説明

三元金属混合酸化物粉末

チタンおよび珪素の成分およびアルミニウム、ジルコニウム、亜鉛、錫、マグネシウム、イットリウム、バナジウム、タングステン、タンタル、セリウムまたはホウ素からなる群から選択される第3の成分を有する、熱分解により製造された結晶質三元金属混合酸化物粉末。前記粉末は、蒸発可能なまたは噴霧可能な珪素およびチタン化合物および蒸発可能なまたは噴霧可能な第3の混合酸化物成分の化合物を水素および一次空気と混合し、ガス混合物を反応室で焼き尽くし、形成される粉末をガス状反応生成物から分離する方法により製造される。前記粉末は日焼け止め組成物に使用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は珪素およびチタンの成分を有する三元金属混合酸化物粉末、その製造方法および前記三元金属混合酸化物粉末からなる化粧用組成物に関する。
【0002】
二酸化チタンは化学的に不活性であり、毒物的に許容され、皮膚の炎症または感光を生じないので、化粧用組成物に広い範囲で使用される。
【0003】
更に日焼け止め組成物の成分として二酸化チタンを含有する混合酸化物粉末を使用することは知られている。ドイツ特許第4235996号は火炎加水分解による珪素/チタン混合酸化物粉末およびアルミニウム/チタン混合酸化物粉末の製造を記載する。これらの化合物中の二酸化珪素または酸化アルミニウムの含量は1〜20質量%である。
【0004】
欧州特許第1197472号は更に火炎加水分解により製造され、それぞれ酸化鉄または二酸化珪素0.5〜50質量%を含有できる、鉄/珪素/チタン混合酸化物粉末を記載する。この三元混合酸化物粉末は実際に純粋二酸化チタンより高いUV吸収率を有するが、強力な着色のために日焼け止め組成物の理想的な成分でない。更に試験により前記粉末が日焼け止め組成物に配合することがしばしば困難であることが示された。
【0005】
三元金属混合酸化物粉末は更にドイツ特許第10233193号に記載されている。これらの粉末は同様に火炎加水分解法から得られるが、X線に対して非結晶であり、従って日焼け止め組成物の成分としてあまり適さない。
【0006】
本発明の課題は、特に日焼け止め組成物で高いUV吸収率を示すが、わずかに着色されるかまたは着色されず、日焼け止め組成物に容易に配合できる粉末を提供することである。
【0007】
本発明は、チタンおよび珪素の成分およびアルミニウム、ジルコニウム、亜鉛、錫、マグネシウム、イットリウム、バナジウム、タングステン、タンタル、セリウムまたはホウ素からなる群から選択される第3の成分を有する、熱分解により製造された結晶質三元金属混合酸化物粉末を提供する。
【0008】
本発明に関して熱分解とは、金属混合酸化物粉末の出発物質が酸素含有ガスにより酸化される火炎酸化法、および金属混合酸化物粉末の出発物質が加水分解される火炎加水分解を意味するものと理解される。その間に火炎酸化および火炎加水分解が同時に存在する混合形が存在する。出発物質を火炎に噴霧された溶液のガスの形で導入できる。
【0009】
火炎加水分解法により製造される金属混合酸化物粉末がここで有利であり、それはこの方法により製造される粉末が不純物の低い含量を有するからである。
【0010】
本発明による金属混合酸化物粉末は大部分が一緒に成長して凝集物を形成する一次粒子からなる。TEM写真で本発明による金属混合酸化物粉末の一部の一次粒子が二酸化チタンのコアおよびa)二酸化珪素、b)第3混合酸化物成分の酸化物またはc)珪素および第3混合酸化物成分の混合酸化物のシェルを有することが理解できる。同じ粉末の他の部分は一次粒子の成分として二酸化チタン、二酸化珪素および第3混合酸化物成分からなる。一次粒子が存在する形は組成物製造中の処理パラメーターに依存する。
【0011】
本発明に関して、結晶質とは、本発明による三元金属混合酸化物粉末がX線回折分析で反射を示すことを意味すると理解される。本発明による三元金属混合酸化物粉末はすべて二酸化チタン変態としてルチルおよびアナターゼの反射を示す。X線回折図は更に、特に第3混合酸化物成分に帰因する他の反射を示すことができる。本発明による三元金属混合酸化物粉末で二酸化珪素の反射は検出できない。従ってX線に対して非結晶である形で二酸化珪素含量が存在する。
【0012】
