説明

一方向クラッチの封止構造

【課題】外部からの粉塵等の侵入を防止して、クラッチ部材、軸受部材、封止部材等の損傷や摩耗を防止するとともに、潤滑剤の排出、供給等のメンテナンス作業を効率的に行うことのできる一方向クラッチの封止構造を提供すること。
【解決手段】内輪101と外輪202の間に設けられたクラッチ部材103を潤滑する潤滑剤を封止する一方向クラッチ100の封止構造において、内輪101と外輪102の間に遊嵌されるシール本体111と、その外方にグリスが充填される空間120を有して遊嵌されるシールプレート112とからなる封止部材110を有していること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば搬送装置、処理装置、駆動装置等の回転軸に組み込まれる一方向クラッチの封止構造に関し、特にメンテナンス等の作業が困難な大型設備や、粉塵等が多く発生する環境に適した一方向クラッチの封止構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、一方向クラッチの封止構造として、同一軸心に対して回転可能に設けられた内輪および外輪と、該内輪と外輪の間に設けられたクラッチ部材と、該クラッチ部材および軸受部材を潤滑する潤滑剤を封止する封止部材とを有する一方向クラッチの封止構造が知られている。
【0003】
この公知の一方向クラッチ500は、図7に示すように、同一軸心に対して回転可能に設けられた内輪501および外輪502と、該内輪501および外輪502の軸方向中間部に設けられたクラッチ部材503と、内輪501の左端寄り部分と外輪502の左端寄り部分との間および内輪501の右端寄り部分と外輪502の右端寄り部分との間にそれぞれ設けられた軸受部材504とを有しており、各軸受部材504のさらに軸方向外側には、クラッチ部材503および軸受部材504を潤滑する潤滑剤を封止する封止部材510が設けられている(例えば、特許文献1、図1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−188582号公報(第3頁、図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、この公知の一方向クラッチ500は、封止部材510が、内輪501あるいは外輪502のいずれか一方に固定され、他方に摺接するリンク形状のプレートからなるため、摺接部から外部の粉塵等が侵入して、クラッチ部材503、軸受部材504および封止部材510に損傷を与えるという問題があった。
【0006】
また、内部に保持された潤滑剤を排出し、新たな潤滑剤を供給する際には、封止部材510を内輪501あるいは外輪502から取り外して作業する必要があり、メンテナンス作業が効率的に行えないという問題があった。
【0007】
本発明は、前述したような従来技術の問題を解決するものであって、本発明が解決しようとする課題、すなわち、本発明の目的は、外部からの粉塵等の侵入を防止して、クラッチ部材、軸受部材、封止部材等の損傷や摩耗を防止するとともに、潤滑剤の排出、供給等のメンテナンス作業を効率的に行うことのできる一方向クラッチの封止構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本請求項1に係る発明は、同一軸心に対して回転可能に設けられた内輪および外輪と、該内輪と外輪の間に設けられたクラッチ部材と、該クラッチ部材を潤滑する潤滑剤を封止する封止部材とを有している一方向クラッチの封止構造において、前記封止部材が、前記内輪と外輪の間に遊嵌されるシール本体と、該シール本体の軸方向外方に遊嵌されるシールプレートとからなり、前記シール本体とシールプレートの間にグリスが充填される空間を有していることにより、前記課題を解決するものである。
【0009】
本請求項2に係る発明は、請求項1に記載された一方向クラッチの封止構造の構成に加えて、前記シール本体が、前記外輪との間にOリングを配し、前記内輪との間にオイルシールを配していることにより、前記課題をさらに解決するものである。
【0010】
本請求項3に係る発明は、請求項1または請求項2に記載された一方向クラッチの封止構造の構成に加えて、前記シールプレートが、前記シール本体とシールプレートの間にグリスを供給するグリス供給孔を有していることにより、前記課題をさらに解決するものである。
【0011】
