説明

下水道汚泥・焼却灰より人工ゼオライト、かつアパタイトのようなりん化合物を製造・回収する方法

【課題】 下水道汚泥・焼却灰の資源化法として、焼却灰に含有されているりん化合物、石英、クリストバライト鉱物の資源化を図る。
【解決手段】 下水道汚泥・焼却灰を水酸化ナトリウム水溶液中で水熱処理を行い、人工ゼオライト、ヒドロキシアパタイト、アルミン酸ナトリウムといった有用物を製造・回収し資源化できることを見出した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下水道汚泥・焼却灰の資源化に関する。
【背景技術】
【0002】
下水道汚泥・焼却灰の資源化については、リン肥料等に利用が期待されるリン化合物を回収する方法が検討されてきたが、実用化はわずかであり大量に発生する焼却灰のほとんどが埋め立て処分されている。最近、各種焼却灰から人工ゼオライトを合成し資源化することも検討されているが、下水道汚泥・焼却灰の場合、人工ゼオライト合成時に不純物となるリンが多く含まれているため、高品質のゼオライトが製造できないとされ資源化には至っていない。そこで、下水道汚泥・焼却灰の鉱物組成等を明らかにして、それに沿った資源化法を検討することが求められている。
【特許文献1】特開平7−251141
【特許文献2】特開平9−77506
【特許文献3】特開平11−278814
【特許文献4】特開2001−17999
【非特許文献1】逸見彰男著「無機系廃棄物の人工ゼオライト転換による有効利用」アイピーシー2003
【非特許文献2】春名淳介他著「石炭灰、製紙スラッジ灰を原料とした人工ゼオライトについて」第45回粘土科学討論会講演要旨集2001
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
下水道汚泥・焼却灰の資源化について、リン化合物の回収だけでは大量の焼却灰処理には向かない。下水道汚泥・焼却灰のゼオライト化についても実施例はほとんどない。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、下水道汚泥・焼却灰から人工ゼオライトを合成し、かつリン化合物を製造・回収する簡潔な方法を提案することで上記課題を解決する。
【0005】
ケイ素、アルミニウム、リンの酸化物を主成分とする下水道汚泥・焼却灰を水酸化ナトリウム水溶液中で水熱処理することにより、水ガラス、アルミン酸ナトリウム、リン酸ナトリウム水溶液が生成され、前二者は直ちに人工ゼオライト化して析出・固化する。ここで固液分離により人工ゼオライトをろ別すると、ろ液中にはりん酸化合物が水酸化ナトリウム水溶液と共存しており、更にこのリン酸化合物を分離、回収するために水酸化カルシウム水溶液を添加することで以下の反応が起こり、塩基性リン酸カルシウム(ヒドロキシアパタイト)が析出する。
【0006】
【化1】

【0007】
下水道汚泥・焼却灰が人工ゼオライト、ヒドロキシアパタイトといった有用物になり資源化できる。さらに、最後に残ったアルミン酸ナトリウム及び水酸化ナトリウム水溶液は再度水熱合成用の原料に使用できる。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、従来主に埋め立て処分されてきた下水道汚泥・焼却灰から、人工ゼオライト、ヒドロキシアパタイト、アルミン酸ナトリウムといった有用物を製造して、人工ゼオライトは土壌改良剤、凝集・吸着剤等に、ヒドロキシアパタイトはリン肥料等に、アルミン酸ナトリウムは水熱合成用の原料とし資源化する方法を提案するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明を実施するプロセスは以下のとおりである。

