説明

一端側開口型スリーブによる鉄筋継手構造

【課題】安価な竹節鉄筋などの異形鉄筋を採用しても、鉄筋とスリーブとの接続部における打設コンクリートモルタルの進入を完全に排除し、また、スリーブの鍛造品化を可能にして鉄筋継手の低廉化を図る。
【解決手段】スリーブ1を鍛造品とし、スリーブの外径より小さく鉄筋2の外径以上の直径を持つ中実部6を形成して、この中実部6と第一鉄筋2との一体化を両者の突き合わせ部位での摩擦圧接によることにする。その鍛造品には、周壁10に開口座11を設けてグラウト注入口12やエア排出口13を開口させるが、周壁10から突出するようなグラウト注入用筒部やエア排出用筒部は一体造形しないでおく。開口座11には、グラウト注入用筒体15またはエア排出用筒体16を形成してスリーブ1の周壁に突設される樹脂製アダプタ17を摩擦圧接処理後に着座させて、連通用パイプの接続を可能にしておく。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一端側開口型スリーブによる鉄筋継手構造に係り、詳しくは、スリーブの一端側が開口し、他端側が第一鉄筋と予め一体化され、スリーブに注入されたグラウトにより一端側から挿入された第二鉄筋を第一鉄筋と長手方向に対向させた状態で接合するようにした鉄筋継手に関するものである
【背景技術】
【0002】
プレキャストコンクリートパネルやプレキャストコンクリートコラムなどの壁材や柱材としてのプレキャストコンクリート構造体には、補強筋として多数の鉄筋が埋設される。これらの構造体では、相互を接続するに際して補強筋の接合にスリーブ状の鉄筋継手が使用される。鉄筋の対向部に位置するスリーブにはグラウトが充填され、それが固化すればスリーブと鉄筋とが一体化し、スリーブを介して対向する鉄筋が接合される。
【0003】
ところで、コンクリート構造体を上下に配置して接続する場合、構造体の耐力を増強するための鉄筋は上下方向に埋設される。そのため、構造体の下端部となるべき位置にスリーブを垂直に配置してその開口を下端部縁に臨ませ、構造体の上端部縁から鉄筋が突出するように埋設するとき、その鉄筋の下端をスリーブの上端開口に差し込んだ状態で、周囲に立てられた型枠内にコンクリートモルタルを打設して構造体が成形される。このような構造体は、設備の整った生産工場で次々とプレキャスト品として製造される。
【0004】
図12の(a)は多数の埋設鉄筋のうち対向する一対の鉄筋2,4をスリーブ41によって接合する概念を示すもので、鉄筋2は図12の(b)に示す上側の構造体22Uに埋設され、その下方部位にスリーブ41が配されている。鉄筋4は下側の構造体22Lから突出するもので、下側の構造体22Lに向けて上側の構造体22Uを降ろしながら鉄筋4の頭部をスリーブ41に収める。下側の構造体22Lの上面周囲に並べられたスペーサ兼パッキン27により目地26を確保した状態で上側の構造体が降りると、スリーブの内部空間9にグラウト3が図のごとく注入される。これは竹節鉄筋を接合する例であるが、これと同類の構造が特開平7−217002号公報に開示されている。
【0005】
図13はねじ節鉄筋を接合する例であり、(a)のように鉄筋2A,4Aを接合するに際して、鉄筋の表面に形成されたねじ42をスリーブ43の上端開口のねじ孔部44に螺着し、(b)のようにロックナット45を掛けて鉄筋の緩み止めをした後、(c)に示すようにコンクリート47に埋設している。そして、前例と同様にグラウト3が内部空間9に注入される。このようなねじ節鉄筋を採用した例は、特開平8−279315号公報に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7−217002号公報
