説明

不安定な陰イオン性高分子電解質を使用する陽イオン性殺生剤の相互作用制御

コンタクトレンズおよび移植物などの医療デバイス内への陽イオン性殺生剤の取り込みを抑止する方法が記載される。陽イオン性殺生剤を含有するエマルジョンを安定化させる方法もまた記載される。具体的には、本発明は、陽イオン性殺生剤に可逆的に結合するための不安定な陰イオン性高分子電解質として働くポリマーの使用を提供する。この可逆的な結合は、陽イオン性殺生剤の有害な影響を低下させ得、一方で、殺生活性を維持し得る。好ましいポリマーとしては、ガラクトマンナンおよびポリビニルアルコールが挙げられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2008年4月3日に出願された米国仮特許出願第61/042,186号の利益を主張する。この米国仮特許出願の開示は、本明細書中に参考として明白に援用される。
【0002】
(発明の分野)
本発明は、溶液中の陽イオン性殺生剤に可逆的に結合して、これらの陽イオン性殺生剤の有害な影響を最小にする方法に関する。特に、本発明は、陽イオン性殺生剤の、医療デバイス(例えば、コンタクトレンズおよび移植物)内への取り込みを抑止する方法、ならびに陽イオン性殺生剤を含有するエマルジョンを安定化させる方法に関する。特定の条件下では、シス−ジオールポリマーが、不安定な陰イオン性高分子電解質として働き、陽イオン性殺生剤に可逆的に結合し、そしてこれらの陽イオン性殺生剤のコンタクトレンズへの取り込みを抑止し得ることが発見された。これらの方法は、シス−ジオールポリマーの、ボレートおよび陽イオン性殺生剤(例えば、ポリクオタニウム−1)を含有する組成物への添加を包含する。
【背景技術】
【0003】
(発明の背景)
陽イオン性殺生剤は、広範な微生物に対するそれらの殺生活性、およびこれらが使用される用途における一般的に低い毒性に起因して、種々の生物医学的製品において利用されている。陽イオン性殺生剤の例としては、表面活性第四級アンモニウム化合物(例えば、ベンザルコニウムクロリド)およびまた、ポリ第四級アンモニウム化合物(例えば、ポリクオタニウム−1)が挙げられる。陽イオン性殺生剤は、眼科用溶液およびコンタクトレンズケア溶液において、防腐剤および抗菌剤として広範に使用されているが、これらの陽イオン性殺生剤は、有害な影響を有し得、従って、これらの使用に関連する妥協が存在する。例えば、任意の特定の処方物において、抗細菌の殺傷/増殖阻害において有効であるために充分な量の陽イオン性殺生剤が存在しなければならず、依然として、通常の使用において毒性の影響および/または不快さの可能性を増加させるほどには多くてはならない。さらに、陽イオン性殺生剤は、それらのイオン性電荷に起因して、他の処方成分との適合性の問題を引き起こし得る。例えば、複雑な処方物(例えば、液滴の安定性が重要であるエマルジョン)において、負に荷電した液滴は、陽イオン性分子の存在下で凝集し、従って、これらの型の処方物における、その他の点では有効なこのクラスの殺生剤の使用を制限する。
【0004】
レンズを洗浄し、消毒し、そして調整するために使用され得る多目的溶液が入手可能であり、そしてコンタクトレンズの使用者に次第に人気が出ている。いくつかの多目的溶液は、擦ることなく使用するための「化学的消毒溶液」とみなされ得、これは、指定されたレベルの殺生性能を達成する目的で代表的に擦る工程を必要とする従来のコンタクトレンズ洗浄溶液または消毒溶液とは異なる。一般に、これらの型の溶液は、より強いレベルの殺生活性を必要とし、従って、より効力のある殺生剤、またはより高濃度の殺生剤のいずれかを必要とする。いくつかの例においては、眼に装着される前にこれらの溶液がコンタクトレンズからすすがれる必要がなく、そして他の場合においては、コンタクトレンズの使用者は、挿入前に自分のレンズをすすぐことに関して常に熱心ではないかもしれず、その結果、この溶液が眼表面に直接接触し得る。これらの型の処方物において、陽イオン性殺生剤の毒性の影響の可能性が最小にされることが、特に重要である。
【0005】
