説明

ワイヤ、検出器及び金型

【課題】ワイヤを覆うハウジングの形状を自由にできるとともに、ワイヤとハウジングとの界面を確実にシールすることができるワイヤを提供すること。
【解決手段】ワイヤ13の外皮24をワイヤ13の接続側端部を収容するハウジング14を形成する材料と相溶性の良い材料により形成する。そして、ワイヤ13の接続側端部の外皮24に、外皮24を一周するシール用凸部25を立設した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、信号伝達に用いるワイヤ、検出器及び金型に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車の車輪や動力伝達軸などの回転速度を検出するために、回転センサが使用される。この回転センサは、センサ部と、センサ部から出力される電気信号を伝達するワイヤと、センサ部及びワイヤを覆うように形成された樹脂材料からなるハウジングを備えている。この回転センサは、過酷な条件下で通常使用されるので、防水性などが優れていることを要求される。従って、従来では、ハウジングとワイヤとの界面からの浸水を防止するため、特許文献1又は特許文献2に記載されているようなシール構造を採用していた。
【0003】
特許文献1では、ワイヤ(より詳しくは、導線を覆う外皮)とハウジングを同質材料として、ハウジングを形成する際にハウジングとワイヤを溶着させることによりシール性を高めていた。また、特許文献2では、ワイヤが配置される部位において、ハウジングを形成する際に流し込まれる樹脂の流路に絞りを作り、樹脂が加圧されてワイヤを押しつけるようにした。これにより、樹脂の温度を保持することができ、ハウジングをワイヤに確実に溶着させてシール性を高めていた。
【特許文献1】特開平10−115629号公報
【特許文献2】特開2000−19185号公報(段落番号[0009]、[0010])
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の発明では、ワイヤとハウジングが十分に溶着しない場合がある。すなわち、ハウジングの形状によっては、ハウジング樹脂射出時に樹脂を射出するゲートがワイヤから遠いところに配置される場合がある。この場合、ワイヤに到達するまでに樹脂の温度が低くなり、ワイヤの表面の温度が十分に上昇せずに接着力が弱いときがある。このため、シール性を十分に確保できない場合があった。
【0005】
一方、特許文献2の発明では、ゲートの距離が遠くに配置されても絞りにより樹脂が加圧されてワイヤに押しつけられるので、ワイヤとハウジングとの界面のシール性を確保することはできるが、金型に絞りを作ることによりハウジングの形状に制約ができてしまう。このため、回転センサの大きさが大きくなったり、設置スペースに適合する形状にすることができない場合があった。
【0006】
この発明は、このような従来技術に存在する問題点に着目してなされたものであり、ワイヤを覆うハウジングの形状を自由にできるようにするとともに、ワイヤとハウジングとの界面を確実にシールできるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、電気信号を伝達する導線と、前記導線を被覆する外皮とを有し、ハウジングに収容されたセンサ部に接続されるワイヤにおいて、前記外皮は、前記ハウジングを形成する材料と相溶性の良い樹脂により形成され、前記ハウジングに密着される前記外皮の表面には該外皮の周方向全周に亘るシール用凸部が立設されることを要旨とする。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記外皮には、一定の厚さを有する薄肉部が前記シール用凸部と交わるように立設されることを要旨とする。
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の発明において、前記シール用凸部は、2つに分割される金型で前記外皮を加熱圧縮して前記外皮の周方向全周に亘る凹溝を前記外皮に複数形成することで形成され、前記薄肉部は、前記凹溝を形成する際に生じる駄肉により形成されることを要旨とする。
【0009】
