説明

下水管路用浄水装置及び下水管路用浄水方法

【課題】下水処理場に供給される下水を下水処理場の生物処理に適するように適正化する下水管路における浄水技術を提供する。
【解決手段】下水管路用浄水装置1,20は、下水に浸漬するように下水管路内底部に配置される、硝化細菌が定着可能な通水性の固定床5,21と、固定床中に酸素を供給するための酸素供給手段9,23とを有する。硝化細菌が定着可能な通水性の固定床を下水管路内底部に配置して下水に浸漬し、固定床中に酸素を供給して固定床中で硝化細菌の増殖を促進することによって、下水管路の下水に含まれるアンモニア態窒素を酸化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下水処理場へ下水を送水する下水管路内の下水を浄化する下水管路用浄水装置及び下水管路用浄水方法に関し、特に、下水管路中での有機物の分解によって下水処理場に達する下水の水質が下水処理場での浄化処理に適した範囲から逸脱することを抑制するのに有効な下水管路用浄水装置及び下水管路用浄水方法に関する。
【背景技術】
【0002】
家庭等から排出される下水は、そのまま公共用水域に放流すると、感染症の蔓延や放流先の酸素欠乏、水質悪化、水資源としての価値低下など、様々な悪影響を及ぼす。このため、近代都市においては、排水を下水管路を通じて下水処理場に集めて浄化した後に公共用水域に放流するように設計されている。
【0003】
従来の下水浄化は、病原菌や有機性汚濁物質が処理対象であったので、懸濁物の分離・除去、溶解性有機物の生物分解及び消毒を下水処理場において行い、下水管路については下水処理場への迅速且つ円滑な配水が主な役割であった。
【0004】
しかし、近年、窒素化合物及びリン化合物による水域の富栄養化が問題となり、窒素及びリンの除去も下水処理場の機能として求められるようになった。このため、技術開発及び実用化が進められた結果、硝化細菌及び脱窒細菌による生物処理を主体とした窒素除去、及び、凝集沈殿又はリン蓄積菌を利用した生物処理によるリン除去が実施されている。
【0005】
詳述すると、第1図のように、下水処理場Aにおいて、沈砂池Bを経て第一沈殿池Cで懸濁物を除去された下水Sは、脱窒槽Dに流入して後続の硝化槽から還流される水に含まれる硝酸イオンが混合され、下水中の有機物を取り込んだ微生物による硝酸イオンの還元反応により、硝酸イオンが窒素ガスに変換されて水中から除去される。一方、下水S中に含まれる窒素化合物(主としてアンモニア)は、硝化槽Eにおいて硝化細菌によって硝酸イオンなどに酸化され、前段の脱窒槽Dへ戻される還流水中の硝酸イオンが窒素ガスに変換されて大気中へ放出される。このようにして下水中の窒素化合物は、硝化槽Eから還流されずに放流される分を除く大部分(70〜90%)が除去され、第二沈殿池F及び消毒槽Gを経て放流される。ここで、下水中の有機物濃度が低いと、硝酸イオンの還元に必要な有機物が不足して脱窒槽Dでの窒素除去率が低下する。それを補うためにメタノールなどの有機物源を人為的に加える方法もあるが、当然、費用が増加する。下水処理に適する下水の有機物(BODで表示)/窒素の比率は、理論上2.8以上であり、実際には3〜4以上の比率であることが必要とされる(非特許文献1参照)。リン除去についても、やはり有機物の濃度が高くないと良好に進行しない(非特許文献1参照)。つまり、窒素除去及びリン除去のためには、下水処理場に流入する下水中の有機物濃度ができるだけ高い方が望ましい。
【0006】
一方、下水管路H中の下水Sは、管路の大部分を占める流下管Haにおいて自然流下し、管路内で水面から下水に酸素が溶解する。従って、酸素呼吸をする微生物が下水管路内で増殖し易く、下水S中の有機物が微生物によって酸化分解されるため、下水Sの有機物濃度が低下する。また、一部にある圧送管Hbでは、酸素の代わりに硫酸イオンを用いて有機物を酸化する硫酸還元菌が繁殖し、やはり有機物濃度を低下させる。