【特許文献2】特開平8−279315号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記したいずれの例も構造体に埋設される鉄筋は打設されたコンクリートに抱き込まれるため構造体内で位置ずれすることはなく、圧縮力の作用下でスリーブとの一体性に特に問題が生じることはない。しかし、構造体を成形する際に打設されるコンクリートモルタルが鉄筋とスリーブとの接続部位の僅かな隙間から、グラウトの注入される内部空間に進入するのを、如何に防止しておくかが課題となっている。プレキャストされた構造体を生産工場から出荷する際、すでに内部空間に進入したモルタルが固化していれば、建設工事現場での鉄筋接合作業に支障をきたすからである。
【0008】
上記した特許文献1では、スリーブ41の上端部にシール材46(図12を参照)を入れておき、鉄筋2の下端とスリーブとの間に進入するであろうモルタルを阻止するようにしている。特許文献2では、スリーブ43に形成したねじ孔部44による螺合やロックナット45とのねじ嵌合によりねじ42との間の残置隙間の微小化を図って、モルタルやシルトの通過を抑制するようにしている。いずれにしても鉄筋2,2Aを伝うシルト等がスリーブに完全に入らないようになっているとは言いがたい。ちなみに、ねじ節鉄筋は転造法により製造される関係で、ねじのない鉄筋に比べれば著しく高価となる。一方、竹節鉄筋などの異形棒鋼は表面形状が比較的単純であり、棒材を圧延して製造できる点で安価であって広く採用される。しかし、表面模様の疎密が激しいためスリーブとの一体性や打設モルタルの進入阻止性はねじ節鉄筋の場合より著しく落ちる。
【0009】
ところで、上では詳しくは説明していないが、スリーブにはグラウトの注入口12と残留エアの排出口13とが設けられている。図12,図13のいずれからも分かるように、圧入されたグラウト3はスリーブの内部空間9を上昇し、その際に滞留空気が押し出される。グラウトが内部空間にエア溜まりを残さず充填されることが鉄筋の接合に欠かせないからである。なお、エア排出口からのグラウト3の漏出は、充填完了のインデックスともなる。このような挙動を実現するため、スリーブ41のグラウト注入口12とエア排出口13を構造体の外側面まで連通させておく必要から、例えば塩化ビニル製のパイプ14がコンクリート47に予め埋設される。
【0010】
その塩ビなどの連通用パイプ14とグラウト注入口12やエア排出口13との接続性を確保するためには、スリーブ周壁から突出するようなグラウト注入用筒部48やエア排出用筒部49がそれぞれの開口部縁に必要となる。スリーブは通常鋳鉄製もしくは鋳鋼製であるので、それらを一体的に成形しておくことは難しいことでない。ところが、スリーブを鍛造製にしようとすると、グラウト注入用筒部48などの周壁10から立ち上がる中空突出部は成形の原理上不可能となるゆえ、鍛造品のスリーブは日の目を見るに到っていないのが現状である。
【0011】
鍛造品は高圧力を加える塑性加工品であるが、金属内部の空隙を潰して結晶を微細化する関係で、成形後の機械加工性が著しく劣るという難点がある。そのため、鍛造製スリーブに図13のようなねじ節鉄筋2A,4Aを使用するためのねじ孔部44を形成することができたとしても、鋳造製スリーブに比べれば極めて割高なものとなってしまう。
【0012】
本発明は上記の問題に鑑みなされたもので、その目的は、高価なねじ節鉄筋に代えて安価な竹節鉄筋などの異形鉄筋を採用しても、鉄筋とスリーブとの接続部における打設コンクリートモルタルの進入を完全に排除できるようにすること、プレキャストコンクリート構造体に適用するため必要となる連通用パイプの取り付けを、グラウト注入用筒部やエア排出用筒部を一体成形することの不可能な鍛造製スリーブにも可能にすること、スリーブの鍛造品化も可能にして鉄筋継手の低廉化が図られること、を実現した一端側開口型スリーブによる鉄筋継手構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、スリーブの一端側が開口する一方、他端側が第一鉄筋と予め一体化され、スリーブに注入されたグラウトにより前記一端側から挿入された第二鉄筋を第一鉄筋と長手方向に対向させた状態で接合するようにしている鉄筋継手に適用される。その特徴とするところは、図1を参照して、スリーブ1は鉄系造形品であり、他端側にはスリーブの外径より小さく第一鉄筋2の外径以上の直径を持つ中実部6が形成され、その中実部6と第一鉄筋2との一体化は、両者の突き合わせ部位での摩擦圧接によっていることである(圧接バリ7,8を参照)。その鉄系造形品は鋳鉄製や鋳鋼製のみならず、鍛造製とすることもできる。
