説明

上ルーパ駆動機構の防塵装置

【課題】 上ルーパ台案内に付着したダストが上ルーパ台案内の揺動に伴い上ルーパ台案内と上ルーパ土台の摺動面あるいは上ルーパ台室に侵入することを防止する上ルーパ駆動機構の防塵装置を提供する。
【解決手段】 上ルーパ台案内7の外周面7aには溝部7b,7cが上ルーパ台案内7の前端から後端まで延設され、該溝部7b,7cにシール体19,20が固着されている。シール体19,20は先端がテーパー状に形成され一部が溝部7b,7cから突出し他部が溝部7b,7cに埋没している。シール体19,20は上ルーパ台案内7の揺動時に、常時上ルーパ台案内7と上ルーパ土台4の摺動面上に位置されるように設定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミシンの防塵装置において、詳しくはオーバーロックミシンの上ルーパ駆動機構の防塵装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の上ルーパ駆動機構の防塵装置としては、上ルーパ台が貫通する上ルーパ台案内の貫通孔にシール体を設けたものが従来より知られている(例えば、特許文献1参照)。
特許文献1記載の発明は、上ルーパ機構(上ルーパ駆動機構)に供給される潤滑油のうち、上ルーパ台に付着した余剰分の潤滑油を掻き取るために、上ルーパ台案内の貫通孔上端部にオイルシールリップ付きのシール部材(シール体)を嵌挿したものである。
さらに、前記シール部材にはダストシールリップが形成されており、公知の上ルーパ機構の運動により上ルーパ台が下降する時、シール部材の上方で上ルーパ台に付着したダストが該ダストシールリップにより上ルーパ台から掻き取られることで、該ダストが上ルーパ台と上ルーパ台案内の摺動面に侵入することを防止する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−273512号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、上ルーパ台案内に付着したダストは、上ルーパ台案内の揺動に伴い上ルーパ台案内と上ルーパ土台の摺動面にも侵入する。そして、上ルーパ台案内と上ルーパ土台の摺動面に侵入したダストは上ルーパ台案内や上ルーパ土台の摩損・磨耗原因となり、その結果該摺動面において摺動異常が生じる。さらに、前記摺動面に侵入したダストは上ルーパ台室にまで到達し、該上ルーパ台室に堆積することがある。上ルーパ台室に堆積したダストは上ルーパ台室に供給された潤滑油を吸収し、上ルーパ台の焼き付きなどの潤滑異常を引き起こすことがあった。
【0005】
したがって、本発明の課題は上ルーパ台案内に付着したダストが上ルーパ台案内の揺動に伴い上ルーパ台案内と上ルーパ土台の摺動面あるいは上ルーパ台室に侵入することを防止する上ルーパ駆動機構の防塵装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記目的を達成するために、請求項1に記載の上ルーパ駆動機構の防塵装置は、
前後に貫通して形成される円形孔を備え、ミシンフレームに固着される上ルーパ土台と、
前記円形孔に円周方向に揺動自在に装着される円柱状の上ルーパ台案内と、
前記上ルーパ台案内を直径方向に貫通して形成される貫通孔に摺動自在に挿通される上ルーパ台と、
前記上ルーパ台案内より上方に突出する前記上ルーパ台の上端に取着される上ルーパとを備え、
前記上ルーパ台は主軸に連動して揺動する上ルーパ軸と上ルーパレバーにより連結されており、
前記上ルーパ軸に連動して前記上ルーパ台が前記上ルーパ台案内の揺動に案内されながら昇降するようにされた上ルーパ駆動機構において、
前記上ルーパ台案内と前記上ルーパ土台の互いに摺接する摺動面のいずれか一方にシール体を設けたことを特徴とする。
【0007】
なお、請求項2に記載の上ルーパ駆動機構の防塵装置は、
