説明

三環式芳香族類および液晶媒体

【課題】三環式芳香族類および液晶媒体を提供する。
【解決手段】本発明は一般式(I)の三環式芳香族類に関し、ただし、A、A、A、A、Q−Q、R、R、X、X、X、Z、Z、Z、Z、q、r、s、tおよびuは示されるように定義される。また、本発明は、液晶媒体の成分としてのそれらの使用および同液晶媒体を備える電気光学的ディスプレイ素子にも関する。
【化28】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般式Iの三環式芳香族類、それらの使用、および式Iの化合物類の調製方法に関する。
【0002】
【化6】

式中、
、A、A、Aは、それぞれ互いに独立に、1,4−シクロヘキシレン、1,4−シクロヘキセニレンまたは1,4−シクロヘキサジエニレン基(これらは置換されていないか、または1〜4個のF原子で置換されており、式中、それぞれの場合で互いに独立に、1個または2個のCH基は、ヘテロ原子が互いに直接結合しないように、−O−または−S−で置き換えられていてもよい。)、1,4−フェニレン基(該基は、1個または2個のフッ素または塩素原子で置換されていてもよく、ただし、加えて、1個または2個のCH基はNで置き換えられていてもよい。)、または、1,4−ビシクロ[2.2.2]オクチレン基または2,6−スピロ[3.3]ヘプチレン基を表し、
−Qは、O−CH、CH−O、O−CF、CF−O、CH−CH、O−COまたはCO−Oを表し、
、Rは、それぞれ互いに独立に、1〜12個のC原子を有するアルキル基を表し、該基は置換されていないか、またはハロゲンによって少なくとも一置換されており、ただし、1個以上の隣接していないCH基は、それぞれ互いに独立に、−O−、−S−または−CO−で置き換えられていてもよく、2個の隣接しているCH基は、それぞれ、−CH=CH−、−CF=CF−、−COO−、−OOC−、−C≡C−または1,2−シクロプロパニレン基で置き換えられていてもよく、または3個の隣接しているCH基は1,3−シクロブタニレン基で置き換えられていてもよく、または、RのみまたはRのみの何れか一方がHでもよいことを前提として、F、Cl、−OCF、−OCHF、−CN、−NCSまたはHを表し、
、X、Xは、それぞれ互いに独立に、H、FまたはClを表し、
、Z、Z、Zは、それぞれ互いに独立に、単結合、−CHCH−、−CHO−、−OCH−、−CHCF−、−CFCH−、−CFO−、−OCF−、−COO−、−OOC−、−CH=CH−、−CF=CF−、−C≡C−を表し、および
q、r、s、t、uは、それぞれ互いに独立に、0または1を表す。
【0003】
本発明は、更に、一般式Iの化合物を少なくとも1種類含む液晶媒体、およびディスプレイ素子中、特に、電気光学的ディスプレイ素子中において、この型の液晶媒体を使用することに関する。
【背景技術】
【0004】
温めても幾つかの有機化合物は結晶状態から液体状態に直接転化せず、代わりに明瞭に限られた温度範囲内で1つ以上の付加的な相を通過する。これらの相は方向に依存する物理的特性を有するが、液体のように動きやすい。ネマチック、コレステリック、スメクチックAまたはスメクチックC相などの、そのような相(下では液晶媒体とも一般的に呼ぶ)の物理的特徴が知られている(P.G.deGennesおよびJ.Prost、The Physics of Liquid Crystals、Clarendon Press、Oxford 1993年(非特許文献1)参照)。典型的には電気光学的に使用される、そのような化合物の分子構造は剛直な骨格で特徴付けられ、例えば、結合された1,4−フェニレンまたは1,4−シクロヘキシレン基または縮合環構造も含み、アルキル、アルコキシまたはシアノ基などの所謂メソゲン基により、互いに可能な限り離れた位置で置換されている。
【0005】
電気光学的に使用される液晶媒体は、そのような化合物の混合物よりなり、結晶相から液晶相へエナンチオトロピック転移しない化合物も合わせて使用する。ネマチック相の場合、光学および誘電特性は、第一近似で既知の通り、混合物成分の割合に対して線形の依存性を有する。一般に、異なる化合物または化合物の混合物に対する異方的な物理量の値の曲線は、いわゆる還元温度T(T=T/T、Tは測定された温度で、Tは透明化温度、即ち、ネマチック相から等方相への転移温度(全て絶対温度))に対してプロットすると、同様となる。従って、成分の異方的な特性に対する寄与は、同一のTにおいて比較することで決定できる。
【0006】