ソフトコンタクトレンズの場合における特別な問題は、殺生剤がヒドロゲルレンズ材料に吸収されるか、またはレンズ表面に吸着される傾向(一般に殺生剤「取り込み」と称される効果)である。代表的に、取り込みは、殺生剤を含有するレンズケア溶液中にレンズがある際に起こる。レンズが眼に再度装着された後に、吸収された殺生剤が、レンズから眼組織へと放出され得、敏感な眼組織の継続する刺激の可能性を有する。これらのレンズがいくらかの時間にわたって装着される場合、この継続する放出は、この殺生剤の任意の潜在的に毒性または刺激性の影響を増幅する効果を有し得る。なぜならこの場合、このレンズは、殺生剤の連続的な放出のためのレザバとして効果的に働くからである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
陽イオン性殺生剤を含有し、依然としてヒドロゲル生物材料(例えば、コンタクトレンズ)への殺生剤取り込みの程度が減少している組成物を提供することが、有利である。この方法で、陽イオン性殺生剤で防腐処理された組成物(例えば、眼への直接の応用が意図される眼用組成物およびレンズケア組成物、ならびにソフトコンタクトレンズでの使用が意図される擦らない溶液および他のレンズケア溶液が挙げられる)は、増加した毒性または不快さの問題なしに、安全に使用され得る。陽イオン性殺生剤を、特定の薬学的エマルジョンのための防腐剤として、液滴の安定性に影響を与えずに使用することもまた、有利である。本発明は、これらの目的を達成することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(発明の要旨)
本発明は、第一群の実施形態において、ヒドロゲル生物材料への陽イオン性殺生剤の取り込みを抑止する方法を提供し、この方法は、陽イオン性殺生剤を含有する水性組成物に、取り込み抑止量の不安定な陰イオン性高分子電解質を添加する工程を包含する。別の実施形態において、この方法は、陽イオン性殺生剤およびボレートを含有する組成物に、取り込み抑止量のシス−ジオール含有ポリマーを添加する工程を包含する。好ましい実施形態において、この陽イオン性殺生剤は、ポリマー性第四級アンモニウム化合物であり、そしてこのシス−ジオール含有ポリマーは、ガラクトマンナンである。別の好ましい実施形態において、この陽イオン性殺生剤は、ポリマー性第四級アンモニウム化合物であり、そしてこのシス−ジオール含有ポリマーは、ポリビニルアルコールである。
【0008】
本発明は、第二群の実施形態において、陽イオン性殺生剤を含有するエマルジョンの安定性を増加させる方法を提供し、この方法は、このエマルジョンに、エマルジョン安定化量の不安定な陰イオン性高分子電解質を添加する工程を包含する。別の実施形態において、本発明の方法は、陽イオン性殺生剤およびボレートを含有するエマルジョンに、エマルジョン安定化量のシス−ジオール含有ポリマーを添加する工程を包含する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、ヒドロキシプロピルグアーボレート(HPG−ボレート)のセグメントの図である。
【図2】図2は、ホウ酸イオンとジオール含有ポリマーとの反応の概略図である。
【図3】図3は、HP−グアー/ボレートとPolyquadとの相互作用のコロイド滴定のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(定義)
用語「不安定な陰イオン性高分子電解質」とは、ポリマーに永続的に固定されているわけではない陰イオン性電荷を有するポリマーを意味する。
【0011】
用語「シス−ジオールポリマー」とは、複数のヒドロキシル基を有するポリマーであって、これらのヒドロキシル基が同じ方向で配向しているポリマーを意味する。例示的なシス−ジオールポリマーとしては、グアーおよびポリビニルアルコールが挙げられる。
【0012】
用語「陽イオン性殺生剤」とは、固定された正電荷を有し、そしてモノマー性またはポリマーのいずれかである、抗菌剤を意味する。例示的な陽イオン性殺生剤としては、第四級アンモニウム基を有するもの(例えば、ポリクオタニウム)、およびホスホニウム基を有するものが挙げられる。
【0013】
用語「取り込み抑止量」とは、組成物中に存在する陽イオン性殺生剤の、ヒドロゲル生物材料への取り込みを抑止するために充分な、シス−ジオールポリマーの量を意味する。本発明の教示を利用して、組成物全体としての所望の特徴に基づいて、この組成物の他の成分に関連して、シス−ジオールポリマーの具体的な量を決定することは、当業者の技術の範囲内である。
【0014】
