説明

ワンウェイクラッチ装置及びこれを備えたプーリ装置

【課題】径方向にコンパクトで、摩耗等による機能低下を抑制可能なワンウェイクラッチ装置を提供する。
【解決手段】プーリ部材13とプーリボス12との間に配置されるワンウェイクラッチ装置11であり、プーリ部材13に一体回転可能に結合された第1のクラッチ部材19、プーリボス12に一体回転可能でかつ軸方向に相対移動可能に結合され、第1のクラッチ部材19に軸方向に対向して配置された第2のクラッチ部材20、この第2のクラッチ部材20を第1のクラッチ部材19側へ軸方向に付勢するねじりコイルバネ22、第1のクラッチ部材19と第2のクラッチ部材20との一方向への相対回転で第2のクラッチ部材20を第1のクラッチ部材19から軸方向に離反させる作動手段、及び第2のクラッチ部材20が第1のクラッチ部材19から離反したときに第2のクラッチ部材20とプーリ部材13とを軸方向に結合させる結合手段と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワンウェイクラッチ装置及びこれを備えたプーリ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等のエンジンの補機として用いられるオルタネータは、クランクシャフトから取り出された回転力によって駆動され、自動車の走行に必要な電力を供給する。このオルタネータの入力軸にはオルタネータ用プーリ装置が取り付けられ、このオルタネータ用プーリ装置と、クランクシャフトに取り付けられたプーリとの間にベルトを架け渡すことで、オルタネータにエンジンの回転力を伝達している。
【0003】
一般に、自動車等のエンジンのクランクシャフトはシリンダ内で間歇的に生じる爆発力によって回転力が付与されるので、その回転速度には変動が生じる。一方、オルタネータは、その内部において比較的重量の重いアーマチュア等が入力軸と一体に回転しているので、クランクシャフトの回転速度の変動が急激であると、アーマチュアは自身の回転で生じる慣性力によってクランクシャフトの回転速度の変動に追従できず、クランクシャフトとオルタネータとの間で一時的に回転速度差が生じる場合がある。このような回転速度差は、オルタネータ用プーリ装置とベルトとの間のスリップやベルトへの過大な負荷を招き、ベルトの異音の発生や寿命低下等の原因となる。また、ベルトのスリップを防止するために当該ベルトの初期張力を比較的高く設定すると、クランクシャフトの回転抵抗が増大し、エンジンの燃費性能を低下させるという問題が生じる。
【0004】
このような実情から従来のオルタネータ用プーリ装置には、クランクシャフトから伝達される回転速度の変動を吸収するために、ベルトが巻き掛けられるプーリ部材と、オルタネータの入力軸に固定されるプーリボスとの間にワンウェイクラッチ装置が設けられている。
【0005】
この種のワンウェイクラッチ装置としては、特許文献1に記載されたものが公知であり、このワンウェイクラッチ装置は、図10に示すように、転がり軸受101及びブッシュ102を介して相対回転可能に連結されたプーリボス103とプーリ部材104との間に設けられている。プーリボス103の外周には捩りコイルバネ105が外嵌され、プーリボス103の軸方向他端部に形成したフランジ部106に捩りコイルバネ105の一端部が当接している。捩りコイルバネ105の他端部は、プーリボス103の外周側に配置された担体107に当接し、さらにこの担体107は、プーリボス103に一体回転可能に連結されたスラストワッシャ108に捩りコイルバネ105の付勢力によって圧接している。そして、担体107には、クラッチバネ109の一端部が連結され、このクラッチバネ109は、プーリ部材104の内周面に嵌合されている。
【0006】
以上の構成において、クランクシャフトからの回転がベルトを介してプーリ部材104に伝達されると、この回転方向とは逆方向に巻かれているクラッチバネ109の外径が拡がり、プーリ部材104の内周面に強く密着する。これによって、プーリ部材104に対する摩擦力が高まって担体107を一体回転させる。担体107は、捩りコイルバネ105の付勢力でスラストワッシャ108及びフランジ部106に摩擦結合しているので、プーリボス103も一体に回転する。
