説明

一軸偏心ネジポンプおよび流体モータ

【課題】高精度でしかも高速回転が可能な小型の一軸偏心ネジポンプおよび流体モータを提供する。
【解決手段】雌ネジ型ステータ20はペリトロコイド曲線により規定される内周面を有するとともに、雄ネジ型ロータ30は雌ネジ型ステータ20の内周面に内接する仮想正三角形の各辺を内周面側に膨らませた3つの曲線を外形としている。そして、雌ネジ型ステータ20および雄ネジ型ロータ30が延設される軸方向Xに直交する断面において、雄ネジ型ロータ30の3つの頂点が雌ネジ型ステータ20の内周面に内接しながら雄ネジ型ロータ30が雌ネジ型ステータ20に対して偏心して回転自在となっている。このように、雄ネジ型ロータ30は正三角形の各辺を内周面側に膨らませた略三角形断面を有しており、雄ネジ型ロータ30の剛性が高められている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、気体、液体、粉体等の各種流体を送り出す一軸偏心ネジポンプおよび加圧された流体(以下「加圧流体」という)により作動する流体モータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一軸偏心ネジポンプは、例えば特許文献1に記載されているように、流体の送出方向に延設された雄ネジ型ロータを、同一方向に延設される雌ネジ型ステータに嵌挿し、当該雌ネジ型ステータに対して相対的に偏心回転させることで流体を送り出すものであり、従来より広く使用されている。雌ネジ型ステータはフッ素ゴムなどの弾性部材で構成されており、送出方向に直交する、いずれの断面においても長円形状となっている内周面を有している。一方、雄ネジ型ロータはステンレスなどの金属材料で構成されており、送出方向に直交する各断面は円形形状を有している。そして、雌ネジ型ステータのキャビティに対して雄ネジ型ロータが所定の偏心量で回転することでポンプとして機能する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第5120204号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来より使用されている一軸偏心ネジポンプのロータは蛇のような形状を有しているため、部品剛性が低く、高精度化や小型化に限界があり、しかも高速回転も困難であった。
【0005】
また、一軸偏心ネジポンプは回転エネルギーを圧力エネルギーに変換する機能を有しているが、上記一軸偏心ネジポンプと同じ基本構造により流体モータを構成することができる。つまり、雌ネジ型ステータ内に加圧流体を流入させることで雄ネジ型ロータを雌ネジ型ステータ内で回転させ、圧力エネルギーを回転エネルギーに変換することができる。ただし、従来の一軸偏心ネジポンプと同じ基本構造を有するが故に、同様の問題、つまり雄ネジ型ロータの剛性が低いために、流体モータの高精度化、高速回転化および小型化が困難であった。
【0006】
この発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、高精度でしかも高速回転が可能な小型の一軸偏心ネジポンプおよび流体モータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明にかかる一軸偏心ネジポンプは、上記目的を達成するため、ペリトロコイド曲線により規定される内周面を有する雌ネジ型ステータと、前記雌ネジ型ステータの内周面に内接する仮想正三角形の各辺を内周面側に膨らませた3つの曲線を外形とする雄ネジ型ロータとを備え、雌ネジ型ステータおよび雄ネジ型ロータはともに流体の送出方向に延設され、送出方向に対して直交する各断面で、雄ネジ型ロータの3つの頂点が雌ネジ型ステータの内周面に内接しながら雄ネジ型ロータが雌ネジ型ステータに対して相対的に偏心回転して流体を送り出すことを特徴としている。
【0008】
