説明

ワイヤグリッド型無機偏光板の取付構造及びこれを用いた投写型映像表示装置

【課題】ワイヤグリッド型無機偏光板の取付構造を簡素化するとともに、高価なワイヤグリッド型の無機偏光板の有効活用を図ることを目的とする。
【解決手段】本発明に係るワイヤグリッド型無機偏光板の取付構造は、ホルダー31Bの平面部31Baに光を通過させる開口部31Bbが設けられ、このホルダー31Bの平面部31Baを、ワイヤグリッド型の無機偏光板31Aのガラス基板31Aaと、同偏光板の金属製エレメント31Abを保護する表面保護基材31Cとで挟み付けるように取り付けられている。このようにして、ワイヤグリッド型の無機偏光板31Aの金属製エレメント31Abが開口部31Bb内に挿入されている。また、本発明に係る投写型映像表示装置は、このような構造で取り付けられているワイヤグリッド型の無機偏光板31Aが少なくとも1箇所に使用されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶パネルの前後に配置されるワイヤグリッド型無機偏光板の取付構造及びこれを用いた投写型映像表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、投写型映像表示装置の分野においては、高コントラスト化とともに画質の向上が重要課題となってきている。この対策として、投写型映像表示装置における液晶パネルに無機配向パネルが使用される他、液晶パネルの前後に配置される偏光板として従来の有機偏光板に代わるワイヤグリッド型の無機偏光板が採用されるようになってきている。
【0003】
従来、偏光板としては、一般には沃素や染料系の高分子フィルムからなる吸収型の有機偏光板が用いられていた。しかし、吸収型の有機偏光板は、性能は高いが特定方向の直線偏光以外の光を吸収するため、紫外線等の短波長の光に対しての耐性(耐光性)が低く、現在の小型化及び高輝度化を実現する装置においては光による偏光板の性能劣化の問題が大きくなってきている。また、光束密度の大きな光がこの有機偏光板に入射されると、蓄熱されるため、偏光板が変形したり、熱により染料が消失して偏光性能が劣化したりするなどの耐熱性の問題があった。
【0004】
一方、無機偏光板は、耐光性が高いことから有機偏光板に代わって用いられるようになってきた。その代表的なものとしてワイヤグリッド型の無機偏光板がある。
ワイヤグリッド型の無機偏光板は、特許文献1、特許文献2などに記載のように、透明なガラス基板上に細長い金属製エレメントが光の波長より短い間隔で略並行に配列されたいわゆるワイヤグリッド構造を有するものである。このエレメントは、機械的強度が弱く、布で擦ると表面が破壊され偏光機能が損なわれる。このため埃が付着しても拭き取ることができなかった。この対策として、表面保護コートを付加することが考えられるが、光透過率や吸収率の低下、或いは光反射率の増加などの特性劣化が生じていた。また、表面保護コートでは外部からの物体の衝撃を防止することができないため、金属製エレメントが破壊されるおそれがあった。このため、その使用に際しては、例えば、図5のような構造が採られていた。
【0005】
偏光板は、一般に、製品への組み込み作業を容易にしたり、製品への組み込み時の取付角度を調整したりするためにホルダー101に取り付けられている。図5の従来例においては、ホルダー101には偏光板を取り付けるための開口枠部101aが設けられ、この開口枠部101a内に、ワイヤグリッド型の無機偏光板102が挿入されていた。また、この挿入の向きは、ガラス基板102aが挿入側の表面部材を兼ね、金属製エレメント102bが内側となるように配置される。そして、このガラス基板102aの周縁にスペーサ103が配置され、このスペーサ103を挟んで反対側から開口枠部101aを密封するように表面保護基材としての表面保護ガラス板104が固定されていた。
【0006】
このような構造を採ると、金属製エレメント102bがガラス基板102aと表面保護ガラス板104との間に密封されるので、金属製エレメント102bに埃が付着することが防止されていた。これにより、金属製エレメント102b側の表面部を拭き取る必要がなく、また、金属製エレメント102bに対する外部からの物体の衝撃が防止されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−102183号公報
