説明

ワイヤハーネス

【課題】シールド部材を備えたワイヤハーネスにおいて、筐体へのシールド接続の位置の自由度が十分に確保され、かつ、良好なシールド効果が得られること。
【解決手段】ワイヤハーネス1は、末端に端子11が設けられた電線10と、電線10の周囲を囲うシールド部材である編組線20と、一方の端部が編組線20と電気的に接続され、他方の端部に端子31が設けられた複数のドレイン線30を備える。編組線20は、複数の電線10の周囲を一括して囲う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電線を囲うシールド部材を備えたワイヤハーネスに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車などの車両に搭載されるワイヤハーネスは、電線と、電線の周囲を覆うシールド部材と電線の末端に設けられた端子とを有することが多い。一般的なシールド部材は、編組線である。そのようなワイヤハーネスは、その末端の端子が、電装機器の端子台などに接続される。また、電線の端部において、シールド部材は、電装機器における導電性の筐体と電気的に接続される。従来、電装機器の筐体に対して電気的に接続される編組線を備えたワイヤハーネスとして、ドレイン線を備えたワイヤハーネス及びシールド用ブラケットを備えたワイヤハーネスが存在する。
【0003】
図4は、ドレイン線を備えた従来のワイヤハーネス101の端部の斜視図である。従来のドレイン線タイプのワイヤハーネス101は、例えば、末端に端子11が設けられた複数の電線10の周囲を覆う編組線20と、編組線20と電気的に接続された1本のドレイン線30とを備える。
【0004】
ドレイン線30の末端には、電装機器の筐体にネジ止めされる端子31が設けられている。ドレイン線30は、電装機器の筐体内への引き込みも可能であり、筐体へのシールド接続の位置の自由度が高い。なお、電装機器の筐体は、アルミニウム又は銅などの金属(導電体)の部材であり、車体などの接地導体と電気的に接続されている。
【0005】
また、図5は、シールド用ブラケットを備えた従来のワイヤハーネス102の端部及び電装機器の筐体60の斜視図である。従来のブラケットタイプのワイヤハーネス102は、例えば、末端に端子11が設けられた複数の電線10の周囲を覆う編組線20と、編組線20と面接触するシールド用ブラケット52とを備える。金属製の部材であるシールド用ブラケット20は、その一部が、電線10の端部を保持する電線保持部材40とかしめ金具51との間に挟み込まれることにより、編組線20の端部に面接触する状態で保持される。電線保持部材40は、複数の端子11を並列状態で保持しつつ複数の電線10の端部の周囲を覆う樹脂などの絶縁体からなる部材である。
【0006】
一方、電装機器の筐体60の内部には、ワイヤハーネス102と不図示の電子部品との電気的な接続を中継する端子台70が収容されている。また、電装機器の筐体60には、電線10の導入口である第1の開口61と、筐体60の外部から端子台70へアクセスするための第2の開口62とが形成されている。第1の開口61から挿入された電線10の末端の端子11は、端子台70に対してネジ止めにより接続される。また、第2の開口62を通じて、ワイヤハーネス102の端子11を端子台70にネジ止めする作業が行われる。なお、第2の開口62は、蓋部材65によって塞がれ、蓋部材65は、筐体60のネジ孔63に装着されるネジ9によって筐体60に固定される。
【0007】
また、筐体10には、他のネジ8が装着される他のネジ孔64が形成されている。シールド用ブラケット62は、ネジ8によって筐体10に固定され、これにより、編組線64と筐体10とが、シールド用ブラケット62を介して電気的に接続される。シールド用ブラケットは、細い電線などよりも電気的な抵抗が小さな部材であるため、ブラケットタイプのワイヤハーネス102のシールド効果は高い。
【0008】
また、特許文献1に示されるワイヤハーネスは、編組線と接触する状態で電線に取り付けられた金属製のシールドケースを備え、そのシールドケースが、金属製の筐体に対してネジ止めされることにより、編組線と筐体とが電気的に接続される。シールドケースは、編組線に覆われた電線の端部に対し、かしめ金具により取り付けられる。このシールドケースは、図5に示されたシールド用ブラケットに相当する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2002−134953号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、図4に示されるような従来のドレイン線タイプのワイヤハーネスは、良好なシールド効果が得られないという問題点を有している。その原因は、編組線に対するドレイン線の相対的な電気抵抗が大きいためと考えられる。また、太いドレイン線が採用された場合、ドレイン線のハンドリングが難しくなるという問題が生じる。
