説明

不燃性インクジェットシート

【課題】不燃性インクジェットシートにおいて、不燃材料の発熱性試験に合格する優れた不燃性及び防炎性を有するケイ酸マグネシウムシートを基材とすることによって、不燃材料の発熱性試験に合格できる極めて優れた不燃性を有するとともに、優れた平滑性をも有し、印刷品質が損なわれないこと。
【解決手段】不燃性インクジェットシート1は、第1層の含水ケイ酸マグネシウム化合物75重量%〜85重量%・パルプ7重量%〜12重量%・ガラス繊維2重量%〜10重量%及びバインダー3重量%〜8重量%を含有するケイ酸マグネシウムシート2と、第2層のインク受容性被覆層としてのポリ塩化ビニルフィルム3と、第3層のラミネートフィルム4とを順次積層させて構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、壁紙・ポスター等として用いることができる不燃性を有する不燃性インクジェットシートに関するものであり、特に、不燃試験に合格することができるとともに印刷品質に優れた不燃性インクジェットシートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、建造物の火災事故の防止に関わる社会的要請に基づいて、建築内装材等について防炎・耐火・不燃の基準が厳しく設定され、壁装材・壁材を始めとする建材について不燃性材料の需要が高まるにしたがって、これらの建材の表面に貼られたり、天井等から吊り下げられたりする壁紙・ポスター等に用いられるインクジェット用紙についても、「燃えない・熱に強い」いわゆる不燃性インクジェットシートの需要は極めて高くなっている。
【0003】
そこで、燃え難いインクジェット用紙として、特許文献1においては、リン酸アンモニウム等の難燃剤を含有する基紙の一面に、微粒子合成シリカと樹脂接着剤を主成分として含むインク受容性被覆層を有するインクジェット記録用紙の発明が開示されている。これによって、水性インクによるインクジェット方式のプリンター及びプロッターを用いて高品位の画像を高速でプリントすることができ、しかもそのまま壁紙やポスターとして使用できる難燃性のインクジェット記録用紙が得られるとしている。
【0004】
しかし、この特許文献1に記載の技術においては、JIS−A−1322に規定されている方法による炭化長が短いという難燃性が得られるのみであり、不燃性試験に合格する不燃性インクジェットシートが得られるものではない。そこで、不燃性試験に合格する不燃性を有するインクジェットシートとして、非特許文献1に記載の不燃プリントメディアが開発されている。
【特許文献1】特開2004−122795号公報
【非特許文献1】(株)イメージングフォトクラフト社のホームページ(http://www.photocraft.co.jp/)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記非特許文献1に記載された不燃プリントメディアにおいては、コーティッドガラスクロス(GF)を用いているため、不燃材料としての認定は受けているものの、印刷面にガラスクロスの線による凹凸を生じてしまい、表面の平滑性を保つことができず、通常のインクジェット用紙のような良好な印刷品質が得られないという問題点があった。
【0006】
そこで、本発明は、含水ケイ酸マグネシウム化合物・パルプ・アルミナホウケイ酸ガラス及びバインダーの配合率を最適にして不燃材料の発熱性試験に合格する優れた不燃性及び防炎性を有するケイ酸マグネシウムシートを開発して、このケイ酸マグネシウムシートを基材とすることによって、不燃材料の発熱性試験に合格できる極めて優れた不燃性を有するとともに、優れた平滑性をも有し、印刷品質が損なわれることがない不燃性インクジェットシートを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1の発明に係る不燃性インクジェットシートは、含水ケイ酸マグネシウム化合物74重量%〜85重量%・パルプ5重量%〜11重量%・アルミナホウケイ酸ガラス4重量%〜12重量%及びバインダー3重量%〜7重量%を含有するケイ酸マグネシウムシートからなる第1層と、インクジェット用紙またはポリ塩化ビニルフィルムからなる第2層と、を具備するものである。
【0008】
ここで、「含水ケイ酸マグネシウム化合物」としては、天然鉱物であるセピオライト(含水ケイ酸マグネシウム)、アタパルジャイト(含水ケイ酸マグネシウムアルミニウム)、タルク(滑石、含水ケイ酸マグネシウム)等があり、またこれらの含水ケイ酸マグネシウム化合物の合成物をも含む。
【0009】
請求項2の発明に係る不燃性インクジェットシートは、請求項1の構成において、前記第1層と前記第2層に加えて、ラミネートフィルムからなる第3層を具備するものである。ここで、ラミネートフィルムからなる第3層は、インクジェットプリンタ等による印刷がされた後に形成される。