【特許文献2】特開2004−245871号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、図5のような構造では部品点数が増加するとともに、ホルダー101の開口枠部101aにワイヤグリッド型の無機偏光板102及び表面保護ガラス板104を挿入したり、スペーサ103を挟み込んだりするなどの手間が掛かるという問題があった。このため、構造の簡略化が望まれていた。また、ワイヤグリッド型の無機偏光板102は、高精度な加工を要することから高価であるとともに、偏光機能の点においては在来一般の有機偏光板の方が優れていた。
【0009】
本発明は、従来技術におけるこのような問題点に鑑み成されたものであって、ワイヤグリッド型無機偏光板の取付構造を簡素化するとともに、高価なワイヤグリッド型の無機偏光板の有効活用を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明に係るワイヤグリッド型無機偏光板の取付構造は、平面部に光を通過させる開口部が形成されたホルダーに対し、ワイヤグリッド型の無機偏光板の金属製エレメントが前記開口部内に挿入されるように、同偏光板のガラス基板と前記金属製エレメントをカバーする表面保護基材とが前記ホルダーの平面部を挟んで取り付けられていることを特徴とする。
【0011】
このような構成上の特徴を有する本発明のワイヤグリッド型無機偏光板の取付構造によれば、ホルダーの開口部が設けられている平面部を挟んでワイヤグリッド型の無機偏光板のガラス基板と表面保護基材とが取り付けられている。したがって、従来のように、ワイヤグリッド型の無機偏光板や表面保護基材をホルダーの開口部内に取り付ける必要がなく、ワイヤグリッド型の無機偏光板の取付構造が簡略化される。また、従来のような専用のスペーサを設けなくてもホルダーをスペーサとして兼用することができるので、部品点数を削減することができる。また、ワイヤグリッド型の無機偏光板のガラス基板及び表面保護基材をホルダー表面部に密着させることにより、前記開口部内への埃の侵入を防止することができる。
【0012】
また、前記ホルダーは、前記開口部の厚さが、金属製エレメントと表面保護基材とが接触しない範囲で近接される程度に設定されていることが好ましい。このように前記開口部の厚さが設定されていると、この無機偏光板周りをコンパクトにすることができる。
【0013】
また、前記表面保護基材は、ガラス単体又は主としてガラスから成ることが好ましい。このように構成すると、表面保護基材の光の透過率を高くするとともに、表面保護基材の耐熱性を高くし、さらに、表面保護基材の機械的強度を大きくすることができる。
【0014】
また、前記表面保護基材は、外表面部に偏光機能補充用の偏光板が貼り付けられているようにしてもよい。このようにすると、ワイヤグリッド型の無機偏光板の偏光機能を表面保護基材に貼り付けられた偏光板により補充することにより、偏光機能を向上させることができる。
【0015】
また、上記ワイヤグリッド型無機偏光板の取付構造において、前記ワイヤグリッド型の無機偏光板が前記ホルダーの入射側に取り付けられ、透明ガラス板により形成された表面保護基材が前記ホルダーの出射側に取り付けられとともに、この表面保護基材の外表面部に有機偏光板が取り付けられているようにしてもよい。このように構成すると、ワイヤグリッド型の無機偏光板と有機偏光板とにより偏光機能を向上させることができる。また、有機偏光板が無機偏光板の出射側に配置されることにより、有機偏光板の耐光性不足をカバーすることができる。この結果、偏光機能及び耐光性に優れた偏光板を構成することができる。
【0016】
前記表面保護基材は、外表面部に光学補償板が貼り付けられているようにしてもよい。従来、偏光板を用いた光変調装置において視野角拡大及び画質向上のために光学補償板が用いられるが、このように構成すると、表面保護基材を光学補償板の支持基材に兼用とすることができる。したがって、部品点数を削減しコンパクトにすることができる。
【0017】
前記表面保護基材は、上部においてホルダーの開口部との間に熱気を逃がすことができる程度の小さな隙間が形成されるように取り付けられているようにしてもよい。このようにすると、偏光板に照射される光による熱気を前記隙間から逃がすことができる。これにより、前記開口部内に熱が籠もらないようにし、偏光板の温度上昇を軽減することができる。