液晶媒体に基づくディスプレイ素子(液晶ディスプレイ)中では、光学的影響の変化は、既知の通り、液晶媒体が間に配置されている電極に電場を印加することで生じる。捩れネマチックセル(TNC)の原理に基づく良く知られている電気光学的ディスプレイ素子が、特に重要である。電極表面との相互作用により、ネマチック相の分子が螺旋配置をとるよう配向される。これにより通過する光の偏光面が、2枚の交差偏光箔間において素子が透明となるよう回転する。電極に電圧を印加することで、分子が垂直に配向される。このための前提条件は、正の誘電異方性(Δε>0)である。面内スイッチング(IPS)である既知の方法では、分子の螺旋配向を並列配向に変換でき、特にコントラストが高い画像を生成できる。背面照明なしで偏光箔が1枚のみで動作する電気光学的ディスプレイ素子は、特に好都合のようである。この型の反射式電気光学ディスプレイ素子で、情報密度が高く、アドレス電圧が低く、コントラストの視野角依存性が低いものが、Y.Itohら、SID 98 Digest、221(特許文献2)に記載されている。これらにおいては、ネマチック相の光学異方性Δnおよびその層厚dの積に対する最適な値を順守することが、低いコントラストの視野角依存にとって重要である。前記用途において、液晶媒体の電気比抵抗が高いほど、既知の通り、表示される画像または英数字情報の品位が良好となる。このことは、特に、アクティブマトリクスディスプレイの動作に当てはまる。薄膜トランジスタよりなる駆動装置が電源を切った後に電圧を維持する能力は、一般に、電圧保持率(VHR)で表される。
【0007】
更に重要となりつつある屋外での用途に対しては、特に高い透明点を有する液晶媒体が必要とされる。ピクセルの電気的アドレスは、既知の通り、低い閾電圧において好都合に設定できる。これらの閾電圧は既知の方法で決定され、Δε>0のネマチック相に対しては所謂フレデリックス閾値(電圧で測定)に、Δε<0のものに対しては所謂DAP(整列相の変形)閾値に基づいている。単位時間あたりに画像を変化できる数は液晶媒体中の分子の移動性に依存し、温度を下げると急速に低下する。TNCでは、応答時間は液晶媒体の回転粘度に直接依存し、言い換えれば、従来の毛細管粘度計中で測定できる値と関連している。また、スメクチックC相の強誘電体または反強誘電体層の再配向に基づく電気光学的ディスプレイ素子も知られている。既知の高分子分散液晶(PDLC)は透明の高分子中に分散された液晶媒体の小滴よりなり、印加される電圧の関数として入射光が散乱される。同様に偏光箔を必要としない電気光学的ディスプレイ素子を、負の誘電異方性を有し二色性染料を含む液晶媒体を使用して創出できる。VA(垂直配向)技術により負の誘電異方性(Δε<0)を有するネマチック液晶媒体中で偏光を変調することに基づく電気光学的ディスプレイ素子が、近年、特に重要となってきた。
【0008】
混合物の成分として使用される化合物は、光、熱の作用または電場中において十分に安定ではないため、上述のディスプレイ素子中で使用される液晶媒体は多くの不都合を有する。加えて、良好なコントラストに要求される光学異方性は、良好な操作電圧および応答時間と同時には、困難を伴ってのみ達成できる。
【0009】
既知の液晶媒体は、電気光学的ディスプレイ素子中で依然として改良が求められている特性を示す。特に、達成できる閾電圧および応答時間は依然として高すぎる。
【非特許文献1】P.G.deGennesおよびJ.Prost、The Physics of Liquid Crystals、Clarendon Press、Oxford 1993年
【非特許文献2】Y.Itohら、SID 98 Digest、221
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特に、本発明は、低い閾電圧および短い応答時間を有する電気光学的ディスプレイ素子の創出を促進する安定な化合物類を提供する目的に基づいた。
【課題を解決するための手段】
【0011】
驚くべきことに、液晶媒体の成分として、一般式Iの三環式芳香族類が好都合にも適切であることが見出された。これらより、特に低い閾電圧および短い応答時間を有し、上述の用途に極めて適切で安定な液晶媒体を調製できる。それらの高いVHRのため、本発明による三環式化合物類は、特に、アクティブマトリクスディスプレイの創出に適する。それらは高い透明化温度を有し、光に対する曝露および120℃を超える温度において特に安定である。本発明による化合物類は、一般に、種々の用途、特に上で述べたものに対して好都合な液晶媒体を調製するための液晶物質の範囲を広げる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明による式Iの三環式芳香族類は、1,2,3,4,4a,9,10,10a−オクタヒドロフェナントレン類:
【0013】
【化7】