【0010】
請求項3の発明に係る不燃性インクジェットシートは、請求項1または請求項2の構成において、前記インクジェット用紙または前記ポリ塩化ビニルフィルムの厚さが40μm〜80μmの範囲内であり、前記ラミネートフィルムの厚さが50μm〜90μmの範囲内であるものである。
【0011】
請求項4の発明に係る不燃性インクジェットシートは、含水ケイ酸マグネシウム化合物74重量%〜85重量%・パルプ5重量%〜11重量%・アルミナホウケイ酸ガラス4重量%〜12重量%及びバインダー3重量%〜7重量%を含有するケイ酸マグネシウムシートからなる第1層と、インクジェット用紙またはレーザプリンタ用紙からなる第2層と、を具備するものである。
【0012】
請求項5の発明に係る不燃性インクジェットシートは、請求項4の構成において、前記インクジェット用紙または前記レーザプリンタ用紙の厚さが50μm〜150μmの範囲内であるものである。
【0013】
請求項6の発明に係る不燃性インクジェットシートは、含水ケイ酸マグネシウム化合物74重量%〜85重量%・パルプ5重量%〜11重量%・アルミナホウケイ酸ガラス4重量%〜12重量%及びバインダー3重量%〜7重量%を含有するケイ酸マグネシウムシートの表面にインク受容性被覆層としての微粒子合成シリカと有機合成樹脂接着剤を主成分とするコーティングを施してなるものである。
【0014】
請求項7の発明に係る不燃性インクジェットシートは、請求項1乃至請求項6のいずれか1つの構成において、前記ケイ酸マグネシウムシートの厚さが0.2mm〜0.5mm(200μm〜500μm)の範囲内であるものである。
【0015】
請求項8の発明に係る不燃性インクジェットシートは、請求項1乃至請求項7のいずれか1つの構成において、前記ケイ酸マグネシウムシートの材料である前記含水ケイ酸マグネシウム化合物の平均粒径が10μm〜25μmの範囲内であるものである。
【0016】
請求項9の発明に係る不燃性インクジェットシートは、請求項1乃至請求項8のいずれか1つの構成において、前記ケイ酸マグネシウムシートの材料である前記含水ケイ酸マグネシウム化合物がセピオライト(含水ケイ酸マグネシウム)であるものである。
【発明の効果】
【0017】
請求項1の発明に係る不燃性インクジェットシートは、含水ケイ酸マグネシウム化合物74重量%〜85重量%・パルプ5重量%〜11重量%・アルミナホウケイ酸ガラス4重量%〜12重量%及びバインダー3重量%〜7重量%を含有するケイ酸マグネシウムシートからなる第1層と、インクジェット用紙またはポリ塩化ビニルフィルムからなる第2層とを具備する。
【0018】
ここで、「含水ケイ酸マグネシウム化合物」としては、天然鉱物であるセピオライト(含水ケイ酸マグネシウム)、アタパルジャイト(含水ケイ酸マグネシウムアルミニウム)、タルク(滑石、含水ケイ酸マグネシウム)等があり、またこれらの含水ケイ酸マグネシウム化合物の合成物をも含む。
【0019】
本発明者らは、鋭意実験研究の結果、不燃性シートとしてのケイ酸マグネシウムシートとして、含水ケイ酸マグネシウム化合物74重量%〜85重量%・パルプ5重量%〜11重量%・アルミナホウケイ酸ガラス4重量%〜12重量%及びバインダー3重量%〜7重量%を含有するものが、より不燃性及び防炎性に優れており、不燃材料の条件を満たすことを見出した。
【0020】
すなわち、上記組成からなるケイ酸マグネシウムシートは、不燃材料の発熱性試験において20分の加熱により600℃近くになっても、総発熱量は僅かに0.8MJ/m2(総発熱量の合格値は8.0MJ/m2以下)であり、しかも僅か0.25mmの厚さで亀裂もなく形状を保持し、不燃材料として合格した。
【0021】
しかし、かかるケイ酸マグネシウムシートのみを不燃性インクジェットシートの材料として用いたのでは、印刷品質を確保することができない。そこで、本発明者らは、ケイ酸マグネシウムシートの表面にインクジェット用紙またはポリ塩化ビニルフィルムの層を設けることによって、印刷特性を確保するとともに、熱伝導性の小さい(熱伝導率:0.11W/mK)ケイ酸マグネシウムシートによって熱伝導を遮断して、インクジェット用紙またはポリ塩化ビニルフィルムからの可燃性ガスの発生を抑えることで、不燃材料の発熱性試験に合格することができる不燃性インクジェットシートを作製することに思い至った。
【0022】
こうして得られた本発明に係る不燃性インクジェットシートは、不燃材料の発熱性試験において総発熱量は8.0MJ/m2以下であり、最高発熱速度が連続して200kW/m2を超過した時間も10秒未満であって、不燃材料の発熱性試験に合格した。また、凹凸がなく極めて平滑性に優れたケイ酸マグネシウムシート及びインクジェット用紙またはポリ塩化ビニルフィルムを積層してなるものであることから、印刷品質においても平滑性においても極めて優れたものであった。