【0018】
また、本発明に係る投写型映像表示装置は、液晶パネルの入射側及び出射側に偏光板が配置される液晶ライトバルブを備えた投写型映像表示装置であって、前記液晶ライトバルブのうちの少なくとも一部の偏光板に、前記取付構造によりホルダーに取り付けられたワイヤグリッド型の無機偏光板が使用されているものである。このようにすると、従来、耐光性又は耐熱性が問題となっていた個所の有機偏光板に代えてワイヤグリッド型の無機偏光板を使用することにより、偏光板の耐光性及び耐熱性を向上させることができる。また、投写型映像表示装置における高コントラスト化、高輝度化に対応することができる。
【0019】
また、この投写型映像表示装置は、赤色光用の液晶ライトバルブ、緑色光用の液晶ライトバルブ及び青色光用の液晶ライトバルブを用いた3板式液晶プロジェクタである場合には、これら液晶ライトバルブのうちの少なくとも何れかの液晶ライトバルブに前記ワイヤグリッド型の無機偏光板が使用されているものである。このようにすると、耐光性又は耐熱性が問題となっていた個所の有機偏光板に代えてワイヤグリッド型の無機偏光板を使用することにより、偏光板の耐光性及び耐熱性を向上させることができる。また、各色光の特性を勘案してワイヤグリッド型の無機偏光板を有効に使用することができる。
【0020】
また、このように3板式液晶プロジェクタとして形成されている投写型映像表示装置において、前記青色光用の液晶ライトバルブにおける入射側偏光板として、前記ワイヤグリッド型の無機偏光板が使用されているものである。青色光は波長が短く光のエネルギが強力であるため、青色光用の液晶ライトバルブにおける入射側偏光板として有機偏光板が用いられている場合には、偏光フィルム焼けにより偏光機能が劣化しやすいという耐光性の問題があった。したがって、この部分にワイヤグリッド型の無機偏光板を用いることにより、このような耐光性の問題を解消することができる。
【0021】
また、3板式液晶プロジェクタとして形成されている投写型映像表示装置において、前記緑色光用の液晶ライトバルブにおける出射側偏光板として、前記ワイヤグリッド型の無機偏光板が使用されているものである。緑色光の光量は赤色光及び青色光に比べて圧倒的に多い。このため、緑色光用の液晶ライトバルブにおける出射側偏光板に染料系の有機偏光板を使用すると、温度上昇により染料が抜けて透明になり偏光機能が劣化するという耐熱性の問題があった。したがって、この部分にワイヤグリッド型の無機偏光板を用いることにより、このような耐熱性の問題を解消することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明のワイヤグリッド型無機偏光板の取付構造によれば、ホルダーの開口部が設けられている平面部を挟んでワイヤグリッド型の無機偏光板のガラス基板と表面保護基材とが取り付けられるので、取付構造が簡略化される。また、ホルダーをスペーサとして兼用することができるので、部品点数を削減することができる。また、ワイヤグリッド型の無機偏光板のガラス基板及び表面保護基材をホルダー表面部に密着させることにより、前記開口部内への埃の侵入を防止することができる。また、本発明の投写型映像表示装置によれば、液晶パネルのうちの一部の偏光板を上記取付構造によりホルダーに取り付けられたワイヤグリッド型の無機偏光板とすることにより、偏光板の耐光性及び耐熱性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施の形態に係る3板式液晶プロジェクタの光学系の平面配置図である。
【図2】同3板式液晶プロジェクタにおける液晶ライトバルブの構成図である。
【図3】同液晶ライトバルブにおけるワイヤグリッド型無機偏光板の取付構造図である。
【図4】変形例に係るワイヤグリッド型無機偏光板の取付構造図である。
【図5】従来例に係るワイヤグリッド型無機偏光板の取付構造図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を適用した実施の形態に係る投写型映像表示装置について、図面を参照して詳細に説明する。本実施の形態に係る投写型映像表示装置は3板式液晶プロジェクタである。まず、その光学系を図1に基づき説明する。
【0025】