用語「エマルジョン安定化量」とは、当該分野において公知であるエマルジョン安定性試験方法に基づいて、シス−ジオールポリマーを含有しない、参照陽イオン殺生剤含有エマルジョンに対して、陽イオン性殺生剤を含有するエマルジョンの安定性を増加させるために充分な、シス−ジオールポリマーの量を意味する。
【0015】
用語「pHEMA−MAA」とは、ポリ(メタクリル酸2−ヒドロキシエチル−co−メタクリル酸)からなるコンタクトレンズを意味する。例示的なpHEMA−MAAレンズとしては、「Acuvue(登録商標)2」(Johnson & Johnson)が挙げられる。
【0016】
用語「防腐処理するために有効な量」とは、本明細書中に記載される溶液が微生物汚染されないように防腐処理するために望ましい効果を生じるために有効な、抗菌剤の量を意味し、好ましくは、単独でかまたは1種以上のさらなる抗菌剤との組み合わせのいずれかで、米国薬局方(「USP」)の防腐効力要件を満たすために充分な量を意味する。
【0017】
用語「消毒するために有効な量」とは、レンズ上に存在する生存可能な微生物の数をかなり減少させることによって、コンタクトレンズを消毒する所望の効果を生じるために有効な、抗菌剤の量を意味し、好ましくは、単独でかまたは1種以上のさらなる抗菌剤と組み合わせてのいずれかで充分である量を意味する。
【0018】
用語「眼科的に受容可能なビヒクル」とは、眼組織と生理学的に適合性である物理特性(例えば、pHおよび/または重量モル濃度)を有する薬学的組成物を意味する。
【0019】
他に記載されない限り、成分の%の量の指示は、重量/体積%に対応する。
【0020】
(発明の詳細な説明)
本発明の方法は、1つの実施形態において、コンタクトレンズへの陽イオン性殺生剤の取り込みを抑止する方法であり、この方法は、陽イオン性殺生剤およびボレートを含有するコンタクトレンズケア組成物に、取り込み抑止量のシス−ジオール含有ポリマーを供給する工程を包含する。好ましい実施形態において、このシス−ジオール含有ポリマーは、ガラクトマンナンである。
【0021】
理論により束縛されることを望まないが、ガラクトマンナンおよび他のシス−ジオール部分を有するポリマー(例えば、ポリビニルアルコール)は、7より高いpHにおいて、ボレートの存在下で不安定な陰イオン性高分子電解質になり、この高分子電解質と、他の溶質と、正電荷を有する表面(例えば、陽イオン性殺生剤)の間に静電相互作用を生じると考えられる。しかし、この静電相互作用は、この陰イオン性電荷の不安定な性質に起因して、固定されない。驚くべきことに、この不安定性の1つの効果は、この相互作用がヒドロゲル生物材料(コンタクトレンズが挙げられる)への陽イオン性殺生剤の取り込みを減少させる際に有効であることが見出されながら、溶液中の陽イオン性殺生剤がそれにもかかわらず、効果的な抗菌活性を維持することである。
【0022】
本発明の特定の実施形態は、好ましくは、ガラクトマンナンを利用する。ガラクトマンナンは、シス−ジオール部分を含む多数の多糖類のうちの1つである。本発明において使用され得るガラクトマンナンの型は、代表的に、グアーガム、イナゴマメガムおよびタラガム(tara gum)から誘導される。本明細書中で使用される場合、用語「ガラクトマンナン」とは、上記天然ガムまたは類似の天然ガムもしくは合成ガムから誘導された、マンノース部分またはガラクトース部分あるいはこれらの両方の基を主要な構造成分として含む、多糖類をいう。本発明の好ましいガラクトマンナンは、α−D−ガラクトピラノシル単位が(1−6)結合により結合している、(1−4)−β−D−マンノピラノシル単位の線状鎖から作製される。好ましいガラクトマンナンに関して、D−ガラクトース対D−マンノースの比は変動するが、一般に、約1:2〜1:4である。約1:2のD−ガラクトース:D−マンノースの比を有するガラクトマンナンが、最も好ましい。さらに、他の化学修飾された多糖類のバリエーションもまた、「ガラクトマンナン」の定義に含まれる。例えば、ヒドロキシエチル置換、ヒドロキシプロピル置換およびカルボキシメチルヒドロキシプロピル置換が、本発明のガラクトマンナンに対してなされ得る。ガラクトマンナンに対する非イオン性バリエーション(例えば、アルコキシ基および(C1〜C6)アルキル基を含むもの)が特に好ましい(例えば、ヒドロキシプロピル置換)。非シスヒドロキシル位における置換が、最も好ましい。本発明のガラクトマンナンの非イオン性置換の例は、ヒドロキシプロピルグアーであり、これは好ましくは、約0.6モル比までが置換される。