および2,3,4,4a,9,9a−ヘキサヒドロ−1H−フルオレン類:
【0014】
【化8】

を包含する。
【0015】
それらは、それぞれ、三環式骨格のそれぞれの2、4aおよび10aまたは2、4aおよび9aの位置に3個のキラル中心を有する。本発明内では、位置4aおよび10aまたは4aおよび9aのH原子がそれぞれ互いにトランス位であるコンフィギュレーションを有する化合物が好ましい。位置2および4aのH原子が互いにシス−またはトランス−位である式Iの化合物は、両者とも適切である。
【0016】
式Iの化合物類において、A、A、A、Aは、それぞれ互いに独立に、好ましくは、1,4−フェニレン基または1,4−シクロヘキシレン基を表し、これらは置換されていないか、または1〜2個のF原子で置換されており、式中、それぞれの場合で互いに独立に、1個のCH基は−O−で置き換えられていてもよく、ただし、1,4−シクロヘキシレンおよび2,5−テトラヒドロピラニレン基は、好ましくは、トランスのコンフィギュレーション:
【0017】
【化9】

を有する。
【0018】
一般式Iの基RおよびRに含まれるアルキル基は、直鎖状でも分岐状でも構わない。それらは、好ましくは、直鎖状で、よって、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシルまたはドデシルを表す。同様に含まれるアルケニル基の二重結合が末端でない場合、それらは好ましくはEコンフィギュレーションを有する。RおよびRがフェニル基に結合している場合、これらの置換基に対してFおよびClの意味が同様に好ましい。
【0019】
−Qは、好ましくは、O−CH、O−CFまたはCHCHを表し、ただし、O−CHおよびO−CFが特に好ましい。
【0020】
式Iにおいて、X、X、Xは、それぞれ互いに独立に、H、FまたはClを表し、好ましくは、HまたはFである。特に好ましくは、Xおよび/またはXはFであり、Xはハロゲンである。更に、X、Xは、好ましくは、Fであり、Xはハロゲンである。一般式I中のZ、Z、Z、Zは、好ましくは、それぞれ互いに独立に、単結合、−CHCH−、−OCF−または−CFO−を表し、単結合が特に好ましい。
【0021】
添字q、r、s、t、uは、それぞれ互いに独立に、式IがA、A、A、Aの意味を有する0〜4個の基を有してもよいように1または0を表す。q、r、sおよびtの和が1または2に等しい、即ち、A、A、A、Aの意味を有する1個または2個の環式基が、本発明による三環式芳香族の骨格に加えて存在している式Iの化合物が好ましい。qおよびrの和が1または2で、同時にsおよびtの和が0または1である化合物が特に好ましい。それらとは独立に、添字uは1または0を表す。1の意味が好ましい。
【0022】
式Iは、光学活性な化合物およびそれらのラセミ体も網羅する。前者は、特定の非対称合成または本発明による光学不活性な化合物より、キラルな支持体、例えば、シクロデキストリン類上でのカラムクロマトグラフィーによる分離により得ることができる。式Iの光学活性化合物は、強誘電的および反強誘電的な特性を有する相と、コレステリック相の調製とのために特に適する。結合されている元素が天然の分布ではない、それらの同位体の分布を有している式Iの化合物も網羅される。
【0023】
一般式Iの好ましい化合物は、一般補助式IaおよびIbで表される。
【0024】
【化10】