光源ランプ10は、メタルハライドランプ等からなる。光源ランプ10から出射された白色光は、インテグレータレンズ11及び集光レンズ12を経た後、全反射ミラー13によって光路が90°変更されて、光分離光学系を構成する第1ダイクロイックミラー14へと導かれる。上記インテグレータレンズ11は、一対のレンズ群から構成されており、個々のレンズ部分が後述する液晶パネル33の全面を照射するように設計されている。これにより、光源ランプ10から出射された光に存在する部分的な輝度むらが平均化され、画面中央と周辺部とでの光量差が低減される。
【0026】
第1ダイクロイックミラー14は、赤色波長域の光を透過し、シアン(緑+青)色波長帯域の光を反射する。第1ダイクロイックミラー14を透過した赤色波長域の光は、全反射ミラー15にて反射されて光路が変更される。そして、赤色光用の液晶ライトバルブ21rに導かれ、ここで映像信号に基づき光変調される。
【0027】
一方、第1ダイクロイックミラー14にて反射したシアン色波長帯域の光は、第2ダイクロイックミラー16に導かれる。第2ダイクロイックミラー16にて、青色波長帯域の光は透過され、緑色波長帯域の光は反射される。反射された緑色波長帯域の光は、緑色光用の液晶ライトバルブ21gに導かれ、ここで映像信号に基づき光変調される。
【0028】
また、第2ダイクロイックミラー16にて透過された青色波長域の光は、リレーレンズ17、19、全反射ミラー18,20を経て青色光用の液晶ライトバルブ21bに導かれ、ここで映像信号に基づき光変調される。本実施の形態において、光分離光学系は、第1ダイクロイックミラー14及び第2ダイクロイックミラー16、全反射ミラー15、18、19、リレーレンズ17、19等より構成される。
【0029】
各液晶ライトバルブ21r,21g,21bにおいて変調された変調光(各色映像光)は、ダイクロイックプリズム22によって合成されたカラー映像光となる。このカラー映像光は、投写レンズ23によって拡大投写され、図示しないスクリーン上に投影表示される。
【0030】
次に、図2に基づき各液晶ライトバルブ21r,21g,21bの構成を説明する。なお、各液晶ライトバルブ21r,21g,21bの構成は、基本的に同様の構成であるので、図2及び図3に基づきその代表例を示す。
【0031】
液晶ライトバルブ21r,21g,21bは、入射側偏光板31と、光学補償板32と、液晶パネル33と、出射側偏光板34などにより構成されている。
入射側偏光板31は、無機偏光板と有機偏光板とが使用されており、入射した無偏光の入射光のうち、この入射側偏光板31の光透過軸の方向に振動方向が一致する直線偏光を透過し、他の振動方向の直線偏光を反射又は吸収するように構成されている。この入射側偏光板31の詳細構造は、本発明の特徴を成すものであって、その詳細は後述する。
【0032】
光学補償板32は、液晶パネル33の複屈折を補償するものであって、コントラスト向上と黒表示むらの解消を目的に使用されている。
液晶パネル33は、透過型のもので、動作モードとしてはTNモード、VAモードなどが使用される。制御部(図示せず)からの制御信号に基づき赤色光、緑色光又は青色光を光変調し、変調光を出射するように構成されている。
【0033】
出射側偏光板34は、サファイア基板34aに有機偏光板34bが貼り付けられたものである。また、この出射側偏光板34は、液晶パネル33による光変調機能を発揮させるべく、入射側偏光板31の光透過軸と出射側偏光板34の光透過軸とは、相互の角度が垂直又は平行となるように配置されている。この相対角度を水平とするか垂直とするかは、液晶パネル33の動作モードによる。また、この相対角度がずれて組み込まれた場合は、十分な表示性能が得られなくなるので、入射側偏光板31が図示しない回動機構により、図2に破線矢印で示す方向に組立時に回動調整されている。なお、図2の実施の形態においては、出射側偏光板34としては、従来一般的のものと同様に有機偏光板が使用されている。
【0034】
次に、本発明の特徴を成す入射側偏光板31について図3に基づき詳細に説明する。
入射側偏光板31は、本発明の特徴を成す構成部分であって、無機偏光板31Aと、偏光板を取り付けるためのホルダー31Bと、無機偏光板31Aのエレメント側表面を覆う(カバーする)表面保護基材31Cと、表面保護基材31Cの外表面部に貼り付けられている有機偏光板31Dとにより構成され、図示のような構造にて取り付けられている。
【0035】