前記上ルーパ台案内の外周面に溝部を設け、
前記溝部に前記シール体が固着され、
前記シール体は、
先端がテーパー状に形成され一部が溝部から突出し他部が溝部に埋没しており、
シール体の前後長さが上ルーパ台案内の前後幅と同一あるいは略同一に形成されていることを特徴とする。
【0008】
さらに、請求項3に記載の上ルーパ駆動機構の防塵装置は、
前記シール体は、前記上ルーパ台案内の揺動時に、常時前記上ルーパ台案内と前記上ルーパ土台の摺動面上に位置されるように設定されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、上ルーパ台案内と上ルーパ土台のいずれか一方の摺動面に設けたシール体により、上ルーパ台案内に付着したダストがシール体より下方に侵入することを防止できる。すなわち、上ルーパ台案内に付着したダストが上ルーパ台案内の揺動に伴い上ルーパ台案内の摺動面あるいは上ルーパ台室に侵入することを防止できるので、摺動面における摺動異常や上ルーパ台室における潤滑異常を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】前カバーを取外した状態のオーバーロックミシンの正面図。
【図2】上ルーパ駆動機構の部分断面正面図。
【図3】上ルーパ駆動機構の分解斜視図。
【図4】シール体を取外した状態の上ルーパ台案内の(a)正面図と(b)斜視図。
【図5】シール体を取付けた状態の上ルーパ台案内の(a)断面正面図と(b)上面図。
【図6】上ルーパ台の(a)右死点と(b)左死点。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
図1は、オーバーロックミシン全体を示す正面図で、通常ミシンベッドAの前面には前カバー(図示しない)が取付けてあるが、図1ではこの前カバーを取外し、上ルーパ駆動機構Bがミシン前面に現れた状態を示している。
【0012】
図2は上ルーパ駆動機構Bの部分断面正面図、図3は上ルーパ駆動機構Bの分解斜視図である。図2および図3に基いて、上ルーパ駆動機構Bについて説明する。上ルーパ土台4は一対の横向きに並設される各長穴1,1を通してミシンベッドAのフレーム2にボルト3,3がそれぞれ捩じ込まれて固定されている。上ルーパ土台4は長穴1,1の範囲内で横方向に位置調整可能に固定されている。上ルーパ土台4には、上ルーパ土台4を前後に貫通する円形状の円形孔5と円形孔5と直交し上ルーパ土台4を上下に貫通する縦孔6が形成されている。円形孔5には円柱状の上ルーパ台案内7が円周方向に揺動自在に装着されている。上ルーパ台案内7の外周面7aと上ルーパ土台4の円形孔5の内周面5aは互いに摺接する摺動面をそれぞれ有する。
【0013】
上ルーパ台案内7には上ルーパ台案内7を直径方向に貫通して貫通孔8が形成されている。軸状の上ルーパ台9は貫通孔8に摺動自在に挿通されている。上ルーパ台案内7および上ルーパ土台4の縦孔6より上方に突出する上ルーパ台9の上端には上ルーパ10がネジ11で取着されている。上ルーパ台9の下端には二又部9aが形成され、二又部9aと上ルーパ軸14は上ルーパレバー15により連結されている。上ルーパ軸14はミシン主軸(図示しない)に連動して軸周りに揺動するようにされてあり、上ルーパ軸14が揺動すると、上ルーパレバー15は上ルーパ台9に連結された先端が上下に揺動し、上ルーパ台9が上ルーパ台案内7の揺動に案内されながら昇降する。
【0014】
図2に示すように、上ルーパ台案内7の貫通孔8上端には貫通孔8と中心軸線を同じくする挿入孔16が形成されている。挿入孔16の径は貫通孔8の径より大かつ上ルーパ台案内7の前後幅より小である。挿入孔16にはオイルシールリップ17aおよびダストシールリップ17bを有するシール体17が挿入孔16の上方から圧入されている。オイルシールリップ17aおよびダストシールリップ17bは上ルーパ台9の外周面に弾性的に摺接する。
【0015】
