説明

一方向クラッチ

【課題】一方向クラッチが低温始動時などにおける低温潤滑性に優れると共に、急加速または急減速の使用状態におけるクラッチ結合時の安定した所定摩擦力、および空転時の耐摩耗性という所要の摩擦・摩耗特性を発揮すると共に、使用状態での遠心力に抗して常に良好な潤滑状態を維持できる一方向クラッチとすることである。
【解決手段】プーリ1の内径面に圧入された外輪11と、その外輪11の内側に組込まれた内輪12と、その両輪11、12間に組込まれた係合子13と、この係合子13を保持する保持器14と、上記係合子13を係合方向に付勢する弾性部材15とから成り、係合子13の摩擦係合面をグリースで潤滑するグリース潤滑一方向クラッチ10において、潤滑するグリースが、基油および増ちょう剤を含有すると共に、ポリメタクリレートまたはポリアクリレートからなる油溶性ポリマーを必須成分として含有する一方向クラッチとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、回転トルクの伝達と遮断を行なう一方向クラッチに関し、詳しくは係合子の摩擦係合面をグリースで潤滑する一方向クラッチである。
【背景技術】
【0002】
一般に、係合子を用いた機械式一方向クラッチは、外輪と内輪が一方向に相対回転したとき、外輪内周面および内輪外周面に係合して両輪を結合するスプラグやローラなどの係合子を有し、この係合子を弾性部材で外輪の内周面および内輪外周面に係合する方向に付勢しており、付勢状態では内輪と外輪が摩擦係合して一体に回転し、カムで係合を解いた状態では内輪と外輪は空転する。外輪と内輪間には潤滑グリースが充填され、これによって前記空転時の係合子と外輪および内輪の接触部を潤滑する。
【0003】
このような一方向クラッチは、例えばプーリユニットに内蔵されて用いられ、自動車のエンジンのクランクシャフトからベルトを介して駆動されるエアコンディショナ、オルタネータ、ウォータポンプ、冷却ファンなどの補機のロータにも装備されている。
【0004】
一方向クラッチでエンジン等からの主たる動力をこれに従動する補機の動力軸に伝達する場合、補機側の動力軸をできるだけ慣性力で持続させておいて動力の伝達効率を高めるようにするため、例えばプーリとロータの回転差に応じて動力の伝達状態と遮断状態とを、一方向クラッチで切替えて補機のロータをできるだけ小さな動力で継続的に回転させるようにしている。
【0005】
その際に、一方向クラッチでは、動力伝達時に楔効果を利用して摩擦接触面に強圧して高い摩擦力で係合する必要があり、動力遮断時には、空転する要所の摺動接触面に耐摩耗特性を必要とする。
【0006】
このような一方向性クラッチの摺動接触面の耐摩耗特性は、封入される潤滑グリースによって大きく左右され、一方向クラッチを備えたプーリユニットに油膜切れのないようにアルキルジフェニルエーテルなどのエーテル系基油を採用したエーテル系グリースを使用することが知られている(特許文献1)。
【0007】
そして、高い面圧で金属接触する部位での油膜切れを防止するためには、潤滑グリースに、いわゆる極圧添加剤が添加され、例えばヘき開性を有するメラミンシアヌレートや、ポリテトラフロロエチレンの添加(特許文献2)、またはジチオリン酸モリブデン化合物やジチオカルバミン酸モリブデン化合物の添加などが知られている (特許文献3)。
【0008】
【特許文献1】特開平11 −082688号公報
【特許文献2】特開2002−180076号公報
【特許文献3】特開2004−256665号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながらこのような一方向クラッチは、クラッチが噛みあった際また空転する際、グリースが確実に摩擦接触面に供給されるために、高温状態および始動時の低温状態のいずれにおいても潤滑剤が遠心力に抗して飛散することなく所定位置に保持されるという技術的課題が解決されていない。
【0010】
特に、一方向クラッチの急加速・急減速を繰り返す使用状態において、一方向クラッチ内の要所に存在するグリースには大きな遠心力が急激に負荷されるため、空転時の耐摩耗性を維持すると共にクラッチ結合時の安定した所定の摩擦力を確実に発揮するように、常に遠心力に耐える所要特性の潤滑グリースを保持した一方向クラッチとすることは容易なことではなかった。
【0011】