【0014】
図3および図4を参照して、鉄系造形品の周壁10には開口座11が設けられてグラウト注入口12やエア排出口13を開口させるが、その周壁10から突出するようなグラウト注入用筒部やエア排出用筒部は一体造形しないようにしておく。そして、図1に示すように、開口座11には、グラウト注入用筒体15またはエア排出用筒体16を形成してスリーブ1の周壁に突設される樹脂製アダプタ17を摩擦圧接処理後に着座させておく。
【0015】
図5に示すように、アダプタ17には、開口座に着座した後の外れを防止しておく抜け止め爪19が、このアダプタの挿入側に位置して図4の(c)や(b)に示すグラウト注入口12やエア排出口13と略同径の外径を持つ筒状首部18の先端に形成され、その抜け止め爪がグラウト注入口やエア排出口を通過する際には爪輪20が縮径しまた通過後は復径するように、筒状首部18には軸方向へ延びるスリット21が複数形成される。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、スリーブを鉄系造形品としておき、開口するスリーブの一端側とは反対の他端側に、スリーブ外径より小さく鉄筋の外径以上の直径を持つ中実部が形成されるので、この中実部と鉄筋の端面とを突き合わせた状態で摩擦圧接すれば、圧接バリを肥大化させることなくスリーブと鉄筋とを予め一体化しておくことができる。高価なねじ節鉄筋に代えて安価な竹節鉄筋などの異形棒鋼を採用しても、鉄筋とスリーブとの接続部における構造体プレキャスト用コンクリートモルタルの進入を完全に阻止しておくことができる。
【0017】
鉄系造形品のスリーブは鋳鉄製、鋳鋼製または鍛造製としておくとよい。鋳鉄製は安価であり、鋳鋼製は鋳鉄製より耐久性が高く、鍛造製は高強度・高生産性が発揮される。とりわけ、スリーブの大量鍛造品化は、鉄筋継手の低廉化を促す。
【0018】
鉄系造形品の周壁に開口座が設けられてグラウト注入口やエア排出口を開口させるが、周壁から突出するようなグラウト注入用筒部やエア排出用筒部を一体造形しないようにしておけば、スリーブの鍛造品化が推進される。
【0019】
グラウト注入用筒体またはエア排出用筒体を形成してスリーブから突設される樹脂製アダプタを、スリーブと鉄筋との摩擦圧接後に周壁の開口座に着座させておけば、成形時に周壁突出部をほとんど形成させることのできない鍛造製スリーブも、鉄筋継手用一端側開口型スリーブとして使用することができるようになる。周壁から突出するグラウト注入用筒部やエア排出用筒部を一体造形させにくい鍛造製スリーブにも、グラウト注入口やエア排出口に連なる連通用パイプの適用が可能となり、多様なスリーブのプレキャストコンクリート構造体への導入の途が拓かれる。
【0020】
アダプタの挿入側に設けられグラウト注入口やエア排出口と略同径の筒状首部の先端に抜け止め爪を形成し、その筒壁に軸方向のスリットを設けておけば、抜け止め爪がグラウト注入口やエア排出口を通過するとき爪輪が縮径して通過でき、通過後は復径することにより、アダプタが開口座から外れるのを阻止しておくことができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明に係る一端側開口型スリーブによる鉄筋継手構造を示し、(a)は縦断面図、(b)は(a)におけるA−A線断面図、(c)は(a)におけるB−B線断面図。
【図2】一端側開口型スリーブによる鉄筋継手構造であって、(a)は平面図、(b)は正面図、(c)は左側面図、(d)は右側面図。
【図3】一端側開口型スリーブによる鉄筋継手構造における摩擦圧接品にアダプタを装着する前の状態であって、(a)は平面図、(b)は正面図、(c)は左側面図、(d)は右側面図。
