説明

ワイヤハーネス用の金型

【課題】ワイヤハーネスの電線群に不織布を巻き付けて金型内に充填し、不織布を加熱硬化しで被覆材とする金型において、成形後に迅速にワイヤハーネスを金型から取り出して冷却できるようにする。
【解決手段】下型と上型の間に中型を介在させ、該中型は上下開口とすると共に前記電線群の被覆材の両側面に当接する型面を備え、前記不織布を加熱硬化した後に前記上型を離型し、前記中型の型面で前記被覆材で被覆した電線群を挟持して前記下型から引き出せる構成としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はワイヤハーネス用の金型に関し、詳しくは、ワイヤハーネスを構成する電線群の外周に外装材とする不織布を巻き付けて金型内に充填し、金型を加熱して不織布を加熱硬化させて所要の形状の被覆材(外装材)としてワイヤハーネスの外周に一体的に成形する金型に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のワイヤハーネス用の金型として、本出願人は特開2003−317555号公報は、金型のキャビテイの中央部に電線群を位置させ、該電線群の回りに樹脂を充填し、電線群を被覆する被覆材を樹脂で射出成形する金型を提供している。該金型では射出成形する絶縁樹脂材に凹凸を交互に設けてコルゲートチューブ状としている。
【0003】
前記ワイヤハーネス用の金型を用いると、金型のキャビティを三次元形状とすることで、ワイヤハーネスを車両配索状態に適合した三次元形状に保持できる利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−317555号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、金型内で樹脂を硬化して成形した後、ワイヤハーネスを金型から迅速に取り出して生産性を高める必要があるが、金型が加熱されているため、金型が冷却してからワイヤハーネスを金型から取り出しているため時間がかかり生産性が悪い問題がある。
【0006】
近時、金型に溶融樹脂を注入して外装材を射出成形する方法に代えて、電線群に不織布を巻き付けて金型内に充填し、金型内で不織布を加熱硬化してワイヤハーネスを結束保護すると共に配索経路に沿わせた3次元ワイヤハーネスの製造方法が提案されている。この金型を用いた3次元ワイヤハーネスの製造を行う場合にも、前記した加熱後に金型からワイヤハーネスを取り出すのに時間がかかる問題がある。
【0007】
本発明は前記問題に鑑みてなされたもので、金型内で加熱して電線群に外嵌する外装材を成形した後に迅速にワイヤハーネスを取り出すことができ、生産性の向上がはかれるワイヤハーネス用の金型を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するため、本発明は、
ワイヤハーネスを構成する電線群の外周に不織布が巻き付けられてキャビテイ内に充填され、該不織布を加熱硬化して電線群の被覆材とするワイヤハーネス用の金型であって、 下型と上型の間に中型を介在させ、該中型は上下開口とすると共に前記電線群の被覆材の両側面に当接する型面を備え、
前記不織布を加熱硬化した後に前記上型を離型し、前記中型の型面で前記被覆材で被覆した電線群を挟持して前記下型から引き出せる構成としているワイヤハーネス用の金型を提供している。
【0009】
詳細には、前記下型は上端中央から凹設したキャビテイの底面にワイヤハーネスの下部外周面に対応した形状の型面を備えると共に、該型面の両端に連続した両側壁に窪ませて設けた中型嵌合部を備え、
前記上型はワイヤハーネスの上部外周面に対応した形状の型面を備える下方突出部を備え、
該中型は前記上型の下方突出部を挟む下面と前記下型の中型嵌合部を囲む上面の間に介在させる両側の載置部と、該両側の載置部の対向する内縁から前記上型の下方突出部に外嵌すると共に前記下型の中型嵌合部に内嵌する両側の挟持部を備え、前記上型の型面下端と下型の型面上端との間に位置する部分の前記両側の挟持部を前記ワイヤハーネスの最大幅位置の前記外装材の両側に接触させる型面とし、
前記金型中で前記被覆材を成形後に、前記中型の型面で前記被覆材で外装したワイヤハーネスを挟持して取り出せる構成としている。
【0010】
