説明

一貫性放出特性を備えた揮発性物質含有組成物

キャリア、好ましくはポリエチレングリコール、及び少なくとも2つの構成成分である揮発性物質、及び1.0を超え3.0より低い疎水性指標を有する少なくとも1つのポリマーを含む、一貫性放出特性を備えた揮発性物質含有組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一貫性放出特性を備えた揮発性物質含有組成物、及び揮発性物質含有組成物から揮発性物質を一貫した方法で放出する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
揮発性物質含有組成物は様々な目的で使用される。そのような目的としては、室内又はその他の空間に、香料又は香り物質、殺虫剤、エアフレッシュナー、防臭剤、アロマコロジー、アロマセラピー、あるいは雰囲気の調整、緩和、若しくは他の方法で変える、又は環境を緩和する作用のある他のいずれかの物質のような揮発性物質を放出することが挙げられるが、これらに限定されない。
【0003】
このような目的に使用される既知の組成物にはいくつかの欠点がある。主な欠点の1つは、放出される揮発性物質の特性が時間と共に変わりうるという事実である。揮発性物質が複数の香料成分を有する場合、これによって全体的な香りに変化が生じる。一般的に、より揮発性の高い香料成分(「トップノート」及び「ミドルノート」と呼ばれる)は、揮発性の低いボトムノートより速く枯渇する。装置が香りをまだ放出しているのにもかかわらず、香りの特性が異なる(「ボトムノート」優位になる)ため、ユーザーにとって紛らわしい状況をもたらす。残念ながら、「ボトムノート」優位の香りは、全香料特性のように望ましいものでないことが多い。同一相対比で放出される全「ノート」を有し、それにより製品の耐用年数を通して同一の香りが生成されるのが望ましい。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
したがって、揮発性物質含有材料の耐用期間を通じて、揮発性構成成分の一貫した放出特性を提供する手段がいまだに求められている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、一貫性放出特性を備えた揮発性物質含有組成物、及び揮発性物質含有組成物から揮発性物質を一貫した方法で放出する方法に関するものである。本明細書にいくつかの非限定的な実施形態が記載されており、その各々は、発明そのもの、又は他の構成要素と共に、のいずれかで、発明を構成することができる。ある非限定的な実施形態では、揮発性物質含有組成物には、キャリア、少なくとも第1の構成成分と第2の構成成分を有する少なくとも1つの揮発性物質(前記第1の構成成分及び第2の構成成分は異なる蒸発速度を有している)、及び、疎水性指標が約1.0を超え約3.0より低い少なくとも1つのポリマーが含まれている。前記組成物には、組成物にエネルギーが与えられていない第1の状態と、組成物にエネルギーが与えられた第2の活性化状態がある。揮発性物質は、第1の状態の揮発性物質含有組成物から第1の濃度で放出され、また揮発性物質は、第2の状態の揮発性物質含有組成物から、より高い第2の濃度で放出される。揮発性物質含有組成物にもはやエネルギーが与えられなくなった場合、揮発性物質含有組成物が第1の状態に戻る。好ましくは組成物は、25℃、50%相対湿度(RH)において、揮発性物質を10mg/時間未満で放出する。
【0006】
揮発性物質の一貫性におい特性を持たせながら、大気中へ揮発性物質を放出する方法についても開示する。
他の多数の実施形態もまた可能であり、以下の詳細な説明に記載するものが挙げられるが、これらに限定されない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明は、一貫性放出特性を備えた揮発性物質含有組成物、及び揮発性物質含有組成物から揮発性物質を一貫した方法で放出する方法に関する。いくつかの非限定的な実施形態が、そのシステムのいくつかの構成要素として本明細書に記載されており、その各々は、それ自体で、又は他の構成要素と共に、のいずれかで発明を構成することができる。
【0008】
