形成する際の条件は実施例1と同様とした。
【0057】
(比較例2)
実施例1の下地層2を形成しないもの(表面層単層)をワイピングフィルムとした。具体的には、条件2に示す溶剤、微粒子、樹脂Dを添加し、300rpm〜2000rpmにて1〜60min攪拌させ、粒子を均一に分散させた後、硬化剤を添加し、さらに10〜30分間攪拌を行い、固形分濃度を13%になるように溶剤(MEK/トルエン=1/1)を添加し調整した。この溶液を、下地層2を形成しない基材1の表面上にダイレクトグラビアコーティング法を用いてコーティングを行った。塗布量は硬化後の表面層5の厚さが5μmとなる量に調節した。その後、40〜130℃の雰囲気下で30〜300秒間乾燥させ、硬化処理を行い、ワイピングフィルムを得た。
<条件2>
○表面層 塗料組成
微粒子/樹脂(固形分)=0.5
溶剤:MEK/トルエン=1/1(固形分:13%)
微粒子:シリカ粒子(平均粒径d50=0.2μm)
樹脂D:ポリエステルウレタン樹脂 100部
硬化剤:イソシアネート 5部
塗膜厚:5μm
【0058】
<評価>
1.実施例1の表面粗さ
表面粗さの測定は、表面粗さ測定器(Taylor&Hobson社製タリサーフ)を用いてプロファイルデータを得、得られたプロファイルデータ内の任意の凸ピーク5点の平均値から凹ピーク5点の平均値を引いた値を算出したものを示す。(測定条件=触触針径:先端φ0.5μm、測定速度:0.25mm/s、測定距離:1.0mm、カットオフ値:80μm)
【0059】
2.実施例1の表面層5の表面凹凸形状
実施例1のワイピングフィルムの表面を、オリンパス社製光学顕微鏡を用いて、倍率10倍の対物レンズを用いて観察した。顕微鏡を用いてフィルム表面の写真を撮影し(図3参照)、観察視野内において島状に突出する凸部(島部2b)を囲い込んで面積を算出した。島部2bの面積を10点測定し、最大面積(max)、最小面積(min)、平均面積を算出することにより、島部2bの平均面積とばらつきを測定したところ、平均面積は5743.1μm2、最大面積は7414μm2、最小面積は3626μm2であった。また、観察した塗膜の観察視野内に存在するすべての島部の面積を測定して島部の面積率を測定した。面積率の測定は3回行い、その平均値を求めたところ、面積率の平均は66.21%であった。
【0060】
3.実施例1の下地層2の凹凸部分の成分分析
下地層2表面の海部2a及び島部2bをThermo Fisher社製、FTIRを用いて、ATR法に基づいて測定した。各樹脂材料(樹脂A、樹脂B、樹脂C)についてIR測定を行い、海部2aと島部2bのIRスペクトルとピークの比較を行い、下地層の凹凸を形成する各樹脂成分の検討を行った。結果を図4(a)及び図4(b)に示す。図4(a)に示すように、樹脂Aはポリアミド系樹脂を用いたため、アミド基とイミド基のピークが観測された。樹脂B、Cはエポキシ系樹脂であり、共にエポキシ基のピークが観測されたが、共に似た構造をしているため、IRでは差はみられなかった。図4(b)に示すように、下地層2の海部2aと島部2bそれぞれについて観察した結果、島部2bのIRスペクトルには、樹脂A成分のアミド基とイミド基のピークが観測された。海部2aのIRスペクトルには、アミド基とイミド基のピークはみられなかった。また、両方のスペクトルに、樹脂B、Cの特徴的成分であるエポキシ基のピークが観測された。この観察結果から、島部2bには樹脂Aが含まれているが、海部2aには樹脂Aが含まれていないことが分かった。
【0061】
4.ワイピングフィルムの表面粗さと表面観察結果
実施例1、比較例1、比較例2の塗膜の表面形状を表面粗さ測定器(Taylor&Hobson社製タリサーフ)を用いて測定を行うとともに、表面のOM画像を観察した(測定条件=触針径:先端φ0.5μm、測定速度:0.25mm/s、測定距離:1.0mm、カットオフ値:80μm)。表面粗さは、得られた初期プロファイルデータ内の任意の凸ピーク5点の平均値から凹ピーク5点の平均値を引いた値を算出した。結果を表2に示す。
【表2】