本請求項4に係る発明は、請求項3に記載された一方向クラッチの封止構造の構成に加えて、前記シールプレートが、前記シール本体側端面に円周状の溝と該溝と連通する半径方向の複数の切欠き部とを有しているとともに、前記グリス供給孔が、前記溝の底部に設けられていることにより、前記課題をさらに解決するものである。
【0012】
本請求項5に係る発明は、請求項1または請求項2に記載された一方向クラッチの封止構造の構成に加えて、前記外輪が、前記シール本体とシールプレートの間にグリスを供給するグリス供給孔を有していることにより、前記課題をさらに解決するものである。
【0013】
本請求項6に係る発明は、請求項5に記載された一方向クラッチの封止構造の構成に加えて、前記シールプレートが、前記シール本体側端面でかつ外周側に円周状の溝と該溝と連通する半径方向の複数の切欠き部とを有していることにより、前記課題をさらに解決するものである。
【0014】
本請求項7に係る発明は、請求項6に記載された一方向クラッチの封止構造の構成に加えて、前記シール本体が、前記シールプレート側端面でかつ外周側に円周状の溝を有していることにより、前記課題をさらに解決するものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明の一方向クラッチの封止構造は、同一軸心に対して回転可能に設けられた内輪および外輪と、該内輪と外輪の間に設けられたクラッチ部材と、該クラッチ部材を潤滑する潤滑剤を封止する封止部材とを有していることにより、クラッチ部材を充分に潤滑して摩耗や騒音を防止するとともに、以下のような格別の効果を奏することができる。
【0016】
すなわち、本請求項1に係る発明の一方向クラッチの封止構造は、封止部材が内輪と外輪の間に遊嵌されるシール本体と、該シール本体の軸方向外方に遊嵌されるシールプレートとからなり、シール本体とシールプレートの間にグリスが充填される空間を有していることにより、外部からの侵入する粉塵等はシール本体とシールプレートの間に充填されたグリスに捉えられてクラッチ部材を潤滑する潤滑剤への混入が阻止されるため、潤滑剤を劣化させたり、クラッチ部材や封止部材に損傷や摩耗を与えたりすることが防止され、潤滑性能を長期間維持することができる。
【0017】
そして、本請求項2に係る発明の一方向クラッチの封止構造は、請求項1に係る一方向クラッチの封止構造が奏する効果に加えて、シール本体が外輪との間にOリングを配し内輪との間にオイルシールを配していることにより、シール本体とシールプレートの間に充填されたグリスのクラッチ部材を潤滑する潤滑剤への混入を減少させることができるため、さらに外部からの侵入する粉塵等のクラッチ部材を潤滑する潤滑剤への混入が阻止されるとともに、内輪と外輪の間に遊嵌されるシール本体がOリングにより固定されるため、確実にシールしつつシール本体の着脱が容易となり、メンテナンス作業を効率的に行うことができる。
【0018】
また、本請求項3に係る発明の一方向クラッチの封止構造は、請求項1または請求項2に係る一方向クラッチの封止構造が奏する効果に加えて、シールプレートがシール本体とシールプレートの間にグリスを供給するグリス供給孔を有していることにより、シール本体とシールプレートの間に充填されたグリスをグリス供給孔から新たなグリスを圧入して交換することができるため、封止部材を取り外すことなく劣化したグリスの交換が可能となり、メンテナンス作業を効率的に行うことができる。
【0019】
また、本請求項4に係る発明の一方向クラッチの封止構造は、請求項3に係る一方向クラッチの封止構造が奏する効果に加えて、シールプレートがシール本体側端面に円周状の溝と該溝と連通する半径方向の複数の切欠き部とを有しているとともに、グリス供給孔が前記溝の底部に設けられていることにより、グリス供給孔から供給されるグリスが円周方向および半径方向に流れる流路が形成されるため、グリスの交換の際に圧入される新しいグリスがまんべんなく充填され、潤滑性能をより長期間維持することができる。
【0020】
また、本請求項5に係る発明の一方向クラッチの封止構造は、請求項1または請求項2に係る一方向クラッチの封止構造が奏する効果に加えて、外輪がシール本体とシールプレートの間にグリスを供給するグリス供給孔を有していることにより、シール本体とシールプレートの間に充填されたグリスをグリス供給孔から新たなグリスを圧入して交換することができるため、封止部材のさらに外側にダストカバー等の他の部材が存在してもそれらを取り外すことなく外部からの粉塵の混入等による劣化したグリスの交換が可能となり、さらにメンテナンス作業を効率的に行うことができるとともに、外輪のグリス供給孔からグリスが排出されるシールプレートと内輪との隙間までの流路で圧入される新しいグリスにより古いグリスがより効率的に押し出されて入れ替わるため、潤滑性能をより長期間維持することができる。
