説明

不斉ヒドロホルミル化用の配位子

本発明は、キラルのリンキレート化合物、係る化合物を配位子として含有する触媒並びに係る触媒の存在下での不斉合成法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キラルのリンキレート化合物、係る化合物を配位子として有する触媒並びに係る触媒の存在下での不斉合成方法に関する。
【0002】
不斉合成は、プロキラルグループからキラルグループを生成させて、立体異性体生成物(エナンチオマー又はジアステレオマー)を不均等な量で生ずる反応を呼称する。不斉合成は、とりわけ医薬品産業の範囲で極めて重要性を増している。それというのも、しばしば一定の光学活性異性体のみが治療に有効であるにすぎないからである。従って、新規の不斉合成法と、一定の立体中心についての大きな不斉誘導を有する特定の触媒が絶え間なく必要とされている、すなわち該合成は、所望の異性体を高い光学純度でかつ高い化学的収率でもたらすことが望ましい。
【0003】
それらの反応の重要な1つの種類は、炭素−炭素多重結合及び炭素−ヘテロ原子多重結合での付加である。その際、C=X二重結合(Xは、C、ヘテロ原子である)の2つの隣接する原子での付加は、1,2−付加とも呼称される。更に、付加反応は、付加される基の種類に応じて特徴付けることができ、その際、ハイドロ付加(Hydro−Addition)とは、水素原子の付加を指し、かつカルボ付加(Carbo−Addition)とは、炭素含有フラグメントの付加を指す。このように、1−ハイドロ−2−カルボ付加は、水素と炭素原子含有基の付加を指す。前記反応の重要な代表は、例えばヒドロホルミル化、ヒドロシアノ化及びカルボニル化である。炭素−炭素多重結合及び炭素−ヘテロ原子多重結合での付加の更なる非常に重要な付加は、水素化である。プロキラルのエチレン性不飽和化合物での不斉付加反応のための良好な触媒活性と高い立体選択性とを有する触媒が必要とされている。
【0004】
ヒドロホルミル化又はオキソ合成は、重要な大工業的方法であり、該方法はオレフィン、一酸化炭素及び水素からのアルデヒドの製造に用いられる。これらのアルデヒドを、場合により同じ作業過程で水素を用いて水素化させて、相応のオキソアルコールとすることができる。不斉ヒドロホルミル化は、キラルのアルデヒドの合成のために重要な1つの方法であり、そして芳香物質、化粧品、植物保護剤及び医薬品の製造のためのキラル構成単位への経路として関心が持たれている。ヒドロホルミル化反応自体は、極めて発熱性であり、そして一般に、高圧・高温のもとで触媒の存在下に進行する。触媒としては、Co、Rh、Ir、Ru、Pd又はPtの化合物もしくは錯体が使用され、該錯体は、その活性及び/又は選択性に影響を及ぼすために、N、P、As又はSbを有する配位子で変性されていてよい。2個より多い炭素原子を有するオレフィンのヒドロホルミル化反応では、二重結合の2つの炭素原子のそれぞれでCO付加がありうることに基づき、異性体アルデヒドの混合物が形成される結果となりうる。更に、少なくとも4個の炭素原子を有するオレフィンを使用した場合に、二重結合異性化によって、異性体オレフィンと場合によりまた異性体アルデヒドの混合物が形成される結果となりうる。キラル触媒を使用した場合に、エナンチオマーアルデヒドの混合物が形成する結果となりうる。従って、効率的な不斉ヒドロホルミル化のためには、以下の条件を満たさねばならない:1.触媒の高い活性、2.所望のアルデヒドに関する高い選択性、3.所望の異性体のための高い立体選択性。
【0005】
ロジウム低圧ヒドロホルミル化では、触媒金属の安定化及び/又は活性化のためにリン含有配位子を使用することが知られている。好適なリン含有配位子は、例えばホスフィン、ホスフィナイト、ホスホナイト、ホスファイト、ホスホラミダイト、ホスホール及びホスファベンゼンである。目下、非常に広範に知られた配位子は、トリアリールホスフィン、例えばトリフェニルホスフィン及びスルホン化トリフェニルホスフィンである。それというのも、これらの配位子は、反応条件下で十分な安定性を有するからである。
【0006】
WO00/56451号は、ホスフィンアミダイト配位子を基礎とするヒドロホルミル化触媒であってリン原子がそれと結合している酸素原子と一緒になって5員ないし8員の複素環を表す触媒を記載している。
【0007】
WO02/083695号は、プニコゲンキレート化合物であってそれぞれのプニコゲン原子に少なくとも1つのピロール基がピロール窒素原子を介して結合されている化合物を記載している。これらのプニコゲンキレート化合物は、ヒドロホルミル化触媒用の配位子として適している。
【0008】
WO03/018192号は、とりわけピロールリン化合物を記載しており、該化合物では少なくとも1つの置換されたピロール基及び/又は縮合環系中に統合されたピロール基は、そのピロール窒素原子を介してリン原子と共有結合されており、該化合物は、ヒドロホルミル化触媒で配位子として使用する場合に非常に良好な安定性の点で優れている。
【0009】
DE−A−10342760号は、2つのプニコゲン原子を有するプニコゲン化合物であって、両方のプニコゲン原子にピロール基がピロール窒素原子を介して結合されていてよく、かつ両方のプニコゲン原子がメチレン基を介して橋かけ基に結合されている化合物を記載している。これらのプニコゲン化合物は、ヒドロホルミル化触媒用の配位子として適している。
【0010】
キラル触媒は、上述の文献においては記載されていない。
【0011】
配位可能な2つの基を有するキレート配位子の使用が、不斉ヒドロホルミル化反応において達成される立体選択性に有利に作用することは知られている。このように、例えばM.M.H.Lambers−VerstappenとJ.de Vriesは、Adv.Synth.Catal.2003,345、第4号、476〜482頁において、ロジウムにより触媒される不飽和ニトリルのヒドロホルミル化を記載しており、その際、不斉のBINAPHOS配位子をもってのみ満足のいく不斉ヒドロホルミル化が可能であったに過ぎない。
【0012】
EP−A−0503884号は、2位で置換された光学活性の2′−ジフェニルホスフィン−1,1′−ビナフチル化合物、係る化合物を配位子として有する遷移金属錯体を基礎とする触媒並びに係る触媒を使用したエナンチオ選択的なシリル化方法を記載している。
【0013】
EP−A−0614870号は、プロキラルな1−オレフィンを、1,1′−ビナフチレン骨格を有する非対称なリン原子含有配位子を有するロジウム錯体の存在下でそれをヒドロホルミル化触媒としてヒドロホルミル化することによって光学活性アルデヒドを製造する方法を記載している。非対称なリン原子含有配位子の製造は、高い合成費用に結びつく。EP−A−0614901号、EP−A−0614902号、EP−A−0614903号、EP−A−0684249号及びDE−A−19853748号は、同等の構造を有する非対称なリン原子含有配位子を記載している。
【0014】
WO93/03839号(EP−B−0600020号)は、光学活性の金属−配位子錯体触媒であって、配位子として光学活性プニコゲン化合物を含む触媒並びに係る触媒の存在下での不斉合成の方法を記載している。
【0015】
未公表のドイツ国特許出願P10355066.6号は、第VIII副族の金属と、非共有結合を介して二量体化しうる配位子との錯体を少なくとも1つ含むキラル触媒の存在下での不斉合成方法、係る触媒並びにそれらの使用に関する。
【0016】
本発明の課題は、キラル化合物を高い立体選択性及び高い反応性で製造するのに適したキラル化合物及び該化合物を基礎とする触媒を提供することである。これらの触媒は、オレフィンを良好な立体選択性でかつ高い反応性でヒドロホルミル化するのに特に適しているべきである。
【0017】
それに相応して、一般式I
【化1】