【0023】
本発明のガラクトマンナンは、多数の源から得られ得る。このような源としては、以下にさらに記載されるように、グアーガム、イナゴマメガムおよびタラガムが挙げられる。さらに、ガラクトマンナンはまた、古典的な合成経路により得られ得るか、または天然に存在するガラクトマンナンの化学修飾により得られ得る。
【0024】
グアーガムは、Cyamopsis tetragonolobus(L.)Taubの基底胚乳である。その水溶性画分(85%)は、「グアラン」(分子量220,000)と呼ばれ、これは、α−D−ガラクトピラノシル単位が(1−6)結合により結合している、(1−4)−β−D−マンノピラノシル単位の線状鎖からなる。グアランにおけるD−ガラクトース対D−マンノースの比は約1:2である。このガムは、数世紀にわたってアジアで栽培されており、そしてその増粘特性に起因して、主として食品およびパーソナルケア製品において使用されている。これは、デンプンの5倍〜8倍の増粘力を有する。その誘導体(例えば、ヒドロキシプロピル置換またはヒドロキシプロピルトリモニウムクロリド置換を含む誘導体)は、10年間にわたって市販されている。グアーガムは、例えば、Rhone−Polulenc(Cranbury,N.J.)、Hercules,Inc.(Wilmington,Del.)およびTIC Gum,Inc.(Belcamp,Md.)から入手され得る。
【0025】
イナゴマメガム(locust bean gum)またはイナゴマメガム(carob bean gum)は、イナゴマメの木であるceratonia siliquaの種子の精製した内乳である。この型のガムのガラクトース対マンノースの比は、約1:4である。イナゴマメの木の栽培は古く、そして当該分野において周知である。この型のガムは、市販されており、そして、TIC Gum,Inc.(Bekamp,Md)およびRhone−Polulenc(Cranbury,N.J.)から入手され得る。
【0026】
タラガムは、タラの木の精製された種子のガムから誘導される。ガラクトース対マンノースの比は、約1:3である。タラガムは、米国では商業的に製造されていないが、このガムは、米国外の種々の供給源から得られ得る。
【0027】
化学修飾されたガラクトマンナン(例えば、ヒドロキシプロピルグアー)もまた利用され得る。種々の程度の置換の修飾ガラクトマンナンが、Rhone−Poulenc(Cranbury,N.J.)から市販されている。低モル置換(例えば、0.6未満)を有するヒドロキシプロピルグアーが特に好ましい。
【0028】
HP−グアーの構造が、図1に示されている。代表的に、1個のガラクトースごとに約2個のマンノース単位が存在する。しかし、詳細なガラクトース含有量は、グアープラントにより決定される。グアーの分子量は、ガラクトース含有量およびポリマンノース鎖長の関数であり、加工中に低下し得る。
【0029】
HP−グアーとホウ酸との間の反応生成物は、架橋を生じ、そしてポリマー溶液の粘度に影響を与えることが公知である。ホウ酸は、ルイス酸であり、水と反応してホウ酸イオンを与え、プロトンを放出する:B(OH)+HO→B(OH)+H。この反応物のpKaは、9〜9.2である。ホウ酸イオンは、図2に示されるように、2つのシス−ジオール基に縮合し得る。これが起こる際に、陰イオン性電荷がこの鎖に付与され、そして架橋が形成される。ボロン酸アルキル(例えば、メチルボロン酸)およびフェニルボロン酸もまた、いくらかの炭水化物に結合するが、反応部位が1つのみであるので、これらは架橋を与えず、従って、ゲル化を促進しない。しかし、これらはポリマーに陰イオン性電荷を付与し得る。以下に記載される実験に部分的に基づいて、グアーは、7より高いpHにおいて、ボレートの存在下で、陰イオン性高分子電解質になると考えられる。しかし、これらの架橋の不安定性に起因して、これらの電荷は固定されない。
【0030】