【0007】
下水管路Hに何等かの操作を加えて浄化を補助する試みとして従来提案されているものには、合流式下水道の殺菌(下記特許文献1参照)や、発生する硫化水素に関する対策などがあり、特に、ポンプ場Pからの圧送管内で硫酸還元菌によって発生する硫化水素による腐食や臭気への対策として、多くの特許が提案されている(例えば、下記特許文献2〜6参照)。これらは、いずれも薬剤を下水管路に注入するという化学的な処理である。
【非特許文献1】五訂・公害防止の技術と法規〔水質編〕、公害防止の技術と法規編集委員会編、通商産業省環境立地局監修
【特許文献1】特開2004−122098号公報
【特許文献2】特公平08−018018号公報
【特許文献3】特許第3395576号
【特許文献4】特開2004−027682号公報
【特許文献5】特開平11−156373号公報
【特許文献6】特開2000−229291号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述のように、下水処理場における生物処理の技術が好適に実施されるためには、下水中の有機物濃度が窒素やリンの濃度に対して充分高いことが必要であり、生物処理が経済的に稼働するには、下水処理場に到達する下水にメタノールなどの有機物を添加せずにそのまま処理可能であることが望ましい。但し、このために下水処理水の富栄養化を許容するならば、これは公共用水域の富栄養化防止を推進する上で相反することであり、不適切である。
【0009】
本発明は、下水管路を通じて下水処理場に供給される下水の有機物/窒素の比率が下水処理場での生物処理に適したものとなるように下水管路中の下水を処理できる下水管路用浄水装置及び下水管路用浄水方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、下水管路内の下水中に硝化細菌の作用を利用可能な環境を提供することによって、下水の水質の適正化が可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
本発明の一態様によれば、下水管路用浄水装置は、下水に浸漬するように下水管路内底部に配置される、硝化細菌が定着可能な通水性の固定床と、前記固定床中に酸素を供給するための酸素供給手段とを有することを要旨とする。
【0012】
又、本発明の一態様によれば、下水管路用浄水方法は、硝化細菌が定着可能な通水性の固定床を下水管路内底部に配置して下水に浸漬し、前記固定床中に酸素を供給して前記固定床中で硝化細菌の増殖を促進することによって、下水管路の下水に含まれるアンモニア態窒素を酸化することを要旨とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、硝化細菌によるアンモニアの酸化、すなわち硝化が進行することによって、有機物を消費する生物反応が、酸素を消費する好気性反応から硝酸イオンを利用する嫌気性反応に切り替わり、アンモニア態窒素を窒素ガスとして除去できるので、下水の有機物/窒素比率の低下を抑制可能であり、下水処理場の生物反応に適した下水を下水管路から供給することができ、硫黄還元細菌による硫化水素ガスの発生も抑制可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
下水中の有機物を消費する微生物には、有機物及び酸素を取り込んで二酸化炭素を放出する好気性従属栄養細菌群、及び、有機物及び硝酸イオンを取り込んで窒素ガス及び二酸化炭素を放出する脱窒細菌がある。又、下水中の窒素化合物を消費する微生物には、アンモニア及び酸素を取り込んで硝酸イオンを放出する硝化細菌と、前述の脱窒細菌とがある。有機物に富み、水面から酸素を吸収可能な下水は、好気性従属栄養細菌群及び脱窒細菌にとっては存在し易いが、増殖の遅い硝化細菌は流水中での繁殖が難しい。また、硝酸イオンの供給に乏しい好気性条件では、脱窒細菌は酸素を利用する形態で生育し、硝酸イオンを利用する脱窒は進行しない。
