説明

下痢止め剤および抗潰瘍剤として使用される、ペクチンとリン脂質とを含有する医薬組成物

【課題】動物及びヒトにおける下痢の治療剤を提供する。
【解決手段】動物及びヒトにおける下痢の治療用組成物であって、
下記成分(a)と(b)との混合物を含むことを特徴とする医薬組成物。
(a)該混合物の重量を基準として34〜90重量%のペクチン質植物繊維物質であって、該ペクチン質植物繊維物質の重量を基準として2〜10重量%の、水よりも低い表面張力を持つ、生理学的に許容される液状有機物質と組み合わされたペクチン質植物繊維物質、
(b)該ペクチン質植物繊維物質の重量を基準として5〜40重量%のリン脂質。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、急性の感染性下痢および胃腸管内の感染症を含む、慢性並びに準慢性の、一部には徴候のない進行性の疾患に対して治療並びに予防効果を有する、新規な改善された植物繊維処方物に関するものである。
【0002】
更に、驚くべきことに、この同一の処方物は胃潰瘍に対して治療効果をもつことが分かっている。
【0003】
更に、本発明者の所有するデンマーク特許第153,442 号を更に発展させたものである本発明は、このデンマーク特許の製造技術に比して、該技術を更に実質的に単純化することを包含する。
【背景技術】
【0004】
長い間、一般的に植物繊維および特にペクチン系物質(ポリガラクツロン酸複合体)の高い含有率をもつ繊維が、感染性のおよび非感染性の下痢に対して有利な作用を示すことが知られていた。
【0005】
以前は、ペクチン系物質の使用は、一般大衆薬およびより製薬工業に関連した物質両者において、純粋に経験的な基礎に拠り所を置いていたが、今日ではその作用は、殆どの広範囲に及ぶ型の感染性の下痢の発生を決定付ける、病態生理学的メカニズムの幾つかに関与している効果として記載できる。
【0006】
このように、多数の科学的研究によって、殆どの広範囲に及ぶ型の感染性の下痢、例えば腸毒型大腸菌による下痢および幾つかのウイルス関連型の下痢が、小腸の上皮を介して、液体吸収と液体分泌との間に存在する支配的なバランスを維持している、酵素関連メカニズムにおける障害のために発生することが明らかとなった。
【0007】
典型的には、バクテリアまたはウイルス感染によって生ずる、小腸内液調節における障害は、腸壁から腸内容物への、液体分泌の過度の増加と同時に、液体吸収性の大幅な減少をもたらし、これは種々の自発的増大作用(self-increasing effects)の結果として、下痢の発生をもたらす。
【0008】
下痢病因論のこれら基本的酵素関連メカニズムが、全て腸管上皮の外部細胞層への、該病原性微生物の予備的な付着を必要とし、その際に該付着が急速に、かなりのバクテリアの増殖を伴うことが、一般的に知られている。バクテリアの定着と呼ばれる、この増殖を伴う付着が、従って上記の下痢発症メカニズムの第一段階である。
【0009】
ウイルス感染の病因論に関する限りにおいて、該液体バランスの異常調節およびその結果としての下痢は、該ウイルス感染と関連した上皮細胞の損傷により引き起こされる。
【0010】
上記の下痢の病因論に基づいて、最新の特許文献は、下痢の発生にとって決定的な上記の初期メカニズムに介入することを意図した、下痢止め剤の説明を含んでおり、注目すべきことは、特に大腸菌感染の発生等に関する、疎水性/親水性結合、所謂「ライク−ライク(like-like)相互作用」の重要性である。
【0011】
バクテリアの定着に及ぼされる力の幾つかに介在せしめる目的で、欧州特許出願第0 021 230 号は、疎水性基と細胞膜中への侵入を防止するのに十分に高い分子量を有する、1種以上のポリマー型の炭水化物または糖と、疎水性表面層を有する生理的に許容される無機物質を含む薬剤を記載している。
【0012】
このような、疎水性基をもつポリマーと、疎水性表面層を有する無機物質との組み合わせを使用する目的は、該病原性のバクテリアを引きつけ、かつ該細胞組織、例えば腸管細胞組織ではなく、寧ろ該ポリマーおよび無機物質への該バクテリアの付着を引き起こすことにある。この従来技術の薬剤は、ペクチンを含んでおらず、また該ポリマーへの該疎水性基の導入は、化学的反応、即ちエーテル化、エステル化またはアミド化に基づくものである。