【0011】
一方、図5及び特許文献1に示されるような従来のブラケットタイプのワイヤハーネスにおいては、電装機器の筐体における電線の導入口の外側の縁部に比較的大きなシールド用ブラケットを配置することが必要となる。また、筐体の外に配置されたシールド用ブラケットに水が付着した場合、シールド用ブラケットから編組線への浸水が生じやすい。そのため、従来のブラケットタイプのワイヤハーネスは、シールド接続の位置の自由度が低く、さらに、編組線の防水が難しいという問題点を有している。
【0012】
本発明は、シールド部材を備えたワイヤハーネスにおいて、筐体へのシールド接続の位置の自由度が十分に確保され、かつ、良好なシールド効果が得られることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係るワイヤハーネスは、以下に示す各構成要素を備える。
(1)第1の構成要素は、末端に端子が設けられた電線である。
(2)第2の構成要素は、電線の周囲を囲うシールド部材である。
(3)第3の構成要素は、一方の端部がシールド部材と電気的に接続され、他方の端部に端子が設けられた複数のドレイン線である。
【0014】
また、本発明に係るワイヤハーネスにおいて、複数のドレイン線各々の断面積の合計は、シールド部材の断面積以上であることが好適である。
【0015】
また、本発明に係るワイヤハーネスにおいて、複数のドレイン線各々の末端に個別に端子が設けられていることが考えられる。
【0016】
また、本発明に係るワイヤハーネスにおいて、複数のドレイン線の末端に、それらを接合する1つの端子が設けられていることが考えられる。
【0017】
また、本発明に係るワイヤハーネスが、複数の電線を備え、シールド部材がそれら複数の電線の周囲を一括して囲う構成を有することも考えられる。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係るワイヤハーネスは、複数のドレイン線を備えるため、個々のドレイン線が細くても、ドレイン線全体の電気抵抗は小さくなる。また、ドレイン線は、目的に応じた長さで形成されることにより、筐体における外側又は内側などの任意の位置に接続可能である。また、細いドレイン線は、柔軟性が高いためハンドリングも容易である。従って、本発明に係るワイヤハーネスは、筐体へのシールド接続の位置の自由度が高く、かつ、良好なシールド効果を発揮する。
【0019】
また、実験により、複数のドレイン線各々の断面積の合計が、シールド部材の断面積以上であれば、十分なシールド効果が得られることが確認されている。
【0020】
また、ドレイン線の接続先を分散させたい場合、複数のドレイン線各々の末端に個別に端子が設けられていれば好適である。
【0021】
また、複数のドレイン線の末端に、それらを接合する1つの端子が設けられていれば、ドレイン線の接続作業が、1つの端子を相手側端子に接続する簡易な作業により完了するため好適である。
【0022】
また、ワイヤハーネスにおいて、シールド部材が、複数の電線の周囲を一括して囲う場合、シールド部材の断面積が大きいため、シールド部材に対するドレイン線の相対的な電気抵抗がより大きくなり、シールド効果の悪化が顕著となる。そのため、本発明は、複数の電線の周囲を一括して囲うシールド部材を備えたワイヤハーネスへの適用に特に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の第1実施形態に係るワイヤハーネス1の端部の斜視図である。
【図2】本発明の第2実施形態に係るワイヤハーネス2の端部の斜視図である。
【図3】各種のワイヤハーネスにおけるシールド効果を比較するグラフである。
【図4】ドレイン線を備えた従来のワイヤハーネス101の端部の斜視図である。
【図5】シールド用ブラケットを備えた従来のワイヤハーネス102の端部及び電装機器の筐体60の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、添付の図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。以下の実施形態は、本発明を具体化した一例であり、本発明の技術的範囲を限定する事例ではない。
【0025】
<第1実施形態>