【0015】
下水の窒素化合物濃度を低下させることが可能な微生物の作用としては、1)微生物細胞による取り込み、2)硝化ののち硝酸イオンの脱窒反応による窒素ガス放出、の2つがあるが、硝酸イオンに酸化する硝化細菌は増殖が遅く、自然流下する下水管路内の下水においては通常繁殖しないため、上記2)は進行しない。また、1)の微生物細胞に取りこまれる窒素化合物も、そのままでは下水処理場へ流入するので、実質的な窒素除去につながらない。従って、通常、上記1)及び2)の何れも、下水管路内の下水における窒素化合物の減少には役立っていない。リン蓄積菌についても、下水管路内で繁殖したという報告は聞かれない。これに比べて、硝化細菌より増殖が早い微生物(好気性従属栄養細菌群)は、流下する間に繁殖可能であり、水面を介して取り込まれる酸素を利用して下水中の有機物を消費・分解するので、有機物濃度は容易に低下する。下水が下水処理場の生物反応処理に適するには、下水の有機物/窒素比率が3以上、好ましくは4以上となる必要があるが、この点に関して、窒素化合物濃度が減少すれば、有機物濃度が低下しても有機物/窒素比率は低下しない。つまり、下水の好適化には窒素化合物の除去を促進することが重要である。窒素化合物濃度が減少しない最大の理由は硝化細菌が繁殖しないことである。換言すれば、下水の好適化には硝化細菌の繁殖を促進することが肝要であり、硝化細菌が繁殖すれば、生成した硝酸イオンは、下水中の脱窒細菌等が有機物と共に取り込んで窒素ガスへと変換することが可能である。
【0016】
そこで、本発明の下水管路用浄水方法では、増殖速度の遅い硝化細菌の繁殖を促すために、微生物が定着可能な通水性の固定床を下水管路内の底部に設置して下水中に浸漬し、固定床中に酸素を供給して固定床中で硝化細菌の繁殖を促進する。固定床中へ酸素を供給すると、固定床中の下水の酸素濃度は周囲の下水より高くなって硝化細菌が繁殖し易くなり、更に、固定床中では水流が抑制されて細菌が定着し易くなり、硝化細菌が増殖する前に下水処理場まで流下することが抑制されるので、増殖速度の遅い硝化細菌であっても床中に定着して増殖が進行する。固定床中の硝化細菌の増殖が促進されると、下水に含まれるアンモニア態窒素が硝酸イオンに酸化されて、固定床から周囲の下水に硝酸イオンが放散される。固定床の周囲においては、固定床中より下水の酸素濃度が低く、脱窒細菌を含む硝酸イオンを利用可能な微生物は、固定床から放出される硝酸イオンを取り込んで窒素ガスに変換し、これは下水外に放出される。従って、下水の窒素化合物濃度が減少する。この結果、有機物濃度が脱窒細菌等の取り込みによって減少しても、有機物/窒素比率の低下は相対的に抑制される。
【0017】
硝化細菌の硝化率は、溶存酸素濃度が0.5mg-O/Lを下回ると、最大活性時の半分以下に低下するので、固定床中の下水の溶存酸素濃度が0.5mg-O/L、好ましくは1mg-O/L以上となるように固定床中への酸素供給を調節するとよい。一方、固定床の外部の下水中では、好気性従属栄養細菌を抑制して脱窒細菌をできる限り増殖させ活性を高めるために、溶存酸素濃度を抑える必要がある。脱窒細菌の活性は、溶存酸素が1.0mg/L以上では最大活性の半分以下となる(参照:Elisabeth V.M. et al., "SIMULTANEOUS NITRIFICATION AND DENITRIFICATION IN BENCH-SALE SEQUENCING BATCH REACTORS", Wat. Res. vol.30, No.2, pp.277-284, 1996)ので、固定床の外側における下水の溶存酸素は1.0mg-O/L以下、好ましくは0.1mg-O/L以下となるのが好ましい(参照:福永・茂木、”オキシデーションディッチにおける窒素除去”、下水道協会誌、Vol. 21、No. 238、pp. 1-9、1984)。