前記のように、本発明のワイヤハーネス用の金型は、下型と上型の間に介在させる中型を設け、該中型で加熱硬化で成形された外装材で被覆されたワイヤハーネスを挟持できる構成としている。よって、不織布を加熱硬化した後に、上型を離型した後、ワイヤハーネスを挟持した中型を下型から引き上げて取り出すことができる。其の際、加熱した下型から中型を引き出す作業は、中型の前記両側の載置部の外端面は比較的温度が低いため、作業員は手袋をはめて取り出すことができる。このように、下型が冷却するのを待たずに成形された被覆材で被覆されたワイヤハーネスを引き出すことができ、生産性を高めることができる。中型で挟持して引き出されたワイヤハーネスは、中型の挟持面を除いて被覆材の上下周面が大気に晒されるため冷却が迅速になされ、生産性をより高めることができる。
【0011】
前記中型の両側の挟持部の型面は前記ワイヤハーネスの最大幅位置から下側にかけて0mm〜20mmの上下幅を有し、かつ、下側は互いに近接する内方に湾曲させている事が好ましい。
このように、被覆材で被覆したワイヤハーネスの最大幅位置から下側にかけた位置を中型で挟持すると、中型で安定して挟持でき、下型から取り出す際に中型からワイヤハーネスの不用意な落下を防止できる。
【0012】
前記中型の両側の挟持部の長さ方向の両端の下端に連結部を設け、該連結部を前記下型の型面の長さ方向の両端に連続して配置することが好ましい。
前記連結部は下向き円弧形状とし、ワイヤハーネスの下側を支承するものとしている。 これら連結部は挟持部の下端に連続させて一体に設けてもよいし、別体としてもよい。、別体とする場合は、円弧状に成形した金属薄板や樹脂板で形成し、挟持部の下端に固定している。
このように、中型の長さ方向の両端に連結部を設け、該連結部で外装材で被覆したワイヤハーネスの下側面を支持すると、中型によるワイヤハーネスの保持をより確実に行える。
【0013】
さらに、前記中型の挟持部の長さ方向に間隔をあけて通気路となるスリットを設けることが好ましい。
中型に載置して成形後のワイヤハーネスを取り出すと、スリットを通して大気に接触させて冷却効果を高めることができる。
【0014】
前記下型、中型および上型は熱伝導性がよいアルミニウム製とすることが好ましい。
【0015】
また、前記下型、中型および上型の各型面は、断面円形、楕円形、矩形および多角形のワイヤハーネスの断面形状に添う形状とし、かつ、これら型面は長さ方向にストレートまたは屈曲してワイヤハーネスを三次元配索できる形状としていることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
前記のように、下型と上型の間に上下開口の中型を設け、該中型でワイヤハーネスの被覆材の両側を挟持できる構成としているため、金型を加熱して被覆材を成形後、上型を離型した後、中型で被覆材で被覆したワイヤハーネスを挟持して下型から引き出すことができる。よって、下型が冷却されるまでワイヤハーネスの金型からの取り出しを待つ必要はない。また、中型で挟持して取り出したワイヤハーネスは中型の挟持面を除く上下面が大気に晒されるため冷却効果が迅速になされ、ワイヤハーネスの製造の生産性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の金型の実施形態を示し、(A)は分解断面図、(B)は組付状態の断面図である。
【図2】前記金型の分解斜視図である。
【図3】前記金型の組付状態の斜視図である。
【図4】前記金型の中型を示し、(A)は斜視図、(B)は(A)のB−B線断面図、(C)は中型の側面図である。
【図5】金型充填前の電線群に不織布からなる被覆素材を巻き付けた状態の斜視図である。
【図6】金型成形後の上型、中型を下型から離型している状態を示す説明図である。
【図7】(A)(B)(C)は金型の変形例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明のワイヤハーネス用の金型の実施形態を図面を参照して説明する。
図1に示すように、金型1は下型2、中型3、上型4で構成し、該下型2、中型3、上型4はすべてアルミニウムで形成している。
【0019】
前記金型1を構成する下型2、中型3、上型4は、ワイヤハーネス10を構成する電線群11の長さ方向に沿って延在する横長形状としている。該金型1の長さはワイヤハーネス10を硬化した三次元形状の被覆材12で被覆する必要がある領域に相当する長さとしている。図3に示す金型1は直方体形状とし、長さ方向X、上下方向Y、幅方向Zはストレート状としているが、自動車内におけるワイヤハーネスの配索経路に応じて前記X、Y、Zのいずれの方向に屈曲させてもよい。
【0020】
金型1の上下型4、2の間に介在させる中型3は図1に示すように上下開口とし、両側挟持部3c、3dの内面を電線群11の被覆材12の両側面に当接する型面3e、3fとし、該型面3e、3fで被覆材12で電線群11を被覆したワイヤハーネス10を挟持して上方へ引き出せるようにしている。
