説明

ワイヤー張力検出装置

【課題】ワイヤーによってテンションアームが細かく振動させられても、ワイヤーが、テンションアームに取り付けられた遥動プーリーから外れないようにしたワイヤー張力検出装置を提供すること。
【解決手段】テンションアーム3が遥動すると、フック部材5も一緒に回転するため、引張コイルばね7によってひずみゲージ6の応力が変化させられる。それによってモーター9の回転速度が制御され、スプール10からのワイヤー15の巻き出し速度が、所定の線速と常に同じになるようにさせられる。スプール10から巻き出されたワイヤー15は、テンションアーム3に取り付けられた2個の遥動プーリー4と固定部材に取り付けられた2個の固定プーリー8との間に交互に掛け渡され、引張コイルばね7のばね定数は、遥動プーリー4が1個の場合のほぼ2倍になっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばIC用金線ワイヤー等の極細線の伸線を行うに際し、ワイヤー繰り出し部のモーターの回転速度を自動的に制御することによって、ワイヤーの繰り出しを適正に行えるようにするワイヤー張力検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
先ず、図2を用いて、一般的に行われているIC用ワイヤー等の極細線の伸線加工の概要を説明する。支持部材1は、図示していない設置台に固定されている。軸部材2は、長さ方向のほぼ中央部で支持部材1に対して回転可能に取り付けられている。テンションアーム3は、その一端が、軸部材2の一端に取り付けられており、他端には、1個の遥動プーリー4を取り付けている。フック部材5は、テンションアーム3とは取付角度が約90度ずれるようにして、その一端が、軸部材2の他端に取り付けられている。ひずみゲージ6は、その一端で、上記の設置台に対しほぼ水平となるようにして取り付けられており、その他端とフック部材5の他端には、引張コイルばね7が、ひずみゲージ6に対してほぼ90度の姿勢となるようにして掛けられている。そして、上記の設置台には1個の固定プーリー8が取り付けられている。
【0003】
ワイヤー巻き出し用のモーター9にはスプール10が回転可能に取り付けられており、ワイヤー巻き取り用のモーター11にはスプール12が回転可能に取り付けられている。それらの二つのスプール10,12の間には、伸線装置が配置されており、そこには、交互に2列に整列された複数のダイス13(一つだけに符号を付けてある)と、その両側に配置された二つのキャプスタン14が備えられている。そして、スプール10に巻回されているワイヤー15は、モーター9の回転によって巻き出されてから、張力検出のために固定プーリー8と遥動プーリー4に掛けられて方向転換させられた後、必要に応じて設けられている図示されているような案内用のプーリーを介して伸線装置に送り込まれ、伸線加工後は、モーター11によって回転させられているスプール12に巻き取られるようになっている。
【0004】
このような構成で行われる伸線加工工程では、ワイヤー15は、通常、巻き取り用のモーター11に取り付けられているスプール12での巻線径の変化に対応して、線速が変化する。そのため、伸線装置への繰り出し部には、ワイヤー15に一定のバックテンションをかけるようにしたワイヤー張力検出装置を配置している。そして、その装置に設けられているテンションアーム3は、スプール10に巻回されているワイヤー15の巻線径の周速がワイヤー15の設定線速よりも早くなると時計方向に、遅くなると反時計方向に旋回するようになっていて、軸部材2,フック部材5,引張コイルばね7を介してひずみゲージ6に応力を与え、その力を表示計で読み取れるようにすると共にコントローラを介してフィードバックし、モーター9の回転速度を制御して、スプール10の巻線径の周速がワイヤー15の線速と同じになるようにしている。
【0005】
ところが、図2に示されている伸線装置のように、ワイヤー15をダイス13の前後でキャプスタン14の抱き角によって搬送するようにした、いわゆるスリップ式伸線装置においては、ワイヤー15の線速とキャプスタン14の周速との差からすべりが生じて、ワイヤー15が細かな間欠走行を行わされるため、その影響で遥動プーリー4が左右に細かく振動させられる。そして、そのような振動が繰り返されているうちに、ワイヤー15が遥動プーリー4から外れてしまうことがあり、それによって、ワイヤー15の断線を招いてしまうことがある。そこで、従来は、下記の特許文献1に記載されているような装置を用いることによって、遥動プーリーの回転数を計測してワイヤーの外れを検出するようにし、その検出結果によって装置を止めるようにしていた。