これらの点から、固定床内の溶存酸素が0.5mg/L以上、好ましくは1mg-O/L以上、外側の溶存酸素が1.0mg-O/L以下、好ましくは0.1mg-O/L以下となるように、固定床への酸素(空気)供給量を調整することによって、固定床内における硝化細菌の活性及び外側における脱窒細菌の活性を、各々、最大活性の半分以上に保持することができ、脱窒細菌等の作用による硝酸態窒素の脱窒が進行可能となる。外部の下水の溶存酸素濃度が1.0mg-O/L以下となるような実用的な酸素供給の設定としては、固定床中の下水の溶存酸素濃度が0.5〜3.0mg-O/Lの範囲となるように、固定床中への酸素の供給を調節することが有効であり、濃度勾配及び硝化細菌の取り込みによって固定床外部における溶存酸素濃度を1.0mg-O/L以下に抑制できる。
【0018】
硝酸イオンの供給によって、下水中で有機物を取り込んで活動する微生物の少なくとも一部の反応は、酸素利用型の反応から硝酸利用型の反応へ転換される。この転換は、有機物/窒素比率の低下抑制において重要である。
【0019】
従来の下水における試算として、有機物濃度がBOD換算で200mg/L、窒素化合物濃度がN換算で50mg/Lの下水が、下水管路を流下する間にBOD50mg/Lの有機物が酸化分解されたと仮定すると、下水のBOD/N比は、下水管路を流れる間に4.0から3.0まで低下し、窒素・リン除去には条件の悪いものに変化する。これに対し、本発明の下水管路用浄水装置を用いることにより、下水管路内で窒素化合物のうち15mg/Lのアンモニアが硝化されて硝酸イオンになり、これがBOD45mg/Lの有機物を利用した脱窒により窒素ガスとして除去されると、下水管路で酸化分解により消失する有機物の総量が変わらずBOD50mg/Lである場合には、下水の最終的なBOD/N比は150/35=4.3となる。この値は、少なくとも生物処理による窒素除去にとっては好適な値であり、下水処理場での窒素除去効率を従来より高め、メタノールなどの有機物の人為的添加を不要にすることが可能である。この試算に関して注意すべき点は、下水管路で酸素による酸化分解により消失する有機物の総量が増加すると、下水の最終的なBOD/N比の低下を抑制する効果が弱まる点であり、脱窒細菌の優先的増殖によって好気性従属栄養細菌を抑制し、微生物の活動が酸素利用型から硝酸利用型に転換することによって、酸化分解により消失する有機物総量を増加させずに硝化−脱窒を進行させることができ、下水の最終的なBOD/N比を効果的に上昇させることができる。
【0020】
以下に、上述の下水管路用浄化方法の実施に適した下水管路用浄水装置について具体的に説明する。
【0021】
図2は、下水管路内に設定された本発明の下水管路用浄水装置の一例を示し、(a)は下水管路径方向の断面を、(b)は、下水管路軸方向の断面図を各々示す。この下水管路用浄水装置1は、網目状の被覆構造物3と、被覆構造物3内に充填収容される粒状の充填材5と、充填材5内に嵌装される送気管7と、空気を供給するブロワ9とを有し、送気管7はブロワ9に接続される。粒状の充填材5は、被覆構造物3によって円筒形状に保持されて、微生物を繁殖させる間隙を粒間に備える通水性の固定床を構成する。固定床の寸法は、下水管路の規模及び水深に応じて、外径0.2〜2m程度、長さ1〜100m程度に適宜設定され、増水によって移動しないように固定具(図示省略)を用いて下水管路底部に固定される。充填材5の粒形状及び寸法、充填率並びに被覆構造物3の網目形状は、充填材5の間隙及び被覆構造物3の網目の目開きが1〜50mmの範囲、好ましくは5〜20mmの範囲となるように、又、空隙率が50%程度以上となるように適宜選定されて、有機固形物の浸入が防止され、微生物を増殖させる間隙が確保される。