そこで、この発明の課題は、上記した問題点を解決して、一方向クラッチが低温始動時などにおける低温潤滑性に優れると共に、急加速または急減速の使用状態におけるクラッチ結合時の安定した所定摩擦力、および空転時の耐摩耗性という所要の摩擦・摩耗特性を発揮すると共に、使用状態での遠心力に抗して常に良好な潤滑状態を維持できる一方向クラッチとすることである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決するために、この発明においては、外輪と、その外輪に対して相対的に回転可能な内輪と、前記外輪と内輪間の周方向に間隔をおいて配置され、外輪と内輪が一方向に相対回転したとき、外輪内周面および内輪外周面に係合して両輪を結合する複数の係合子と、各係合子を保持する保持器と、前記各係合子を外輪の内周面および内輪外周面に係合する方向に付勢する弾性部材とから成り、前記外輪と内輪間に充填された潤滑グリースを設け、この潤滑グリースによって係合子と外輪および内輪の接触部を潤滑するようにした一方向クラッチにおいて、前記潤滑するグリースが、基油およびウレア化合物の増ちょう剤を含有すると共に、ポリメタクリレートまたはポリアクリレートからなる油溶性ポリマーを必須成分として含有するグリースである一方向クラッチとしたのである。
【0013】
上記の構造における係合子は、外輪が内輪に対して相対回転したとき、各円筒面に係合して、外輪の回転トルクを内輪に伝達する。このとき、潤滑グリースは、所定の摩擦係数を発揮して、係合子と各円筒面の摩擦係合力を安定して発揮させる。
【0014】
また、係合子は外輪が内輪に対して前記伝達時と反対方向に相対回転されるか、または外輪に対して同方向に回転する内輪の回転速度が外輪の回転速度を上回った場合に、円筒面に対する係合が解除されて外輪から内輪への回転伝達を遮断する。
【0015】
このようにして一方向クラッチが空転する際、複列の係合子は外輪および内輪に対して相対回転する。すなわち、係合子は外輪の円筒面および内輪の円筒面を滑りながら保持器と共に公転するため、潤滑グリースは耐摩耗性を発揮し、係合子と外輪の円筒面、係合子と内輪の円筒面との摩擦接触による異常摩耗を防止する。
【0016】
そして、潤滑するグリースが、基油および増ちょう剤を含有すると共に、ポリメタクリレートまたはポリアクリレートからなる油溶性ポリマーを必須成分として含有するグリースであることにより、一方向クラッチの始動時などに低温である場合にも、長時間使用されることなどによって高温になった場合でも、基油と増ちょう剤により設定された粘度を発揮するグリースとなり、内輪と外輪の相対回転が急激に起こる場合の大きな遠心力や加速度に耐えて所要位置に留まり、グリースは所要の潤滑性を発揮する。
【0017】
これにより、一方向クラッチは、低温始動時などにおける低温潤滑性に優れると共に、急加速または急減速の使用状態におけるクラッチ結合時の安定した所定摩擦力、および空転時の耐摩耗性という所要の摩擦・摩耗特性を発揮できるようになる。
【0018】
油溶性ポリマーが、重量平均分子量10000以上のポリマーからなり、その配合割合が3〜10重量%である場合には、上記の作用は、より確実にかつ充分に発揮される。
【0019】
増ちょう剤が、下記の化2式で表わされるジウレア化合物である一方向クラッチにすれば、高温安定性がよいだけでなく、かつ粘着性に優れているため油溶性ポリマーを補助して遠心力によるグリースの分離を防止するのでより好ましい状態になる。
【0020】
【化2】

【0021】
(式中、RとR3は同一もしくは異なっていてもよく、それぞれ炭素原子数4〜24の直鎖アルキル基、炭素原子数6の脂環族炭化水素基または炭素数6〜12の芳香族系炭化水素基であり、R2は炭素数が6〜15の芳香族系炭化水素基である。)
【0022】
また、式中のRとR3がそれぞれ炭素数6〜12の芳香族系炭化水素基の増ちょう剤であれば、より高温安定性に優れたグリースになる。
【0023】
グリースの基油が、合成炭化水素油、エーテル油またはエステル油のいずれかの合成油であれば、長期間使用する場合でも高温耐久性に優れたグリースとなって、所要の摩擦・摩耗特性を発揮し、遠心力にも良く耐える耐久性に優れた一方向クラッチになる。
【発明の効果】
【0024】
この発明は、一方向クラッチに使用する潤滑グリースに、ポリメタクリレートまたはポリアクリレートからなる油溶性ポリマーを必須成分として含有するものを採用したことにより、一方向クラッチが低温始動時などにおける低温潤滑性に優れると共に、急加速または急減速の使用状態におけるクラッチ結合時の安定した所定摩擦力、および空転時の係合子と外輪の円筒面、係合子と内輪の円筒面との摩擦接触による異常摩耗は防止して耐摩耗性と共に所要の摩擦・摩耗特性を発揮するものになり、特に使用状態で遠心力に抗して良好な潤滑状態を維持できる一方向クラッチになるという利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
