説明

ワイヤハーネス用クランプ

【課題】クランプ取付位置においてもワイヤハーネスを折り畳めるようにする。
【解決手段】ワイヤハーネスW/Hに取り付けられ、車体Pに穿設された取付孔Paに挿入係止してワイヤハーネスW/Hを車体Pに取り付ける樹脂成形品からなるクランプ10において、ワイヤハーネスW/Hの外面に軸線方向に沿って配置してテープT巻き固定する一対の平板部11、12と、各平板部11、12の対向する端縁より軸線方向に対して直交する方向に夫々立設する挿入係止部13、14と、平板部11、12同士を屈曲自在に接続する連結部18、19とを一体成形しており、一対の挿入係止部13、14を合致させることでクリップ部15を形成して取付孔Paに挿入係止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイヤハーネス用クランプに関し、詳しくは、ワイヤハーネスの外面に沿ってテープ巻き固定し、車体に穿設された取付孔に挿入係止してワイヤハーネスを車体に配索固定する板状のクランプに関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車に配索するワイヤハーネスを車体に固定するためのワイヤハーネス用クランプ1は、図8(A)(B)に示すように、ワイヤハーネスW/Hに固定される平板部2と、車体パネルPの取付孔Paに挿入係止可能なクリップ部3とを備えている。(特開平11−234869号公報等)
ワイヤハーネス用クランプ1は、平板部2の両端側をワイヤハーネスW/Hに沿わせてテープ巻き固定し、クリップ部3に形成した一対の羽根部4を取付孔Paに挿入し、羽根部4の下端に形成した係止段部5を取付孔Paの周縁に係止することで、ワイヤハーネスW/Hを車体パネルPに沿って所要の配索形状に位置決め固定している。
【0003】
ワイヤハーネスW/Hを車体に取り付ける作業を考えた場合、ワイヤハーネスW/Hが柔軟であると、作業者はワイヤハーネスW/Hを所要の配索形状に保持しながらクリップ部3の挿入作業を行わねばならず、作業性が低下する。そこで、ハーネス配索形態と同形状で剛性を有する樹脂棒を電線束に沿わせた状態で結束し、作業者がワイヤハーネスを保持しなくても配索形状に維持されるようにして、取付作業性を向上させる試みがなされている。
この場合、ワイヤハーネスを車体への配索形状に完全に保たれるように製作してしまうと、車両組み立て前の搬送・保管時にかさばってしまう問題がある。よって、ワイヤハーネスメーカーが自動車メーカーに納入する際や保管時などには、図9に示すように、梱包サイズとなるようにワイヤハーネスW/Hを折り畳み、屈曲部分Aには前記樹脂棒を配置しないようにするべきである。
【0004】
しかしながら、ワイヤハーネス配索時の制約等により、搬送・保管時の屈曲部分Aに前述したクランプ1を取り付ける必要がある場合には、直線状のクランプ1の規制力によりワイヤハーネスを所望の位置で折り畳むことができず、梱包サイズをオーバーしたり、無理な形状に折り畳むと自動車メーカーでワイヤハーネスをほどき難くなるという問題がある。
【特許文献1】特開平11−234869号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、前記問題に鑑みてなされたもので、クランプ取付位置においてもワイヤハーネスを折り畳めるようにすることを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するため、本発明は、ワイヤハーネスに取り付けられ、車体に穿設された取付孔に挿入係止してワイヤハーネスを車体に取り付ける樹脂成形品からなるクランプにおいて、
前記ワイヤハーネスの外面に軸線方向に沿って配置してテープ巻き固定する一対の平板部と、前記各平板部の対向する端縁より軸線方向に対して直交する方向に夫々立設する挿入係止部と、前記平板部同士を屈曲自在に接続する連結部とを一体成形しており、
前記一対の挿入係止部を合致させることでクリップ部を形成して前記取付孔に挿入係止する構成としていることを特徴とするワイヤハーネス用クランプを提供している。
【0007】
前記構成とすると、車体の取付孔に係止するクリップ部が一対の挿入係止部に分割され、それに伴って平板部も分割されているので、ワイヤハーネスを搬送・保管時などに折り曲げる屈曲箇所に前記クランプを取り付けたとしても、クランプを分割して所望の位置でワイヤハーネスを折り畳むことが可能となる。また、一対の平板部同士は連結部で接続されて一体成形品としているので、分割されたクランプがバラけることがなく、保管や取り扱いが容易となる利点がある。