固定床の中心軸より下側に、軸方向と平行に延伸する送気管7によって中空路が形成される。送気管7は、多数の孔が設けられた散気部11を有し、マンホールM下に設置されるブロワ9から送気管7を通じて供給される空気は、散気部11の孔から充填材5の間隙へ吹き込まれる。散気部11の数及び配置は、固定床全体に空気が均等に供給されるように配慮して適宜設定される。一方、水平より僅かに傾斜する下水管路に沿って流れる下水は、網目状の被覆構造物3を通って内部の充填材5の間隙に浸入し、散気部11から吹き込まれる空気によって溶存酸素濃度が増加し、充填材5間の下水は好気的条件となる。この際、溶解性有機物及びアンモニアは被覆構造物3を通って充填材5間に供給されるが、網目状の被覆構造物3はフィルターとして機能して、下水に含まれる不溶物(つまり、固形物や懸濁物)は濾過されて充填材5間への浸入が防止される。充填材5の間隙では、充填材による流動抵抗で流れが緩慢な下水中で硝化細菌が増殖し、充填材5表面に付着したり充填材の間隙に沈殿保持されると共に、好気性条件でアンモニアを取り込んで硝酸イオンに酸化する。一方、有機物を酸化分解する微生物は、有機固形物が充填材の間隙に浸入し難いために、従来の下水管路ほどには繁殖しない。このため、硝化細菌の競争力が相対的に向上し、硝化作用が進行し易くなる。硝化の進行につれて、生成した硝酸イオンが被覆構造物3の網目を通過して周囲の下水中に拡散し、周囲の下水中では、豊富な有機物の存在下で脱窒細菌が硝酸イオンを取り込んで窒素ガスに還元して放出し、下水から離脱する。
【0022】
従って、従来、窒素化合物の濃度低下を伴わずに酸素や硫酸イオンを利用して酸化分解されていた有機物の少なくとも一部は、下水管路用浄水装置から供給される硝酸イオンを利用して有機物を酸化する細菌に利用され、窒素化合物の濃度低下を伴なうようになる。
【0023】
図2の下水管路用浄水装置1の固定床は、両端が閉じられた網目状の袋に円筒状に装填された粒状充填材で構成される屈曲可能な軸性体であるので、下水管路の屈曲に対応して設置することが可能である。固定床の形状は、円筒に限定されず、楕円柱、多角柱や、半円柱等の部分柱のような断面形状が異なる他の軸性形状であってもよい。このような軸性形状に構成すると、下水管路の底部の一部分のみを占有するので、増水時の下水の流れは殆ど阻害されない。充填材を構成する素材は、微生物が定着可能であれば特に制限はなく、植物繊維、木質、鉱物質等の天然素材やプラスチック等の合成素材から適宜選択して用いればよい。プラスチック素材は、微生物が付着し易く、加工及び取り扱いの点でも有用である。
【0024】
図3は、本発明の下水管路用浄水装置の他の例を示し、(a)は下水管路径方向の断面を、(b)は、下水管路軸方向の断面図を各々示す。この下水管路用浄水装置20の固定床は、自己保形性を有する素材で形成される円筒形状の屈曲可能な多孔質体21であり、被覆構造物による形状保持を必要としない。このような多孔質体21の固定床は、発泡ポリウレタン等のような連続気泡プラスチック材料や、織布又は不織布のような繊維集合体で構成することができ、織布又は不織布を用いる場合には、例えば、布を円筒状に巻回して一端部を布で閉じることによって形成される。多孔質体21の気孔(間隙)の寸法が1〜50mmの範囲、好ましくは5〜20mmの範囲となり、空隙率が50%程度以上となる素材が適宜選定される。固定床の寸法は、図2の例と同様に、下水管路の規模及び水深に応じて、外径0.2〜2m程度、長さ1〜100m程度に適宜設定され、増水によって移動しないように固定具(図示省略)を用いて下水管路底部に固定される。このような軸性形状に構成することにより、固定床は下水管路の底部の一部分のみを占め、増水時の流れを殆ど阻害しない。多孔質体21の中心軸より下方に、軸方向と平行に延伸する中空路を有し、中空路は一端において開口し、他端は閉じている。図3の例では、図2のブロワに代えて、下水又は外部供給水に1mm以下の微小気泡を混入させるマイクロバブル装置23が用いられる。マイクロバブル装置23は、全周面に多数の孔(図示略)を設けたバブル供給管25を有し、バブル供給管25は、多孔質体21の一端の中空路開口に嵌入されてマイクロバブル装置23と多孔質体21の中空路とを接続する。マイクロバブル装置23には空気を取り込むための空気取り込み管26が付属している。
