説明

ワーク鍛造方法

【課題】鍛造装置が小型化でき、ノックアウトストロークを短くすることができるワークの鍛造方法を提供することを課題とする。
【解決手段】トライ工程で、棒状ワーク23の上方突出長さLと押力Fの相関関係を見出し、量産工程で、上型パンチ24の押力Fを、相関に当てはめて部分型36の上面51から棒状ワーク23の上端52までの長さLを決定し、量産に供する棒状ワーク23の上方突出長さLが、前工程で得られた部分型36の上面51から棒状ワーク23の上端52までの長さLに適合する部分型36を選択し、選択された部分型36を用いて鍛造を実施する。
【効果】ワークが長尺であっても、ワークの上端が部分型の上面に対して所望の高さ上回るだけなので、上型パンチを下げて鍛造を実施しても材料が下型からこぼれることなく鍔部が形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、棒状ワークを出発材料として、柱部の端部に鍔部を有する成形品を得るワークの鍛造方法の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
棒状ワークを下型にセットし、上型パンチを下降させることで棒状ワークを押して成形品を得る鍛造方法が知られている(例えば、特許文献1(図2)参照。)。
【0003】
この特許文献1の技術を図面に基づいて以下に説明する。
図9に示すように、ダイセット101にクランププレート102を介して上型103が取付けられ、ダイセット104にクランププレート105を介して下型106が取付けられている。
【0004】
上型103内にノックアウトピン107が昇降自在に設けられ、下型106内にノックアウトピン108が昇降自在に設けられている。
ノックアウトピン107で上型103から棒状ワーク109を突出して分離することができる。同様に、ノックアウトピン108で下型106から棒状ワーク109を突出して分離することができる。
【0005】
下型106と上型103の間に棒状ワーク109をセットし、上型103を下降させることで棒状ワーク109が下型106に押されて成形品が得られる。
しかし、長尺の棒状ワーク109を成形するには、下型106を上下に長くする必要があり、鍛造装置が高さ方向に大きくなる。
【0006】
また、成形後に棒状ワーク109をノックアウトする際、下型106が長いのでノックアウトストロークが長くなり、ノックアウトピン108に負荷が掛かる。すなわち、鍛造装置が小型化でき、ノックアウトストロークを短くすることができる棒状ワークの鍛造方法が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−15388公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、鍛造装置が小型化でき、ノックアウトストロークを短くすることができるワークの鍛造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に係る発明は、筒形キャビティ及びこの筒形キャビティの下端から先細り状に延びるテーパ状キャビティを有する下型に、前記筒形キャビティと同径の穴が開いている部分型を載せ、この部分型及び前記下型へワークを上から差し込み、このワークの上端を上型パンチで押して塑性変形させることで、柱部とこの柱部の一端から延びるテーパ部と前記柱部の他端に形成される鍔部とからなる成形品を得るワーク鍛造方法において、