このように構成された発明は、雌ネジ型ステータに対して雄ネジ型ロータが相対的に偏心回転して流体を送り出すという点では、特許文献1に記載の一軸偏心ネジポンプと同一であるが、雌ネジ型ステータおよび雄ネジ型ロータは従来にはない特有の形状を有している。すなわち、雌ネジ型ステータはペリトロコイド曲線により規定される内周面を有するとともに、雄ネジ型ロータは雌ネジ型ステータの内周面に内接する仮想正三角形の各辺を内周面側に膨らませた3つの曲線を外形としている。そして、雌ネジ型ステータおよび雄ネジ型ロータが延設される送出方向に直交する断面において、雄ネジ型ロータの3つの頂点が雌ネジ型ステータの内周面に内接しながら雄ネジ型ロータが雌ネジ型ステータに対して偏心して回転自在となっている。このように、雄ネジ型ロータは正三角形の各辺を内周面側に膨らませた略三角形断面を有しており、雄ネジ型ロータの剛性が円形断面を有する従来例に比べて高められ、一軸偏心ネジポンプの高精度化、高回転化、小型化を可能としている。
【0009】
このように構成された雌ネジ型ステータでは、送出方向に対して直交する各断面において雌ネジ型ステータの内周面で囲まれる内部空間は繭型形状となる。そこで、雄ネジ型ロータの外形を規定する各曲線の中央部を内周面側と反対の側に湾曲させて繭型形状の短軸近傍で雌ネジ型ステータの内周面と干渉するのを防止するのが望ましい。
【0010】
また、後述する理由から、雌ネジ型ステータの雌ネジピッチと、雄ネジ型ロータの雄ネジピッチとの比が、2:3となるように構成するのが望ましい。さらに、雌ネジ型ステータの送出方向の長さが少なくとも雌ネジ型ステータの雌ネジピッチの2倍以上であり、雄ネジ型ロータの送出方向の長さが少なくとも雄ネジ型ロータの雄ネジピッチの(4/3)倍以上となるように構成するのが望ましい。これによりクローズドキャビティ型となり、漏れの無い定容積型の特性が得られてポンプ(あるいは、コンプレッサやディスペンサ)性能を向上させることができる。
【0011】
また、雄ネジ型ロータを中空ロータとすることで雄ネジ型ロータを軽量化してもよく、これによって回転速度をさらに高めることができる。
【0012】
また、雄ネジ型ロータに対してバランス重量を付加してもよく、これによって雄ネジ型ロータの高速回転時の振動を低減することができ、一軸偏心ネジポンプを安定して作動させることができる。
【0013】
また、この発明にかかる流体モータは、上記目的を達成するため、ペリトロコイド曲線により規定される内周面を有する雌ネジ型ステータと、雌ネジ型ステータの内周面に内接する仮想正三角形の各辺を内周面側に膨らませた3つの曲線を外形とする雄ネジ型ロータと、所定の回転軸を中心に回転自在に設けられる回転シャフトと、雄ネジ型ロータと回転シャフトとを連結して雄ネジ型ロータの回転力を回転シャフトに伝達する動力伝達機構とを備え、雌ネジ型ステータおよび雄ネジ型ロータはともに加圧流体の流動方向に延設され、流動方向に対して直交する各断面で、雄ネジ型ロータの3つの頂点が雌ネジ型ステータの内周面に内接しながら雌ネジ型ステータ内に流入する加圧流体によって雄ネジ型ロータが雌ネジ型ステータ内で偏心回転し、動力伝達機構は雄ネジ型ロータの偏心回転を回転シャフトの回転に変換しながら雄ネジ型ロータから回転シャフトへの動力伝達を行うことを特徴としている。
【0014】
このように構成された流体モータでは、上記一軸偏心ネジポンプと同様に、雄ネジ型ロータは正三角形の各辺を内周面側に膨らませた略三角形断面を有しており、雄ネジ型ロータの剛性が円形断面を有する従来例に比べて高められ、流体モータの高精度化、高回転化、小型化を可能としている。
【0015】
なお、回転軸が流動方向と平行になるように回転シャフトを設けてもよく、これによって加圧流体が有する圧力エネルギーを効率よく回転シャフトの回転エネルギーに変換することができる。
【発明の効果】
【0016】
以上のように、雄ネジ型ロータは、ペリトロコイド曲線により規定される雌ネジ型ステータの内周面に内接する仮想正三角形の各辺を内周面側に膨らませた3つの曲線を外形としているため、雄ネジ型ロータの剛性を高めることができ、高精度でしかも高速回転が可能な小型の一軸偏心ネジポンプおよび流体モータが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明にかかる一軸偏心ネジポンプの一実施形態を示す図である。
