説明

ワイヤグリッド偏光子及びその製造方法

【課題】簡易な構成によって、耐久性に優れ、光利用効率が高く、液晶表示装置のような表示装置に配設した場合に、十分な色再現性や黒表示を実現することができるワイヤグリッド偏光子を提供すること。
【解決手段】本発明のワイヤグリッド偏光子は、基材上に吸収型偏光成分を格子状に配置した吸収型ワイヤグリッド偏光子1と、基材上に反射型偏光成分を格子状に配置した反射型ワイヤグリッド偏光子2と、を積層してなる複合型ワイヤグリッド偏光子であって、少なくとも前記吸収型ワイヤグリッド偏光子1は、格子状に凸部を有する基材1cと、前記基材1cの凸部上に形成された吸収型偏光成分で構成された層1と、を具備し、該吸収型偏光成分が透明保護膜で断面周囲を覆われていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイヤグリッド偏光子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年のフォトリソグラフィー技術の発達により、光の波長レベルのピッチを有する微細構造パターンを形成することができるようになってきた。この様に非常に小さいピッチのパターンを有する部材や製品は、半導体分野だけでなく、光学分野において利用範囲が広く有用である(非特許文献1)。
【0003】
例えば、金属などで構成された導電体線が特定のピッチで格子状に配列してなるワイヤグリッドは、そのピッチが入射光(例えば、可視光の波長400nmから800nm)に比べてかなり小さいピッチ(例えば、2分の1以下)であれば、導電体線に対して平行に振動する電場ベクトル成分の光をほとんど反射し、導電体線に対して垂直な電場ベクトル成分の光をほとんど透過させるため、単一偏光を作り出す偏光子として使用できる。このワイヤグリッド偏光子は、透過しない光を反射し再利用することができるので、光の有効利用の観点からも望ましいものである。
【0004】
このようなワイヤグリッド偏光子としては、例えば、特許文献1に開示されているものがある。このワイヤグリッド偏光子は、入射光の波長より小さいグリッド周期で間隔が置かれた金属ワイヤを備えている。このワイヤグリッド偏光子は、電場成分が金属線と平行な偏光成分(TE波)を反射し、金属線と垂直な偏光成分(TM波)を透過する偏光特性を有し、ビームスプリッタとして多く使用されている。
【0005】
しかし、反射により偏光成分を分離するために、反射される偏光成分が好ましくない用途への使用が難しい問題があり、ワイヤグリッド偏光子を液晶表示装置のような表示装置に配設した場合に、特許文献1に開示されている構成では、金属ワイヤがバックライト側からの光だけでなく、外光側からの光も反射するので、十分な色再現性や黒表示を行なうことができないという問題があった。
【0006】
また、他の偏光子として、吸収型二色性偏光子が広く使用されている。吸収型二色性偏光子は、光の吸収異方性を有する化合物(ヨウ素、二色性色素)を塗布した高分子フィルムを延伸することで得られる。この吸収型の偏光子を表示装置に用いると、透過率は原理的に50%を超えないために、光の利用効率が低いという課題があった。さらに、高温高湿環境における耐久性に劣る問題もあった(非特許文献2)。
【0007】
上記課題に対して、ワイヤグリッド偏光子と吸収型二色性偏光子を組み合わせた偏光子(特許文献2)や、反射型ワイヤグリッド偏光子と光吸収性材料を組み合わせた偏光子(特許文献3、特許文献4)が提案されている。
【0008】
さらに、反射型ワイヤグリッド偏光子表面に保護膜を形成し、ワイヤグリッドを保護する方法も提案されている(特許文献5)
【非特許文献1】日本女子大学紀要 理学部 第14号(2006)
【非特許文献2】FPDの光学材料 月刊ディスプレイ10月号別冊(2007) テクノタイムズ社
【特許文献1】特表2003−502708号公報
【特許文献2】特開2007−57873号公報
【特許文献3】特開2005−37900号公報
【特許文献4】特開2008−46637号公報
【特許文献5】特開2006−201782号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献2に記載の構成では、偏光子の一部に吸収型二色性偏光子を用いているために、高温高湿環境における耐久性が劣りやすく、偏光度の経時変化が起きやすい問題があった。
【0010】
また、特許文献3、4に記載されているように反射型ワイヤグリッド偏光子のワイヤグリッドに光吸収性材料を積層する構成では、誘電体、低反射金属、酸化物などの多層膜を真空蒸着などにより製膜、さらに、該多層膜を数百nmのパターンでワイヤ形状に加工する必要があるため、多層膜の製膜及び加工に時間がかかってしまうという問題点を有している。
【0011】
さらに、多層膜を構成している金属、誘電体、酸化物のワイヤ状への微細加工におけるドライエッチングに最適なガスの種類が金属層と酸化物層、誘電体層とで互いに異なるため、エッチングが困難である問題があり、ウェットエッチングにおいても、同様に最適なエッチング液の選定が困難である問題がある。
【0012】
また、特許文献3に記載されているように、基材表裏に各々反射性材料、吸収性材料でストライプ状のグレーティング層を設ける構成においては、平板基板の表裏に光学的に平行な位置で設置されなければならないが、手順として、平板基板の片面にストライプ状のグレーティング層を設け、光学的な平行位置を保ちながら、もう片面の平面にストライプ状のグレーティング層を設ける、ことになり、光学的な平行を保ちながら基材両面にグレーティング層を設けることは、実際の製造においては困難という問題点がある。ここで、光学的な平行位置とは、偏光子を透過する偏光軸が互いに平行になる位置をいう。
【0013】
さらに本発明者の検討により、特許文献3に記載の構成では、吸収性材料側からの入射において、TE波の反射率を抑制できるが、TM波の反射率も高く、結果として観察される自然光としての反射率を完全に抑制できないことがわかっている。
【0014】
また、特許文献5に記載されているような構成でワイヤグリッド表面に保護膜を形成すると、保護膜の影響によりワイヤグリッドによるTE波とTM波の偏光分離機能が悪化し、透過率と偏向度の波長分散性が大きく低下する問題があった。これらは、透過光についての問題であるが、反射光においても、表面の保護膜による反射のため、偏光分離されていない表面反射光が増加し、反射偏光分離機能が低下する問題もあった。
