説明

ワーク把持装置

【課題】円筒度が十分でないワークでも、強固にワークを把持することのできるワーク把持装置を提供すること。
【解決手段】回転する主軸3に供給する流体によって軸方向に移動する押圧部材22と、該押圧部材22に連結された作動用リング20と、該作動用リング20を軸方向に摺動可能に保持する中空の本体30と、作動用リング20の内周面に形成した傾斜溝20aに摺接する傾斜突起21bを有するクランプ爪21とからなり、前記クランプ爪21を、リング軸Mに対して軸直角方向に移動してワークWを把持するワーク把持機構2を備えたワーク把持装置において、前記押圧部材22、22’作動用リング20、20’及びクランプ爪21、21’を同じリング軸Mとなるように複数組並設して、1個のワークWを長手方向に離間した複数箇所で把持するようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、円筒状のワークを把持するワーク把持装置に関し、特にワークを回転させて加工する際に使用するワーク把持装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図6〜図9に、従来のワーク把持装置の一例を示す。
このワーク把持装置10は、例えば、ワークを回転させて加工する絞り加工装置に利用され、絞り加工装置によって加工される円筒状のワークWを把持するものである。
そして、このワーク把持装置10は、駆動装置(図示省略)によって回転する主軸3に取り付けられ、円筒状のワークWを把持する複数のクランプ爪21を、主軸3の中心軸と一致するリング軸Mに対して軸直角方向に移動可能に配設するもので、図に示すように、本体30内にワーク把持装置10のリング軸Mに対して軸方向に摺動可能に配設する作動用リング20と、該作動用リング20の内周面に形成した傾斜溝20aに嵌合され摺接する傾斜突起21bを形成するクランプ爪21と、前記作動用リング20を移動させる押圧部材22とからなるワーク把持機構2を主要構成要素としている。
【0003】
作動用リング20は、本体30内の中空部分の内周面上に複数箇所(例えば、3、4、8又は16箇所)にクランプ爪21の傾斜突起21bとその側面が摺接する断面T字状の傾斜溝20aを形成し、クランプ爪の傾斜突起21bが作動用リング20の傾斜溝20a内に嵌合されているのでクランプ爪21の保持(脱落防止)と、作動用リング20が引き勝手の際に(図8において右方向への移動する際に)、クランプ爪21の把持部分21aがワークWから離間するようにしている。
そして、作動用リング20は、連結バー23aを介して、押圧部材22に取り付けられた連結板23と連結されている。
押圧部材22は、連結板23を固定する軸部22bと、主軸3に取り付けられた流体室31内に位置する受圧部22aとから構成されている。
【0004】
流体室31は、押圧部材22の受圧部22aが摺動可能に収納される有底状の圧力室31aと蓋部分31bとからなり、受圧部22aの受圧面22d及び圧力室31aによって囲まれるように圧力室C1を形成するとともに、受圧部22aの受圧面22c及び蓋部分31bによって囲まれるように圧力室C2を形成するようにしている。
【0005】
クランプ爪21は、リング軸Mに対して軸直角方向に移動可能、より具体的には、周囲より接近、離間可能となるように、本体30の前側端部と内面にリング状のカバー5、5’を取り付け、クランプ爪21の前後を挟み込むことによりリング軸M方向に移動できない構成としている。
【0006】
そして、クランプ爪21は、その傾斜突起21bが作動用リング20の内周面に形成した傾斜溝20aと摺接するように嵌合されており、作動用リング20がリング軸Mに対して軸方向に移動することによって、リング軸Mに対して軸直角方向に移動する。
【0007】
上記構成において、ワークWを把持するときは、流体路3bに流体(例えば、圧油)を流入させ、圧力室C2を昇圧する。
そして、押圧部材22の受圧部22aに形成した受圧面22cに対して圧力がかかり、作動用リング20は押圧部材22を介して、図7の例では左側に移動し、作動用リング20の傾斜溝20aに嵌合され摺接するクランプ爪21の傾斜面21cを押圧することにより、クランプ爪21の把持部分21aが、作動用リング20のリング軸Mに対して軸直角方向に縮径していくことによってワークWを把持する。
クランプ爪21が、ワーク把持装置10のリング軸Mに対し、周囲より接近していくことによってワークWを把持するという、所謂ウェッジクランプ方式を採用しているため、把持後のワークWの軸芯はワーク把持装置10のリング軸Mと一致し、絞り加工装置等の主軸3の軸芯との位置合わせは不要となる。
【0008】