【図2】雌ネジ型ステータおよび雄ネジ型ロータの構成を示す斜視図である。
【図3】雌ネジ型ステータおよび雄ネジ型ロータの拡大断面図である。
【図4】送出方向に対して直交する断面におけるステータおよびロータの形状を示す図である。
【図5】ステータの内周面を規定する曲線および当該曲線の決定方法を示す図である。
【図6】雄ネジ型ロータの各部を示す図である。
【図7】図6に示す曲線を決定する方法を示す模式図である。
【図8】雄ネジ型ロータの外形を規定する曲線を示す図である。
【図9】図1に示す一軸偏心ネジポンプの動作を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1は、本発明にかかる一軸偏心ネジポンプの一実施形態を示す図である。この一軸偏心ネジポンプは、ケーシング11の後端側(同図の右手側)にケーシング12が連結されるとともに、ケーシング11の先端側(同図の左手側)に出口ガイド部13が取り付けられてポンプ本体10が形成されている。これらのうちケーシング11は流体を送り出す方向(以下「送出方向」という)Xに延設された中空管構造を有しており、その中空内部に雌ネジ型ステータ20が固定配置されている。また、雌ネジ型ステータ20に対して雄ネジ型ロータ30が偏心回転可能に嵌挿されており、駆動機構40によって雄ネジ型ロータ30を偏心回転させることで、ケーシング12のインレット部121を介してポンプ本体10の内部に流入してくる流体を送出方向Xに送り出し、出口ガイド部13より吐出する。なお、雌ネジ型ステータ20および雄ネジ型ロータ30が本発明の特徴部分であるため、それらの構成および動作については、後で詳述する。また、以下においては、雌ネジ型ステータ20および雄ネジ型ロータ30をそれぞれ単に「ステータ20」および「ロータ30」と称する。
【0019】
ケーシング12の内部に駆動機構40が設けられている。この駆動機構40では、図示を省略するモータに接続されるドライブシャフト41がX方向に延設され、ボールベアリング42によってケーシング12に対して回転自在に軸支されている。このドライブシャフト41の先端部には、フレキシブルジョイント43を介してカップリングロッド44と連結されている。さらに、カップリングロッド44の先端部はフレキシブルジョイント45を介してロータ30の後端部と連結されている。したがって、モータの作動によってドライブシャフト41が回転駆動されると、その回転駆動力がフレキシブルジョイント43、カップリングロッド44およびフレキシブルジョイント45を介してロータ30に伝達され、ロータ30が回転する。なお、本実施形態では、フレキシブルジョイント43とボールベアリング42との間にドライブシャフト41を軸径方向から取り囲むように封止部材46が設けられて液密領域を形成し、ポンプ本体10に流入してくる流体がボールベアリング42側に漏れるのを防止している。
【0020】
次に、図2ないし図9を参照しつつステータ20およびロータ30の構成および動作について説明する。図2は雌ネジ型ステータおよび雄ネジ型ロータの構成を示す斜視図であり、図3は雌ネジ型ステータおよび雄ネジ型ロータの拡大断面図である。また、図4は送出方向に対して直交する断面におけるステータおよびロータの形状を示す図である。本実施形態では、ステータ20はペリトロコイド曲線により規定される内周面21を有しており、送出方向Xに対して直交する各断面において内周面21で囲まれる空間22は図3に示すように繭型形状を有している。
【0021】