【0015】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、簡易な構成によって、耐久性に優れ、光利用効率が高く、液晶表示装置のような表示装置に配設した場合に、十分な色再現性や黒表示を実現することができるワイヤグリッド偏光子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明のワイヤグリッド偏光子は、基材上に吸収型偏光成分を格子状に配置した吸収型ワイヤグリッド偏光子と、基材上に反射型偏光成分を格子状に配置した反射型ワイヤグリッド偏光子と、を積層してなるワイヤグリッド偏光子であって、少なくとも前記吸収型ワイヤグリッド偏光子は、格子状に凸部を有する基材と、横断面視において前記凸部の側面の一部を含む領域にわたって片寄った状態で設けられた透明保護膜と、前記透明保護膜内に埋設された吸収型偏光成分と、で構成されていることを特徴とする。
【0017】
本発明のワイヤグリッド偏光子においては、横断面視において前記吸収型偏光成分の厚さが5nm以上30nm以下であることが好ましい。
【0018】
本発明のワイヤグリッド偏光子においては、前記吸収型偏光成分がW、V、Cr、Co、Mo、Ge、Ir、Ni、Os、Ti、Fe、Nb、Hf、Mn、Ta及びこれらのうち少なくとも一つを主成分とする合金からなる群から選ばれた少なくとも一つであることが好ましい。
【0019】
本発明のワイヤグリッド偏光子においては、横断面視において前記透明保護膜の厚さが5nm以上15nm以下であることが好ましい。
【0020】
本発明のワイヤグリッド偏光子においては、前記透明保護膜がSiNxを含む無機材料で構成されていることが好ましい。
【0021】
本発明のワイヤグリッド偏光子においては、前記反射型ワイヤグリッド偏光子は、格子状に凸部を有する基材と、この基材の凸部上に形成され、反射型偏光成分で構成された層と、を具備することが好ましい。
【0022】
本発明の表示装置は、表示デバイスと、前記表示デバイスに光を照射する照明手段と、上記ワイヤグリッド偏光子と、を具備し、前記反射型ワイヤグリッド偏光子が前記照明手段側に配置されることを特徴とする。
【0023】
本発明のワイヤグリッド偏光子の製造方法は、基材上に吸収型偏光成分を格子状に配置した吸収型ワイヤグリッド偏光子と、基材上に反射型偏光成分を格子状に配置した反射型ワイヤグリッド偏光子と、を積層してなるワイヤグリッド偏光子の製造方法であって、少なくとも前記吸収型ワイヤグリッド偏光子は、格子状に凸部を有する基材を準備する工程と、横断面視において前記凸部の側面の一部を含む領域にわたって片寄った状態で透明保護膜を製膜する第1製膜工程と、前記透明保護膜上に吸収型偏光成分を製膜する第2製膜工程と、前記吸収型偏光成分を覆うように前記透明保護膜を製膜する第3製膜工程と、を具備して製造され、前記基材に対する製膜材料の入射角度が同一であり、前記第1製膜工程及び/又は前記第3製膜工程における製膜材料源−基材間距離(Ts)と平均自由工程(Λ)との間の比N(Ts/Λ)が、前記第2製膜工程における比Nの1.5倍以上であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
本発明のワイヤグリッド偏光子は、基材上に吸収型偏光成分を格子状に配置した吸収型ワイヤグリッド偏光子と、基材上に反射型偏光成分を格子状に配置した反射型ワイヤグリッド偏光子と、を積層してなるワイヤグリッド偏光子であって、少なくとも前記吸収型ワイヤグリッド偏光子は、格子状に凸部を有する基材と、横断面視において前記凸部の側面の一部を含む領域にわたって片寄った状態で設けられた透明保護膜と、前記透明保護膜内に埋設された吸収型偏光成分と、で構成されているので、簡易な構成によって、耐久性に優れ、光利用効率が高く、液晶表示装置のような表示装置に配設した場合に十分な色再現性と黒表示を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態について、添付図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明の実施の形態に係るワイヤグリッド偏光子の一例を示す概略断面斜視図である。ワイヤグリッド偏光子3は、基材上に吸収型偏光成分を格子状に配置した吸収型ワイヤグリッド偏光子1と、基材上に反射型偏光成分を格子状に配置した反射型ワイヤグリッド偏光子2と、を積層してなるワイヤグリッド偏光子である。ワイヤグリッド偏光子3は、入射光4を吸収する吸収型ワイヤグリッド偏光子1と入射光5を反射する反射型ワイヤグリッド偏光子2とから主に構成されており、吸収型ワイヤグリッド偏光子1の基材1cと反射型ワイヤグリッド偏光子2の基材2cとが対面してそれぞれの格子状凸部が1a,2aが外側を向くように組み合わせて複合化されている。したがって、このワイヤグリッド偏光子3においては、吸収型ワイヤグリッド偏光子1で入射光4を吸収すると共に、反射型ワイヤグリッド偏光子2でワイヤグリッド偏光子3をはさんで180度逆側からの入射光5を反射して偏光する。
【0026】
さらに図1に示したような吸収型ワイヤグリッド偏光子1と反射型ワイヤグリッド偏光子2の基材同士が接する態様の場合は、基材はあらかじめ一体化していても構わない。
【0027】
本発明のワイヤグリッド偏光子において、本発明に係るワイヤグリッド型偏光子を液晶表示装置のような表示装置に配設した場合において、十分な色再現性や黒表示を実現するためには、入射光4について、TE波の透過率が0.1%以下であり、反射率が30%以下であり、TM波の透過率が70%以上であり、反射率が20%以下であると好ましく、入射光5について、TE波の透過率が0.1%以下であり、反射率が60%以上であり、TM波の透過率が70%以上であり、反射率が20%以下であると好ましい。このような光学特性であると、外光は反射せず、バックライト側のみ反射により偏光させるため、バックライトの光利用効率を高く維持したまま、十分な色再現性や黒表示を達成できる。TE波、TM波の透過率、反射率は、分光光度計を用いて測定される。
【0028】
図2は図1の吸収型ワイヤグリッド偏光子1を拡大図示した概略断面斜視図である。図2に示す吸収型ワイヤグリッド偏光子は、表面に格子状凸部1dを有する基材1cと、格子状凸部1dを含む基材1c上の領域に立設された、吸収型偏光成分で構成された吸収型偏光成分ワイヤ1aと透明保護膜1bとから主に構成されている。
【0029】
