説明

一方向結合装置とそれを有する修正装置

【課題】 一方向にのみ結合(回転)する装置を提供すること。
【解決手段】 本発明の一方向にの回転する装置は、第1と第2の伝達部材10,14を有する。第1伝達部材10は、回転軸XXを中心に回転し、弾性部材で軸方向の所定位置に配置される。第2伝達部材14は、鋸状の歯17を有し、回転軸YYを中心に回転し、第1伝達部材10噛み合う。回転軸XXと回転軸YYとは直交する。本発明のピニオン20とクラウン歯車32とを有する香箱巻き上げ装置において、前記ピニオン20は、回転軸XXを有する巻き上げステム22に搭載され、鋸状穴歯車30を有し、時間設定位置Aと巻き上げ位置Bとの間を移動する。前記クラウン歯車32は、その回転軸YYは前記回転軸XXに直交し、前記巻き上げ位置Bで、前記鋸状穴歯車30と噛み合う鋸状内歯34を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、時計に関し、特に一方向結合装置に関する。本発明は、結合装置を有する修正装置にも関する。
【背景技術】
【0002】
一方向結合装置は、一方向にのみ回転運動を伝達するために用いられる。この一方向結合装置は、2つの伝達部材を有し、一方は駆動用、他方は被駆動用である。これらは一方向に回転するように互いに連結され、反対方向には回転しない(即ち切り離される)。平行あるいは同軸の2個の伝達部材の間に配置される様々な一方向結合装置が公知である。特許文献1−3を参照のこと。
【0003】
【特許文献1】スイス特許第347139号明細書
【特許文献2】スイス特許第493874号明細書
【特許文献3】フランス特許第1491183号明細書
【0004】
直交する軸を有する2本の伝達部材間で回転運動を一方向に伝達する装置は公知である。この一例は、ブルゲ歯(Breguet toothing)の結合装置である。このブルゲ歯の結合装置は、2個のピニオンから形成され、それぞれ鋸状の丸穴車を有し、一方向では噛み合い、反対方向には互いに切り離され、互いに共働して一方向回転する。この2つのピニオンは同軸であるが、この結合装置の目的は、回転運動をピニオンの軸に直交する軸を有する歯車に伝達することである。かくして被駆動ピニオンは、前記歯車と噛み合う直線状の半径方向の歯を有する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この種の結合装置は、極めて効率が良いがその機構は複雑かつ高価である。特にブルゲ歯と直線状歯を有する被駆動ピニオンは、複雑な部品であり製造が困難である。
【0006】
この結合装置は、香箱スプリングを巻き上げ方向とは反対方向に駆動するのを阻止するために、香箱巻き上げ装置に採用されている。かくして、巻き上げ装置は、スライド・ピニオンと巻き上げピニオンとを有する。このスライド・ピニオンは、時間設定位置と巻き上げ位置との間を動く第1のブルゲ歯と適合する。巻き上げピニオンは、第2のブルゲ歯と適合し、巻き上げ位置でスライド・ピニオンと噛み合い、それと共に一方向結合装置を形成する。巻き上げピニオンは、クラウン歯車と噛み合う直線状の半径方向歯に噛み合い、このクラウン歯車が香箱上に搭載されたラチェットと噛み合う。スライド・ピニオンが第1方向に回転している時には、スライド・ピニオンは、巻き上げピニオンと噛み合い、クラウン歯車を駆動する。クラウン歯車ががラチェットを駆動すると、このラチェットは香箱を巻き上げる。スライド・ピニオンが第2回転方向に回転すると、スライド・ピニオンは、巻き上げピニオンから切り離され、巻き上げピニオンは回転せず、かくして香箱の不適切な操作を阻止する。
【0007】
本発明の目的は、互いに直交する軸を有する第1伝達部材から第2伝達部材に回転運動を伝達する一方向結合装置を提供することである。本発明の結合装置の設計と製造は、ブルゲ型の結合装置と比較すると単純である。本発明は、さらにこの種の結合装置を有する巻き上げ装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
より具体的には、本発明は第1伝達部材と第2伝達部材を有する一方向結合装置に関する。この第1伝達部材は、第1の鋸状丸穴歯車に適合し、軸XXを中心に回転し、弾性部材によって軸方向に配置される。第2伝達部材は、第2の鋸状歯と適合し、軸YYを中心に回転し、第1伝達部材と噛み合う。、軸XXは軸YYと直交する。
【0009】
第1と第2の歯車が鋸状歯の形状をしているため、2つの伝達部材の間の結合が、一方向にのみ起こる。
【0010】