図5はステータの内周面を規定する曲線および当該曲線の決定方法を示す図である。本実施形態で使用する曲線は上記したようにペリトロコイド曲線であり、同図(a)に示すようにして決定される。つまり、半径を「1」とする基礎円O1と、それに内面が外接する円O2(半径r=1.5)と、円O2と一体的に設けられるエピトロコイド発生半径R(R=3.25)を設ける。そして、基礎円O1の位置を固定し、その周囲に円O2を滑ることなく転動させると、エピトロコイド発生半径Rの先端の描く曲線がステータ20の内周面21を規定する曲線(以下「ステータ内面曲線」という)23となる。すなわち、基礎円O1と円2との接点Pをθ=0゜から270゜まで動かした時、ステータ内面曲線23は同図(a)の黒丸印で示す曲線となる。それを左右上下対称にコピーすることで、同図(b)に示すように本実施形態で採用しているステータ内面曲線23となる。
【0022】
また、このステータ内面曲線23で規定される繭型の内周面21は、軸方向、つまり送出方向Xにねじれている。つまり、図3に示すように、ステータ20の後端部からの送出方向(+X)の距離に応じて傾いており、ステータピッチP20を有している。また、本実施形態では、ステータ20の軸方向(送出方向X)の長さはステータピッチP20の3倍となっている。なお、同図では、各断面における内周面21の長軸の傾きを理解し易くするために白丸を付し、長軸の傾きが−0゜、−90゜、−180゜および−270゜の場合の内周面21の断面形状を図示している。
【0023】
このように構成されたステータ20の内周面21で囲まれる内部空間22にロータ30が嵌挿されているが、そのロータ30の外形については、3つの曲線で規定することができる。図6は雄ネジ型ロータの外形を規定する曲線を示す図であり、図7は図6に示す曲線を決定する方法を示す模式図である。ロータ30の外形は図3、図4および図6に示すように、ステータ20の内部空間22内で内周面21に内接する仮想正三角形の各辺を内周面21側に膨らませた3つの曲線31を外形としており、一見すると、「ルーローの三角形」に類似した形状となっているが、繭型形状の短軸近傍でステータ20の内周面21と干渉するのを防止するために、各曲線31の中央部を内周面21側と反対の側(つまり回転中心側)に湾曲させており、送出方向Xに対して直交する断面におけるロータ30の形状は略ハート形となっている。より詳しくは、図7および図8に示すようにして曲線31は決定される。
【0024】
なお、以下の説明に関して、ポンプ全体の座標系からは、断面はYZ平面となるが、数式説明の便宜のため、これをXY平面として以下の説明を行う。ロータ30の当断面における中心(x2、y2)はθの関数として
【数1】

【0025】
で示すことができる。また、ステータ20の内周面21と短軸との交点の座標(x5′、y5′)は、
【数2】

【0026】
である。そして、当該座標(x2、y2)を中心としてθの関数として回転するロータ座標を基準として、上記座標(x5′、y5′)を求めると、次の座標(x5,y5)となる。
【数3】

【0027】
これは、回転角に関わらず、ステータ内面曲線23上の点(x5′、y5′)が常にロータ30と接触するためのロータ30の外形を表現する関数となる。また、上記と同様に、座標(x5′、y5′)の近傍の任意の点に関してもロータ30との接触を満足する必要があるため、上式の(x5′、y5′)の代わりに、角度ωを変数とするエピトロコイド曲線の関数を組み込むと、
【数4】

【0028】
が得られ、それを整理して
【数5】

【0029】
が得られる。この数5にて、各ω(0≦ω≦4π/5の範囲)に対する曲線を、θ(0≦θ≦π)の範囲で求め、それらのグラフを図示したものが図8であり、各座標値y5の値に対する最小の座標値x5の包絡線の関数(同図中の破線)を求めると、これが基本的にに本実施形態のロータ30の外形を示す曲線の一部となる。より具体的には、図8中の破線で示される曲線は、3つの曲線31のうちの第1曲線31aを構成する1本の曲線31a1であり、対称軸33aに対して反転することで第2曲線31bを構成する1本の曲線31b1が求まる。ここで、「対称軸33a」とは、第1曲線31aと第2曲線31bとが繋がるロータ30の頂点32aとロータ中心座標(x2、y2)を通過する軸を意味しており、第1曲線31aと第2曲線31bとは対称軸33aに対して互いに線対称となっている。そして、ロータ中心座標(x2、y2)を中心に曲線31a1および第2曲線31bを120゜回転させたものが第2曲線31bのもう一方の曲線31b2および第3曲線31cを構成する1本の曲線31c1となり、240゜回転させたものが第3曲線31cのもう一方の曲線31c2および第1曲線31cを構成するもう一方の曲線31a2となる。このように、ロータ30の外形を示す3つの曲線31(31a〜31c)はそれぞれ上記のようにして決定した曲線(図8中の破線で示す曲線)を2本組み合わせた曲線となっている。