揮発性物質は、様々な施設で放出でき、その施設としては部屋、家屋、病院、事務所、劇場、ビルディングなど、又、同様に列車、地下鉄、自動車、航空機などのような様々な乗物が挙げられるが、これらに限定されない。
【0009】
本明細書で「揮発性物質」という用語を使用する時は、気化可能な物質を意味する。本明細書で「揮発性物質」、「芳香」、及び「香り」という用語を使用する時は、心地良い香り又は快い香りを含むが、これらには限定されず、ひいては殺虫剤、エアフレッシュナー、防臭剤、アロマコロジー、アロマセラピーとして機能する香り、あるいは空気を調整、緩和、若しくは他の方法で変える、又は周囲環境を変える働きをする他のいずれかの揮発性物質をも含む。但し、香料、芳香物質、及び香りは、1つ以上の揮発性物質で構成されることが多いということを理解すべきである(これらは、揮発性物質の集合体で構成される独特及び/又は個別のユニットを形成することがある)。
【0010】
本明細書で「キャリア」という用語を使用する時は、室温で固体であり、揮発性物質に加えて主成分である物質を意味する。好ましくはキャリアは、室温において柔軟な固体である。有用なキャリアとしては、ポリエチレングリコール、硬化ヒマシ油及び高鎖脂肪酸、特に炭素原子14以上の鎖長を有するものが挙げられる。
【0011】
本明細書で使用する「放出特性」という用語は、揮発性構成成分の混合物内における、個々の揮発性構成成分の相対蒸発速度を意味する。これらの揮発性構成成分は異なる揮発性、沸点、及び臭気検出閾値を有している。揮発性組成物が空気中に排出される場合、より高い揮発性を有する成分(「トップノート」と呼ばれる)は、より低い揮発性を有する成分(「ミドルノート」と呼ばれる)及び最も低い揮発性を有する成分(「ボトムノート」と呼ばれる)より速く揮発し、人の嗅覚に、より速く検出される成分である。これは、最初に香料が放出された後、長い時間の間に香料の特性を変化させ、全体としての香料の特性は次第により少ないトップノート及びより多くのボトムノートを含有するようになる。「一貫性放出特性」という用語は、当初の香料強度と特性に相当する感知可能な揮発性構成成分強度と特性が、当該製品の目的使用期間の大部分において維持されていると定義する。換言すれば、トップ、ミドル及びボトムノートの割合が、目的の使用期間中、比較的釣り合った状態を保つ組成物である。好ましくは、本発明のキャリアは、揮発性物質の放出特性に干渉しない。
【0012】
本明細書で使用する用語「疎水性指標」は、以下に従って割り出す。
ある分子の疎水性は、有機相及び水性(水)相間の分配係数(Pow)により定義する。この目的で一般に用いられる有機相はn−オクタノールである。便宜上、log(Pow)(又はcLog(P))を、有機化合物、及び香料原料の疎水性の順位付け及び比較のために使用することが多い。clog(P)値が高いほど、疎水性が高いことを意味し、逆もまた同様である。(図1参照)
【0013】
同様の方法を、ポリマー分子類に対して適用することができる。ポリエチレンのような、単一のモノマー部分の繰り返し単位から成るホモポリマー類、あるいは2つ又はそれ以上の構造的に異なる繰り返し部分から成るコポリマー類が、これらとなりうる。
【0014】
ポリマー類の疎水性は、当該ポリマーの個々の繰り返し単位の重量平均clog(P)を利用して推定する。この方法で推定したポリマー類の疎水性値を、本明細書で疎水性指標(PHI)と定義する。一例として、構造的に異なる3つの繰り返しモノマー部分(X、Y及びZ)を有するポリマーのPHIは、以下のように推定することができる。
【0015】
【数1】

式中、WXはモノマー部分Xの重量パーセントであり、WYはモノマー部分Yの重量パーセントであり、WZはモノマー部分Zの重量パーセントである。PXはモノマー部分Xの分配係数であり、PYはモノマー部分Yの分配係数であり、PZはモノマー部分Zの分配係数である。各モノマー部分の分配係数は、Kowによって定義する(上図1参照)。cLog(P)によって単純分子類の疎水性を定義するように、PHIによってポリマー類の疎水性を概算する。
【0016】
ポリマー疎水性指標(PHI)は、単純分子類に対するポリマーの親和性を概算するために用いられる概念である。ポリマーマトリックスへの香料の分配は、これらのcLog(P)及び対応するポリマーのPHIを用いて定性的に推定することができる。一般に、親和性(分配)が高いほど、香料成分がポリマー自体の疎水性値と同等の値を持つものと推測される。