【図4】一端側開口型スリーブによる鉄筋継手構造に適用される摩擦圧接品にアダプタを装着する前の状態であって、(a)は縦断面図、(b)は(a)におけるC−C線断面図、(c)は(a)におけるD−D線断面図。
【図5】アダプタの一例の詳細を示し、(a)は平面図、(b)は正面図、(c)は底面図、(d)は(b)におけるE−E線断面図、(e)は(c)におけるF−F線断面図、(f)は(e)におけるG−G線断面図、(g)は全体斜視図。
【図6】(a)は一端側開口型スリーブに第一鉄筋が溶着された摩擦圧接品にアダプタを装着した状態の斜視図、(b)は周壁にエア排出口のみを設けてアダプタを装着させた異なる例のアダプタ付き摩擦圧接品の縦断面図。
【図7】(a)はプレキャストコンクリート構造体の断面構成例、(b)は下側のプレキャストコンクリート構造体に上側のプレキャストコンクリート構造体を降ろすときの様子を表した断面図。
【図8】構造体を重ねた状態でポストグラウト工法に基づきグラウトが注入されている様子を説明する断面図。
【図9】異なる例の摩擦圧接品を使用してプレグラウト工法に基づき構造体を接続する様子を表した断面図。
【図10】本発明に係る一端側開口型スリーブによる鉄筋継手を、梁や壁パネルの左右方向接続に適用した場合の鉄筋接合準備の様子を表した構造体の外面図。
【図11】鉄筋の接合と構造体の接続を横繋ぎ操作においても同時に行っている様子を示した断面図。
【図12】背景技術で挙げた従来例の一つで、(a)は接合前状態の断面図、(b)はグラウト注入状態説明図。
【図13】背景技術で挙げたねじ節鉄筋を接合する例で、(a)は接合前状態の断面図、(b)はロックナットによりスリーブに固定したねじ節鉄筋の端部断面図、(c)は構造体に埋設させた鉄筋の接合のためにグラウトを注入している様子の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、本発明に係る一端側開口型スリーブによる鉄筋継手構造を、その実施の形態を表した図面に基づいて詳細に説明する。図8は、筒状のスリーブ1の一端側が下向きに開口する一方、他端側が第一鉄筋2と予め一体化され、スリーブに注入されたグラウト3により、一端側から挿入された第二鉄筋4を第一鉄筋2と長手方向に対向させた状態で接合するようにしている鉄筋継手5を内包した構築物の一部を表している。そのスリーブ1と第一鉄筋2との一体化は、背景技術のところで触れた図12や図13のような接続ではなく、次に述べる中実部と第一鉄筋との突き合わせ部位での溶着によっている。
【0023】
この鉄筋継手のスリーブ1は鍛造成形品であり、図3(a),(b)に示すスリーブ1と第一鉄筋2との一体化は、一方または双方を高速で相対回転させることにより突き合わせ面に発生する熱でもって母材を溶融接合する摩擦圧接法によっている。そのため、鍛造成形品の他端側には、スリーブ1の外径より小さく鉄筋2の外径以上の直径Dを持つ中実部6が形成されている。中実部6の軸方向の圧接前の長さLは通常10ないし20ミリメートル確保されていれば十分であり、第一鉄筋2と同等径であればほぼ同じ大きさの圧接バリ7,8が形成される。その断面形状は図4の(a)に表されているが、これらはスリーブ1に対してバランスのとれた大きさとなって、打設コンクリートとの定着性の向上にも寄与する。
【0024】
ところで、摩擦圧接は通常引き抜き品や圧延品、鋳造品、鋳鋼品に適用され、塑性化により組織が稠密化した鍛造品には不向きとされていた。しかし、本発明者はその常識を覆すべく摩擦圧接を試みたところ、圧延品同士の摩擦圧接にもひけをとらない強度の発揮されることを確認し、その知見をもとに鍛造製スリーブの実用化を試みた。ちなみに、鉄筋の呼び径が32ミリメートルの場合、スリーブの外径は56ミリメートル、長さが例えば280ミリメートルとなる。スリーブを鋳鉄製としたときに比べれば少しサイズダウンできるにしても、内部空間9(図1の(a)を参照)はスリーブ1の材質に関係なく、充填されるグラウトにより発揮される締結力を考慮した容積を確保すべく、その大きさが決められる。