本発明の他の特定の実施形態は、好ましくは、ポリビニルアルコール(PVA)を利用する。PVAは、代表的に、ポリ酢酸ビニルのアセタール基を加水分解により除去することによって、調製される。PVAは、多数の等級で入手可能であり、各々が、重合度、加水分解の百分率、および残留アセテート含有量が異なる。このような違いは、異なる等級の物理的挙動および化学的挙動に影響を与える。PVAは、2つの広いカテゴリー(すなわち、完全に加水分解されたものと部分的に加水分解されたもの)に分けられ得る。4%以下の残留アセテート含有量を含むものは、完全に加水分解されているといわれる。部分的に加水分解された等級は、通常、20%以上の残留アセテートを含む。PVAの分子量は、20,000から200,000まで変動し得る。PVAは、通常、粘度増強剤として使用され、そしてRGP製品の快適さおよび装着時間を改善する目的で、RGP製品において使用され得る。PVAはまた、薬学的眼用組成物(例えば、点眼薬、ゲルまたは眼用挿入物)のための粘度増強剤として使用される。一般に、眼用製品において使用されるPVAは、30,000〜100,000の範囲の平均分子量を有し、11%〜14%の残留アセテートを含む。
【0031】
組成物中のシス−ジオールポリマーの正確な量は、そのポリマーおよび処方に従って変動するが、本発明の組成物は、一般に、シス−ジオールポリマーを、約0.01%w/v〜約1%w/v、好ましくは、約0.025%w/v〜約0.25%w/v、より好ましくは、約0.05%w/v〜約0.15%w/vの濃度で含有する。
【0032】
本発明の組成物において使用され得るボレートとしては、ホウ酸および他の薬学的に受容可能な塩(例えば、ホウ酸ナトリウム(ホウ砂)およびホウ酸カリウム)が挙げられる。本明細書中で使用される場合、用語「ボレート」とは、ボレートの全ての薬学的に適切な形態、およびメタボレートをいう。ボレートは、生理学的pHにおける良好な緩衝能力、ならびに周知の安全性および広範な薬物および防腐剤との適合性に起因して、眼用処方物における通常の賦形剤である。ボレートはまた、固有の静菌特性および静真菌特性を有し、これは、改善された防腐系を提供する。
【0033】
本発明において使用される組成物は、陽イオン性抗菌剤、および必要に応じて、1種以上のさらなる殺生剤(最適な防腐または消毒のために必要とされる場合)を含有する。陽イオン性抗菌剤は、固定された正電荷を有する化合物であり、モノマー性であってもポリマー性であってもいずれでもよく、そしてそれらの抗菌活性を、微生物との化学的相互作用または物理化学的相互作用によって誘導する。好ましいポリマー性陽イオン性殺生剤としては、ポリクオタニウム−1およびポリクオタニウム−40(ポリ(ジメチルジアリルアンモニウムクロリド)が挙げられ、これらは、ポリマー性第四級アンモニウム化合物である。これらの好ましい抗菌剤は、それぞれ、Starkに対して発行された米国特許第4,407,791号および同第4,525,346号、ならびにSmithらに対して発行された米国特許第4,361,548号および同第4,443,429号に開示されている。上記刊行物の全内容は、本明細書中に参考として援用される。本発明の組成物および方法において適切な他の陽イオン性抗菌剤としては、他の第四級アンモニウム化合物(例えば、ベンザルコニウムハロゲン化物、ベンゼトニウムハロゲン化物、セトリミド、ホスフェート第四級化合物(例えば、米国特許第4,503,002号および同第4,503,002号(Mayhewら)に記載されるもの)、ホスホベタイン(米国特許第4,215,064号に記載されるような)、ピリジニウム殺生剤(例えば、セチルピリジニウムハロゲン化物)、ならびに固定された正電荷を有する他の殺生剤)が挙げられる。必要とされる場合に存在し得るさらなる殺生剤は、局所眼用処方物またはレンズケア処方物において使用するために適切な任意のものであり得、例えば、ビグアニド(例えば、ポリヘキサメチレンビグアニド(PHMB)、ポリアミノプロピルビグアニド(PAPB))および安定化オキシクロロ化合物(例えば、Purite(登録商標))が挙げられる。
【0034】
本発明の特に好ましい陽イオン性殺生剤は、以下の構造:
【0035】
【化1】

のポリマー性第四級アンモニウム化合物であり、この構造において、
R1およびR2は、同じであっても異なっていてもよく、そして
(CHCHOH)
N(CHまたはOH
から選択され;
Xは、薬学的に受容可能な陰イオンであり、好ましくは、塩化物であり;そして
nは、1〜50の整数である。
この構造の最も好ましい化合物は、ポリクオタニウム−1であり、これは、Onamer MTM(Onyx Chemical Corporationの登録商標)またはPolyquad(登録商標)(Alcon Laboratories,Inc.の登録商標)としてもまた公知である。ポリクオタニウム−1は、Xが塩化物であり、そしてR1、R2およびnが上で定義されたとおりである、上で参照された化合物の混合物である。