この型の幾つかの化合物を以下に示すが、RおよびRは示された意味を有する。
【0025】
【化11】

【0026】
【化12】

一般式の化合物は、一般に知られている方法で調製される。これらは、例えば、編集物であるHouben−Weyl、Methoden der organischen Chemie[Methods of Organic Chemistry]、Georg Thieme Verlag、Stuttgart、および当業者が入手可能な他の刊行物で与えられる。7−位が臭素または塩素(ここではYと表示)で置換されており、Y−Arと略記される下式の三環芳香族を、式IIIのボロン酸(合成スキーム1、R−(A−Z)−A−B(OH)は置換されたフェニルボロン酸)に、一般に既知の遷移金属触媒での鈴木カップリングにより結合することが好ましい。
【0027】
【化13】

同様に、ハロゲン−金属交換(例えば、臭素−リチウム交換)と引続くC=O結合上への付加により、よく知られている引続く反応の後、一般式Iの化合物の化合物が導かれる(合成スキーム2)。
【0028】
【化14】

【0029】
【化15】

合成スキーム3は、化合物Y−Arを与える一連の一般に知られている合成工程を例として示しており、それより、本発明による補助式IaおよびIbの化合物を調製できる。酢酸イソプロペニルを使用し置換された1−テトラロンより出発して得ることができる酢酸エノールをトリブチルスタンナンに転化し、ブロモ酢酸エステル類を使用しアゾビスイソブチロニトリルにより開始されるフリーラジカルアルキル化において2位置換1−テトラロンに転化する(K.Miuraら、Organic Lett.第3巻、第2591頁(2001年)参照)。NaBHを使用するエタノール中でのオキソ基の選択的還元の後、形成されたOH基を、臭化ベンジル、塩基およびヨウ化テトラエチルアンモニウムの反応によって保護する(S.Czerneckiら、Tetrahedron Lett.3535(1976年)参照)。加水分解および酸性化後に遊離する酸を既知の方法でカルボン酸塩化物に転化し、アーント−アイシュタート法でCH基が1つ延長されたカルボン酸に転化する。
【0030】
【化16】

水素化(Pd触媒)によりベンジル基を除去後、加熱によりδ−ラクトンを与える。これを、テトラヒドロフラン中リチウムジイソプロピルアミドおよび臭化アルキルまたはアリルの反応による一般に既知の方法で置換する(例えば、W.F.Baileyら、Tetrahedron Letters第31巻、第5093頁(1990年))。同様に一般に知られている方法により、α−置換ラクトンを、LiAlHまたはNaBHおよびBFエーテレートを使用する還元により一般式Iaの化合物に、または、ローソン試薬による反応および三フッ化ジエチルアミノ硫黄(DAST)を使用する引続くCS基のCF基への転化(S.Scheibyeら、Tetrahedron第35巻、第1339頁(1979年)参照)により一般式Ibの化合物に転化できる。類似して、置換された1−インダノン類より出発して、u=0である式IaおよびIbの化合物を得ることができる。幾つかの適切な1−インダノン類は商業的に入手できるか(例えば、Sigma−Aldrich社より)、または下の合成スキーム4に類似してマロン酸無水物を使用し置換されたベンゼン類より出発して得ることができる。
【0031】
カップリングで要求される置換基Yに加え、合成スキーム3で使用される置換された1−テトラロン類は既に置換基R−(A−Z(A−Z−を有していてもよい。それらは、例えば、合成スキーム4中で示される通り、ジクロロメタン中無水コハク酸を使用するフリーデル−クラフツのアシル化、触媒的水素化および塩化チオニルを使用して調製されるカルボン酸塩化物を使用する第2のアシル化で調製できる。
【0032】
【化17】

−QがCH−CHを表しuが1を表す式Iの化合物は、合成スキーム5中で方法例が示されているように、SOを引抜くことによる、対応する置換された1,3−ジヒドロベンゾ[c]チオフェン−2,2−ジオキシドの分子内付加環化(W.Oppolzerら、Helv.Chim.Acta第62巻、第2017頁(1979年)参照)で得ることができる。
【0033】
【化18】

本発明で網羅される液晶媒体は、同様に、少なくとも2種類の液晶成分よりなり、少なくとも1種類の一般式Iの化合物を成分として含む。それは、典型的には、1〜5種類、好ましくは、2〜4種類の式Iの化合物を含む。更に、本発明による液晶媒体の混合成分は、一般に知られているメソゲン化合物、即ち、純粋な形態または他の成分と混合されて液晶相を形成できる化合物でよい。この型の幾つかの化合物が、例えば、DE19804894中で述べられている。最も重要なものは、一般式IVに従って、構築される。
【0034】
【化19】