【0021】
また、本請求項6に係る発明の一方向クラッチの封止構造は、請求項5に係る一方向クラッチの封止構造が奏する効果に加えて、シールプレートがシール本体側端面でかつ外周側に円周状の溝と該溝と連通する半径方向の複数の切欠き部とを有していることにより、グリス供給孔から供給されるグリスが円周方向および半径方向に流れる流路が形成されるため、グリスの交換の際に圧入される新しいグリスがまんべんなく充填され、外部からの粉塵の混入等による劣化した古いグリスをより効率的に押し出すことができる。
【0022】
また、本請求項7に係る発明の一方向クラッチの封止構造は、請求項6に係る一方向クラッチの封止構造が奏する効果に加えて、シール本体がシールプレート側端面でかつ外周側に円周状の溝を有していることにより、グリス供給孔付近において供給されるグリスが円周方向に流れる流路が大きく形成されるため、グリスの交換の際に圧入される新しいグリスがよりまんべんなく充填され、外部からの粉塵の混入等による劣化した古いグリスをより効率的に押し出すことができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の一方向クラッチの封止構造は、同一軸心に対して回転可能に設けられた内輪および外輪と、該内輪と外輪の間に設けられたクラッチ部材と、該クラッチ部材を潤滑する潤滑剤を封止する封止部材とを有している一方向クラッチの封止構造において、封止部材が内輪と外輪の間に遊嵌されるシール本体と、該シール本体の軸方向外方に遊嵌されるシールプレートとからなり、シール本体とシールプレートの間にグリスが充填される空間を有しており、外部からの粉塵等の侵入を防止して、クラッチ部材、軸受部材、封止部材等の損傷や摩耗を防止することができるとともに、潤滑剤の排出、供給等のメンテナンス作業を効率的に行うことができるという効果を発揮するものであれば、その具体的な実施態様は如何なるものであっても何ら構わない。
【0024】
すなわち、本発明の一方向クラッチの封止構造は、回転軸に組み込まれる一方向クラッチの封止構造であれば、如何なる機器、装置、設備に使用されても良い。
また、本発明のクラッチ部材は、いかなる形式のものであっても良く、封止部材によって封止されて潤滑される領域にクラッチ部材の他に軸受部材を設けても良い。
さらに、本発明のシール本体とシールプレートの間に充填されるグリスは、クラッチ部材を潤滑する潤滑剤と同じものを用いても、別のものを用いても良い。
【実施例】
【0025】
以下に、本発明の実施例である一方向クラッチの封止構造について、図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の第1実施例である一方向クラッチの封止構造の断面図であり、図2は、図1の一部拡大図であり、図3は、図1のシールプレートの正面図であり、図4は、本発明の第2実施例である一方向クラッチの封止構造の断面図であり、図5は、図4の一部拡大図であり、図6は、図4の一方向クラッチの封止構造の別の形態の一部拡大断面図である。
【0026】
本発明の第1実施例である一方向クラッチ100の封止構造は、図1に示すように、同一軸心に対して回転可能に設けられた内輪101および外輪102と、該内輪101と外輪102の間に設けられたクラッチ部材103と、該クラッチ部材103の両端部に設けられた軸受部材104と、該クラッチ部材103および軸受部材104を潤滑する潤滑剤を封止する封止部材110を有している。
外輪102には、潤滑剤供給孔105が設けられている。
【0027】
封止部材110は、図2に示すように、外輪102との間にOリング116を介し内輪101との間にオイルシール117を介して外輪102と回転固定されるように遊嵌されるリング状のシール本体111と、該シール本体111との間にグリスが充填される空間120が形成されるように内輪101と外輪102の間に遊嵌されるリング状のシールプレート112からなり、シール本体111がクラッチ部材103および軸受部材104側に配置されるように軸受部材104の両外側に挿入され抜け止めリング115により軸方向に抜け止め固定されている。
【0028】