[式中、
α及びRβは、互いに無関係に、5員ないし7員の複素環の基であって、1つの環窒素原子を介してリン原子に結合されている基を表すか、又は
α及びRβは、それらと結合したリン原子と一緒になって、5員ないし7員の複素環であって更に1つの置換されていてよい窒素原子と酸素及び置換されていてよい窒素から選択される他のヘテロ原子とを有し、その両方の原子が前記リン原子と結合されている複素環を表し、
γ及びRδは、互いに無関係に、アルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール又はヘテロアリールを表し、その際、該アリール基は、1、2、3、4もしくは5つの置換基を有してよく、該置換基は、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、ヘタリール、アルコキシ、シクロアルコキシ、ヘテロシクロアルコキシ、アリールオキシ、ヘタリールオキシ、ヒドロキシ、チオール、ポリアルキレンオキシド、ポリアルキレンイミン、COOH、カルボキシレート、SO3H、スルホネート、NE12、NE123-、ハロゲン、ニトロ、アシル又はシアノから選択され、その際、E1、E2及びE3は、それぞれ水素、アルキル、シクロアルキル又はアリールから選択される同一又は異なる基を意味し、かつX-は、アニオン等価体を表し、その際、シクロアルキル基、ヘテロシクロアルキル基、アリール基及びヘタリール基のRγ及びRδは、1、2、3、4もしくは5つの置換基を有してよく、該置換基は、アルキル及びアルキル基Rγ及びRδについて上述した置換基から選択され、又は
Xは、O、S、SiRεξ又はNRηを表し、その際、Rε、Rξ及びRηは、互いに無関係に、水素、アルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール又はヘタリールを表し、かつ
Yは、キラルの二価の橋かけ基を表す]で示されるリンキレート化合物が見出された。
【0018】
"キラル化合物"は、本発明の範囲では、少なくとも1つのキラル中心(すなわち、少なくとも1つの不斉原子、特に少なくとも1つの不斉炭素原子もしくは不斉リン原子)、キラル軸、キラル面又は螺旋構造を有する化合物である。
【0019】
"キラル触媒"の概念は、本発明の範囲では広く解される。その概念は、少なくとも1つのキラル配位子を有する触媒と同様に、自体アキラルな配位子であるが、該配位子の配置に基づいて非共有結合相互作用のため及び/又は配位子の錯結合形の配置に基づいて、点キラリティー、軸キラリティー、面キラリティー又は螺旋度を示す配位子を有する触媒をも含む。
【0020】
"アキラルな化合物"は、キラルでない化合物である。
【0021】
"プロキラルな化合物"とは、少なくとも1つのプロキラル中心を有する化合物を表す。"不斉合成"は、少なくとも1つのプロキラル中心を有する化合物から、少なくとも1つのキラル中心、キラル軸、キラル面又は螺旋構造を有する化合物が製造され、立体異性生成物が不均等な量で生ずる反応を指す。
【0022】
"立体異性体"は、同じ構成の化合物であるが、三次元空間での原子配置が異なる化合物である。
【0023】
"エナンチオマー"は、互いに像と鏡像の関係にある立体異性体である。不斉合成で得られる"エナンチオマー過剰率"(enantiomeric excess、ee)は、この場合に以下の式:ee[%]=(R−S)/(R+S)×100に従って得られる。RとSは、両方のエナンチオマーについてのCIP系の記述子であり、かつ不斉原子での絶対配置を示している。エナンチオマー純粋な化合物(ee=100%)は、"ホモキラル化合物"とも呼称される。
【0024】
本発明による方法は、一定の立体異性体に関して濃縮されている生成物をもたらす。得られた"エナンチオマー過剰率"(ee)は、一般に、少なくとも20%、有利には少なくとも50%、特に少なくとも80%である。
【0025】
"ジアステレオマー"は、互いにエナンチオマーではない立体異性体である。
【0026】
以下では、表現"アルキル"は、直鎖状の及び分枝鎖状のアルキル基を含む。有利には、アルキルは、この場合、直鎖状の又は分枝鎖状のC1〜C20−アルキル基、有利にはC1〜C12−アルキル基、特に有利にはC1〜C8−アルキル基、殊に有利にはC1〜C4−アルキル基である。アルキル基のための例は、特に、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、n−ブチル、2−ブチル、s−ブチル、t−ブチル、n−ペンチル、2−ペンチル、2−メチルブチル、3−メチルブチル、1,2−ジメチルプロピル、1,1−ジメチルプロピル、2,2−ジメチルプロピル、1−エチルプロピル、n−ヘキシル、2−ヘキシル、2−メチルペンチル、3−メチルペンチル、4−メチルペンチル、1,2−ジメチルブチル、1,3−ジメチルブチル、2,3−ジメチルブチル、1,1−ジメチルブチル、2,2−ジメチルブチル、3,3−ジメチルブチル、1,1,2−トリメチルプロピル、1,2,2−トリメチルプロピル、1−エチルブチル、2−エチルブチル、1−エチル−2−メチルプロピル、n−ヘプチル、2−ヘプチル、3−ヘプチル、2−エチルペンチル、1−プロピルブチル、n−オクチル、2−エチルヘキシル、2−プロピルヘプチル、ノニル、デシルである。
【0027】
表現"アルキル"は、シクロアルキル、アリール、ヘタリール、ハロゲン、NE12、NE123+、COOH、カルボキシレート、−SO3H及びスルホネートの群から選択される、一般に1、2、3、4もしくは5つの、有利には1、2もしくは3つの、特に有利には1つの置換基を有してよい置換されたアルキル基をも含む。
【0028】
表現"アルキレン"は、本発明の範囲では、1〜4個の炭素原子を有する直鎖状又は分枝鎖状のアルカンジイル基を表す。
【0029】
表現"シクロアルキル"は、本発明の範囲では、非置換と置換のシクロアルキル基、有利にはC5〜C7−シクロアルキル基、例えばシクロペンチル、シクロヘキシル又はシクロヘプチルを含み、前記基は、置換の場合には、アルキル、アルコキシ及びハロゲンの群から選択される、一般に1、2、3、4もしくは5つの、有利には1、2もしくは3つの、特に有利には1つの置換基を有してよい。
【0030】
表現"ヘテロシクロアルキル"は、本発明の範囲において、一般に4〜7個、有利には5又は6個の環原子を有し、環炭素原子の1又は2個が、有利には元素の酸素、窒素及び硫黄から選択されるヘテロ原子によって交換されており、かつ場合により置換されていてよい、飽和の脂環式の基を含み、その際、置換されている場合に、この複素脂肪族基は、1、2又は3個の、有利には1又は2個の、特に有利には1個の、アルキル、アリール、COORf、COO-+及びNE12から選択される置換基、有利にはアルキルを有してよい。係る複素脂環式基のための例としては、ピロリジニル、ピペリジニル、2,2,6,6−テトラメチルピペリジニル、イミダゾリジニル、ピラゾリジニル、オキサゾリジニル、モルホリジニル、チアゾリジニル、イソチアゾリジニル、イソオキサゾリジニル、ピペラジニル、テトラヒドロチオフェニル、テトラヒドロフラニル、テトラヒドロピラニル、ジオキサニルが挙げられる。
【0031】
表現"アリール"は、本発明の範囲では、非置換の、また置換のアリール基をも含み、かつ有利にはフェニル、トリル、キシリル、メシチル、ナフチル、フルオレニル、アントラセニル、フェナントレニル又はナフタセニル、特に有利にはフェニル又はナフチルであり、その際、前記のアリール基は、置換されている場合に、一般に1、2、3、4又は5個の、有利には1、2又は3個の、特に有利には1個の、アルキル、アルコキシ、カルボキシル、カルボキシレート、トリフルオロメチル、−SO3H、スルホネート、NE12、アルキレン−NE12、ニトロ、シアノ又はハロゲンの群から選択される置換基を有してよい。
【0032】
表現"ヘタリール"は、本発明の範囲では、非置換又は置換の複素環式芳香族基、有利には、ピリジル、キノリニル、アクリジニル、ピリダジニル、ピリミジニル、ピラジニルの群並びに"ピロール基"の下位群を含み、その際、前記の複素環式芳香族基は、置換されている場合に、1、2又は3個の、アルキル、アルコキシ、カルボキシル、カルボキシレート、−SO3H、スルホネート、NE12、アルキレン−NE12、トリフルオロメチル又はハロゲンの群から選択される置換基を有してよい。
【0033】
表現"ピロール基"は、本発明の範囲では、一連の非置換又は置換の複素環式芳香族基であって、構造的にピロール基骨格から誘導され、かつピロール性窒素原子を複素環中に含み、該原子が別の原子、例えばプニコゲン原子と共有結合されていてよい基を表す。従って表現"ピロール基"は、非置換又は置換の基であるピロリル、イミダゾリル、ピラゾリル、インドリル、プリニル、インダゾリル、ベンゾトリアゾリル、1,2,3−トリアゾリル、1,3,4−トリアゾリル及びカルバゾリルを含み、前記基は、置換されている場合に、一般に1、2又は3個の、有利には1又は2個の、特に有利には1個の、アルキル、アルコキシ、アシル、カルボキシル、カルボキシレート、−SO3H、スルホネート、NE12、アルキレン−NE12、トリフルオロメチル又はハロゲンの群から選択される置換基を有してよい。有利な置換されたインドリル基は、3−メチル−インドリル基である。
【0034】
それに相応して、表現"ビスピロール基"は、本発明の範囲では、式
Py−I−Py
で示される2結合基であって、直接的な化学的結合又はアルキレン基、オキサ基、チオ基、イミノ基、シリル基もしくはアルキルイミノ基によって媒介された結合によって結合された2つのピロール基を有する基を含み、例えば式
【化2】

のビスインドールジイル基を含み、該基は、直接的に結合された2つのピロール基、この場合にインドリルを有するビスピロール基のための例であり、又は式
【化3】

のビスピロールジイルメタン基を含み、該基は、メチレン基を介して結合された2つのピロール基、この場合にピロリルを含むビスピロール基のための例である。ピロール基と同様に、ビスピロール基は非置換又は置換されていてよく、かつ置換されている場合には、ピロール基単位当たりに、一般に1、2又は3個の、有利には1又は2個の、特に1個の、アルキル、アルコキシ、カルボキシル、カルボキシレート、−SO3H、スルホネート、NE12、アルキレン−NE12、トリフルオロメチル又はハロゲンから選択される置換基を有してよく、その際、前記の可能な置換基の数についての表記では、直接的な化学的結合による又は上述の基で媒介される結合によるピロール基単位の結合は、置換と見なされない。
【0035】
カルボキシレート及びスルホネートは、本発明の範囲では、有利にはカルボン酸官能もしくはスルホン酸官能の誘導体、特に金属のカルボン酸塩又はスルホン酸塩、カルボン酸エステル官能もしくはスルホン酸エステル官能又はカルボン酸アミド官能もしくはスルホン酸アミド官能を表す。このために挙げられるのは、例えばC1〜C4−アルカノール、例えばメタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、s−ブタノール及びt−ブタノールとのエステルである。このために挙げられるのは、更に第一級アミド及びそのN−アルキル誘導体及びN,N−ジアルキル誘導体である。
【0036】
表現"アルキル"、"シクロアルキル"、"アリール"、"ヘテロシクロアルキル"及び"ヘタリール"についての上記の説明は、相応して、表現"アルコキシ"、"シクロアルコキシ"、"アリールオキシ"、"ヘテロシクロアルコキシ"及び"ヘタリールオキシ"にも当てはまる。
【0037】
表現"アシル"は、本発明の範囲では、一般に2〜11個の、有利には2〜8個の炭素原子を有するアルカノイル基又はアロイル基、例えばアセチル基、プロパノイル基、ブタノイル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基、ヘプタノイル基、2−エチルヘキサノイル基、2−プロピルヘプタノイル基、ベンゾイル基又はナフトイル基を表す。
【0038】
基NE12、NE45、NE78、NE1011、NE1314、NE1617及びNE1920は、有利には、N,N−ジメチルアミノ、N,N−ジエチルアミノ、N,N−ジプロピルアミノ、N,N−ジイソプロピルアミノ、N,N−ジ−n−ブチルアミノ、N,N−ジ−t−ブチルアミノ、N,N−ジシクロヘキシルアミノ又はN,N−ジフェニルアミノを表す。
【0039】
ハロゲンは、フッ素、塩素、臭素及びヨウ素、有利にはフッ素、塩素及び臭素を表す。
【0040】
+は、カチオン等価体、すなわち一価のカチオン又は、多価のカチオンの正の一価の荷電に相応する部分である。前記カチオンM+は単に、負に帯電した置換基、例えばCOO基又はスルホン基の中和のための対イオンとして用いられ、かつ原則的に任意に選択されてよい。従って、有利には、アルカリ金属イオン、特にNa+イオン、K+イオン、Li+イオン又はオニウムイオン、例えばアンモニウムイオン、モノアルキルアンモニウムイオン、ジアルキルアンモニウムイオン、トリアルキルアンモニウムイオン、テトラアルキルアンモニウムイオン、ホスホニウムイオン、テトラアルキルホスホニウムイオン又はテトラアリールホスホニウムイオンが使用される。
【0041】
相応のことが、アニオン等価体X-についても当てはまり、それは単に正に帯電した置換基、例えばアンモニウム基の対イオンとして用いられ、かつ一価のアニオン及び、多価のアニオンの負の一価の荷電に相応する部分から任意に選択することができる。好適なアニオンは、例えばハロゲン化物イオンX-、例えば塩化物イオン及び臭化物イオンである。有利なアニオンは、硫酸イオン及びスルホン酸イオン、例えばSO42-、トシレート、トリフルオロメタンスルホネート及びメチルスルホネートである。
【0042】
xの値は、1〜240の整数、有利には3〜120の整数を表す。
【0043】
縮合された環系は、縮合によって結合された(縮合)芳香族化合物、ヒドロ芳香族化合物及び環状化合物であってよい。縮合された環系は、2個、3個又は3個より多い環からなる。結合種類に応じて、縮合された環系の場合に、オルト縮合(すなわち各環が、各隣接環と共有したそれぞれ1つの辺もしくは2つの原子を有する)とペリ縮合(1つの炭素原子に2つより多くの環が所属している)とで区別される。縮合された環系のうち、オルト縮合した環系が好ましい。
【0044】
第一の一実施態様では、一般式Iのリンキレート化合物において、置換基Rα及びRβは、ヘテロ原子を有する基であって、置換されていてよい窒素原子を介してリン原子に結合されている基を表し、その際、Rα及びRβは、互いに結合されていない。有利にはRα及びRβは、その際、ピロール性窒素原子を介してリン原子に結合されたピロール基を表す。概念"ピロール基"の意味は、その際、冒頭に示した定義に相当する。
【0045】
リンキレート化合物であって、基Rα及びRβが互いに無関係に式II.aないし式II.k
【化4】