【0017】
理論に制限されないが、香料成分のcLog(P)範囲と同程度のPHIを持つポリマー類は、より影響力が高いと考えられている。したがって、香料成分の揮発性がより高い部分(すなわち、香料成分のKI値が<1200)に対する親和性がより高いポリマー類を選択すると、香料成分の加温条件下での蒸発速度が抑制され、長期間のより緩慢な減衰率をもたらす。このことは、より一貫した香料提示という効果をもたらし、それ故、消費者による使用期間のうちのより長い期間に渡るにおい特性の一体性という効果をもたらす。
【0018】
コヴァッツインデックス(KI、又は保持指標)は、クロマトグラフ用カラム上への溶質類又は香料原料(PRM)類の選択的保持により定義する。主として、カラム固定相及び溶質類又はPRM類の性質により判断する。あるカラムシステムにおいて、PRMの極性、分子量、蒸気圧、沸点及び固定相の性質が、保持の程度を決定する。あるGCカラム上の検体の保持を系統的に表すために、コヴァッツインデックス(又は保持指標)と呼ばれる指標を定義する。コヴァッツインデックス(KI)は、カラム上の検体(又はPRM)の揮発特性と、同一カラム上のn−アルカン系の揮発特性との関係を位置づけたものである。用いられる典型的なカラムは、DB−5及びDB−1である。
【0019】
この定義により、ノルマルアルカンのKIを100n、nはn−アルカンの炭素原子数とする。図2より、これらが関連していることがわかる。
【0020】
この定義を用い、PRMのコヴァッツインデックスは、補正保持時間t’n及びt’Nをそれぞれ有する炭素原子数n及びNの2つのn−アルカンの間に、xが時間t’で溶出される場合、以下のように計算する。
【0021】
【数2】

【0022】
無極性〜わずかな極性であるGC固定相上では、PRM類のKIは、その相対揮発性と相関する。例えば、低いKIを有するPRM類は、高いKIを有するものよりも、より揮発性が高い傾向がある。対応するKI値でPRM類を順序づけると、気液分配システム内におけるPRM蒸発速度の良い比較となる。
【0023】
好ましい実施形態では、本発明で用いたポリマーは、約1.0を超え約3.0より低い疎水性指標を有する。より好ましくは、本発明で用いたポリマーは、約1.0を超え約2.5より低い疎水性指標を有する。さらにより好ましくは、約1.0を超え、約2.0より低い疎水性指標である。
【0024】
好ましいポリマー類として、ポリスチレン、複峰性ポリスチレン、ポリブタジエン、ポリ(メチルメタクリレート)、ポリウレタン、ポリウレタン及びロジン可塑剤のブレンド、及びこれらの混合物が挙げられる。より好ましくは、ポリマーはポリ(メチルメタクリレート)及びポリブタジエンである。
【0025】
好ましい実施形態では、組成物は、少なくとも約1重量%のポリマーを含む。より好ましくは組成物は、少なくとも約5重量%のポリマーを含む。さらにより好ましくは組成物は、少なくとも約10重量%のポリマーを含む。
【0026】
1つの非限定的実施形態において、揮発性物質含有組成物は、キャリア、少なくとも1つの揮発性物質、及び少なくとも1つのポリマーを含む。前記組成物には、組成物にエネルギーが与えられていない第1の状態と、組成物にエネルギーが与えられた第2の活性化状態がある。揮発性物質は、第1の状態の揮発性物質含有組成物から第1の濃度で放出され、また揮発性物質は、第2の状態の揮発性物質含有組成物から第2のより高い濃度で放出される。揮発性物質含有組成物にもはやエネルギーが与えられなくなった場合に、揮発性物質含有組成物が第1の状態に戻る。
【0027】
好ましくは組成物は、25℃、50%相対湿度(RH)において、揮発性物質を10mg/時間未満で放出する。より好ましくは組成物は、25℃、50%相対湿度(RH)において、揮発性物質を5mg/時間未満で放出する。さらにより好ましくは組成物は、25℃、50%相対湿度(RH)において、揮発性物質を1mg/時間未満で放出する。
【0028】