【0021】
詳細には、下型2は上面2aの中央から凹設したキャビテイ2bの底部中央に、ワイヤハーネス10の下部外周面に対応した円弧形状の型面2cを設け、該型面2cの両側端に連続する両側壁を窪ませて中型嵌合部2eを設けている。
上型4は上壁4aの下面4bの中央から下方突出部4cを突設し、該下方突出部4cの下面にワイヤハーネス10の上部外周面に対応した円弧形状の型面4eを設けている。
【0022】
中型3は図4に示すように、上型4の上壁4aの両側下面と下型2の上面2aの間に介在させる両側の載置部3a、3bを設け、該両側の載置部3a、3bの対向する内縁から上型4の下方突出部4cに外嵌すると共に下型2の中型嵌合部2eに内嵌する両側の挟持部3c、3dを下向きに突設している。かつ、該挟持部3c、3dの下部は互いに近接する方向に湾曲させている。即ち、載置部3aと挟持部3cはL形状で連続し、同様に載置部3bと挟持部3dはL形状で連続している。
前記中型3では、上型4の型面4eの下端と下型2の型面2cの上端との間に位置する部分の前記両側の挟持部3c、3dの内面を中型3の型面3e、3fとしている。
【0023】
前記下型2の型面2c、中型3の型面3e、3f、上型4の型面4eを連続させると断面円形の型面となり、電線群11の外周面を被覆材12で被覆した状態で断面円形に成形する設定としている。また、中型3の挟持部3c、3dに型面3e、3fに開口する図4(C)に示すように、長さ方向に間隔をあけて通気路となるスリット3sを設けている。
【0024】
中型の型面3e、3fの上端は、ワイヤハーネス10の最大幅位置L1と一致させると共に、型面3e、3fの下端位置L2は上端位置から0mm〜20mmの位置に設定している。かつ、前記のように、型面3e、3fは下方を湾曲させて、上端位置L1の対向幅より下端位置L2の対向幅を狭くしている。
【0025】
また、中型3は、両側の挟持部3c、3dの長さ方向の両端の下端を円弧形状の連結部3h、3iで連結している。これら両側の連結部3h、3iは中型3を下型2に載置した状態で、下型2の型面2cの長さ方向の両端に連続して配置されるようにしている。
【0026】
図3に示すように、中型3の載置部3a、3bの長さ方向の両側端は下型2、上型4の長さ方向の両端より外方に突出させ、該突出した両側を中型3の引き出し用の把持部としている。
【0027】
次に、前記金型1によるワイヤハーネスの被覆材成形工程を説明する。
金型1で成形する被覆材の素材は熱硬化性樹脂からなる不織布からなる。図5に示すように、該不織布からなる被覆材12の被覆素材12aをワイヤハーネス10を構成する多数本の電線群11の外周に巻き付けている。
一方、金型1は下型2の上部に中型3をセットした状態とし、中型3の長さ方向の両端部は下型2から外方へ突出させている。この状態で、中型3の両端の連結部3h、3iは下型2の型面2cの両端に連続して位置させている。
【0028】
不織布からなる被覆素材12aを巻き付けた電線群11(以下、ワイヤハーネス10と称す)を下型2および中型3の型面2c、3e、3fに囲まれたキャビテイ内に充填すると共に、前記中型3の連結部3h、3iにワイヤハーネス10の両側を載せて支持する。 この状態で上型4を中型3上に載置し、型面4eをワイヤハーネス10の上側面に当接させて金型1の型締めを行う。該金型1では上型4の上壁4aの両側の長さ方向の両端からも中型3の長さ方向の両端部は外方に突出する。
【0029】
前記のように金型1内に成形するワイヤハーネス10を充填した後、金型1を前記不織布からなる被覆素材12aの融着温度まで加熱し、不織布を金型1の上下中型の型面2c、3e、3f、4eに沿った形状に成形する。その後の冷却により、成形された形状に不織布が硬化され、電線群11を結束および保護すると共に所要の配索形状に保持する被覆材12が形成される。
【0030】
前記成形された被覆材12を金型1から迅速に取り出して、生産性を高めるため、図6に示すように、被覆素材12aが型面に沿った形状に融着された後に上型4を取り外す。 ついで、中型3の長さ方向の両端の連結部を把持して下型2から取り外して上方に引き出す。其の際、中型3の連結部3h、3iおよび該連結部3h、3iに連続する挟持部3c、3d及び載置部3a、3bの長さ方向の両端は下型2および上型4に挟まれずに外方に突出しているため、加熱温度は低く、作業員が把持できる温度である。
【0031】