そして、クランクシャフトの回転速度の比較的大きな変動により、プーリ部材104よりもプーリボス103の回転速度が高まると、クラッチバネ109の外径が縮小してプーリ部材104の内周面に対する摩擦力が弱まり、プーリボス103とプーリ部材104とが相対回転することによって当該変動を吸収するように構成されている。なお、クランクシャフトの回転速度の微小な変動は、捩りコイルバネ105のねじり方向の弾性変形によって吸収される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2008−528906号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
図10に示す従来のワンウェイクラッチ装置は、クラッチバネ109の外径が縮小してプーリ部材104とプーリボス103とが相対回転する際にもクラッチバネ109の外周面はプーリ部材104の内周面に接触し、摺動している。そのため、クラッチバネ109の摩耗が顕著となり、この摩耗に起因して異音が発生したり、焼き付きによりクラッチ機能が損なわれたりするおそれがある。
【0009】
また、従来のワンウェイクラッチ装置は、プーリボス103の外周に捩りコイルバネ105を設け、さらにその外周にクラッチバネ109を設けているので、径方向の寸法が大きくなるという欠点がある。言い換えると、プーリ部材104を所定の径寸法に収めようとすると、クラッチバネ109や捩りコイルバネ105の収容スペースが十分に確保できず、これらバネの線径や外径寸法を小さくせざるを得ない。そのため、部品選定の自由度が少なくなり、所望のバネ定数や強度を得るのが困難となる。
【0010】
本発明は、上記のような実情に鑑みてなされたものであり、径方向にコンパクトに構成することができるとともに、摩耗等による機能低下を抑制することができるワンウェイクラッチ装置及びこれを備えたプーリ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、外周側回転体と、この外周側回転体の径方向内側に同一軸心状に配置された内周側回転体との間に配置されるワンウェイクラッチ装置であって、前記外周側回転体及び前記内周側回転体の一方の回転体に一体回転可能に結合された第1のクラッチ部材と、他方の回転体に一体回転可能でかつ軸方向に相対移動可能に結合され、前記第1のクラッチ部材に対して軸方向に対向する第2のクラッチ部材と、この第2のクラッチ部材を前記第1のクラッチ部材側へ軸方向に付勢する付勢手段と、前記第1のクラッチ部材と前記第2のクラッチ部材との一方向への相対回転により前記第2のクラッチ部材を前記第1のクラッチ部材から軸方向に離反させる作動手段と、前記第2のクラッチ部材が前記第1のクラッチ部材から離反したときに、前記第2のクラッチ部材と前記一方の回転体とを軸方向に結合させる結合手段と、を備えていることを特徴とする。
【0012】
本発明のワンウェイクラッチ装置では、一方の回転体と他方の回転体とが一方向に相対回転すると、これらに一体回転可能に結合された第1のクラッチ部材と第2のクラッチ部材も一方向に相対回転し、作動手段が第2のクラッチ部材を第1のクラッチ部材から軸方向に離反させる。そして、第2のクラッチ部材は、この離反動作によって一方の回転体に軸方向に結合し、これによって一方の回転体と他方の回転体とが一体回転する。この状態から、一方の回転体と他方の回転体とが他方向に相対回転とすると、これらに一体回転可能に結合された第1のクラッチ部材と第2のクラッチ部材も他方向に相対回転するため、第2のクラッチ部材は、付勢手段による付勢力で第1のクラッチ部材に接近し、一方の回転体に対する結合が解除される。これによって一方の回転体と他方の回転体とが切り離され、両者は他方向に相対回転可能となる。
【0013】