このワーク鍛造方法は、量産に先立って実施するトライ工程と、量産鍛造を実施する量産工程と、からなり、前記トライ工程は、高さ寸法が異なる部分型を複数個準備する準備工程と、複数個から選択した部分型を前記下型に載せる部分型載せ工程と、前記部分型及び前記下型へ前記ワークを差し込むワークセット工程と、このワークの上方突出長さを知るために、前記部分型の上面から前記ワークの上端までの長さを計測する長さ計測工程と、得られる成形品での鍔部の高さ寸法が所定寸法範囲に収まるように、前記上型パンチの押力を段階的に変更しながら前記上型パンチを下げて成形品を得る試し鍛造工程と、このときの前記押力を記録すると共に、前記長さ情報を記録する記録工程と、前記部分型載せ工程、ワークセット工程、長さ計測工程、試し鍛造工程及び記録工程を、前記部分型を替えながら複数回実施して、複数個の前記長さ情報と複数個の前記押力情報を取得し、複数個の前記長さ情報と複数個の前記押力情報とから前記長さと前記押力との相関マップを作成する工程と、からなり、前記量産工程は、量産で設定する上型の押力を前記相関に当てはめて、前記部分型の上面から前記ワークの上端までの長さを決定する工程と、量産に供するワークの上方突出長さが、前工程で得られた前記部分型の上面から前記ワークの上端までの長さに適合する下型を選択する選択工程と、選択された部分型を用いて鍛造を実施する鍛造工程とからなる、ことを特徴とする。
【0010】
請求項2に係る発明では、ワークは、棒状ワークであることを特徴とする。
【0011】
請求項3に係る発明では、鍛造工程で実施する鍛造は、冷間鍛造であることを特徴とする。
【0012】
請求項4に係る発明では、量産工程は、鍛造工程にて成形されたワークを下型から離間させるノックアウト工程を有することを特徴とする。
【0013】
請求項5に係る発明では、筒形キャビティ及びこの筒形キャビティの下端から先細り状に延びるテーパ状キャビティを有する下型に、筒形キャビティと同径の穴が開いている部分型を載せ、この部分型及び下型へワークを上から差し込み、このワークの上端を、上型パンチで押して塑性変形させることで、柱部とこの柱部の一端から延びるテーパ部と柱部の他端に形成される鍔部とからなる成形品を得るワーク鍛造装置に内蔵される電子記憶媒体に記憶され、当該ワーク鍛造装置の動作を制御するワーク鍛造動作プログラムであって、このワーク鍛造動作プログラムは、量産に先立って実施するトライ作業部プログラムを有し、トライ作業部プログラムは、複数個の部分型から1つを、選択し且つ下型に載せる部分型載せ部分と、部分型及び下型へワークを差し込むワークセット部分と、このワークの上方突出長さをワーク鍛造装置が認識するために、部分型の上面からワークの上端までの長さを計測する長さ計測部分と、得られる成形品での鍔部の高さ寸法が所定寸法範囲に収まるように、上型パンチの押力を段階的に変更しながら上型パンチを下げて成形品を得る試し鍛造部分と、試し鍛造部分を実行する際の押力情報と共に、長さ情報を電子記憶媒体に記録する記録部分と、部分型載せ部分、ワークセット部分、長さ計測部分、試し鍛造部分および記録部分を、部分型を替えながら複数回実行して、複数個の前記長さ情報と複数個の前記押力情報とから長さと押力との相関マップを作成する相関マップ作成部分と、からなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に係る発明では、トライ工程で、棒状ワークの上方突出長さと押力との相関マップ作成し、量産工程で、上型の押力を、相関に当てはめて部分型の上面から棒状ワークの上端までの長さを決定し、量産に供する棒状ワークの上方突出長さが、前工程で得られた部分型の上面から棒状ワークの上端までの長さに適合する部分型を選択し、選択された部分型を用いて鍛造を実施する。ワークが長尺であっても、棒状ワークの上端が部分型の上面に対して所望の高さ上回るだけなので、上型パンチを下げて鍛造を実施しても材料が下型からこぼれることなく鍔部が形成される。鍔部の体積分だけ材料が鍔部にとられ、棒状ワークの柱部が短くなるので、下型を短くすることができる。結果、鍛造装置が小型化でき、ノックアウトストロークを短くすることができるワークの鍛造方法を提供することができる。
【0015】
請求項2に係る発明では、ワークは、棒状ワークである。長尺ワークの鍛造は、金型が長くなり鍛造装置全体も大型化する傾向にあるが、この点、本発明では比較的短い金型でも良く、鍛造装置全体の小型化を図ることができる。