[式中、
Alkは、C1〜C4−アルキル基であり、かつ
a、Rb、Rc及びRdは、互いに無関係に、水素、C1〜C4−アルキル、C1〜C4−アルコキシ、アシル、ハロゲン、トリフルオロメチル、C1〜C4−アルコキシカルボニル又はカルボキシルを表す]で示される群から選択される化合物が好ましい。特に有利には、基Rα及びRβの少なくとも1つは、非置換又は置換されたインドリル基であって、特に群II.eないしII.iから選択される基を表す。
【0046】
式II.eないしII.iの化合物において、基Ra及びRbは、互いに無関係に、水素、C1〜C4−アルキル、C1〜C4−アルコキシ及びハロゲンから選択されることが好ましい。基Ra及びRbの少なくとも1つが、C1〜C4−アルキルを表す場合に、特にメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル又はt−ブチルを表す。基Ra及びRbの少なくとも1つが、C1〜C4−アルコキシを表す場合に、特にメトキシ、エトキシ、n−プロピルオキシ、イソプロピルオキシ又はt−ブチルオキシを表す。基Ra及びRbの少なくとも1つがハロゲンを表す場合に、特に塩素を表す。
【0047】
特定の一実施態様では、式II.eないし式II.iの化合物中では、基Ra及びRbは、両方とも水素を表す。更なる特定の一実施態様において、式II.eないし式II.iの化合物中では、基Ra及びRbの1つが水素を表し、他は、水素とは異なる基、特にメチル、メトキシ又は塩素を表す。水素とは異なる基は、その際に、有利にはインドール骨格の4位、5位又は6位に存在する。
【0048】
特に有利には、両方の基Rα及びRβは、係る非置換又は置換のインドリル基を表す。
【0049】
具体化するために、以下に、幾つかの有利なピロール基を列記する:
【化5】

【0050】
【化6】

【0051】
特に有利には、式II.f1の3−メチルインドリル基(スカトリル基)である。1又は複数の3−メチルインドリル基をリン原子上に結合されて有する配位子を基礎とするヒドロホルミル化触媒は、特に高い安定性の点と、従って特に長い触媒寿命の点で優れている。
【0052】
更に、基Rα及びRβが互いに無関係に以下の
【化7】

から選択されるリンキレート化合物が特に好ましい。
【0053】
本発明の更なる有利な一実施態様において、Rα及びRβは、それらが結合されているリン原子と一緒になって、リン原子に結合された2つの環ヘテロ原子を有する5員ないし7員の複素環を表し、その際、前記の環ヘテロ原子の少なくとも1つは、置換されていてよい窒素原子である。有利には、また、リン原子に結合された第二の環ヘテロ原子は、置換されていてよい窒素原子を表す。特に有利には、その際、置換基Rαは、置換基Rβと一緒になって、ピロール性窒素原子を介してリン原子に結合されたビスピロール基を形成する。概念"ビスピロール基"の意味は、その際、冒頭に示した定義に相当する。
【0054】
有利には、Rα及びRβは、一緒になって、5員ないし7員の複素環であって場合により更にシクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール又はヘタリールと一縮合、二縮合、三縮合又は四縮合されている複素環を表し、その際、該複素環と、存在する場合には、縮合された基は、互いに無関係にそれぞれ1、2、3又は4つの置換基を有してよく、該置換基は、アルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、ヘタリール、ヒドロキシ、チオール、ポリアルキレンオキシド、ポリアルキレンイミン、アルコキシ、ハロゲン、COOH、カルボキシレート、SO3H、スルホネート、NE45、NE456-、ニトロ、アルコキシカルボニル、アシル及びシアノから選択され、その際、E4、E5及びE6は、それぞれ、水素、アルキル、シクロアルキル及びアリールから選択される同一又は異なる基を表し、かつX-は、アニオン等価体を表す。
【0055】
有利には、置換基Rαは、置換基Rβと一緒になって、ピロール性窒素原子を介してリン原子に結合されたピロール基を有する、式
Py−l−W
[式中、
Pyは、ピロール基であり、
lは、化学的結合又はO、S、SiR12、NR3又は置換されていてよいC1〜C10−アルキレン、有利にはCR45を表し、
Wは、シクロアルキルオキシ又は−アミノ、アリールオキシ又は−アミノ、ヘタリールオキシ又は−アミノを表し、かつ
1、R2、R3、R4及びR5は、互いに無関係に、水素、アルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール又はヘタリールを表し、
その際、この場合に使用される名称は、冒頭で詳説された意味を有する]で示される2結合基を形成する。好適な式
Py−l−W
の2結合基は、例えば
【化8】

である。
【0056】
リンキレート化合物であって、式中、Rα及びRβが、それらが結合されるリン原子と一緒になって、式II.1ないし式II.3
【化9】

[式中、
6及びR7は、互いに無関係に、水素、アルキル、シクロアルキル、アリール、ヘタリール、メシレート、トシレート又はトリフルオロメタンスルホネートを表し、
8、R9、R10、R11、R12、R13、R14、R15、R16、R17、R18、R19、R20、R21、R22、R23、R34、R25、R26及びR27は、互いに無関係に、水素、アルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、ヘタリール、W′COORf、W′COO-+、W′(SO3)Rf、W′(SO3-+、W′PO3(Rf)(Rg)、W′(PO32-(M+2、W′NE1314、W′(NE131415+-、W′ORf、W′SRf、(CHRgCH2O)xf、(CH2NE13xf、(CH2CH2NE13xf、ハロゲン、トリフルオロメチル、ニトロ、アシル又はシアノを表し、その際、
W′は、単結合、ヘテロ原子、ヘテロ原子含有基又は1〜20個の橋かけ原子を有する二価の橋かけ基を表し、
f、E13、E14、E15は、それぞれ、水素、アルキル、シクロアルキル又はアリールから選択される同一又は異なる基を意味し、
gは、水素、メチル又はエチルを表し、
+は、カチオン等価体を表し、
-は、アニオン等価体を表し、かつ
xは、1〜240の整数を表し、その際、
それぞれ2つの隣接する基R8〜R27は、それらが結合される環の炭素原子と一緒になって、また、1、2又は3個の更なる環を有する縮合された環系を表してもよい]で示される基を表す化合物が好ましい。
【0057】
有利には、式II.1の基において、基R6及びR7は、互いに無関係に、水素、C1〜C4−アルキル、特にメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル及びt−ブチル、C5〜C6−シクロアルキル、特にシクロヘキシル及びアリール、特にフェニルから選択される。
【0058】
有利には、式II.1の基において、基R8、R9、R10及びR11は、水素を表す。
【0059】
式Iで示され、その式中、Rα及びRβがリン原子と一緒になって、式II.1のキラル基を表すプニコゲンキレート化合物が、特に好ましい。
【0060】
有利には、式II.2の基において、基R12、R13、R14、R15、R16及びR17は、水素を表す。
【0061】
更に、式II.2で示され、その式中、R12及びR13及び/又はR16及びR17が、これらが結合されるピロール環の炭素原子と一緒になって、1、2又は3つの更なる環を有する縮合された環系を表す基が好ましい。有利には、更なる環は、縮合された芳香族環である。縮合された芳香族環は、有利にはベンゼン又はナフタリンである。縮合されたベンゼン環は、有利には非置換であるか、又は有利にはアルキル、アルコキシ、ハロゲン、SO3H、スルホネート、NE78、アルキレン−NE78、トリフルオロメチル、ニトロ、カルボキシル、アルコキシカルボニル、アシル及びシアノから選択される1、2又は3個の、特に1又は2個の置換基を有する。縮合されたナフタリンは、有利には非置換であるか、又は縮合されていない環及び/又は縮合された環中に、それぞれ前記に縮合されたベンゼン環において挙げた置換基を1、2又は3個、特に1又は2個有する。縮合されたアリールの置換基の場合に、アルキルは、有利にはC1〜C4−アルキル、特にメチル、イソプロピル及びt−ブチルを表す。アルコキシはその際、有利には、C1〜C4−アルコキシ、特にメトキシを表す。アルコキシカルボニルは、有利にはC1〜C4−アルコキシカルボニルを表す。その際ハロゲンは、特にフッ素及び塩素を表す。
【0062】
有利には、式II.3の基において、基R18、R19、R20、R21、R22、R23、R24、R25、R26及びR27は、水素を表す。
【0063】
更に、式II.3で示され、その式中、(R20及びR21)又は(R21及びR22)及び/又は(R23及びR24)又は(R24及びR25)は、それらが結合されるベンゼン環の炭素原子と一緒になって、1、2又は3個の更なる環を有する縮合された環系を表す基が好ましい。有利には、更なる環は、縮合された芳香族環である。縮合された芳香族環は、有利にはベンゼン又はナフタリンである。これらは、所望であれば、基II.2について前記のように置換されていてよい。
【0064】
具体的な説明のために、以下に幾つかの好ましい基II.1ないしII.3を列記する:
【化10】