式中、
〜Bは、それぞれ互いに独立に、置換されていないかハロゲンまたはCNで置換されており1個または2個のCH基は−O−で置き換えられていてもよい1,4−シクロヘキシレン基、4−ビシクロ[2.2.2]オクチレン基、1,4−フェニレン基および2,5−ピリミジニレン基ならびに2,6−ナフタレニレン、1,2,3,4−テトラヒドロナフタレン−2,4−イルエンまたはインダン−2,5−イルエン基を表し、
、Uは、互いに独立に、1〜12個のC原子を有し置換されていないか少なくとも1個のハロゲン原子で置換されており1個以上の隣接していないCH基は−O−または−S−で置き換えられていてもよいアルキルまたはアルケニル基を表し、または、−CN、−OCHF、−OCF、−SF、−F、−Cl、−OCH=CF、−N=C=Sを表し、
、Yは、互いに独立に、−CHCH−、−COO−、−CH=CH−、−OCF−または単結合を表し、
m、nは、0、1または2を表す。
【0035】
述べられたアルキル基が1〜12個のC原子を有するアルキル基の典型的なものであり、1個または2個のCH基が−O−または−CH=CH−で置き換えられている混合物成分を、例として述べる。
【0036】
【化20】

【0037】
【化21】

【0038】
【化22】

しかしながら、二色性染料類、本発明により網羅されないキラル化合物類、導電性塩類、ナノ粒子類および焼成ケイ酸類などのゲル形成高分子類または無定形固体類などの更なる混合物成分を加えることも可能である。酸化阻害剤を加えることも可能である。
【0039】
本発明による液晶媒体は適切なガラス容器中で成分を一緒に80℃まで温めることで調製され、攪拌してそれらを混合し、混合物を放置して室温まで冷却する。本発明による液晶媒体中における一般式Iの三環式芳香族類の割合は、1および99重量%の間とできる。それは、好ましくは、10および90重量%の間であり、特に好ましくは、15および50重量%の間である。
【0040】
以下の例は、それを限定することなく、本発明を説明することを意図している。全てのパーセンテージは、重量パーセントを表す。下において、温度は摂氏度で示される。mpは融点を表し、hは時間を表し、minは分を表す。Crは結晶相を表し、Smはスメクチック相を表し、Neはネマチック相を表し、Isは等方相を表す。これらの記号の間の数字は、示されている相の間の転移が起こる温度を示している。IRは赤外スペクトルを表し、KBrはスペクトルが従来の臭化カリウムディスクを使用して記録されたことを意味する。他に示さない限り、アルキル基はn−アルキル基である。
【実施例】
【0041】
<例1および2>
合成スキーム3に従い、生成するアセトンを連続的に留去しながら、1molの既知の6−クロロ−1−テトラロンを2molの酢酸イソプロペニルおよび1gのp−トルエンスルホン酸と共に5時間還流する。室温まで冷却後、過剰の酢酸イソプロペニルを留去し、残渣を500mlのtert−ブチルメチルエーテルおよび250mlの水と共に振蕩する。有機相を、硫酸ナトリウムを使用して乾燥および蒸発させ、残渣を減圧蒸留する。この方法で得られる酢酸6−クロロ−3,4−ジヒドロナフタレン−1−イルを4時間100℃で等モル量のメトキシトリブチルスタンナンと共に、生成する酢酸メチルを連続的に除去しながら攪拌する。減圧蒸留後に得られる6−クロロ−3,4−ジヒドロ−1−トリブチルスタンニルオキシナフタレンをベンゼン中に同等量のブロモ酢酸エチルおよび0.25倍モル量のアゾビスイソブチロニトリルと共に溶解し、混合物を5時間還流する。蒸留による除去後に得られる残渣を、カラムクロマトグラフィー(メルク社、ダルムスタット市製シリカゲル60、溶離液トルエン/イソプロパノール混合物、容量比9:1)で精製する。溶媒を除去した後に得られる6−クロロ−2−エトキシカルボニル−1−テトラロンを、5時間室温でエタノール中にて過剰のNaBHと共に攪拌する。次いで、希塩酸を注意深く加える。生成される6−クロロ−2−エトキシカルボニル−1−ヒドロキシテトラリンを、ジエチルエーテルで抽出する。硫酸ナトリウムを使用して乾燥後、有機相を蒸発させる。残渣を再びカラムクロマトグラフィー(上述の条件)で分離する。主な画分である1,2−位のH原子がトランス型のものを、臭化ベンジルを使用してテトラヒドロフラン中、NaHおよび(CNIを加え、ベンジルエーテルに転化する。溶媒を除去後、このベンジルエーテルを、アルコール性水酸化カリウム溶液を使用して加水分解する。希塩酸を使用して酸性とした後、生成するカルボン酸をエタノールより結晶化して精製する。塩化チオニルを使用してカルボン酸塩化物に転化後、それより、ジアゾメタンとの反応により一般に知られている方法で、ジアゾメチルケトンを調製する。硝酸銀およびアンモニアを添加後、このジアゾメチルケトンを転位してアミドを与え(ウルフ転位)、アルコール性水酸化カリウム溶液を使用して加水分解する。希塩酸を使用する酸性化で生成するカルボン酸を吸引濾過で分離し、エタノールに溶解し、触媒(炭素上5%Pd)を加えた後、水素化する。濾過により触媒を除去後に得られる反応生成物を加熱し、100〜140℃の蒸留により溶媒を除去して、δ−ラクトンを得る。このδ−ラクトンをテトラヒドロフラン中でリチウムジイソプロピルアミドおよび臭化アリルを使用して、アリル化する。それより、2−アリル−7−クロロ−4−オキサ−1,2,3,4,4a,9,10,10a−オクタヒドロフェナントレンを、LiAlHおよび三フッ化ホウ素エーテレートとの反応により一般に知られている方法で調製する(G.R.Pettitら、J.Org.Chem.第26巻、第4773頁(1961年)参照)。テトラヒドロフラン中でパラジウム/炭素(5%Pd)を添加し大気圧下にて水素化し、7−クロロ−4−オキサ−2−プロピル−1,2,3,4,4a,9,10,10a−オクタヒドロフェナントレンを与える。
【0042】
<例3>
【0043】
【化23】