【0016】
請求項3に係る発明では、鍛造工程で実施する鍛造は、冷間鍛造である。冷間鍛造での長尺ワークの鍛造は、ワークが座屈し易いため、技術的に難しいと言われているが、この点、本発明では冷間鍛造であっても長尺ワークの鍛造を容易に実施することができる。
【0017】
請求項4に係る発明では、量産工程は、鍛造工程にて成形された棒状ワークを下型から離間させるノックアウト工程を有する。下型を比較的短くすることができるので、ノックアウトのストロークを短くすることができ、サイクルタイムを小さくすることができる。
【0018】
請求項5に係る発明では、ワーク鍛造動作プログラムは、量産に先立って実施するトライ作業部プログラムを有する。ワーク鍛造装置に、このようなワーク鍛造動作プログラムが記憶、実行されるので、量産に先立って実施するトライ作業が自動化されるから、相関マップを、人手を掛けずに作成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係る鍛造装置の正面図である。
【図2】上型パンチの作用を説明する図である。
【図3】ノックアウトピンの作用を説明する図である。
【図4】本発明に係るトライ工程のフローである。
【図5】長さと押力の相関マップである。
【図6】本発明に係る量産工程のフローである。
【図7】部分型の上面から棒状ワークの上端までの長さを決定する工程を説明する図である。
【図8】ノックアウトストロークを説明する図である。
【図9】従来の技術に係る鍛造装置を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の実施の形態を添付図に基づいて以下に説明する。なお、図面は符号の向きに見るものとする。
【実施例】
【0021】
本発明の実施例を図面に基づいて説明する。
図1に示されるように、鍛造装置10は、ベース11と、このベース11から上へ延びる柱12と、この柱12の上端から水平に延びる梁13と、ベース11に支持部材14を介して載せられるロアプレート15と、このロアプレート15から上へ延びるガイドポスト16と、このガイドポスト16で案内されるアッパプレート17と、梁13に設けられアッパプレート17を昇降する昇降シリンダ18とからなる。
【0022】
詳細には、昇降シリンダ18から下へ延びるピストンロッド21にアッパプレート17が連結され、アッパプレート17の下部にワークとしての棒状ワーク23を押す上型パンチ24が設けられている。上型パンチ24は上型枠25に支持され、この上型枠25は第1のクランププレート26に支持され、この第1のクランププレート26は第1のボルト27によってアッパプレート17に固定されている。
なお、上型パンチ24の下面28は平面であるが、ワークの形状に合わせて下面としてのコア28の形状を適宜変更しても差し支えない。
【0023】
ロアプレート15の上部に棒状ワーク23を支持する下型31が設けられている。この下型31は下型枠32に囲われ、この下型枠32は第2のクランププレート33に支持され、この第2のクランププレート33は第2のボルト34によってロアプレート15に固定されている。下型31及び下型枠32の上部に穴35が開いている部分型36が載せられている。
【0024】
下型31は、筒形キャビティ37及びこの筒形キャビティ37の下端から先細り状に延びるテーパ状キャビティ38を有し、筒形キャビティ37とテーパ状キャビティ38とでキャビティ41が構成される。
なお、実施例において、テーパ状キャビティ38は、テーパ部を2ヵ所有しているが、これに限定されず、1ヵ所、3ヵ所以上のテーパ部を有する形態でも差し支えない。
【0025】
ベース11に、ノックアウトピン42によって棒状ワーク23をノックアウトするノックアウト用シリンダ43が設けられている。なお、図示しない6軸多関節ロボットが鍛造装置10の近傍に配置され、この6軸多関節ロボットが棒状ワーク23をキャビティ41に差し込んでもかまわない。図示しない制御部が鍛造装置10と図示しない6軸多関節ロボットとに接続されそれぞれ制御する。制御部には、鍛造装置10と図示しない6軸多関節ロボットとの動作を制御するシーケンスプログラムが記憶され、更に鍛造に必要な種々のパラメータを記録および出力することができる電子記憶媒体も内蔵される。