無機偏光板31Aは、透明なガラス基板31Aa上に細長い金属製(例えば、アルミニウム製)エレメント31Abが光の波長より短い間隔で略並行に配列されたいわゆるワイヤグリッド構造を有するワイヤグリッド型の無機偏光板である。この無機偏光板31Aは、上記エレメントの長さ方向に直角な振動方向を有する偏光を透過させる一方、金属製エレメント31Abの長さ方向に平行な振動方向を有する偏光を反射するものである。そして、このワイヤグリッド型の無機偏光板31Aは耐光性が高いところに特徴がある。
【0036】
ホルダー31Bは、耐熱性樹脂又は金属材料から成るものであって、平面部31Baの中央部に光を通過させる開口部31Bbが設けられている。平面部31Baの厚みは、無機偏光板31Aにおける金属製エレメント31Abのガラス基板31Aaからの突出高さより若干大きく形成されている。すなわち、開口部31Bbの厚さが、金属製エレメント31Abと表面保護基材31Cとが接触しない範囲で近接される程度に設定されている。これによりホルダー31Bが、スペーサの機能を兼ね、ガラス基板31Aaと表面保護基材31Cとの間に設けられていたスペーサを不要としている。
【0037】
表面保護基材31Cは、無機偏光板31Aにおける金属製エレメント31Abをカバーして保護するためのものであって、ガラス単体又は主としてガラスから成る材料により形成されている。このような材料を使用するのは、表面保護基材31Cの光の透過率を高くするとともに、表面保護基材31Cの耐熱性を高くし、さらに、表面保護基材31Cの機械的強度を大きくするためである。
【0038】
有機偏光板31Dは、出射側偏光板34と同様に在来一般に使用される有機偏光板であって、ワイヤグリッド型の無機偏光板31Aの偏光性能を補足するためのものである。この有機偏光板31Dは、沃素、染料等の異方性を有する吸光性分子が特定の方向に配向された構造を有するものであって、特定の振動方向成分の光を吸収して偏光板としての機能を発揮する。このため、この有機偏光板31Dは、偏光機能は高いものの、特定方向の直線偏光以外の光を吸収するため紫外線等の短波長の光に対しての耐光性が低く、性能の劣化が問題となっている。また、光束密度の大きな光が入射すると蓄熱し、偏光板が変形したり、染料が消失したりする等の耐熱性の問題がある。
【0039】
また、入射側偏光板31におけるワイヤグリッド型の無機偏光板31Aの取付構造は、図3のように、無機偏光板31Aの金属製エレメント31Abが開口部31Bb内に挿入されるように、無機偏光板31Aのガラス基板31Aaと表面保護基材31Cとがホルダー31Bの平面部31Baを挟んで取り付けられている。また、有機偏光板31Dが、表面保護基材31Cの出射側の外表面部に貼り付けられている。
【0040】
このように、入射側偏光板31は、ワイヤグリッド型の無機偏光板31Aを入射側に、有機偏光板31Dを出射側に配置することにより、偏光性能が高く、耐光性に優れたハイブリッド型の偏光板として構成されている。
【0041】
無機偏光板31Aのガラス基板31Aa及び表面保護基材31Cのホルダー31Bへの取り付け方法は、特に限定されるものではない。ガラス基板31Aa及び表面保護基材31Cを、ホルダー31Bに対し直接ネジ止めしてもよいし、押さえ部材(図示せず)を介して間接的にねじ止めしてよい。また、ホルダー31Bに弾性係合部(図示せず)を形成し、この弾性係合部によりガラス基板31Aa又は表面保護基材31Cをそれぞれ係合固定するようにしてもよい。或いは、ガラス基板31Aa及び表面保護基材31Cをホルダー31Bに対し接着剤により貼り付けてもよい。
【0042】
本発明に係る投写型映像表示装置においては、一部の偏光板(図2に示す代表例では入射側偏光板31)にワイヤグリッド型の無機偏光板を使用し、他を在来一般に用いられている沃素系又は染料系の高分子フィルムからなる吸収型の有機偏光板のままとする。このようにするのは、ワイヤグリッド型の無機偏光板31Aが高精度な加工を必要とし高価であるため、必要度とコストとを勘案してワイヤグリッド型の無機偏光板31Aの使用箇所を減らすためである。このような無機偏光板を必要とする度合いが高い箇所は、耐光性又は耐熱性を必要とする箇所である。
【0043】