以下、図1を参照しつつ、本発明の第1実施形態に係るワイヤハーネス1の構成について説明する。ワイヤハーネス1は、自動車などの車両に搭載されるワイヤハーネスの一例である。
【0026】
図1に示されるように、ワイヤハーネス1は、末端に端子11が設けられた複数の電線10と、複数の電線10を一括して囲う編組線20と、電線保持部材40と、複数のドレイン線30とを備えている。複数の電線10各々の末端には個別の端子11が設けられている。同様に、複数のドレイン線30各々の末端にも個別の端子31が設けられている。
【0027】
電線10は、芯線及びその周囲を覆う絶縁被覆を有し、芯線の末端に端子11が設けられている。電線10の端子11は、接続先である電装機器に設けられた端子台などにネジ止めされる。電線10は、丸ケーブル又はフラットケーブルであることが考えられる。また、編組線20は、金属製の素線が編まれて筒状に形成されたシールド部材である。
【0028】
各ドレイン線30は、電線10の芯線の断面積及び編組線20の断面積に比べて十分に小さな断面積を有する細い導線に絶縁被覆が施されたケーブルである。各ドレイン線30は、その一方の末端が編組線20の端部に対して溶接などによって電気的に接続されている。また、各ドレイン線30の他方の末端には、導線と電気的に接続された端子31が設けられている。端子31は、例えば、圧着端子などである。各ドレイン線30の端子31は、接続相手である導体からなる筐体に対し、その外部又は内部においてネジ止めされる。これにより、編組線20と筐体とがドレイン線30を介して電気的に接続される。
【0029】
電線保持部材40は、例えば、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ABS樹脂、ポリプロピレン(PP)又はポリアミド(PA)などの合成樹脂からなる絶縁体であり、電線10の端部に設けられている。電線保持部材40は、複数の電線10各々の末端に設けられた複数の端子11を並列状態で保持するとともに、複数の電線10及び編組線20の端部の周囲を覆う。また、複数のドレイン線30は、電線保持部材40内において、編組線20に対して電気的に接続されている。
【0030】
電線保持部材40は、例えば、インサート成形などによって成形され、電線10における芯線と端子11との接合部分、及びドレイン線30と接合された部分を含む編組線20の端部を密閉する。そのため、電線保持部材40が電装機器の筐体に形成された開口に嵌め込まれることにより、筐体における開口の外側から内側への水及び粉塵の浸入が防がれる。なお、図1には示されていないが、止水部材であるゴムパッキンが、電線保持部材40の外周部分に設けられる場合もある。
【0031】
ワイヤハーネス1は、複数の電線10の周囲を一括して囲う編組線20を備えるため、断面積の大きな編組線20に対する個々のドレイン線30の相対的な電気抵抗が大きくなりがちである。しかしながら、ワイヤハーネス1は、複数のドレイン線30を備えるため、個々のドレイン線30が細くても、ドレイン線30全体の電気抵抗は小さくなる。
【0032】
また、ドレイン線30は、目的に応じた長さで形成されることにより、筐体における外側又は内側などの任意の位置に接続可能である。また、細いドレイン線30は、柔軟性が高いためハンドリングも容易である。従って、ワイヤハーネス1は、筐体へのシールド接続の位置の自由度が高く、かつ、良好なシールド効果を発揮する。
【0033】
また、ワイヤハーネス1において、複数のドレイン線30各々の末端に個別に端子31が設けられている。そのため、ワイヤハーネス1は、複数のドレイン線30各々の接続先を分散させたい場合への適用に好適である。もちろん、複数の端子31は、重ねられて1つの相手側端子に対して一括して接続されてもよい。
【0034】
<第2実施形態>
次に、図2を参照しつつ、本発明の第2実施形態に係るワイヤハーネス2について説明する。このワイヤハーネス2は、図1に示されたワイヤハーネス1と比較して、一部の構成要素が置き換えられた構成を有している。図2において、図1に示される構成要素と同じ構成要素は、同じ参照符号が付されている。以下、ワイヤハーネス2におけるワイヤハーネス1と異なる点についてのみ説明する。
【0035】
ワイヤハーネス2は、ワイヤハーネス1と同様に、端子11付きの複数の電線10、編組線20、電線保持部材40及び複数のドレイン線30を備えている。しかしながら、ワイヤハーネス2は、複数のドレイン線30の末端に、それらを接合する1つの端子32が設けられている点において、ワイヤハーネス1と異なっている。端子32は、例えば、溶接などによって複数のドレイン線30と接合される。
【0036】