【0013】
本出願人の所有するデンマーク特許第153,442B号は、ヒトおよび動物の下痢を治療し、かつ予防するためのペクチン質物質を主成分とする薬剤を記載しており、この薬剤は、更に該ペクチン質物質の効果を高める目的で、長鎖疎水性基を含有する両親媒性の物質をも含むことを特徴とするものである。この薬剤は該両親媒性の物質がレシチンであることを特徴とする。
【0014】
上記の両特許は、バクテリアの疎水性きょう膜抗原(付着因子、疎水性因子(hydrophobins))と、該バクテリアの定着の発生にとって決定的に重要であると考えられる、該腸管上皮の細胞壁における、対応する疎水性構造との間の疎水性結合に積極的に介入した結果として、該効果が達成されることを支持している。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかしながら、持続的な研究は、他の観点を該作用メカニズムに関して採用することができ、しかもデンマーク特許第153,442B号に記載されている生成物が、感染性の下痢に対する治療的および予防的効果が、数百万頭のウシの治療を通して既に立証されているにも拘らず、以下のような欠点をもつので、該生成物は更に改良の余地がある。中でも特に以下の点を強調すべきである。
【0016】
−ブタにおける急性感染性下痢に及ぼす効果は不十分である。
−該薬剤の水性懸濁液は、十分に安定ではない。
【課題を解決するための手段】
【0017】
これら両欠点は、本発明によって解消される。本発明は、動物およびヒトの下痢および胃潰瘍の治療用の薬剤からなり、該薬剤はペクチン質の植物繊維物質とリン脂質との混合物を含み、該薬剤は、水の表面張力よりもかなり低い表面張力をもつ生理的に許容される液状有機物質を、強く攪拌しつつ、リン脂質を混合する前に、該植物繊維物質に添加することにより得られることを特徴とする。本発明による該薬剤は、同時に準慢性的な、徴候のない進行性の腸管感染症、例えば家禽やブタ等における、サルモネラ菌感染症状態においても、臨床的な効果をもたらす。
【0018】
腸管感染症の上記のような両カテゴリーに関連して、バクテリアの定着に関連する疾患が、小腸の腹側の部分ばかりか、その背側の部分および結腸にも見出されることが利用される。
【0019】
このことは、これらの諸疾患を撲滅することを意図した薬剤が、コロイド性の安定性と活性とをもつべきであることを示しており、該安定性および活性は十分に高くて、該腸管全体を通して、該定着作用を最大限妨害し続ける。
【0020】
更に、該腸内容物の水性相に懸濁した後、該薬剤は迅速に該相と結合し、同時にゲルを生成することが、決定的に重要である。
【0021】
研究室でのテストおよび臨床研究は、驚いたことにこれら諸問題点が、本発明の特別な方法によって解消できることを示しており、該方法はレシチンとの機械的混合前に、該ペクチン繊維を生理的に許容される有機液体により状態調節することを特徴とし、該有機液体は該水性相に対する界面電位を増大するように寄与し、かつ同時に該繊維の該レシチンに対する許容性をより高める。
【0022】
該液体は、好ましくはアルコール、例えばエタノール、グリセロール、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコールおよびこれらの混合物から選択される。
【0023】
非毒性の一価のアルコール、エタノール、三価のアルコール、グリセロールまたはこれらの混合物が、水よりも低い表面張力を有する、生理的に許容される液状有機物質として特に適していることが分かっている。
【0024】
使用する該アルコールは、再び除去されることなく、最終生成物の一体化された成分を形成することが好ましい。
【0025】
更に、ポリビニルピロリドン(PVP)を包含するピロリドン含有化合物を、生理的に許容される液状有機物質として使用することができる。ポリビニルピロリドンは、3-5%(w/w)の濃度の水性溶液として使用できる。
【0026】
該有機物質は、またエトキシル化ソルビタン脂肪酸エステルであってもよい。
【0027】