例えば、青色光用の液晶ライトバルブ21bにおいては、入射側偏光板31としてワイヤグリッド型の無機偏光板31Aを使用すると効果がある。その理由は、青色光は波長が短く光のエネルギが強力であるため、有機偏光板を使用すると偏光フィルムが焼けて偏光機能が劣化しやすいという耐光性の問題があった。したがって、図2及び図3に示す配列及び取付構造は、青色光用の液晶ライトバルブ21bに適用すると効果的である。なお、図2及び図3においては、入射側偏光板31として有機偏光板31Dも使用されているが、無機偏光板31Aの出射側に用いられているので、この有機偏光板に入射される光のエネルギは低減されている。
【0044】
また、緑色光用の液晶ライトバルブ21gにおいては、出射側偏光板34の耐熱性が問題であった。すなわち、緑色光は、他の青色光及び赤色光に比べて圧倒的に光量が大きくなるので、緑色光用の液晶ライトバルブ21gにおける出射側偏光板34に染料系の有機偏光板を使用すると、吸熱により偏光板が変形したり、染料が抜けて透明になり偏光機能が劣化したり、などという耐熱性の問題があった。したがって、緑色光用の液晶ライトバルブ21gおいては、図2における入射側偏光板31と出射側偏光板34とを入れ換えた配列とすることが好ましい。つまり、入射側偏光板31として図2に出射側偏光板として示すような有機偏光板を使用し、出射側偏光板34として図2における入射側偏光板として示すような無機偏光板を使用したものとすることが好ましい。
【0045】
また、赤色光用の液晶ライトバルブ21rにおいては、光のエネルギが他の色光に比し小さく、さらに光量も緑色光のように多くはないので、ワイヤグリッド型の無機偏光板31Aを使用する必要度は低いといえる。
【0046】
このように、使用場所により有機偏光板をワイヤグリッド型の無機偏光板に変更する必要度が異なるので、必要度とコストとのバランスを考慮して、有機偏光板、ワイヤグリッド型の無機偏光板の何れを使用するか、或いは、図2の入射側偏光板31のようなハイブリッド型にするか決めることが好ましい。
【0047】
以上のように構成された実施の形態に係るワイヤグリッド型の無機偏光板の取り付け構造によれば、次の効果を奏することができる。
(1)従来のように、ワイヤグリッド型の無機偏光板や表面保護基材をホルダーの開口部内に取り付ける必要がなく、ホルダー31Bの開口部31Bbが設けられている平面部31Baを挟んでワイヤグリッド型の無機偏光板31Aのガラス基板31Aaと表面保護基材31Cとを取り付ければよいので取付構造が簡略化される。また、従来のような専用のスペーサを設けなくてもホルダー31Bをスペーサとして兼用することができるので、部品点数を削減することができる。また、ワイヤグリッド型の無機偏光板31Aのガラス基板31Aa及び表面保護基材31Cをホルダー31Bの表面に密着させることにより、開口部31Bb内への埃の侵入を防止することができる。
【0048】
(2)ホルダー31Bは、開口部31Bbの厚さが、金属製エレメント31Abと表面保護基材31Cとが接触しない範囲で近接される程度に設定されているので、この無機偏光板31A周りをコンパクトにすることができる。
【0049】
(3)表面保護基材31Cは、ガラス単体又は主としてガラスから成るので、表面保護基材31Cの光の透過率を高くするとともに、表面保護基材31Cの耐熱性を高くし、さらに、表面保護基材31Cの機械的強度を大きくすることができる。
【0050】
(4)表面保護基材31Cは、外表面に偏光機能を補充するための有機偏光板31Dが貼り付けられているので、ワイヤグリッド型の無機偏光板31Aの偏光機能を表面保護基材31Cに貼り付けられた有機偏光板31Dにより補充することにより、偏光機能を向上させることができる。
【0051】
(5)ワイヤグリッド型の無機偏光板31Aがホルダー31Bの入射側に取り付けられ、透明ガラス板により形成された表面保護基材31Cがホルダー31Bの出射側に取り付けられるとともに、表面保護基材31Cの外表面部に有機偏光板31Dが取り付けられている。したがって、偏光機能および耐光性に優れた偏光板を形成することができる。
【0052】
(6)本実施の形態に係る投写型映像表示装置は、液晶パネル33の入射側及び出射側に偏光板が配置される液晶ライトバルブ21r、21g、21bを備えた投写型映像表示装置であって、一部の偏光板に前記取付構造によりホルダー31Bに取り付けられたワイヤグリッド型の無機偏光板31Aを使用するものである。したがって、従来、耐光性又は耐熱性が問題となっていた個所の有機偏光板に代えてワイヤグリッド型の無機偏光板31Aを使用することにより、偏光板の耐光性及び耐熱性を向上させることができる。また、投写型映像表示装置における高コントラスト化、高輝度化に対応することができる。