【0026】
以上の述べた鍛造装置10の作用を次に述べる。
図2に示されるように、高さM(M、M、・・・、M)の異なる部分型36を複数個準備する(準備工程)。図示しないオペレータ又は6軸ロボットが、複数個から選択した部分型36を下型31に載せる(部分型載せ工程)。オペレータ又は6軸ロボットは、部分型36及び下型31へ矢印(1)の向きに棒状ワーク23を差し込む(ワークセット工程)。
【0027】
棒状ワーク23の上方突出長さL、すなわち部分型36の上面51から棒状ワーク23の上端52までの長さLの情報を、オペレータ又は6軸ロボットは計測する(長さ計測工程)。なお、6軸多関節ロボットで計測する場合は、多関節ロボットは、光を照射して反射光を受光して長さを計測するレーザ変位計に持ち替えて長さLを測定する。レーザ変位計は、鍛造装置10と図示しない6軸多関節ロボットとを制御する制御部62に接続されている。
昇降シリンダ18を可動させ上型パンチ24の押力Fを、段階的に変更しながら矢印(2)のように上型パンチ24を下げて成形品を得る(試し鍛造工程)。このとき、速度計測器53で上型パンチ24の速度Vを計測し、ロードセル54で上型パンチ24の押力Fを計測し、速度V、押力F及び長さLの情報を、制御部62は記録する(記録工程)。速度計測器53及びロードセル54もまた制御部62に接続される。
【0028】
図3に示されるように、棒状ワーク23は、キャビティ41に押し込まれて塑性変形し、柱部55とこの柱部55の一端から延びるテーパ部56と柱部55の他端に形成される鍔部57とからなる成形品となる。
【0029】
制御部62は上型パンチ24を、矢印(3)のように上昇させる。そして、鍔部57の高さH、すなわち部分型36の上面51から棒状ワーク23の上端52までの高さHを、レーザ変位計を把持する6軸多関節ロボット又はオペレータが計測し、鍔部57の横方向に広がった外径Dを計測する。
ノックアウト用シリンダ43を可動させ、ノックアウトピン42を矢印(4)のように上昇させることで、棒状ワーク23はノックアウトされる。
【0030】
次にトライ工程をフローで説明する。
図4に示されるように、ステップ(以下、STと記す。)01で、高さ寸法の異なる部分型36を複数個準備する(準備工程)。
ST02で、複数個から選択した部分型36を下型31に載せる(部分型載せ工程)。
ST03で、部分型36及び下型31へ棒状ワーク23を差し込む(ワークセット工程)。
【0031】
ST04で、棒状ワーク23の上方突出長さLを計測する(長さ計測工程)。
ST05で上型パンチ24を下降させ、ST06で鍛造を実施する(試し鍛造工程)。
ST07で、押力Fを計測し、押力F、長さLの情報を記録する(記録工程)。
ST08で、上型パンチ24が所定位置まで下がったか否かを判定し、下がっている場合はST09に進み、下がっていない場合はST05に戻る。
【0032】
ST09で棒状ワーク23の上部が鍔状となり、ST10で上型パンチ24を上昇させる。
ST11で、鍔部57の下面が部分型36(下型)の上面に当たっているか判定し、当たっている場合はST12に進み、当たっていない場合はST16に進む。
【0033】
ST12で、部分型36(下型)の上面から鍔部57の上面までの高さHを計測する。
ST13で、Hが10mm以上か否かを判定し、Hが10mm以上の場合はST14に進み、Hが10mm未満の場合はST16に進む。
ST14で、Hが30mm以下か否かを判定し、Hが30mm以下の場合はST15に進み、Hが30mmより大きい場合はST18に進む。
【0034】