請求項4に記載の発明は、センサ部と、センサ部に接続されてセンサ部から出力される電気信号を伝達するワイヤと、センサ部及びワイヤの接続側端部を覆うように形成されるハウジングとを備え、前記ワイヤの外皮の材料と前記ハウジングの材料を互いに相溶性の良い樹脂として両者を溶着させた検出器において、前記ワイヤを請求項1〜請求項3のうちいずれか一項に記載のワイヤとしたことを要旨とする。
【0010】
請求項5に記載の発明は、電気信号を伝達する導線と前記導線を被覆する外皮とを有するワイヤを加熱圧縮するために対称となるように2つに分割された金型において、前記金型の合わせ面には、前記ワイヤの半径よりも小さい半径を有する半円状の圧縮用凹部が凹設されると共に、前記圧縮用凹部には、その周方向に沿ってシール部形成用凹部が凹設され、前記金型の合わせ面には、前記圧縮用凹部の端部から所定の幅まで前記金型の合わせ面を窪ませて形成されたざぐり部が設けられたことを要旨とする。
【0011】
請求項6に記載の発明は、請求項5に記載の発明において、前記ざぐり部には、前記シール部形成用凹部の端部から所定の幅まで前記ざぐり部を窪ませて形成された駄肉寄せ用凹部が設けられたことを要旨とする。
【0012】
(作用)
請求項1に記載の発明によれば、外皮を少なくとも一周するシール用凸部を立設したので、外皮と同質の材料からなるハウジングの材料を熱した状態で金型に流し込むと、熱した材料とシール用凸部が接触する面積が多くなり、シール用凸部の温度が効率よく上昇する。このため、熱した材料の温度が多少低くなっても、シール用凸部を確実に溶かし、又は軟化させ、ハウジングとシール用凸部との界面を確実に溶着(接着)することができる。従って、ハウジングの材料を金型に流し込むゲートからワイヤの配置が遠くても、ハウジングを形成すると同時にハウジングとワイヤとの界面を確実にシールすることができる。また、外皮の周方向全周に亘ってシール用凸部を設けたので、ハウジングとワイヤとの界面を確実にシールすることができる。また、ワイヤ自体に凹凸を形成することでシール性を高めたので、ハウジングを形成するための金型に絞りを作って樹脂の流れを調整する必要がない。従って、ハウジングの形状に影響を与えることがなく、ハウジングの形状を自由にすることができる。
【0013】
請求項2に記載の発明によれば、薄肉部とシール用凸部が交わるように設けたので、ハウジングの材料が金型に流し込まれた際、薄肉部が溶けたシール用凸部を支えるので、シール用凸部が外皮に倒れ込むのを防止できる。このため、溶着の途中で凹凸がなくなることがなくなり、シール用凸部の温度を確実に上昇させてシール性を確保することができる。また、薄肉部はシール用凸部に支えられるので、薄肉部がシール用凸部の上に倒れ込むことを防止できる。従って、シール用凸部の上に倒れて凹凸をなくし、シール用凸部が溶けるのを妨げることがなくなり、確実にワイヤとハウジングを溶着させることができる。従って、ハウジングとワイヤとの界面を確実にシールすることができる。
【0014】
請求項3に記載の発明によれば、2つ分割された金型でワイヤを加熱圧縮して一定の厚さを持った薄肉部を形成するため、金型の合わせ面の間に形成される薄いバリをなくすことができる。このような薄いバリがなくなることにより、バリがシール用凸部の上に倒れて凹凸をなくし、ハウジングとシール用凸部との界面の溶着(接着)を妨げることがなくなる。また、外皮を加熱圧縮することにより、シール用凸部及び薄肉部を形成するので、外皮を削り出す場合よりも簡単に形成できる。
【0015】
請求項4に記載の発明によれば、ハウジングとワイヤとの界面が溶着(接着)されて確実にシールされた検出器を提供できる。このため、検出器の防水性を高めることができる。また、ワイヤの外皮に凹凸を設け、そのワイヤを覆うようにハウジングを形成するため、ハウジングの形状に制約がなくなる。このため、検出器を小さくしたり、設置スペースに合わせて検出器の形状を変更したりすることができる。
【0016】
請求項5に記載の発明によれば、圧縮用凹部によって加熱圧縮されたワイヤの外皮の肉は、変形してシール用凸部又はざぐり部に押し出される。このため、シール用凸部を容易に形成すると共に、シール用凸部に使用されなかった駄肉は、ざぐり部に押し出されて、一定の厚みを有する薄肉部を形成する。このため、金型の合わせ面の間に薄いバリが形成されることを防止できる。従って、ワイヤを覆うハウジングの形状を自由にできるとともに、ワイヤとハウジングとの界面を確実にシールすることができるワイヤを簡単に形成することが可能となる。
【0017】