この発明の実施形態を以下に添付図面に基づいて説明する。
図1および図2に示すように、実施形態の一方向クラッチは、一方向クラッチ10をプーリ1内に組込んでクラッチ内蔵プーリとしたものを例示している。
【0026】
一方向クラッチ10は、プーリ1の内径面に圧入された外輪11と、その外輪11の内側に組込まれた内輪12と、その両輪11、12間に組込まれた係合子13と、この係合子13を保持する保持器14と、上記係合子13を係合方向に付勢する弾性部材15とから成る。
【0027】
外輪11は内輪12より軸方向長さが短く、その外輪11の内周に円筒面16が形成されている。内輪12の外周には、上記外輪11の円筒面16と径方向で対向する円筒面17が形成されている。また、内輪12の外周には、上記円筒面17の両側に軸受嵌合面18が形成され、各軸受嵌合面18に軸受19が支持されている。
【0028】
軸受19は片シール付き玉軸受から成る。この軸受19はシール20が外側に位置する組付けとされ、その軸受19によってプーリ1と内輪12とが相対的に回転自在とされている。この一対の軸受19間において、外輪11と内輪12間にグリースが封入されている。
【0029】
係合子13はスプラグから成る。係合子13は外輪11の円筒面16と内輪12の円筒面17間において周方向に間隔をおいて配置されている。
【0030】
保持器14は合成樹脂の成形品から成る。この保持器14には、図2に示すように、係合子13のそれぞれを個別に収容する複数のポケット21と、各ポケット21に連通するばね収容凹部22とが形成され、各ばね収容凹部22にスプリングから成る弾性部材15が組込まれている。弾性部材15は係合子13が外輪11の円筒面16および内輪12の円筒面17に係合する方向にその係合子13を付勢している。
【0031】
ここで、係合子13は、プーリ1と共に外輪11が内輪12に対して図2の矢印方向に相対回転したとき、各円筒面16、17に係合して、外輪11の回転トルクを内輪12に伝達する。また、係合子13は外輪11が内輪12に対して上記矢印で示す反対方向に相対回転し、あるいは、矢印方向に回転する外輪11に対して同方向に回転する内輪12の回転速度が外輪11の回転速度を上回った場合に、円筒面16、17に対する係合が解除して外輪11から内輪12への回転伝達を遮断するようになっている。保持器14の外周面における軸方向の両側にはフランジ23が設けられている。
【0032】
図1に示すように、保持器14の一端部は一方の軸受19内に位置して、その軸受19のボール19aを保持している。
【0033】
上記のように、一方向クラッチ10の保持器14によって一方の軸受19のボール19aを保持することにより、外輪11が内輪12に対して相対回転する一方向クラッチ10の空転時、保持器14は外輪11に対して1/2回転することになり、その保持器14と共に回転する係合子13を外輪11の円筒面16および内輪12の円筒面17に対して滑り移動させることができる。
【0034】
実施の形態で示すクラッチ内蔵プーリは上記の構造から成り、このクラッチ内蔵プーリにおいては、プーリ1が図2の矢印方向に回転すると、係合子13が外輪11の円筒面16および内輪12の円筒面17に係合し、プーリ1の回転が内輪12に伝達される。内輪12の回転速度が外輪11の回転速度を上回ると、各円筒面16、17に対する係合子13の係合が解除され、外輪11から内輪12への回転伝達が遮断される。
【0035】
このため、上記のようなクラッチ内蔵プーリを、例えばオルタネータの回転軸に取付けてクランクシャフトに取付けられたプーリと上記回転軸上のプーリ間にベルトをかけ渡してオルタネータを駆動すると、クランクシャフトの角速度増加時、一方向クラッチ10が係合状態となり、クランクシャフトの回転がオルタネータの回転軸に伝達される。
【0036】
また、クランクシャフトの角速度減少時、一方向クラッチ10が空転状態となって、クランクシャフトからオルタネータの回転軸への回転伝達が遮断されることになる。
【0037】
このため、プーリ1とこれにかかるベルトの相互間で滑りが生じるのが防止され、ベルトの摩耗を抑制することができる。
【0038】
ここで、一方向クラッチ10が空転するとき、複列の係合子13は外輪11および内輪12に対して相対回転する。このとき、係合子13は、外輪11の円筒面16および内輪12の円筒面17に潤滑グリースを介在させて滑りながら保持器14と共に公転する。