これら化合物はポリソルベートおよびツイーン(Tween)化合物としても知られている。該化合物のエトキシ部分は、ポリオキシエチレンであり得、また該脂肪酸部分はC3-C18脂肪酸およびその誘導体、好ましくはラウリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸およびオレイン酸であり得る。
【0028】
該エトキシル化ソルビタン脂肪酸エステルは、単独でまたはセルロースまたはその誘導体、例えばメチルセルロースとの組み合わせとして使用できる。
【0029】
最後に、該有機物質は上記物質の2種以上の混合物で構成することもできる。
【0030】
アルコールとエトキシル化ソルビタン脂肪酸エステルとの混合物が、その相互の促進作用のために好ましい。
【0031】
該有機物質は、プロモータと共に使用することができ、該プロモータは上記の効果を増進する。このようなプロモータの例は、プロピレングリコールおよび食用脂肪酸のモノ−またはジエステルである。
【0032】
本発明の好ましい態様では、最終混合物を基準として、65〜90重量%のポテトパルプ(potatopulp)、柑橘類搾りカス(citrus residues)、リンゴ搾りカス(apple residues)、大豆繊維、および同様な材料から選択されるペクチン質植物繊維物質を使用し、また該使用するアルコールは、エタノールまたはエタノールとグリセロールとの混合物であり、これは該植物繊維物質を主成分とする該最終混合物の2〜10重量%を構成し、また該リン脂質は任意の生理的に許容されるレシチンであって、該最終混合物の5〜15重量%を構成する。
【0033】
更に、本発明は、動物およびヒトの消化管に関連した諸疾患、特に哺乳動物および鳥類、好ましくは鶏、ブタおよびウシの腸管におけるサルモネラ菌感染により発生する疾患、並びに哺乳動物、特に有蹄目に属する動物およびヒトの胃潰瘍の治療における、請求の範囲第1〜4項に記載の薬剤の使用にも関する。
【0034】
最後に、本発明は、好ましくは本発明の該薬剤を2〜10重量%含有する飼料に関する。典型的な鶏用の飼料の組成は、19重量%の大豆粉末、15重量%の菜種、33重量%の小麦、21重量%のえんどう豆、4.6 重量%のミートボーンミール、2.6 重量%の脂質、1.8 重量%の無機質およびビタミン、および3.0 重量%の本発明による該薬剤である。
【0035】
別々に調製された処方物の、腸内容物に対する分散性に係わる作用、および該腸内容物の粘稠度に与える物理的影響について、部分的なシミュレーションを得るために、比較レオロジーテストを行った。そこでは、以下の実施例1に従って調製した本発明の薬剤の効果を、以下の成分からなる、対応するアルコールに富まない繊維製品の効果と比較した。
【0036】
乾燥ポテトパルプ 158 g
柑橘類搾りカス 50 g
二酸化珪素 2 g
レシチン 40 g
250 g
【0037】
比較レオロジーテストは、驚いたことに、該腸内容物の粘稠度に及ぼす、該ペクチンーレシチン混合物の効果の有意な改善が、本発明による薬剤の使用により得られることを示した。
【0038】
かくして、この改善により達成される効果が、本発明のアルコール混合物で該ペクチン質繊維を状態調節することにより、該繊維は均質な、ゼラチン質の相を形成しつつ、直ちに該腸内容物との結合を生ずる。8時間後に、この相は安定であり、かつ離液(水の遊離)を示さないことが分かった。
【0039】
同様なレオロジー作用は、該腸内容物と該対応するアルコール処理しなかったペクチン質繊維処方物との混合によっては、得ることができなかった。というのは、ゼラチン状の特性を示さない該処方物は、強力な機械的作用下においてのみ該腸内容物との結合を可能とするであろうからである。
【0040】
驚嘆すべき特徴である、該観測されたレオロジー特性は、治療上の観点においても重要である。というのは、これが微小構造の所定のコロイド化学的改善を反映しているからであり、定着したバクテリア細胞に関する付着能力は、事実上該微小構造に帰せられる。
【0041】
更に、継続して実施された比較テストは、アルコールで状態調節された該処方物が、状態調節されていない処方物に比して、より一層懸濁性に富むことを示した。
【0042】