シールプレート112は、図2および図3に示すように、シール本体111側の端面に円周状の溝118を有するとともに、グリス供給孔113が溝118の底部に設けられ、該グリス供給孔113から空間120にグリスを供給可能に構成されている。
なお、該グリス供給孔113は、供給時以外は栓部材114により封止されている。
【0029】
また、シールプレート112のシール本体111側の端面の内周部には、溝118との間に凸部123が円周状に形成されるように空間凹部121が形成されて空間120の容量が確保されており、凸部123には円周方向に複数個所の切欠き部122が設けられてグリス供給孔113から供給されるグリスの流路が確保されている。
【0030】
以上のように構成された本発明の第1実施例である一方向クラッチ100の封止構造の動作および機能を説明する。
内輪101と外輪102が相対回転する際、クラッチ部材103および軸受部材104は潤滑剤供給孔105から供給された潤滑剤により潤滑され、封止部材110のシール本体111がOリング116により外輪102と密着しオイルシール117により内輪101と摺接して潤滑剤が外部に流出しないように封止されることで、摩耗や騒音が防止されて円滑に回転する。
【0031】
そして、オイルシール117の外部側にはシールプレート112との間に空間120が存在し、この空間120にグリスが充填されていることにより、外部から侵入する粉塵等がグリスに捉えられ、粉塵等がオイルシール117を超えてクラッチ部材103および軸受部材104側に侵入することが阻止されることで、クラッチ部材103および軸受部材104を潤滑する潤滑剤の潤滑性能を長期間維持する。
【0032】
また、空間120に充填されたグリスが劣化したり、粉塵等の混入により汚濁したり、シールプレート112の内周部と内輪101との隙間から流出して減少したりしてグリスの交換・補充の作業を行う際には、シールプレート112のグリス供給孔113を封止している栓部材114を取り外し、該グリス供給孔113からグリスの圧入手段により空間120内にグリスを圧入することで、封止部材110を取り外したり分解したりすることなくグリスの交換・補充の作業を行うことができる。
【0033】
このとき、空間120内に存在する古いグリスは、圧入されたグリスによってシールプレート112の内周部と内輪101との隙間から外部に排出されるが、シールプレート112に溝118、凸部123、切欠き部122、空間凹部121が設けられていることにより、図3の矢印で示すように、溝118から凸部123に沿って円周方向への流路、凸部123に設けられた切欠き部122を通って空間凹部121に至る流路が形成されるため、空間120内の古いグリスの残留を減少させて効果的にグリスを交換することが可能となる。
【0034】
なお、グリス供給孔113の数、溝118、空間凹部121の深さや幅、切欠き部122の位置や数は、本実施例に限定されるものではなく、空間120自体の大きさやグリスの粘度等によって、適宜最適に設計すれば良い。
また、凸部123が半径方向に複数列となるように溝118をさらに内周側に複数設けたり、空間凹部121の形状を変更するなど、空間120内の古いグリスの残留を減少させて効果的にグリスを交換するため、シールプレート112の形状を最適に設計することも可能である。
【0035】
本発明の第2実施例である一方向クラッチ200の封止構造は、図4に示すように、同一軸心に対して回転可能に設けられた内輪201および外輪202と、該内輪201と外輪202の間に設けられたクラッチ部材203と、該クラッチ部材203を潤滑する潤滑剤を封止する封止部材210を有している。
外輪202には、潤滑剤供給孔205が設けられるとともに、後述する封止部材210の空間220にグリスを供給するグリス供給孔206が設けられており、該グリス供給孔206は、供給時以外は栓部材207により封止されている。
【0036】
封止部材210は、図5に示すように、外輪202との間にOリング216を介し内輪201との間にオイルシール217を介して外輪202と回転固定されるように遊嵌されるリング状のシール本体211と、該シール本体211との間にグリスが充填される空間220が形成されるように内輪201と外輪202の間に遊嵌されるリング状のシールプレート212とを有しており、シール本体211がクラッチ部材203側に配置されるようにクラッチ部材203の両外側に挿入され、シールプレート212の外側を抜け止めリング215により軸方向に抜け止め固定されている。
【0037】
