説明

一体化ブラシシールおよびブラシシール成形方法

【課題】熱処理を必要としない、低コストで軽量のブラシシールを提供する。
【解決手段】サイジングダイ10により、底部14および側壁16を有するダイのキャビティ12が画定される。L字状の断面を備えたバックプレートリング20は、キャビティ12の底部14に配置される。リング20は、円形状であり、中央開口部22を備える。溶接接合部26により複数の毛が毛の束28の形態で保持された毛の輪24は、リング20の内側に配置される。サイドプレートリング30は、相補的なL字形状および中央開口部32を有する。リング30の外径は、リング20のフランジ21の内径よりも大きい。毛の輪24に対してリング30を配置した後、プランジャ18でリング30をリング20の内側に押しつけ、2つのリングの間に毛の輪24を挟む。プランジャ18により、両方のリングが所定の大きさとなって、リングおよび毛の輪を有するブラシシールが成形される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブラシシールに関し、特に、低コストおよび軽量のブラシシールの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ブラシシールは、通常、ガスタービンエンジンに用いられる。ブラシシールは、エンジン内の二次流れが固定部品(ディフーザケースなど)と回転部品(タービンシャフトなど)との間のギャップを通って漏出するのを防ぐために通常用いられている。ブラシシールは、また、エンジンの固定部品の間のギャップをシールするなど他の用途にも用いられている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
通常、ブラシシールは、プレート間に挟まれた束状のワイヤの毛(bristle)を備える。毛の束(bristle pack)およびプレートは、通常、溶接により一体化され、ブラシシールが成形される。溶接行程の後、ブラシシールに熱処理を施して、残留応力を除去しなければならない。通常、熱処理には、ブラシシールを固定具に固定し、炉に固定具を入れることが含まれる。熱処理工程は、多大な時間を要するとともに、高価である。
【0004】
溶接工程により、ブラシシールの別個のサブアッセンブリが1つの部品となる。1つの部品にしてしまうと、残りのブラシシールに影響を与えず、また破損させることなく、サブアッセンブリを取り除くことができなくなる。そのため、整備士は、メンテナンスの際に、ブラシシール全体を交換しなければならない。サブアッセンブリの一部(通常、毛の束)のみを取り替える場合であっても、ブラシシール全体を交換する必要性が生じる。
【0005】
ブラシシールの毛の束は、高価である。コストに影響する主な要因としては、用いられる原料が挙げられる。毛の束の各毛には、所定の長さのワイヤが用いられている。一般的に用いられるワイヤは、直径0.0028インチ(約0.07112mm)、0.004インチ(約0.1016mm)または0.006インチ(約0.1524mm)のコバルト合金ワイヤである。毛の束の一形式では、1インチ(約25.4mm)の長さあたり、約5000本の毛を備える。この形式の毛の束には、明らかに多量のワイヤが含まれている。外径が12インチ(約304.8mm)の単一の段からなるブラシシールを用いると、この形式の毛の束は、約2.6マイル(約4km)のワイヤを含むことになる。
したがって、本発明の目的は、改良された新しいブラシシールを提供することである。
【0006】
本発明のさらなる目的は、低コストで、より軽量のブラシシールの製造方法を提供することである。
【0007】
さらに、本発明の目的は、機械加工および溶接をあまり必要としないブラシシールアッセンブリを提供することである。
本発明のさらなる目的は、コストを削減したブラシシールを製造することである。
【0008】
さらに、本発明の目的は、より少ない量の原料を用いてブラシシールを製造することである。
【0009】
本発明のさらなる目的は、熱処理を必要としないブラシシールを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、ダイ(型)を用いて構成部品を機械的に一緒に成形および接合することにより、低コストで、軽量のブラシシールを製造する方法に関する。
【0011】
本発明のブラシシールには、成形されたシートメタルのサイドプレートおよびバックプレートが用いられる。プレートの断面形状は、概ねL字状である。1つのプレートがダイに設置され、次いで、毛の輪が第1の成形シートメタルプレートの内側に配置される。プランジャにより、第1のシートメタル部品の内側に第2の成形シートメタルのプレートが押しつけられて、毛の輪が2つの部品の間に挟み込まれる。プランジャにより、工程中に両方のシートメタル部品が所定の大きさとなる。任意選択で、成形後にスポット溶接を用いて、部品を完全に接合した状態に保つことができる。
【0012】
結果として成形されたシートメタル形態により、プレートの厚さを薄くすることが可能になると同時に、機械加工されたプレートと同様の構造的な完全性を維持することが可能となる。スポット溶接のみを任意選択で用いて2つのシートを固定しているため、シールの応力除去する最終的な工程を必要としなくてもよい。この方法により、全ての特徴部や細部を2つのプレートに成形すること、および打ち抜く(ダイカットする)ことが可能となり、細部を機械加工する必要がなくなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図1は、サイジングダイ10からなるブラシシールの成形ステーションの一実施例の概略図である。サイジングダイ10により、実質的に平面の底部14および側壁16を有するダイのキャビティ12が画定される。成形用プランジャ18は、ダイのキャビティの上方に位置するとともに、垂直方向の矢印で図示したような垂直方向の上下移動に適応している。