以上のように、本発明では、一方の回転体と他方の回転体との一方向の相対回転で第2クラッチ部材と一方の回転体とを軸方向に結合し、他方向の相対回転で第2のクラッチ部材と一方の回転体との結合を完全に解除することができるので、図10に示す従来のワンウェイクラッチ装置のように常にクラッチバネがプーリ部材の内周面に接触している場合に比べて、部品の摩耗が少なく、異音の発生や焼き付きによる機能低下が防止される。また、第2のクラッチ部材と一方の回転体とは軸方向に結合するものであるため、従来のワンウェイクラッチ装置のように、プーリ部材等の外周側回転体の内周側にクラッチバネの収容スペースを確保する必要が無く、当該外周側回転体の外径を小さくすることができる。
【0014】
前記作動手段は、前記第1のクラッチ部材と前記第2のクラッチ部材との間に転動可能に配置された転動体と、前記第1のクラッチ部材と前記第2のクラッチ部材との前記一方向の相対回転によって前記転動体を第2のクラッチ部材側へ移動させるカム面と、を備えていることが好ましい。
このような構成によって、第1のクラッチ部材と第2のクラッチ部材との一方向の相対回転で第2のクラッチ部材を第1のクラッチ部材から軸方向に離反させる動作を簡単な構造で行うことができる。
【0015】
前記転動体は、前記カム面上を周方向に転動する円筒ローラによって構成されていてもよいし、玉によって構成されていてもよい。
転動体を円筒ローラによって構成した場合、第1のクラッチ部材及び第2のクラッチ部材に対する転動体の接触範囲を拡大することができ、転動体の許容荷重を高めるとともに耐久性を向上することができる。また、転動体を玉によって構成した場合、円筒ローラに比べて、第1,第2のクラッチ部材の径方向幅を小さくすることが可能であり、このワンウェイクラッチ装置を内蔵した装置の径方向寸法をより小さくすることができる。
【0016】
前記作動手段は、前記第1のクラッチ部材と前記第2のクラッチ部材との間に姿勢変更可能に配置されたスプラグを備えていてもよい。
このような構成によって、第1のクラッチ部材にはカム面等を形成する必要が無く、その構造を簡素化することができる。
【0017】
前記結合手段は、前記第2のクラッチ部材に設けられた当接面と、前記当接面に軸方向に対向するように前記一方の回転体に設けられた被当接面と、を備え、前記当接面と前記被当接面との軸方向の接触により前記第2のクラッチ部材と前記一方の回転体とを摩擦結合するものであることが好ましい。
この構成によれば、当接面と被当接面との接触及び離反によって、第2のクラッチ部材と一方の回転体との結合及びその解除を滑らかに行うことができる。
【0018】
前記付勢手段は、前記第2のクラッチ部材と、前記他方の回転体との間に介在されるとともに、両者に圧接することによって前記第2のクラッチ部材と前記他方の回転体とを摩擦結合するものであることが好ましい。
このような構成によって、付勢手段によって第2のクラッチ部材を第1のクラッチ部材側へ付勢するだけでなく、第2のクラッチ部材と他方の回転体とを一体回転可能に結合することができる。
【0019】
本発明のプーリ装置は、外周にベルトが巻き掛けられるプーリ部材と、前記プーリ部材の内周側に、当該プーリ部材と同一軸心状に配置されたプーリボスと、前記プーリ部材を外周側回転体とし、前記プーリボスを内周側回転体として設けられた上述のいずれかの構成のワンウェイクラッチ装置と、を備えていることを特徴とする。
本発明のプーリ装置は、上述した各構成のワンウェイクラッチ装置と同様の作用効果を奏する。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、ワンウェイクラッチ装置及びプーリ装置を径方向にコンパクトに構成することができるとともに、摩耗等に起因する機能低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るプーリ装置(ワンウェイクラッチ装置)の正面断面図である。
【図2】第1のクラッチ部材の側面図である。
【図3】第1のクラッチ部材の斜視図である。
【図4】ワンウェイクラッチ装置の要部の拡大断面図である。
【図5】図4のA−A断面図である。
【図6】本発明の第2の実施形態に係るワンウェイクラッチ装置の要部の拡大断面図である。
【図7】図6のB−B断面図である。