【0062】
5.クリーニング特性評価
シリコンウエハ上に、疑似異物としてアルミナ粒子を分散させ、その除去度を比較評価した。使用したアルミナ粒子は純水中に分散させ、粒子濃度10ppmに調整したものを用いる。このアルミナ分散液をシリコンウエハ上にスピンコーターを用いて散布し、アルミナ粒子を均一にシリコンウエハ上に配置させ、乾燥させた。その後、アルミナ粒子を付着させたシリコンウエハ上に実施例1、比較例1、2のワイピングフィルムを、荷重100g/cm2で押し当て、速度30mm/secにて上下運動させ、擦りつけた。この動作を10回繰り返し行った。試験前後のシリコンウエハ表面上のアルミナ粒子の除去量を田中機販製マイクロマックスを用いて観測し比較検討を行った。付着物の残数が10個未満であるものを「○」、10以上〜100個以下であるものを「△」、100個以上であるものを「×」として評価した。傷が4箇所以上視られるものを「×」、1箇所以上〜4箇所未満視られるものを「△」、1箇所以下のものを「○」として評価した。比較試験結果を表3に、表面観察結果を表4に示す。
【0063】
【表3】

【0064】
【表4】

【0065】
表3及び表4に示すように、実施例1のワイピングフィルムによるクリーニング結果は、比較例1および比較例2と比較すると、付着物の残数および、スクラッチ数において、顕著な効果を有していた。比較例2は表面粗さが小さく、被処理表面との接触面積が大きいので、クリーニング始動時のトルクが比較的大きくなってしまい、逆に結合剤を付着させ被処理面を汚染し、また粒子が脱粒しスクラッチが入ってしまっていた。試験回数を増やすことにより、比較例2はクリーニング結果にバラツキが見られたのに対して、実施例1では安定したクリーニング性を有していることが分かった。これは、表面形状がパターン化しているためクリーニング特性が安定したためである。
【符号の説明】
【0066】
1…基材
2a…海部
2b…島部
3…コーティング層
4…研磨粒子
5…表面層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、
前記基材上に配置された凹凸を有する下地層と、
前記凹凸を有する下地層上に配置されたコーティング層及び前記コーティング層内に分散する研磨粒子を含む表面層と
を備えるワイピングフィルム。
【請求項2】
前記凹凸を有する下地層が、2種以上の樹脂の相分離により形成された樹脂層であることを含む請求項1に記載のワイピングフィルム。
【請求項3】
前記凹凸を有する下地層が、
前記基材上に配置された海部と前記海部から島状に突出する複数の島部とを備え、
前記島部が第1の樹脂から少なくとも形成され、前記海部が前記第1の樹脂と相分離する第2の樹脂とから少なくとも形成されることを含む請求項1に記載のワイピングフィルム。
【請求項4】
前記下地層の表面に対する前記島部表面の面積率が、20〜80%である請求項3に記載のワイピングフィルム。
【請求項5】
前記表面層の表面粗さが、0.1〜10.0μmである請求項1〜4のいずれか1項に記載のワイピングフィルム。
【請求項6】
前記下地層の表面粗さが、2.0〜20.0μmである請求項1〜5のいずれか1項に記載のワイピングフィルム。
【請求項7】
第1の樹脂と、前記第1の樹脂と溶剤の蒸発過程で相分離する第2の樹脂を溶剤中で混合した下地塗料を作製する工程と、
前記下地塗料を基材上に塗布して乾燥させ、前記第1の樹脂と前記第2の樹脂との相分離により海島構造の凹凸を有する下地層を形成させる工程と、
研磨粒子を分散させたコーティング塗料を前記凹凸を有する下地層上に塗布して乾燥させて、前記凹凸を有する下地層上に表面層を形成させる工程と
を含むワイピングフィルムの製造方法。
【請求項8】
第1の樹脂と、前記第1の樹脂と相分離する第2の樹脂と、前記第1の樹脂と前記第2の樹脂の両方と相溶性を有する第3の樹脂とを溶剤中で混合した下地塗料を作製する工程と、
前記下地塗料を基材上に塗布して乾燥させ、前記第1の樹脂と前記第2の樹脂との相分離により海島構造の凹凸を有する下地層を形成させる工程と、
研磨剤粒子を分散させたコーティング塗料を前記凹凸を有する下地層上に塗布して乾燥させ、前記凹凸を有する下地層上に表面層を形成させる工程と
を含むワイピングフィルムの製造方法。
【請求項9】
前記溶剤として、沸点の異なる2種以上の溶剤を用いることを含む請求項7又は8に記載のワイピングフィルムの製造方法。
【請求項10】
前記下地塗料を作製する工程が、前記下地層の表面粗さが2.0〜20.0μmとなるように、前記第1の樹脂と前記第2の樹脂の混合比を調製することを更に含む請求項7〜9のいずれか1項に記載のワイピングフィルムの製造方法。
【請求項11】
前記表面層の表面粗さが0.1〜10.0μmとなるように、前記研磨粒子と前記コーティング塗料の混合比を調製することを更に含む請求項7〜10のいずれか1項に記載のワイピングフィルムの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−96323(P2012−96323A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−246315(P2010−246315)
【出願日】平成22年11月2日(2010.11.2)
【出願人】(591186888)株式会社トッパンTDKレーベル (46)
【Fターム(参考)】