吸収型ワイヤグリッド偏光子1においては、基材1cの格子状凸部1d上に、横断面視において前記凸部の側面の一部を含む領域にわたって片寄った状態で透明保護膜1bが設けられており、その透明保護膜1b内に吸収型偏光成分ワイヤ1aが埋設されている。すなわち、吸収型偏光成分ワイヤ1aは、透明保護膜1bで全体を被覆されており、透明保護膜1bを介して、格子状凸部1d上に配置されている。特に、格子状凸部1dの側面の一部を含む領域にわたって片寄った状態で吸収型偏光成分ワイヤ1aが設けられると、高透過率、低反射率で透過率、反射率の波長分散を抑制できるので好ましい。
【0030】
ここで、片寄った状態とは、格子状凸部1dの頂部を通る仮想垂線(横断面視において基材1cの表面に対して略直交する垂線)Xと、吸収型偏光成分ワイヤ1aの頂部を通る仮想垂線Xとが揃わない状態をいう。図2においては、格子状凸部1dの頂部を通る仮想垂線Xと、吸収型偏光成分ワイヤ1aの頂部を通る仮想垂線Xとが揃わない状態で吸収型偏光成分ワイヤ1aが格子状凸部1d上に透明保護膜1bを介して形成されている。本発明においては、このような状態を、格子状凸部1dの側面の一部を含む領域にわたって片寄った状態で形成されている、という。
【0031】
このような構成により、高透過率で光学特性の波長分散を抑制できる理由は不明だが、有効媒質理論より、光の入射方向に対する吸収型偏光成分ワイヤ1a、透明保護膜1b、さらに基材凸部1dの断面変化により、光の入射方向に対して光学特性の急激な変化が抑制されるためであると推定される。さらに、上記した構成であると、反射、透過いずれにおいても、保護膜による偏光特性の低下を防止できる。
【0032】
本発明における吸収型ワイヤグリッド偏光子において、TE波においては、透過率が50%以下で、かつ、反射率が40%以下であると好ましく、透過率が40%以下で、かつ、反射率が20%以下であるとより好ましい。TM波においては、透過率が80%以上で、かつ、反射率が10%以下であると好ましく、透過率が85%以上で、かつ、反射率が8%以下であるとより好ましい。
【0033】
基材1cに用いる素材は、可視光領域で実質的に透明な素材であれば良いが、加工性に優れた樹脂であることが好ましい。例えば、ポリメタクリル酸メチル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、シクロオレフィン樹脂(COP)、架橋ポリエチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、変性ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリエーテルサルフォン樹脂、ポリサルフォン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂などの非晶性熱可塑性樹脂や、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、芳香族ポリエステル樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリアミド樹脂などの結晶性熱可塑性樹脂や、アクリル系、エポキシ系、ウレタン系などの紫外線(UV)硬化性樹脂や熱硬化性樹脂が挙げられる。また、基材1bとして、紫外線硬化性樹脂や熱硬化性樹脂と、ガラスなどの無機基板、上記熱可塑性樹脂、トリアセテート樹脂とを組み合わせた複合基材を用いても良い。
【0034】
基材1c上の格子状凸部1dのピッチは、可視光領域の広帯域にわたる偏光特性を考慮すると、150nm以下であり、好ましくは80nmから120nmである。ピッチが小さくなるほど偏光特性が良くなるが、可視光に対しては、80nmから120nmのピッチで十分な偏光特性が得られる。400nm近傍の短波長光の偏光特性を重視しない場合は、ピッチを150nm程度まで大きくしてもよい。
【0035】
本発明において、基材1c上の格子状凸部1dのピッチと吸収型偏光成分ワイヤ1aのピッチとは、ほぼ等しく、同じピッチをとることができる。
【0036】
基材1c上の格子状凸部1dの断面形状に制限はない。これらの断面形状は、例えば、台形、矩形、方形、プリズム状や、半円状などの正弦波状を挙げることができる。ここで、正弦波状とは、凹部と凸部の繰り返しからなる曲線部をもつことを意味する。なお、曲線部は湾曲した曲線であれば、よく、例えば凸部にくびれがある形状も正弦波状に含める。また、基材1c上の格子状凸部1d及びその側面の少なくとも一部を吸収型偏光成分1aと透明保護膜1bが覆いやすくする観点から、前記形状の端部又は頂部、谷部は穏やかな曲率をもって湾曲していることが好ましい。また、基材1c、格子状凸部1dと透明保護膜1bとの密着強度を高くする観点から、これらの断面形状は正弦波状であることがより好ましい。
【0037】
基材1cに格子状凸部1dを設ける方法としては、表面にピッチが150nm以下の格子状凸部を有する型を用いて、基材の表面に格子状凸部を転写して成型する方法が挙げられる。ここで、表面にピッチが150nm以下の格子状凸部を有する型は、電子線ビーム描画法や干渉露光法により得た、ピッチが150nm以下の格子状凸部を有するレジストパターンを、順に導電化処理、メッキ処理、基材の除去処理を施すことで作成できる。
【0038】
図2における吸収型偏光成分ワイヤ1aを構成する吸収型偏光成分としては、W、V、Cr、Co、Mo、Ge、Ir、Ni、Os、Ti、Fe、Nb、Hf、Mn、Taからなる群から選ばれた少なくとも一つの低反射金属、あるいはその群から選ばれた少なくとも一つの材料を主成分とする合金などの低反射金属が挙げられる。これら低反射金属で吸収型偏光成分ワイヤ1aを構成する。横断面視において吸収型偏光成分ワイヤ1aの厚さtは5nm以上30nm以下であることが好ましい。この厚さは、より好ましくは8nm以上25nm以下である。なお、本発明における吸収型偏光成分ワイヤ1aの厚さtとは、格子状凸部1dの頂部の高さからの垂線方向における最高部の高さまでの距離をいう。
【0039】
吸収型偏光成分ワイヤ1aは薄膜であるために、ワイヤグリッド偏光子であるにもかかわらずTE波の反射率と透過率を低く抑え、吸収率を高めることができる。薄膜の低反射金属ワイヤでTE波の吸収率が高くなる詳細は明確ではないが、低反射金属の侵入長と同程度であるために低反射金属内部での吸収が高まるためと推定される。
【0040】
吸収型偏光成分として、前記した低反射金属の薄膜を使用すると、後述する反射型ワイヤグリッド偏光子と一体化した時、吸収型ワイヤグリッド偏光子側の反射率は低く、反射型ワイヤグリッド偏光子側からの入射光の反射率が増加するので、液晶などの表示デバイスに適用した場合、バックライト側の光利用効率が向上し特に好ましい。
【0041】