【0014】
製造に際して、バックプレートリング20は、ダイのキャビティ12の底部に配置される。バックプレートリング20は、L字形状の断面を備えていてもよい。リング20は、円形状であってもよく、中央開口部22を備えていてもよい。環状のリングに加えて、環状リングのセグメントあるいは直線状の毛(bristle)の配列も用いることができる。一実施例としては、図1に示すように、毛の輪(bristle hoop)24を、バックプレートリング20の(半径方向の)内側に配置する。米国特許出願公開第2003/0178778A1号明細書に記載されているように、毛の輪24は、溶接接合部26を有し、これにより、複数の毛が毛の束(bristle pack)28の形態で所定の位置に保持される。サイドプレートリング30は、相補的なL字形状および中央開口部32を有することができる。L字の断面形状以外の別形態を用いることができることを理解されたい。例えば、概ねC字の形状つまり三日月形状の断面を用いてもよい。図1に示されているように、サイドプレート30の外径は、バックプレート20のフランジ21の内径よりも大きい。毛の輪24に対してサイドプレート30を配置した後、プランジャ18を駆動し、サイドプレートリング30をバックプレートリング20の内側に押しつけて、2つのリングの間に毛の輪24を挟み込む。図1の斜めの矢印は、バックプレートリング20の内側にサイドプレートリング30を押しつける成形力の成分を示している。図2に示されているように、成形工程の間、プランジャ18により、両方のリングが所定の大きさとなり、その結果、機械的に固定係合して一体に保持されているリングおよび毛の輪を有するブラシシールが成形される。通常、プレート20,30は、ステンレス綱またはインコネル(Inconel)などの耐食合金製である。
【0015】
別の実施例においては、L字形状断面の脚部の向きは、サイドプレートおよびバックプレートの位置に対して反転していてもよい。この別の実施例により、支持ハウジング(図示せず)にシールを望ましく取り付けることができ、シールを横切る流体流の方向の変化に適応することができる。
【0016】
また別の実施例においては、リングおよび毛の配列を熱的な圧力ばめにより一緒に接合してもよい。この実施例においては、内側のプレートは、室温以下の温度に冷却され、(毛の輪とともに)外側のプレートは、常温より高い温度まで加熱される。これらの温度で構成部品が安定した状態で、毛の輪を内側に入れて、これらのプレートを組み立てることができる。接合されたアッセンブリの構成部品の温度が等しくなったとき(すなわち、室温に戻る)に、プレートの接触面(内側プレートの内径、外側プレートの外径)が、締まりばめとなるように、それぞれの寸法が設定される。冷却温度と加熱温度は、シールの相対的なサイズ、およびプレート材料として選択された(1つまたは複数の)金属の熱膨張によって決定される。適切なアッセンブリとなるように2つのプレートを整列させるために治具または固定具を用いても良い。
【0017】
図3では、完成品のシール32の一実施例に亘る断面図が図示されている。構成部品を永続的な接合状態に保つために、成形されたブラシシールを符号34の箇所においてスポット溶接してもよい。他の接合方法としては、プレートのL字の部分を圧着(クリンプ)すること、ろう付け、あるいはドリル加工を施して、その後プレートを一緒にボルト締めまたはリベット打ちする方法が挙げられる。
【0018】
図4では、溶接接合部26により所定の場所に保持された毛の束28を有する典型的な毛の輪24が図示されている。図5は、典型的な毛の向きを示した毛の房40(bristle tufts)の側面図である。
【0019】
図5では、のこぎり歯のような毛の端部は、未仕上げの状態の毛の端部の表面を示しており、この端部は、使用前に周知の技術を用いて最終的な平坦な接触面を形成するように仕上げられる。
【0020】
図6では、図3の完成したブラシシールが、回転可能なシャフト42に接して所定の場所に配置されている。
【0021】
図7では、支持ハウジング44に取り付けられた本発明のブラシシールが図示されている。ブラシシールは、分割した保持リング48により所定の場所に保持されている。この分割保持リング48は、ハウジング44のスロット46に収容され、固定用フランジ50を介して所定の場所に保持される。
【0022】
図8では、ブラシシールを取付ける別の実施例が図示されており、複数の押さえねじ52をブラシシールの脚部の(1つまたは複数の)穴部54を通して、ブラシシールを支持ハウジング44に取付けている。
【0023】
図面に図示したように好ましい形態を参照して本発明の説明がなされた。当業者であれば、特許請求の範囲により画定された本発明の精神および範囲を逸脱することなく、細部における種々の変更がなされることを理解されたい。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】ダイによる成形工程前に、所定の位置に配置されたサイジングダイおよびシール部品の一実施例の側方断面図。
【図2】成形用プランジャによる図1に続く作業の図。
【図3】本発明の完成したブラシシールの一実施例の断面図。
【図4】毛の輪の斜視図。
【図5】典型的な毛の向きを示した毛の房の側面図。
【図6】本発明のブラシシールの使用時の一実施例の斜視断面図。
【図7】保持リングを用いて、支持ハウジングに取り付けられた本発明のブラシシールの斜視断面図。
【図8】ねじを用いて支持ハウジングに取り付けられた本発明のブラシシールの斜視断面図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)第1のプレート部材を提供するステップと、