例2からの7−クロロ−4−オキサ−2−プロピル−1,2,3,4,4a,9,10,10a−オクタヒドロフェナントレンを、既知の3,4,5−トリフルオロフェニルボロン酸とテトラヒドロフラン中で一般に知られている方法によりPd(0)触媒、例えば、水素化ジイソブチルアルミニウムで還元されたビス[トリシクロヘキシルホスフィン]パラジウムジクロリドまたは既知の所謂ブッフバルト触媒類の1つの作用下にてカップリング反応する。蒸留により溶媒を除去後、カラムクロマトグラフィー(固定相シリカゲル60、溶離液トルエン)により、粗生成物を分離する。蒸留により溶離液を除去後、主画分中に存在する4−オキサ−2−プロピル−7−(3,4,5−トリフルオロフェニル)−1,2,3,4,4a,9,10,10a−オクタヒドロフェナントレンを、エタノールからの再結晶により更に精製する。FI/FD−MS(m/e):332(C2019O)。
【0044】
<例4〜9>
以下を、同様に、一般に知られている方法により合成する。
【0045】
【化24】

【0046】
<例10>
2−(5,6−ジフルオロ−1−オキソインダン−2−イルメチル)ヘプタン酸メチル
【0047】
【化25】

前駆体である2−(5,6−ジフルオロ−1−オキソインダン−2−イルメチル)ヘプタン酸メチルを、既知の5,6−ジフルオロインダン−1−オン(S.Shimadaら、Tetrahedron Letters 2004年、第45巻(第8号)、第1741〜1745頁)より、S.Muthusamy、Bull Chem.Soc.Japan、2002年、第75巻、第801〜812頁の方法により、2−メチレンヘプタン酸メチル上へのマイケル付加(H.Stetter、H.Kuhlmann、Synthesis 1979年、第29〜30頁)によって調製する。
【0048】
5,6−ジフルオロ−2−(2−ヒドロキシメチルヘプチル)インダン−1−オール
【0049】
【化26】