【0008】
前記連結部は、前記平板部の幅方向の両端から突出して対向する平板部同士を連結し、中央に屈曲点となる薄肉部を設けていると好ましい。
【0009】
前記構成とすると、連結部は平板部の幅方向の両端から突出しているので、ワイヤハーネスを一対の連結部の間を通して配置することができ、連結部がワイヤハーネスに干渉するのを防止することが可能となる。さらに、クランプの平板部をワイヤハーネスにテープ巻き固定する際に、一対の連結部でワイヤハーネスの両側が挟持されてクランプがワイヤハーネス上で比較的安定して載置されるので、テープ巻きの作業性も向上する。また、連結部には薄肉部を形成しているので、薄肉部を基点として容易に屈曲させることができ、ワイヤハーネスの折り畳み動作の抵抗感を低減することができる。
【0010】
前記挿入係止部は、前記平板部から突設される軸部と、該軸部の先端から離反方向の折り返し状に突設する羽根部と、該羽根部の先端に設けられて前記取付孔の周縁に係止する係止段部とを備え、
前記軸部の対向面には着脱自在に係合するロック手段を設け、前記軸部同士をロック結合することで前記一対の平板部を位置決めする構成としていると好ましい。
【0011】
前記構成とすると、一対の挿入係止部を重ね合わせてロック手段でロック結合することで、分割された平板部同士が位置決めされて全体として剛性を持たせることができるので、ワイヤハーネスのクランプをテープ巻き固定した部位が形状保持されて、ワイヤハーネスを車体に配索固定する際の作業性向上に寄与することができる。なお、一対の挿入係止部を重ね合わせてロック結合した状態においては、分割された平板部同士は直線状に位置決めされる構成としてもよいし、屈曲形状(L字形状等)に位置決めされる構成としてもよい。
【0012】
前記連結部は、前記挿入係止部同士が合致した状態で余長を設けていると好ましい。
前記構成とすると、一対の挿入係止部を余長吸収分だけ互いに離反させることができるので、クランプ配置部分でワイヤハーネスを折り畳む際の自由度を高めることが可能となる。
【発明の効果】
【0013】
以上の説明より明らかなように、本発明によれば、車体の取付孔に係止するクリップ部が一対の挿入係止部に分割されると共に平板部も分割されるので、ワイヤハーネスを搬送・保管時などに折り畳む屈曲箇所に前記クランプを取り付けたとしても、クランプを分割して所望の位置でワイヤハーネスを折り畳むことが可能となる。したがって、ワイヤハーネスの車体への組付性を良好に保ちながら、搬送・保管時の省スペース化を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の実施形態を図面を参照して説明する。
図1乃至図5はワイヤハーネス用クランプの第1実施形態を示す。
クランプ10は、合成樹脂で一体成形され、ワイヤハーネスW/Hにテープ巻き固定され外側端縁にズレ止め突起11a、12aを有する第1平板部11および第2平板部12と、各平板部11、12の対向する端縁より夫々立設する第1挿入係止部13および第2挿入係止部14と、各挿入係止部13、14の周囲で各平板部11、12の上面に夫々形成された半皿部16、17と、第1平板部11と第2平板部12とを屈曲自在に接続する連結部18、19とを備えている。
【0015】
第1挿入係止部13は、第1平板部11の対向側端縁の中央から上方に突設される軸部20と、軸部20の先端側から第2挿入係止部12に対して離れる方向の折り返し状に突出する羽根部21と、羽根部21の下端外側を切り欠いて薄肉状とし車体パネルPに穿設された取付孔Paの周縁に係止する係止段部22と、軸部20の対向面より突出してロック手段を構成するロック部23とを備えている。ロック部23は、軸部20の対向面に突設された首部23aと、首部23aの先端に連続した大径の頭部23bとを備えている。
【0016】
第2挿入係止部14は、第2平板部12の対向側端縁の中央から上方に突設される軸部25と、軸部25の先端側から第1挿入係止部11に対して離れる方向の折り返し状に突出する羽根部26と、羽根部26の下端外側を切り欠いて薄肉状とし車体パネルPに穿設された取付孔Paの周縁に係止する係止段部27と、軸部25の対向面に凹設されてロック手段を構成する被ロック部28とを備えている。被ロック部28は、軸部25の対向面に穿設された首部28aと、首部28aの奥端側に連続した大径凹部28bとを備えている。