図2における透明保護膜1bを構成する成分としては、SiNxを含む無機材料が挙げられる。なんとなれば、前記した吸収型偏光成分ワイヤ1aは30nm以下の薄膜が好ましく、この厚さであると、経年的に金属薄膜表面に極薄い酸化金属層が生成するため、吸収型偏光成分ワイヤの光学特性が変化し、偏光特性の変化を生じる。そこで、透明保護膜1dにより吸収型偏光成分ワイヤ1aの全体を被覆することで偏光特性の経年変化を防止することができる。
【0042】
図2に示すように、吸収型偏光成分ワイヤ1aの全体を透明保護膜1dで被覆することにより、吸収型偏光成分ワイヤ1aの酸化を抑制することができる。例えば、特許文献3に記載のような金属層と透明保護膜との単なる積層では、吸収型偏光成分ワイヤの経年変化を抑制することができない。これは、吸収型偏光成分ワイヤ1aは、基材1dの斜面部の片側に設けられると幅も狭くなり、積層構造における側面部からの酸化の影響が大きいためであると推定されるからである。
【0043】
透明保護膜として、SiNxを含む無機材料を適用すると、吸収型偏光成分ワイヤ1aの酸化を防止でき好ましい。これは、SiNxはその表面がわずかに酸化され、緻密なSiONxを生成するため、吸収型偏光成分ワイヤ1aを保護して吸収型偏光成分ワイヤ1aの酸化を抑制すると推定されるからである。
【0044】
透明保護膜1bの厚さは、透明保護膜による金属層の酸化防止効果や、透明保護膜によって偏光特性を考慮すると、5nm以上15nm以下であることが好ましい。本発明における透明保護膜の厚さとは、吸収型偏光成分ワイヤ1aと、その全体を被覆する透明保護膜1bとの積層体における、格子状凸部1dの頂部の高さからの垂線方向における最高部の高さまでの距離tから、吸収型偏光成分ワイヤ1aの厚さtを差し引き、2で除した値をいう。
【0045】
本発明者らの検討により、基材の格子状凸部1dがなく、平坦な基材を用いた場合は吸収型偏光成分ワイヤの形状、膜厚、透明保護膜の有無によらず、i)高透過率と低反射率は相反する特性を示すこと、ii)透過率、反射率の波長分散性が大きくなること、がわかっている。このことから、格子状凸部を有する基材に、透明保護膜で全体を被覆された吸収型偏光成分ワイヤの薄膜を形成する本発明の構成の有効性がわかる。
【0046】
前記した構成の吸収型ワイヤグリッド偏光子であると、後述する反射型ワイヤグリッド偏光子と一体化した時、吸収型ワイヤグリッド偏光子側の反射率は低く、反射型ワイヤグリッド偏光子側からの入射光の反射率が増加するので、液晶などの表示デバイスに適用した場合、バックライト側の光利用効率が向上し特に好ましい。
【0047】
上記した吸収型ワイヤグリッド偏光子の製造方法について、つぎに説明する。
図3は本発明の製造方法の概略を示した図であり、格子状凸部を有する基材17を物理的製膜装置18内に設置し、基材17の格子状凸部の格子方向と製膜材料源15の入射方向との角度θを固定板16で一定に保持し、格子状凸部の斜面上の片側に吸収型偏光成分と透明保護膜とを製膜する。基材に対する製膜材料の入射方向の角度θは、吸収型偏光成分ワイヤ1aの格子状凸部を覆う面積や、格子状凸部の斜面上の片側にのみ吸収型偏光成分と透明保護膜を形成することを考慮すると、20度以上60度以下が好ましい。また、角度θは25度以上50度以下の範囲であると、得られる吸収型ワイヤグリッドの光学特性が好ましい範囲になりやすくより好ましい。
【0048】
また、製膜工程中の製膜装置内において、製膜原料源から放出された製膜原料は、製膜装置内の残留ガス分子などと衝突すると散乱されてしまい、基材へ直進しなくなってしまう。従って、前記斜面上の片側にのみに吸収型偏光成分ワイヤ1aを配置する為には、可能な限り製膜原料を直進させることが必要となる。
【0049】
ある単位体積内において、製膜原料源から放出された製膜原料が、存在するガス粒子と、衝突するまでに進むことのできる距離を統計学的に平均したものを、平均自由工程Λと呼ぶ。ここで、絶対温度をT(K)、製膜装置内圧力をP(Pa)としたときの体積1cmあたりの残留ガス分子の個数nは、
n=7.25×1016・P/T
で与えられ、このとき、平均自由工程Λは、それぞれの分子の半径をr,r´とすると、
Λ=1/(√2・nπ・(r+r´)
で与えられる。
【0050】
例えば、27℃における製膜装置内圧力が0.6Paのとき、製膜原料タンタルの分子半径を0.14nm、ガス粒子アルゴンの分子半径を0.18nmとすると、平均自由工程はおおよそ15mmとなる。
【0051】
一般的なスパッタリング装置などの製膜装置では、製膜原料源から基材までの距離Tsは、おおよそ100mm程度であり、上記の例では、製膜原料タンタルが基材へ到達するまでの間に、ガス粒子アルゴンと7回程度の衝突を起こすことを意味し、衝突回数が増えるにつれて、放出された製膜原料の直進性は減少していく。衝突回数が増加するにつれ、製膜原料の入射方向に対する垂直方向の成分が増加する。本発明者は、この特性を利用し、鋭意検討した結果、本発明の製造方法を見出した。
【0052】
すなわち、本発明の吸収型ワイヤグリッド偏光子の製造方法において、TsとΛの比N=Ts/Λを、前記透明保護膜の製膜におけるNを吸収型偏光成分の製膜におけるNの1.5倍以上とすると、上記した製膜原料の入射方向に対する垂直成分が増加するため、吸収型偏光成分ワイヤの断面周囲を透明保護膜で覆うことができ好ましい。
【0053】
具体的には、まず基材を製膜装置に好ましい角度で設置し、透明保護膜を基材に所定厚み製膜する。つぎに、基材と製膜原料源との角度を同一に保持したまま、所定厚みの吸収型偏光成分を製膜する。このとき、TsとΛの比Nを透明保護膜製膜時の1/1.5倍以下となるようTsや製膜圧力などの製膜条件を調整する。さらに続けて、基材と製膜原料源との角度を同一に保持したまま、再びN=Ts/Λを、1層目の透明保護膜製膜条件に戻し、透明保護膜を所定厚み製膜する。
【0054】
以上の手順により、格子状凸部の斜面上の片側に、透明保護膜で全体を被覆された吸収型偏光成分ワイヤを製膜でき、本発明のワイヤグリッド偏光子における吸収型ワイヤグリッド偏光子を得ることができる。
【0055】
本発明における物理的製膜方法とは、スパッタリング法または真空蒸着法のいずれかを用いると、前記したTsと平均自由工程Λの比N=Ts/Λを簡便に調整できるので好ましい。
【0056】