【0030】
このような外形を有するロータ30もステータ20と同様に、軸方向、つまり送出方向Xにねじれており、図3に示すように、ロータ30の後端部からの送出方向(+X)の距離に応じて各頂点32a〜32cの位置はロータピッチP30で回転方向に変位している。また、本実施形態では、ローラ30の軸方向(送出方向X)の長さはロータピッチPの2倍となっている。なお、同図では、各断面における各頂点32a〜32cの位置を理解し易くするために頂点32aに黒丸を付し、頂点32aが0゜、−60゜、−120゜、−180゜、−240゜および−300゜の場合のロータ断面形状を図示している。
【0031】
このように構成されたロータ30に対して駆動機構40によって回転駆動力を与えると、送出方向Xに対して直交する各断面で、ロータ30の3つの頂点32(32a〜32c)がステータ20の内周面21に内接しながらロータ30がステータ20に対して偏心回転して流体を送り出す。ここで、各断面におけるポンプの動作について図9を参照しつつ説明する。
【0032】
図9は図1に示す一軸偏心ネジポンプの動作を示す図である。駆動機構40から与えられる回転駆動力を受けてロータ30がステータ20に対して同図(a)中の矢印方向に偏心回転すると、ロータ30の頂点32aに対して回転方向の上流側で同図(b)に示すように間隙CVが発生する。そして、ロータ30の偏心回転に伴い同図(c)〜(e)に示すように間隙CVは拡大していき、このときインレット部121を介してポンプ本体10に流入している流体が間隙CVに吸い込まれる。そして、さらにロータ30が回転すると、間隙CVは同図(f)〜(h)に示すように徐々に縮小され、ついには完全に閉ざされる(同図(i))。このような動作がロータ30の他の頂点32b、32cでも順次発生する。
【0033】
一方、軸方向、つまり送出方向Xには、図2および図3に示すように、ステータ20およびロータ30はねじれているため、送出方向(+X)の各断面では、上記動作が位相をずらせて発生するため、ロータ30の偏心回転に応じて間隙CVのキャビティが送出方向(+X)に移動することとなり、流体が(+X)方向に送り出される。
【0034】
以上のように、本実施形態では、ロータ30が正三角形の各辺を内周面側に膨らませた略三角形断面を有しているので、ロータ30の剛性を高めることができ、一軸偏心ネジポンプの高精度化、高回転化、小型化が可能となっている。
【0035】
また、ステータ20の雌ネジピッチP20と、ロータ30の雄ネジピッチP30との比が、2:3となっている。これは、一軸偏心ネジポンプでの断面においても、ロータ30の3つの頂点がステータ内面に接触しているようにするためには、軸方向(送出方向X)に直交する任意断面において、ロータ30のネジ軸の中心(偏心量E)が同位置であることが必要である。そのために、本実施形態にかかる一軸偏心ネジポンプにおいては、ロータ30が1回転する際に偏心円は3回転するため(このことは、ある軸方向断面について、ロータ30が1回転する際に、ロータ30の偏心円は3回転することから解る)、ステータ20の1/2回転に対してロータ30が1/3回転する必要がある。つまりスパイラルのピッチ比率は、ステータピッチP20:ロータピッチP30=2:3となる。
【0036】