【図8】本発明の第3の実施形態に係るワンウェイクラッチ装置の要部の拡大断面図である。
【図9】図8のC−C断面図である。
【図10】従来技術に係るプーリ装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1は、本発明の第1の実施形態に係るプーリ装置(ワンウェイクラッチ装置)の正面断面図である。このプーリ装置10は、例えば自動車等のエンジン補機として用いられるオルタネータの入力軸に取り付けられて使用される。プーリ装置10は、円筒状に形成されたプーリボス12と、このプーリボス12の外周側に同軸に配置された円筒状のプーリ部材13と、これらの間に介装されたワンウェイクラッチ装置11とを備えている。
【0023】
プーリ部材13の外周面15には波状溝が形成され、当該外周面15には、エンジンのクランクシャフトからの回転力を伝達するためのベルトが巻き掛けられる。また、プーリボス12の内周には、図示しないオルタネータから突設された入力軸が挿入・固定される。プーリ部材13とプーリボス12との間の軸方向両端には転がり軸受16、17が設けられ、この転がり軸受16、17によってプーリ部材13とプーリボス12とが相対回転可能に連結されている。そして、クランクシャフトの回転はベルトを介してプーリ部材13に伝達され、このプーリ部材13の回転がワンウェイクラッチ装置11を介してプーリボス12に伝達され、オルタネータの入力軸を回転させる。
【0024】
ワンウェイクラッチ装置11は、軸方向に対向する一対のクラッチ部材(第1のクラッチ部材19、第2のクラッチ部材20)と、この一対のクラッチ部材19,20の間に配置された転動体21と、一対のクラッチ部材19,20に隣接して配置されたねじりコイルバネ22と、を備えている。
【0025】
図2は、第1のクラッチ部材19の側面図、図3は、第1のクラッチ部材19の斜視図である。
図1〜図3に示すように、第1のクラッチ部材19は、軸受鋼等の金属材料によって形成された環状の円板であり、プーリ部材13の内周面に一体回転可能に固定されている。また、図2及び図3に示すように、第1のクラッチ部材19の、第2のクラッチ部材20に対向する側面には、複数の凹所24が周方向に間隔をあけて形成されている。各凹所24の底面25は、周方向一方側が深く、他方側が浅くなるように傾斜する傾斜面とされ、この傾斜面が後述するカム面を構成している。また、図1に示すように、第1のクラッチ部材19の反対側の側面は凹凸のない平坦な面とされ、転がり軸受16の外輪に当接している。
【0026】
図1に示すように、第2のクラッチ部材20は、軸受鋼等の金属材料によって形成された環状の部材であり、径方向に沿って配置された円板部27と、この円板部27の径方向外端部から第1のクラッチ部材19とは反対側へ軸方向に向けて延設された円筒部28とから断面略L字形状に形成されている。
【0027】
円板部27は、第1のクラッチ部材19に軸方向に対向して配置されるとともに、ねじりコイルバネ22から付勢力を受けるバネ受け部として機能し、円筒部28は、後述するように、プーリ部材13に対する摩擦結合部として機能する。また、円板部27の第1のクラッチ部材19に対向する側面は凹凸のない平坦な面に形成されている。
【0028】
図1に示すように、ねじりコイルバネ22は、プーリボス12の一端部(右端部)から径方向外側に突出するフランジ部30の側面(被当接面)30Aと、第2のクラッチ部材20の円板部27の側面(当接面)27Aとの間に配置され、これらフランジ部30及び円板部27によって軸方向に圧縮されている。第2のクラッチ部材20は、ねじりコイルバネ22の軸方向の付勢力によって転動体21を介して第1のクラッチ部材19に押し付けられるとともに、フランジ部30(プーリボス12)に対して一体回転可能に摩擦結合されている。第1のクラッチ部材19は、ねじりコイルバネ22の軸方向の付勢力によって転がり軸受16の外輪に押し付けられている。
【0029】
