説明

ワックスの水素化処理方法

【課題】 一定の反応条件下においてワックスを水素化処理し、ノルマルパラフィン含有量が十分に低減された中間留分を収率良く得ると同時に、ノルマルパラフィン含有量が十分に低減された未分解ワックス留分を得ることが可能なワックスの水素化処理方法を提供すること。
【解決手段】 水素雰囲気下、液空間速度0.4〜4.0h−1の条件にて、ワックスを、超安定Y型ゼオライトとアモルファス固体酸とを含む第1の触媒10と接触させた後、超安定Y型ゼオライトを実質的に含まず固体酸を含む第2の触媒20と接触させることにより、前記ワックスの水素化処理を行うことを特徴とするワックスの水素化処理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワックスの水素化処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境にやさしいクリーンな液体燃料として、硫黄分及び芳香族炭化水素の含有量が低い液体燃料への期待が高まってきている。こうしたクリーンな液体燃料の製造法の一つとして、水素と一酸化炭素とを原料としたフィッシャー・トロプシュ(FT)合成法が挙げられる。FT合成法によれば、パラフィン含有量に富み、且つ硫黄分を含まない液体燃料基材を製造することができると共に、ワックス(FTワックス)も同時に製造することができる。このFTワックスは、水素化分解により中間留分へと変換され、一方未分解ワックス留分はリサイクルにより中間留分に変換されるか、又はMEK脱蝋によりノルマルパラフィンが除去されて高性能潤滑油基材へと変換される。
【0003】
FTワックスの水素化分解により中間留分を製造する場合、収率が高いことが望まれるが、この中間留分を燃料基材として使用する場合、中間留分としては、ノルマルパラフィン含有量が低く、逆にイソパラフィン含有量が高いものであることが望まれている。例えば、中間留分を軽油に使用する場合、ノルマルパラフィン含有量が高いと低温流動性が悪化し、最悪の場合、商品としての使用が制限されることとなる。
【0004】
また、未分解ワックス留分から潤滑油基材を得る場合、未分解ワックス留分中のノルマルパラフィン含有量が低い方が、潤滑油基材の収率が高くなり、且つMEK脱蝋の運転効率が向上する為に好ましい。
【0005】
なお、ワックスを水素化分解して燃料基材を製造する技術はこれまでにも検討されており、例えば、FTワックスを原料とした水素化分解方法が、下記特許文献1〜3に記載されている。
【特許文献1】国際公開第2004/028688号パンフレット
【特許文献2】特開2004−255241号公報
【特許文献3】特開2004−255242号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1〜3に記載されているワックスの水素化分解方法では、ノルマルパラフィン含有量が十分に低減された中間留分を収率良く製造し、同時に未分解ワックス留分中のノルマルパラフィン含有量を低減することが困難である。また、このようなノルマルパラフィン含有量の低い中間留分と、ノルマルパラフィン含有量の低い未分解ワックス留分と、を同時に得るための水素化処理方法に関する研究は無いに等しい。その理由は、中間留分を目的とした水素化分解と潤滑油基材を目的とした水素化異性化とが異なる最適反応条件を有する為であると考えられる。すなわち、中間留分の収率を高める為には、生成した中間留分の軽質化を抑制する為にマイルドな反応条件とすることが好ましいが、このような反応条件下では未分解ワックス留分の異性化が進行しにくく、ノルマルパラフィン含有量を低くすることが困難となる。一方、未分解ワックス留分中のノルマルパラフィンをイソパラフィンへ効率良く変換する為に厳しい反応条件を採用すると、生成した中間留分の過分解が進行しやすくなり、結果として中間留分の収率が減少することとなる。
【0007】
以上のことから、一定の反応条件下において、ノルマルパラフィン含有量の低い中間留分と、ノルマルパラフィン含有量の低い未分解ワックス留分と、を同時に得ることが可能なワックスの水素化処理方法が望まれている。
