説明

ワイヤハーネス用の分岐保持具

【課題】ワイヤハーネスの分岐位置に取り付け、電線群を分岐した状態で保持する。
【解決手段】弾性体からなる本体の側面に開口する複数の電線挿通路を中央交差部で連通させて、該本体内部に貫通して設け、かつ、前記本体の上面から前記電線挿通路および中央交差部の全長と連続させるスリットを切り込み、該スリットから電線を前記電線挿通路および中央交差部に押し込んで任意の方向に分岐できる構成としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に配索するワイヤハーネス用の分岐保持具に関し、特に、分岐方向が相違しても共用できるようにするものである。
【背景技術】
【0002】
車両に配索するワイヤハーネスは、分岐位置でV字状に2方向に分岐、T字状やY字状に3方向に分岐、十字状に4方向に分岐され、かつ、分岐される方向も相違する。
この分岐の作成は、通常、ワイヤハーネス組立作業台(以下、図板と称す)での電線の布線時に、図板上で分岐位置に立設した布線治具に沿って電線を所要方向に布線し、その後、図13に示すように、粘着テープTを分岐位置の電線群Wに巻き付けて分岐部を形成している。
【0003】
しかしながら、前記テープ巻きで分岐部を形成する作業は、図板上で布線治具で電線群を受け止めながら布線した後に電線群に長さ方向に沿って粘着テープを巻き付けて結束する結束工程とは別にテープ巻き工程となる。よって、テープ巻き作業に手数がかかる問題がある。かつ、分岐部は粘着テープを股掛けして巻き付けても、電線群の一部が露出すると共に、テープ巻き作業は作業者の熟練度により仕上がり品質に差が発生しやすい。
【0004】
前記した問題に対して、従来、本出願人は特開平11−89044号公報で図14(A)(B)に示す分岐部の保護材100を提供している。該保護材100は弾性材で成形した上面開口のボックス状の本体101の4面に円弧状の挿通溝102を設けると共に、該挿通溝102の周縁にテープ巻用の舌片103を設け、電線Wを挿通溝102を通して分岐配線し、その後、舌片103にテープTで巻き固着すると共に、本体101に表皮(蓋)105を被せている。
【0005】
前記保護材100では、本体101に電線Wを通した状態で電線Wを押さえる部材がないため、挿通溝102の周縁に設けたテープ巻用の舌片103に電線WをテープTで巻き固着しなければならず、テープ巻き作業に手数がかかる問題は解消されていない。
【0006】
本出願人は また、特開平11−155218号公報で図15(A)(B)に示すように同様な形状とした分岐部保護具200を提供している。該分岐部保護具200では本体201に電線Wを通した状態で押さえがないため、蓋202を被せる時に電線Wが噛み込む恐れがあるため、本体201にテープ巻き舌片201aを突設し、テープTを巻きつけている。このようにテープ巻き作業が必要となり、作業性が悪い問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11−89044号公報
【特許文献2】特開平11−155218号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は前記問題を解消するため、分岐保持具に電線群を通した後に、該電線群のテープ巻き作業を不要とできる分岐保持具を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するため、本発明は、弾性体からなる本体の側面に開口する複数の電線挿通路を中央交差部で連通させて、該本体内部に貫通して設け、かつ、前記本体の上面から前記電線挿通路および中央交差部の全長と連続させるスリットを切り込み、該スリットから電線を前記電線挿通路および中央交差部に押し込んで任意の方向に分岐できる構成としていることを特徴とするワイヤハーネス用の分岐保持具を提供している。
【0010】
前記のように、本発明では、本体に貫通して設けた電線挿通路および中央交差部に、上面(使用時に逆転されて下面となる場合も含む)に設けたスリットを連通させていることを特徴とし、スリットを押し開いて電線を挿通した後、スリットは閉じるため、電線挿通路内で電線を保持でき、本体の蓋を不要にできると共に本体への電線のテープ巻き作業も不要にできる。
【0011】
前記スリットは本体の上面から前記電線挿通路および中央交差部の上面に直線状に切り込んだ形状とし、該スリットは押し開くことでスリット両側面が離れるようにし、
あるいは、前記スリットは断面V形状とし、下端の頂点を分離させている。
【0012】