また、本実施形態では、ステータ20の軸方向の長さはステータピッチP20の3倍であるとともに、ローラ30の軸方向の長さはロータピッチPの2倍であり、上記のように構成された一軸偏心ネジポンプをクローズドキャビティ型のポンプとして機能させるための成立要件Lを満足している。したがって、本実施形態にかかるポンプは漏れの無い定容積型の特性を有しており、ポンプ(あるいはコンプレッサ、ディスペンサ)性能を向上させることができる。なお、上記「成立要件L」とはポンプ周期の2/3周期の長さ(ステータ20の2回転分、ロータ30の4/3回転分)を意味している。つまり、この成立要件よりも短い場合には、いずれかのキャビティが軸方向(送出方向X)に短絡されてしまうため、定容積型ポンプとしては十分なポンプ動作が得られないからである。例えばロータ30がー30゜回転して発生したキャビティは、ロータ30が−270゜回転した時点で消滅するため、ステータ20に対してロータ30の位相が240゜(=−30゜−(−270゜))回転する必要がある。
【0037】
なお、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて上述したもの以外に種々の変更を行うことが可能である。例えば、ロータ30に対してバランス重量を付加してもよい。この場合、バランス重量の付加によって、ロータ30の高速回転時の振動を低減することができ、一軸偏心ネジポンプを安定して作動させることができる。
【0038】
また、ロータ30については中実構造であっても、中空構造であってもよいが、軽量化の観点からすれば中空構造のロータ30を用いるのが望ましい。また、中空構造のロータ30を採用する場合には、中空部にバランス重量を配置してもよい。
【0039】
また、上記実施形態では、フレキシブルジョイントを用いてロータ30を偏心回転させているが、駆動機構40の構成は上記実施形態に限定されるものではなく、従来より多用されている偏心駆動機構、例えば遊星歯車を用いた偏心駆動機構を用いてもよい。また、上記実施形態では、ステータ20を固定しながらロータ30を回転させるように駆動しているが、駆動方式はこれに限定されるものではなく、ステータ20に対してロータ30を相対的に偏心駆動させればよい。
【0040】
さらに、上記実施形態では、ステータ20に対してロータ30を相対的に偏心駆動させることで、回転エネルギーを圧力エネルギーに変換して気体、液体、粉体等の各種流体を送り出すポンプ(コンプレッサやディスペンサを含む)に関するものであるが、本発明の技術思想については流体モータにも適用することが可能である。すなわち、図1のカッコ中の矢印に示すように、出口ガイド部13を介して加圧流体を供給すると、その加圧流体が有する圧力エネルギーによりロータ30がステータ20内で偏心回転する。そして、駆動機構40と同一構成の動力伝達機構がロータ30の偏心回転をドライブシャフト(回転シャフト)41の回転に変換しながらロータ30からドライブシャフト41への動力伝達を行う。このようにしてドライブシャフト41が回転駆動される。したがって、例えばドライブシャフト41にドリルなどの回転加工工具を装着することで当該工具を回転させる流体モータ(空気圧モータ、油圧モータや水圧モータなど)として機能させることも可能である。
【0041】
このように構成された流体モータによれば、上記一軸偏心ネジポンプと同様に、ロータ30は正三角形の各辺を内周面側に膨らませた略三角形断面を有しており、ロータの剛性を高めることができ、特許文献1に記載のポンプと同一構造を有する流体モータに比べ、流体モータの高精度化、高回転化、小型化が可能となっている。
【0042】
また、ドライブシャフト41の回転軸が加圧流体の流動方向Xと平行になるようにドライブシャフト41が設けられているので、加圧流体が有する圧力エネルギーを効率よくドライブシャフト41の回転エネルギーに変換することができる。
【0043】
また、駆動機構40と同一構成の動力伝達機構を用いる代わりに、上記一軸偏心ネジポンプと同様に、例えば遊星歯車を用いた動力伝達機構を用いてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0044】
この発明は、気体、液体、粉体等の各種流体を送り出す一軸偏心ネジポンプや加圧流体により作動する流体モータ全般に適用することができる。
【符号の説明】
【0045】