【0008】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、一定の反応条件下においてワックスを水素化処理し、ノルマルパラフィン含有量が十分に低減された中間留分を収率良く得ると同時に、ノルマルパラフィン含有量が十分に低減された未分解ワックス留分を得ることが可能なワックスの水素化処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明者は、水素雰囲気下、液空間速度0.4〜4.0h−1の条件にて、ワックスを、超安定Y型ゼオライトとアモルファス固体酸とを含む第1の触媒と接触させた後、超安定Y型ゼオライトを実質的に含まず固体酸を含む第2の触媒と接触させることにより、上記ワックスの水素化処理を行うことを特徴とするワックスの水素化処理方法を提供する。
【0010】
ここで、第2の触媒が超安定Y型ゼオライトを実質的に含まないとは、超安定Y型ゼオライトを含有しないか、含有していてもワックスの水素化処理に影響を及ぼさない程度の量であることを意味する。より具体的には、第2の触媒における超安定Y型ゼオライトの含有量は0.02質量%以下であることが好ましく、0.005質量%以下であることがより好ましく、0であることが最も好ましい。
【0011】
かかるワックスの水素化処理方法によれば、まずワックスを上記第1の触媒と接触させることにより、ワックスの分解を十分に行なうことができ、続いてワックスを上記第2の触媒と接触させることにより、ワックスの過分解を抑制しつつ、未分解ワックスの異性化を十分に行なうことができる。そして、本発明のワックスの水素化処理方法によれば、第1の触媒及び第2の触媒による水素化処理を一定の反応条件下で行うことができ、ノルマルパラフィン含有量が十分に低減された中間留分を収率良く得ると同時に、ノルマルパラフィン含有量が十分に低減された未分解ワックス留分を得ることができる。
【0012】
また、本発明のワックスの水素化処理方法は、固定床反応塔内の上流側に上記第1の触媒を、下流側に上記第2の触媒をそれぞれ配置し、上記固定床反応塔内で上記ワックスの水素化処理を行うことを特徴とする方法であることが好ましい。かかるワックスの水素化処理方法によれば、単一の固定床反応塔内において一定の反応条件下でワックスと第1の触媒及び第2の触媒とを接触させ、ワックスの水素化処理を効率的に行うことができ、ノルマルパラフィン含有量が十分に低減された中間留分を収率良く得ると同時に、ノルマルパラフィン含有量が十分に低減された未分解ワックス留分を得ることができる。また、単一の固定床反応塔内で処理を行うことができるため、装置コストを低く抑えることができる。
【0013】
また、本発明のワックスの水素化処理方法において、上記第1の触媒及び/又は上記第2の触媒は、それらを構成する触媒担体上にパラジウム及び/又は白金を担持してなるものであることが好ましい。かかる触媒を用いることにより、ワックスの水素化処理により得られる中間留分及び/又は未分解ワックスにおけるノルマルパラフィン含有量をより十分に低減することが可能となる。
【0014】
また、本発明のワックスの水素化処理方法において、上記第1の触媒における上記超安定Y型ゼオライトの平均粒子径は、1.0μm以下であることが好ましい。これにより、ワックスの水素化処理により得られる中間留分のノルマルパラフィン含有量をより十分に低減することが可能となる。
【0015】
また、本発明のワックスの水素化処理方法において、上記第1の触媒中の上記超安定Y型ゼオライトの含有量は、上記第1の触媒全量を基準として4.0質量%以下であることが好ましい。これにより、ワックスの水素化処理により得られる中間留分のノルマルパラフィン含有量をより十分に低減することが可能となる。
【0016】
また、本発明のワックスの水素化処理方法において、上記第1の触媒における上記アモルファス固体酸は、シリカアルミナ、アルミナボリア及びシリカジルコニアからなる群より選択される少なくとも一種を含むものであることが好ましい。これにより、ワックスの水素化処理により得られる中間留分のノルマルパラフィン含有量をより十分に低減することが可能となる。
【0017】
また、本発明のワックスの水素化処理方法において、上記第2の触媒における上記固体酸は、シリカアルミナ、アルミナボリア、シリカジルコニア及びシリコアルミノフォスフェートからなる群より選択される少なくとも一種を含むものであることが好ましい。これにより、ワックスの水素化処理により得られる未分解ワックスのノルマルパラフィン含有量をより十分に低減することが可能となる。
【0018】