【0065】
有利には、Rγ及びRδは、互いに無関係に、互いに結合されていない置換基を表す。有利には、Rγ及びRδは、その際、互いに無関係に、1、2、3、4又は5個の上述の置換基を有してよいアリール基及びヘタリール基から選択される。有利には、基Rγ又はRδの少なくとも1つ又は前記基の両方は、1、2又は3つの置換基を有してよいアリールを表し、前記置換基は、C1〜C4−アルキル、C1〜C4−アルコキシ及びそれらの組み合わせから選択される。有利な基Rγ及びRδは、その際、例えばフェニル、o−トリル、m−キシリル及び3,5−ジメチル−4−メトキシフェニルである。
【0066】
橋かけ基Yは、有利には少なくとも1つのキラル中心、キラル軸又はキラル面を有するキラル基である。
【0067】
有利には、橋かけ基Yは、式III.a及びIII.b
【化11】

[式中、
I、RI'、RII、RII'、RIII、RIII'、RIV、RIV'、RV、RVI、RVII、RVIII、RIX、RX、RXI及びRXIIは、互いに無関係に、水素、アルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、ヘタリール、ヒドロキシ、チオール、ポリアルキレンオキシド、ポリアルキレンイミン、アルコキシ、ハロゲン、SO3H、スルホネート、NE1011、アルキレン−NE1011、トリフルオロメチル、ニトロ、アルコキシカルボニル、カルボキシル、アシル又はシアノを表し、その際、E10及びE11は、それぞれ、水素、アルキル、シクロアルキル及びアリールから選択される同一又は異なる基を意味する]の基から選択される。
【0068】
更に有利には、Yは、式III.aで示され、その式中、RIV及びRVが互いに無関係に、C1〜C4−アルキル又はC1〜C4−アルコキシを表す基を表す。有利には、RIV及びRVは、メチル、エチル、イソプロピル、t−ブチル及びメトキシから選択される。有利には、前記の化合物において、RI、RII、RIII、RVI、RVII及びRVIIIは、水素を表す。
【0069】
更に有利には、Yは、式III.aで示され、その式中、RI及びRVIIIが互いに無関係に、C1〜C4−アルキル又はC1〜C4−アルコキシを表す基を表す。特に有利には、RI及びRVIIIは、t−ブチルを表す。特に有利には、前記化合物において、RII、RIII、RIV、RV、RVI、RVIIは水素を表す。更に有利には、前記化合物において、RIII及びRVIは、互いに無関係に、C1〜C4−アルキル又はC1〜C4−アルコキシを表す。特に有利には、RIII及びRVIは、互いに無関係に、メチル、エチル、イソプロピル、t−ブチル及びメトキシから選択される。
【0070】
更に有利には、Yは、式III.aで示され、その式中、RII及びRVIIが水素を表す基を表す。有利には、前記化合物において、RI、RIII、RIV、RV、RVI及びRVIIIは、互いに無関係に、C1〜C4−アルキル又はC1〜C4−アルコキシを表す。特に有利には、RI、RIII、RIV、RV、RVI及びRVIIIは、互いに無関係に、メチル、エチル、イソプロピル、t−ブチル及びメトキシから選択される。
【0071】
更に有利には、Yは、式III.bで示され、その式中、RI〜RXIIが水素を表す基を表す。
【0072】
更に有利には、Yは、式III.bで示され、その式中、RI及びRXIIが互いに無関係に、C1〜C4−アルキル又はC1〜C4−アルコキシを表す基を表す。特に有利には、RI及びRXIIは、互いに無関係に、メチル、エチル、イソプロピル、t−ブチル、メトキシ及びアルコキシカルボニル、有利にはメトキシカルボニルから選択される。特に有利には、前記化合物において、基RII〜RXIは、水素を表す。
【0073】
以下に、具体的に説明するために幾つかの好適な配位子を示す:
【化12】

【0074】
更なる本発明の対象は、周期系の第VIII副族の金属を有する少なくとも1つの錯体であって配位子として前記に定義した少なくとも1つのキラルのリンキレート化合物を含有する錯体を含むキラル触媒である。
【0075】
本発明による及び本発明により使用されるキラル触媒は、少なくとも1つの前記化合物を配位子として有する。前記の配位子の他に、該キラル触媒は、更に少なくとも1つの更なる配位子、有利にはハロゲニド、アミン、カルボキシレート、アセチルアセトネート、アリールスルホネートもしくはアルキルスルホネート、ヒドリド、CO、オレフィン、ジエン、シクロオレフィン、ニトリル、N含有複素環、芳香族化合物及び複素芳香族化合物、エーテル、PF3、ホスホール、ホスファベンゼン並びに一座、二座及び多座のホスフィン配位子、ホスフィナイト配位子、ホスホナイト配位子、ホスホラミダイト配位子及びホスファイト配位子から選択される配位子を有してよい。
【0076】
有利には、遷移金属は、元素の周期系の第I副族、第VI副族、第VII副族又は第VIII副族の金属である。特に有利には、遷移金属は、第VIII副族の金属(すなわちFe、Co、Ni、Ru、Rh、Pd、Os、Ir、Pt)から選択される。特に、遷移金属は、イリジウム、ルテニウム、ロジウム、パラジウム又は白金である。
【0077】
本発明の更なる対象は、少なくとも1つのエチレン性不飽和二重結合を有するプロキラル化合物と基質とを、前記のキラル触媒の存在下に反応させることによってキラル化合物を製造するための方法である。その際、使用される配位子の少なくとも1つ又は触媒活性種が全体でキラルであることだけが単に必要とされる。一般に、キラル化合物の個々の製造方法の反応条件下で、所定の遷移金属錯体が触媒活性種として形成される。このように、例えばヒドロホルミル化条件下で、それぞれ使用される触媒又は触媒前駆体から、一般式Hxy(CO)zqで示される活性種が形成され、前記式中、Mは、遷移金属を表し、Lは、リンキレート配位子を表し、かつq、x、y、zは、金属の原子価及び種類並びに配位子Lの価数に応じた整数を表す。有利には、z及びqは、互いに無関係に少なくとも、1の値、例えば1、2又は3を表す。zとqの合計は、有利には、1〜5の値を表す。その際、錯体は、所望であれば付加的に更に、前記の更なる配位子の少なくとも1つを有してよい。
【0078】
触媒活性種は、有利には好適な溶剤中の均質な単相溶液として存在する。前記溶液は、更に遊離の配位子を含有してよい。
【0079】
有利には、本発明によるキラル化合物の製造方法は、水素化、ヒドロホルミル化、ヒドロシアノ化、カルボニル化、ヒドロアシル化(分子内及び分子間)、ヒドロアミド化、ヒドロエステル化、ヒドロシリル化、ヒドロホウ素化、アミノ分解(ヒドロアミノ化)、アルコール分解(ヒドロキシ−アルコキシ付加)、異性体化、転移水素化、メタセシス、シクロプロパン化、アルドール縮合、アリルアルキル化又は[4+2]環付加(ディールス・アルダー反応)である。
【0080】
特に有利には、本発明によるキラル化合物の製造方法は、1,2−付加、特に水素化又は1−ヒドロ−2−カルボ付加(1−Hydro−2−Carbo−Addition)である。本発明の範囲では、1,2−付加は、C=X二重結合(Xは、炭素、ヘテロ原子)の両方の隣接する原子で付加が行われることを意味する。1−ヒドロ−2−カルボ付加は、反応後に、二重結合の原子に水素が結合され、かつ別の原子に炭素原子含有基が結合される付加反応を指す。付加の間の二重結合異性体化は、その際、可能である。本発明の範囲では、非対称の基質の場合の1−ヒドロ−2−カルボ付加をもって、C2原子での炭素フラグメントの好ましい付加が示されるべきではない。それというのも、付加の方向付けに関する選択性は、一般に、付加されるべき剤と使用される触媒とに依存するからである。この限りでは、"1−ヒドロ−2−カルボ−"は、"1−カルボ−2−ヒドロ−"と同義である。
【0081】
本発明によるキラル化合物の製造方法の反応条件は、使用されるキラル触媒についてまで、一般に相応の不斉方法のそれに相当する。従って、好適な反応器及び反応条件を、当業者は、関連文献からその都度の方法のために参照でき、慣例のように適合させることができる。好適な反応温度は、一般に−100〜500℃の範囲、有利には−80〜250℃の範囲にある。好適な反応圧力は、一般に、0.0001〜600バール、有利には0.5〜300バールの範囲にある。本方法は、一般に、連続的、半連続的又は断続的に行うことができる。連続的な反応のために適した反応器は、当業者に公知であり、例えばUllmanns Enzyklopaedie der technischen Chemie,第1巻、第3版(1951)、第743頁以降に記載されている。好適な耐圧反応器は、同様に当業者に公知であり、例えばUllmanns Enzyklopaedie der technischen Chemie,第1巻、第3版(1951)、第769頁以降に記載されている。
【0082】
本発明による方法は、好適な、その都度の反応条件下で不活性な溶剤中で実施することができる。一般に適した溶剤は、例えば芳香族化合物、例えばトルエン及びキシレン、炭化水素又は炭化水素の混合物である。更に、ハロゲン化された、特に塩素化された炭化水素、例えばジクロロメタン、クロロホルム又は1,2−ジクロロエタンが適している。更なる溶剤は、脂肪族カルボン酸とアルカノールとのエステル、例えば酢酸エステル又はTexanol(登録商標)、エーテル、例えばt−ブチルメチルエーテル、ジオキサン−1,4及びテトラヒドロフラン並びにジメチルホルムアミドである。十分に親水性化された配位子の場合に、アルコール、例えばメタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、ケトン、例えばアセトン及びメチルエチルケトンなどを使用することもできる。更に、溶剤としては、またいわゆる"イオン性液体"を使用することもできる。イオン性液体は、液状の塩、例えばN,N′−ジアルキルイミダゾリウム塩、例えばN−ブチル−N′−メチルイミダゾリウム塩、テトラアルキルアンモニウム塩、例えばテトラ−n−ブチルアンモニウム塩、N−アルキルピリジニウム塩、例えばn−ブチルピリジニウム塩、テトラアルキルホスホニウム塩、例えばトリスヘキシル(テトラデシル)ホスホニウム塩、例えばテトラフルオロボレート、アセテート、テトラクロロアルミネート、ヘキサフルオロホスフェート、クロリド及びトシレートである。溶剤としては、また、その都度の反応の出発物質、生成物又は副生成物を使用してもよい。
【0083】
本発明による方法のためのプロキラルのエチレン性不飽和化合物としては、原則的に、1もしくはそれより多くのエチレン性不飽和の炭素−炭素二重結合又は炭素−ヘテロ原子二重結合を有するあらゆるプロキラルな化合物が該当する。それに該当するのは、一般にプロキラルオレフィン(ヒドロホルミル化、分子間ヒドロアシル化、ヒドロシアノ化、ヒドロシリル化、カルボニル化、ヒドロアミド化、ヒドロエステル化、アミノ分解、アルコール分解、シクロプロパン化、ヒドロホウ素化、ディールス・アルダー反応、メタセシス)、非置換及び置換のアルデヒド(分子内ヒドロアシル化、アルドール縮合、アリルアルキル化)、ケトン(水素化、ヒドロシリル化、アルドール縮合、転移水素化、アリルアルキル化)及びイミン(水素化、ヒドロシリル化、転移水素化、マンニッヒ反応)である。
【0084】
好適なプロキラルのエチレン性不飽和オレフィンは、一般に、式
【化13】