類似の、予備処理されていないペクチン−リン脂質混合物は、水中で攪拌した後に、即座に密着性の塊として沈殿し、該アルコールで処理した生成物は、凝集した、巨視的に可視性の粒子の、均一に分散した相として、該液体中に浮遊状態に保たれている。
以下、本発明を幾つかの実施例によって更に説明する。
【0043】
実施例1
以下の成分から混合物を調製する。
【0044】
乾燥ポテトパルプ 150 g
柑橘類搾りカス 50 g
エタノール99%(v/v)5g+グリセロール5g 10 g
レシチン 40 g
250 g
【0045】
該2種の繊維製品、即ちポテトパルプおよび柑橘類搾りカスを機械的に混合した後、得られた混合物に、該2種のアルコールの混合物を添加する。この点に関連して、該繊維の体積は減少することに注意する。45℃に加熱したレシチンを、該混合物を強く機械的に攪拌した後に添加する。次いで、連続的に機械攪拌することによって、レシチンと、該アルコールで状態調節した繊維との効果的な混合を数分以内に達成する。
【0046】
実施例1.-B
粉砕し、乾燥した柑橘類搾りカス(A/Sケーベンハブンスペクチンファブリック(Kφbenhavns Pektinfabrik)−含水率12% および平均粒径0.5mm)を、強力な機械的攪拌の下にて、4重量%の、エタノール(99%/表面張力:22.3 mN/m)とグリセロールとの等量混合物と混合する。
【0047】
この混合(約15% の、該繊維物質の体積減少により特徴付けられる)の完了後に、デンマーク特許第153,442B号に規定された、レシチンとの縮合法を実施する。
【0048】
作成された生成物、即ち混合物Aを、比較ラングミュアーアダム(Langmuir-Adam)測定およびH.I.C.テストを実施することにより、アルコールに富まないが、その他の点では同一のペクチン−レシチン混合物であって、造粒剤(テクニカル添加剤(technical additive))が添加されている混合物、即ち混合物Bと比較する。
【0049】
これらのテストを実施するに際して、ラングミュアーアダム(Langmuir-Adam)表面バランス装置を使用する。この装置は、水面に該処方物を適用した後の、該水の表面張力における変動を、測定単位mN/mで記録するものである。
【0050】
同様に、各処方物のバクテリア細胞吸着作用を測定し、H.I.C.(ハイドロフォービックインタラクションクロマトグラフィー(Hydrophobic Interaction Chromatography))テストを実施することにより記録する。
【0051】
ラングミュアーアダム(Langmuir-Adam)表面バランス法
不溶性の、非揮発性有機物質を、比較的高い表面張力(γo-72.8 mN/m)をもつ水の表面に適用すると、以下の何れかの現象をもたらす。
【0052】
1: 密な液滴を形成し、残りの水面は純粋なままであるか、あるいは
2: 水と該対象とする物質との間の相互作用によって、水面全体に渡って分布した単分子膜を形成する。
【0053】
換言すれば、単分子膜の形成並びに維持は、水と該単分子膜の構成分子との間の付着力が、該物質にかかる凝集力よりも大きいか否かに依存する。
【0054】
単分子膜の生成およびその形成を決定付ける力は、自由な水面、即ち水/ガス表面または水と他の分離した相、例えば固体物質、オイルまたはゲル相との間の界面が関与しているか否かには無関係に、同一である。
【0055】
該単分子膜により及ぼされる界面張力の減少は、該単分子膜の表面圧、Πに相当する。従って、かくして生ずる膜の拡張圧力は、該純水の表面の収縮張力に対抗する。該純水の表面は、H-ブリッジの密な結合により、常に極めて特有のものであろう。
【0056】
Π=γo - γ
ここで、γoは純粋な表面の張力であり、γは該界面の単分子膜に関連する張力である。
【0057】
ギッブス(Gibb's)の定理によれば、水の表面張力における変動、即ちΔγおよびこの効果の経時的維持は、従って該単分子膜の吸着能および安定性を反映するであろう。
【0058】