ある実施形態では、周囲環境に香りを分配するシステムは、1つ以上の香り又は芳香物質を含有する1つ以上の構成成分を含むものが提供され得る。こうした実施形態において、システムは、装置及び1つ以上の芳香物質含有製品又は「香り含有製品」のような分配装置を含むのが好ましく、それは芳香剤「カートリッジ」の形態で提供されてもよい。それぞれのカートリッジは、単一の揮発性組成物、又は異なる香り物質の組み合わせのような異なる揮発性物質の組み合わせを提供できる。特定の実施形態において、カートリッジのそれぞれは、例えばテーマ、経験、生理的効果、及び/又は治療的効果を送達する香りの集合体を提供する。
【0029】
本明細書において対象となる揮発性組成物は、いずれかの好適な形態で提供されることができる。一部の実施形態において、香りは、好適なキャリア上又はキャリア中に導入された香油のような香料を含む揮発性組成物によって提供される。キャリアは、固体、液体、ペースト、ゲル、ビーズ、カプセル、灯心(wicks)、香料を含浸させた又は含有する多孔質物質のようなキャリア物質、及びこれらの組み合わせのような非限定的な形態で提供できる。一部の実施形態では、キャリアは、室温(25℃(73°F)、50%RH)において柔軟な固体構造又はマトリックスの形態である組成物を形成するために、融解可能であり、キャリアに添加された香料成分を有することができる柔軟な固体の形態である。
【0030】
特定の実施形態では、揮発性組成物は、25℃において直径40mmのコーン・アンド・プレート形状を用いて、AR2000(米国デラウェア州ニューカースル(New Castle)のTAインスツルメンツ(TA instruments))のような回転レオメーターで100Paの剪断応力にて測定する場合に、約1Pa.s(1,000cP)〜約1,000Pa.s(1,000,000cP)又はそれ以上の粘度を有する。このような組成物は、少なくとも約13Pa.s(約13,000Cps)までゲルとして存在できる。特定の実施形態において、組成物が柔軟な固体の形態である場合、組成物は約100〜約1,000Pa.s(約100,000〜約1,000,000Cps)の粘度を有することができる。
【0031】
ある非限定的な実施形態では、組成物は室温では、構造化されたポリマーの柔軟な固体である構造の形態である。構造は、均質(本明細書では「連続」と称されることもある)、又は非均質であってもよい。多くの実施形態において、構造がそこに含有される揮発性物質に対して浸透性であるのが望ましい。このことにより、構造がそこに含有される揮発性物質を所望される時に放出できる。このような実施形態の好ましい見解では、組成物は、多孔性でなく、均質で浸透性の構造化されたポリマーの柔軟な固体を含む。
【0032】
揮発性組成物は、多数の異なる様式で形成される。1つの実施形態では、組成物は、ポリエチレングリコール(又は「PEG」)のようなキャリアに揮発性成分を添加することによって製造できる。香料のような揮発性成分は、キャリアと混和性であるのが好ましく、冷却後室温において柔軟な固体様を形成する。PEGは種々の分子量のものが利用可能である。低分子量(又は「MW」)(例えば、400未満の分子量)を有するPEGは香料の溶媒として使用できるが、このようなPEGは室温で液体であり、使用はできるが、本明細書に記載の組成物に使用するのには好ましくない。より好ましい組成物の実施形態では、PEGのMWは約1,000以上、又は約4,000以上である。PEGのMWは、約8,000以上であるのが望ましい。PEGの分子量は、24,000程度大きくてもよく、それ以上でもよい。本明細書で記載される分子量は、全て重量平均分子量である。
【0033】
他の好適なキャリアは、硬化ヒマシ油及び高鎖脂肪酸、特に炭素原子14以上の鎖長を有するものである。特定の実施形態において、組成物の大部分が、こうしたキャリア及び揮発性成分(類)を含むのが望ましい。故にこうしたキャリア及び揮発性成分(類)は、組成物の約20重量%を超えるか、あるいは組成物の約50重量%を超えて含まれてもよい。特定の実施形態において、組成物(及び/又はキャリア)がまた、HPC(ヒドロキシプロピルセルロース)を実質的に含まないのが望ましい場合もある。
【0034】