したがって、本発明におけるワイヤグリッド偏光子の製造方法は、基材上に吸収型偏光成分を格子状に配置した吸収型ワイヤグリッド偏光子と、基材上に反射型偏光成分を格子状に配置した反射型ワイヤグリッド偏光子と、を積層してなるワイヤグリッド偏光子の製造方法であって、少なくとも前記吸収型ワイヤグリッド偏光子は、格子状に凸部を有する基材を準備する工程と、横断面視において前記凸部の側面の一部を含む領域にわたって片寄った状態で透明保護膜を製膜する第1製膜工程と、前記透明保護膜上に吸収型偏光成分を製膜する第2製膜工程と、前記吸収型偏光成分を覆うように前記透明保護膜を製膜する第3製膜工程と、を具備して製造され、前記基材に対する製膜材料の入射角度が同一であり、前記第1製膜工程及び/又は前記第3製膜工程における製膜材料源−基材間距離(Ts)と平均自由工程(Λ)との間の比N(Ts/Λ)が、前記第2製膜工程における比Nの1.5倍以上であることを特徴とする。
【0057】
次に本発明の偏光子における反射型偏光子について、図を用いて説明する。
図4は図1の反射型ワイヤグリッド偏光子2を拡大図示した概略断面斜視図である。図4に示す反射型ワイヤグリッド型偏光子は、表面に格子状凸部2dを有する基材2cと、格子状凸部2dを被覆し、格子状凸部2dを含む基材2c上の領域に立設された、反射型偏光成分で構成された金属ワイヤ2aとから主に構成されている。
【0058】
本発明における反射型ワイヤグリッド偏光子においては、TE波においては、透過率が1%以下で、かつ、反射率が40%以上であると好ましく、透過率が0.1%以下で、かつ、反射率が50%以上であるとより好ましい。TM波においては、透過率が70%以上で、かつ、反射率が20%以下であると好ましく、透過率が75%以上で、かつ、反射率が10%以下であるとより好ましい。
【0059】
基材2cに用いる素材は、可視光領域で実質的に透明な素材であれば良いが、加工性に優れた樹脂であることが好ましい。例えば、ポリメタクリル酸メチル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、シクロオレフィン樹脂(COP)、架橋ポリエチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、変性ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリエーテルサルフォン樹脂、ポリサルフォン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂などの非晶性熱可塑性樹脂や、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、芳香族ポリエステル樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリアミド樹脂などの結晶性熱可塑性樹脂や、アクリル系、エポキシ系、ウレタン系などの紫外線(UV)硬化性樹脂や熱硬化性樹脂が挙げられる。また、基材2cとして、紫外線硬化性樹脂や熱硬化性樹脂と、ガラスなどの無機基板、上記熱可塑性樹脂、トリアセテート樹脂とを組み合わせた複合基材を用いても良い。
【0060】
基材2cの格子状凸部2dのピッチは、可視光領域の広帯域にわたる偏光特性を考慮すると、150nm以下であり、好ましくは80nmから120nmである。ピッチが小さくなるほど偏光特性が良くなるが、可視光に対しては、80nmから120nmのピッチで十分な偏光特性が得られる。400nm近傍の短波長光の偏光特性を重視しない場合は、ピッチを150nm程度まで大きくしてもよい。
【0061】
本発明において、基材2c上の格子状凸部2dのピッチと金属ワイヤ2aのピッチとは、ほぼ等しく、同じピッチをとることができる。また、前記した吸収型ワイヤグリッド偏光子1とピッチを同一とする必要はなく、吸収型、反射型各々に最適なピッチを適宜、独立したピッチとできる。
【0062】
基材2c上の格子状凸部2dの断面形状に制限はない。これらの断面形状は、例えば、台形、矩形、方形、プリズム状や、半円状などの正弦波状を挙げることができる。ここで、正弦波状とは、凹部と凸部の繰り返しからなる曲線部をもつことを意味する。なお、曲線部は湾曲した曲線であれば、よく、例えば凸部にくびれがある形状も正弦波状に含める。また、基材2c上の格子状凸部2d及びその側面の少なくとも一部を金属材料が覆いやすくする観点から、前記形状の端部又は頂部、谷部は穏やかな曲率をもって湾曲していることが好ましい。また、基材2c、格子状凸部2dと金属ワイヤ2aとの密着強度を高くする観点から、これらの断面形状は正弦波状であることがより好ましい。さらに、同様に基材2c、格子状凸部2dと金属ワイヤ2aとの密着強度を高くする観点から、図示しない透明誘電体層の薄膜を設けることも好ましい。
【0063】
基材2cに格子状凸部2dを設ける方法としては、表面にピッチが150nm以下の格子状凸部を有する型を用いて、機材の表面に格子状凸部を転写して成型する方法が挙げられる。ここで、表面にピッチが150nm以下の格子状凸部を有する型は、電子線ビーム描画法や干渉露光法により得た、ピッチが150nm以下の格子状凸部を有するレジストパターンを、順に導電化処理、メッキ処理、基材の除去処理を施すことで作成できる。
【0064】
反射型偏光成分で構成された層である金属ワイヤ2aを構成する金属としては、可視光領域で光の反射率が高く、基材2c、2dなどとの密着性のよいものであることが好ましい。例えば、アルミニウム(Al)、銀(Ag)、スズ(Sn)又は、その合金で構成されていることが好ましい。コストの観点から、Al又はAl合金で構成されていることが好ましい。
【0065】
以上前記した吸収型ワイヤグリッド偏光子と反射型ワイヤグリッド偏光子を、光学的な平行位置で積層、固定し本発明のワイヤグリッド偏光子を得る。光学的な平行位置で積層、固定する方法としては、以下の方法が挙げられる。
【0066】
図5において、既存の偏光子12を透過した直線偏光を吸収型ワイヤグリッド偏光子11に透過させる。透過光10の光量が最小になるように吸収型ワイヤグリッド偏光子11を、透過光10の光軸を中心にして回転させる。図示しない偏光子12を固定しているベースにあわせて、吸収型ワイヤグリッド偏光子11の辺11aを切断する。このような操作により辺11aは偏光子12の偏光軸と平行となる。同様にして反射型ワイヤグリッド偏光子についても、偏光子12の偏光軸と平行な辺を得る。つぎに、この辺を機械的に合わせながら積層、固定することで、光学的な平行位置で吸収型ワイヤグリッド偏光子と反射型ワイヤグリッド偏光子が一体化した本発明のワイヤグリッド型偏光子を得ることができる。
【0067】