前記のように、スリットは1本の電線を押し込むことができる幅でよく、かつ、本体を弾性体から形成しているため、電線押し込み時に広げることができればよい。強制的に広げない時には弾性体からなるスリットの両側面が互いに接触した状態とすれば蓋を不要にできる。この観点から、スリットは細い程好ましい。
但し、スリットを通して電線を挿入しやすくするため、前記のようにスリットを断面V形状としてもよい。この場合も、スリットの下端の両側面が通常接触した状態になれば蓋は不要である。
しかしながら、該スリットの全長に沿った断面V形状の蓋を設け、全電線をスリットを通して挿入した後、蓋をスリットに嵌合してもよい。
【0013】
前記本体はゴムまたはエラストマーからなる弾性体で成形している。本体の形状はT字状、十字状とすることが好ましいが、単純な立方体、直方体、円柱体でも良い。
前記立方体、直方体の場合は各辺の外面に電線挿通路の先端を開口させ、円柱体の場合は中央に設ける中央交差部から外周に放射状に電線挿通路を設け、外周面に周方向に角度間隔をあけて電線挿通路を開口している。
【0014】
本体はT字状または十字状とすることが好ましい。該形状とすると、本体を弾性体から形成しているため、挿通する電線を配索方向へと湾曲させることで、各外側部を連動して所要方向に屈曲させることも可能となる。
【0015】
また、前記T字状または十字状とした本体の先端側外周面に凹凸部を設け、本体から引き出す電線群に外装するコルゲートチューブの先端を凹凸部に被せて、コルゲートチューブの山部と谷部と嵌合して結合できるようにすることが好ましい。
【0016】
前記のように、本体の4つ又は3つの外側面にそれぞれ開口した前記電線挿通路を設け、本体の中央に設ける前記中央交差部に連通するように前記各電線挿通路を設けている。これにより、任意の電線挿通路の開口から通した電線を中央交差部を通して任意の電線挿通路の開口から引き出すように配線することができる。
前記電線挿通路は断面円形穴でも良いし、角穴でもよい。該電線挿通路の断面積は挿通予定の電線の断面積の合計に略対応させることが好ましい。しかしながら、電線の断面積合計が電線挿通路の断面積より大きい場合には本体を弾性体で形成しているため挿通可能であり、小さい場合はスリットに連通しているだけであるため、脱落することなく電線挿通路内に挿通保持することができる。
【発明の効果】
【0017】
前記した本発明の分岐保持具は、弾性体から形成する本体の内部に貫通して設けた電線挿通路および中央交差部と連通するスリットを上面に設け、該スリットを押し開いて電線を内部の電線挿通路および中央交差部に通した後は、スリットは弾性体の原状復元力で閉じた状態となる。よって、蓋が不要になり、かつ、電線は本体内部の電線挿通路内で保持できるため、電線を本体へ固定するためのテープ巻き作業を不要にできる。よって、部品点数の削減、作業工程の削減で製造コストを大幅に低減できる。
さらに、弾性体で本体を形成しているため、挿通する電線を配索方向に引っ張ることで本体を電線に追従して変形でき、分岐した電線の配索方向が多少相違しても共用で用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の第一実施形態の分岐保持具を用いてワイヤハーネスの分岐部を保持している状態を示す斜視図である。
【図2】前記分岐保持具を示し、(A)は斜視図、(B)は平面図、(C)は断面図である。
【図3】図2の分岐保持具に電線を挿通している状態を示す断面図である。
【図4】前記分岐保持具を図板上に設置している状態を示す概略平面図である。
【図5】電線を分岐保持具に挿通している工程を示す図面である。
【図6】(A)(B)は分岐保持具に電線を挿通した後に分岐保持具の一部突出部を傾斜させる場合を示す概略斜視図である。
【図7】第一実施形態の変形例を示す斜視図である。
【図8】第二実施形態を示す斜視図である。
【図9】第三実施形態の分解斜視図である。
【図10】第三実施形態のスリットに蓋を取り付けた状態の断面図である。
【図11】第四実施形態の分岐保持具を示す概略図である。
【図12】(A)(B)は第四実施形態の要部拡大図、(C)は要部拡大断面図である。
【図13】従来例を示す斜視図である。
【図14】(A)(B)は他の従来例を示す斜視図である。
【図15】(A)(B)は他の従来例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の分岐保持具の実施形態を図面を参照して説明する。
図1乃至図6に第一実施形態を示す。
図1に示すように、自動車に配索するワイヤハーネス10の十字分岐位置に本発明の第一実施形態の分岐保持具1を取り付けてワイヤハーネス10の分岐を保持しており、該分岐位置でワイヤハーネスの分岐させた4つの枝線11A〜11Dは分岐保持具1にテープ巻き固着していない。