【0025】
スリーブを鍛造成形品とする場合、筒状のスリーブの周壁に突起部とりわけ中空突起部を形成することは容易でなく、またできたとしても成形コストが跳ね上がり、価格競争力を失う。そこで、右側面図や左側面図である図3(c)や(d)に示したように、極めて低く周壁10の外形に接する座面となる程度の開口座11を形成するにとどめる。なお、その開口座11に、図4に示すグラウト注入口12やエア排出口13を鍛造工程中に開口させることは難しいことでない。それゆえ、鍛造製スリーブには、周壁10の外形に接する仮想の座面から突出するような図12や図13に示したグラウト注入用筒部48やエア排出用筒部49を一体的に成形させることはない。なお、内部空間9の成形には中子を用いれば、特に問題となることはない。
【0026】
このようにして、鍛造製スリーブにグラウト注入口12やエア排出口13を開口させることができるにしても、それには連通用パイプ14(図8を参照)を安定的に固定したり接続することが容易でない。そこで、図1や図2に示すように、開口座11に、グラウト注入用筒体15またはエア排出用筒体16を形成してスリーブ周壁10に突設される樹脂製アダプタ17を取り付ける。
【0027】
このアダプタは成形性のよい例えば塩ビを素材にしたものでよく、これには、グラウト注入口12やエア排出口13(図1の(c),(b)を参照)と略同径の外径を有する筒状首部18が挿入側に設けられる。そして、この筒状首部18の先端に開口座11に着座した後の外れを防止しておく図5に示す抜け止め爪19が形成される。この並んだ爪で形づくられる爪輪20がグラウト注入口やエア排出口を通過する際には縮径し、そして通過後は復径できるように、筒状首部18の筒壁には軸方向へ延びるスリット21が複数形成される。ちなみに、各爪は矢尻状をなしかつ戻りも形成されているため、抜け止めとして機能している。
【0028】
第一鉄筋が摩擦圧接されている鍛造製スリーブ1にアダプタ17を装着した姿は、図6の(a)に示される。アダプタ17のスリーブ1への取り付けは摩擦圧接処理後であり、図7(a)に示すプレキャストコンクリート構造体22を成形すべく型枠に配置されるまでの間になされる。アダプタを開口座に着座させるのは、上記の説明から分かるように押し込みワンタッチ操作で済ますことができる。アダプタの取り付け操作上、抜け止め爪19を備える筒状首部18の変形を必要とするから、アダプタ17は樹脂製とは限らないが係止するに相応しい弾力性ある材料が選定される。
【0029】
このような構成の鉄筋継手構造によれば、鍛造品化を可能にした一端側開口型スリーブに安価な異形鉄筋を適用することができ、しかも鉄筋とスリーブとの接続部への打設コンクリートモルタルの進入を完全に阻止しておくことができる。そのうえ、樹脂製アダプタを採用して、グラウト注入用筒体またはエア排出用筒体をグラウト注入口やエア排出口に爾後的に被着させ、連通用パイプの取り付けを可能にして、構造体間の鉄筋の接合を確実なものにしておくことができる。
【0030】
以下は、下側のプレキャストコンクリート構造体に上側のプレキャストコンクリート構造体を載せ、構造体の接続の間に鉄筋を接合する工程を説明する。この操作は特に目新しいものでないが、鍛造製スリーブであっても、従前の例えば図12に示した鋳造製スリーブ、すなわち、周壁10にグラウト注入用筒部48やエア排出用筒部49が一体成形されているものと同様に構築できることを示している。まず、スリーブと鉄筋とは、図6(a)に示したように摩擦圧接品23とされ、そのスリーブ1のグラウト注入口12やエア排出口13に、グラウト注入用筒体15やエア排出用筒体16となる樹脂製アダプタ17,17が装着される。
【0031】