ワイヤグリッド偏光子を積層する態様については、図1に示すように、ワイヤグリッドをそれぞれ外側に向けて反射型ワイヤグリッドと、吸収型ワイヤグリッドとを組み合わせても良く、図6に示すように、吸収型ワイヤグリッド偏光子1のワイヤグリッドが反射型ワイヤグリッド偏光子2の基板の背面に接着層7で接着されるように積層されていてもよく、ワイヤグリッドをそれぞれ内側に向けて反射型ワイヤグリッドと、吸収型ワイヤグリッドとを組み合わせても良い(図示せず)。ワイヤグリッドが対面するように積層する場合、接着層がワイヤグリッドのワイヤ間に充填されると光学特性が変わるので、接着層がワイヤ頂部のみに接している状態が好ましい。
【0068】
以上のように簡便に光学的な平行位置でワイヤグリッド偏光子が揃ったワイヤグリッド偏光子を得られるために、簡便な装置で安価に製造することが可能である。さらに、各々の偏光子は接着するまで独立であるので、それぞれに最適で容易な製造方法を選択でき、生産効率、コストの点から鑑みて実際の工業生産において大きな利点を有する。
【0069】
上記説明は、反射型ワイヤグリッド偏光子及び吸収型ワイヤグリッド偏光子をそれぞれ個別に作成して、両者を積層、固定して本発明のワイヤグリッド偏光子を製造する方法についての説明であるが、本発明はこれに限定されず、基材の一方の主面に反射型ワイヤグリッド偏光子用のワイヤグリッドを設け、他方の主面に吸収型ワイヤグリッド用のワイヤグリッドを設けて本発明のワイヤグリッド偏光子を製造しても良い。
【0070】
図7は前記した一体化した表裏に反射型、吸収型を積層するための、表裏に格子状凸部を有する基材8の一例を示す概略断面斜視図である。表裏の格子状凸部は、互いに平行な位置で形成されている。表裏に互いに平行な格子状凸部を形成する方法は、表面にピッチが150nm以下の格子状凸部を有する型を用いて、基材の表面に格子状凸部を転写する方法が挙げられ、基材表裏に転写する型の格子状凸部の平行位置を機械的に保持しながら転写する方法や、片面に転写した後、型の格子状凸部と平行な回転軸に沿って180度回転させもう片面に転写する方法、などが挙げられる。
【0071】
本発明のワイヤグリッド型偏光子においては、偏光特性を具現化する金属ワイヤ、吸収型偏光成分ワイヤの方向は、基材表面の格子状凸部でその偏光方向が決定されるので、基材表裏の格子状凸部の平行を維持した基材を使用すれば、光学的な平行位置で表裏に反射型、吸収型ワイヤグリッド偏光子を有する本発明の偏光子を簡易に得ることができる。
【0072】
さらに、得られるワイヤグリッド偏光子の特性は、前記したような反射型ワイヤグリッド偏光子及び吸収型ワイヤグリッド偏光子をそれぞれ個別に作成し積層固定して得られるワイヤグリッド偏光子と同等の性能を有するので、各主面に設けるワイヤグリッドの製造条件は、単品ワイヤグリッド偏光子と同様で良い。また、ワイヤグリッドを基板表裏に形成するので、表裏において最適で容易な製造方法を選択でき、生産効率、コストの点において実用上の工業生産において大きな利点を有する。
【0073】
本発明のワイヤグリッド型偏光子においては、ワイヤグリッドが無機物で構成されているので、熱や光に対する耐久性に優れており、これにより安定して偏光機能を発揮することができる。
【0074】
次に、本発明に係る液晶表示装置に用いた場合について、図面で説明する。
図8は、本発明の実施の形態にかかる偏光子を用いた液晶表示装置を示す断面概略図である。
【0075】
図8に示す液晶表示装置は、発光するバックライトのような照明装置20と、この照明装置上に配置された本発明の偏光子21及び偏光子22に挟まれた液晶パネル23と、から主に構成される。本発明に係る偏光子21、22は、バックライト側に反射型偏光子21a、22aを向けて配置される。液晶パネル23は透過型液晶パネルであり、ガラスや透明樹脂基板間に液晶材料などを挟持して構成されている。なお、図8の液晶表示装置中において、通常使用されている偏光子保護フィルム、位相差フィルム、拡散板、配向膜、透明電極、カラーフィルターなどの各種光学素子については、説明を省略する。
【0076】
このような構成の液晶表示装置においては、照明装置20から出射された光がワイヤグリッド偏光子21の反射型ワイヤグリッド偏光子21aから入射し、液晶セル23を通過し、再びワイヤグリッド偏光子22の反射型ワイヤグリッド偏光子22aから入射、外界に出射される(図中30)。この場合において、ワイヤグリッド偏光子21、22が可視光領域において、優れた偏光度を発揮するので、コントラストの高い表示を得ることが可能となる。また、透過しない照明装置20からの入射光は、照明装置側に向けて反射され、再利用されることで高い輝度を得ることができる。
【0077】
一方、外光は、ワイヤグリッド偏光子22の吸収型ワイヤグリッド偏光子22bから入射し、液晶セル23を通過し、再びワイヤグリッド偏光子21の吸収型ワイヤグリッド偏光子21bから入射、照明装置20に出射される(図中31)。この場合においては、透過しない外光は、本発明のワイヤグリッド偏光子により効率良く吸収される。以上、まとめると液晶表示装置において、十分な色再現性や黒表示を実現することができる。
【0078】
次に、本発明の効果を明確にするために行なった実施例について説明する。なお、下記実施の形態における寸法、材質などは例示的なものであり、適宜変更して実施することが可能である。その他、本発明の範囲を逸脱しない限りにおいて、適宜変更して実施することが可能である。
【0079】
(実施例1)
(格子状凸部を有する基材の作成)
・微細凹凸格子形状の作成
ガラス上にフォトレジストを塗布した基板に、電子線ビーム描画法を用いて、微細凹凸格子を形成した。このレジストパターンの表面と断面を、電界放出形走査電子顕微鏡(STEM)で観察したところ、微細凹凸格子のピッチと高さがそれぞれ、145nm/130nm(ピッチ/高さ)であり、その断面形状がほぼ台形形状で、上面からの形状が縞状格子状となっており凸部の幅が45nmで谷部の幅が70nmであることがわかった。
【0080】
・ニッケルスタンパ作成
得られた145nmピッチのレジストパターン表面に、導電化処理として金をスパッタ法により30nm被覆した後、ニッケルを電気メッキし、厚さ0.3mmの微細凹凸格子を表面に有するニッケルスタンパを作成した。
【0081】
・紫外線硬化性樹脂を用いた格子状凸部転写フィルムの作成
厚さ0.1mmのポリエチレンテレフタレート樹脂フィルム(以下、PETフィルム)に紫外線硬化樹脂(東洋合成株式会社製PAK01)を約0.03mm塗布し、塗布面を下にして前記145nmピッチの微細凹凸格子を表面に有するニッケルスタンパ上に、それぞれ端部からニッケルスタンパとPETフィルムとの間に空気が入らないように載せ、PETフィルム側から中心波長365nmの紫外線ランプを用いて紫外線を1000mJ/cm照射し、ニッケルスタンパの微細凹凸格子を転写した。得られた格子状凸部転写フィルムをSTEMにより観察し、その断面形状がほぼ台形形状で、上面からの形状が縞状格子状となっていることを確認した。