更に、本発明のワックスの水素化処理方法において、上記ワックスの水素化処理を、反応温度270〜360℃、圧力2〜5MPaの条件下で行うことが好ましい。かかる条件下でワックスの水素化処理を行うことにより、得られる中間留分及び未分解ワックスにおけるノルマルパラフィン含有量をより十分に低減することが可能となる。また、中間留分の収率をより向上させることが可能となる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、一定の反応条件下においてワックスを水素化処理し、ノルマルパラフィン含有量が十分に低減された中間留分を収率良く得ると同時に、ノルマルパラフィン含有量が十分に低減された未分解ワックス留分を得ることが可能なワックスの水素化処理方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0021】
本発明のワックスの水素化処理方法は、水素雰囲気下、液空間速度0.4〜4.0h−1の条件にて、ワックスを、超安定Y型ゼオライトとアモルファス固体酸とを含む第1の触媒と接触させた後、超安定Y型ゼオライトを実質的に含まず固体酸を含む第2の触媒と接触させることにより、上記ワックスの水素化処理を行うことを特徴とする方法である。
【0022】
本発明におけるワックスの水素化処理は、例えば、触媒が充填された固定床反応塔(固定床反応装置)を用いて行うことができる。ここで、図1は、固定床反応塔を用いた本発明のワックスの水素化処理方法の好適な一実施形態を説明するための模式図である。図1に示すように、固定床反応塔30を用いてワックスの水素化処理を行う場合、この反応塔30内には、原料となるワックスを導入する際の上流側に第1の触媒10が配置され、この第1の触媒10よりも下流側に第2の触媒20が配置される。そして、ワックスは、水素雰囲気下において第1の触媒10及び第2の触媒20と順に接触して水素化処理され、生成油が得られることとなる。ここで、第1の触媒10と第2の触媒20とは反応塔30内に密着した状態で配置してもよく、所定の間隔を置いて配置してもよい。
【0023】
原料となるワックスとしては、石油系ワックスや合成系ワックス等の公知のワックスを特に制限なく用いることができるが、炭素数が16以上、好ましくは炭素数が20以上のノルマルパラフィンを70質量%以上含んだ石油系又は合成系ワックスを用いることが好ましい。石油系ワックスとしては、例えば、スラックワックス、マイクロワックスなどが挙げられる。また、合成系ワックスとしては、フィッシャー・トロプシュ(FT)合成で製造される、いわゆるフィッシャー・トロプシュ(FT)ワックスなどが挙げられる。
【0024】
第1の触媒10は、超安定Y型ゼオライト(以下、場合により「USYゼオライト」という)とアモルファス固体酸とを少なくとも含むものである。この第1の触媒10としては、例えば、USYゼオライト及びアモルファス固体酸をバインダーを用いてペレット状に成型したものを用いることが好ましい。
【0025】
USYゼオライト中のシリカとアルミナのモル比(シリカ/アルミナ)は、20〜96であることが好ましく、25〜60であることがより好ましく、30〜45であることが更に好ましい。シリカとアルミナのモル比が20未満であると、中間留分の収率が低下する傾向があり、96を超えると、反応温度が高くなり触媒寿命が短くなるとともに、中間留分の収率も低下する傾向がある。
【0026】
また、USYゼオライトの平均粒子径の上限値は、1.0μmであることが好ましく、0.5μmであることがより好ましい。一方、USYゼオライトの平均粒子径の下限値は、0.05μmであることが好ましい。平均粒子径が1.0μmを超えると、中間留分の収率が低下する傾向がある。
【0027】
第1の触媒10中のUSYゼオライトの含有量は、本発明の効果を得る上で重要なパラメーターの一つであり、この含有量の上限値は、第1の触媒10全量を基準として10質量%であることが好ましく、4質量%であることがより好ましく、一方、含有量の下限値は、第1の触媒10全量を基準として0.1質量%であることが好ましい。含有量が10質量%を超えると、中間留分の収率が低下する傾向があり、0.1質量%未満であると、反応温度が上昇し、アロマが増加する傾向がある。
【0028】