これが多数準備され、図7の(a)に示すように、スリーブ1を下にして鉄筋を2を立て(図示は2本)、周囲の所定位置に型枠(図示せず)を配置して所定形状の構造体22とすべく空間を画成する。その型枠に小さな窓があけられ、基端部がアダプタ17に挿入されるとともに開口に仮栓(図示せず)の施された連通用パイプ14が臨まされる。グラウトが直接的に注入されるスリーブ1Aには、グラウト注入口12に連通用パイプ14が接続されるが、グラウトが間接的に充填されるスリーブ1Bのグラウト注入口12には、コンクリートモルタルが打設される前に盲蓋24があてがわれる。
【0032】
鉄筋2とスリーブ1との接続部には何らの隙間も存在しないから、モルタル打設時にモルタルやそのシルト等がスリーブ1の内部空間9に進入することはあり得ない。内部空間は成形当時の原形をとどめるので、建築現場でグラウトを注入する際の流動障害をきたしたすことはなく、所定量充填されたグラウトの固化により所望する接合強度を発揮させることができるようになる。
【0033】
図7(b)に示すように、下側のプレキャストコンクリート構造体22Lに上側のプレキャストコンクリート構造体22Uがクレーン等によって降ろされ、各鉄筋4の上端がスリーブ1の開口25に臨まされる。構造体22Uがさらに降ろされ、図8に示すように目地26の周囲に配置されたスペーサ兼パッキン27に載せられる。この例では上記したようにグラウトが間接的に充填されるスリーブ1Bもあるので、敷きモルタルは施されず、目地におけるグラウト3の流動スペースが確保される。グラウトは高強度無収縮モルタルや有機グラウト剤といったものが使用されるが、それらに限られるものでない。
【0034】
注入用プラグ28、連通用パイプ14、グラウト注入用筒体15、グラウト注入口12を経てスリーブ1の内部空間9に進入したグラウト3は、図中の破線の経路29を破線矢印方向にたどって内部空間9を充満させ、余剰分が滞留空気を押し出しながらエア排出口13に至り、エア排出用筒体16、連通用パイプ14を経て構造体22Uの外へ排出される。溢流グラウト30が確認されれば、スリーブ1への完全充填が果たされ、他の連通用パイプ14からの溢流グラウト31の有無も調べられる。なお、図示しないが、エア排出口13に連なる連通用パイプ14の開口に、排気を許容するがグラウトの溢流を阻止するプラグ(図示せず)が取り付けられるなどすれば、グラウトの節約が図られる。
【0035】
ちなみに、アダプタ17はグラウト注入口12やエア排出口13に嵌め殺し状態にあって、そのグラウト注入用筒体15、エア排出用筒体16は連通用パイプ14とともに構造体22に残置される。その中でグラウトが残留して固化するが、構造体22の強度には何らの影響を及ぼすものでない。
【0036】
以上はポストグラウト工法の例で述べたが、図6の(b)のごとき、エア排出用筒体16を備えるもののグラウト注入用筒体を持たないスリーブ1Mとすることもできる。このスリーブの場合、図9に示すように、グラウト注入口に相当するものは、鉄筋が挿入される前の段階におけるスリーブ1Mの一端側の開口25が充てられる。このプレグラウト工法の例ではスリーブが構造体の上端部縁で開口するので、グラウトが自重によって内部空間へ充填され、挿入される第二鉄筋4の降下中にグラウト3が内部空間9Aで攪拌・押圧・拡散され、押し込まれた空気が後追いするグラウトによりエア排出口13、エア排出用筒体16、連通用パイプ14をたどって排出される。内部空間9Aからは鉄筋が排除したグラウトの一部が溢れ出るが、構造体同士は目地26に配された敷きモルタル32の固化によっても結合される。
【0037】
上で述べた鍛造製のスリーブ1では、その周壁10に開口座11が設けられてグラウト注入口12やエア排出口13を開口させるが、周壁10から突出するようなグラウト注入用筒部やエア排出用筒部を一体造形しないようにしているから(図3の(a),(b)を参照)、また、図6の(b)に示したスリーブ1Mではエア排出口13だけを開口させるが、周壁10から突出するようなエア排出用筒部を一体造形しないから、スリーブの鍛造品化が容易に図られる。以上はスリーブを鍛造製として説明したが、その一方、鋳鉄製や鋳鋼製であっても摩擦圧接を適用することができる。なお、スリーブを鋳鉄製や鋳鋼製とする場合、グラウト注入用筒部48(例えば図12を参照)やエア排出用筒部49を一体に成形することは容易であるから、その場合には上記したアダプタを要しないが、開口座のみを形成させるにとどめる場合には、アダプタを使用して連通用パイプとの接続を図ることは差し支えない。