ST15で、部分型載せ工程、ワークセット工程、長さ計測工程、試し鍛造工程及び記録工程を部分型を替えながら複数回実施し、複数個の長さLと複数個の押力Fの情報から長さLと押力Fの相関を見出し相関マップを作成する(長さと押力の相関を見出す工程)。なお、長さLと押力Fの相関だけでなく、長さLと上型パンチ24の速度Vとの相関や、長さL、押力F及び速度Vの相関を見出し相関マップを作成しても差し支えない。
【0035】
また、ST16で棒状ワーク23を撤去し、ST17で上型パンチ24の押力Fを大きく設定し、ST03へ進む。
また、ST18で棒状ワーク23を撤去し、ST19で部分型36(下型)の上面を高く設定したものを選択し、ST02へ進む。
【0036】
次に長さLと押力Fの相関マップの作成について説明する。
図5(a)に示されるように、横軸に押力F、縦軸にワークの上方突出長さLをとる。制御部(図3、符号57)に内蔵される電子記憶媒体から採取されたパラメータを出力する。
相関マップの作成は、制御部62で行われるか、鍛造装置10の制御部62に接続される図示しない上位コンピュータで行われるかどちらでもかまわない。
鍔部(図3、符号57)の高さHが10mm以上30mm以下の合格範囲にある場合の押力F、長さLに対応する点を、制御部62又は上位コンピュータの仮想空間上に複数プロットする。
制御部62又は上位コンピュータの仮想空間上で作成された相関マップは、制御部62又は上位コンピュータに内蔵される電子記憶媒体に送信されて記憶される。
(b)に示されるように、(a)でプロットした点を滑らかに結ぶ。得られた曲線から長さLと押力Fの相関が見出され、長さLと押力Fの相関マップが作成される。
【0037】
次に量産工程をフローで説明する。
図6に示されるように、ST20で、量産で使用する鍛造装置に応じて設定する押力Fを決定する。
ST21で、押力Fを相関マップに当てはめて、部分型36の上面51から棒状ワーク23の上端52までの長さL(ワーク突出長さL)を決定する(長さを決定する工程)。量産に供する棒状ワーク23の上方突出長さLが、長さを決定する工程で得られた部分型36の上面51から棒状ワーク23の上端52までの長さに適合する部分型36を選択する(選択工程)。
【0038】
ST22で、上型パンチ24を下降させて鍛造を実施する(鍛造工程)。
ST23で上型パンチ24を上昇させ、ST24でノックアウトピン42を上昇させ、棒状ワーク23を取り出す。
【0039】
次に棒状ワーク23の上方突出長さLについて説明する。
図7(a)に示されるように、長さLと押力Fの相関マップから、棒状ワーク23の上方突出長さLを決定する。
(b)に示されるように、部分型36がない状態において、棒状ワーク23を下型に差し込んだ際の、下型31の上面58から棒状ワーク23の上端52までの長さL11を計測する。
【0040】
(c)に示されるように、部分型36を下型31に載せた際、部分型36の上面51から棒状ワーク23の上端52までの長さがLとなるような厚さの部分型36を選択する。部分型36の厚さは、(L11−L)となる。
(d)に示されるように、下型31に部分型36を載せると、部分型36の上面51から棒状ワーク23の上端52までの長さはLとなる。
なお、量産の下型は、前記下型31の部分型36が載せられたものが一体となってキャビティ41を同様の形状をしたキャビティが形成されたものであってもよい。すなわち、その場合も上面51から棒状ワーク23の上端52までの長さはやはりLとなる。
【0041】
次にノックアウトのストロークについて説明する。
図8(a)は比較例に係る鍛造装置120であり、棒状ワーク121は下型122に差し込まれている。棒状ワーク121の上端123は、下型122の上面124よりも低い位置にある。昇降シリンダ125を作動させ上型パンチ126を下降させ、鍛造を実施する。
【0042】
すると、想像線で示す上型パンチ126の位置まで、上型パンチ126は下降する。上型パンチ126のコアロッド127は、棒状ワーク121の上端123から想像線で示すコアロッド127の下端128までの長さS1で負荷を受ける。すなわち、負荷を受けるストロークはS1となる。