[式中、RA及びRB及び/又はRC及びRDが、種々の定義の基を表す]で示される化合物である。本発明によるキラル化合物の製造のために、プロキラルのエチレン性不飽和化合物と反応される基質も、事情によってはC−C二重結合の所定のC原子での所定の置換基の付加に関する立体選択性も、少なくとも1つのキラル炭素原子が得られるように選択されることは自明である。
【0085】
有利には、RA、RB、RC及びRDは、前記の条件を顧慮して、互いに無関係に、水素、アルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、ヘタリール、アルコキシ、シクロアルコキシ、ヘテロシクロアルコキシ、アリールオキシ、ヘタリールオキシ、ヒドロキシ、チオール、ポリアルキレンオキシド、ポリアルキレンイミン、COOH、カルボキシレート、SO3H、スルホネート、NE1617、NE161718-、ハロゲン、ニトロ、アシル、アシルオキシ又はシアノから選択され、その際、E16、E17及びE18は、それぞれ、水素、アルキル、シクロアルキル又はアリールから選択される同一又は異なる基を意味し、かつX-は、アニオン等価体を表し、その際、
前記アルキル基は、1、2、3、4、5又はそれより多くの置換基を有してよく、前記置換基は、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、ヘタリール、アルコキシ、シクロアルコキシ、ヘテロシクロアルコキシ、アリールオキシ、ヘタリールオキシ、ヒドロキシ、チオール、ポリアルキレンオキシド、ポリアルキレンイミン、COOH、カルボキシレート、SO3H、スルホネート、NE1920、NE192021-、ハロゲン、ニトロ、アシル、アシルオキシ又はシアノから選択され、その際、E19、E20及びE21は、それぞれ、水素、アルキル、シクロアルキル又はアリールから選択される同一又は異なる基を意味し、かつX-は、アニオン等価体を表し、かつ
前記シクロアルキル基、ヘテロシクロアルキル基、アリール基及びヘタリール基RA、RB、RC及びRDは、それぞれ1、2、3、4、5又はそれより多くの置換基を有してよく、前記置換基は、アルキル及び前記にアルキル基RA、RB、RC及びRDについて挙げた置換基から選択されるか、又は
基RA、RB、RC及びRDの2つ又はそれより多くは、それらが結合されるC−C二重結合と一緒になって、単環式又は多環式の化合物を表す。
【0086】
好適なプロキラルのオレフィンは、少なくとも4つの炭素原子と、末端又は内部の二重結合を有する、直鎖状、分枝鎖状又は環状構造のオレフィンである。
【0087】
好適なα−オレフィンは、例えば1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセン、1−ウンデセン、1−ドデセン、1−オクタデセンなどである。
【0088】
好適な線状の(直鎖状)内部オレフィンは、有利にはC4〜C20−オレフィン、例えば2−ブテン、2−ペンテン、2−ヘキセン、3−ヘキセン、2−ヘプテン、3−ヘプテン、2−オクテン、3−オクテン、4−オクテンなどである。
【0089】
好適な分枝鎖状の内部オレフィンは、有利にはC4〜C20−オレフィン、例えば2−メチル−2−ブテン、2−メチル−2−ペンテン、3−メチル−2−ペンテン、分枝鎖状の内部ヘプテン混合物、分枝鎖状の内部オクテン混合物、分枝鎖状の内部ノネン混合物、分枝鎖状の内部デセン混合物、分枝鎖状の内部ウンデセン混合物、分枝鎖状の内部ドデセン混合物などである。
【0090】
ヒドロホルミル化される好適なオレフィンは、更にC5〜C8−シクロアルケン、例えばシクロペンテン、シクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテン及びそれらの誘導体、例えばそれらの1〜5個のアルキル置換基を有するC1〜C20−アルキル誘導体である。
【0091】
ヒドロホルミル化される好適なオレフィンは、更に、ビニル芳香族化合物、例えばスチレン、α−メチルスチレン、4−イソブチルスチレンなど、2−ビニル−6−メトキシナフタリン、(3−エテニルフェニル)フェニルケトン、(4−エテニルフェニル)−2−チエニルケトン、4−エテニル−2−フルオロビフェニル、4−(1,3−ジヒドロ−1−オキソ−2H−イソインドール−2−イル)スチレン、2−エテニル−5−ベンゾイルチオフェン、(3−エテニルフェニル)フェニルエーテル、プロペニルベンゼン、2−プロペニルフェノール、イソブチル−4−プロペニルベンゼン、フェニルビニルエーテル及び環状エナミド、例えば2,3−ジヒドロ−1,4−オキサジン、例えば2,3−ジヒドロ−4−t−ブトキシカルボニル−1,4−オキサジンである。ヒドロホルミル化される好適なオレフィンは、更に、α,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸及び/又はジカルボン酸、それらのエステル、半エステル及びアミド、例えばアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、イタコン酸、3−ペンテン酸メチルエステル、4−ペンテン酸メチルエステル、オレイン酸メチルエステル、アクリル酸メチルエステル、メタクリル酸メチルエステル、不飽和ニトリル、例えば3−ペンテンニトリル、4−ペンテンニトリル、アクリルニトリル、ビニルエーテル、例えばビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル、ビニルプロピルエーテルなど、塩化ビニル、塩化アリル、C3〜C20−アルケノール、−アルケンジオール及び−アルカンジオール、例えばアリルアルコール、ヘキセ−1−エン−4−オール、オクテ−1−エン−4−オール、2,7−オクタジエンオール−1である。好適な基質は、更に、孤立二重結合又は共役二重結合を有するジエン又はポリエンである。それに該当するのは、例えば1,3−ブタジエン、1,4−ペンタジエン、1,5−ヘキサジエン、1,6−ヘプタジエン、1,7−オクタジエン、1,8−ノナジエン、1,9−デカジエン、1,10−ウンデカジエン、1,11−ドデカジエン、1,12−トリデカジエン、1,13−テトラデカジエン、ビニルシクロヘキセン、ジシクロペンタジエン、1,5,9−シクロオクタトリエン並びにブタジエンホモポリマー及び−コポリマーである。
【0092】
合成構成単位として重要な更なるプロキラルなエチレン性不飽和化合物は、例えばp−イソブチルスチレン、2−ビニル−6−メトキシナフタリン、(3−エテニルフェニル)フェニルケトン、(4−エテニルフェニル)−2−チエニルケトン、4−エテニル−2−フルオロビフェニル、4−(1,3−ジヒドロ−1−オキソ−2H−イソインドール−2−イル)スチレン、2−エテニル−5−ベンゾイルチオフェン、(3−エテニルフェニル)フェニルエーテル、プロペニルベンゼン、2−プロペニルフェノール、イソブチル−4−プロペニルベンゼン、フェニルビニルエーテル及び環状エナミド、例えば2,3−ジヒドロ−1,4−オキサジン、例えば2,3−ジヒドロ−4−t−ブトキシカルボニル−1,4−オキサジンである。
【0093】
前記のオレフィンは、単独で又は混合物の形で使用することができる。
【0094】
有利な一実施態様によれば、本発明による及び本発明により使用されるキラル触媒は、反応のために使用される反応器中でその場で製造される。しかしながら、所望であれば、本発明による触媒は、別々に製造して、通常の方法により単離することもできる。本発明による触媒のその場での製造のために、例えば少なくとも1つの本発明により使用される配位子、遷移金属の化合物又は錯体、場合により少なくとも1つの更なる付加的な配位子と、場合により活性化剤を、不活性溶剤中で、その都度の反応の条件下で(例えばヒドロホルミル化条件下、ヒドロシアノ化条件下などで)反応させることができる。好適な活性化剤は、例えばブレンステッド酸、ルイス酸、例えばBF3、AlCl3、ZnCl2及びルイス塩基である。
【0095】
触媒前駆体として適しているのは、まさに一般的に、遷移金属、遷移金属化合物及び遷移金属錯体である。
【0096】
好適なロジウム化合物又はロジウム錯体は、例えばロジウム(II)塩及びロジウム(III)塩、例えば塩化ロジウム(III)、硝酸ロジウム(III)、硫酸ロジウム(III)、硫酸カリウムロジウム、カルボン酸ロジウム(II)もしくはカルボン酸ロジウム(III)、酢酸ロジウム(II)及び酢酸ロジウム(III)、酸化ロジウム(III)、ロジウム(III)酸の塩、ヘキサクロロロジウム酸(III)トリスアンモニウムなどである。更に、ロジウム錯体、例えばRh4(CO)12、ロジウムビスカルボニルアセチルアセトネート、アセチルアセトナトビスエチレンロジウム(I)などが適している。
【0097】
同様に、ルテニウム塩又はルテニウム化合物が適している。好適なルテニウム塩は、例えば塩化ルテニウム(III)、酸化ルテニウム(IV)、酸化ルテニウム(VI)もしくは酸化ルテニウム(VIII)、ルテニウム酸素酸のアルカリ塩、例えばK2RuO4又はKRuO4又は錯体化合物、例えばRuHCl(CO)(PPh33、(Ru(p−クメン)Cl)2、(Ru(ベンゼン)Cl)2、(COD)Ru(メタリル)2、Ru(acac)3である。また、ルテニウムの金属カルボニル、例えばトリスルテニウムドデカカルボニル又はヘキサルテニウムオクタデカカルボニル又は、COが部分的に式PR3の配位子によって交換されている混合形、例えばRu(CO)3(PPh32を、本発明による方法で使用することができる。
【0098】
好適な鉄化合物は、例えば酢酸鉄(III)及び硝酸鉄(III)並びに鉄のカルボニル錯体である。
【0099】
好適なニッケル化合物は、フッ化ニッケル及び硫酸ニッケルである。ニッケル触媒の製造に適したニッケル錯体は、例えばビス(1,5−シクロオクタジエン)ニッケル(0)である。
【0100】
更に、イリジウム及びオスミウムのカルボニル錯体、オスミウムハロゲン化物、オスミウムオクタン酸塩、パラジウム水素化物及び−ハロゲン化物、白金酸、イリジウム硫酸塩などである。
【0101】
上述の及び更なる好適な遷移金属化合物及び遷移金属錯体は、原則的に公知であり、文献中に十分に説明されているか、又はそれらは、当業者によって既に公知の化合物と同様にして製造することができる。
【0102】
一般に、反応媒体中の金属濃度は、約1〜10000ppmの範囲にある。モノプニコゲン配位子と遷移金属とのモル量比は、一般に、約0.5:1〜1000:1、有利には1:1〜500:1の範囲にある。
【0103】
また担持された触媒を使用することも適している。前記の触媒は、そのために好適なようにして、例えばアンカー基として適した官能基を介した結合、吸着、グラフトなどによって、好適な担体、例えばガラス、シリカゲル、プラスチック樹脂、ポリマーなどに固定化することができる。該触媒は、その際、固相触媒として使用するためにも適している。
【0104】
第一の好ましい一実施態様によれば、本発明による方法は、水素化(1,2−H,H−付加)である。そのように、少なくとも1つのエチレン性不飽和二重結合を有するプロキラルな化合物と水素とを、前記のキラル触媒の存在下で反応させて、1つの単結合を有する相応のキラル化合物が得られる。プロキラルなオレフィンから、キラルの炭素含有化合物が得られ、プロキラルなケトンからキラルのアルコールが得られ、そしてプロキラルなイミンからキラルのアミンが得られる。
【0105】
更なる好ましい一実施態様によれば、本発明による方法は、一酸化炭素と水素との反応であり、該反応を以下にヒドロホルミル化と呼称する。
【0106】
ヒドロホルミル化は、上述の溶剤の存在下で実施できる。
【0107】
モノ(プソイド)プニコゲン配位子と第VIII副族の金属とのモル量比は、一般に、約1:1〜1000:1、有利には2:1〜500:1の範囲にある。
【0108】
好ましい方法は、ヒドロホルミル化触媒をその場で製造し、その際、少なくとも1つの本発明により使用可能な配位子と、遷移金属の化合物又は錯体と、場合により活性化剤とを、不活性溶剤中で、ヒドロホルミル化条件下で反応させる方法である。
【0109】
遷移金属は、有利には、元素の周期系の第VIII副族の金属、特に有利にはコバルト、ルテニウム、イリジウム、ロジウム及びパラジウムである。特にロジウムが使用される。
【0110】
本発明による方法で使用される、一酸化炭素と水素とからなる合成ガスの組成は、広範囲で変化してよい。一酸化炭素と水素とのモル比は、一般に、約5:95〜70:30、有利には約40:60〜60:40である。特に有利には、一酸化炭素と水素とのモル比は、約1:1の範囲で使用される。
【0111】
ヒドロホルミル化反応に際しての温度は、一般に、約20〜180℃、有利には約50〜150℃の範囲にある。一般に、圧力は、約1〜700バール、有利には1〜600バール、特に1〜300バールの範囲にある。反応圧力は、使用される本発明によるヒドロホルミル化触媒の活性に依存して変更してよい。一般に、リン含有化合物を基礎とする本発明による触媒は、低圧、例えば約1〜100バールの範囲において反応を可能にする。