キャリアと共に構造化剤を利用することが望ましい場合がある。構造化剤は、いかなる好適な目的のためにも使用できる。こうした目的の例としては、より大きな安定性をもつ組成物によって形成される構造を提供することが挙げられるが、これらに限定されない。構造化剤は、構造が低温(例えば、周囲又は保存又は搬送温度)にて揮発性物質(類)を放出する傾向を低減できる。故に揮発性物質(類)は、揮発性物質(類)を放出するためにエネルギーが構造に加えられるまで放出されない。いかなる好適な構造化剤にも使用できる。好適な構造化剤は、二価の陽イオンを含むいずれかの物質を含む。二価の陽イオンを含む物質としては、マグネシウム及び塩化カルシウム、マグネシウム及び炭酸カルシウムのようなマグネシウム含有分子及びカルシウム含有分子が挙げられるが、これらに限定されない。他の好適な構造化剤としては、ヒマシ油誘導体が挙げられるが、これらに限定されず、ヒマシ油誘導体には硬化ヒマシ油が挙げられるが、これらに限定されない。
【0035】
また、組成物が少なくとも1つのワックスを含むのが望ましい場合がある。ワックスは、いかなる好適な目的のためにも使用でき、そのような目的としては、改善された安定性のために組成物によって形成される構造の融解温度を上昇させることが挙げられるが、これらに限定されない。いかなる好適なワックス(類)をも使用することができる。特定の実施形態において、ワックスがキャリアの融解温度より高い融解温度を有するのが望ましい。キャリアがPEGである場合、ワックスの融点は、例えば約50℃を超えてもよい。好適なワックスとしては、キャリアの誘導体であるワックス、例えばPEG誘導体が挙げられるが、これらに限定されない。キャリアの誘導体であるワックスは、キャリアを構造化でき、構造化剤が全体のマトリックスの融点をさらに上昇させるために、ワックスも構造化できるので、好ましい場合がある。ワックスは、揮発性物質の放出速度又は送達に影響を及ぼさないように揮発性物質に対して親和性をもたないことが望ましい場合がある。
【0036】
ある実施形態では、組成物は、ポリエチレングリコール(又は「PEG」)、硬化ヒマシ油、低濃度の少なくとも1つのワックス、少なくとも1つの揮発性成分、及び、約1.0を超え、約3.0より低い疎水性指標を有する少なくとも1つのポリマーの組み合わせにより形成されている。
【0037】
揮発性成分(類)は、多数の構成成分又は組成物を含むことができ、それらとしては、芳香剤(又は香油)、フレーバ、殺虫剤、防虫剤、又はこれらの混合物が挙げられるが、これらに限定されない。
【0038】
揮発性成分(類)は、いかなる好適な様式にてもキャリア物質と組み合わせることができる。揮発性成分(類)をキャリア物質と組み合わせることができるいくつかの好適な様式としては、捕捉によるもの、揮発性成分(類)がキャリア物質に溶解されるもの、揮発性成分(類)をキャリア物質に部分的に又は完全にカプセル化できるものが挙げられるが、これらに限定されない。
【0039】
組成物の構成成分は、どの好適な量でも組成物に組み込むことができる。一部の実施形態では、揮発性物質(類)の濃度が組成物の約5%を超えるのが望ましい場合がある。揮発性物質(類)の濃度が組成物の約10%を超えるのがより好ましい。一部の実施形態では、香料成分のような揮発性物質(類)の濃度は、組成物の約75%ほどに高いか、又はそれ以上であってもよい。他の実施形態において、揮発性物質(類)の量は、組成物の約25%〜約75%であってもよい。キャリア(例えばポリエチレングリコール)は、組成物の残部を構成してもよい。一部の実施形態において、キャリアは約25%〜約75%、又はそれ以上の範囲であることができる。代替実施形態において、キャリアはこの範囲未満の量で存在してもよい。構造化剤(例えば、硬化ヒマシ油)の濃度は、約0〜約15%、20%、30%、40%、又はそれ以上の範囲であってもよい。ワックスの濃度は、約0〜約3%、5%、又はそれ以上の範囲であることができる。本明細書で示される百分率は全て、特に指定しない限り組成物に対する重量による。構成成分の量は、通常、それらが全部で100%となるように選択されている。しかし、他の構成成分を組成物に添加することも可能であり、その場合、キャリア、揮発性物質(類)、構造化剤、及びワックスのような構成成分の重量は全部で組成物の100%未満であってもよい。
【0040】