【0039】
この発明に用いる潤滑グリースに用いる基油としては、例えば一般的に使用されているナフテン系、パラフィン系、流動パラフィン、水素化脱ろう油などの鉱油、ポリアルキレングリコールなどのポリグリコール油、アルキルジフェニルエーテル、ポリフェニルエーテルなどのエーテル系合成油、ジエステル油、ポリオールエステル油などのエステル系合成油、ポリジメチルシロキサン、ポリフェニルメチルシロキサンなどのシリコーン油、GTL基油、ポリ−α−オレフィン油等の炭化水素系合成油、フッ素油等、またこれらの混合油が挙げられる。これらのうち、特に耐熱性を考慮すれば、合成油を採用することが好ましい。
【0040】
この発明においてベースグリースに用いる増ちょう剤としては、ジウレア化合物、ポリウレア化合物等のウレア化合物が挙げられる。
【0041】
このうち、この発明に適用できる増ちょう剤として、前記の化2の式で表わされるジウレア化合物が挙げられる。
【0042】
化2の式中に示された炭素数6の脂環族炭化水素基としては、シクロヘキシル基およびその誘導体が挙げられる。また、炭素数6〜12の芳香族炭化水素基としては、熱安定性、酸化安定性に優れた特性を有する例えばフェニル基、トルイル基、キシリル基、t−ブチルフェニル基、ベンジル基などが挙げられ、特に1価の芳香族炭化水素基が適している。
【0043】
この発明に用いる潤滑グリースは、その優れた性能を高めるため、必要に応じて公知の添加剤を含有させることができる。この添加剤として、例えば、二硫化モリブデン、グラファイト等の固体潤滑剤、アミン系、フェノール系化合物等の酸化防止剤、石油スルフォネート、ジノニルナフタレンスルフォネート、ソルビタンエステル等の防錆剤、硫化油脂、硫化オレフィンに代表される硫黄系化合物、チオフォスフェート、チオフォスファイトに代表される硫黄−リン系化合物、トリクレジルフォスフェートに代表されるリン系化合物等の極圧剤、金属スルフォネート、金属フォスフェート等の清浄分散剤、有機モリブデン等の摩擦低減剤、ワックス系化合物、脂肪酸アミド、脂肪酸、アミン、油脂類等の油性剤、ベンゾトリアゾール等の金属不活性剤等が挙げられる。これらを単独または2種類以上組合せて添加してもよい。
【0044】
この発明で用いる油溶性ポリマーは、ポリメタクリレートまたはポリアクリレートからなり、一方向クラッチの所要部に高温で遠心力(慣性力)が作用したときも、低温で始動したときもグリースが潤滑可能な状態に存在する挙動をさせるものである。
【0045】
このような油溶性ポリマーは、流動点降下剤としても市販されているものであり、特に重量平均分子量が1万以上、特に2万〜150万のものが適当である。
【0046】
この発明で用いる油溶性ポリマーの具体例としては以下のものがあり、ここではメチルまたはメタを「メチル(メタ)」と表記する。
すなわち、具体例として、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、テトラデシル(メタ)アクリレート、ヘキサデシル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレート、イコシル(メタ)アクリレート、ドコシル(メタ)アクリレート、テトラコシル(メタ)アクリレート、オクタコシル(メタ)アクリレートまたはトリアコンチル(メタ)アクリレートなどの重合体または共重合体が挙げられる。これらの化合物の単独または2種以上を混合して用いても良い。
【0047】
このような油溶性ポリマーのグリース組成物中の含有量は、3〜10重量%であることが好ましい。上記範囲未満の少量では、粘ちょう性および粘度指数向上の効果が不充分であり、上記範囲を超える多量を配合してもそれ以上に粘ちょう性や粘度指数の向上効果はなく、コストの上昇等により実用性を失して好ましくない。
【実施例】
【0048】
実施例および比較例に用いたグリースの材料を以下に列挙する。なお、以下の材料の番号は表1中に示した材料(基油、増ちょう剤、添加剤)の番号に一致させている。
(1) エーテル油(松村石油化学研究所社製:モレスコハイルーブLB−46)
(2) 合成炭化水素油(新日鐵化学社製:シンフィールド801)
(3) エステル油(チバスペシャリティケミカルズ社製:レオルーブLTM)
(4) 鉱油(新日本石油社製:スーパーオイルN100)
(5) 4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(日本ポリウレタン工業社製:ミリオネートMT)
(6) ポリメタクリレート(三洋化成工業社製:アクルーブ504)