【0112】
本発明により使用される及び本発明によるヒドロホルミル化触媒は、慣用の当業者に公知の方法に従って、ヒドロホルミル化反応の排出物から分離し、そして一般に新たにヒドロホルミル化のために使用することができる。
【0113】
本発明による方法による不斉ヒドロホルミル化は、高い立体選択性の点で優れている。有利には本発明による及び本発明により使用される触媒は、更に、一般に高いレジオ選択性を有する。更に、本触媒は、一般にヒドロホルミル化条件下で高い安定性を有するので、該触媒を用いて、一般に、先行技術から公知の通常のキレート配位子を基礎とする触媒と比べてより長い触媒寿命が達成される。有利には、本発明による及び本発明により使用される触媒は、更に高い活性を有するので、一般に相応のアルデヒドもしくはアルコールが良好な収率で得られる。
【0114】
他の重要な1−ヒドロ−2−カルボ付加は、シアン化水素との反応であり、以下にヒドロシアノ化と述べる。
【0115】
また、ヒドロシアノ化のために使用される触媒は、第VIII副族の金属、特にコバルト、ニッケル、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、白金、有利には、ニッケル、パラジウム及び白金、殊に有利にはニッケルの錯体を含む。該金属錯体の製造は、前記のようにして実施することができる。同じことは、本発明によるヒドロシアノ化触媒のその場での製造についても当てはまる。ヒドロシアノ化のための方法は、J.March,Advanced Organic Chemistry,第4版,第811−812頁に記載されており、参照をもって内容が開示されたものとする。
【0116】
更なる好ましい一実施態様によれば、1−ヒドロ−2−カルボ付加は、一酸化炭素と、求核基を有する少なくとも1つの化合物との反応であり、以下にそれをカルボニル化と呼称する。
【0117】
またカルボニル化触媒は、第VIII副族の金属、有利にはニッケル、コバルト、鉄、ルテニウム、ロジウム及びパラジウム、特にパラジウムの錯体を含む。該金属錯体の製造は、前記のようにして実施することができる。同じことは、本発明によるカルボニル化触媒のその場での製造についても当てはまる。
【0118】
有利には、求核基を有する化合物は、水、アルコール、チオール、カルボン酸エステル、第一級アミン及び第二級アミンから選択される。
【0119】
好ましいカルボニル化反応は、オレフィンを一酸化炭素と水とによってカルボン酸に転化させることである(ヒドロカルボキシル化)。
【0120】
カルボニル化は、活性化剤の存在下に実施することができる。好適な活性化剤は、例えばブレンステッド酸、ルイス酸、例えばBF3、AlCl3、ZnCl2及びルイス塩基である。
【0121】
更なる重要な1,2−付加は、ヒドロアシル化である。そのように、不斉の分子内ヒドロアシル化の場合には、不飽和アルデヒドの反応によって光学活性環状ケトンに至る。不斉の分子間ヒドロアシル化の場合には、プロキラルオレフィンとアシルハロゲン化物とを、前記のキラル触媒の存在下で反応させることによって、キラルケトンに至る。ヒドロアシル化のための方法は、J.March,Advanced Organic Chemistry,第4版,第811頁に記載されており、参照をもって内容が開示されたものとする。
【0122】
更なる重要な1,2−付加は、ヒドロアミド化である。そのように、少なくとも1つのエチレン性不飽和二重結合を有するプロキラルな化合物と、一酸化炭素及びアンモニア、第一級アミン又は第二級アミンとを、前記のキラル触媒の存在下で反応させることによって、キラルのアミドが得られる。
【0123】
更なる重要な1,2−付加は、ヒドロエステル化である。そのように、少なくとも1つのエチレン性不飽和二重結合を有するプロキラルな化合物と、一酸化炭素及びアルコールとを、前記のキラル触媒の存在下で反応させることによって、キラルエステルが得られる。
【0124】
更なる重要な1,2−付加は、ヒドロホウ素化である。そのように、少なくとも1つのエチレン性不飽和二重結合を有するプロキラルな化合物と、ボラン又はボラン源とを、前記のキラル触媒の存在下で反応させることによって、キラルトリアルキルボランが得られ、それを酸化させて、第一級アルコール(例えばNaOH/H22)又はカルボン酸とすることができる。ヒドロホウ素化に適した方法は、J.March,Advanced Organic Chemistry,第4版、第783−789頁に記載されており、参照をもって内容が開示されたものとする。
【0125】
更なる重要な1,2−付加は、ヒドロシリル化である。そのように、少なくとも1つのエチレン性不飽和二重結合を有するプロキラルな化合物とシランとを、前記のキラル触媒の存在下で反応させることによって、シリル基で官能化されたキラル化合物が得られる。プロキラルなオレフィンから、シリル基で官能化されたキラルのアルカンが得られる。プロキラルなケトンから、キラルのシリルエーテル又はシリルアルコールが得られる。ヒドロシリル化触媒の場合には、遷移金属は、有利にはPt、Pd、Rh、Ru及びIrから選択される。その際、上述の触媒と更なる触媒との組合せ物又は混合物を使用することが好ましいことがある。好適な付加的な触媒に数えられるのは、例えば微粉形の白金("白金黒")、塩化白金及び白金錯体、例えばヘキサクロロ白金酸又はジビニルジシロキサン−白金錯体、例えばテトラメチルジビニルジシロキサン白金錯体である。好適なロジウム触媒は、例えば(RhCl(P(C6533)及びRhCl3である。更にRuCl3及びIrCl3が適している。好適な触媒は、更にルイス酸、例えばAlCl3又はTiCl4並びにペルオキシドである。
【0126】
好適なシランは、例えばハロゲン化されたシラン、例えばトリクロロシラン、メチルジクロロシラン、ジメチルクロロシラン及びトリメチルシロキシジクロロシラン;アルコキシシラン、例えばトリメトキシシラン、トリエトキシシラン、メチルジメトキシシラン、フェニルジメトキシシラン、1,3,3,5,5,7,7−ヘプタメチル−1,1−ジメトキシテトラシロキサン並びにアシルオキシシランである。
【0127】
シリル化に際しての反応温度は、有利には、0〜140℃、特に有利には40〜120℃の範囲にある。該反応は、通常は常圧下で実施されるが、また高められた圧力下で、例えば約1.5〜20バールの範囲で又は低められた圧力下で、例えば200〜600ミリバールで実施することができる。
【0128】
該反応は、溶剤を用いずに又は好適な溶剤の存在下で実施することができる。溶剤として好ましいのは、例えばトルエン、テトラヒドロフラン及びクロロホルムである。
【0129】
更なる重要な1,2−付加は、アミノ分解(ヒドロアミノ化)である。そのように、少なくとも1つのエチレン性不飽和二重結合を有するプロキラルな化合物と、アンモニア、第一級アミン又は第二級アミンとを、前記のキラル触媒の存在下で反応させることによって、第一級、第二級又は第三級のキラルのアミンが得られる。ヒドロアミノ化に適した方法は、J.March,Advanced Organic Chemistry,第4版、第768−770頁に記載されており、参照をもって内容が開示されたものとする。
【0130】
更なる重要な1,2−付加は、アルコール分解(ヒドロ−アルコキシ付加)である。そのように、少なくとも1つのエチレン性不飽和二重結合を有するプロキラルな化合物とアルコールとを、前記のキラル触媒の存在下で反応させることによって、キラルエーテルが得られる。アルコール分解に適した方法は、J.March,Advanced Organic Chemistry,第4版、第763−764頁に記載されており、参照をもって内容が開示されたものとする。
【0131】
更なる重要な反応は、異性体化である。そのように、少なくとも1つのエチレン性不飽和二重結合を有するプロキラルな化合物から、前記のキラル触媒の存在下でキラル化合物が得られる。
【0132】
更なる重要な反応は、シクロプロパン化である。そのように、少なくとも1つのエチレン性不飽和二重結合を有するプロキラルな化合物とジアゾ化合物とから、前記のキラル触媒の存在下でキラルのシクロプロパンが得られる。
【0133】
更なる重要な反応は、メタセシスである。そのように、少なくとも1つのエチレン性不飽和二重結合を有するプロキラルな化合物と更なるオレフィンとから、前記のキラル触媒の存在下でキラルの炭化水素が得られる。
【0134】
更なる重要な反応は、アルドール縮合である。そのように、プロキラルなケトン又はアルデヒドとシリルエノールエーテルとを、前記のキラル触媒の存在下で反応させることによって、キラルのアルドールが得られる。
【0135】
更なる重要な反応は、アリルアルキル化である。そのように、プロキラルなケトン又はアルデヒドとアリルアルキル化剤とを、前記のキラル触媒の存在下で反応させることによって、キラルの炭化水素が得られる。
【0136】
更なる重要な反応は、[4+2]環付加である。そのように、ジエンとジエノフィルとを(そのうち少なくとも1つの化合物がプロキラルである)、前記のキラル触媒の存在下で反応させることによって、キラルのシクロヘキセン化合物が得られる。
【0137】
本発明の更なる対象は、第VIII副族の金属と配位子との少なくとも1つの錯体を含む前記の触媒を、ヒドロホルミル化、ヒドロシアノ化、カルボニル化、ヒドロアシル化、ヒドロアミド化、ヒドロエステル化、ヒドロシリル化、ヒドロホウ素化、水素化、アミノ分解、アルコール分解、異性体化、メタセシス、シクロプロパン化又は[4+2]環付加のために用いる使用である。
【0138】
本発明による方法は、多くの有用な光学活性化合物の製造のために適している。その際、立体選択的に1つのキラル中心が生成される。本発明による方法に従って製造できる光学活性化合物の例は、置換及び非置換のアルコール又はフェノール、アミン、アミド、エステル、カルボン酸又は無水物、ケトン、オレフィン、アルデヒド、ニトリル及び炭化水素である。本発明による不斉ヒドロホルミル化方法に従って有利に製造される光学活性アルデヒドは、例えばS−2−(p−イソブチルフェニル)プロピオンアルデヒド、S−2−(6−メトキシナフチル)プロピオンアルデヒド、S−2−(3−ベンゾイルフェニル)プロピオンアルデヒド、S−2−(p−チエノイルフェニル)プロピオンアルデヒド、S−2−(3−フルオロ−4−フェニル)フェニルプロピオンアルデヒド、S−2−[4−(1,3−ジヒドロ−l−オキソ−2H−イソインドール−2−イル)フェニル]プロピオンアルデヒド、S−2−(2−メチルアセトアルデヒド)−5−ベンゾイルチオフェンなどを含む。本発明による方法(場合により起こりうる誘導体化を含む)に従って製造可能な更なる光学活性化合物は、Kirk−Othmer,Encyclopedia of Chemical Technology,第三版(1984)及びメルクインデックス、An Encyclopedia of Edition,1984及びメルクインデックス、An Encyclopedia of Chemicals,Drugs and Biologicals,第11版、1989に記載されており、それらは参照をもって内容が本願に開示されたものとする。
【0139】
本発明による方法は、高いエナンチオ選択性及び必要に応じてレジオ選択性を有する光学活性生成物の製造を、例えばヒドロホルミル化で可能にする。少なくとも50%、有利には少なくとも60%、特に少なくとも70%のエナンチオマー過剰率(ee)を達成することができる。
【0140】
得られた生成物の単離は、通常の当業者に公知の方法に従って可能である。それに該当するのは、例えば溶剤抽出、結晶化、蒸留、蒸発、例えば薄膜蒸発器又は流下薄膜式蒸発器などにおけるものである。
【0141】
本発明による方法に従って得られた光学活性化合物を、1又はそれより多くの後続反応に供してよい。係る方法は、当業者に公知である。それに該当するのは、例えばアルコールのエステル化、アルコールのアルデヒドへの酸化、アミドのN−アルキル化、アルデヒドのアミドへの付加、ニトリル還元、ケトンのエステルによるアシル化、アミンのアシル化などである。例えば、本発明による不斉ヒドロホルミル化によって得られた光学活性アルデヒドは、酸化に供されてカルボン酸となり、還元に供されてアルコールとなり、アルドール縮合に供されてα,β−不飽和化合物となり、還元的アミノ化に供されてアミンとなり、アミノ化に供されてイミンとなるなどが可能である。
【0142】
有利な誘導体化は、本発明による不斉ヒドロホルミル化方法に従って製造されたアルデヒドを酸化させて、相応の光学活性カルボン酸とすることを含む。このように、多くの製剤学的に重要な化合物、例えばS−イブプロフェン、S−ナプロキセン、S−ケトプロフェン、S−スプロフェン、S−フルオロビプロフェン、S−インドプロフェン、S−チアプロフェン酸などを製造することができる。
【0143】
有利な幾つかの誘導体化を、以下の表において、オレフィン出発材料、アルデヒド中間生成物及び最終生成物に関して列挙する:
【表1】