本発明の香箱巻き上げ装置は、ピニオンとクラウン歯車とを有する。前記ピニオンは、回転軸XXを有する巻き上げステムに搭載され、第2鋸状穴歯車を有し、時間設定位置(A)と巻き上げ位置(B)との間を移動し、前記巻き上げ位置(B)に、弾性部材により軸方向に配置される。前記クラウン歯車は、その回転軸YYは前記回転軸XXに直交し、前記第2の巻き上げ位置(B)で、前記第2鋸状穴歯車と噛み合う鋸状内歯を有し、かくして一方向結合装置を構成する。
【0011】
竜頭車の鋸状内歯故に、ピニオンは、クラウン歯車と直接(即ち、中間巻き上げピニオンを介さず)噛み合う。この為この巻き上げ装置は、大幅に単純化される。
【実施例】
【0012】
図1に示す結合装置は、ブレゲ歯12に適合したピニオン10を有し、このピニオン10は、軸XXを中心に回転する。ピニオン10は、例えば、時計ムーブメントのスライド・ピニオン又は他のピニオンである。ブレゲ歯12は、当業者に公知である。このブレゲ歯12は、軸方向に切られた歯即ち鋸状丸穴歯である。歯13は、ピニオン10の軸XXに平行な直線状側面13aと傾斜側面13bとを有する。この両者間の角度はαである。
【0013】
ピニオン10は、固定されるか又はスライド・ピニオン(例えば、巻き上げステム)上に搭載される。両方の場合とも、弾性部材(図示せず)より軸方向の位置に保持され、その結果、若干軸方向に移動でき、元の位置に戻ることができる。
【0014】
ピニオン10は、具体的にはブレゲ歯12が、歯車14と噛み合う。この歯車14は、時計の輪列あるいは修正装置15の第1要素を形成する。輪列あるいは修正装置15は、様々な要素(図示せず)を、必要により摩擦力により、位置決め要素による様々な要素の一つの位置決め力により、組立し構成する。
【0015】
歯車14は、軸YYを中心に回転可能である。歯車14は、歯17から形成される鋸状歯16を有する。この歯17は、直線状側面17aと傾斜側面17bを有し、この両者間の角度はβである。ブレゲ歯12と鋸状歯16とは、互いに噛み合うような形状と大きさである。特に角度α、βはほぼ等しい。さらに本発明によれば、軸XXと軸YYは直交する。好ましくは、軸XXと軸YYは同一面にある。
【0016】
スライド・ピニオン(例、ピニオン10)が時計方向(向こう側)に回転すると、直線状側面13aと直線状側面17aは、共働して接線方向力Tを歯車14に伝達する。接線方向力Tが、修正装置15の摩擦力と位置決め力よりも大きい場合には、歯車14は回転駆動される。かくして回転運動がピニオン10から歯車14に伝達される。
【0017】
ピニオン10が反時計方向(手前)に回転駆動されると、傾斜側面13bと傾斜側面17bは、共働して力F(半径方向成分Rと接線方向成分tを有する)を歯車14にかける。力Fに対する反作用の力F’は、その力は輪列あるいは修正装置15の摩擦力と位置決め力に依存するが、ピニオン10にかかる。この力F’は、軸方向成分A’と接線方向成分t’を有する。角度α、βが大きくなると、軸方向成分A’と半径方向成分Rも大きくなる。接線方向成分tが修正装置15の摩擦力や位置決め力以下で、軸方向成分A’が弾性部材によるピニオン10の軸方向位置決め力より大きい場合には、ピニオン10は軸XX上を若干動くだけで、歯車は回転駆動されない。
【0018】
かくして、ピニオン10から歯車14までからなる組立体は、軸XXとそれに直交する軸YYへの回転運動の伝達を行う一方向結合装置を構成する。
【0019】
上記の実施例においては、ピニオン10は駆動用で歯車14は被駆動用である。逆に、歯車14が駆動用でピニオン10が被駆動用でもよい。この場合、かかる力は同一で逆の結果が得られる。被駆動用のピニオン10は、駆動用の歯車14の回転方向に回転駆動され、反対回転方向には軸方向に動くだけである。
【0020】
上記の実施例の変形例において、内歯を具備する竜頭で歯車14を置換することも可能である。しかし結合装置の動作は変わらない。
【0021】
図2、3を参照すると、同図は、本発明の一方向結合装置を用いた香箱巻き上げ装置を示す。
【0022】
本発明の巻き上げ装置は、従来と同様、スライド・ピニオン20を有する。このスライド・ピニオン20は、時間設定位置Aと巻き上げ位置Bとの間でスライド可能に、巻き上げステム22に搭載される。時間設定位置Aと巻き上げ位置Bの間の位置変更は、引出部品24とレバー26とから構成される機構を用いて行われる。
【0023】
スライド・ピニオン20は、回転軸XXを有する巻き上げステム22上に回転可能に搭載される。スライド・ピニオン20は、第1の丸穴歯車28と第2の鋸状穴歯車30とを有する。時間設定位置Aにおいては、第1の丸穴歯車28は、中間歯車(図示せず)と共働し、第2の中間歯車と噛み合う。この第2の中間歯車は、日の裏装置と噛み合う。この構成は、当業者に公知であり説明は割愛する。
【0024】