なお、頭部23bと大径凹部28bとは略同一径とすると共に、首部23aと首部28aとは略同一径とし、頭部23bおよび大径凹部28bは首部23a、28aよりも大径としている。即ち、第1挿入係止部13のロック部23を第2挿入係止部14の被ロック部28に無理入れすることにより互いを結合可能とし、第1挿入係止部13と第2挿入係止部14を合致させることでクリップ部15を形成する。
【0017】
一対の連結部18、19は、略V字形状であり、第1平板部11および第2平板部12の対向端の下端面で且つ幅方向の両端より下方側に突出し、対向する平板部11、12同士を連結している。また、連結部18、19の折り返し点となる中央部分には薄肉部18a、19aを形成して屈曲点としている。
【0018】
次に、クリップ10の使用手順について説明する。
図3および図4に示すように、クリップ10の第1平板部11および第2平板部12をワイヤハーネスW/Hの外面に軸線方向に沿って載置し、一対の連結部18、19の間にワイヤハーネスW/Hを挟むようにして配置する。この状態で、各平板部11、12をワイヤハーネスW/Hにテープ巻き固定する。
次いで、図5に示すように、クリップ10を分割した状態で第1平板部11と第2平板部12との間の位置でワイヤハーネスW/Hを折り曲げ、連結部18、19を薄肉部18a、19aを支点として伸ばし、ワイヤハーネスW/Hの搬送・保管等が行いやすいサイズに折り畳む。この際、連結部18、19はもともと略V字形状で余長を設けているので、一対の挿入係止部13、14同士を余長吸収分だけ離反させることができ、ワイヤハーネスW/Hを無理なく折り畳むことができる。
【0019】
その後、自動車メーカーに納入された車両組立ラインにおいては、前記折り畳まれたワイヤハーネスW/Hは解かれて車体への配索形態に戻され、クランプ10の取付箇所は、図3および図4に示すように直線状態に復帰される。その際、第1挿入係止部13のロック部23を第2挿入係止部14の被ロック部28に無理入れし、第1挿入係止部13と第2挿入係止部14の対向面を合致させた状態で結合しクリップ部15を形成する。
このように、第1挿入係止部13と第2挿入係止部14とを重ね合わせてロック結合することで、分割されていた第1平板部11と第2平板部12とが直線状に位置決めされて全体として剛性を有する。よって、ワイヤハーネスW/Hのクリップ10が沿わされた部位は配策形態に形状保持される。
【0020】
次いで、クリップ部15を車体パネルPの取付孔Paに押し込み、その両側の羽根部13、14を互いの近接方向に撓ませて挿入し、係止段部22、27を取付孔Paの周縁に係止する。この際、軸部20、25の根元周囲には上方へ向けて逆錘台状の半皿部16、17が形成されており、取付孔Paへのクランプ10の取付状態において半皿部16、17が車体パネルPとの間で圧縮されることにより、係止段部22、27による係止状態を維持する方向に弾性復帰力を作用させている。
【0021】
以上の構成によれば、車体パネルPの取付孔Paに係止するクリップ部15が一対の挿入係止部13、14に分割されると共に平板部11、12も分割されるので、クランプ10の取付部位でワイヤハーネスW/Hを折り曲げることができ、ワイヤハーネスW/Hを搬送・保管に適した形状へと折り畳むことができる。
また、クランプ10のクリップ部15を車体パネルPの取付孔Paに挿入係止する作業では、作業者からはクランプ10の背面側が見える状態でクリップ部15を視認することができないが、背面側には一対の連結部18、19が設けられているので取付時の目印とすることができ、作業性向上に寄与する。
【0022】
さらに、搬送・保管時におけるワイヤハーネスの屈曲箇所にクランプを取り付けたい場合に、従来だと屈曲箇所を避けて両側に2つクランプを取り付けて対処するしかないが、本発明によれば、ハーネス屈曲箇所にクランプ10を1つ取り付ければ足りるので、クランプ数を低減できると共に、対応する車体パネルPの取付孔Paの数も低減することができる。また、クランプ数が減ることでテープ巻き箇所も減るので作業工数の低減にも繋がる。さらに、ロック部23を被ロック部28に無理入れして挿入係止部13、14を合わせてクリップ部15を形成しなければ、車体パネルPの取付孔Paに係止することができないので、組付作業者はクランプ10を必ず正しい形状に戻すことになり、ワイヤハーネスW/Hを確実に配索形状に位置決めさせることができる。