【0144】
実施例
配位子の合成
実施例1:BINASKAT
【化14】

【0145】
150mlのTHFを、保護ガスですすいだフラスコ中に装入する。撹拌しつつ、14.5g(110ミリモル)のPCl3を添加する。27.7gの3−メチルインドール(220ミリモル)及び25.6gのNEt3(250ミリモル)を30mlのTHF中に入れた混合物を、15〜20℃でゆっくりと滴加する。引き続き滴下漏斗を、更に2回20mlのTHFで後すすぎする。反応溶液を還流下に撹拌する。4時間の反応時間後に、GCコントロールは、70%の目標生成物を示す。THFを除去し、そして残りの残留物を160mlのトルエン中に取り入れる。
【0146】
前記溶液15mlを50mlのトルエン中に取り入れる。前記溶液に、1.7gのNEt3(16.5ミリモル)を添加する。撹拌しつつ、3.0g(6.6ミリモル)のR−ジフェニルホスフィノ−2′−ヒドロキシ−1,1′−ビナフチルを20mlのトルエン中に溶かした溶液をゆっくりと室温で滴加する。該反応溶液を、一晩室温で撹拌する。引き続き、溶剤を真空中で除去し、そして残りの残留物をカラムクロマトグラフィーによって精製する。3.63g(理論値の74%)の無色の結晶性粉末が得られる。
【0147】
31P−NMR(145MHz):δ=103.1、−12.3ppm
実施例2:
スチレンのRh/BINASKATによるヒドロホルミル化
18.8mgのRh(CO)2acac及び216mgのBINASKATを、オートクレーブ中で15.8gのトルエン中に溶解させ、そして合成ガスと一緒に9バールの反応圧力で16時間50℃で撹拌する。
【0148】
1.75gのスチレンを添加した後に、3時間60℃及び9バールの合成ガスで撹拌する。転化率は、98%である。ガスクロマトグラフィーによって測定されたee値は、60%である。
【0149】
実施例3:
ビニルアセテートのRh/BINASKATによるヒドロホルミル化
18.9mgのRh(CO)2acac及び200mgのBINASKATを、オートクレーブ中で15.7gのトルエン中に溶解させ、そして合成ガスと一緒に9バールの反応圧力で4時間50℃で撹拌する。1.75gのスチレンを添加した後に、24時間50℃及び9バールの合成ガスで撹拌する。転化率は、93%である。ガスクロマトグラフィーによって測定されたee値は、66%である。
【0150】
実施例4:
配位子2
【化15】

の製造
250mlの四ツ口フラスコ中で、1.28gの6−メトキシインドール(8.70ミリモル)並びに0.62gの三塩化リン(4.51ミリモル)を10mlのTHF中で装入した。前記溶液に、−78℃で1時間にわたり2.02g(20.0ミリモル)のトリエチルアミンを5mlのTHF中に溶かした溶液を滴加した。それに引き続き、冷浴を取り除き、該反応混合物を一晩撹拌してから、室温で2.03g(4.47ミリモル)の(R)−(+)−2−ジフェニルホスフィノ−2′−ヒドロキシ−1,1′−ビナフチルを10mlのTHF中に溶かした溶液を滴加した。再び一晩撹拌し、そして引き続き反応混合物の固体分を濾過した。得られた溶液を濃縮し、そして残留物をエタノールから再結晶化させた。
【0151】
2.78g(3.58ミリモル;80%)の配位子が淡黄色の固体として得られた。
【0152】
同様にして、以下の化合物を製造した:
【化16】