【0053】
(7)また、本実施の形態に係る投写型映像表示装置は、赤色光用、緑色光用及び青色光用の液晶ライトバルブ21r、21g、21bを用いた3板式液晶プロジェクタであって、何れかの液晶ライトバルブ21r、21g、21bに前述の取付構造によりホルダー31Bに取り付けられたワイヤグリッド型の無機偏光板31Aを使用するものである。したがって、従来、耐光性又は耐熱性が問題となっていた個所の有機偏光板に代えてワイヤグリッド型の無機偏光板31Aを使用することにより、偏光板の耐光性及び耐熱性を向上させることができる。また、各色光の特性を勘案してワイヤグリッド型の無機偏光板31Aを有効に使用することができる。
【0054】
(8)また、本実施の形態に係る投写型映像表示装置は、赤色光用、緑色光用及び青色光用の液晶ライトバルブ21r、21g、21bを用いた3板式液晶プロジェクタであって、青色光用の液晶ライトバルブ21bにおける入射側偏光板31として、前述の取付構造のワイヤグリッド型の無機偏光板31Aを使用したものとすることができる。青色光は波長が短く光のエネルギが強力であるため、青色光用の液晶ライトバルブ21bにおける入射側偏光板31として有機偏光板が用いられている場合には、偏光フィルム焼けにより偏光機能が劣化しやすいという耐光性の問題があった。したがって、この部分にワイヤグリッド型の無機偏光板31Aを用いることにより、このような耐光性の問題を解消することができる。
【0055】
(9)また、本実施の形態に係る投写型映像表示装置は、赤色光用、緑色光用及び青色光用の液晶ライトバルブ21r、21g、21bを用いた3板式液晶プロジェクタであって、緑色光用の液晶ライトバルブ21gにおける出射側偏光板34として、前述の取付構造のワイヤグリッド型の無機偏光板31Aを使用したものとすることができる。緑色光の光量は赤色光及び青色光に比べて圧倒的に多い。このため、緑色光用の液晶ライトバルブ21gにおける出射側偏光板34に染料系の有機偏光板を使用すると、温度上昇により染料が抜けて透明になり偏光機能が劣化するという耐熱性の問題があった。したがって、この箇所にワイヤグリッド型の無機偏光板31Aを用いることにより、このような耐熱性の問題を解消することができる。
【0056】
(変形例)
上記実施の形態において以下のように変更することもできる。
・前記実施の形態においては、表面保護基材31Cの外表面部に有機偏光板31Dが貼り付けられていたが、この有機偏光板31Dを設けることは本発明において必須の要件ではなく、省略したものとすることもできる。
【0057】
・また、図2に示すように、先の実施の形態においては光学補償板32を入射側偏光板31とは別個に設けていたが、この光学補償板32を表面保護基材31Cの外表面部に貼り付けるようにしてもよい。このようにすれば、光学補償板32の支持基材を省略することができる。なお、光学補償板32は、前記有機偏光板31Dに加えてその外表面部に貼り付けてもよいし、有機偏光板31Dを無しにして表面保護基材31Cの外表面部に貼り付けてもよい。
【0058】
・また、前記実施の形態においては、有機偏光板31Dを外表面部に貼り付けた表面保護基材31Cが、ホルダー31Bの開口部31Bb内を完全密封するように貼り付けられていたが、図4に示すように、この表面保護基材31Cの上部に、開口部31Bbに通じるわずかな隙間31Eを設けるようにしてもよい。このように開口部31Bb内にワイヤグリッド型の無機偏光板31Aの金属製エレメント31Abを挿入した場合は、埃の侵入を防止するとともに、隙間31Eから熱を放散することができるので、熱を籠もらせないようにすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明に係るワイヤグリッド型の無機偏光板31Aの取付構造は、透過型の液晶パネル33の入射側及び出射側に偏光板を配置するようにした液晶ライトバルブ21r,21g,21bに使用することができる。また、このような液晶ライトバルブ21r,21g,21bを使用した投写型映像表示装置は、ホームシアター、会議室、研修室、教室、娯楽場、各種展示室、スタジオなど多方面の施設における画像表示システムとして利用することができる。
【符号の説明】