【0036】
上記抗菌剤は、本発明の方法において、政府の規制機関(例えば、米国食品医薬品局)の要件に従って、コンタクトレンズ上に見出される生存可能な微生物を実質的に排除するか、または数を有意に減少させるために効果的な量で、利用される。本明細書の目的で、この量は、「消毒するために有効な量」または「抗菌有効量」であると記載される。使用される抗菌剤の量は、その方法が利用されるレンズケア計画の型などの要因に依存して変動する。例えば、レンズケア計画における効力のある毎日のクリーナーの使用は、レンズ上に堆積する物質(微生物を含む)の量をかなり減少させ得、これによって、これらのレンズを消毒するために必要とされる抗菌剤の量を少なくする。一般に、約0.000001重量%〜約0.05重量%の範囲の濃度の、1種以上の上記抗菌剤が、使用される。式(I)のポリマー性第四級アンモニウム化合物の最も好ましい濃度は、約0.0001重量%〜0.001重量%である。
【0037】
本発明の組成物が使用され得る材料の型としては、種々のヒドロゲル生物材料が挙げられる。ヒドロゲル生物材料とは、その水和状態において水を含む、ポリマー鎖網目構造または架橋ポリマー系である。従来のヒドロゲルレンズ材料は、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル(HEMA)、メタクリル酸グリセリルおよびN−ビニルピロリドン(NVP)などの親水性モノマーから作製される。これらの材料は、代表的に、高度な可撓性およびかなりの含水量を提供し、多くの様式で、生物学的組織に匹敵する。シリコーンヒドロゲルは、別のクラスのヒドロゲル材料を代表する。全てのこれらおよび他の種々の型のヒドロゲル生物材料は、コンタクトレンズを構成するために使用される。上記ヒドロゲルの型の全ては、種々の型のソフトコンタクトレンズにおいて見出される。本発明は、種々の型のコンタクトレンズ(例えば、ハードレンズ、ソフトレンズ、ガス透過性ハードレンズおよびガス透過性ソフトレンズ、ならびにシリコーンレンズ)と一緒に使用され得る。別の型のコンタクトレンズは、ハード型であり、ガス透過性ハード(RPG)材料を含む。
【0038】
本発明において使用される組成物は、他の成分を含有する。このような成分としては、抗菌/防腐剤、張度調整剤、緩衝剤およびキレート剤が挙げられ得る。他のポリマー薬剤またはモノマー性薬剤(例えば、ポリエチレングリコールおよびグリセロール)もまた、特別な加工のために添加され得る。本発明の組成物において有用な張度調整剤としては、塩(例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウムおよび塩化カルシウム)、ならびにポリオール(例えば、マンニトールおよびソルビトール)が挙げられ得る。非イオン性張度剤としては、プロピレングリコールおよびグリセロールが挙げられ得る。キレート剤としては、EDTAおよびその塩が挙げられ得る。そしてpH調整剤としては、塩酸、Tris、トリエタノールアミンおよび水酸化ナトリウムが挙げられ得る。適切な抗菌剤/防腐剤は、以下でより充分に議論される。上記例のリストは、説明の目的で与えられており、網羅的であることは意図されない。上記目的のために有用な他の薬剤の例は、眼用処方物およびコンタクトレンズケア処方物において周知であり、本発明により想定される。
【0039】
以下の実施例は、本発明の種々の実施形態をさらに説明する。これらの実施例は、本発明の理解を補助するために提供されるのであり、本発明の限定であると解釈されるべきではない。
【実施例】
【0040】
(実施例1)
(HP−グアー/ボレートと陽イオン性殺生剤(Polyquad(登録商標))との間の相互作用を支持するコロイド滴定)