該ラングミュア−アダム装置において、該単分子膜によって及ぼされる該表面圧は、該単分子膜が、該単分子膜/水界面に配置された浮遊体に影響を及ぼす、水平方向に作用する力を測定することにより、直接測定される。これについては「液体界面における、脂質およびバイオポリマー単分子膜(Lipid and Biopolymer Monolayers at Liquid Interfaces)」,バーディ(Birdi)K.S.,p.292,プレナムプレス,N.Y.,1989を参照のこと。
【0059】
H.I.C.−テスト
ハイドロフォービックインタラクションクロマトグラフィー(Hydrophobic Interaction Chromatography)
バクテリア細胞の吸着能の測定
該H.I.C.テストにおいて、種々のペクチン−レシチン処方物の、下痢誘発バクテリアの菌株との結合能は、所定濃度のバクテリア細胞懸濁液を使用した、ペクチン−レシチン含浸オクチル−セファロースカラムの溶出により測定する。
【0060】
カラム溶出に引き続き、該溶出液を分光光度測定にかけて、該カラム上に保持されているバクテリア細胞の量を測定する(吸着された細胞の割合%)。
【0061】
混合物A 混合物B
柑橘類搾りカス 50g 柑橘類搾りカス 50g
エタノール/グリセロール 2g レシチン 18g
aa. p. 二酸化珪素* 2g
レシチン 18g 70g
70g *:造粒剤
【0062】
実施した測定の結果を第1表に示す。
【0063】
混合物A 混合物B
ラングミュア−アダム(mN/m) 43 8
H.I.C.(吸着されたE.コリ細胞の割合,%) 96 54
【0064】
実施例1-Aに示した測定結果は、2回の測定の平均値を示す。
【0065】
10種の別々に作成した処方物についての、補足的な研究を、ラングミュアーアダム測定およびH.I.C.テストと同時に実施したところ、全てmN/m-値(最大界面ポテンシャル)と、H.I.C.の結果(該カラムに吸着したE.コリ細胞の最大の割合%)との間の明らかな一致を示した。
【0066】
したがって、テストから、バクテリア除去効果は主としてコロイド化学に関連する界面ポテンシャルに起因すると考えられることが示された。
【0067】
実施例2
下痢状態のブタについての臨床テストにおいて、本発明に従って調製した薬剤の治療効果を、該ペクチン質繊維物質をアルコールで予備状態調節することなしに調製した、対応する薬剤の該効果と比較する。
【0068】
このテストは、大きな特異的な病原体を含まないブタの群について実施し、ここでは全ての下痢状態にあるブタは、離乳期のコブタのために工夫された、人工気象ハウジング区画の別々の区画内に隔離される。これは、均一な動物群に関する比較テストを実施する可能性を与える。
【0069】
微生物研究に従って、該下痢症状のあるブタを、E.コリ0149 K88、即ちブタ病原性に特徴的な抗原0149および付着特性を司る付着因子K88(ブタ特異的きょう膜抗原)を有するE.コリ菌株での感染により特徴付けられる。この菌株は、硫酸コリスチンに対しては感受性であるが、殆どの他の抗生物質に対しては抵抗性である。
【0070】
全体で38頭のブタを、隔離したハウジング区画に入れる。
【0071】
隔離の基準:貧弱な成長を伴う下痢。
【0072】
該38頭の下痢状態にあるブタを4群に分割し、4つの小さなハウジング区画に各区画当たりブタ9-10頭となるように割り振る。
【0073】
第1群および第3群(18頭のブタ)を、本発明に従って調製した、該ペクチン質繊維−リン脂質処方物で処置する。
【0074】
第2群および第4群(20頭のブタ)を、ペクチン質繊維−リン脂質処方物であって、該第1群および第3群のブタの処置に使用した処方物と同様であるが、該処方物で使用した該ペクチン質物質が、エタノール−グリセロール混合物で予備処理されていない、該処方物で処置し、これら2種のテスト処方物の組成を比較する。第2表参照。
【0075】
第2表
各群処理用のテスト処方物
成分 群1+3 群2+4
柑橘類搾りカス 222.0g 227.0g
ポテトペクチン 119.0g 124.0g
エタノール 5.0g --
グリセロール 5.0g --
レシチン 136.5g 136.5g
電解質グルコース* 512.5g 512.5g
1000.0g 1000.0g
*:NaCl、NaHCO3、KCl、クエン酸塩およびグルコースからなる、一時的水分補給用の電解質−グルコース混合物。