【0060】
21r…(赤色光用の)液晶ライトバルブ、21g…(緑色光用の)液晶ライトバルブ、21b…(青色光用の)液晶ライトバルブ、31…入射側偏光板、31A…ワイヤグリッド型の無機偏光板、31B…ホルダー、31C…表面保護基材、31D…有機偏光板、31E…隙間、31Aa…ガラス基板、31Ab…金属製エレメント、31Ba…平面部、31Bb…開口部、32…光学補償板、33…液晶パネル、34…出射側偏光板。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平面部に光を通過させる開口部が形成されたホルダーに対し、
ワイヤグリッド型の無機偏光板の金属製エレメントが前記開口部内に挿入されるように、同偏光板のガラス基板と前記金属製エレメントをカバーする表面保護基材とが前記ホルダーの平面部を挟んで取り付けられている
ことを特徴とするワイヤグリッド型無機偏光板の取付構造。
【請求項2】
前記ホルダーは、前記開口部の厚さが、金属製エレメントと表面保護基材とが接触しない範囲で近接される程度に設定されていることを特徴とする請求項1記載のワイヤグリッド型無機偏光板の取付構造。
【請求項3】
前記表面保護基材は、ガラス単体又は主としてガラスから成ることを特徴とする請求項1又は2記載のワイヤグリッド型無機偏光板の取付構造。
【請求項4】
前記表面保護基材は、外表面部に偏光機能補充用の偏光板が貼り付けられていることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載のワイヤグリッド型無機偏光板の取付構造。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか1項に記載のワイヤグリッド型無機偏光板の取付構造において、前記ワイヤグリッド型の無機偏光板が前記ホルダーの入射側に取り付けられ、透明ガラス板により形成された表面保護基材が前記ホルダーの出射側に取り付けられとともに、この表面保護基材の外表面部に有機偏光板が取り付けられていることを特徴とするワイヤグリッド型無機偏光板の取付構造。
【請求項6】
前記表面保護基材は、外表面部に光学補償板が貼り付けられていることを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載のワイヤグリッド型無機偏光板の取付構造。
【請求項7】
前記表面保護基材は、上部においてホルダーの開口部との間に熱気を逃がすことができる程度の小さな隙間が形成されるように取り付けられていることを特徴とする請求項1〜6の何れか1項に記載のワイヤグリッド型無機偏光板の取付構造。
【請求項8】
液晶パネルの入射側及び出射側に偏光板が配置される液晶ライトバルブを備えた投写型映像表示装置であって、
前記液晶ライトバルブのうちの少なくとも一部の偏光板が、請求項1〜7の何れか1項に記載の取付構造によりホルダーに取り付けられたワイヤグリッド型の無機偏光板が使用されている
ことを特徴とする投写型映像表示装置。
【請求項9】
請求項8記載の投写型映像表示装置は、赤色光用の液晶ライトバルブ、緑色光用の液晶ライトバルブ及び青色光用の液晶ライトバルブを用いた3板式液晶プロジェクタであって、
これら液晶ライトバルブのうちの少なくとも何れかの液晶ライトバルブに前記ワイヤグリッド型の無機偏光板が使用されている
ことを特徴とする投写型映像表示装置。
【請求項10】
請求項9記載の投写型映像表示装置において、
前記青色光用の液晶ライトバルブにおける入射側偏光板として、前記ワイヤグリッド型の無機偏光板が使用されている
ことを特徴とする投写型映像表示装置。
【請求項11】
請求項9又は10記載の投写型映像表示装置において、
前記緑色光用の液晶ライトバルブにおける出射側偏光板として、前記ワイヤグリッド型の無機偏光板が使用されている
ことを特徴とする投写型映像表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−47880(P2012−47880A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−188349(P2010−188349)
【出願日】平成22年8月25日(2010.8.25)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【Fターム(参考)】