請求項6に記載の発明によれば、加熱圧縮により変形して形成させる外皮のシール用凸部を金型の合わせ面に作る薄肉部上に至るように形成できる。このため、金型の合わせ面の間に薄いバリが形成されることを確実に防止できる。それと共に、薄肉部とシール用凸部を交わるように形成でき、請求項2の構成の実現が容易となり、シール用凸部に倒れないように薄肉部が補強される。
【発明の効果】
【0018】
請求項1〜請求項3に記載の発明によれば、ワイヤを覆うハウジングの形状を自由にできるとともに、ワイヤとハウジングとの界面を確実にシールすることができるワイヤを提供できる。また、請求項4に記載の発明によれば、ハウジングの形状を自由にできると共に、ワイヤとハウジングとの界面を確実にシールした検出器を提供できる。また、請求項5又は請求項6に記載の発明によれば、ワイヤを加熱圧縮することにより、ワイヤを覆うハウジングの形状を自由にできるとともにワイヤとハウジングとの界面を確実にシールするシール構造をワイヤに形成する金型を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明を具体化した一実施形態を図1〜図10に基づき説明する。本実施形態では、車輪の回転速度の検出を行う回転センサ11に本発明を適用したものである。
図1には、検出器としての回転センサ11の側断面図が略示されている。回転センサ11は電磁ピックアップ方式を採用しており、車両に別途配置されるロータ(図示略)に対向するように配置される。回転センサ11には、センサ部12と、センサ部12に接続されるワイヤ13と、センサ部12とワイヤ13(より詳しくは、ワイヤ13の接続側端部を含む一部)を覆うように形成されるハウジング14が備えられている。
【0020】
センサ部12には、樹脂材料で形成された中空筒状のボビン15が備えられている。ボビン15の中心部には、磁気回路を構成する磁性材料からなるヨーク16、マグネット17及びバックコア18が配設されている。そして、ボビン15にはコイル19が巻き付けられており、コイル19の両端はボビン15に備えられたターミナル20を介してワイヤ13と接続されている。
【0021】
このセンサ部12は、車輪と共に回転するロータによる磁界の変化をヨーク16にて感知してコイル19にて電気信号に変換する。そして、センサ部12は、ターミナル20及びワイヤ13を介してこの電気信号を外部に出力するようになっている。
【0022】
ワイヤ13は、それぞれ絶縁皮膜21に覆われた一対の導線22と、導線22を埋設する内層23(図4参照)と、内層23を覆う外皮24を有している。図1に示すように、ワイヤ13の端部において外皮24及び内層23が剥かれて、絶縁皮膜21に覆われた導線22が剥き出されている。この剥き出された導線22とターミナル20が電気的に接続されている。なお、本実施形態のワイヤ13は、断面形状が円形状の丸線である。
【0023】
センサ部12とワイヤ13(詳しくは、ワイヤ13の接続側端部を含む一部)は、樹脂で構成されたハウジング14内にモールドされて一体化されている。ハウジング14の材料には、強靭性等の点で有利なポリアミド(ナイロン樹脂)が用いられている。なお、外皮24の材料は、ハウジング14の材料と相溶性の高い材料が用いられる。相溶性の高い材料とは、相溶化指数の高い材料、濡れ性の良い材料、又は接着しやすい材料のことをいう。本実施形態では、外皮24の材料として、ポリアミド(ナイロン樹脂)が用いられている。
【0024】
そして、本実施形態のワイヤ13には、ワイヤ13とハウジング14の界面をシールするためのシール構造が形成されている。以下、このシール構造について詳しく説明する。
図2に示すように、ワイヤ13の外皮24の端部には、ワイヤ13の外皮24を一周するシール用凸部25が複数(本実施形態では2つ)形成されている。このシール用凸部25は、ワイヤ13の径方向においてワイヤ13の外皮24と同じ高さとなるように形成されている。換言すると、ワイヤ13の外皮24に複数(本実施形態では3つ)の凹溝26が形成されることにより、シール用凸部25が複数(本実施形態では2つ)形成されている。
【0025】