また、棒状ワーク121の鍛造後、棒状ワーク121がキャビティ129内に完全に入っているため、棒状ワーク121を取り出す際のノックアウトピン130のストロークS2は長くなる。
【0043】
図8(b)は実施例に係る鍛造装置10であり、鍛造時、想像線で示す上型パンチ24の位置まで、上型パンチ24は下降する。鍛造時、上型パンチ24は、棒状ワーク23の上端52から想像線で示す上型パンチ24の下面61までの長さS3で負荷を受ける。すなわち、負荷を受けるストロークはS2となる。
【0044】
S1>S3であるため、比較例に比べて実施例は、上型パンチ24及び下型31に掛かる負荷が小さい。また、棒状ワーク23の鍛造後、棒状ワーク23がキャビティ41内に入っている部分が比較例に比べて短いので、棒状ワーク23を取り出す際のノックアウトピン42のストロークS4が短くなる。結果、ノックアウトピン42の負荷も小さくなる。なお、ノックアウトのストロークはS4以下であってもよい。
【0045】
以上に述べた鍛造装置10の作用効果を以下に記載する。
上記の図1に示されるように、筒形キャビティ37及びこの筒形キャビティ37の下端から先細り状に延びるテーパ状キャビティ38を有する下型31に、筒形キャビティ37と同径の穴35が開いている部分型36を載せ、この部分型36及び下型31へワーク23を上から差し込み、このワーク23の上端52を上型パンチ24で押して塑性変形させることで、図3に示される柱部55とこの柱部55の一端から延びるテーパ部56と柱部55の他端に形成される鍔部57とからなる成形品を得るワーク鍛造方法において、このワーク鍛造方法は、量産に先立って実施するトライ工程と、量産鍛造を実施する量産工程と、からなり、トライ工程は、高さ寸法が異なる部分型36を複数個準備する準備工程と、複数個から選択した部分型36を下型31に載せる部分型載せ工程と、部分型36及び下型31へワーク23を差し込むワークセット工程と、このワーク23の上方突出長さを知るために、部分型36の上面51からワーク23の上端52までの長さを計測する長さ計測工程と、得られる成形品での鍔部57の高さ寸法が所定寸法範囲に収まるように、上型パンチ24の押力を段階的に変更しながら上型パンチ24を下げて成形品を得る試し鍛造工程と、このときの押力を記録すると共に、長さ情報を記録する記録工程と、部分型載せ工程、ワークセット工程、長さ計測工程、試し鍛造工程及び記録工程を、部分型36を替えながら複数回実施して、複数個の長さ情報と複数個の押力情報を取得し、複数個の長さ情報と複数個の押力情報とから長さと押力との相関マップを作成する工程と、からなり、量産工程は、量産で設定する上型パンチ24の押力を相関に当てはめて、部分型36の上面からワーク23の上端までの長さを決定する工程と、量産に供するワーク23の上方突出長さが、前工程で得られた部分型36の上面51からワーク23の上端52までの長さに適合する下型31を選択する選択工程と、選択された部分型36を用いて鍛造を実施する鍛造工程とからなる。
【0046】
この工程により、ワーク23が長尺であっても、ワーク23の上端52が部分型36の上面51に対して所望の高さ上回るだけなので、上型パンチ24を下げて鍛造を実施しても材料が下型31からこぼれることなく鍔部57が形成される。鍔部57の体積分だけ材料が鍔部57にとられ、ワーク23の柱部55が短くなるので、下型31を短くすることができる。結果、鍛造装置10が小型化でき、ノックアウトストロークを短くすることができるワークの鍛造方法を提供することができる。
【0047】
上記の図1に示されるように、ワーク23は、棒状ワークである。
この構成により、長尺ワークの鍛造は、金型31が長くなり鍛造装置10全体も大型化する傾向にあるが、この点、本発明では比較的短い金型31でも良く、鍛造装置10全体の小型化を図ることができる。
【0048】