また、ねじりコイルバネ22の一端部(左端部)は、第2のクラッチ部材20に周方向に係合し、ねじりコイルバネ22の他端部(右端部)は、プーリボス12に周方向に係合している。そのため、第2のクラッチ部材20が一方向に回転(正回転)すると、当該第2のクラッチ部材20がねじりコイルバネ22の一端部を周方向に押動し、更にねじりコイルバネ22の他端部がプーリボス12を周方向に押動して回転を伝達する。これにより、第2のクラッチ部材20とプーリボス12とが一方向に一体回転可能となっている。なお、ねじりコイルバネ22は、第2のクラッチ部材20とプーリボス12との一方向への一体回転によって拡径する方向に弾性変形する。
【0030】
図2に示すように、転動体21は円筒状のローラからなり、周方向に略等間隔で第1のクラッチ部材19の各凹所24に1個ずつ配置されている。そして、転動体21は、第1のクラッチ部材19と第2のクラッチ部材20との間に挟まれ、両者の相対回転によって周方向に転動するように構成されている。
【0031】
図4は、ワンウェイクラッチ装置11の要部の拡大断面図、図5は、図4のA−A断面図である。第2のクラッチ部材20の円筒部28は、プーリ部材13の内周面の径方向内側に隙間をあけて配置されている。また、円筒部28は、その軸方向の先端面33がプーリ部材13の内周面に形成された段差面34に隙間をあけて軸方向に対向している。
【0032】
第1のクラッチ部材19は、クランクシャフトから伝達された動力によるプーリ部材13の回転に伴って、図5の矢印a方向に回転(正回転)する。これにより、転動体21は、カム面25と円板部27の隙間Sが狭くなる方向へ向けてカム面25上を矢印c方向に転動し、第2のクラッチ部材20を、矢印d方向、すなわち第1のクラッチ部材19から離反する方向に押動する。これによって、第1のクラッチ部材19と第2のクラッチ部材20との対向間隔が拡げられる。ここで、第1のクラッチ部材19に形成されたカム面25や、このカム面25上を転動する転動体21は、第2のクラッチ部材20を第1のクラッチ部材19から軸方向に離反させる作動手段を構成している。
【0033】
図4に示すように、第2のクラッチ部材20が矢印d方向に移動すると、円筒部28の先端面33がプーリ部材13の段差面34に当接し、両者が摩擦結合する。第2のクラッチ部材20はねじりコイルバネ22によってプーリボス12に一体回転可能に結合されているので、プーリ部材13の回転は、第2のクラッチ部材20及びねじりコイルバネ22を介してプーリボス12に伝達され、プーリボス12はプーリ部材13と一体回転する。ここで、円筒部28の先端面33及びプーリ部材13の段差面34は、第2のクラッチ部材20とプーリ部材13とを結合する結合手段を構成している。
【0034】
一方、クランクシャフトの回転変動によってプーリ部材13の回転速度が低下し、プーリボス12がオルタネータの慣性力によってプーリ部材13の回転に追従できずに、プーリ部材13よりも高速で回転した場合には、図5に示すように、第1のクラッチ部材19が第2のクラッチ部材20に対して相対的に矢印b方向に回転(逆回転)し、転動体21は矢印cとは反対方向に相対的に転動する。これによって、第2のクラッチ部材20は、ねじりコイルバネ22の付勢力で矢印dとは反対方向に移動し、図4に示すように、プーリ部材13との結合が解除される。これにより、プーリ部材13とプーリボス12とが相対回転し、プーリ部材13の回転速度の変動がワンウェイクラッチ装置11によって吸収される。したがって、プーリ部材13とベルトとの間のスリップやベルトへの過大な負荷を防止し、ベルト異音の発生や寿命低下を防止することができる。
【0035】
なお、プーリ部材13(クランクシャフト)のより微小な回転変動は、ねじりコイルバネ22のねじり方向の弾性変形でプーリ部材13とプーリボス12との相対回転が許容されることによって、ワンウェイクラッチ装置11の解除を伴うことなく吸収される。
【0036】