ところで、このワーク把持装置10では、1個のワークを長手方向に対して1箇所で周囲より把持するものであるため、ワークの円筒度が十分でない場合等、クランプ爪の把持部分の面全体がワークの周面に接することができず、各クランプ爪においてワークの長手方向に対して前当たりや後当たりとなり、把持が不安定なため加工中にワークが滑ったり、前方にいざり出ることがある等、強力かつ確実なワーク把持ができないという問題があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記従来のワーク把持装置の有する問題点に鑑み、円筒度が十分でないワークでも、強固にワークを把持することのできるワーク把持装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明のワーク把持装置は、回転する主軸内に供給する流体によって軸方向に移動する押圧部材と、該押圧部材に連結された作動用リングと、該作動用リングを軸方向に摺動可能に保持する中空の本体と、作動用リングの内周面に形成した傾斜溝に摺接する傾斜突起を有するクランプ爪とからなり、前記クランプ爪を、リング軸に対して軸直角方向に移動してワークを把持するワーク把持機構を備えたワーク把持装置において、前記押圧部材、作動用リング及びクランプ爪を同じリング軸となるように複数組並設して、1個のワークを長手方向に離間した複数箇所で把持するようにしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明のワーク把持装置によれば、押圧部材、作動用リング及びクランプ爪を同じリング軸となるように複数組並設して、1個のワークを長手方向に離間した複数箇所で、それぞれ別個に押圧動作するワーク把持機構によってワークを把持するようにしたから、長手方向の1箇所で周上に複数あるクランプ爪の把持部分の面全体がワークの周面に接することがない場合でも、長手方向の前記クランプ爪とは別の箇所のクランプ爪にてワークを確実に把持することができ、加工中のワークが滑ることなく、強固に把持することができるワーク把持装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明のワーク把持装置の実施の形態を、図面に基づいて説明する。
【実施例1】
【0013】
図1〜図4に、本発明のワーク把持装置の一実施例を示す。
このワーク把持装置の正面図は、従来例とほぼ同様でありその図面を省略し、図6におけるU−U断面と同じ箇所の断面図、すなわち、図7〜図8に対応した図面をもって説明する。
【0014】
図1に示すワーク把持装置1は、回転する主軸3内に供給される流体圧(例えば、油圧力)によって軸方向に移動する押圧部材22、22’と、該押圧部材22、22’に連結された作動用リング20、20’と、作動用リング20、20’の内周面に形成した断面T字状で主軸3側に向かうにつれ下り傾斜している傾斜溝20a、20’aに摺接する傾斜突起21b、21’bを有するクランプ爪21、21’とからなるワーク把持機構2と、該作動用リング20、20’を軸方向に摺動可能に保持する中空の本体30とを主要構成要素としている。
前記押圧部材22、22’の受圧部22a、22’a及び流体室31によって囲まれた圧力室C1、C2に流体を導入出させることで押圧部材22、22’を介して作動用リング20、20’が軸方向に移動し、前記クランプ爪21、21’を、リング軸M(主軸3の中心軸)に対して軸直角方向に移動させてワークWを把持したり把持を解除するようになっており、前記押圧部材22、22’と作動用リング20、20’及びクランプ爪21、21’を同じリング軸Mとなるように2組並設して、1個のワークWを長手方向に離間した2箇所で把持するようにしたものである。
【0015】
クランプ爪21、21’は、図3に示すように、作動用リング20、20’の内周面に形成した断面T字状の傾斜溝20a、20’aに摺動するように嵌合された傾斜突起21b、21’bを形成し、内面にワークWを把持する把持部分21a、21’aと外面には押圧部材22、22’によって押圧されたときにリング軸Mに対して軸直角方向に縮径するように傾斜した傾斜面21c、21’cを形成しており、この傾斜面21c、21’cの傾斜角度は作動用リング20、20’の内周面に形成した傾斜溝20a、20’aと等しい角度となっている。
また、クランプ爪21、21’は、図1〜図2に示すようにその後面と前面が当接し、図例左側(前側)のクランプ爪21の前面は、本体30の端部に取り付けたリング状のカバー5に当接し、図例右側(後側)のクランプ爪21’の後面は、本体30の内部に配設したリング状のカバー5’に当接することによって挟まれ、作動用リング20、20’の軸方向の移動によって、リング軸Mに対して軸直角方向にのみ移動し、リング軸Mに対して軸方向に移動しないように構成されている。