アルミニウムは有利な第3混合酸化物成分であることができる。本発明による珪素/チタン/アルミニウム混合酸化物粉末は日焼け止め組成物の製造に特に適している。
【0013】
本発明による金属混合酸化物粉末はSiO、TiOおよび第3混合酸化物成分のほかに、出発物質に由来する少量の不純物または方法に関係した不純物を含有することができる。全体としてこれらの不純物は1質量%未満であり、一般に0.1質量%未満である。本発明による金属混合酸化物粉末は特に塩化物を含有することができる。
【0014】
本発明による金属混合酸化物粉末の一次粒子の成長の程度はDBP吸収(ジブチルフタレート吸収)により測定できる。DBP吸収において、決められた量のDBPを添加した際のDBP測定装置の回転パドルの力の取り入れまたはトルク(Nm)を滴定に匹敵する方法で測定する。本発明による三元金属混合酸化物粉末に関して、ここでDBPを特に添加した際に鋭利な顕著な最大値および引き続く低下を生じることができるか、またはDBP測定装置が最大値を検出しない。後者の場合は、一次粒子は低い成長の程度を有する。
【0015】
DBP吸収で最大値を有しない本発明による金属混合酸化物粉末が有利であり、それはこれらの粉末を組成物に容易に配合できるからである。
【0016】
本発明による金属混合酸化物粉末は有利に10〜200m/g、特に有利に40〜120m/gのBET表面積を有する。
【0017】
二酸化チタン40〜99質量%、二酸化珪素0.5〜30質量%および第3の混合酸化物成分0.5〜30質量%を含有することが更に有利である。特に有利に二酸化チタンの含量は60〜95質量%であり、二酸化珪素の含量は1〜20質量%であり、第3の混合酸化物成分の含量は1〜10質量%である。
【0018】
本発明による金属混合酸化物粉末のルチル/アナターゼ比は広い範囲にわたり変動することができ、一般に90:10〜10:90である。これに関して製造中に処理パラメーターを変更することによりBET表面積に関係なく個々の比が得られる。
【0019】
本発明による金属混合酸化物粉末の表面が疎水化される場合が、有利である。疎水化は、場合により水の存在で、本発明による金属混合酸化物粉末に疎水化剤または疎水化剤の混合物を噴霧し、引き続き成分を15〜30分混合し、更に混合物を1〜6時間にわたり100〜500℃の温度でコンディショニングすることにより実施できる。このために欧州特許第722992号に記載されたすべての疎水化剤を使用することができ、ヘキサメチルジシラザン、トリメトキシオクチルシラン、ジメチルポリシロキサンおよびトリメトキシプロピルシランが特に有利である。
【0020】
本発明は更に本発明による金属混合酸化物粉末の製造方法を提供し、前記方法は、
蒸発可能なまたは噴霧可能な珪素およびチタンの出発物質および蒸発可能なまたは噴霧可能な、アルミニウム、ジルコニウム、亜鉛、錫、マグネシウム、イットリウム、バナジウム、タングステン、タンタル、セリウムまたはホウ素の出発物質を蒸発させ、キャリアガスにより公知バーナーの混合室に移送し、蒸発されたまたは噴霧されたガス状化合物を金属混合酸化物粉末の組成に相当する比で配量し、
ガス状化合物を水素または一次空気と公知バーナーの混合室で混合し、ガス混合物を反応室で焼き尽くし、
形成される粉末をガス状反応生成物から分離し、場合により水蒸気により付着する反応生成物から分離する
ことを特徴とする。
【0021】
出発物質は一緒にまたは別々に蒸発することができる。2つの成分を予め混合することもできる。
【0022】
供給される水素と化学量論的に必要な水素の比はγと呼ばれる。同様に供給される酸素と化学量論的に必要な酸素の比はλと呼ばれる。これに関して化学量論的に必要なとは、それぞれチタン/珪素ハロゲン化物の加水分解に正確に必要な水素と酸素の量である。従って
γ=供給されるH(モル)/化学量論的H(モル)
λ=供給されるO(モル)/化学量論的O(モル)。
【0023】
本発明による金属混合酸化物粉末の製造において、γおよびλが1〜10の値を取る場合が有利であり、特に有利にγが1〜3の値でありおよびλが1〜5の値であることが判明した。
【0024】
火炎パラメーターλおよびγを変動することにより、BET表面積が(ほぼ)同じで変動可能なルチル/アナターゼ比を有する金属混合酸化物粉末を製造することができる(例2および3または7および8参照)。
【0025】