組成物を含む構造(又はマトリックス)は、熱誘発ないしは別の方法でエネルギーが適用されて、揮発性物質(類)を放出できる。このような構造は、構造が加熱される温度によって、種々の異なる状態の間を推移できる。例えば、一部の実施形態において、組成物は、個体、ゲル、液体、及びこれらの混合物のどの相であってもよい。組成物の各相は、異なる揮発特性を提供できる。香り物質の場合、その物質としては、異なる揮発速度、強度、香り特性、放出特性などが挙げられる。一部の実施形態において、組成物状態の変化は、より固体に近い状態に戻る又は向かうように変化できるという点において可逆性である。一部の実施形態において、組成物の構成成分の割合を制御することによって組成物の形態又は状態を固体様からゲル様に変化させることができる。例えば、組成物は、硬化ヒマシ油のような追加の構造化剤を添加することによって、より固体ではない状態及びよりゲル様になる。構造の可逆性の液化/ゲル化/固化は、揮発性物質の放出を調節又は制御するために使用できる。大抵の組成物において、芳香剤組成物の場合、低温ではより揮発性の高い香料成分(「トップノート」)が最初に揮発する。本明細書に記載される組成物の特定実施形態の場合では、組成物がその融点を超えて(それが液体になるまで)加熱される場合、物質の構成成分の全てが揮発性の高い香料構成成分(「トップノート」)から揮発性の低いもの(「ボトムノート」)まで所望の温度及び時間にて同じ強度で放出されるので、揮発性組成物の知覚は、揮発性物質の特性、香り、フレーバなどの所望のエッセンスに関して忠実である。故に特定の実施形態において、長期間にわたって揮発性物質組成物と特性/濃度の一貫性の分配が最小限である。本明細書に設定される例の場合、マトリックスの融点は約52℃である。エネルギーがもはや適用されない場合、構造は、揮発性物質の発散傾向を低減するワックス様の固体状態又は柔軟な固体に戻る。
【0041】
特定の実施形態において、組成物がキャリアの融点を超える温度に加熱されるのが望ましい。香料成分の添加により、通常、組成物の融解温度が低下する。香料成分が揮発される時、組成物の残りの部分の融解温度が高くなる。常に組成物がキャリアの融解温度を超える温度まで加熱される場合、このことが、組成物から揮発性構成成分を放出するために常に十分なエネルギーを組成物に提供する。
【0042】
組成物は特定の利点を提供できる。しかし、この点に関して、組成物は、添付の特許請求の範囲に記載されない限り、こうした利点のいずれも提供する必要はないことを理解すべきである。一部の実施形態において、芳香剤組成物の場合、組成物はより長く持続する芳香を放出できる。例えば、揮発性物質を含有するために以前使用されていた特定ゲルは、加熱されなくても、ないしは別の方法でエネルギーを加えられなくても揮発性の高い香料構成成分を放出する。これは、こうした組成物の寿命を縮め、組成物が加熱される場合に放出される香料の特性に影響を及ぼす。一部の実施形態において、揮発性物質(類)が放出されることを意図しない期間中、一部の他の組成物よりも良好に揮発性物質を保持できる。一部の実施形態において、組成物は配置される容器の材料(「支持材料」と称される場合がある)とより適合性であることができる。多くの場合、香油はプラスチックと適合性がない。しかし、香油が本明細書に記載の組成物に組み込まれる場合、組成物はプラスチック材料とより適合性があることができる。いかなる特定の理論に制限されるものではないが、本明細書に記載される揮発性物質含有組成物は、ウィッキングとして知られる現象である組成物からの香油の移動を低減または排除するために、香油の表面張力より大きい表面張力を有すると考えられている。一部の実施形態では、組成物は、20mN/m(20ダイン/cm)より高く、25mN/m(25ダイン/cm)より低い表面張力を有する。一部の実施形態において、組成物は高温(例えば、約50℃(120°F)まで)及び/又は高湿度(例えば、約80%RHまで、又は約80%RH以上)にて、さらに揮発性物質濃度が高い場合でさえも良好な安定性を有する。すなわち、組成物はこうした条件下では形状又は物理的状態の変化はしない。特定の実施形態において、湿気のような水を吸収する場合でさえも、組成物は物理的状態の変化をしない(例えば、より液体になることがない)構造を提供する。
【0043】