【0006】
【特許文献1】特開2004−115170号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、特許文献1に記載されているような装置を用い、遥動プーリーの回転数を計測することによってワイヤーの外れを検出し、その検出によって装置を止めるようにしたとしても、ワイヤーの繰り出し制御は既に不能になっており、直ちに対処しない限り、ワイヤーの断線を防ぐことはできなかった。そして、ワイヤーが断線してしまった場合には、再スタートのためにダイスへのワイヤーの通し作業が必要となり、生産性が大幅に低下するという問題点があった。
【0008】
本発明は、このような問題点を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、例えば伸線装置内でのワイヤーの間欠運動などを原因として発生するテンションアームの振動の振幅を減少させることによって、テンションアームがそのような振動を起こしても、ワイヤーが遥動プーリーから外れて断線してしまうことがないようにし、生産性の向上を図ることを可能にしたワイヤー張力検出装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、本発明は、支持部材に回転可能に取り付けられている軸部材と、一端が前記軸部材に取り付けられているテンションアームと、前記テンションアームの他端に取り付けられていてワイヤー巻き出し用モーターによって繰り出されたワイヤーを掛けている遥動プーリーと、一端が前記軸部材に取り付けられているフック部材と、一端が前記フック部材の他端に掛けられ他端がひずみゲージに掛けられている引張コイルばねと、を備えていて、前記テンションアームの遥動に伴う前記ひずみゲージのたわみ量に応じ、前記ワイヤー巻き出し用モーターの回転速度を制御するようにしたワイヤー張力検出装置において、前記テンションアームには、前記遥動プーリーを複数個取り付け、固定部材には、複数個の固定プーリーを設けて、前記ワイヤーを、それらの遥動プーリーと固定プーリーとの間に交互に掛け渡すようにすると共に、前記引張コイルばねのばね定数を、前記遥動プーリーが1個の場合に対し、前記遥動プーリーの個数を乗じた値とほぼ同じになるようにする。
【発明の効果】
【0010】
本発明のワイヤー張力検出装置によれば、例えば伸線装置内でのワイヤーの間欠運動などを原因としてテンションアームが振動させられても、従来の装置の場合よりも、その振動の振幅が減少するようになっているので、ワイヤーが遥動プーリーから外れて断線してしまうようなことがない。また、そのようにワイヤーの外れや断線がなくなることによって、ワイヤーの掛け替えが不要になるので、従来よりも稼動率の向上を可能にし、且つ製品の収率を向上させることが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の実施の形態を、図示した実施例によって説明する。尚、図1に示した実施例の構成は、その殆どが、図2を用いて説明した従来例の場合と同じである。そのため、図1に示した実施例の構成部材には、図2に示された従来例の構成部材と同じ符号を用いてある。
【実施例】
【0012】
本実施例のワイヤー張力検出装置は、長さ方向のほぼ中央部で支持部材1に対して回転可能に取り付けられている軸部材2と、一端を軸部材2の一端に取り付けられているテンションアーム3と、テンションアーム3の他端(先端)に取り付けられた2個の遥動プーリー4と、テンションアーム3とは取付角度が約90度ずれるようにしてその一端を軸部材2の他端に取り付けられているフック部材5と、ひずみゲージ6と、ひずみゲージ6に対してほぼ90度の姿勢となるようにして一端をフック部材5に掛け他端をひずみゲージ6に掛けている引張コイルばね7と、2個の固定プーリー8と、ワイヤー巻き出し用のモーター9と、モーター9に回転可能に取り付けられてスプール10と、で構成されていている。そして、図2に示された従来例と異なる点は、モーター9の回転によってスプール10から巻き出されたワイヤー15を、2個の固定プーリー8と2個の遥動プーリー4に交互に順に掛けるようにしていることと、引張コイルばね7のばね定数を、従来例の場合のほぼ2倍にしていることである。