このようなシール用凸部25が形成されることにより、ワイヤ13を覆うようにハウジング14を形成する際、ハウジング14とワイヤ13の界面が確実にシールされる。すなわち、ハウジング14とワイヤ13の界面をシールするには、ハウジング形成用金型にハウジング14の樹脂材料を流し込み、その樹脂材料の熱でワイヤ13の外皮24を溶かしてハウジング14とワイヤ13の外皮24を溶着させている。このため、ワイヤ13の外皮24にシール用凸部25が形成されていることにより、流し込まれた樹脂材料と接する面積が増え、外皮24の温度が効率よく上昇する。従って、樹脂材料の温度が若干低くてもワイヤ13の外皮24(つまり、シール用凸部25)が溶けやすくなり、確実にハウジング14と外皮24(シール用凸部25)が溶着する。そして、シール用凸部25はワイヤ13を1周するように形成されているため、ワイヤ13の周り全てが確実に溶着して、ハウジング14とワイヤ13の界面が確実にシールされる。
【0026】
また、ワイヤ13の外皮24には、一定の厚さを有する薄肉部27が2つのシール用凸部25と交差するように形成されている。この薄肉部27は、ワイヤ13の軸方向(図2の左右方向)に沿って形成されている。すなわち、薄肉部27は、シール用凸部25と直交するように形成されている。また、この薄肉部27は、180°間隔で2箇所に形成されている(図3参照)。そして、薄肉部27は、ワイヤ13の径方向においてワイヤ13の外皮24よりも若干突出するように形成されている。なお、薄肉部27は、熱によって若干溶けると同時に外皮24に倒れ込むことがない程度の厚さを有する。すなわち、薄肉部27の厚さは、樹脂材料の性質、高さなどによって決定される。
【0027】
また、ワイヤ13の径方向において、薄肉部27の高さとシール用凸部25の高さが同一となっている。すなわち、薄肉部27の周辺においてシール用凸部25の高さが径方向外側に盛り上がって薄肉部27の高さとシール用凸部25の高さが同一となっている(図4参照)。また、薄肉部27の周辺においても盛り上がっている。すなわち、薄肉部27を倒れにくくするために、外皮24に近いほど薄肉部27の厚さが厚くなっている。なお、薄肉部27は、ワイヤ13の外皮24に凹溝26を形成した際に生じる駄肉にて形成したものである。
【0028】
このようにシール用凸部25と交差するように薄肉部27が形成されていることにより、シール用凸部25及び薄肉部27は互いに支え合い、熱によって溶けてもシール用凸部25又は薄肉部27が外皮24に倒れ込むようなことがなくなる。このため、溶着している間にシール用凸部25又は薄肉部27が倒れ込み、外皮24の凹凸がなくなるという事態の発生を防止できる。従って、ハウジング14とワイヤ13の界面が確実にシールされる。
【0029】
このワイヤ13のシール構造は、所定の金型31にてワイヤ13の外皮24を加熱圧縮することにより形成されている。以下、シール構造の形成方法について説明する。
加熱圧縮する際に使用する金型31について説明する。金型31は、対称となるように2つに分割されている(図2参照)。そして、金型31の合わせ面32には、ワイヤ13の半径よりも小さい半径を有する半円状の圧縮用凹部33がそれぞれ凹設されている(図5〜図7参照)。この圧縮用凹部33は、その軸方向がワイヤ13を挟持する際にワイヤ13の軸方向に沿うように形成されている。また、圧縮用凹部33には、その周方向に沿ってシール部形成用凹部34が複数凹設されている(図5及び図8参照)。すなわち、圧縮用凹部33の断面形状が凹凸状になるように形成されている。
【0030】
このため、この金型31でワイヤ13を挟み込むようにしてワイヤ13の外皮24を加熱圧縮すると、圧縮用凹部33は、ワイヤ13の半径よりも小さい半径であるので、ワイヤ13の外皮24を圧縮して凹溝26を形成する(図9参照)。その一方、シール部形成用凹部34は、圧縮用凹部33の周方向、すなわちワイヤ13の周方向に沿って圧縮用凹部33に凹設されているので、ワイヤ13の周方向に沿ってシール用凸部25を形成することとなる(図10参照)。なお、シール部形成用凹部34は、圧縮用凹部33の一端部から他端部まで形成されているので、シール用凸部25は外皮24を1周するように形成されることとなる。
【0031】
そして、金型31の合わせ面32には、圧縮用凹部33の端部から所定の幅まで金型31の合わせ面32を窪ませて(へこませて)形成されたざぐり部35がそれぞれ設けられている(図7参照)。すなわち、金型31の合わせ面32には、合わせ面32をへこませたざぐり部35が形成されており、このざぐり部35の底部に圧縮用凹部33が凹設され、さらにこの圧縮用凹部33にシール部形成用凹部34が設けられている。