組成物はまた、一部の実施形態において、比較的高濃度の揮発性物質(例えば、組成物の約25重量%〜約75重量%)を含有できうる点でも有利な場合がある。組成物はまた、多数の、範囲、スペクトル(又はポートフォリオ)の異なる揮発性物質を組み込むことができる。これは、構造化剤(例えば、硬化ヒマシ油)の濃度を調整することにより、キャリアの極性を揮発性物質の極性に合わせるように変更する/調整する能力によって可能となる。例えば、本明細書に記載の組成物の場合、揮発性物質(類)の極性は、約2〜約5デバイの範囲であることができるが、組成物は広い範囲の保存条件下でなおも安定であることができる。このことにより、組成物に組み込むのに通常適合性のない香料の組み合わせが可能になる(例えば、非常に極性が高いバニラ、コーヒー、桂皮を、果実(例えば、レモン)又は極性スペクトルの他方の末端にある他の種類の香料成分と組み合わせることができる)。さらに、揮発性物質(類)を組み込む組成物の構造は可逆性であってもよい(すなわち、より固体の状態(例えば柔軟な固体)から、より液体の状態に変換され、次いでより固体の状態に戻ることができる)。このことにより、取り扱い性、保存性及び加工性に有利な組成物を提供できる。可逆性という用語は、組成物の物理的状態の変化に対して使用し、その初期条件に戻る性能に対しては使用しない。当然のことながら、使用中に放出又は消失する揮発性構成成分量は、非可逆性プロセスである。
【0044】
ある好ましい実施形態では、本発明の揮発性物質は、少なくとも第1の構成成分と第2の構成成分を含む。より好ましくは、3つ以上の構成成分を含む。これらの構成成分のうち少なくとも2つは、好ましくは異なる蒸発速度を持つ。好ましくは揮発性物質は、少なくとも約10重量%の第1の構成成分を含む。より好ましくは揮発性物質は、少なくとも約20重量%の第1の構成成分を含む。好ましくは揮発性物質は、少なくとも約10重量%の第2の構成成分を含む。より好ましくは揮発性物質は、少なくとも約20重量%の第2の構成成分を含む。好ましくは第1の構成成分は、約250℃以下の沸点及び約3以下のClogPを有する。また、第2の構成成分は好ましくは、約250℃以下の沸点及び約3以上のClogPを有する。
【0045】
別の好ましい実施形態では、揮発性物質は、約250℃以上の沸点及び約3以下のClogP値を有する、少なくとも約5重量%の成分を含む。より好ましくは、少なくとも約10重量%のこれらの成分を含む。
【0046】
本発明の1つの実施形態では、揮発性物質の一貫性におい特性を持たせながら、環境へ揮発性物質を放出する方法について提示する。前記方法には、キャリアと、前記キャリア内への混和性を有する少なくとも1つの揮発性物質であって、少なくとも第1の構成成分と第2の構成成分を有し、前記第1の構成成分及び第2の構成成分は異なる蒸発速度を有している揮発性物質と、前記キャリア内への混和性を有し、疎水性指標が約1.0を超え約3.0より低い少なくとも1つのポリマーを含む揮発性物質含有組成物の提供が含まれる。組成物は、キャリアの融解温度よりも低い融解温度を有する。組成物には、組成物にエネルギーが与えられていない第1の状態と、組成物にエネルギーが与えられた第2の活性化状態がある。揮発性物質含有組成物がキャリアの融解温度を超える温度まで加熱されると、その結果、揮発性物質の一部が加熱により蒸発する。好ましくは、揮発性物質含有組成物にもはや熱が加えられなくなった場合に、組成物が第1の状態に戻る。
【実施例】
【0047】
表1は、本明細書の記載に従って製造できる香り組成物のいくつかの非限定的な例を示している。
【0048】
【表1】

【0049】
本記述全体にわたって言及した全ての特許、特許出願(及びそれに基づいて発行された特許及びいかなる関連して発行された外国特許出願)、並びに公開公告の開示内容を本明細書に参考として組み込む。但し、本明細書に参考として組み込まれる文献のいずれもが本発明を教示又は開示していないことを明言する。
【0050】
本明細書全体を通じて記載されるあらゆる最大数値限定には、それよりも小さいあらゆる数値限定も、本明細書に明確に記載されたものとして含まれることを理解すべきである。本明細書を通じて与えられるあらゆる最小数の限定は、あらゆるより大きい数値の限定を、あたかもそのようなより大きい数値の限定がここに明確に書かれているかのように含む。本明細書を通じて与えられるあらゆる数値の範囲は、そのようなより広い数値の範囲に入る、あらゆるより狭い数値の範囲を、あたかもそのようなより狭い数値の範囲がすべてここに明確に書かれているかのように含む。
【0051】
