説明

下水汚泥焼却炉の排ガス中のN2O除去方法

【課題】下水汚泥焼却炉の排ガス中に含まれるNOを、水蒸気による触媒活性の低下を回避しつつ工業的に効率良く除去することができる方法を提供する。
【解決手段】下水汚泥焼却炉1から出た800〜850℃の高温の排ガスを、排煙処理塔6を備えた排ガス処理設備により処理し、60℃以下に冷却する。これにより排ガス中の含有水蒸気濃度を20体積%以下にまで低下させたうえ、加熱器9に通して300〜550℃に再加熱する。この排ガスを還元剤の存在下でNO除去触媒8と接触させ、排ガス中のNOを還元除去する。この方法により、NOを90%程度除去することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下水汚泥焼却炉から排出される高温の排ガス中に含まれるNOを除去する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
下水汚泥焼却炉の排ガス中には、下水汚泥中の有機分に由来するNO(亜酸化窒素)が数百ppmのオーダーで含まれている。このNOは、地球温暖化係数が310である温室効果ガスの一つである。すなわちNOはCOの310倍の地球温暖化効果を持ち、京都議定書においても規制対象とされているガスである。従って地球温暖化を抑制するためには、下水汚泥焼却炉の排ガス中に含まれるNOを大幅に低減する必要がある。
【0003】
そこで一部の下水汚泥焼却炉においてはNO排出量の低減対策として、「高温焼却」が採用されている。これは焼却炉に重油や都市ガスなどの燃料を追加することにより、焼却温度を従来の800℃より高い850℃以上の温度域にまで高める方法であり、これによってNOの排出量を従来よりも6〜7割削減することができる。しかしこの「高温焼却」を行っても3〜4割のNOは依然として排出されるうえ、従来よりも余分の補助燃料が必要となるからCOの排出量が増加し、かつ焼却コストもかかるという問題がある。
【0004】
そこで特許文献1及び特許文献2に示されるように、ゼオライトにFe成分を担持させたFe‐ゼオライト触媒を用い、各種排ガス中のNOを還元除去する技術が提案されている。この技術は400℃程度でFe‐ゼオライト触媒の存在下において還元剤(炭化水素やアンモニア)とNOを反応させ、NOを還元除去するものであり、その反応式は次の通りである。
O+1/4CH→N+1/4CO+1/2H
O+2/3NH→+3/4N+H
【0005】
この触媒を用いれば、上記した「高温焼却」の問題点は解決することができる。しかし下水脱水汚泥は含有率が80%と大量の水分を含むため、下水汚泥焼却炉の排ガス中にも35〜50体積%という高濃度の水蒸気が含まれている。そして上記したFe‐ゼオライト触媒は水分によって触媒活性が大幅に低下するため、特許文献1及び特許文献2に示される触媒を利用したとしても、下水汚泥焼却炉の排ガス中に含まれるNOを工業的に効率良く除去することは困難であった。
【特許文献1】特許第3550653号公報
【特許文献2】特許第3681769号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って本発明の目的は、上記した従来の問題点を解決し、下水汚泥焼却炉の排ガス中に含まれるNOを、水蒸気による触媒活性の低下を回避しつつ工業的に効率良く除去することができる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するためになされた本発明は、下水汚泥焼却炉の排ガスを、排煙処理塔を備えた排ガス処理設備により60℃以下に冷却することにより含有水蒸気濃度を低下させたうえ、前記排煙処理塔よりも前段に設置した加熱器に通して300〜550℃に再加熱し、還元剤の存在下でNO除去触媒と接触させ、排ガス中のNOを還元除去することを特徴とするものである。
【0008】
なお、本発明においては請求項2のように、排ガスを60℃以下に冷却することにより、含有水蒸気濃度を20体積%以下にまで低下させることが好ましい。また請求項3のように、排煙処理塔を通過して60℃以下に冷却された排ガスを、NO除去触媒を通過した排ガスの保有熱を利用して予熱したうえ、加熱器に通すことができる。またNO除去触媒として、ゼオライトにFe成分を担持させたFe‐ゼオライト触媒を使用することを特徴とすることができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、下水汚泥焼却炉の排ガスを排ガス処理設備により60℃以下に冷却することにより含有水蒸気濃度を低下させたうえで300〜550℃に再加熱し、還元剤の存在下でNO除去触媒と接触させる。このためNO除去触媒の活性を低下させることなく排ガス中のNOを除去することができ、後記する実験データに示すように90%を越えるNO除去率を達成することができる。
【0010】
また、排煙処理塔において浄化された排ガスをNO除去触媒に通すので、SOやHClなどによって触媒の寿命が低下することもなく、長期間にわたり安定した操業が可能である。また、「高温焼却」のように焼却温度を高める必要はなく、排ガスの再加熱のために余分の熱源も必要としないので、COの排出量が増加することもない。さらに、NO除去触媒を通過した排ガスは十分に暖められているため、煙突で水蒸気の白煙が生じることもない等の多くの利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に本発明の実施形態を説明する。
図1は下水汚泥焼却設備の一般的なフローを示すもので、下水脱水汚泥は下水汚泥焼却炉1において重油その他の補助燃料を用いて焼却される。前記した「高温焼却」を行わない場合、燃焼温度は通常800〜850℃の範囲である。下水汚泥焼却炉1は例えば流動炉であるが、その種類は特に限定されるものではない。
【0012】
この下水汚泥焼却炉1から排出された800〜850℃程度の高温の排ガスは、空気予熱器2に導かれて下水汚泥焼却炉1に供給される空気を予熱し、400〜550℃で白煙防止予熱器3に送られる。白煙防止予熱器3は煙突7から水蒸気の白煙が出ることを防止するために、煙突7から放出される排ガスに加えるための加熱空気を得る装置であり、この白煙防止予熱器3を通過した排ガスは300℃程度まで降温する。
【0013】
この排ガスは冷却塔4において更に200℃程度まで冷却されたうえで、バグフィルタ5において含有するダストを除去される。バグフィルタ5を通過して浄化された排ガスは排煙処理塔6に送られ、上方からの降水と接触して排ガス中のSOやHClを除去される。排煙処理塔6で水と接触した排ガスは温度が60℃以下にまで低下しているが、前記の白煙防止予熱器3によって加熱された300℃前後の空気と混合され、煙突7から大気中に放出される。
【0014】
このような従来のフロー中にFe‐ゼオライト系のNO除去触媒を組み込む場合、NO除去触媒は300〜400℃の温度が必要であるので、その設置位置は空気予熱器2と白煙防止予熱器3との間、あるいは白煙防止予熱器3と冷却塔4との間の区間になる。この区間における一般的な排ガス組成を表1に示す。
【0015】
【表1】