図3に示すように、上ルーパ土台4にはその前面に板状の上ルーパ土台カバー18が固定され、上ルーパ台案内7はフレーム2と上ルーパ土台カバー18で前後から挟持されている。また、上ルーパレバー15や上ルーパ台9の下部等が配される上ルーパ台室Cは前面が前カバー(図示しない)で覆われる。上ルーパ台室Cには公知の給油機構により潤滑油が供給され、上ルーパ駆動機構Bの各摺動部に給油される。そして、上ルーパ台室Cにおいて上ルーパ台9に付着する潤滑油は上ルーパ台9の上昇時にオイルシールリップ17aによって掻き取られ、外部への潤滑油の漏洩を防止する。さらに、シール体17の上方で上ルーパ台9に付着するダストは上ルーパ台9の下降時にダストリールリップ17bによって掻き取られ、ダストが上ルーパ台9と上ルーパ台案内7の摺動面に侵入することを防止する。
【0016】
図4に示すように、上ルーパ台案内7の貫通孔8上端開口の近傍における外周面7aには貫通孔8上端開口を挟んで2つの溝部7b,7cが外周面7aの前端から後端まで延設されている。図5(a)に示すように、溝部7b,7cにはゴム状弾性部材からなるシール体19,20の基端がそれぞれ固着されている。シール体19の先端はルーパ台9側を頂点としたテーパー状に形成されており、一部が溝部7bから突出し他部が溝部7bに埋没している。また、シール体20の先端についても上ルーパ台9側を頂点としたテーパー状に形成されており、一部が溝部7cから突出し他部が溝部7cに埋没している。図5(b)に示す通り、シール体19,20の前後長さは上ルーパ台案内7の前後幅と同一あるいは略同一に形成されている。図6は上ルーパ台9が昇降するときの(a)右死点、(b)左死点である。図6(a)に示す通り、シール体19は上ルーパ台9の右死点時において、上ルーパ台案内7の外周面7aと上ルーパ土台4の円形孔5の内周面5aとの摺動面の最上部に位置する。また、図6(b)に示す通り、シール体20は上ルーパ台9の左死点時において、上ルーパ台案内7の外周面7aと上ルーパ土台4の円形孔5の内周面5aとの摺動面の最上部に位置する。つまり、シール体19,20は、上ルーパ台案内7の揺動時に、常時上ルーパ台案内7の外周面7aと上ルーパ土台4の円形孔5の内周面5aとの摺動面上に位置されるように設定されている。
【0017】
上述の上ルーパ駆動機構Bにおいて、シール体17の上方で上ルーパ台9に付着するダストのうちシール体17のダストシールリップ17bにより掻き取られたダストや上ルーパ台案内7の上方から飛散落下してくるダストの一部は、上ルーパ土台4の縦孔6を通じて上ルーパ台案内7の貫通孔8の上端部開口周辺に付着する。さらに、上ルーパ台案内7に付着した該ダストのうちシール体19の近傍に付着したダストの一部は、上ルーパ台案内7の反時計回りの揺動により、シール体19側における上ルーパ台案内7の外周面7aと上ルーパ土台4の円形孔5の内周面5aとの摺動面に侵入する。つまり、図6(b)に示す上ルーパ台9の左死点時において、ダストがシール体19より上方かつ上ルーパ台案内7の外周面7aと上ルーパ土台4の円形孔5の内周面5aとの摺動面に侵入した状態である。
【0018】
また、上ルーパ台案内7に付着した該ダストのうちシール体20の近傍に付着したダストの一部は、上ルーパ台案内7の時計回りの揺動により、シール体20側における上ルーパ台案内7の外周面7aと上ルーパ土台4の円形孔5の内周面5aとの摺動面に侵入する。つまり、図6(a)に示す上ルーパ台9の右死点時において、ダストはシール体20より上方かつ上ルーパ台案内7の外周面7aと上ルーパ土台4の円形孔5の内周面5aとの摺動面に侵入した状態である。
【0019】
次に、シール体19,20の作用を説明する。上ルーパ台案内7が上ルーパ土台4の円形孔5に装着された状態において、シール体19,20は上ルーパ台案内7の溝部7b,7c側へ縮められることで生じる弾性力により、自然状態において溝部7b,7cから突出していたシール体19,20の一部は上ルーパ土台4の円形孔5の内周面5aに弾性的に摺接することとなる。