以上に説明した本実施形態のプーリ装置10は、プーリ部材13とプーリボス12との間に配置されたワンウェイクラッチ装置11が、プーリ部材13の正回転によって第2のクラッチ部材20とプーリ部材13とを軸方向に結合し、プーリ部材13の逆回転によって第2のクラッチ部材20とプーリ部材13との結合を解除する。そのため、図10に示す従来のワンウェイクラッチ装置11のように常にクラッチバネがプーリ部材13の内周面に接触している場合に比べて、部品の摩耗が少なく、異音の発生や焼き付きによる機能低下が防止される。また、本実施形態では、従来のワンウェイクラッチ装置(図10参照)のようにプーリ部材の内周側にクラッチばねの収容スペースを確保する必要がないので、プーリ部材13の外径を小さくすることができ、よりコンパクトなプーリ装置10を形成することができる。
【0037】
また、本実施形態では、転動体21として円筒ころを使用しているので、第1のクラッチ部材19及び第2のクラッチ部材20との接触範囲を拡大することができ、これらの摩耗損傷を抑制して寿命を延ばすことができる。
また、第1のクラッチ部材19には、ある程度の精度が要求される凹所24(カム面25)の加工が必要であるが、その他の第2のクラッチ部材20やプーリ部材13、プーリボス12等にはクラッチ作動のための複雑な加工はないため、製造コストを低減することができる。
【0038】
図6は、本発明の第2の実施形態に係るワンウェイクラッチ装置11の要部の拡大断面図、図7は、図6のB−B断面図である。
本実施形態では、第1,第2のクラッチ部材19,20の間に配置された転動体21が円筒ころではなく、玉とされている点で第1の実施形態と異なっている。また、この玉の軌道を形成するため、凹所24の底面(カム面)25には、周方向に保持溝39が形成されている。その他の構成及び作用効果は、第1の実施形態と略同様であるので、詳細な説明は省略する。
本実施形態では、転動体21として円筒ローラよりも径方向の寸法が小さい玉が使用されているので、第1のクラッチ部材19及び第2のクラッチ部材20の径方向幅や外径寸法を小さくすることができる利点がある。
【0039】
図8は、本発明の第3の実施形態に係るワンウェイクラッチ装置11の要部の拡大断面図、図9は、図8のC−C断面図である。
本実施形態では、第1,第2のクラッチ部材19,20の間にスプラグ41が配置され、第2のクラッチ部材20に対向する第1のクラッチ部材19の側面は、凹所の無い平坦な面に形成されている。スプラグ41は、周方向に間隔をあけて複数設けられると共に、保持器44によって相互の周方向間隔が保持されている。
【0040】
図9に示すように、スプラグ41は、第1のクラッチ部材19に当接する第1当接面42と、第2のクラッチ部材20に当接する第2当接面43とを備え、第1当接面42及び第2当接面43はそれぞれ凸状かつ略円弧状に形成されている。また、第1のクラッチ部材19及び第2のクラッチ部材20に当接している第1当接面42と第2当接面43との距離は、スプラグ41の傾きによって変化し、第1のクラッチ部材19が矢印a方向に回転したときは、スプラグ41は矢印e方向に傾き、第1当接面42と第2当接面43との距離が拡大する。逆に、第1のクラッチ部材19が矢印b方向に回転したときは、スプラグ41は矢印eとは反対方向に傾き、第1当接面42と第2当接面43との距離は縮小する。
【0041】
そして、第1当接面42と第2当接面43の距離が拡大すると、第2のクラッチ部材20が矢印d方向に押されてプーリ部材13に摩擦結合し、逆に、第1当接面42と第2当接面43の距離が縮小すると、第2のクラッチ部材20が矢印dとは反対方向に戻り、プーリ部材13との結合が解除される。
本実施形態では、第1実施形態と同様の効果を奏するほか、第1のクラッチ部材19に凹所(カム面)を形成する必要が無いため、製造コストを低減することができる。
【0042】
本発明は、上記実施形態に限定されることなく適宜設計変更可能である。
例えば、本発明のワンウェイクラッチ装置11は、上述のプーリ装置10に限らず、種々の用途に使用することができ、特に、回転体の径方向寸法が制限される装置に好適に使用することができる。
【0043】
第2のクラッチ部材20とプーリボス12とは、ねじりコイルバネ(付勢手段)22によって摩擦結合されているが、これとは異なる他の手段(係合手段、連結手段等)によって一体回転可能に結合されていてもよい。