また、中型3の型面3e、3fはワイヤハーネス10の最大幅位置L1から下方位置にかけた部分で被覆材12の両側に当接して挟持し、かつ、挟持部の下部は若干内方に湾曲させ、抱え込むように挟持している。よって、中型3を上方に引き上げた時にワイヤハーネス10を確実に挟持して引き上げることができ、ワイヤハーネス10を落下させない。さらに、ワイヤハーネス10の長さ方向の両側下面を中型3の連結部3h、3i上に載置して保持しているため、ワイヤハーネス10を安定した姿勢で引き上げて冷却保持箇所へ移動させることができる。
【0032】
中型3で挟持して下型2から取り出したワイヤハーネス10は、中型3による挟持面を除いて上下両側は大気に晒され、かつ、挟持部にも通気路となるスリット3sをいれているため、該スリット3sを通して大気と接触させて冷却効果を高めることができる。その結果、成形された被覆材12を迅速に冷却でき、生産速度を速めることができる。
【0033】
本発明は前記実施形態に限定されず、図7(A)〜(C)に示すように、金型1の下型2、中型3、上型4のキャビテイに充填して成形する被覆材12の断面形状は楕円形、長方形、三角形等のいずれでもよくワイヤハーネスの配索スペースに適した形状にできる。
また、前記実施形態では被覆材12で被覆されたワイヤハーネス10は直線状であるが、ワイヤハーネスの配索経路に応じて、三次元方向で屈曲させるように被覆材12を加熱硬化することができる。
また、前記実施形態では、金型1の下型2、中型3、上型4は全てアルミニウムで形成しているが、熱伝導性の良い他の金属から形成してもよい。
【符号の説明】
【0034】
1 金型
2 下型
2c 型面
2e 中型嵌合部
3 中型
3a、3b 載置部
3c、3d 挟持部
3e、3f 型面
3h、3i 連結部
4 上型
4c 下方突出部
4e 型面
10 ワイヤハーネス
11 電線群
12 被覆材
12a 不織布からなる被覆素材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワイヤハーネスを構成する電線群の外周に不織布が巻き付けられて金型のキャビテイ内に充填され、該不織布を加熱硬化して電線群の被覆材とするワイヤハーネス用の金型であって、
下型と上型の間に中型を介在させ、該中型は上下開口とすると共に前記電線群の被覆材の両側面に当接する型面を備え、前記不織布を加熱硬化した後に前記上型を離型し、前記中型の型面で前記被覆材で被覆した電線群を挟持して前記下型から引き出せる構成としているワイヤハーネス用の金型。
【請求項2】
前記下型は上端中央から凹設したキャビテイの底面にワイヤハーネスの下部外周面に対応した形状の型面を備えると共に、該型面の両端に連続した両側壁に窪ませて設けた中型嵌合部を備え、
前記上型はワイヤハーネスの上部外周面に対応した形状の型面を備える下方突出部を備え、
該中型は前記上型の下方突出部を挟む下面と前記下型の中型嵌合部を囲む上面の間に介在させる両側の載置部と、該両側の載置部の対向する内縁から前記上型の下方突出部に外嵌すると共に前記下型の中型嵌合部に内嵌する両側の挟持部を備え、前記上型の型面下端と下型の型面上端との間に位置する部分の前記両側の挟持部を前記ワイヤハーネスの最大幅位置の前記外装材の両側に接触させる型面としている請求項1に記載のワイヤハーネス用の金型。
【請求項3】
前記中型の両側の挟持部の型面は前記ワイヤハーネスの最大幅位置から下側にかけて0mm〜20mmの上下幅を有し、かつ、下側は互いに近接する内方に湾曲させている請求項2に記載のワイヤハーネス用の金型。
【請求項4】
前記中型の両側の挟持部の長さ方向の両端の下端に連結部を設け、該連結部を前記下型の型面の長さ方向の両端に連続して配置している請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載のワイヤハーネス用の金型。
【請求項5】
前記中型の挟持部の長さ方向に間隔をあけて通気路となるスリットを設けている請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載のワイヤハーネス用の金型。
【請求項6】
前記下型、中型および上型はアルミニウム製としている請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載のワイヤハーネス用の金型。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−190757(P2012−190757A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−55642(P2011−55642)
【出願日】平成23年3月14日(2011.3.14)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【Fターム(参考)】