上記の図2に示されるように、鍛造工程で実施する鍛造は、冷間鍛造である。
この工程により、冷間鍛造での長尺ワークの鍛造は、ワーク23が座屈し易いため、技術的に難しいと言われているが、この点、本発明では冷間鍛造であっても長尺ワークの鍛造を容易に実施することができる。
【0049】
上記の図3に示されるように、量産工程は、鍛造工程にて成形された棒状ワーク23を下型31から離間させるノックアウト工程を有する。
この工程により、下型31を比較的短くすることができるので、ノックアウトのストロークを短くすることができ、サイクルタイムを小さくすることができる。
【0050】
上記の図2、図3に示されるように、筒形キャビティ37及びこの筒形キャビティ37の下端から先細り状に延びるテーパ状キャビティ38を有する下型31に、筒形キャビティ37と同径の穴35が開いている部分型36を載せ、この部分型36及び下型31へワーク23を上から差し込み、このワーク23の上端を、上型パンチ24で押して塑性変形させることで、柱部55とこの柱部55の一端から延びるテーパ部56と柱部55の他端に形成される鍔部57とからなる成形品を得るワーク鍛造装置10に内蔵される電子記憶媒体に記憶され、当該ワーク鍛造装置10の動作を制御するワーク鍛造動作プログラムであって、このワーク鍛造動作プログラムは、量産に先立って実施するトライ作業部プログラムを有し、トライ作業部プログラムは、複数個の部分型36から1つを、選択し且つ下型31に載せる部分型載せ部分と、部分型36及び下型31へワーク23を差し込むワークセット部分と、このワーク23の上方突出長さLをワーク鍛造装置10が認識するために、部分型36の上面51からワーク23の上端52までの長さを計測する長さ計測部分と、得られる成形品での鍔部57の高さ寸法が所定寸法範囲に収まるように、上型パンチ24の押力を段階的に変更しながら上型パンチ24を下げて成形品を得る試し鍛造部分と、試し鍛造部分を実行する際の押力情報と共に、長さ情報を電子記憶媒体に記録する記録部分と、部分型載せ部分、ワークセット部分、長さ計測部分、試し鍛造部分および記録部分を、部分型36を替えながら複数回実行して、複数個の前記長さ情報と複数個の押力情報とから長さと押力との相関マップを作成する相関マップ作成部分と、からなる。
【0051】
この構成により、ワーク鍛造動作プログラムは、量産に先立って実施するトライ作業部プログラムを有する。ワーク鍛造装置10に、このようなワーク鍛造動作プログラムが記憶、実行されるので、量産に先立って実施するトライ作業が自動化されるから、相関マップを、人手を掛けずに作成することができる。
【0052】
尚、本発明に係る棒状ワークの鍛造方法は、実施の形態ではビレットを円柱状の長尺ワークとして適用したが、ビレットは円柱部とテーパ部とからなる長尺ワークに適用可能であり、一般の長尺ワークに適用することは差し支えない。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明のワークの鍛造方法は、軸付円盤部品に好適である。
【符号の説明】
【0054】
10…鍛造装置、23…ワーク(棒状ワーク)、24…上型パンチ、31…下型、35…部分型の穴、36…部分型、37…筒形キャビティ、38…テーパ状キャビティ、41…キャビティ、42…ノックアウトピン、51…部分型の上面、52…棒状ワークの上端、55…柱部、56…テーパ部、57…鍔部、62…制御部、L…部分型の上面から棒状ワークの上端までの長さ(上方突出長さ)、M…部分型の高さ、H…鍔部の高さ、D…鍔部の径、F…押力、V…上型の速度。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒形キャビティ及びこの筒形キャビティの下端から先細り状に延びるテーパ状キャビティを有する下型に、前記筒形キャビティと同径の穴が開いている部分型を載せ、この部分型及び前記下型へワークを上から差し込み、このワークの上端を上型パンチで押して塑性変形させることで、柱部とこの柱部の一端から延びるテーパ部と前記柱部の他端に形成される鍔部とからなる成形品を得るワーク鍛造方法において、