【0038】
アダプタの有無に関係なく、スリーブを鉄筋と摩擦圧接可能な鉄系造形品とすれば、高価なねじ節鉄筋に代えて安価な竹節鉄筋などの異形棒鋼を採用しても、鉄筋とスリーブとの接続部における打設コンクリートモルタルの進入を完全に阻止しておくことができる。ちなみに、鋳鉄製スリーブは安価であり、鋳鋼製は破壊強度が上がり、鍛造製は高強度品となるにもかかわらず大量産化が図られ、鉄筋継手の著しい低廉化を促進する。
【0039】
以上の説明は、プレキャストコンクリートパネルやプレキャストコンクリートコラムなど鉄筋が上下方向に埋設されている構造体の接続を対象にした。ところで、本件発明に係る一端側開口型スリーブによる鉄筋継手構造は、プレキャストコンクリートビームなどの横方向に補強筋が埋設されている構造体を左右に接続する場合も適用することができる。いずれも、エア排出口はスリーブ内部空間の可及的に奥まった箇所に設置され、グラウトによる残留空気排除の完全化が目される。
【0040】
この横繋ぎの例は、図10と図11に示される。図10は梁材を横側面の外から見たもので、コンクリート47の内部に破線で示した摩擦圧接品23が埋設されている。例えば下側のスリーブ1Aのエア排出口13に連なる連通用パイプ14の端口14aは構造体22LTの側壁面にあけられており、上側のスリーブ1Bのエア排出口13に連なる連通用パイプ14の端口14bは構造体22LTの上面にあけられている。下側のスリーブ1Aのグラウト注入口12に連なる連通用パイプ14の端口14cは側壁面にあき、そこに注入用プラグ28が取り付けられ、これにグラウト供給ホース33が繋がれる。
【0041】
図11は、注入用プラグ28からのグラウト3をスリーブ1Aの内部空間9、連通用パイプ14、目地26を介した他のスリーブ1Bの内部空間9や連通用パイプ14に充満させている様子である。溢流グラウト30,31が生じた時点で残余空気のないことを知ることができる。目地26も連通用パイプ14と同様に上端から溢れることにより、充満されていることが確認される。
【0042】
横繋ぎの場合、通常両端側開口型スリーブによる鉄筋継手を使用し、一方の構造体から突出させた鉄筋に予め被せたスリーブを他方の構造体から突出させた鉄筋に跨がらせるべく、構造体間には少なくともスリーブの1.5倍の長さを持つスペースをあけておく必要がある(例えば特開2008−63729の図9を参照)。この長さが40センチメートルとすると、上記した目地が2〜3センチメートル幅である場合とは比べようもない大きいスペースであることが分かる。この空間は鉄筋がスリーブを介して接合された後に型枠で覆われ、コンクリートが打設されて構造体が接続される。
【0043】
一方、図11に示したように、一端側開口型スリーブによる鉄筋継手を使用すれば、目地の容積が著しく小さいこと、目地埋めと鉄筋の接合作業とが同時に行われることから、工事現場での消費工数は激減する。この画期的な工法において、全てエア排出口に連なる連通用パイプの端口からのグラウト漏出がある前に目地からグラウトが溢れるようであれば、その時点で目地蓋を施せばよい。グラウト注入は下のスリーブから行わなければならないというものでないが、目地底でのグラウト充満性を上げるためには、目地底近くへの棒体挿入とそれによる気泡追い出し操作を、目地の充満が浅い時点で行うことができるようにしておくため、下のスリーブから注入するようにしておくのが都合よい。
【0044】
以上の詳細な説明から分かるように、スリーブを鉄系造形品としておき、第一鉄筋を挿入するため開口するスリーブの一端側とは反対の他端側に、スリーブ外径より小さく鉄筋の外径以上の直径を持つ中実部を形成させておくから、この中実部と鉄筋の端面とを突き合わせた状態で回転させて摩擦圧接することにより、圧接バリを肥大化させることなくスリーブと鉄筋とを強固に予め一体化しておくことができる。