【0025】
図3の下水管路用浄水装置20において、多孔質体21は、図2の浄水装置の場合と同様に、下水中の固形有機物が内部に浸入するのを表面において防止し、アンモニア及び溶解性有機物を含んだ下水が多孔質体21内に浸入する。マイクロバブル装置23によって調製される空気の微小気泡が混入した下水は、酸素が容易に下水に溶解して溶存酸素濃度が増加し、これがバブル供給管25から中空路を通じて多孔質体21に拡散・供給されると、多孔質体21中の下水の溶存酸素が増加し、好気性条件となって硝化細菌の増殖を容易にする。硝化細菌は、多孔質体21に付着したり、気孔又は間隙中に沈殿して保持され、アンモニアの酸化すなわち硝化作用を行う。固形有機物の排除によって、好気性従属栄養細菌の増殖は従来に比べて抑制され、硝化細菌の活性が向上し易くなる。多孔質体21で構成される固定床内での硝化により、生成した硝酸イオンは、多孔質体21で構成される固定床から有機物の豊富な周囲の下水に拡散し、硝酸イオンを利用する脱窒細菌の作用が促進され、窒素ガスとなって系外に放出される。脱窒細菌による脱窒反応の進行によって、少なくとも一部の細菌の活動が酸素利用型から硝酸利用型へ転換し、下水のBOD/N比の低下が抑制される。
【実施例】
【0026】
下水管路の模擬設備として、底面が180mm×180mmの水槽を用意した。1mmメッシュの網製円筒袋に、織物状に成型されたプラスチックの充填材(外径30φ)を装填し、多穴散気管を接続した送気管を充填材中に軸方向に沿って挿入し、充填材中に溶存酸素計のセンサーを取り付けて袋の口を送気管に締着し、外径40mmΦ、長さ150mmの円筒形の固定床を作成した。送気管にブロワを接続して下水管路用浄水装置を構成し、固定床を水槽中に水平に据えた。水深60mmになるように水槽に水を投入して固定床を浸漬し、固定床からの距離が70mmの位置の水中にも溶存酸素計のセンサーを固定した。
【0027】
ブロワから固定床に40mL/分の供給速度で10分間空気を吹き込み、固定床中及び外部の溶存酸素濃度を測定したところ、固定床内部では3.73mg-O/L、外部では0.70mg-O/Lであった。これは、微生物が存在せず、水流のない条件での結果であるが、固定床内外の溶存酸素濃度は、実際の下水でも好適に溶存酸素濃度を調節可能であることを明示している。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】下水処理システムを説明するための概略構成図。
【図2】本発明の下水管路用浄水装置の一実施形態を示す下水管路径方向断面図(a)及び軸方向断面図(b)。
【図3】本発明の下水管路用浄水装置の一実施形態を示す下水管路径方向断面図(a)及び軸方向断面図(b)。
【符号の説明】
【0029】
A:下水処理場A、B:沈砂池、C:第一沈殿池、D:脱窒槽、E:硝化槽
F:第二沈殿池、G:消毒槽、H,Ha,Hb:下水管路
P:ポンプ場、S:下水、M:マンホール
1,20:下水管路用浄水装置、3:被覆構造物、5:充填材
7:送気管、9:ブロワ、11:散気部
21:多孔質体、23:マイクロバブル装置、25:バブル供給管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下水に浸漬するように下水管路内底部に配置される、硝化細菌が定着可能な通水性の固定床と、前記固定床中に酸素を供給するための酸素供給手段とを有することを特徴とする下水管路用浄水装置。