【0032】
合わせ面32にざぐり部35が形成されたことにより、ワイヤ13を加熱圧縮して凹溝26を形成した際に発生する駄肉がざぐり部35に押し出されて集まり、集まった駄肉が一定の厚さを有する薄板状の薄肉部27となる(図9参照)。このため、駄肉が合わせ面32の間に移動しなくなり、合わせ面32の間に厚さの薄いバリが形成されなくなる。なお、圧縮用凹部33の端部は、面取りされている(すなわち、圧縮用凹部33の端部とざぐり部35の底面によって形成される角が削られている)。このため、駄肉がざぐり部35に集まって薄肉部27を形成する際、外皮24に近いほど薄肉部27の厚さを厚くすることができる。
【0033】
また、ざぐり部35には、シール部形成用凹部34の端部から所定の幅までざぐり部35を窪ませて形成された駄肉寄せ用凹部36が形成されている(図5及び図8参照)。この駄肉寄せ用凹部36が形成されたことにより、シール部形成用凹部34にて形成されたシール用凸部25を薄肉部27に至るまで形成することができる(図10参照)。このため、薄肉部27を倒れないように補強すると共に、合わせ面32の間に厚さの薄いバリが形成されることを確実に防止できる。なお、本実施形態では、シール部形成用凹部34の端部からざぐり部35の全幅に亘って駄肉寄せ用凹部36が形成されている(図5及び図6参照)。このため、ワイヤ13の径方向において、シール用凸部25の高さと薄肉部27の高さが同じになるように形成することができる。
【0034】
以上詳述したように、本実施形態は、以下の効果を有する。
(1)ワイヤ13の外皮24に、外皮24を一周するシール用凸部25を立設した。そして、外皮24と相溶性の良い樹脂からなるハウジング14の材料を熱した状態で金型31に流し込むと、熱した材料とシール用凸部25が接触する面積が多くなり、シール用凸部25の温度が効率よく上昇する。このため、熱した材料の温度が多少低くなっても、シール用凸部25を確実に溶かし、ハウジング14とシール用凸部25との界面を確実に溶着(接着)することができる。従って、ハウジング14の材料を金型31に流し込むゲートからワイヤ13の配置が遠くても、ハウジング14を形成すると同時にハウジング14とワイヤ13との界面を確実にシールすることができる。また、外皮24を一周するようにシール用凸部25を設けたので、ハウジング14とワイヤ13との界面を確実にシールすることができる。また、シール性を高めるための構造をワイヤ13自体に形成したので、ハウジング14の形状に影響を与えることがない。
【0035】
(2)シール用凸部25が複数本(本実施形態では、2本)形成された。このため、外皮24を1周させる場合より、シール性を高めることができる。
(3)ハウジング14と外皮24を互いに相溶性の良い樹脂で形成して両者を溶着(接着)させた。このため、ハウジング14を形成する工程とシールを行う工程を1つの工程で行うことができる。
【0036】
(4)外皮24には、一定の厚さを有する薄肉部27がシール用凸部25と交わるように立設された。このように一定の厚さを有する薄肉部27とシール用凸部25が交わるように設けたので、ハウジング14の材料が金型31に流し込まれた際、薄肉部27が溶けたシール用凸部25を支えるので、シール用凸部25が外皮24に倒れ込むのを防止できる。このため、溶着の途中で凹凸がなくなることがなくなり、シール用凸部25の温度を確実に上昇させてシール性を確保することができる。また、薄肉部27はシール用凸部25に支えられるので、薄肉部27がシール用凸部25の上に倒れ込むことを防止できる。従って、シール用凸部25の上に倒れて凹凸をなくし、シール用凸部25が溶けるのを妨げることがなくなり、確実にワイヤ13とハウジング14を溶着させることができる。従って、ハウジング14とワイヤ13との界面を確実にシールすることができる。
【0037】
(5)ワイヤ13の径方向において、シール用凸部25の高さと薄肉部27の高さを同一になるように形成した。このため、シール用凸部25と薄肉部27は、互いに支え合いどちらか一方だけが倒れ込むことを確実に防止できる。
【0038】