【0045】
周壁の開口座に、グラウト注入用筒体またはエア排出用筒体を形成してスリーブから突設される樹脂製アダプタを、スリーブと鉄筋との摩擦圧接後に着座させるので、成形時周壁に突出部を形成させるのが簡単でない鍛造製スリーブも、鉄筋継手用一端側開口型スリーブとして使用することができるようになる。それゆえ、プレキャストコンクリート構造体に適用するための連通用パイプの取り付けも可能となり、グラウト注入用筒部やエア排出用筒部を一体成形することに難題の多い鍛造製スリーブも実用に供することができるようになる。これによって鉄筋の種類に制約が無くなるから、安価な竹節鉄筋などの採用で工事コストの低減に寄与させることができる。
【0046】
開口座に着座した後の外れを防止しておく抜け止め爪が、アダプタの挿入側端に設けられグラウト注入口やエア排出口と略同径の外径を持つ筒状首部の先端に形成される。その筒壁には軸方向へ延びるスリットが複数形成されるから、抜け止め爪がグラウト注入口やエア排出口を通過する際に爪輪が縮径しまた通過後は復径し、アダプタがグラウト注入口やエア排出口に確実に係止される。周壁から突出するグラウト注入用筒部やエア排出用筒部を一体造形させえない鍛造製スリーブでも、グラウト注入口やエア排出口に連なる連通用パイプの接続が可能となって、プレキャストコンクリート構造体への新種スリーブの導入の途が拓かれる。
【符号の説明】
【0047】
1,1A,1B,1M…スリーブ、2…第一鉄筋、3…グラウト、4…第二鉄筋、5…鉄筋継手、6…中実部、7,8…圧接バリ、10…周壁、11…開口座、12…グラウト注入口、13…エア排出口、15…グラウト注入用筒体、16…エア排出用筒体、17…アダプタ、18…筒状首部、19…抜け止め爪、20…爪輪、21…スリット、25…一端側の開口、48…グラウト注入用筒部、49…エア排出用筒部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スリーブの一端側が開口する一方、他端側が第一鉄筋と予め一体化され、スリーブに注入されたグラウトにより前記一端側から挿入された第二鉄筋を前記第一鉄筋と長手方向に対向させた状態で接合するようにしている鉄筋継手において、
前記スリーブは鉄系造形品であり、前記他端側にはスリーブ外径より小さく鉄筋の外径以上の直径を持つ中実部が形成され、
該中実部と第一鉄筋との一体化は、両者の突き合わせ部位での摩擦圧接によっていることを特徴とする一端側開口型スリーブによる鉄筋継手構造。
【請求項2】
前記鉄系造形品は鋳鉄製、鋳鋼製または鍛造製であることを特徴とする請求項1に記載された一端側開口型スリーブによる鉄筋継手構造。
【請求項3】
前記鉄系造形品の周壁には開口座が設けられてグラウト注入口やエア排出口を開口させるが、当該周壁から突出するようなグラウト注入用筒部やエア排出用筒部は一体造形されていないことを特徴とする請求項1または請求項2に記載された一端側開口型スリーブによる鉄筋継手構造。
【請求項4】
前記開口座には、グラウト注入用筒体またはエア排出用筒体を形成してスリーブ周壁に突設される樹脂製アダプタを、前記摩擦圧接処理後に着座させておくことを特徴とする請求項3に記載された一端側開口型スリーブによる鉄筋継手構造。
【請求項5】
前記アダプタには、開口座に着座した後の外れを防止しておく抜け止め爪が、該アダプタの挿入側に位置して前記グラウト注入口やエア排出口と略同径の外径を持つ筒状首部の先端に形成され、
該抜け止め爪が前記グラウト注入口やエア排出口を通過する際には爪輪が縮径し通過後は復径するように、前記筒状首部には軸方向へ延びるスリットが複数形成されていることを特徴とする請求項4に記載された一端側開口型スリーブによる鉄筋継手構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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