【0020】
分岐保持具1は、図2に示すゴム成形品からなる本体2のみの1部品からなる。該本体2は平面視で十字形状とした厚肉の中実体からなる。即ち、本体2は略立方体状の中央部2aの4側面からそれぞれ突出部2b〜2eを4方に突出させて十字形状としている。
【0021】
本体2の上面3には上面中央点3aで交差する十字線からなるスリット5を内方へと切り込んで設けている。該スリット5は中央交差点5aで交差して前記4方の突出部2b〜2eの先端まで連続するスリット部5b〜5eからなる。図5に示すように、該スリット5の幅は1本の電線を押し込んで挿入できる幅とし、電線挿入後は弾性力により原状に復元するとスリット5の両側面が当接して閉鎖した状態となる。
【0022】
本体2の内部には前記スリット5と平行に電線挿通路6を貫通して穿設し、該電線挿通路6の上面を前記スリット5と連通している。本体2の中央部2a内に中央交差部7を設け、各突出部2b〜2eの外端面に開口する4本の前記電線挿通路6a〜6dと連通している。これにより、電線挿通路6aから挿入する電線W1を中央交差部7で直進させて電線挿通路6bから引き出し、電線W2は屈曲させて電線挿通路6cから引き出し、電線W3は電線挿通路6dから引き出し、各電線挿通方向を3方向から選択できるようにしている。
【0023】
前記各電線挿通路6の断面形状は円形(または四角形)とし、その断面積は挿通する電線群の断面積の合計と略同等としている。
【0024】
前記形状としたゴム製の分岐保持具1は、図4に示すように、ワイヤハーネス組立作業台(図板)20上で電線群を布線する時に電線群に取り付けている。詳細には、図板20に立設する布線治具21で分岐保持具1を支持する。該分岐保持具1の本体2は上面3を上向きに保持して、布線する電線をスリット5より押し込んで布線していく。この布線で電線wを十字分岐して枝線11A〜11Dとする。
図5に示すように、スリット5は電線wを押し込み時には開くが、押し込み後は弾性復帰して穴を閉じた状態となる。また、中央交差部7を通して電線挿通路6から引き出された各枝線11A〜11Dは略閉断面となる電線挿通路6を貫通して引き出されるため、本体2から離脱することはない。よって、各枝線11A〜11Dを本体2に粘着テープで巻き付けて固着する必要はない。
【0025】
このように、本発明の前記分岐保持具1を用いると、本体2の1部品だけであり、蓋が不要になると共に、本体2内の電線挿通路6に通した電線は電線挿通路6の内部で保持でき浮き上がりやはみ出しはなく、テープ巻き作業を不要にできる。
かつ、分岐位置で電線群は本体2の内部に完全に隠蔽されて保護でき、外部干渉材の干渉を防止できる。
また、本体2の内部で中央交差部7を全電線挿通路6と連通させているため、電線の取り出し方向を任意に選択できる、他車種への汎用性が高い。
さらに、ワイヤハーネスの製造工程で図板20上に分岐保持具1をセットして電線を布線することができ、布線した後に分岐保持具を取り付ける必要はなく、ワイヤハーネスの製造工程を簡単にできる。
【0026】
また、図6(A)に示すように、分岐させた枝線11Cを傾斜させて配索する場合、枝線11Cを傾斜方向へと引っ張ると、弾性体からなる本体2の突出部2dは傾斜方向へ湾曲し、枝線11Cの配索方向へ追従させることができる。
なお、このように、突出部2dを屈曲させると、スリット5が若干開く恐れがある。よって、図6(B)に示すように、粘着テープTを突出部2b〜2eへと股掛けして巻き付け、開いたスリット5から電線wがはみ出さないようにしてもよい。
【0027】
また、分岐位置の中央に車体係止用のクリップを取り付ける場合には、バンドクリップ(図示せず)を用い、本体2に股掛けして取り付けることができる。また、前記突出部を傾斜および湾曲させて分岐線を三次元方向にも容易に配線できる。
【0028】
図7に第一実施形態の変形例の分岐保持具1を示す。
該分岐保持具1は十字形状の円筒体で本体2を形成している。このように、本体を円筒とすると、本体を減肉して軽量化できる。さらに、四角断面に比べて、突出部を三次元方向に曲げる自由度を高めることができる。
他の構成は第一実施形態と同様であるため、同一符号を付して説明を省略する。
【0029】
図8に第二実施形態の分岐保持具1を示す。
該分岐保持具1はT字分岐位置に用いるもので、本体2をT字形状としている点だけが第一実施形態と相違している。他の構成は第一実施形態と同様であるため、同一符号を付して説明を省略する。
【0030】
図9および図10に第三実施形態の分岐保持具1を示す。