このワーク鍛造方法は、量産に先立って実施するトライ工程と、量産鍛造を実施する量産工程と、からなり、
前記トライ工程は、
高さ寸法が異なる部分型を複数個準備する準備工程と、
複数個から選択した部分型を前記下型に載せる部分型載せ工程と、
前記部分型及び前記下型へ前記ワークを差し込むワークセット工程と、
このワークの上方突出長さを知るために、前記部分型の上面から前記ワークの上端までの長さを計測する長さ計測工程と、
得られる成形品での鍔部の高さ寸法が所定寸法範囲に収まるように、前記上型パンチの押力を段階的に変更しながら前記上型パンチを下げて成形品を得る試し鍛造工程と、
このときの前記押力を記録すると共に、前記長さ情報を記録する記録工程と、
前記部分型載せ工程、ワークセット工程、長さ計測工程、試し鍛造工程及び記録工程を、前記部分型を替えながら複数回実施して、複数個の前記長さ情報と複数個の前記押力情報を取得し、複数個の前記長さ情報と複数個の前記押力情報とから前記長さと前記押力との相関マップを作成する工程と、からなり、
前記量産工程は、
量産で設定する上型の押力を前記相関に当てはめて、前記部分型の上面から前記ワークの上端までの長さを決定する工程と、
量産に供するワークの上方突出長さが、
前工程で得られた前記部分型の上面から前記ワークの上端までの長さに適合する下型を選択する選択工程と、
選択された部分型を用いて鍛造を実施する鍛造工程とからなる、ことを特徴とするワーク鍛造方法。
【請求項2】
前記ワークは、棒状ワークであることを特徴とする請求項1記載のワーク鍛造方法。
【請求項3】
前記鍛造工程で実施する鍛造は、冷間鍛造であることを特徴とする請求項1又は請求項2記載のワーク鍛造方法。
【請求項4】
前記量産工程は、前記鍛造工程にて成形されたワークを前記下型から離間させるノックアウト工程を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載のワーク鍛造方法。
【請求項5】
筒形キャビティ及びこの筒形キャビティの下端から先細り状に延びるテーパ状キャビティを有する下型に、前記筒形キャビティと同径の穴が開いている部分型を載せ、この部分型及び前記下型へワークを上から差し込み、このワークの上端を、上型パンチで押して塑性変形させることで、柱部とこの柱部の一端から延びるテーパ部と前記柱部の他端に形成される鍔部とからなる成形品を得るワーク鍛造装置に内蔵される電子記憶媒体に記憶され、当該ワーク鍛造装置の動作を制御するワーク鍛造動作プログラムであって、
このワーク鍛造動作プログラムは、量産に先立って実施するトライ作業部プログラムを有し、
前記トライ作業部プログラムは、
前記複数個の部分型から1つを、選択し且つ前記下型に載せる部分型載せ部分と、
前記部分型及び前記下型へ前記ワークを差し込むワークセット部分と、
このワークの上方突出長さを前記ワーク鍛造装置が認識するために、前記部分型の上面から前記ワークの上端までの長さを計測する長さ計測部分と、
得られる成形品での鍔部の高さ寸法が所定寸法範囲に収まるように、前記上型パンチの押力を段階的に変更しながら前記上型パンチを下げて成形品を得る試し鍛造部分と、
前記試し鍛造部分を実行する際の前記押力情報と共に、前記長さ情報を電子記憶媒体に記録する記録部分と、
前記部分型載せ部分、ワークセット部分、長さ計測部分、試し鍛造部分および記録部分を、前記部分型を替えながら複数回実行して、複数個の前記長さ情報と複数個の前記押力情報とから前記長さと前記押力との相関マップを作成する相関マップ作成部分と、からなることを特徴とするワーク鍛造動作プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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