第1の触媒10に用いられるアモルファス固体酸としては、例えば、シリカアルミナ、アルミナボリア、シリカジルコニア、シリカマグネシア、シリカチタニア等が挙げられ、これらの中から1種類以上を選択して用いることができるが、シリカアルミナ、アルミナボリア、シリカジルコニアの中から1種類以上を選択して用いることが好ましい。第1の触媒10中のアモルファス固体酸の含有量は、第1の触媒10全量を基準として3〜80質量%であることが好ましく、7〜60質量%であることがより好ましい。
【0029】
第1の触媒10に用いられるバインダーとしては、例えば、シリカ、アルミナ等を用いることができ、アルミナを用いることが好ましい。第1の触媒10中のバインダーの含有量は、第1の触媒10全量を基準として20〜90質量%であることが好ましく、30〜80質量%であることがより好ましい。
【0030】
また、第1の触媒10は、これを構成する触媒担体上に、周期律表における第VIII族の金属、具体的にはニッケル、ロジウム、パラジウム、イリジウム、白金等を担持してなるものであることが好ましい。ここで、第1の触媒10を構成する触媒担体としては、例えば、上述のようにUSYゼオライト及びアモルファス固体酸をバインダーを用いてペレット状に成型したもの等が挙げられる。また、上記第VIII族の金属の中でも、パラジウム及び/又は白金を用いることが好ましく、白金を単独で又はパラジウムと白金とをモル比(パラジウム/白金)0.15以下の割合で組み合わせて用いることがより好ましい。第1の触媒10における第VIII族の金属の担持量は、第1の触媒10全量を基準として0.05〜2.0質量%であることが好ましく、0.2〜1.2質量%であることがより好ましい。
【0031】
第2の触媒20は、USYゼオライトを実質的に含まず固体酸を少なくとも含むものである。すなわち、第2の触媒20は、実質的にUSYゼオライト以外の材料及び固体酸のみからなるものである。この第2の触媒20としては、例えば、固体酸をバインダーを用いてペレット状に成型したものを用いることが好ましい。
【0032】
第2の触媒20に用いられる固体酸としては、例えば、シリカアルミナ、アルミナボリア、シリカジルコニア、シリカマグネシア、シリカチタニア、シリコアルミノフォスフェート等が挙げられ、これらの中から1種類以上を選択して用いることができるが、シリカアルミナ、アルミナボリア、シリカジルコニア、シリコアルミノフォスフェートの中から1種類以上を選択して用いることが好ましい。上記シリコアルミノフォスフェートとしては、SAPO−5、SAPO−11、SAPO−34等が挙げられる。また、第2の触媒20における固体酸としては、アモルファス固体酸を用いることが好ましい。第2の触媒20中の固体酸の含有量は、第2の触媒20全量を基準として30〜90質量%であることが好ましく、40〜80質量%であることがより好ましい。
【0033】
第2の触媒20に用いられるバインダーとしては、上記第1の触媒10に用いられるバインダーと同様のものを用いることができる。第2の触媒20中のバインダーの含有量は、第2の触媒20全量を基準として10〜70質量%であることが好ましく、20〜60質量%であることがより好ましい。
【0034】
また、第2の触媒20は、これを構成する触媒担体上に、周期律表における第VIII族の金属、具体的にはニッケル、ロジウム、パラジウム、イリジウム、白金等を担持してなるものであることが好ましい。ここで、第2の触媒20を構成する触媒担体としては、例えば、上述のように固体酸をバインダーを用いてペレット状に成型したもの等が挙げられる。また、上記第VIII族の金属の中でも、パラジウム及び/又は白金を用いることが好ましく、白金を単独で又はパラジウムと白金とをモル比(パラジウム/白金)0.15以下の割合で組み合わせて用いることがより好ましい。第2の触媒20における第VIII族の金属の担持量は、第2の触媒20全量を基準として0.05〜2.0質量%であることが好ましく、0.1〜0.8質量%であることがより好ましい。
【0035】
固定床反応塔30における第1の触媒10と第2の触媒20との充填比率は特に制限されないが、第1の触媒10を100体積部に対して第2の触媒20を30〜100体積部とすることが好ましく、40〜85体積部とすることがより好ましい。この第2の触媒20の充填比率が30体積部未満であると、未分解ワックス中のノルマルパラフィン含有量が多くなる傾向があり、100体積部を超えると、中間留分の収率が低下する傾向がある。
【0036】