また、抜け止めリング215のさらに外側にはダストカバー231が設けられており、該ダストカバー231は、外周部が固定ボルト233により外輪202に固定されるダストカバー押え232により固定されるとともに、内周部を内輪201に設けられたダストシール234に摺接することで粉塵等の侵入を防いでいる。
【0038】
シールプレート212は、シール本体211側の外周部端面に円周状の溝218を有するとともに、シール本体211のシールプレート212側端面に設けられた凸部223に当接して内輪201から外輪202まで連通する空間220を画定するように構成され、該空間220は外輪202に設けられたグリス供給孔206と連通するよう構成されている。
また、シールプレート212の内輪201に臨む端面に細溝219が設けられている。
【0039】
以上のように構成された本発明の第2実施例である一方向クラッチ200の封止構造の動作および機能を説明する。
内輪201と外輪202が相対回転する際、クラッチ部材203は潤滑剤供給孔205から供給された潤滑剤により潤滑され、封止部材210のシール本体211がOリング216により外輪202と密着しオイルシール217により内輪201と摺接して潤滑剤が外部に流出しないように封止されることで、摩耗や騒音が防止されて円滑に回転する。
【0040】
そして、シール本体211の外側にはシールプレート212との間に空間220が存在し、この空間220にグリスが充填されていることにより、外部から侵入する粉塵等がグリスに捉えられ、粉塵等がオイルシール217を超えてクラッチ部材203側に侵入することが阻止されることで、クラッチ部材203を潤滑する潤滑剤の潤滑性能を長期間維持する。
【0041】
また、シールプレート212のさらに外側にダストカバー231が設けられていることにより、粉塵等の侵入がさらに防止されるとともに、シールプレート212の内輪201に臨む端面に細溝219が設けられていることにより、粉塵等がシールプレート212を超えてグリスに混入することを阻止し、かつ、シールプレート212と内輪201との隙間からグリスの流出を少なくしている。
【0042】
そして、空間220に充填されたグリスが劣化したり、粉塵等の混入により汚濁したり、シールプレート212の内周部と内輪201との隙間から流出して減少したりしてグリスの交換・補充の作業を行う際には、外輪202のグリス供給孔206を封止している栓部材207を取り外し、該グリス供給孔206からグリスの圧入手段により空間220内にグリスを圧入することで、封止部材210やダストカバー231を取り外したり分解したりすることなくグリスの交換・補充の作業を行うことができる。
【0043】
このとき、空間220内に存在する古いグリスは、圧入されたグリスによってシールプレート212の内周部と内輪201との隙間から外部に排出され、シールプレート212の外周部端面に円周状の溝218が設けられていることにより、グリスの円周方向への太い流路が形成されるため、空間220内の古いグリスの残留を減少させて効果的にグリスを交換することが可能となる。
【0044】
また、シール本体211のシールプレート212側端面に設けられた凸部223の形状を適宜設定してグリスの流路を形成することで、さらに空間220内の古いグリスの残留を減少させて効果的にグリスを交換することも可能である。
なお、グリス供給孔206の数、溝218の深さや幅は、空間120自体の大きさやグリスの粘度等によって、適宜最適に設計すれば良い。
さらに、凸部223をシールプレート212のシール本体211側端面に設けたり、シールプレート212とシール本体211の双方に設けて空間220の形状を変更するなど、空間220内の古いグリスの残留を減少させて効果的にグリスを交換するため最適に設計することも可能である。
【0045】
また、本発明の第2実施例である一方向クラッチ200の封止構造の別の形態として、図6に示すように、シール本体211のシールプレート212側の外周部端面に円周状の溝218Bを設けても良く、シールプレート212とシール本体211の双方の外周部端面に円周状の溝を設けても良い。
【0046】
以上述べたように、本発明によれば、同一軸心に対して回転可能に設けられた内輪および外輪と、該内輪と外輪の間に設けられたクラッチ部材と、該クラッチ部材を潤滑する潤滑剤を封止する封止部材とを有する一方向クラッチの封止構造において、封止部材が内輪と外輪の間に遊嵌されるシール本体と、該シール本体の軸方向外方に遊嵌されるシールプレートとからなり、シール本体とシールプレートの間にグリスが充填される空間を有することで、外部からの粉塵等の侵入を防止して、クラッチ部材、軸受部材、封止部材等の損傷や摩耗を防止することができるとともに、潤滑剤の排出、供給等のメンテナンス作業を効率的に行うことができるなど、その効果は甚大である。