(b)前記第1のプレート部材と係合させて毛の配列を配置するステップと、
(c)前記毛の配列および前記第1のプレート部材と係合させて第2のプレート部材を配置するステップと、
(d)一体化したブラシシールを成形するように、固定係合状態に前記の構成部品を互いに押しつけるステップと、
を含むブラシシール成形方法。
【請求項2】
両方のプレート構成部品が、概ねL字の断面形状を有することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
完成したブラシシールの前記プレート部材を、選択された箇所においてスポット溶接することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記プレート部材が、ステンレス綱およびインコネルからなる群から選択される合金から製造されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記押しつけるステップが、
前記構成部品を受ける成形用キャビティを有するサイジングダイを提供するステップと、
プランジャを提供するステップと、
前記構成部品を互いに押しつけるように前記サイジングダイに向かって前記プランジャを駆動するステップと、
を含む請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記サイジングダイが、平坦な底部を備えることを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項7】
(a)金属製のバックプレートを提供するステップと、
(b)前記バックプレートと係合させて毛の配列を配置するステップと、
(c)前記バックプレートおよび前記毛の配列と係合させて金属製のサイドプレートを配置し、それにより、前記2つのプレート構成部品の間に前記毛の配列を位置づけるステップと、
(d)一体化したブラシシールを成形するように、固定係合状態に前記の構成部品を互いに押しつけるステップと、
を含むブラシシール成形方法。
【請求項8】
完成したブラシシールの前記の2つのプレート構成部品を、選択された箇所においてスポット溶接することを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記プレート構成部品が、ステンレス綱およびインコネルからなる群から選択される合金から製造されることを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記押しつけるステップが、
前記構成部品を受ける成形用キャビティを有するサイジングダイを提供するステップと、
プランジャを提供するステップと、
前記構成部品を互いに押しつけるように前記サイジングダイに向かって前記プランジャを駆動するステップと、
を含むことを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項11】
前記サイジングダイが、平坦な底部を備えることを特徴とする請求項10に記載の方法。
【請求項12】
(a)実質的に平坦な底部を有する成形用キャビティを備えるサイジングダイと、対応する成形用プランジャと、を提供するステップと、
(b)前記成形用キャビティの前記底部にバックプレートリング構成部品の位置合わせをするステップと、
(c)前記バックプレートリング構成部品と係合させて、前記バックプレートリング構成部品の内側に毛の輪構成部品を配置するステップと、
(d)前記毛の輪の上および前記バックプレートリング構成部品の内側にサイドプレートリング構成部品を配置し、それにより、前記2つのリング構成部品の間に前記毛の輪構成部品を挟み込むステップと、
(e)一体化したブラシシールを成形するために、固定係合状態に前記部品を互いに押しつけて、接合するように前記プランジャを駆動するステップと、
を含む方法により製造された一体化したブラシシール。
【請求項13】
両方のリング構成部品が、概ねL字の断面形状を有するとともに、底壁部および側壁部をそれぞれ画定することを特徴とする請求項12に記載のブラシシール。
【請求項14】
完成したブラシシールの前記側壁を、選択した箇所においてスポット溶接することを特徴とする請求項13に記載のブラシシール。
【請求項15】
毛の配列の側面に位置して固定するバックプレートリングおよびサイドプレートリングを備えたダイにより成形されたブラシシールであって、
(a)L字形状の断面を有するバックプレートリングと、
(b)前記バックプレートリングと固定係合して、前記バックプレートリングの内側に収容され、入れ子になっているとともに、L字形状の断面を有するサイドプレートリングと、
(c)前記2つのリングの間に挟み込まれ、固定された毛の輪と、
を備え、
前記リングおよび前記毛の輪が、固定係合状態に機械的に一体に保持され、一体化したブラシシールを成形することを特徴とするブラシシール。
【請求項16】
前記シールが、L字形状の断面および中央開口部を備え、前記毛が、前記開口部内で環状に配列されていることを特徴とする請求項15に記載のブラシシール。
【請求項17】
前記2つのリングを一体に保持するのを補助する複数のスポット溶接部を含む請求項16に記載のブラシシール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−132773(P2006−132773A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2005−319039(P2005−319039)
【出願日】平成17年11月2日(2005.11.2)
【出願人】(590005449)ユナイテッド テクノロジーズ コーポレイション (581)
【氏名又は名称原語表記】UNITED TECHNOLOGIES CORPORATION
【Fターム(参考)】