また、第2のクラッチ部材20を第1のクラッチ部材19側へ付勢する付勢手段22は、ねじりコイルバネに限らず、板ばねやゴム様弾性体などの他の部品を適用することができる。
【0044】
上記第1,第2の実施形態において、複数の転動体21の間隔及び姿勢を所定に保持するために、保持器を設けてもよい。
【符号の説明】
【0045】
10:プーリ装置、11:ワンウェイクラッチ装置、12:プーリボス(内周側回転体)、13:プーリ部材(外周側回転体)、19:第1のクラッチ部材、20:第2のクラッチ部材、21:転動体、22:ねじりコイルバネ(付勢手段)、25:カム面、27A:当接面、28:円筒部、30A:被当接面、33:先端面(結合面;結合手段)、34:段差面(結合面;結合手段)、41:スプラグ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周側回転体と、この外周側回転体の径方向内側に同一軸心状に配置された内周側回転体との間に配置されるワンウェイクラッチ装置であって、
前記外周側回転体及び前記内周側回転体の一方の回転体に一体回転可能に結合された第1のクラッチ部材と、
他方の回転体に一体回転可能でかつ軸方向に相対移動可能に結合され、前記第1のクラッチ部材に対して軸方向に対向する第2のクラッチ部材と、
この第2のクラッチ部材を前記第1のクラッチ部材側へ軸方向に付勢する付勢手段と、
前記第1のクラッチ部材と前記第2のクラッチ部材との一方向への相対回転により前記第2のクラッチ部材を前記第1のクラッチ部材から軸方向に離反させる作動手段と、
前記第2のクラッチ部材が前記第1のクラッチ部材から離反したときに、前記第2のクラッチ部材と前記一方の回転体とを軸方向に結合させる結合手段と、
を備えていることを特徴とするワンウェイクラッチ装置。
【請求項2】
前記作動手段は、
前記第1のクラッチ部材と前記第2のクラッチ部材との間に転動可能に配置された転動体と、
前記第1のクラッチ部材と前記第2のクラッチ部材との前記一方向の相対回転によって前記転動体を前記第2のクラッチ部材側へ移動させるカム面と、
を備えている請求項1に記載のワンウェイクラッチ装置。
【請求項3】
前記転動体は、前記カム面上を周方向に転動する円筒ローラによって構成されている請求項2に記載のワンウェイクラッチ装置。
【請求項4】
前記転動体は、前記カム面上を周方向に転動する玉によって構成されている請求項2に記載のワンウェイクラッチ装置。
【請求項5】
前記作動手段は、前記第1のクラッチ部材と前記第2のクラッチ部材との間に姿勢変更可能に配置されたスプラグを備えている請求項1に記載のワンウェイクラッチ装置。
【請求項6】
前記結合手段は、
前記第2のクラッチ部材に設けられた当接面と、前記当接面に軸方向に対向するように前記一方の回転体に形成された被当接面と、を備え、前記当接面と前記被当接面との軸方向の接触により前記第2のクラッチ部材と前記一方の回転体とを摩擦結合するものである請求項1〜5のいずれかに記載のワンウェイクラッチ装置。
【請求項7】
前記付勢手段は、前記第2のクラッチ部材と、前記他方の回転体との間に介在されるとともに、両者に圧接することによって前記第2のクラッチ部材と前記他方の回転体とを摩擦結合する請求項1〜6のいずれかに記載のワンウェイクラッチ装置。
【請求項8】
外周にベルトが巻き掛けられるプーリ部材と、
前記プーリ部材の内周側に、当該プーリ部材と同一軸心状に配置されたプーリボスと、
前記プーリ部材を外周側回転体とし、前記プーリボスを内周側回転体として設けられた請求項1〜7のいずれかに記載のワンウェイクラッチ装置と、
を備えていることを特徴とするプーリ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−220407(P2011−220407A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−88701(P2010−88701)
【出願日】平成22年4月7日(2010.4.7)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】