【0153】
実施例5:
配位子2を使用したスチレンの不斉ヒドロホルミル化
5バールの合成ガス(CO/H2=1:1)で3回すすいだ100mlのオートクレーブ中で、17.1mgのRh(CO)2acac(66マイクロモル)及び207mgの配位子2(267マイクロモル)を18.7gのトルエン中で装入した。50℃の温度で90分間にわたり9バールの合成ガス(CO/H2=1:1)を加えてから、ロックを用いて2.0gのスチレン(19ミリモル)を導入した。20バールの合成ガス(CO/H2=1:1)の圧力に調整した後に、50℃で15時間ヒドロホルミル化した。出発物質の転化率99%で2−フェニルプロパナール及び3−フェニルプロパナールが得られた。全体で、2−フェニルプロパナールは77%(異性選択性:78%)に割り当てられ、達成されたee値は62%であった。
【0154】
転化分析(GC、直接注入):
カラム:Macherei Nagel OV−1、25m×0.32mm×0.5μm;検出器:FID;温度プログラム:50℃で2分、5℃/分で90℃まで、90℃で5分、20℃/分で300℃まで;滞留時間:RTスチレン=10.8分、RT2−フェニルプロパナール=18.4分、RT3−フェニルプロパナール=19.5分。
【0155】
ee分析(GC、直接注入):
カラム:BGB−174S、30m×0.25mm×0.25μm;検出器:FID;温度プログラム:70℃で10分、20℃/分で120℃まで、120℃で7分、20℃/分で180℃まで、180℃で5分;滞留時間:(R)−エナンチオマー:12.1分、(S)エナンチオマー:12.7分。
【0156】
実施例6〜10:
配位子3〜7によるスチレンの不斉ヒドロホルミル化についての結果を同様に得た、そしてそれを表に示す:
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式I
【化1】

[式中、
α及びRβは、互いに無関係に、5員ないし7員の複素環の基であって、1つの環窒素原子を介してリン原子に結合されている基を表すか、又は
α及びRβは、それらと結合したリン原子と一緒になって、5員ないし7員の複素環であって更に1つの置換されていてよい窒素原子と酸素及び置換されていてよい窒素から選択される他のヘテロ原子とを有し、その両方の原子が前記リン原子と結合されている複素環を表し、
γ及びRδは、互いに無関係に、アルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール又はヘテロアリールを表し、その際、該アリール基は、1、2、3、4もしくは5つの置換基を有してよく、該置換基は、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、ヘタリール、アルコキシ、シクロアルコキシ、ヘテロシクロアルコキシ、アリールオキシ、ヘタリールオキシ、ヒドロキシ、チオール、ポリアルキレンオキシド、ポリアルキレンイミン、COOH、カルボキシレート、SO3H、スルホネート、NE12、NE123-、ハロゲン、ニトロ、アシル又はシアノから選択され、その際、E1、E2及びE3は、それぞれ水素、アルキル、シクロアルキル又はアリールから選択される同一又は異なる基を意味し、かつX-は、アニオン等価体を表し、その際、シクロアルキル基、ヘテロシクロアルキル基、アリール基及びヘタリール基のRγ及びRδは、1、2、3、4もしくは5つの置換基を有してよく、該置換基は、アルキル及びアルキル基Rγ及びRδについて上述した置換基から選択され、又は
Xは、O、S、SiRεξ又はNRηを表し、その際、Rε、Rξ及びRηは、互いに無関係に、水素、アルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール又はヘタリールを表し、かつ
Yは、キラルの二価の橋かけ基を表す]で示されるリンキレート化合物。
【請求項2】
請求項1記載の化合物であって、式中、Rα及びRβは、互いに無関係に、式II.aないし式II.k
【化2】

[式中、
Alkは、C1〜C4−アルキル基であり、かつ
a、Rb、Rc及びRdは、互いに無関係に、水素、C1〜C4−アルキル、C1〜C4−アルコキシ、アシル、ハロゲン、トリフルオロメチル、C1〜C4−アルコキシカルボニル又はカルボキシルを表す]で示される基から選択される化合物。
【請求項3】
請求項1記載の化合物であって、式中、Rα及びRβは、一緒になって、5員ないし7員の複素環であって場合により更にシクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール又はヘタリールと一縮合、二縮合、三縮合又は四縮合されている複素環を表し、その際、該複素環と、存在する場合には、縮合された基は、互いに無関係にそれぞれ1、2、3又は4つの置換基を有してよく、該置換基は、アルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、ヘタリール、ヒドロキシ、チオール、ポリアルキレンオキシド、ポリアルキレンイミン、アルコキシ、ハロゲン、COOH、カルボキシレート、SO3H、スルホネート、NE45、NE456-、ニトロ、アルコキシカルボニル、アシル及びシアノから選択され、その際、E4、E5及びE6は、それぞれ、水素、アルキル、シクロアルキル及びアリールから選択される同一又は異なる基を表し、かつX-は、アニオン等価体を表す化合物。
【請求項4】
請求項3記載の化合物であって、式中、Rα及びRβが、それらが結合されるリン原子と一緒になって、キラル複素環を表す化合物。
【請求項5】
請求項3記載の化合物であって、式中、Rα及びRβが、それらが結合されるリン原子と一緒になって、式II.1ないし式II.3
【化3】

[式中、
6及びR7は、互いに無関係に、水素、アルキル、シクロアルキル、アリール、ヘタリール、メシレート、トシレート又はトリフルオロメタンスルホネートを表し、
8、R9、R10、R11、R12、R13、R14、R15、R16、R17、R18、R19、R20、R21、R22、R23、R24、R25、R26及びR27は、互いに無関係に、水素、アルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、ヘタリール、W′COORf、W′COO-+、W′(SO3)Rf、W′(SO3-+、W′PO3(Rf)(Rg)、W′(PO32-(M+2、W′NE1314、W′(NE131415+-、W′ORf、W′SRf、(CHRgCH2O)xf、(CH2NE13xf、(CH2CH2NE13xf、ハロゲン、トリフルオロメチル、ニトロ、アシル又はシアノを表し、その際、
W′は、単結合、ヘテロ原子、ヘテロ原子含有基又は1〜20個の橋かけ原子を有する二価の橋かけ基を表し、
f、E13、E14、E15は、それぞれ、水素、アルキル、シクロアルキル又はアリールから選択される同一又は異なる基を意味し、
gは、水素、メチル又はエチルを表し、
+は、カチオン等価体を表し、
-は、アニオン等価体を表し、かつ
xは、1〜240の整数を表し、その際、
それぞれ2つの隣接する基R8〜R27は、それらが結合される環の炭素原子と一緒になって、また、1、2又は3個の更なる環を有する縮合された環系を表してもよい
]で示される基を表す化合物。
【請求項6】
請求項1から5までのいずれか1項記載の化合物であって、式Iにおいて、橋かけ基Yが、式III.a及び式III.b
【化4】

[式中、
I、RI'、RII、RII'、RIII、RIII'、RIV、RIV'、RV、RVI、RVII、RVIII、RIX、RX、RXI及びRXIIは、互いに無関係に、水素、アルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、ヘタリール、ヒドロキシ、チオール、ポリアルキレンオキシド、ポリアルキレンイミン、アルコキシ、ハロゲン、SO3H、スルホネート、NE1011、アルキレン−NE1011、トリフルオロメチル、ニトロ、アルコキシカルボニル、カルボキシル、アシル又はシアノを表し、その際、E10及びE11は、それぞれ、水素、アルキル、シクロアルキル及びアリールから選択される同一又は異なる基を意味する]で示される基から選択される化合物。
【請求項7】
請求項1から6までのいずれか1項に定義される式Iの化合物少なくとも1つを配位子として有する、遷移金属との少なくとも1つの錯体を含む触媒。
【請求項8】
請求項7記載の触媒であって、金属が、ルテニウム、ロジウム、イリジウム、パラジウム及び白金から選択される触媒。
【請求項9】
少なくとも1つのエチレン性不飽和二重結合を有するプロキラルの化合物と基質とを、請求項7又は8記載のキラル触媒の存在下で反応させることによるキラル化合物の製造方法。
【請求項10】
請求項9記載の方法において、プロキラルの化合物が、オレフィン、アルデヒド、ケトン及びイミンから選択される方法。
【請求項11】
請求項9又は10記載の方法において、それが水素化、ヒドロホルミル化、ヒドロシアノ化、カルボニル化、ヒドロアシル化、ヒドロアミド化、ヒドロエステル化、ヒドロシリル化、ヒドロホウ素化、アミノ分解、アルコール分解、異性体化、メタセシス、シクロプロパン化、アルドール縮合、アリルアルキル化又は[4+2]環付加である方法。
【請求項12】
請求項9から11までのいずれか1項記載の方法において、それが、1,2−付加、有利には、1−ヒドロ−2−カルボ付加である方法。
【請求項13】
請求項9から12までのいずれか1項記載の方法において、それがヒドロホルミル化である方法。
【請求項14】
請求項9から11までのいずれか1項記載の方法において、それが水素化である方法。
【請求項15】
請求項7又8記載の触媒を、水素化、ヒドロホルミル化、ヒドロシアノ化、カルボニル化、ヒドロアシル化、ヒドロアミド化、ヒドロエステル化、ヒドロシリル化、ヒドロホウ素化、アミノ分解、アルコール分解、異性体化、メタセシス、シクロプロパン化、アルドール縮合、アリルアルキル化又は[4+2]環付加のために用いる使用。

【公表番号】特表2008−517966(P2008−517966A)
【公表日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−538325(P2007−538325)
【出願日】平成17年10月25日(2005.10.25)
【国際出願番号】PCT/EP2005/011449
【国際公開番号】WO2006/045597
【国際公開日】平成18年5月4日(2006.5.4)
【出願人】(508020155)ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア (2,842)
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】D−67056 Ludwigshafen, Germany
【Fターム(参考)】