【0013】
次に、作動を説明するが、図2で説明した従来例と同じ点は、重複を避けるために、省略するか簡単に説明することにする。本実施例の場合も、テンションアーム3は、スプール10の巻線径の周速がワイヤー15の設定線速よりも速くなると時計方向に、遅くなると反時計方向に旋回し、ひずみゲージ6の応力の変化に対応させてモーター9の回転速度を制御し、スプール10における巻線径の周速をワイヤー2の線速と同じにするようになっている。
【0014】
ところで、上記したようにして、伸線装置内でワイヤー15の間欠送りが発生すると、テンションアーム3の先端部に取り付けられた遥動プーリー4は、ワイヤー15の間欠変動量の約1/2ずつの量だけ左右に揺動させられるが、本実施例の場合には、遥動プーリー4を2個にして、2個の固定プーリー8との間にワイヤー15を交互に掛け渡しているため、滑車の原理によって、その振幅は約半分になる。そのため、上記のような間欠送りなどに起因して振動が発生しても、ワイヤー15が、最先端に取り付けられている遥動プーリー4から外れてしまうようなことがない。一方、テンションアーム3の回転角が1/2になるので、ひずみゲージ6を撓ませる量が減少して、従来よりもモーター9の追従が遅れることになるが、本実施例の場合には、引張コイルばね7のばね定数をほぼ2倍にしているから、ワイヤー15の送り出しの機能は従来どおり維持されることになる。
【0015】
尚、本実施例の場合には、テンションアーム3に2個の遥動プーリー4を取り付け、設置台等の適宜な固定部材に2個の固定プーリー8を取り付けているが、本発明は、このような態様に限定されるものではない。テンションアーム3に3個以上の遥動プーリー4を取り付け、上記のような設置台等の固定部材に3個以上の固定プーリー8を取り付けて、それらの間にワイヤー15を掛け渡すようにしても差し支えない。それによって、テンションアーム3の振動の振幅を従来の1/3以下にすることが可能になるが、それらの場合には、遥動プーリー4の数に比例して引張コイルばね7のばね定数を倍化する必要がある。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施例のワイヤー張力検出装置を示す概略図である。
【図2】従来の極細線の伸線加工工程を説明するための概略図である。
【符号の説明】
【0017】
1 支持部材
2 軸部材
3 テンションアーム
4 遥動プーリー
5 フック部材
6 ひずみゲージ
7 引張コイルばね
8 固定プーリー
9,11 モーター
10,12 スプール
13 ダイス
14 キャプスタン
15 ワイヤー


【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持部材に回転可能に取り付けられている軸部材と、一端が前記軸部材に取り付けられているテンションアームと、前記テンションアームの他端に取り付けられていてワイヤー巻き出し用モーターによって繰り出されたワイヤーを掛けている遥動プーリーと、一端が前記軸部材に取り付けられているフック部材と、一端が前記フック部材の他端に掛けられ他端がひずみゲージに掛けられている引張コイルばねと、を備えていて、前記テンションアームの遥動に伴う前記ひずみゲージのたわみ量に応じ、前記ワイヤー巻き出し用モーターの回転速度を制御するようにしたワイヤー張力検出装置において、
前記テンションアームには、前記遥動プーリーを複数個取り付け、固定部材には、複数個の固定プーリーを設けて、前記ワイヤーを、それらの遥動プーリーと固定プーリーとの間に交互に掛け渡すようにすると共に、前記引張コイルばねのばね定数を、前記遥動プーリーが1個の場合に対し、前記遥動プーリーの個数を乗じた値とほぼ同じになるようにしたことを特徴とするワイヤー張力検出装置。















【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−153584(P2007−153584A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−353688(P2005−353688)
【出願日】平成17年12月7日(2005.12.7)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】