流動電位滴定を、Mutek PCD 03流動電流検出器(SCD)を備えたMutek PCD T3滴定装置を使用して実施した。この検出器は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)から作製された円筒形セルおよびピストンを有する。サンプル中の高分子電解質が、このセルの壁およびピストン表面に吸着される。このピストンは、このセル内を垂直に振動して、流体を加圧する。高分子電解質は、この流れにより対イオンから分離され、これが流動電位を生じ、これがセルの壁の2つの金電極により検出される。高分子電解質は、逆の電荷を有する高分子電解質により滴定される。代表的な実験において、10mLのサンプルを、0.001mol/lのポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロリド)(PDADMAC)を滴定剤として使用して、円筒形セルに入れた。全ての実験を、25℃で9.2のpHで3回実施した。HPグアー、ボレートおよびPolyquad(登録商標)を使用して実施した実験の結果を、図3に示す。これらの結果は、Polyquad(登録商標)の添加により、結合したボレート濃度が低下することを示し(x軸に沿って示される)、HP−グアー/ボレートとPolyquad(登録商標)との間の増加する相互作用を示す。これらの結果は、結合したボレート濃度の低下が、Polyquad(登録商標)がHPグアーのボレート結合部位に結合することの反映であるという結論を支持する。
【0041】
(実施例2)
(HP−グアーを使用するメタクリル酸ポリヒドロキシエチル−メタクリレート(pHEMA−MAA)Acuvue2レンズへのPolyquad(登録商標)取り込みの減少)
表1は、Acuvue2レンズへのPolyquad(登録商標)取り込みに対するHP−グアーの用量応答を調査するために使用したビヒクルを示す。
【0042】
表1.レンズ取り込み研究のための処方ビヒクルの組成
【0043】
【表1】

レンズ取り込みデータを、表2に示す。処方物サービスD、E、FおよびAを、HP−グアー濃度を0.025%から0.1%まで増加させることにより改変し、2ppmの目標Polyquad(登録商標)濃度およびpH8.0を使用した。HP−グアーを0.025%から0.1%まで増加させることにより、Acuvue2レンズへのPolyquad(登録商標)取り込みが、0.7μg/レンズから0.34μg/レンズまで減少した。このデータを表2に提供する。
【0044】
表2.2サイクル後のPolyquad(登録商標)レンズ取り込みに対するHP−グアーの効果
【0045】
【表2】

これらの結果は、HPグアーがAcuvue2(IV群)レンズ材料へのPolyquad(登録商標)取り込みを低下させるために使用され得ることを実証する。実証された取り込み減少は、おそらく、HP−グアーがボレートの存在下で陰イオン性高分子電解質として働くことから生じる。
【0046】
(実施例3)
(消毒活性およびPolyquad(登録商標)のレンズ取り込みに対するHP−グアーの効果)
HP−グアー濃度を増加させることによってレンズ取り込み値をさらに低下させることを調査する目的で、さらなる研究を続けた。表3は、0.1%、0.12%および0.14%のHP−グアー濃度についての取り込みデータが、それぞれ0.33μg/レンズ、0.29μg/レンズおよび0.24μg/レンズであったことを示す。
【0047】
消毒スクリーンデータもまた表3に提供する。コントロール処方物Gは、販売されているOpti−Free(登録商標)洗浄、消毒、保存液である。これらのデータは、二次スクリーン消毒基準が満たされたことを示す。
【0048】
表3.Polyquad(登録商標)を含む消毒溶液の消毒スクリーンおよびレンズ取り込みに対するHP−グアーの効果
【0049】
【表3−1】

【0050】
【表3−2】

Opti−Free(登録商標)洗浄、消毒、保存液。
接種材料コントロール計数。
下線付きの数字は、生存物(<10CFU/mL)が回収されなかったことを示す。
【0051】
(実施例4)
(ソルビトール濃度の関数としての、pH7.8におけるPVAおよびボレートの存在下でのAcuvue2レンズへのPolyquad(登録商標)の取り込み)
表IVに示される処方物シリーズにおいて、異なるポリマー(ポリビニルアルコール(PVA)であり、これもまたボレートと反応する)の使用を、Polyquad(登録商標)とのPVA結合に対するソルビトールの影響と一緒に評価した。ソルビトールは、PVAと競合し、そしてPVA−ボレート相互作用に影響を与える。ソルビトールの濃度の上昇は、ボレートとPVAとの反応が減少することをもたらし、そしてPolyquad(登録商標)レンズ取り込みの対応する増加をもたらすと予測された。処方物Aは、PVAを含まないコントロール溶液である。この溶液を使用するレンズ取り込みは、2.3μg/レンズであった。0.05%のPVAの添加後、この取り込みは1.0まで減少した。