【0082】
・反射型ワイヤグリッド偏光子の作成
前記した紫外線硬化性樹脂を用いて作成した格子状凸部転写フィルムに、スパッタ法を用いて誘電体を被覆した。本実施例では、誘電体として窒化ケイ素を用いた場合について、説明する。Arガス圧力0.67Pa、スパッタパワー4W/cm、被覆速度0.22nm/秒にて誘電体の被覆を行なった。層厚み比較用サンプルとして表面が平滑なガラス基板を格子状凸部転写フィルムと同時に装置に挿入し、平滑ガラス基板への誘電体積層厚みが5nmとなるように製膜を行った。
【0083】
格子状凸部転写フィルムに誘電体層を形成した後、電子ビーム真空蒸着法(EB蒸着法)を用いて金属ワイヤを形成した。本実施例では、金属としてアルミニウム(Al)を用いた。真空度2.5×10−3Pa、蒸着速度20nm/s、基板温度は常温として蒸着を行なった。層厚み比較用サンプルとして表面が平滑なガラス基板を誘電体積層格子状凸部転写フィルムと同時に装置に挿入し、平滑基板へのAl蒸着厚みが170nmとなるように蒸着を行った。なお、格子の長手方向と垂直に交わる平面内において基材面の法線と蒸着源とのなす角度は20度とした。
【0084】
格子状凸部転写フィルムに誘電体及びAlを積層した後、フィルムを室温下の0.1重量%水酸化ナトリウム水溶液中で、処理時間を30秒〜120秒の間において10秒間隔で変えながら洗浄(エッチング)し、すぐに水洗してエッチングを停止させた。フィルムを乾燥して反射型ワイヤグリッド偏光子を得た。下記の偏光性能評価から、90秒エッチングをした反射型ワイヤグリッド偏光子を選定した。
【0085】
得られた反射型ワイヤグリッド偏光子について、分光光度計を用いて、直線偏光に対する平行ニコル、直交ニコルでの透過光強度、反射光強度を測定した。その結果、反射型ワイヤグリッド型偏光子のTM波透過率88.7%、TE波透過率0.04%、TM波反射率3.4%、TE波反射率84.8%、偏光度99.91%であった。
【0086】
・吸収型ワイヤグリッド偏光子の作成
前記と同様の手順で紫外線硬化性樹脂を用いて作成した格子状凸部転写フィルムに、スパッタ法を用いてSiNxを被覆した。本実施例ではシリコン(Si)ターゲットを使用し、Arガス圧力0.25Pa、Nガス圧力0.15Pa、スパッタパワー4.4W/cmとし、製膜速度14nm/分で蒸着した。シリコンと格子状凸部転写フィルムとの間隔は105mmであり、Λは2.77cmである。層厚み比較用サンプルとして表面が平滑なガラス基板を格子状凸部転写フィルムと同時に装置に挿入し、平滑基板へのSiNx蒸着厚みが10nmとなるように蒸着をおこなった。なお、格子の長手方向と垂直に交わる平面内において基材面の法線と蒸着源とのなす角度は40度とした。
【0087】
つづいて、上記基材に、タンタル(Ta)を用いて、Arガス圧力0.19Pa、スパッタパワー4.4W/cmとし、製膜速度32nm/分で27nm蒸着した。タンタルと基材との間隔、及び基材面の法線と蒸着源とのなす角度は同一とし、Λは4.64cmである。
【0088】
さらにつづいて、再びシリコン(Si)ターゲットを使用し、Arガス圧力0.25Pa、Nガス圧力0.15Pa、スパッタパワー4.4W/cmとし、製膜速度14nm/分で10nm蒸着した。
【0089】
得られた吸収型ワイヤグリッド型偏光子の断面を、STEMにより観察したところ、10nm厚みのSiNxに周囲を囲まれた、タンタルワイヤが格子状凸部の斜面上の片側に厚さ27nmで形成されていることが確認された。また、得られた吸収型ワイヤグリッド型偏光子について、分光光度計を用いて、直線偏光に対する平行ニコル、直交ニコルでの透過光強度、反射光強度を測定した。その結果、吸収型ワイヤグリッド型偏光子のTE波透過率10.1%、TM波透過率86.9%、TM波反射率4.3%、TE波反射率21.0%、偏光度80.4%であった。
【0090】
・吸収型、反射型ワイヤグリッド偏光子の積層
前記した方法で、得られた吸収型、反射型ワイヤグリッド偏光子の周囲4辺のうち1辺について、既存偏光子を基準として偏光軸を合わせた。つづいて偏光軸をあわせた1辺を機械的に合わせながら、互いのワイヤグリッドの基板側を光学的に透明な粘着材を用いて接着、積層した。なお、接着には、日東電工(株)製透明両面接着テープCS9621を使用した。
【0091】
得られた偏光子について、分光光度計を用い、直線偏光に対する透過光強度、反射光強度を測定した。TM波透過率78.7%、TE波透過率0.011%、吸収型ワイヤグリッド偏光子側の全光反射率13.9%。反射型ワイヤグリッド偏光子側の全光反射率43.7%、偏光度99.97%であった。
【0092】
得られたワイヤグリッド偏光子2枚を、反射型ワイヤグリッド面をバックライト側に向けて、バックライトユニット上にクロスニコルに配置した。室内照度を上げても、反射率13.9%と低いために、外光反射光を抑えることができ、十分な黒表示を行う性能であることが確認された。
【0093】
このワイヤグリッド偏光子を60℃、90RH%の条件で1000hr暴露し、暴露後の直線偏光に対する透過光強度、反射光強度を測定した。TM波透過率79.1%、TE波透過率0.012%、吸収型ワイヤグリッド偏光子側の全光反射率14.0%。反射型ワイヤグリッド偏光子側の全光反射率44.0%、偏光度99.97%であり、湿熱試験による光学特性の劣化は認められなかった。
【0094】
(比較例1)
・吸収型ワイヤグリッド偏光子の作成
SiNxを設けない以外は、実施例1と同様の方法で厚さ27のタンタルワイヤが格子状凸部の斜面上の片側に形成された吸収型ワイヤグリッド偏光子を得た。
【0095】
得られた吸収型ワイヤグリッド型偏光子について、分光光度計を用いて、直線偏光に対する平行ニコル、直交ニコルでの透過光強度、反射光強度を測定した。その結果、吸収型ワイヤグリッド型偏光子のTE波透過率10.8%、TM波透過率88.8%、TM波反射率3.8%、TE波反射率12.3%、偏光度78.3%であった。
【0096】
・吸収型、反射型ワイヤグリッド偏光子の積層
実施例1に用いた反射型ワイヤグリッド偏光子を用いて、実施例1と同様の方法で接着積層した。得られた偏光子について、分光光度計を用い、直線偏光に対する透過光強度、反射光強度を測定した。
【0097】
TM波透過率78.9%、TE波透過率0.011%、吸収型ワイヤグリッド偏光子側の全光反射率7.9%。反射型ワイヤグリッド偏光子側の全光反射率43.6%、偏光度99.97%であった。
【0098】