固定床反応塔30内でワックスの水素化処理を行う際の反応条件は、原料となるワックスの種類や第1及び第2の触媒の種類等に応じて慎重に選定することが好ましい。通常、反応温度は、270〜360℃とすることが好ましく、280〜340℃とすることがより好ましい。反応温度が270℃未満では、中間留分としての液状炭化水素の収率は十分なものとすることができるが、反応温度が上記範囲内である場合と比較して、未分解ワックスとしての固形ワックス中のノルマルパラフィンの含有量を十分に低減することが難しくなる傾向にある。一方、反応温度が340℃を超えると、未分解ワックス中のノルマルパラフィンは十分に低減することができるものの、反応温度が上記範囲内である場合と比較して、中間留分の収率が低下する傾向にある。特に、反応温度が360℃を超えると、反応温度が上記範囲内である場合と比較して、芳香族化合物が生成しやすくなるため、クリーンな燃料基材を得る観点から好ましくない。
【0037】
また、固定床反応塔30内の触媒全体に対する原料ワックスの液空間速度(LHSV)は、0.4〜4.0h−1とすることが必要であり、0.5〜2.5h−1とすることが好ましい。この液空間速度が0.4h−1未満であると、未分解ワックス中のノルマルパラフィン含有量が多くなり、4.0h−1を超えると、中間留分の収率が低下する。
【0038】
更に、反応時の圧力は、分解活性に影響する為、1.5〜7MPaとすることが好ましく、2〜5MPaとすることがより好ましい。圧力が1.5MPa未満であると、未分解ワックス中のノルマルパラフィン含有量が多くなる傾向があり、7MPaを超えると、中間留分の収率が低下する傾向がある。
【0039】
また、水素油比は特に制限されないが、通常、200〜2000NL/Lとすることが好ましい。水素油比が200NL/L未満であると、水素不足のため未分解ワックス中のイソパラフィン含有量が少なくなる傾向があり、2000NL/Lを超えると、装置コストの増加により経済性が悪化する傾向がある。
【0040】
上述のような反応条件で、固定床反応塔内でワックスと第1及び第2の触媒とを接触させてワックスの水素化処理を行うことにより、反応形態の異なる水素化分解と水素化異性化とを同時に同一条件でより効率的に行うことができ、ノルマルパラフィン含有量がより十分に低減された灯軽油等の中間留分をより高い収率で得ることができるとともに、未分解ワックス中のノルマルパラフィン含有量をより十分に低減することが可能となる。
【0041】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。例えば、上記実施形態では1基の固定床反応塔30を用いる場合について説明したが、本発明のワックスの水素化処理方法においては、図2に示すように、2基又はそれ以上の反応塔を用いることもできる。この場合、第1の触媒10及び第2の触媒20は、それぞれ異なる反応塔30内に充填することができる。なお、ワックスの水素化処理を効率的に行うことができ、また、装置コストを低く抑えることができることから、図1に示したように、1基又は必要に応じて2基以上を直列に連結した反応塔内に第1の触媒10及び第2の触媒20を積層して充填することが好ましい。
【0042】
以上説明した本発明のワックスの水素化処理方法によれば、沸点が140〜360℃の中間留分としての液状炭化水素と、沸点が360℃以上の未分解ワックスとして固形ワックスとを、ノルマルパラフィン含有量を十分に低減した状態で効率的に得ることができる。
【実施例】
【0043】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0044】
(実施例1)
FTワックス(炭素数:21〜82、ノルマルパラフィン含有量:96質量%)を原料として準備した。また、USYゼオライト、アルミナボリア(アルミナ/ボリアのモル比:5.7)及びアルミナバインダーを質量比5:55:40で混合し、φ1.6mm、長さ2〜3mmの円柱状に成型した後、500℃で1時間焼成して触媒担体を得た。なお、上記USYゼオライトとしては、該USYゼオライト中のシリカとアルミナのモル比が40であり、平均粒子径が0.9μmであるものを用いた。得られた触媒担体に、ジクロロテトラアンミン白金(II)水溶液を含浸し、120℃で3時間乾燥した後、500℃で1時間焼成することで、触媒全量を基準として0.6質量%の白金が担体に担持されてなる第1の触媒を得た。更に、シリカアルミナ(アルミナ含有量:14モル%)とアルミナバインダーとを質量比80:20で混合し、φ1.6mm、長さ2〜3mmの円柱状に成型した後、500℃で1時間焼成して触媒担体を得た。得られた触媒担体に、ジクロロテトラアンミン白金(II)水溶液を含浸し、120℃で3時間乾燥した後、500℃で1時間焼成することで、触媒全量を基準として0.6質量%の白金が担体に担持されてなる第2の触媒を得た。