本発明の巻き上げ装置は、クラウン歯車32を有する。このクラウン歯車32は、鋸状内歯34と直線状外歯36とを有する。クラウン歯車32は、軸XXに直交する軸YYを中心に自由に回転するよう、輪列バー38に搭載される。クラウン歯車32は、円筒状突起部40を有する。この円筒状突起部40は、輪列バー38に形成される環状溝42と係合する。直線状外歯36は、香箱46に搭載されるラチェット44と噛み合う。ラチェット44は、クリック・スプリング48により回転するよう固定保持される。この実施例の変形例としては、クラウン歯車32は、中間歯車を介して、ラチェット44と間接的に噛み合うこともできる。
【0025】
巻き上げ位置においては、スライド・ピニオン20は、具体的には第2鋸状穴歯車30が、クラウン歯車32の鋸状内歯34と共働し(噛み合い)、上記の一方向結合装置を形成する。第1回転方向においては、クラウン歯車32は、香箱46を巻き上げるよう回転駆動される。第1回転方向とは反対方向の第2回転方向においては、クラウン歯車32は回転しない。これは、様々な要素の摩擦力と位置決め力と、第1丸穴車車28の角度と、鋸状内歯34の角度とを適宜設定して行われ、スライド・ピニオン20は若干軸方向に移動するが、クラウン歯車32は回転しないようにしている。
【0026】
上記の巻き上げ機構は、スライド・ピニオン20とクラウン歯車32の間に、巻き上げピニオンやの中間部品を有さない。巻き上げピニオンは、複雑かつ高価な部品であるので、それらを取り除くことが、空間の節約と構造の複雑さとその結果コストを低減させる。
【0027】
以上の説明は、本発明の一実施例に関するもので、この技術分野の当業者であれば、本発明の種々の変形例を考え得るが、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。特許請求の範囲の構成要素の後に記載した括弧内の番号は、図面の部品番号に対応し、発明の容易なる理解の為に付したものであり、発明を限定的に解釈するために用いてはならない。又、同一番号でも明細書と特許請求の範囲の部品名は必ずしも同一ではない。これは上記した理由による。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の結合装置の斜視図。
【図2】本発明の香箱巻き上げ装置の斜視図。
【図3】本発明の香箱巻き上げ装置の断面図。
【符号の説明】
【0029】
10 ピニオン
12 ブルゲ歯
13a 直線状側面
13b 傾斜側面
14 歯車
15 修正装置
16 鋸状歯
17 歯
17a 直線状側面
17b 傾斜側面
20 スライド・ピニオン
22 巻き上げステム
24 引出部品
26 レバー
28 第1丸穴歯車
30 第2鋸状穴歯車
32 クラウン歯車
34 鋸状内歯
36 直線状外歯
38 輪列バー
40 円筒状突起部
42 環状溝
44 ラッチェト
46 香箱
48 クリック・スプリング
50 中間歯車

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピニオン(20)とクラウン歯車(32)とを有する香箱巻き上げ装置において、
前記ピニオン(20)は、回転軸(XX)を有する巻き上げステム(22)に搭載され、鋸状穴歯車(30)を有し、時間設定位置(A)と巻き上げ位置(B)との間を移動し、前記巻き上げ位置(B)に弾性部材により配置され、
前記クラウン歯車(32)は、その回転軸(YY)は前記回転軸(XX)に直交し、前記巻き上げ位置(B)で、前記鋸状穴歯車(30)と噛み合う鋸状内歯(34)を有し、一方向結合装置を構成する
ことを特徴とする香箱巻き上げ装置。
【請求項2】
前記クラウン歯車(32)は、直線状外歯(36)を有し、
前記直線状外歯(36)は、ラチェット(46)と少なくとも間接的に噛み合う
ことを特徴とする請求項1記載の香箱巻き上げ装置。
【請求項3】
前記ピニオン(20)は、丸穴歯車(28)を有し、
前記丸穴歯車(28)は、前記時間設定位置(A)で第1中間歯車と共働し、
前記第1中間歯車は、日の裏装置と機構的に連結されている
ことを特徴とする請求項1又は2記載の香箱巻き上げ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−256688(P2008−256688A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2008−79831(P2008−79831)
【出願日】平成20年3月26日(2008.3.26)
【出願人】(505072926)イーティーエー エスエー マニュファクチュア ホルロゲア スイス (61)
【Fターム(参考)】