出発物質の種類は、反応条件下で出発物質が蒸発し、酸化または加水分解できる限りで限定されない。ハロゲン化物、硝酸塩、または有機金属出発物質を有利に使用できる。塩化物がその利用可能性および経済的特性のために特に有利である。
【0026】
更に混合室への一次空気のほかに、反応室に空気(二次空気)を直接導入することが有利である。この場合の一次空気/二次空気の比は10〜0.5である。
【0027】
周囲空気から閉鎖された反応室で火炎が焼き尽くす場合が有利である。この手段により二次空気の量を正確に配量し、これにより処理工程を最適にすることができる。反応室で支配する真空は有利に5〜80バールである。
【0028】
本発明は更に化粧品を製造するための、塗料における、触媒としての、触媒担体としての、光触媒としての、およびUV吸収剤としての本発明による金属混合酸化物粉末の使用を提供する。
【0029】
本発明は更に本発明による金属混合酸化物粒子を0.01〜25質量%の量で含有する日焼け止め組成物を提供する。更に本発明による日焼け止め組成物は公知の無機UV吸収顔料および/または有機UVフィルターとの混合物で使用できる。
【0030】
可能な公知のUV吸収顔料は二酸化チタン、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化鉄、二酸化珪素、珪酸塩、酸化セリウム、酸化ジルコニウム、硫酸バリウムまたはこれらの混合物である。
【0031】
可能な化学的UVフィルターは当業者に知られたすべての水または油に溶解するUVAおよびUVBフィルターであり、ベンゾフェノンおよびベンゾイミダゾールのスルホン酸誘導体、ジベンゾイルメタンの誘導体、ベンジリデンカンフルおよびその誘導体、桂皮酸の誘導体およびそのエステルまたはサリチル酸のエステルを例として記載できるが、これらに限定されない。
【0032】
本発明による日焼け止め組成物は更に当業者に知られた溶剤、例えば水、一価アルコール、多価アルコール、化粧用油、乳化剤、安定剤、コンシステンシー調節剤、例えばカーボマー、セルロース誘導体、キサンタンガム、ろう、ベントン、熱分解シリカ、および化粧品の分野で一般的な他の物質、例えばビタミン、酸化防止剤、保存剤、染料および香料を含有することができる。
【0033】
本発明による日焼け止め組成物は典型的に乳化剤(O/W、W/Oまたは複合形)、水性または水性−アルコール性ゲルまたは油状ゲルの形で存在することができ、ローション、クリーム、乳液、スプレー、ムースの形で、スティックまたは他の使用形で利用できる。
【0034】

分析
BET表面積はDIN66131により決定する。SiOおよびTiOの含量はX線蛍光分析および/または化学的分析により決定する。
【0035】
ジブチルフタレート吸収はRHEOCORD90装置、Haake社、Karlsruheにより測定する。このために前記金属酸化物16gを、正確に0.001gまで混合室に充填し、これをふたで閉鎖し、ジブチルフタレートをふたの穴から予め決められた0.0667ml/sの配量速度で配量する。混合機を125rpmのモーター速度で運転する。最大トルクに達した場合に、混合機およびDBPの供給を自動的に中断する。DBP吸収値は以下の式により消費されるDBPの量および計量された粒子の量から計算する。
DBP吸収値(ml/100g)=(DBPの消費量ml/計量した粒子g)×100
【0036】
実施例
AlCl(例11:ZrCl)、SiClおよびTiClを表1に記載される量により別々に蒸発させる。不活性ガスにより蒸気を混合室に移送する。混合室で蒸気を水素および乾燥空気(一次空気)(表1による量)と混合し、混合物を反応室で焼き尽くす。更に二次空気を反応室に供給できる(例2、3および10)。凝結帯域で粉末を約100℃に冷却し、引き続きフィルターで分離する。粉末を400〜700℃の温度で蒸気の空気で処理することにより付着する塩化物を除去する。
【0037】
出発物質および例の量を表1に記載する。火炎パラメーターおよび金属混合酸化物粉末の物理的−化学的データを表2に記載する。
【0038】
日焼け止め組成物
相A:IsolanGI34(3.0)、ひまし油(1.2)、TegesoftOP(10.1)、Tegesoft液(5.0)、グリセリン86%(3.0)、
相B:ParaceraW80(1.8)、イソヘキサデカン(5.0)、相C:本発明の例2による金属混合酸化物粉末(4.0)、相D:硫酸マグネシウム(0.5)、完全脱イオン水(66.5)(かっこ内の数値は質量%の数値である)。