【0049】
[実施例1〜5および比較例1、2]
表1に示した基油種および基油量(重量%)に対し、1モルのジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネートと、2モルのp−トルイジンを基油中で反応させ、生成したウレア化合物を均一に分散させてグリースを得た。このベースグリースに、表1に示す配合割合で添加剤を添加し、得られる化合物を三段ロールミルでJISちょう度No.2グレードに調整して、潤滑グリースを得た。
【0050】
得られた潤滑グリースは、急加減速試験機により、以下の条件でクラッチ耐久性を調べた。すなわち図1、2に示した構造のNTN社製一方向クラッチ内蔵プーリの外輪11と内輪12間に潤滑グリースを封入し、下記のクラッチ耐久試験を行ない、これらの結果をまとめて表1中に示した。
【0051】
<クラッチ耐久試験>
ラジアル荷重1400N、試験雰囲気110℃の条件で、これを回転速度0から20000回転/分まで過・減速・停止工程(加速時間1.2秒−拘束時間8.8秒−減速時間1.0秒−停止時間9.0秒)を1サイクルとしてこれを繰り返し、500時間の耐久性の有無を調べた。
【0052】
耐久性の判定は、500時間経過後にクラッチ結合(ロック)および空転の機能が確実であるものを「良好」判定とし、異常摩耗などの破損により上記機能が不確実になったものを「不良」判定とした。
【0053】
【表1】

【0054】
表1の結果からも明らかなように、添加剤のポリメタクリレートを配合しなかった比較例では、急加減速試験において、異常摩耗が起こり、500時間経過後のクラッチ結合(ロック)および空転の機能が不確実になった。
一方、グリースの組成条件を満足する実施例では、耐久時間500時間の終了後でもクラッチ機能(ロックおよび良好な空転状態)は健全に確保されていた。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】実施形態の一方向クラッチをプーリ内に組込んだ状態の縦断正面図
【図2】図1のII−II線に沿った断面図
【符号の説明】
【0056】
1 プーリ
10 一方向クラッチ
11 外輪
12 内輪
13 係合子
14 保持器
15 弾性部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外輪と、その外輪に対して相対的に回転可能な内輪と、前記外輪と内輪間の周方向に間隔をおいて配置され、外輪と内輪が一方向に相対回転したとき、外輪内周面および内輪外周面に係合して両輪を結合する複数の係合子と、各係合子を保持する保持器と、前記各係合子を外輪の内周面および内輪外周面に係合する方向に付勢する弾性部材とから成り、前記外輪と内輪間に充填された潤滑グリースを設け、この潤滑グリースによって係合子と外輪および内輪の接触部を潤滑するようにした一方向クラッチにおいて、
前記潤滑するグリースが、基油およびウレア化合物の増ちょう剤を含有すると共に、ポリメタクリレートまたはポリアクリレートからなる油溶性ポリマーを必須成分として含有することを特徴とする一方向クラッチ。
【請求項2】
油溶性ポリマーが、重量平均分子量10000以上のポリマーからなり、その配合割合が3〜10重量%である請求項1に記載の一方向クラッチ。
【請求項3】
増ちょう剤が、下記の化1式で表わされるジウレア化合物である請求項1に記載の一方向クラッチ。
【化1】

(式中、RとR3は同一もしくは異なっていてもよく、それぞれ炭素原子数4〜24の直鎖アルキル基、炭素原子数6の脂環族炭化水素基または炭素数6〜12の芳香族系炭化水素基であり、R2は炭素数が6〜15の芳香族系炭化水素基である。)
【請求項4】
グリースの増ちょう剤が、化1の式で表されるもののうち、式中のRとR3がそれぞれ炭素数6〜12の芳香族系炭化水素基の増ちょう剤である請求項3に記載の一方向クラッチ。
【請求項5】
グリースの基油が、合成炭化水素油、エーテル油またはエステル油のいずれかの合成油である請求項1〜4のいずれかに記載の一方向クラッチ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−120855(P2008−120855A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−303162(P2006−303162)
【出願日】平成18年11月8日(2006.11.8)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】