ワイヤハーネス2も、ワイヤハーネス1と同様に、筐体へのシールド接続の位置の自由度が高く、かつ、良好なシールド効果を発揮する。さらに、ドレイン線30の接続作業が、1つの端子32を相手側端子に接続する簡易な作業により完了するため好適である。
【0037】
<実験結果>
図3は、各種のワイヤハーネスにおけるシールド効果を比較するグラフである。図3のグラフは、カレントプローブを用いて、編組線が存在する状態において、編組が存在しない状態と比べて電線に対するノイズ波の影響がどの程度減衰したかを測定した測定結果を表す。図3のグラフにおいて、横軸はワイヤハーネスに作用するノイズ波の周波数を示し、縦軸はノイズ波に対するシールド効果の程度(電線に影響するノイズ波の減衰量)を示す。
【0038】
また、図3のグラフにおいて、グラフ線g1は、図4に示された1本のドレイン線を備えた従来のワイヤハーネス101の測定結果、グラフ線g2は、図1に示されたワイヤハーネス1におけるドレイン線30の数が3本である場合の測定結果、グラフ線g3は、図1に示されたワイヤハーネス1におけるドレイン線30の数が6本である場合の測定結果、グラフ線g4は、図5に示されたシールド用ブラケットを備えた従来のワイヤハーネス102の測定結果を示す。また、各測定結果に対応する測定条件において、ドレイン線の数及びシールド用ブラケットの有無以外の条件は全て同じである。
【0039】
図3に示されるように、1本のドレイン線を備えた従来のワイヤハーネス101は、他のワイヤハーネスと比べてシールド効果が顕著に低い。一方、3本以上のドレイン線を備えたワイヤハーネス1は、シールド用ブラケットを備えた従来のワイヤハーネス102と同等の高いシールド効果を発揮する。なお、図2に示されたワイヤハーネス2におけるドレイン線30の数とシールド効果との関係は、図1に示されたワイヤハーネス1におけるドレイン線30の数とシールド効果との関係と同等である。
【0040】
実験によれば、ワイヤハーネス1において、複数のドレイン線30各々の芯線の断面積の合計が、編組線20の断面積以上であれば、シールド用ブラケットを備えた従来のワイヤハーネス102と同等の高いシールド効果が得られることがわかった。図3に示される測定結果が得られたときの測定条件においては、3本のドレイン線30の芯線の断面積の合計が、編組線20の断面積と同等である。
【0041】
以上に示したように、ワイヤハーネス1又はワイヤハーネス2が採用されることにより、筐体へのシールド接続の位置の自由度が十分に確保され、かつ、良好なシールド効果が得られる。
【0042】
なお、図1及び図2に示されたワイヤハーネス1,2は、複数の電線10が1つの編組線20により一括して囲まれる構成を備えるが、電線10の数が1本であることも考えられる。また、本発明に係るワイヤハーネスにおいて、電線保持部材40は、必ずしも必須の構成要素ではない。
【符号の説明】
【0043】
1,2 ワイヤハーネス
10 電線
11 電線の端子
20 編組線
30 ドレイン線
31,32 ドレイン線の端子
40 電線保持部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
末端に端子が設けられた電線と、
前記電線の周囲を囲うシールド部材と、
一方の端部が前記シールド部材と電気的に接続され、他方の端部に端子が設けられた複数のドレイン線と、を備えることを特徴とするワイヤハーネス。
【請求項2】
複数の前記ドレイン線各々の断面積の合計は、前記シールド部材の断面積以上である、請求項1に記載のワイヤハーネス。
【請求項3】
複数の前記ドレイン線各々の末端に個別に端子が設けられている、請求項1又は請求項2に記載のワイヤハーネス。
【請求項4】
複数の前記ドレイン線の末端に、それらを接合する1つの端子が設けられている、請求項1又は請求項2に記載のワイヤハーネス。
【請求項5】
複数の前記電線を備え、
前記シールド部材は、複数の前記電線の周囲を一括して囲う、請求項1から請求項4のいずれかに記載のワイヤハーネス。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2012−59591(P2012−59591A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−202747(P2010−202747)
【出願日】平成22年9月10日(2010.9.10)
【出願人】(395011665)株式会社オートネットワーク技術研究所 (2,668)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】