【0047】
なお、本発明の封止構造は、一方向クラッチのみならず、相対的に回転する内輪と外輪を有する他の機構、例えば各種形式のクラッチ、ブレーキ、軸受、モータ等の電気機器等、いかなる機構の封止にも用いることができ、その使用用途に応じた各種変形が可能であることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の第1実施例である一方向クラッチの封止構造の断面図。
【図2】図1の一部拡大図。
【図3】図1のシールプレートの正面図。
【図4】本発明の第2実施例である一方向クラッチの封止構造の断面図。
【図5】図4の一部拡大図。
【図6】図4の一方向クラッチの封止構造の別の形態の一部拡大断面図。
【図7】従来の一方向クラッチの封止構造の断面図。
【符号の説明】
【0049】
100、200、500 ・・・一方向クラッチ
101、201、501 ・・・内輪
102、202、502 ・・・外輪
103、203、503 ・・・クラッチ部材
104、 504 ・・・軸受部材
105、205 ・・・潤滑油供孔
206 ・・・グリス供給孔
207 ・・・栓部材
110、210、510 ・・・封止部材
111、211 ・・・シール本体
112、212 ・・・シールプレート
113 ・・・グリス供給孔
114 ・・・栓部材
115、215 ・・・抜け止めリング
116、216 ・・・Oリング
117、217 ・・・オイルシール
118、218 ・・・溝
120、220 ・・・空間
121 ・・・空間凹部
122、222 ・・・切欠き部
123、223 ・・・凸部
231 ・・・ダストカバー
232 ・・・ダストカバー押え
233 ・・・固定ボルト
234 ・・・ダストシール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
同一軸心に対して回転可能に設けられた内輪および外輪と、該内輪と外輪の間に設けられたクラッチ部材と、該クラッチ部材を潤滑する潤滑剤を封止する封止部材とを有している一方向クラッチの封止構造において、
前記封止部材が、前記内輪と外輪の間に遊嵌されるシール本体と、該シール本体の軸方向外方に遊嵌されるシールプレートとからなり、
前記シール本体とシールプレートの間にグリスが充填される空間を有していることを特徴とする一方向クラッチの封止構造。
【請求項2】
前記シール本体が、前記外輪との間にOリングを配し、前記内輪との間にオイルシールを配していることを特徴とする請求項1に記載の一方向クラッチの封止構造。
【請求項3】
前記シールプレートが、前記シール本体とシールプレートの間にグリスを供給するグリス供給孔を有していることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の一方向クラッチの封止構造。
【請求項4】
前記シールプレートが、前記シール本体側端面に円周状の溝と該溝と連通する半径方向の複数の切欠き部とを有しているとともに、
前記グリス供給孔が、前記溝の底部に設けられていることを特徴とする請求項3に記載の一方向クラッチの封止構造。
【請求項5】
前記外輪が、前記シール本体とシールプレートの間にグリスを供給するグリス供給孔を有していることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の一方向クラッチの封止構造。
【請求項6】
前記シールプレートが、前記シール本体側端面でかつ外周側に円周状の溝と該溝と連通する半径方向の複数の切欠き部とを有していることを特徴とする請求項5に記載の一方向クラッチの封止構造。
【請求項7】
前記シール本体が、前記シールプレート側端面でかつ外周側に円周状の溝を有していることを特徴とする請求項6に記載の一方向クラッチの封止構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−180932(P2010−180932A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−23859(P2009−23859)
【出願日】平成21年2月4日(2009.2.4)
【出願人】(000150800)株式会社ツバキエマソン (102)
【Fターム(参考)】