【0076】
第2表は、エタノール−グリセロール混合物により予備状態調節したまたは予備状態調節してないテスト処方物の組成を示し、該組成物を4つのテスト群に適用する。
これら両テスト処方物を、随意の飲料水として各群に与えられる水1l当たり35gなる濃度で、水中にて攪拌する。
【0077】
これらブタを1日3回検査し、下痢症状をもつブタの数および食欲減退を示すブタの数を各検査時点で記録する。
【0078】
このテストは48時間継続し、その後該処置を中止する。
【0079】
これら2種の処方物に関する該比較テストの結果を以下の第3表に示す。
【0080】
第3表
群番号 各時間の経過後の、下痢症状をもつブタの頭数
(ブタの頭数) 0 8 24 32 48
1+3(18) 18 16 8 6 2
2+4(20) 20 20 16 15 12
【0081】
第3表の結果から明らかなように、群1および3の下痢症状のあるブタの頭数は、24時間後に8頭に減少する。48時間後には、本発明に従って調製した生成物で処置したブタのうちの16頭(88%)が下痢症状から回復する。
【0082】
群2および4においては、24時間後にも、20頭中の16頭が依然として下痢状態にある。48時間後には、予備状態調節されたペクチン質繊維を使用せずに調製した生成物で処置したブタのうちの8頭(40%)が治癒する。
【0083】
実施例3
サルモネラ菌に感染した家禽の治療のために、以下の混合物を調製する。
【0084】
乾燥ポテトパルプ 300g
エタノール 30g
レシチン 90g
420g
【0085】
サルモネラティフィムリウム(Salmonella typhimurium)感染群から、10羽の家禽を選択する。個々の発病したサンプルの細菌学的研究による、S.ティフィムリウム(typhimurium)の検出後、該家禽を同一の鶏舎に入れ、これらを2つの別々の群AおよびBに分ける。
【0086】
群Aは、標準的なブロイラー用飼料、即ち 23%の粗製タンパクを含有する「ブランラプシ(BrunRapsi)」,K.F.K.で飼育する。
【0087】
群Bは、3%の上記ペクチン−エタノール−レシチン処方物を配合した、同一の飼料混合物で飼育する。
【0088】
9日後に、全ての家禽を殺し、細菌学的研究で使用する。
【0089】
この細菌学的研究は、群Aの家禽が依然としてS.ティフィムリウムにより感染していることを示す。
【0090】
サルモネラ菌は、群Bの家禽には検出されない。
【0091】
実施例4
ウマにおける胃腸管疾患の治療のために、以下の混合物を調製する。
【0092】
乾燥ポテトパルプ 1000g
ポテトペクチン質繊維(ポテックス(Potex)) 500g
柑橘類搾りカス 1000g
エタノール(75g)+グリセロール(75g) 150g
レシチン 600g
乾燥ポテトパルプ 1000g
リンゴ搾りカス 400g
4650g
【0093】
以下に例示するように、この処方物を、完全に成長したウマにおける、下痢および潰瘍性疾患に対する治療用薬剤として、1回の用量300gにて使用する。
【0094】
下痢状態
四歳の競争用種馬
半年間に渡り、この種馬は、悪臭のある便を伴った、反復的な下痢に悩まされていた。このウマは非常に神経質で、走路での走行能力は貧弱である。この種馬は、ラクトバチルス(Lactobacillus)の処方物および獣医により処方された種々の抗生物質によって、繰り返し治療されていたが、その状態の改善は見られなかった。
【0095】
本発明の薬剤による治療を、10日間隔で2回実施する。
【0096】
各処置においては、第1日目に3×300gを投与し、次いで7日間、1日当たり300gを投与する。該第一の治療期間の経過後、該下痢は止まり、該ウマの病状は大幅に改善される。該ウマが再度穏やかな下痢を再発し、走路で神経質な症状を呈した際の、10日後に同一の処置を繰り返した。2カ月後には、下痢の再発は見られず、しかも該ウマの能力は今や極めて満足なものとなっている。
【0097】
七歳の乗馬用のウマ
定期的に競技で使用されているウマが、数カ月に渡り、ひどい下痢に罹り、同時に極度に神経質になっている。このウマはラクトバチルス(Lactobacillus)の処方物、種々の整腸剤および獣医により処方された他の薬剤で、繰り返し治療されたが、病状の変化は見られていない。