該分岐保持具1は仮結束ハーネスを布線する際に、該仮結束ハーネスの複数本の電線を同時に分岐保持具1のスリットに押し込む場合に、容易にスリットに押し込めるようにしている。
図示のように、ゴム製の本体2の全体形状は第一実施形態と同様であるが、スリットの形状を変えている。本体2に設けた電線挿通路6および中央交差部7と平行に本体2上面3にスリット15を設けている。該スリット15は断面V形状とし上方からの押込口15aを広げている。下端の落下口15bも第一実施形態のスリット5より若干広げている。
【0031】
このように、スリット15を広くしているため、挿入する電線が細線である場合、落下口15bよりはみ出る恐れがある。よって、スリット15に嵌合する平面視が十字形状で、断面V形状の蓋27を設けている。蓋27も本体2と同様なゴム製とし、蓋27の突出端の両側に止板部28を一体に突設している。
スリット15を通して全ての電線を電線挿通路6及び中央交差部7に通した後、蓋27をスリット15に上方からはめ込み、突出端の両側の止板部28をスリット15の下端を押し開いて挿入し、図示のように、本体2の上壁内面に係止している。
なお、前記スリット15の下端の落下口15bの幅を第一実施形態と同様に細幅としておくと、蓋27を設ける必要はない。
【0032】
図11および図12に第四実施形態の分岐保持具1を示す。
第四実施形態の分岐保持具1は前記図7に示す第一実施形態の変形例の分岐保持具1と同様に、本体2の突出部2dを断面円筒とし、その先端側の外周面にコルゲートチューブと嵌合係止する凹凸部29を環状に設けている。これは突出部2dから引き出される枝線にはコルゲートチューブ30を外装し、コルゲートチューブ30の山部30aと谷部30bとに嵌合係止するためである。
【0033】
かつ、前記本体2に設ける凹凸部29は3つの山部31と2つの谷部32を設けた形状としている。先端の山部31では先端側の斜面31aの傾斜角度αを奥側の斜面31bの傾斜角度βより大(α>β)としている。該角度設定により、コルゲートチューブ30と本体2との結合力を高めることができる。
なお、図12(C)に示すように、凹凸部29の内周面には凹凸を設けず、ストレート面29aとしている。
【0034】
前記のように、コルゲートチューブ30の山部と谷部と分岐保持具1に設けた凹凸部29を嵌合して結合すると、コルゲートチューブ30と本体2とのテープ巻き作業を不要とすることができる。
【0035】
なお、本体2の全ての突出部2b〜2eの先端外周に予めコルゲートチューブとの係止用の凹凸部を設けておいてもよい。
【符号の説明】
【0036】
1 分岐保持具
2 本体
3 上面
5 スリット
6 電線挿通路
7 中央交差部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
弾性体からなる本体の側面に開口する複数の電線挿通路を中央交差部で連通させて、該本体内部に貫通して設け、かつ、前記本体の上面から前記電線挿通路および中央交差部の全長と連続させるスリットを切り込み、該スリットから電線を前記電線挿通路および中央交差部に押し込んで任意の方向に分岐できる構成としていることを特徴とするワイヤハーネス用の分岐保持具。
【請求項2】
前記本体は厚肉のT字状または十字状としている請求項1に記載のワイヤハーネス用の分岐保持具。
【請求項3】
前記スリットは本体の上面から前記電線挿通路および中央交差部の上面に直線状に切り込んだ形状とし、該スリットは押し開くことでスリット両側面が離れるようにし、
あるいは、前記スリットは断面V形状とし、下端の頂点を分離させている請求項1または請求項2に記載のワイヤハーネス用の分岐保持具。
【請求項4】
前記スリットは断面V形状とし、該スリットを通して前記電線を挿入後に該スリットに嵌合係止する蓋材を設けている請求項3に記載のワイヤハーネス用の分岐保持具。
【請求項5】
前記T字状または十字状とした本体の先端側外周面に凹凸部を設け、本体から引き出す電線群に外装するコルゲートチューブの先端を凹凸部に被せて、コルゲートチューブの山部と谷部と嵌合して結合できる構成としている請求項2乃至請求項4のいずれか1項に記載のワイヤハーネス用の分岐保持具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2011−239619(P2011−239619A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−110605(P2010−110605)
【出願日】平成22年5月12日(2010.5.12)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【Fターム(参考)】