最初に、877mg(23.1mmol)の水素化アルミニウムリチウムを10mlのTHFに導入し、20mlのTHF中の5.0g(15.4mmol)の2−(5,6−ジフルオロ−1−オキソインダン−2−イルメチル)ヘプタン酸メチル溶液を滴下により氷冷しながら加える。冷却を取除き、反応物を攪拌し室温に2時間放置し、引き続き30分還流する。氷水を使用して加水分解後、濃塩酸を使用して溶液を酸性とし、水相を分離し、MTBエーテルで3回抽出する。合わされた有機相を水洗し、硫酸ナトリウム上で乾燥する。溶媒を真空で取除き、5,6−ジフルオロ−2−(2−ヒドロキシメチルヘプチル)インダン−1−オールが、更なる反応に十分純粋な無色のオイルとして与えられる。
【0050】
7,8−ジフルオロ−3−ペンチル−2,3,4,4a,5,9b−ヘキサヒドロインデノ[1,2−b]ピラン
【0051】
【化27】

6.0g(21.4mmol)の5,6−ジフルオロ−2−(2−ヒドロキシメチルヘプチル)インダン−1−オールを70mlのジクロロメタンおよび10mlのピリジンに溶解し、9.5g(50mmol)のp−トルエンスルホニルクロリドを氷冷しながら添加する。冷却を取除き、反応物を攪拌し室温に一晩放置する。100mlのジクロロメタンを添加後、溶液を2N塩酸で3回、水および硫酸銅溶液でそれぞれ1回洗浄し、硫酸ナトリウム上で乾燥する。溶媒を真空で取除くと、7,8−ジフルオロ−3−ペンチル−2,3,4,4a,5,9b−ヘキサヒドロインデノ[1,2−b]ピランの異性体混合物が与えられ、シリカゲル上のクロマトグラフィー(溶離液ヘプタン/トルエン5:1)で分離され、(3R,4aS,9bR)−7,8−ジフルオロ−2,3,4,4a,5,9b−ヘキサヒドロ−3−ペンチルインデノ[1,2−b]ピランのラセミ化合物およびそのエナンチオマーが無色の固体として与えられ、Δε=13.4、Δn=0.1021である。
【0052】
<更なる化合物例>
表1中の下に示される式Iの化合物を、例1〜10に類似して調製する。
【0053】
【表1】


【0054】
【表2】

【0055】
【表3】

【0056】
【表4】

【0057】
【表5】

【0058】
【表6】

【0059】
【表7】

【0060】
【表8】

【0061】
【表9】

【0062】
【表10】

【0063】
【表11】

【0064】
【表12】

【0065】
【表13】

【0066】
【表14】

【0067】
【表15】

【0068】
【表16】

【0069】
【表17】

【0070】
【表18】

【0071】
【表19】

【0072】
【表20】

【0073】
【表21】

【0074】
【表22】

【0075】
【表23】

【0076】
【表24】

【0077】
【表25】

【0078】
【表26】

【0079】
【表27】

【0080】
【表28】

【0081】
【表29】

【0082】
【表30】

【0083】
【表31】

【0084】
【表32】

【0085】
【表33】

【0086】
【表34】

【0087】
【表35】

【0088】
【表36】

【0089】
【表37】

【0090】
【表38】

【0091】
【表39】

【0092】
【表40】

【0093】
【表41】

【0094】
【表42】

【0095】
【表43】

【0096】
【表44】

【0097】
【表45】

【0098】
【表46】

【0099】
【表47】

【0100】
【表48】

【0101】
【表49】

【0102】
【表50】

【0103】
【表51】

【0104】
【表52】

【0105】
【表53】

【0106】
【表54】

【0107】
【表55】

【0108】
【表56】

【0109】
【表57】

【0110】
【表58】

【0111】
【表59】

【0112】
【表60】

【0113】
【表61】

【0114】
【表62】

【0115】
【表63】

【0116】
【表64】

【0117】
【表65】

【0118】
【表66】

【0119】
【表67】

【0120】
【表68】

【0121】
【表69】

<混合物例1>
以下からなる混合物
【0122】
【表70】

は、室温でネマチックであり、5V未満のDAP閾値を有する。それは、VA型電気光学的ディスプレイ素子に適している。
【0123】
<混合物例2>
以下の混合物
【0124】
【表71】