【0016】
このように、この区間における排ガスは45体積%という大量の水蒸気を含有しているうえに、SOとHClの濃度が高い。これらは焼却対象物である下水脱水汚泥の含水率が高いことと、下水汚泥に含まれるSやClに起因するものである。このため、この状態の排ガスをFe‐ゼオライト系のNO除去触媒に通すと、水蒸気が障害となってNOの除去率が低下し、またSOやHClにより触媒寿命が短縮化されることとなる。なお特許文献1にはこの触媒は水蒸気含有率が20%までのガスに適用できると説明されているが、上記したような水蒸気含有率が45%のガスには適用不能である。
【0017】
そこで本発明では図2、図3の実施形態に示すように、排煙処理塔6を通過した排ガスを再加熱してNO除去触媒8と接触させる新規なフローを用いる。これらの実施形態においても、下水汚泥焼却炉1、空気予熱器2、冷却塔4、バグフィルタ5、排煙処理塔6は図1に示した従来例と同様であるが、従来の白煙防止予熱器3に代えて、冷却塔4の前段に加熱器9が設置されている。この加熱器9は排煙処理塔6を出た排ガスを再加熱するためのものである。
【0018】
図2のフローにおいても、排ガスはバグフィルタ5を備えた排ガス処理設備を通過する間にダストを除去されたうえ、排煙処理塔6で水と接触しSOやHClを除去されることは図1のフローと同様である。しかし排ガスはこの排煙処理塔6で60℃以下にまで冷却されることによって水分を凝結させ、含有水蒸気濃度を20体積%以下にまで低下させた乾燥状態で加熱器9に送られて、300〜500℃程度に加熱される。なお、排煙処理塔6の出口における排ガス組成の一例は、表2に示すとおりである。
【0019】
【表2】