(6)2つに分割される金型31で外皮24を加熱圧縮し、外皮24を一周する凹溝26を外皮24に複数(本実施形態では、3本)形成することでシール用凸部25を形成した。また、凹溝26を形成する際に余る駄肉を集めて薄肉部27を形成した。これにより、2つ分割された金型31でワイヤ13を加熱圧縮して一定の厚さを持った薄肉部27を形成するため、金型31の合わせ面32の間に形成される厚さの薄いバリをなくすことができる。厚さが薄く、溶けると容易に倒れてしまうバリがなくなることにより、バリがシール用凸部25の上に倒れて凹凸をなくし、ハウジング14とシール用凸部25との界面の溶着(接着)を妨げることがなくなる。また、外皮24を加熱圧縮することにより、シール用凸部25及び薄肉部27を形成するので、外皮24を削り出す場合よりも簡単に形成できる。
【0039】
(7)ワイヤ13の径方向において、薄肉部27の高さは、外皮24よりも高くなるように形成した。このため、薄肉部27へ移動することができる外皮24の肉の量が増える。従って、より多く駄肉を集めて薄肉部27を形成することができ、金型31の合わせ面32にバリが形成することをさらに防止できる。
【0040】
(8)薄肉部27は、径方向で先端部より外皮24に近いほど薄肉部27の厚さが厚くなっている。このため、金型31に樹脂が流し込まれた際、薄肉部27が樹脂の流れによりシール用凸部25の上に倒れ込むことを確実に防止できる。
【0041】
(9)回転センサ11にシール用凸部25を設けたワイヤ13を使用した。このため、ハウジング14の樹脂材料を射出するゲートの位置がワイヤ13から遠くても、ハウジング14とワイヤ13との界面を溶着(接着)させて確実にシールさせることができる。従って、回転センサ11の防水性を高めることができる。また、ワイヤ13の外皮24にシール用凸部25を設け、そのワイヤ13を覆うようにハウジング14を形成するため、ハウジング14の形状に制約がなくなる。このため、回転センサ11を小さくしたり、設置スペースに合わせて回転センサ11の形状を変更したりすることができる。
【0042】
(10)金型31の合わせ面32に半円状の圧縮用凹部33を凹設すると共に、圧縮用凹部33にシール部形成用凹部34を凹設する。さらに、圧縮用凹部33の端部から所定の幅まで金型31の合わせ面32をへこませるように形成するざぐり部35を設けた。このため、圧縮用凹部33によって加熱圧縮されたワイヤ13の外皮24の肉は、変形してシール用凸部25に移動する。そして、シール用凸部25に移動しなかった駄肉は、ざぐり部35に押し出されて、一定の厚みを有する薄肉部27を形成する。従って、この金型31にてワイヤ13を加熱圧縮することにより、ワイヤ13を覆うハウジング14の形状を自由にできるとともに、ワイヤ13とハウジング14との界面を確実にシールすることができるシール構造をワイヤ13に形成することが可能となる。また、ワイヤ13にシール用凸部25を形成する際、金型31の合わせ面32の間に薄いバリが形成されることを防止できる。
【0043】
(11)シール部形成用凹部34の端部から所定の幅までざぐり部35をへこませて形成する駄肉寄せ用凹部36を設けた。このため、金型31にてワイヤ13を加熱圧縮した際、変形してシール部形成用凹部34へ移動した外皮24の肉はなめらかに薄肉部27へと繋がり、両者が同じ高さで交わるようになる。また、金型31の合わせ面32の間に薄いバリが形成されることも確実に防止できる。
【0044】
尚、上記実施形態は、次のような別の実施形態(別例)にて具体化できる。
○上記実施形態では、シール用凸部25を2つ形成したが、いくつ形成しても良い。例えば、1つでも良く、3つでもよい。
【0045】
○上記実施形態では、薄肉部27を形成したが、形成しなくても良い。この場合、金型の合わせ面32の間にバリが形成されたときには、バリを切除することとなる。
○上記実施形態では、薄肉部27を2つ形成したが、いくつ形成しても良い。例えば、1つでも良く、3つでもよい。
【0046】
○上記実施形態では、検出器として車輪の回転速度の検出を行う回転センサ11を採用したが、動力伝達軸などの回転速度を検出するための回転センサなどを採用してもよい。
○上記実施形態の圧縮用凹部33の端部において、面取りをしていたが、しなくてもよい。
【0047】
○上記実施形態では、ワイヤ13の径方向において、シール用凸部25と薄肉部27の高さを同じにしたが、同じにしなくても良い。
○上記実施形態では、金型31を2つに分割したが、いくつに分割しても良い。
【0048】
○上記実施形態では、薄肉部27をワイヤ13の軸方向に沿って形成したが、シール用凸部25と交差していれば、軸方向に沿って形成しなくても良い。