【0045】
次に、固定床反応塔に第1の触媒140mlと第2の触媒60mlとを積層して充填し、反応前に水素気流下、345℃で4時間金属(白金)を還元した。その後、第1及び第2の触媒全体に対する原料の液空間速度2.5h−1、反応圧力4MPa、水素油比520NL/Lの条件下で、原料に対する沸点360℃以下の留分(分解生成物)が80質量%になるように反応温度を280℃に設定し、原料の水素化処理を行った。これにより得られた生成油のガスクロマトグラフィー分析を行い、上記分解生成物の中で沸点140〜360℃の中間留分が占める割合(収率)、及び、該中間留分中のノルマルパラフィン含有量を求めた。また、同時に沸点360℃以上の未分解ワックスについても、該未分解ワックス中のノルマルパラフィン含有量を求めた。その結果を表1に示す。
【0046】
(実施例2)
第1の触媒及び第2の触媒において、0.6質量%の白金を担持する代わりに、ジクロロテトラアンミンパラジウム水溶液及びジクロロテトラアンミン白金(II)水溶液を用いてパラジウム0.02質量%及び白金0.6質量%を担持したこと以外は実施例1と同様にして、原料の水素化処理を行った。このとき、原料に対する沸点360℃以下の留分(分解生成物)が80質量%になる反応温度は279℃であった。また、中間留分の収率、該中間留分中のノルマルパラフィン含有量、及び、未分解ワックス中のノルマルパラフィン含有量を表1に示す。
【0047】
(実施例3)
第1の触媒において、平均粒子径0.9μmのUSYゼオライトの代わりに、平均粒子径0.42μmのUSYゼオライト(シリカとアルミナのモル比:40)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、原料の水素化処理を行った。このとき、原料に対する沸点360℃以下の留分(分解生成物)が80質量%になる反応温度は277℃であった。また、中間留分の収率、該中間留分中のノルマルパラフィン含有量、及び、未分解ワックス中のノルマルパラフィン含有量を表1に示す。
【0048】
(実施例4)
第1の触媒において、USYゼオライト、アルミナボリア及びアルミナバインダーの質量比を3:55:42に変更したこと以外は実施例1と同様にして、原料の水素化処理を行った。このとき、原料に対する沸点360℃以下の留分(分解生成物)が80質量%になる反応温度は298℃であった。また、中間留分の収率、該中間留分中のノルマルパラフィン含有量、及び、未分解ワックス中のノルマルパラフィン含有量を表1に示す。
【0049】
(実施例5)
第2の触媒において、シリカアルミナの代わりにシリカジルコニア(ジルコニア含有量:45モル%)を使用したこと以外は実施例1と同様にして、原料の水素化処理を行った。このとき、原料に対する沸点360℃以下の留分(分解生成物)が80質量%になる反応温度は278℃であった。また、中間留分の収率、該中間留分中のノルマルパラフィン含有量、及び、未分解ワックス中のノルマルパラフィン含有量を表1に示す。
【0050】
(比較例1)
第2の触媒を使用せず、固定床反応塔における第1の触媒の充填量を200mlとしたこと以外は実施例1と同様にして、原料の水素化処理を行った。このとき、原料に対する沸点360℃以下の留分(分解生成物)が80質量%になる反応温度は279℃であった。また、中間留分の収率、該中間留分中のノルマルパラフィン含有量、及び、未分解ワックス中のノルマルパラフィン含有量を表1に示す。
【0051】
(比較例2)
第1の触媒を使用せず、固定床反応塔における第2の触媒の充填量を200mlとしたこと以外は実施例1と同様にして、原料の水素化処理を行った。このとき、原料に対する沸点360℃以下の留分(分解生成物)が80質量%になる反応温度は279℃であった。また、中間留分の収率、該中間留分中のノルマルパラフィン含有量、及び、未分解ワックス中のノルマルパラフィン含有量を表1に示す。
【0052】
(比較例3)
液空間速度を4.5h−1に変更したこと以外は実施例1と同様にして、原料の水素化処理を行った。このとき、原料に対する沸点360℃以下の留分(分解生成物)が80質量%になる反応温度は373℃であった。また、中間留分の収率、該中間留分中のノルマルパラフィン含有量、及び、未分解ワックス中のノルマルパラフィン含有量を表1に示す。