【0023】
図6および図7は第2実施形態を示す。
第1実施形態の相違点は、クランプ30をワイヤハーネスの配索形状に沿った屈曲形状としている点である。
【0024】
即ち、一対の挿入係止部13、14を互いにロック結合してクリップ部15を形成した状態において、第1平板部31および第2平板部32が上面視で略L字形状となるようにしている。また、第1平板部31および第2平板部32の分割端31a、32aは、配索方向に対して45°に形成している。
前記構成とすると、クランプ30をワイヤハーネスにテープ巻き固定し、挿入係止部13、14同士をロック結合した状態において、ワイヤハーネスの配索形態がL字状である場合にも位置決めすることができ、ワイヤハーネスの車体への組付作業性を向上させることが可能となる。なお、他の構成は第1実施形態と同様であるため同一符号を付して説明を省略する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の第1実施形態のクランプを示す斜視図である。
【図2】クランプの断面図である。
【図3】クランプをワイヤハーネスにテープ巻き固定した状態を示す図面である。
【図4】図3のA視から見た図面である。
【図5】クランプを取り付けたワイヤハーネスを折り畳んだ状態を示す要部拡大図である。
【図6】第2実施形態のクランプを示す斜視図である。
【図7】第2実施形態のクランプを示す上面図である。
【図8】(A)(B)は従来例を示す図面である。
【図9】ワイヤハーネスを折り畳んだ状態を示す図面である。
【符号の説明】
【0026】
10、30 クランプ
11、31 第1平板部
12、32 第2平板部
13 第1挿入係止部
14 第2挿入係止部
15 クリップ部
16、17 半皿部
18、19 連結部
18a、19a 薄肉部
20、25 軸部
21、26 羽根部
22、27 係止段部
23 ロック部
28 被ロック部
P 車体パネル
Pa 取付孔
T テープ
W/H ワイヤハーネス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワイヤハーネスに取り付けられ、車体に穿設された取付孔に挿入係止してワイヤハーネスを車体に取り付ける樹脂成形品からなるクランプにおいて、
前記ワイヤハーネスの外面に軸線方向に沿って配置してテープ巻き固定する一対の平板部と、前記各平板部の対向する端縁より軸線方向に対して直交する方向に夫々立設する挿入係止部と、前記平板部同士を屈曲自在に接続する連結部とを一体成形しており、
前記一対の挿入係止部を合致させることでクリップ部を形成して前記取付孔に挿入係止する構成としていることを特徴とするワイヤハーネス用クランプ。
【請求項2】
前記連結部は、前記平板部の幅方向の両端から突出して対向する平板部同士を連結し、中央に屈曲点となる薄肉部を設けている請求項1に記載のワイヤハーネス用クランプ。
【請求項3】
前記挿入係止部は、前記平板部から突設される軸部と、該軸部の先端から離反方向の折り返し状に突設する羽根部と、該羽根部の先端に設けられて前記取付孔の周縁に係止する係止段部とを備え、
前記軸部の対向面には着脱自在に係合するロック手段を設け、前記軸部同士をロック結合することで前記一対の平板部を位置決めする構成としている請求項1または請求項2に記載のワイヤハーネス用クランプ。
【請求項4】
前記連結部は、前記挿入係止部同士が合致した状態で余長を設けている請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載のワイヤハーネス用クランプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−175908(P2006−175908A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−368677(P2004−368677)
【出願日】平成16年12月21日(2004.12.21)
【出願人】(395011665)株式会社オートネットワーク技術研究所 (2,668)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】