【0039】
相Aを混合機で70℃に加熱する。80℃で磁気ホットプレート上で溶融後、相Aに相Bを添加する。相Cを約300rpmおよび真空下で油相に攪拌して入れる。相Dを70℃に加熱し、真空下でA〜Cの混合物に添加する。
【0040】
【表1】

【0041】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタンおよび珪素の成分およびアルミニウム、ジルコニウム、亜鉛、錫、マグネシウム、イットリウム、バナジウム、タングステン、タンタル、セリウムまたはホウ素からなる群から選択される第3の成分を有する、熱分解により製造された結晶質三元金属混合酸化物粉末。
【請求項2】
火炎加水分解法により製造される、請求項1記載の熱分解により製造された結晶質三元金属混合酸化物粉末。
【請求項3】
第3の成分がアルミニウムである、請求項1または2記載の熱分解により製造された結晶質三元金属混合酸化物粉末。
【請求項4】
ジブチルフタレート吸収で最大値が測定できない、請求項1から3までのいずれか1項記載の熱分解により製造された結晶質三元金属混合酸化物粉末。
【請求項5】
BET表面積が10〜200m/gである、請求項1から4までのいずれか1項記載の熱分解により製造された結晶質三元金属混合酸化物粉末。
【請求項6】
二酸化チタンの含量が40〜99質量%であり、二酸化珪素の含量が0.5〜30質量%であり、第3成分の含量が0.5〜30質量%である、請求項1から5までのいずれか1項記載の熱分解により製造された結晶質三元金属混合酸化物粉末。
【請求項7】
ルチル/アナターゼ比が90:10〜10:30である請求項1から6までのいずれか1項記載の熱分解により製造された結晶質三元金属混合酸化物粉末。
【請求項8】
表面が疎水化されている請求項1から7までのいずれか1項記載の熱分解により製造された結晶質三元金属混合酸化物粉末。
【請求項9】
請求項1から8までのいずれか1項記載の熱分解により製造された結晶質三元金属混合酸化物粉末を製造する方法において、蒸発可能なまたは噴霧可能な珪素およびチタンの化合物および蒸発可能なまたは噴霧可能な、アルミニウム、ジルコニウム、亜鉛、錫、マグネシウム、イットリウム、バナジウム、タングステン、タンタル、セリウムまたはホウ素の化合物を蒸発させ、キャリアガスにより公知バーナーの混合室に移送し、蒸発されたまたは噴霧されたガス状混合物を三元金属混合酸化物粉末の組成に相当する比で配量し、
ガス状化合物を水素または一次空気と公知バーナーの混合室で混合し、ガス状混合物を反応室で焼き尽くし、
形成される三元金属混合酸化物粉末をガス状反応生成物から分離し、場合により水蒸気により付着する反応生成物から分離する
ことを特徴とする熱分解により製造された結晶質三元金属混合酸化物粉末を製造する方法。
【請求項10】
蒸発可能な化合物が塩化物である請求項9記載の方法。
【請求項11】
反応室に二次空気を付加的に導入する請求項9または10記載の方法。
【請求項12】
化粧品を製造するための、または塗料における、または触媒としての、触媒担体としての、光触媒としての、およびUV吸収剤としての請求項1から8までのいずれか1項記載の熱分解により製造された結晶質三元金属混合酸化物粉末の使用。
【請求項13】
日焼け止め組成物の量に対して0.01〜25質量%の含量を有する請求項1から8までのいずれか1項記載の熱分解により製造された結晶質三元金属混合酸化物粉末を含有する日焼け止め組成物。

【公表番号】特表2007−537963(P2007−537963A)
【公表日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−517005(P2007−517005)
【出願日】平成17年4月19日(2005.4.19)
【国際出願番号】PCT/EP2005/004126
【国際公開番号】WO2005/113442
【国際公開日】平成17年12月1日(2005.12.1)
【出願人】(501073862)デグサ ゲーエムベーハー (837)
【氏名又は名称原語表記】Degussa GmbH
【住所又は居所原語表記】Bennigsenplatz 1, D−40474 Duesseldorf, Germany
【Fターム(参考)】