【0098】
第1日目に3×300g投与し、次いで8日間に渡り、1日当たり300gの投与による、一般的な獣医により処方された本発明の薬剤による治療は、全ての症状の完全な消失をもたらした。このウマは3カ月間症状を示さなかった。
【0099】
胃潰瘍
当該国のおよび国外の最近の研究によれば、胃潰瘍は定期的に競技で使用されている競技用のおよびその他のウマにおいて頻繁に見られる疾患である。
【0100】
この疾患の症状は、典型的には以下の通りである。
【0101】
該ウマの食欲は顕著に低下し、該ウマは小量の飼料を食べ、各短時間の飼料摂取後に、軽い仙痛の徴候を示し、次いで飼い葉桶に戻り、小量の飼料を食べ、落ち着きがなくなる等の症状を示す。実際に衰弱することなしに、該ウマは痩せ、極度に膨らんだ腹部、艶のない毛皮、光沢のない、窪んだ目を有している。このウマは、神経質で、緊迫状態にあり、走路での能力は極端に貧弱である。
【0102】
「スレイプナー(Sleipner)」五歳の競争用種馬
最初、能力の貧弱さのために、屠殺の目的で売られた種馬を、DKK 5,000 で購入し、ノーザンユトランド(Northern Jutland)のウマ飼育農場で飼育する。
【0103】
このウマの呈した潰瘍性疾患の症状:各飼料の摂取に関連した仙痛による穏やかな攻撃。このウマは何度も何度も中断しつつ、小量の飼料を食している。このウマは痩せており、艶のない毛皮を有している。その能力は極めて貧弱である。即ち、トロットは最高で800mである。
【0104】
本発明の該薬剤による治療の10日後に、このウマは症状を示さなくなる。このウマは正常に飼料を食し、仙痛あるいはこれに関連するストレスの徴候を全く示さない。
【0105】
2カ月のトレーニングの後、このウマはデンスクトラブダービー(Densk Travderby)への参加資格が与えられ、予選レースに勝利した後、優勝候補として公表されている。該レースの2日前に、ウイルス関連扁桃炎に罹患したために、この1994年のダービーレースでは、4着に終わった。その後、このウマは1994年の夏期において幾つかのレースに優勝している。
【0106】
全体として、競争馬の同様な症例に関する、29の公認の治療例がある。一般的な獣医または専門のトレーナーにより実施された全ての治療は、実際の下痢または、多くの場合における如く、潰瘍性疾患が関与していたか否かとは無関係に、完全な治癒をもたらした。
【0107】
ウシの治療
胃潰瘍の症状を呈する26頭のウシを、上記の処方物で治療した。正の治療結果が、全ての場合について記録された。
【0108】
実施例5
約8週齢の最近入手した2頭のウシを、特別な肥育用のウシ群に組み入れたところ、1週間後に胃潰瘍に特徴的な症状を呈した。
【0109】
これら2頭のウシは衰弱している。これらは弱々しく、その飲食に対する衝動は著しく減退している。これらのウシに、発熱はなく、肺疾患の徴候はなく、またこれらは下痢状態にはない。
【0110】
聴診法は、腸管の活性が低下していることを示す。これらウシの両者共に、右の横腹が膨張しており、そこでは明らかにざばざばいう音が触診により検知できる。
【0111】
これらウシを、以下の成分を含む処方物で治療する。
【0112】
乾燥ポテトパルプ 1000g
ポテトペクチン質繊維(ポテックス(Potex)) 500g
柑橘類搾りカス 1000g
5%(w/w)ポリビニルピロリドン(ポリビドン 200g
(Polyvidon)DLS86)の水性溶液
レシチン 600g
乾燥ポテトパルプ 1000g
リンゴ搾りカス 400g
4700g
【0113】
この薬剤を、3日間に渡り、2×50g/日なる用量で、次いで8日間に渡り1×50g/日なる用量で投与する。
【0114】
2日後に、該右横腹の膨張の程度は減少し、該ウシは、ミルク代替物を飲み始め、食欲は増進し、次の週までには、状態は徐々に正常な状態に戻る。
【0115】
胃潰瘍は、典型的な慢性疾患であり、従って全期間に渡り治療を継続して、ぶり返しを防止することが重要である。
【0116】
実施例6
同一の特別な屠殺用のウシの群に属し、かつ実施例5において述べたものと同一の、胃潰瘍の徴候をもつ3頭のウシを、以下の成分を含む処方物で治療する。