【0016】
作動用リング20、20’は、連結バー23a、23’aを介して、押圧部材22、22’に取り付けられた連結板23、23’と連結されている。
押圧部材22、22’は、連結板23、23’を固定する軸部22b、22’bと主軸3に取り付けられた流体室31内に位置する受圧部22a、22’aとから構成されている。
【0017】
そして、図例左側(前側)の作動用リング20と連結される押圧部材22は、図例右側(後側)の作動用リング20’と連結される押圧部材22’内に内包され、圧力室C1に流体が導入された場合、押圧部材22’は受圧面22’dに圧力がかかり、押圧部材22’が図例右側に移動し、押圧部材22’の当接面22’eが押圧部材22の当接面22eに当接して押圧部材22が図例右側に移動するように構成されている。
【0018】
作動用リング20、20’を軸方向に摺動可能に保持する中空の本体30は、カバー5を取り付けた前側端部(図例左側)の反対となる後側端部(図例右側)に蓋部4を取り付け、連結部32を介して、流体室31と連結することで、主軸3に本体30を固定している。
なお、本体30は、連結部32や蓋部4を設けることなく、直接流体室31と連結するように構成しても構わない。
【0019】
流体室31は、従来例と同様、押圧部材22、22’の受圧部22a、22’aが摺動可能に収納される有底状の圧力室31aと蓋部分31bとからなり、受圧部22’aの受圧面22’d及び圧力室31aによって囲まれるように圧力室C1を形成するとともに、受圧部22’aの受圧面22’c、受圧部22aの受圧面22c及び蓋部分31bによって囲まれるように圧力室C2を形成する。
【0020】
そして、流体室31には圧力室C1、C2に連通する流体路3a、3bを形成し、蓋部分31bの主軸3側の中央に突出形成した流体導入出部31cから、流体継手6を介して、圧力室C1、C2内に流体を供給するようにしている。
【0021】
上記構成において、ワークWを把持するときは、流体路3bに流体(例えば、圧油)を流入させ、圧力室C2を昇圧する。
そして、押圧部材22の受圧部22aに形成した受圧面22cと押圧部材22’の受圧部22’aに形成した受圧面22’cに対して圧力がかかり、作動用リング20は押圧部材22を介して、また作動用リング20’は押圧部材22’を介して、それぞれ別個に図1の例では左側に移動し、作動用リング20、20’の内周面に形成した傾斜溝20a、20’aに摺接するクランプ爪21、21’の傾斜面21c、21’cを押圧し、クランプ爪21、21’のワークW把持部分21a、21’aが、作動用リング20、20’のリング軸Mに対して軸直角方向に縮径していくことによりワークWを把持する(図2参照)。
この際、クランプ爪21、21’のワーク把持部分21a、21’aがワークを把持している状態では押圧部材22と22’がそれぞれ別々に作動用リング20、20’を押圧しているので押圧部材22の当接面22eと押圧部材22’の当接面22’eの間には隙間Lがあいている(図2参照)。
すなわち、ワーク把持の際、1つのシリンダ(圧力室C2)により、押圧部材22、22’を別々に作動させているので、それぞれ同期することなく、別個に押圧動作するワーク把持機構2によってワークWを把持するようにしたから、長手方向の1箇所で周上に複数あるクランプ爪21、21’の把持部分21a、21’aの面全体がワークWの周面に接することがない場合でも、長手方向の前記クランプ爪とは別の箇所のクランプ爪にてワークWを確実に把持することができ、加工中のワークWが滑ることなく、強固に把持することができる。
【0022】
ついで、ワークWの把持を解除するときは、流体路3aに流体(例えば、圧油)を流入させ、圧力室C1を昇圧する。
これによって、押圧部材22’の受圧部22’aの受圧面22’dに対して圧力がかかり、押圧部材22’が図例右側に移行し、押圧部材22’の当接面22’eが押圧部材22の当接面22eに当接して、押圧部材22も同様に図例右側に移行する。
そして、作動用リング20、20’は、押圧部材22、22’を介して、図2の例では右側に移動し、作動用リング20、20’の傾斜溝20a、20’aに嵌合され摺接する傾斜突起21b、21’bの下面が傾斜溝下面に押圧されることにより、クランプ爪21、21’の把持部分21a、21’aが、作動用リング20、20’のリング軸Mに対して軸直角方向へ拡径し、ワークWから離間することで把持を解除する。
【0023】
また、図例左側(前側)の作動用リング20は、図1における開放位置においてその傾斜溝20aが2つのクランプ爪21、21’の傾斜突起に嵌合している。