【実施例1】
【00010】
下水道汚泥焼却灰100gに、2N水酸化ナトリウム水溶液500mLを加え、オートクレーブにより100℃、5時間の条件で水熱合成を行った。水熱合成後のスラリーを遠心分離器で固液分離した。固体分は水に浸し、再度遠心分離を行い、余剰水酸化ナトリウム水溶液を除去する操作を行った後、乾燥させた物を生成物とした。副生成物である液体分は、リン化合物回収用の原料液(以降、ろ液Aと呼ぶ)とした。
【00011】
下水道汚泥焼却灰及び生成物について、成分分析は日本フィリップス(株)製波長分散型蛍光X線分析装置PW2400にて理論計算法(uniquantファンダメンタル・パラメーター法)を用いて行った。得られた数値を酸化物換算して成分組成とした。結晶構造の同定は、理学電機(株)製X線回折装置RINT2100にて銅の管球を用い集中光学系2θ/θ法にて行った。
【00012】
ろ液Aについて、リン、アルミニウム、ケイ素、カルシウムの定量分析はセイコ−インスツルメンツ(株)製ICP発光分光分析装置SPS3000にて行った。
【00013】
ろ液Aを20倍に希釈した溶液1Lに、水酸化カルシウム飽和水溶液1Lを撹拌しながら混合した。混合液を静置した後、析出物を吸引ろ過によりろ別して、析出物及び液体分(以降、ろ液Bと呼ぶ)を得た。
【00014】
析出物は乾燥後、成分分析及びX線回折測定により同定を行った。ろ液BはICP発光分光分析装置により定量分析を行い、リンの回収率を求めた。
【00015】
下水道汚泥焼却灰及び生成物の成分組成を表1に示す。
【00016】
【表1】

【00017】
X線回折図形を以下に示す。

【00018】
下水道汚泥焼却灰はケイ素、アルミニウム、リンが主成分で、ケイ素は石英、クリストバライトとして、リンはリン酸アルミニウムとリン酸カルシウムの複合酸化物の結晶としても存在している。ただし回折線は非常に弱いので、非晶質成分も多く含ませていると考えられる。生成物のX線回折図形より、ゼオライト−A構造をもつゼオライトが合成できていることを確認した。
【00019】
ろ液Aに含まれるリン、アルミニウム、ケイ素、カルシウムのイオン濃度を表2に示す。ろ液Aには、リン、アルミニウムが高濃度で溶解していることを確認した。
【00020】
【表2】

【00021】
析出物の成分組成を表3に示す。析出物のX線回折図形は上述のとおりである。析出物は主に塩基性リン酸カルシウム(ヒドロキシアパタイト)である。X線回折図形の各回折線はブロードな様相を呈しており、結晶性が低いか粒子径が小さいことが分かる。
【00022】
【表3】

【00023】
ろ液Bに含まれるリン、カルシウムのイオン濃度を表4に示す。ろ液Aの20倍希釈液に水酸化カルシウム水溶液を同量混合した液のリンイオン濃度は350mg/Lであることから、ろ液B中ではリンが約60%減少していることが分かった。ろ液A中に溶解していたリンの約60%がリン酸カルシウムとして析出して回収されたことを意味する。また水酸化カルシウム水溶液として添加したカルシウムイオンは、そのほぼすべてがリン酸カルシウムとして析出し、ろ液B中にはほとんど溶解していないことが分かった。
【00024】
【表4】

【実施例2】
実施例1の水熱処理条件を120℃×2時間に変更した場合、生成される人工ゼオライト化はA型ゼオライトからHydroxy−Sodaliteに変化した。
【実施例3】
実施例1の水熱処理条件を120℃×2時間に、且つアルカリ水溶液を2N水酸化ナトリウム水溶液から20M−オルソケイ酸ソーダに変えた場合、生成される人工ゼオライトはPhillipsiteに変化した。
【産業上の利用可能性】
下水処理の過程で発生する汚泥は、下水道の普及に伴い年々その量が増加し、効率的な処理法、有効利用法が課題になっている。本発明では、下水道汚泥・焼却灰から人工ゼオライトを合成し、かつリン化合物を製造・回収する簡潔な方法を提案しており、下水道汚泥の資源化法としての利用が期待される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下水道汚泥・焼却灰を苛性ソーダ水溶液中でオートクレーブ等で水熱処理することで、A型、またはP型人工ゼオライトを製造し、脱水機で固液分離した後、ろ液のアルカリ水溶液に消石灰、または消石灰スラリー等を添加してアパタイト等のりん化合物を析出させ回収する下水道汚泥・焼却灰の資源化方法

【公開番号】特開2006−7194(P2006−7194A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−216623(P2004−216623)
【出願日】平成16年6月25日(2004.6.25)
【出願人】(500566268)有限会社大誠技研 (1)
【出願人】(391001619)長野県 (64)
【Fターム(参考)】