○上記実施形態の金型31には、駄肉寄せ用凹部36が設けられたが設けなくても良い。
【0049】
○上記実施形態の外皮24の材料として、熱可塑性ポリエステルエラストマを主体とする樹脂組成物を用いても良い。尚、熱可塑性ポリエステルエラストマとは、ポリブチレンテレフタラート等の結晶性ハードセグメントと、ポリテトラメチレンエーテルグリコール等のポリオキシメチレングリコールからなる非晶性ソフトセグメント、若しくはポリカプラクロングリコール等のポリエステルグリコールからなる非晶性ソフトセグメントとを有するブロック共重合体をいう。
【0050】
○上記実施形態の金型31を、ワイヤ13の端部の外皮24を剥いで導線22を露出させる器具に備えても良い。このようにすれば、導線22を露出させる工程と、シール構造を形成する工程を1工程で行うことができる。
【0051】
○上記実施形態のワイヤ13は、丸線だったが、断面形状が多角形である角線でも良い。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】回転センサの断面図。
【図2】ワイヤの側面図。
【図3】ワイヤの平面図。
【図4】A−A線断面図。
【図5】金型の断面斜視図。
【図6】金型の平面図。
【図7】C−C線断面図。
【図8】B−B線断面図。
【図9】金型によって圧縮されているときのワイヤの様子を示す断面図。
【図10】金型によって圧縮されているときのワイヤの様子を示す断面図。
【符号の説明】
【0053】
11…回転センサ(検出器)、12…センサ部、13…ワイヤ、14…ハウジング、22…導線、24…外皮、25…シール用凸部、26…凹溝、27…薄肉部、31…金型、32…合わせ面、33…圧縮用凹部、34…シール部形成用凹部、35…ざぐり部、36…駄肉寄せ用凹部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気信号を伝達する導線と、前記導線を被覆する外皮とを有し、ハウジングに収容されたセンサ部に接続されるワイヤにおいて、
前記外皮は、前記ハウジングを形成する材料と相溶性の良い樹脂により形成され、前記ハウジングに密着される前記外皮の表面には該外皮の周方向全周に亘るシール用凸部が立設されることを特徴とするワイヤ。
【請求項2】
前記外皮には、一定の厚さを有する薄肉部が前記シール用凸部と交わるように立設されることを特徴とする請求項1に記載のワイヤ。
【請求項3】
前記シール用凸部は、2つに分割される金型で前記外皮を加熱圧縮して前記外皮の周方向全周に亘る凹溝を前記外皮に複数形成することで形成され、
前記薄肉部は、前記凹溝を形成する際に生じる駄肉により形成されることを特徴とする請求項2に記載のワイヤ。
【請求項4】
センサ部と、センサ部に接続されてセンサ部から出力される電気信号を伝達するワイヤと、センサ部及びワイヤの接続側端部を覆うように形成されるハウジングとを備え、前記ワイヤの外皮の材料と前記ハウジングの材料を互いに相溶性の良い樹脂として両者を溶着させた検出器において、
前記ワイヤを請求項1〜請求項3のうちいずれか一項に記載のワイヤとしたことを特徴とする検出器。
【請求項5】
電気信号を伝達する導線と前記導線を被覆する外皮とを有するワイヤを加熱圧縮するために対称となるように2つに分割された金型において、
前記金型の合わせ面には、前記ワイヤの半径よりも小さい半径を有する半円状の圧縮用凹部が凹設されると共に、前記圧縮用凹部には、その周方向に沿ってシール部形成用凹部が凹設され、
前記金型の合わせ面には、前記圧縮用凹部の端部から所定の幅まで前記金型の合わせ面を窪ませて形成されたざぐり部が設けられたことを特徴とする金型。
【請求項6】
前記ざぐり部には、前記シール部形成用凹部の端部から所定の幅まで前記ざぐり部を窪ませて形成された駄肉寄せ用凹部が設けられたことを特徴とする請求項5に記載の金型。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2006−196354(P2006−196354A)
【公開日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−7756(P2005−7756)
【出願日】平成17年1月14日(2005.1.14)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】