【0020】
O除去触媒8としては、特許文献1、2に示されるようなFe‐ゼオライト系の触媒が用いられる。これはβ型ゼオライトに鉄や鉄イオンを担持させたものである。加熱器9で300〜500℃程度に加熱された排ガスは、還元剤を添加されNO除去触媒8に送られる。排ガスとの接触効率を高めるために、NO除去触媒8はハニカム状あるいは粉末状としておくことができる。
【0021】
還元剤としては、メタン、プロパン等の炭化水素や、アンモニアが用いられる。これらの還元剤の添加量は理論量の1〜2倍とすることが好ましく、還元剤の添加量はNO濃度に比例して調整することがより好ましい。還元剤の添加量が過剰となると、反応しなかった還元剤は煙突7から大気中に放出されることとなるが、入手容易な炭化水素であるCHは地球温暖化係数21の温暖化ガスである。またアンモニアは悪臭防止法の対象物質である。このため、過剰量の還元剤の放出はできるだけ避けるべきである。
【0022】
図2のフローによれば、加熱器9で300〜500℃程度に加熱された排ガスは還元剤の存在下でNO除去触媒8と接触し、排ガス中のNOは窒素に還元して除去される。還元反応式は前記のとおりである。本発明においては排ガスの含有水蒸気濃度を20体積%以下にまで低下させてあり、かつ排ガス温度も300〜500℃に昇温されているので、90%を越えるNO除去率を達成することができる。しかもこの昇温は排ガスの保有熱を利用して行われるので、余分の燃料を必要とせず、余分のCOを排出することもない。さらに、排煙処理塔6でSOやHClを除去されているので、触媒寿命が低下することもない。なお、排ガスの再加熱温度が300℃未満ではNOの除去率が低く、550℃を越えると触媒寿命が低下するので好ましくない。
【0023】
図2のフローではNO除去触媒8を通過しNOが還元された排ガスは、300〜500℃のままで煙突7から放出される。このように排ガス温度は高くなるため、煙突7から水蒸気の白煙が発生することもない。
【0024】
しかしこの高温の排ガスを図3のフローに示すように別の加熱器10に通し、排煙処理塔6を通過して60℃以下に冷却された排ガスを、加熱器10で予熱したうえで加熱器9に通すこともできる。図3のフローは図2のフローに加熱器10を付加したものであり、その他の構成は図2と同一であるから説明を省略する。
【0025】
以下に本発明の効果を確認するために行った実験の結果を示す。
まず、特許文献1の実施例1に示された方法で、βゼオライトに2価の鉄イオンを担持させたNO除去触媒を製造した。得られた触媒は粉末状であり、その0.5gを反応管に充填し、表3に示す条件1と条件2のサンプルガスを流し、生成物をガスクロマトグラフで測定して、NOの除去率を評価した。ガス流量は何れも1slm(スタンダードリッターパーミニッツ:L/分)であり、ガス温度はいずれも450℃である。なおNがバランスとなっているのは、残部の意味である。
【0026】
【表3】

【0027】
上記のように、含有水蒸気濃度が35体積%の場合にはNO除去率が38%であったが、含有水蒸気濃度を10体積%まで低下させると、NO除去率は98%にまで上昇した。この実験によって、本発明の効果を確認することができた。
【0028】
次に排ガス中に含まれるSOとHClが触媒に与える影響を確認するため、上記と同様にβゼオライトに2価の鉄イオンを担持させたNO除去触媒0.5gを反応管に充填し、表4に示す条件3と条件4のサンプルガスを流し、NOの除去率を評価した。ガス流量は何れも1slm(L/分)であり、ガス温度はいずれも400℃である。ただしNOの除去率はガスを流し始めてから、20時間後に評価した。含有水蒸気濃度は10体積%である。
【0029】
【表4】

【0030】
この実験により、ガス中にSOとHClが含まれる場合にはNOの除去率が20時間で68%にまで低下したが、ガス中にSOとHClが含まれていない場合にはNOの除去率は87%であり、触媒寿命が長くなることが確認できた。本発明では排煙処理塔6によりSOやHClを除去した排ガスをNO除去触媒と接触させることができるため、長期間にわたり触媒活性を維持できることとなる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】下水汚泥焼却設備の一般的なフローを示すブロック図である。
【図2】本発明の第1の実施形態のフローを示すブロック図である。
【図3】本発明の第2の実施形態のフローを示すブロック図である。
【符号の説明】
【0032】
1 下水汚泥焼却炉
2 空気予熱器
3 白煙防止予熱器
4 冷却塔
5 バグフィルタ
6 排煙処理塔
7 煙突
8 NO除去触媒
9 加熱器
10 他の加熱器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下水汚泥焼却炉の排ガスを、排煙処理塔を備えた排ガス処理設備により60℃以下に冷却することにより含有水蒸気濃度を低下させたうえ、前記排煙処理塔よりも前段に設置した加熱器に通して300〜550℃に再加熱し、還元剤の存在下でNO除去触媒と接触させ、排ガス中のNOを還元除去することを特徴とする下水汚泥焼却炉の排ガス中のNO除去方法。
【請求項2】
排ガスを60℃以下に冷却することにより、含有水蒸気濃度を20体積%以下にまで低下させることを特徴とする請求項1記載の下水汚泥焼却炉の排ガス中のNO除去方法。
【請求項3】
排煙処理塔を通過して60℃以下に冷却された排ガスを、NO除去触媒を通過した排ガスの保有熱を利用して予熱したうえ、加熱器に通すことを特徴とする請求項1記載の下水汚泥焼却炉の排ガス中のNO除去方法。
【請求項4】
O除去触媒として、ゼオライトにFe成分を担持させたFe‐ゼオライト触媒を使用することを特徴とする請求項1記載の下水汚泥焼却炉の排ガス中のNO除去方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−227728(P2010−227728A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−167370(P2007−167370)
【出願日】平成19年6月26日(2007.6.26)
【出願人】(507214083)メタウォーター株式会社 (277)
【Fターム(参考)】