は、室温でネマチックであり、5ボルト未満のフレデリクス閾値を有する。それは、IPS型電気光学的ディスプレイ素子に適している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式Iの三環式芳香族類。
【化1】

(式中、
、A、A、Aは、それぞれ互いに独立に、1,4−シクロヘキシレン、1,4−シクロヘキセニレンまたは1,4−シクロヘキサジエニレン基(これらは置換されていないか、または1〜4個のF原子で置換されており、式中、それぞれの場合で互いに独立に、1個または2個のCH基は、ヘテロ原子が互いに直接結合しないように、−O−または−S−で置き換えられていてもよい。)、1,4−フェニレン基(該基は、1個または2個のフッ素または塩素原子で置換されていてもよく、ただし、加えて、1個または2個のCH基はNで置き換えられていてもよい。)、または、1,4−ビシクロ[2.2.2]オクチレン基または2,6−スピロ[3.3]ヘプチレン基を表し、
−Qは、O−CH、CH−O、O−CF、CF−O、CH−CH、O−COまたはCO−Oを表し、
、Rは、それぞれ互いに独立に、1〜12個のC原子を有するアルキル基を表し、該基は置換されていないか、またはハロゲンによって少なくとも一置換されており、ただし、1個以上の隣接していないCH基は、それぞれ互いに独立に、−O−、−S−または−CO−で置き換えられていてもよく、2個の隣接しているCH基は、それぞれ、−CH=CH−、−CF=CF−、−COO−、−OOC−、−C≡C−または1,2−シクロプロパニレン基で置き換えられていてもよく、または3個の隣接しているCH基は1,3−シクロブタニレン基で置き換えられていてもよく、または、RのみまたはRのみの何れか一方がHでもよいことを前提として、F、Cl、−OCF、−OCHF、−CN、−NCSまたはHを表し、
、X、Xは、それぞれ互いに独立に、H、FまたはClを表し、
、Z、Z、Zは、それぞれ互いに独立に、単結合、−CHCH−、−CHO−、−OCH−、−CHCF−、−CFCH−、−CFO−、−OCF−、−COO−、−OOC−、−CH=CH−、−CF=CF−、−C≡C−を表し、および
q、r、s、t、uは、それぞれ互いに独立に、0または1を表す。)
【請求項2】
−QはO−CHの意味を有することを特徴とする請求項1に記載の三環式芳香族類。
【請求項3】
−QはO−CFの意味を有することを特徴とする請求項1に記載の三環式芳香族類。
【請求項4】
以下の一般式の請求項1または2に記載の三環式芳香族類。
【化2】

(式中、R、s、X、XおよびXは、示された意味を有する。)
【請求項5】
以下の一般式の請求項1または3に記載の三環式芳香族類。
【化3】

(式中、R、R、qおよびsは、示された意味を有する。)
【請求項6】
液晶媒体の成分としての請求項1ないし5の一項以上に記載の式Iの化合物の使用。
【請求項7】
請求項1ないし5の一項以上に記載の化合物を少なくとも1種類含むことを特徴とする、少なくとも2種類の液晶成分を有する液晶媒体。
【請求項8】
請求項7に記載の液晶媒体を含むことを特徴とする電気光学的ディスプレイ素子。
【請求項9】
1つの合成工程において、遷移金属触媒と共に一般に既知の方法で式IIの化合物を式IIIのボロン酸と反応させることを特徴とする、qが1を表しZが単結合を表す式Iの化合物の調製方法。
【化4】

(式中、
Yは塩素または臭素を表し、他の基は請求項1で定義されたとおりである。)
【化5】

(式中、
は1,4−フェニレン基を表し、該基は1個または2個のフッ素または塩素原子で置換されていてもよく、他の基は請求項1で定義されたとおりである。)

【公表番号】特表2009−524607(P2009−524607A)
【公表日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−551668(P2008−551668)
【出願日】平成18年12月29日(2006.12.29)
【国際出願番号】PCT/EP2006/012593
【国際公開番号】WO2007/085297
【国際公開日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【出願人】(591032596)メルク パテント ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (1,043)
【氏名又は名称原語表記】Merck Patent Gesellschaft mit beschraenkter Haftung
【住所又は居所原語表記】Frankfurter Str. 250,D−64293 Darmstadt,Federal Republic of Germany
【Fターム(参考)】