【請求項2】
前記固定床は、内部を延伸する中空路を有する屈曲可能な軸性体であり、前記酸素供給手段は、前記中空路に酸素を供給することによって固定床中の下水に酸素が提供される請求項1記載の下水管路用浄水装置。
【請求項3】
前記酸素供給手段は、前記固定床の中空路に嵌装され散気部を有する送気管と、前記送気管に空気を送出して前記散気部から前記固定床中へ空気を吹き込む吹き込み装置とを有する請求項1又は2に記載の下水管路用浄水装置。
【請求項4】
前記酸素供給手段は、下水に空気の微小気泡を混入して溶存酸素が増加した下水を調製するマイクロバブル装置を有し、前記マイクロバブル装置は、前記固定床の中空路に接続されて前記中空路に溶存酸素が増加した下水を供給する請求項1又は2に記載の下水管路用浄水装置。
【請求項5】
前記固定床は、網目状被覆部材で軸性形状に保持される多数の充填材で構成される請求項1〜4の何れかに記載の下水管路用浄水装置。
【請求項6】
前記固定床は、連続気泡材料又は繊維集合体で構成される多孔質体である請求項1〜4の何れかに記載の下水管路用浄水装置。
【請求項7】
前記固定床は、プラスチック素材で構成される請求項1〜6の何れかに記載の下水管路用浄水装置。
【請求項8】
前記固定床は、空隙率が50%以上である請求項1〜7の何れかに記載の下水管路用浄水装置。
【請求項9】
硝化細菌が定着可能な通水性の固定床を下水管路内底部に配置して下水に浸漬し、前記固定床中に酸素を供給して前記固定床中で硝化細菌の増殖を促進することによって、下水管路の下水に含まれるアンモニア態窒素を酸化することを特徴とする下水管路用浄水方法。
【請求項10】
前記固定床中の下水の溶存酸素濃度が0.5mg-O/L以上となるように前記固定床中への酸素の供給を調節する請求項9記載の下水管路用浄水方法。
【請求項11】
前記固定床中の下水の溶存酸素濃度は0.5〜3.0mg-O/Lの範囲で、前記固定床外部の下水の溶存酸素濃度は1.0mg-O/L以下となるように前記固定床中への酸素の供給を調節することによって、前記固定床外部の下水中で脱窒細菌による亜硝酸態窒素及び硝酸態窒素の脱窒を進行させる請求項9又は10に記載の下水管路用浄水方法。
【請求項12】
前記固定床は、内部を延伸する中空路を有する屈曲可能な軸性体であり、前記中空路に酸素を供給することによって固定床中の下水に酸素が提供される請求項9〜11の何れかに記載の下水管路用浄水方法。
【請求項13】
前記酸素は、空気の吹き込みによって供給される請求項9〜12の何れかに記載の下水管路用浄水方法。
【請求項14】
前記酸素は、下水に空気の微小気泡を混入して調製される溶存酸素が増加した下水を前記固定床の中空路に送り込むことによって供給される請求項9〜13の何れかに記載の下水管路用浄水方法。
【請求項15】
前記固定床は、網目状被覆部材によって多数の充填材を軸性形状に保持することによって構成される請求項9〜14の何れかに記載の下水管路用浄水方法。
【請求項16】
前記固定床は、連続気泡材料又は繊維集合体で構成される多孔質体である請求項9〜14の何れかに記載の下水管路用浄水方法。
【請求項17】
前記固定床は、プラスチック素材で構成される請求項9〜16の何れかに記載の下水管路用浄水方法。
【請求項18】
前記固定床は、空隙率が50%以上である請求項9〜17の何れかに記載の下水管路用浄水方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2010−24773(P2010−24773A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−190087(P2008−190087)
【出願日】平成20年7月23日(2008.7.23)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】