そして、図例左側(前側)の作動用リング20の左への移動によって、リング軸Mに対して軸直角方向に縮径するクランプ爪21の傾斜突起21bと作動用リング20の傾斜溝20aとの関係は、図4(a)に示すように、傾斜溝20aの嵌合部長さAと傾斜突起21bの嵌合部厚さBとは略同一の寸法としている。
一方、図例右側(後側)作動用リング20’の左への移動によって、リング軸Mに対して軸直角方向に縮径するクランプ爪21’の傾斜突起21’bと図例左側(前側)作動用リング20の傾斜溝20aとの関係は、図4(b)に示すように、傾斜溝20aの嵌合部長さAよりも傾斜突起21’bの嵌合部厚さCを小とし傾斜溝と傾斜突起の間に隙間を設けている。
これによって、作動用リング20の移動によりクランプ爪21’は作動されることなく、クランプ爪21’は作動用リング20’のみに作動するので図例左側(前側)のクランプ爪21と、図例右側(後側)のクランプ爪21’との移動を非同期の状態に維持しつつ、ワーク把持装置1の本体30の長手方向の寸法を短くすることができる。
【0024】
また、図5に示すように、流体室31内を4つの圧力室C3〜C6に区分し、押圧部材22、22’に対してそれぞれ独立した押し引き用の圧力室を形成し、ワークWを把持する際には、押圧部材22を移動させるための圧力室C5と押圧部材22’を移動させるための圧力室C6に流体路3bを介して流体(例えば、圧油)を流入させ、ワークWの把持を解除する際には、押圧部材22を移動させるための圧力室C3と押圧部材22’を移動させるための圧力室C4に流体路3aを介して流体(例えば、圧油)を流入するように構成することもできる。
【0025】
以上、本発明のワーク把持装置について、その実施例に基づいて説明したが、本発明は上記実施例に記載した構成に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において適宜その構成を変更することができるものである。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明のワーク把持装置は、1個のワークを長手方向に離間した複数箇所で把持し、円筒度の低い円筒状ワークであっても強固に把持することができるという特性を有しているため、適用できるワークの範囲を広げることができる。さらに、複数箇所を短い長手方向寸法で把持できるため、短い円筒状ワークの把持に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明のワーク把持装置の一実施例を示す開放状態の断面図である。
【図2】同把持状態の断面図である。
【図3】図1のZ−Z断面図である。
【図4】ワーク把持機構の傾斜溝と傾斜突起の関係を示し、(a)は図1のX−X断面図、(b)は図1のY−Y断面図である。
【図5】流体室の変形実施例である。
【図6】従来のワーク把持装置の正面図である。
【図7】従来のワーク把持装置の開放状態を示す図6のU−U断面図である。
【図8】従来のワーク把持装置の把持状態を示す図6のU−U断面図である。
【図9】ワーク把持機構のクランプ爪とシリンダとの関係を示す図7のV−V断面図である。
【符号の説明】
【0028】
1 ワーク把持装置
2 ワーク把持機構
20 作動用リング
20’ 作動用リング
20a 傾斜溝
20’a 傾斜溝
21 クランプ爪
21’ クランプ爪
21b 傾斜突起
21’b 傾斜突起
21c 傾斜面
21’c 傾斜面
21d 傾斜突起下面
21’d 傾斜突起下面
22 押圧部材
22’ 押圧部材
3 主軸
30 本体
31 流体室
3a 流体路
3b 流体路
4 蓋部
C1 圧力室
C2 圧力室
M リング軸
W ワーク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転する主軸内に供給する流体によって軸方向に移動する押圧部材と、該押圧部材に連結された作動用リングと、該作動用リングを軸方向に摺動可能に保持する中空の本体と、作動用リングの内周面に形成した傾斜溝に摺接する傾斜突起を有するクランプ爪とからなり、前記クランプ爪を、リング軸に対して軸直角方向に移動してワークを把持するワーク把持機構を備えたワーク把持装置において、前記押圧部材、作動用リング及びクランプ爪を同じリング軸となるように複数組並設して、1個のワークを長手方向に離間した複数箇所で把持するようにしたことを特徴とするワーク把持装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−279517(P2008−279517A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−123011(P2007−123011)
【出願日】平成19年5月8日(2007.5.8)
【出願人】(000229047)日本スピンドル製造株式会社 (328)
【Fターム(参考)】