【0052】
表4.ソルビトール濃度の関数としての、pH7.8におけるポリビニルアルコールおよびボレートの存在下でのAcuvue2レンズへのPolyquad(登録商標)の取り込み
【0053】
【表4】

本発明は、特定の好ましい実施形態を参照することにより記載された。しかし、本発明は、他の特定の形態またはそのバリエーションで、その趣旨または本質的な特徴から逸脱することなく実施され得ることが理解されるべきである。従って、上に記載された実施形態は、全ての目的で説明であって限定ではないとみなされ、本発明の範囲は、上記説明によるよりむしろ、添付の特許請求の範囲によって示される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒドロゲル生物材料への陽イオン性殺生剤の取り込みを抑止する方法であって、該方法は、陽イオン性殺生剤を含有する水性組成物に、取り込み抑止量の不安定な陰イオン性高分子電解質を添加する工程を包含する、方法。
【請求項2】
前記不安定な陰イオン性高分子電解質が、ボレート−シスジオールポリマー複合体を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ヒドロゲル生物材料への陽イオン性殺生剤の取り込みを抑止する方法であって、該方法は、陽イオン性殺生剤およびボレートを含有する組成物に、取り込み抑止量のシス−ジオール含有ポリマーを添加する工程を包含する、方法。
【請求項4】
前記組成物のpHが7より高い、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記陽イオン性殺生剤が、ポリマー性第四級アンモニウム化合物である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記ポリマー性第四級アンモニウム化合物がポリクオタニウム−1である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記シス−ジオールポリマーが、ポリビニルアルコールおよびガラクトマンナンからなる群より選択される、請求項2または3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記ガラクトマンナンが、グアーガム、イナゴマメガム、タラガム、およびその化学修飾された誘導体からなる群より選択される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記ガラクトマンナンがヒドロキシプロピルグアーを含む、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
陽イオン性殺生剤のバイオアベイラビリティを調節する方法であって、該方法は、陽イオン性殺生剤を含有する組成物に、バイオアベイラビリティ調節量の不安定な陰イオン性高分子電解質を添加する工程を包含する、方法。
【請求項11】
前記組成物中のガラクトマンナンの量が、約0.01重量/体積%〜1重量/体積%である、請求項7に記載の方法。
【請求項12】
陽イオン性殺生剤を含有するエマルジョンの安定性を増加させる方法であって、該方法は、該エマルジョンに、エマルジョン安定化量の不安定な陰イオン性高分子電解質を添加する工程を包含する、方法。
【請求項13】
陽イオン性殺生剤およびボレートを含有するエマルジョンの安定性を増加させる方法であって、該方法は、該エマルジョンに、エマルジョン安定化量のシス−ジオール含有ポリマーを添加する工程を包含する、方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2011−518129(P2011−518129A)
【公表日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−503036(P2011−503036)
【出願日】平成21年3月25日(2009.3.25)
【国際出願番号】PCT/US2009/038152
【国際公開番号】WO2009/123890
【国際公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【出願人】(508185074)アルコン リサーチ, リミテッド (160)
【Fターム(参考)】