【0020】
上述したシール体19の先端形状により、上ルーパ台案内7の時計回りの揺動時、自然状態において溝部7bから突出していたシール体19の一部はそれぞれ上ルーパ土台4の円形孔5の内周面5aに追従しようとして上ルーパ台案内7の反時計回りの方向に曲折し、よりいっそう上ルーパ土台4の円形孔5の内周面5aに弾性的に摺接することとなる。したがって、上ルーパ台案内7の時計回りの揺動時には、シール体19より上方かつ上ルーパ台案内7の外周面7aと上ルーパ土台4の円形孔5の内周面5aとの摺動面に侵入したダストはシール体19により該摺動面から上ルーパ土台4の縦穴6に掻き出される。
【0021】
また、シール体20についてもシール体19と同様の作用を有する。つまり、上述したシール体20の先端形状により、上ルーパ台案内7の反時計回りの揺動時、自然状態において溝部7cから突出していたシール体20の一部はそれぞれ上ルーパ土台4の円形孔5の内周面5aに追従しようとして上ルーパ台案内7の時計回りの方向に曲折し、よりいっそう上ルーパ土台4の円形孔5の内周面5aに弾性的に摺接することとなる。したがって、上ルーパ台案内7の反時計回りの揺動時には、シール体20より上方かつ上ルーパ台案内7の外周面7aと上ルーパ土台4の円形孔5の内周面5aとの摺動面に侵入したダストはシール体20により該摺動面から上ルーパ土台4の縦穴6に掻き出される。
【0022】
なお、上記実施の形態では、上ルーパ台案内7の外周面7aにシール体19,20を設けたが、上ルーパ土台4の円形孔5の内周面4aにシール体を設けても良い。さらに、シール体19,20に加えて、上ルーパ台案内7の後面とフレーム2との摺動面や上ルーパ台案内7の前面と上ルーパ土台カバー18との摺動面にシール体を設けておけば、各摺動面を通じてダストが上ルーパ台室Cに侵入するのを防止できる。
【符号の説明】
【0023】
A ミシンベッド
B 上ルーパ駆動機構
C 上ルーパ台室
4 上ルーパ土台
5 円形孔
7 上ルーパ台案内
7b 溝部
7c 溝部
9 上ルーパ台
14 上ルーパ軸
15 上ルーパレバー
19 シール体
20 シール体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前後に貫通して形成される円形孔を備え、ミシンフレームに固着される上ルーパ土台と、
前記円形孔に円周方向に揺動自在に装着される円柱状の上ルーパ台案内と、
前記上ルーパ台案内を直径方向に貫通して形成される貫通孔に摺動自在に挿通される上ルーパ台と、
前記上ルーパ台案内より上方に突出する前記上ルーパ台の上端に取着される上ルーパとを備え、
前記上ルーパ台は主軸に連動して揺動する上ルーパ軸と上ルーパレバーにより連結されており、
前記上ルーパ軸に連動して前記上ルーパ台が前記上ルーパ台案内の揺動に案内されながら昇降するようにされた上ルーパ駆動機構において、
前記上ルーパ台案内と前記上ルーパ土台の互いに摺接する摺動面のいずれか一方にシール体を設けたことを特徴とする上ルーパ駆動機構の防塵装置。
【請求項2】
前記上ルーパ台案内の外周面に溝部が設けられ、
前記溝部に前記シール体が固着され、
前記シール体は、
先端がテーパー状に形成され一部が溝部から突出し他部が溝部に埋没しており、
シール体の前後長さが上ルーパ台案内の前後幅と同一あるいは略同一に形成されている請求項1に記載の上ルーパ駆動機構の防塵装置。
【請求項3】
前記シール体は、前記上ルーパ台案内の揺動時に、常時前記上ルーパ台案内と前記上ルーパ土台の摺動面上に位置されるように設定されている請求項1または請求項2に記載の上ルーパ駆動機構の防塵装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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