本発明の特定の実施形態について記載したが、本発明の精神及び範囲から逸脱することなく本発明の様々な変更及び修正を実施できることが当業者には明らかである。更に、本発明をある特定の実施形態と関連させて説明してきたが、これは説明を目的とするものであって、限定を目的とするものではなく、本発明の範囲は、添付の請求項によって定義され、請求項は従来技術が可能にするのと同様に幅広く考えられるべきであることを理解すべきである。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】有機相−水相間の分配図。
【図2】GCカラム上のn−アルカンのコヴァッツインデックス。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
揮発性物質含有組成物であって、
キャリア、
少なくとも第1の構成成分と第2の構成成分を有する少なくとも1つの揮発性物質であって、前記第1の構成成分及び第2の構成成分が異なる蒸発速度を有する揮発性物質、及び
約1.0を超え約3.0より低い疎水性指標を有する少なくとも1つのポリマー
を含み、
前記組成物に第1の非活性化状態と第2の活性化状態があり、前記揮発性物質が前記揮発性物質含有組成物から、前記第1の状態において第1の濃度で放出され、前記第2の状態において、より高い第2の濃度で放出され、もはやエネルギーが与えられなくなった場合に、前記揮発性物質含有組成物が前記第1の状態に戻り、前記組成物が25℃、50%相対湿度(RH)において、前記揮発性物質を10mg/時間未満で放出する揮発性物質含有組成物。
【請求項2】
前記キャリアの疎水性指標が約1.0未満であり、前記キャリアが前記少なくとも1つの揮発性物質の放出特性に干渉しない請求項1に記載の揮発性物質含有組成物。
【請求項3】
前記少なくとも1つの揮発性物質が、香油、フレーバ、殺虫剤、防虫剤、及びこれらの混合物から成る群から選択される請求項1に記載の揮発性物質含有組成物。
【請求項4】
前記ポリマーがポリスチレン、複峰性ポリスチレン、ポリブタジエン、ポリ(メチルメタクリレート)、ポリウレタン、ポリウレタン及びロジン可塑剤のブレンド、及びこれらの混合物から成る群から選択される請求項1に記載の揮発性物質含有組成物。
【請求項5】
前記ポリマーが、ポリ(メチルメタクリレート)、ポリブタジエン、及びこれらの混合物から成る群から選択される請求項1に記載の揮発性物質含有組成物。
【請求項6】
前記揮発性物質が
(a)約250℃以下の沸点及び約3以下のClogPを有する、少なくとも約10重量%の第1の構成成分、及び
(b)約250℃以下の沸点及び約3以上のClogPを有する、少なくとも約10重量%の第2の構成成分
を含む請求項1に記載の揮発性物質含有組成物。
【請求項7】
前記揮発性物質が
(a)少なくとも約20重量%の前記第1の構成成分、及び
(b)少なくとも約20重量%の前記第2の構成成分
を含む請求項6に記載の揮発性物質含有組成物。
【請求項8】
前記揮発性物質が、約250℃以下の沸点及び約3以下のClogP値を有する少なくとも約10重量%の揮発性成分を含む請求項1に記載の揮発性物質含有組成物。
【請求項9】
前記揮発性物質が、約250℃以下の沸点及び約3以上のClogP値を有する少なくとも約10重量%の揮発性成分を含む請求項1に記載の揮発性物質含有組成物。
【請求項10】
前記揮発性物質が、約250℃以上の沸点及び約3以下のClogP値を有する少なくとも約5重量%の成分を含む請求項1に記載の揮発性物質含有組成物。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2008−509798(P2008−509798A)
【公表日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−528091(P2007−528091)
【出願日】平成17年8月19日(2005.8.19)
【国際出願番号】PCT/US2005/029794
【国際公開番号】WO2006/023858
【国際公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【出願人】(590005058)ザ プロクター アンド ギャンブル カンパニー (2,280)
【Fターム(参考)】