20…雌ネジ型ステータ
21…内周面
23…ステータ内面曲線
30…雄ネジ型ロータ
31、31a〜31c…曲線
32、32a〜32c…頂点
P20…ステータピッチ
P30…ロータピッチ
X…送出方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペリトロコイド曲線により規定される内周面を有する雌ネジ型ステータと、
前記雌ネジ型ステータの内周面に内接する仮想正三角形の各辺を前記内周面側に膨らませた3つの曲線を外形とする雄ネジ型ロータとを備え、
前記雌ネジ型ステータおよび前記雄ネジ型ロータはともに流体の送出方向に延設され、
前記送出方向に対して直交する各断面で、前記雄ネジ型ロータの3つの頂点が前記雌ネジ型ステータの内周面に内接しながら前記雄ネジ型ロータが前記雌ネジ型ステータに対して相対的に偏心回転して流体を送り出すことを特徴とする一軸偏心ネジポンプ。
【請求項2】
前記雌ネジ型ステータの前記送出方向に対して直交する各断面において前記雌ネジ型ステータの内周面で囲まれる内部空間は繭型形状を有し、
各曲線の中央部は前記内周面側と反対の側に湾曲して前記繭型形状の短軸近傍で前記雌ネジ型ステータの内周面と非干渉となっている請求項1に記載の一軸偏心ネジポンプ。
【請求項3】
前記雌ネジ型ステータの雌ネジピッチと、前記雄ネジ型ロータの雄ネジピッチとの比は、2:3である請求項1または2に記載の一軸偏心ネジポンプ。
【請求項4】
前記雌ネジ型ステータの前記送出方向の長さは少なくとも前記雌ネジ型ステータの雌ネジピッチの2倍以上であり、前記雄ネジ型ロータの前記送出方向の長さは少なくとも前記雄ネジ型ロータの雄ネジピッチとの(4/3)倍以上である請求項1ないし3のいずれか一項に記載に一軸偏心ネジポンプ。
【請求項5】
前記雄ネジ型ロータは中空ロータである請求項1ないし4のいずれか一項に記載の一軸偏心ネジポンプ。
【請求項6】
前記雄ネジ型ロータに対してバランス重量が付加される請求項1ないし5のいずれか一項に記載の一軸偏心ネジポンプ。
【請求項7】
ペリトロコイド曲線により規定される内周面を有する雌ネジ型ステータと、
前記雌ネジ型ステータの内周面に内接する仮想正三角形の各辺を前記内周面側に膨らませた3つの曲線を外形とする雄ネジ型ロータと、
所定の回転軸を中心に回転自在に設けられる回転シャフトと、
前記雄ネジ型ロータと前記回転シャフトとを連結して前記雄ネジ型ロータの回転力を前記回転シャフトに伝達する動力伝達機構とを備え、
前記雌ネジ型ステータおよび前記雄ネジ型ロータはともに加圧流体の流動方向に延設され、
前記流動方向に対して直交する各断面で、前記雄ネジ型ロータの3つの頂点が前記雌ネジ型ステータの内周面に内接しながら前記雌ネジ型ステータ内に流入する加圧流体によって前記雄ネジ型ロータが前記雌ネジ型ステータ内で偏心回転し、
前記動力伝達機構は前記雄ネジ型ロータの偏心回転を前記回転シャフトの回転に変換しながら前記雄ネジ型ロータから前記回転シャフトへの動力伝達を行う
ことを特徴とする流体モータ。
【請求項8】
前記回転シャフトは、前記回転軸が前記流動方向と平行になるように、設けられる請求項7に記載の流体モータ。

【図1】
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【図3】
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【図7】
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【図8】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−53601(P2013−53601A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−193927(P2011−193927)
【出願日】平成23年9月6日(2011.9.6)
【出願人】(000207551)大日本スクリーン製造株式会社 (2,640)
【Fターム(参考)】