このワイヤグリッド偏光子を60℃、90RH%の条件で1000hr暴露し、暴露後の直線偏光に対する透過光強度、反射光強度を測定した。TM波透過率78.7%、TE波透過率0.018%、吸収型ワイヤグリッド偏光子側の全光反射率11.8%。反射型ワイヤグリッド偏光子側の全光反射率44.0%、偏光度99.95%であり、湿熱試験によりTE波透過率が約64%増加したために、偏向度の低下が見られた。
【0099】
このように本発明にかかるワイヤグリッド偏光子は、簡易な構成で、外光を効率良く吸収し、かつ、バックライト側の高反射率のために光利用効率が高く、LCDのような表示装置に配設した場合に十分な色再現性と黒表示を実現できる。また、本発明にかかるワイヤグリッド偏光子は、偏光機能の発現を全て無機材料で構成しているために、耐久性に優れるものである。
【0100】
本発明は上記実施の形態に限定されず、種々変更して実施することが可能である。例えば、上記実施の形態における寸法、材質などは例示的なものであり、適宜変更して実施することが可能である。また、上記実施の形態における偏光板については、板状の部材である必要はなく、必要に応じてシート状、フィルム状であっても良い。上記実施の形態においては、ワイヤグリッド偏光板を液晶表示装置に適用した場合について説明しているが、本発明は偏光が必要とされる液晶表示装置以外のデバイスなどに同様に適用することができる。その他、本発明の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜変更して実施することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0101】
【図1】本発明の実施の形態に係るワイヤグリッド偏光子の概略断面斜視図である。
【図2】本発明を構成する吸収型ワイヤグリッド偏光子を拡大図示した概略断面斜視図である。
【図3】本発明の製造方法における吸収型ワイヤグリッド偏光子の製造方法の一例を示した概略図である。
【図4】本発明を構成する反射型ワイヤグリッド偏光子を拡大図示した概略断面斜視図である。
【図5】本発明のワイヤグリッド偏光子を構成するための積層、固定する工程の一例を示す概略図である。
【図6】本発明の実施の形態に係るワイヤグリッド偏光子の、他の構成の一例を示す概略断面斜視図である。
【図7】本発明を構成する基材の一例を示す概略断面斜視図である。
【図8】本発明の実施の形態に係る偏光子を用いた液晶表示装置を示す断面概略図である。
【符号の説明】
【0102】
1,21b,22b 吸収型ワイヤグリッド偏光子
1a 吸収型偏光成分ワイヤ
1b 透明保護膜
1c,2c,8,17 基材
1d,2d 格子状凸部
2,21a,22a 反射型ワイヤグリッド偏光子
2a 金属ワイヤ
3,21,22 ワイヤグリッド偏光子
4,5 入射光
7 接着層
10 偏光軸
11a 変更軸と一致した辺
12 偏光子
15 製膜材料源
16 固定板
18 物理的製膜装置
20 照明装置
23 液晶セル
30 バックライト入射光
31 外光入射光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に吸収型偏光成分を格子状に配置した吸収型ワイヤグリッド偏光子と、基材上に反射型偏光成分を格子状に配置した反射型ワイヤグリッド偏光子と、を積層してなるワイヤグリッド偏光子であって、少なくとも前記吸収型ワイヤグリッド偏光子は、格子状に凸部を有する基材と、横断面視において前記凸部の側面の一部を含む領域にわたって片寄った状態で設けられた透明保護膜と、前記透明保護膜内に埋設された吸収型偏光成分と、で構成されていることを特徴とするワイヤグリッド偏光子。
【請求項2】
横断面視において前記吸収型偏光成分の厚さが5nm以上30nm以下であることを特徴とする請求項1に記載のワイヤグリッド偏光子。
【請求項3】
前記吸収型偏光成分がW、V、Cr、Co、Mo、Ge、Ir、Ni、Os、Ti、Fe、Nb、Hf、Mn、Ta及びこれらのうち少なくとも一つを主成分とする合金からなる群から選ばれた少なくとも一つであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のワイヤグリッド偏光子。
【請求項4】
横断面視において前記透明保護膜の厚さが5nm以上15nm以下であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載のワイヤグリッド偏光子。
【請求項5】
前記透明保護膜がSiNxを含む無機材料で構成されていることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載のワイヤグリッド偏光子。
【請求項6】
前記反射型ワイヤグリッド偏光子は、格子状に凸部を有する基材と、この基材の凸部上に形成され、反射型偏光成分で構成された層と、を具備することを特徴とする請求項1から請求項5のいずれかに記載のワイヤグリッド偏光子。
【請求項7】
表示デバイスと、前記表示デバイスに光を照射する照明手段と、請求項1から請求項6のいずれかに記載のワイヤグリッド偏光子と、を具備し、前記反射型ワイヤグリッド偏光子が前記照明手段側に配置されることを特徴とする表示装置。
【請求項8】
基材上に吸収型偏光成分を格子状に配置した吸収型ワイヤグリッド偏光子と、基材上に反射型偏光成分を格子状に配置した反射型ワイヤグリッド偏光子と、を積層してなるワイヤグリッド偏光子の製造方法であって、少なくとも前記吸収型ワイヤグリッド偏光子は、格子状に凸部を有する基材を準備する工程と、横断面視において前記凸部の側面の一部を含む領域にわたって片寄った状態で透明保護膜を製膜する第1製膜工程と、前記透明保護膜上に吸収型偏光成分を製膜する第2製膜工程と、前記吸収型偏光成分を覆うように前記透明保護膜を製膜する第3製膜工程と、を具備して製造され、前記基材に対する製膜材料の入射角度が同一であり、前記第1製膜工程及び/又は前記第3製膜工程における製膜材料源−基材間距離(Ts)と平均自由工程(Λ)との間の比N(Ts/Λ)が、前記第2製膜工程における比Nの1.5倍以上であることを特徴とするワイヤグリッド偏光子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−107903(P2010−107903A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−282261(P2008−282261)
【出願日】平成20年10月31日(2008.10.31)
【出願人】(309002329)旭化成イーマテリアルズ株式会社 (771)
【Fターム(参考)】