【0117】
乾燥ポテトパルプ 1000g
ポテトペクチン質繊維(ポテックス(Potex)) 500g
柑橘類搾りカス 1000g
「メチルセルロースM 20」0.5%(w/w)および 120g
「ツイーン60」1.0%(w/w)を含む水性溶液
レシチン 600g
乾燥ポテトパルプ 1000g
リンゴ搾りカス 400g
4620g
【0118】
3日間に渡る2×50g/日なる用量で開始し、引き続き8日間に渡る1×50g/日なる用量での治療は、完全な回復をもたらした。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動物及びヒトにおける下痢の治療用組成物であって、
下記成分(a)と(b)との混合物を含むことを特徴とする医薬組成物。
(a)該混合物の重量を基準として34〜90重量%のペクチン質植物繊維物質であって、該ペクチン質植物繊維物質の重量を基準として2〜10重量%の、水よりも低い表面張力を持つ、生理学的に許容される液状有機物質と組み合わされたペクチン質植物繊維物質、
(b)該ペクチン質植物繊維物質の重量を基準として5〜40重量%のリン脂質。
【請求項2】
前記液状有機物質が少なくとも1種のアルコールである、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記液状有機物質が、エタノール、グリセロール及びこれらの混合物からなる群より選ばれるアルコールである、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
前記液状有機物質が、エタノールとグリセロールとの混合物である、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
前記液状有機物質が、ピロリドン含有化合物又はエトキシル化ソルビタン脂肪酸エステルである、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記液状有機物質が、ポリビニルピロリドン(PVP)である、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
前記ペクチン質植物繊維物質が、ポテトパルプ、柑橘類絞りカス、リンゴ搾りカス及び大豆繊維からなる群より選ばれる、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
前記ペクチン質植物繊維物質が、前記混合物の65〜90重量%を構成する、請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
前記リン脂質がレシチンである、請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
前記リン脂質の量が、前記ペクチン質植物繊維物質の重量を基準にして5〜15重量%である、請求項1に記載の組成物。
【請求項11】
前記液状有機物質の表面張力が水の表面張力よりも低い、請求項1に記載の組成物。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれかに記載の組成物の製造方法であって、
微粉砕した、乾燥ペクチン質植物繊維物質を、強力な攪拌下で、該植物繊維物質の重量を基準として2〜10重量%の、水よりも著しく低い表面張力を持つ液状有機物質と混合して第一混合物を形成する工程、及び
該第一混合物と、該ペクチン質植物繊維物質の重量を基準として5〜15重量%のレシチンとを、少なくとも45℃の温度下、攪拌下で組み合わせて、均一な混合物形態の該組成物を形成する工程
を含むことを特徴とする方法。

【公開番号】特開2007−297413(P2007−297413A)
【公開日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−213441(P2007−213441)
【出願日】平成19年8月20日(2007.8.20)
【分割の表示】特願平8−529896の分割
【原出願日】平成8年4月3日(1996.4.3)
【出願人】(507279473)
【Fターム(参考)】