【0053】
(比較例4)
液空間速度を0.35h−1に変更したこと以外は実施例1と同様にして、原料の水素化処理を行った。このとき、原料に対する沸点360℃以下の留分(分解生成物)が80質量%になる反応温度は243℃であった。また、中間留分の収率、該中間留分中のノルマルパラフィン含有量、及び、未分解ワックス中のノルマルパラフィン含有量を表1に示す。
【0054】
【表1】



【0055】
表1に示した結果から明らかなように、本発明のワックスの水素化処理方法(実施例1〜5)によれば、比較例1〜4の水素化処理方法と比較して、一定の反応条件下においてワックスを水素化処理し、ノルマルパラフィン含有量が十分に低減された中間留分を収率良く得ると同時に、ノルマルパラフィン含有量が十分に低減された未分解ワックス留分を得ることができることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】固定床反応塔を用いた本発明のワックスの水素化処理方法の好適な一実施形態を説明するための模式図である。
【図2】固定床反応塔を用いた本発明のワックスの水素化処理方法の他の一実施形態を説明するための模式図である。
【符号の説明】
【0057】
10…第1の触媒、20…第2の触媒、30…固定床反応塔。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素雰囲気下、液空間速度0.4〜4.0h−1の条件にて、ワックスを、超安定Y型ゼオライトとアモルファス固体酸とを含む第1の触媒と接触させた後、超安定Y型ゼオライトを実質的に含まず固体酸を含む第2の触媒と接触させることにより、前記ワックスの水素化処理を行うことを特徴とするワックスの水素化処理方法。
【請求項2】
固定床反応塔内の上流側に前記第1の触媒を、下流側に前記第2の触媒をそれぞれ配置し、前記固定床反応塔内で前記ワックスの水素化処理を行うことを特徴とする請求項1記載のワックスの水素化処理方法。
【請求項3】
前記第1の触媒及び/又は前記第2の触媒は、それらを構成する触媒担体上にパラジウム及び/又は白金を担持してなるものであることを特徴とする請求項1又は2に記載のワックスの水素化処理方法。
【請求項4】
前記第1の触媒における前記超安定Y型ゼオライトの平均粒子径が、1.0μm以下であることを特徴とする請求項1〜3のうちのいずれか一項に記載のワックスの水素化処理方法。
【請求項5】
前記第1の触媒中の前記超安定Y型ゼオライトの含有量が、前記第1の触媒全量を基準として4.0質量%以下であることを特徴とする請求項1〜4のうちのいずれか一項に記載のワックスの水素化処理方法。
【請求項6】
前記第1の触媒における前記アモルファス固体酸が、シリカアルミナ、アルミナボリア及びシリカジルコニアからなる群より選択される少なくとも一種を含むものであることを特徴とする請求項1〜5のうちのいずれか一項に記載のワックスの水素化処理方法。
【請求項7】
前記第2の触媒における前記固体酸が、シリカアルミナ、アルミナボリア、シリカジルコニア及びシリコアルミノフォスフェートからなる群より選択される少なくとも一種を含むものであることを特徴とする請求項1〜6のうちのいずれか一項に記載のワックスの水素化処理方法。
【請求項8】
前記ワックスの水素化処理を、反応温度270〜360℃、圧力2〜5MPaの条件下で行うことを特徴とする請求項1〜7のうちのいずれか一項に記載のワックスの水素化処理方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−186613(P2007−186613A)
【公開日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−6252(P2006−6252)
【出願日】平成18年1月13日(2006.1.13)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成16年度新エネルギー・産業技術総合開発機構 重質残油クリーン燃料転換プロセス技術開発委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000004444)新日本石油株式会社 (1,898)
【Fターム(参考)】