【0023】
このようにして、含水ケイ酸マグネシウム化合物・パルプ・アルミナホウケイ酸ガラス及びバインダーの配合率を最適にして不燃材料の発熱性試験に合格する優れた不燃性及び防炎性を有するケイ酸マグネシウムシートを開発して、このケイ酸マグネシウムシートを基材とすることによって、不燃材料の発熱性試験に合格できる極めて優れた不燃性を有するとともに、優れた平滑性をも有し、印刷品質が損なわれることがない不燃性インクジェットシートとなる。
【0024】
請求項2の発明に係る不燃性インクジェットシートにおいては、第1層と第2層に加えて、ラミネートフィルムからなる第3層を具備する。ここで、ラミネートフィルムからなる第3層は、インクジェットプリンタ等による印刷がされた後に形成される。
【0025】
このように、最上層としてラミネートフィルムを積層してなるものであることから、内装材や屋内で使用されるポスター等に限られず、屋外での使用や水の掛かる部分での使用も可能であり、より汎用性の高い不燃性インクジェットシートが得られる。
【0026】
このようにして、含水ケイ酸マグネシウム化合物・パルプ・アルミナホウケイ酸ガラス及びバインダーの配合率を最適にして不燃材料の発熱性試験に合格する優れた不燃性及び防炎性を有するケイ酸マグネシウムシートを開発して、このケイ酸マグネシウムシートを基材とすることによって、不燃材料の発熱性試験に合格できる極めて優れた不燃性を有するとともに、優れた平滑性をも有し、印刷品質が損なわれることがない不燃性インクジェットシートとなる。
【0027】
請求項3の発明に係る不燃性インクジェットシートにおいては、インクジェット用紙またはポリ塩化ビニルフィルムの厚さが40μm〜80μmの範囲内であり、ラミネートフィルムの厚さが50μm〜90μmの範囲内である。
【0028】
本発明者らは、本発明に係る不燃性インクジェットシートにおける第2層及び第3層の適切な厚さについて、鋭意実験研究を重ねた結果、インクジェット用紙またはポリ塩化ビニルフィルムの厚さが40μm〜80μmの範囲内であり、ラミネートフィルムの厚さが50μm〜90μmの範囲内である場合に、より確実に不燃性と印刷品質を両立できることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成したものである。
【0029】
すなわち、インクジェット用紙・ポリ塩化ビニルフィルムの厚さが40μm未満であると、インク受容性被覆層の厚さが薄くなって良好な印刷品質を確保できない場合が生じ、一方、インクジェット用紙・ポリ塩化ビニルフィルムの厚さが80μmを超えると、不燃性を確保できない場合が生ずる。また、ラミネートフィルムの厚さが50μm未満であると、屋外での使用や水の掛かる部分での使用に際して耐水性が不足する場合があり、一方、ラミネートフィルムの厚さが90μmを超えると、不燃性を確保できない場合が生ずる。したがって、インクジェット用紙・ポリ塩化ビニルフィルムの厚さが40μm〜80μmの範囲内であり、ラミネートフィルムの厚さが50μm〜90μmの範囲内であることが好ましい。
【0030】
このようにして、含水ケイ酸マグネシウム化合物・パルプ・アルミナホウケイ酸ガラス及びバインダーの配合率を最適にして不燃材料の発熱性試験に合格する優れた不燃性及び防炎性を有するケイ酸マグネシウムシートを開発して、このケイ酸マグネシウムシートを基材とすることによって、不燃材料の発熱性試験に合格できる極めて優れた不燃性を有するとともに、優れた平滑性をも有し、印刷品質が損なわれることがない不燃性インクジェットシートとなる。
【0031】
請求項4の発明に係る不燃性インクジェットシートは、含水ケイ酸マグネシウム化合物74重量%〜85重量%・パルプ5重量%〜11重量%・アルミナホウケイ酸ガラス4重量%〜12重量%及びバインダー3重量%〜7重量%を含有するケイ酸マグネシウムシートからなる第1層と、インクジェット用紙またはレーザプリンタ用紙からなる第2層とを具備する。
【0032】
上述の如く、上記組成からなるケイ酸マグネシウムシートは、不燃材料の発熱性試験において不燃材料として合格したものであるが、かかるケイ酸マグネシウムシートのみを不燃性インクジェットシートの材料として用いたのでは、印刷品質を確保することができない。そこで、本発明者らは、ケイ酸マグネシウムシートの表面にインクジェット用紙またはレーザプリンタ用紙からなる層を設けることによって、印刷特性を確保するとともに、熱伝導性の小さい(熱伝導率:0.11W/mK)ケイ酸マグネシウムシートによって熱伝導を遮断して、インクジェット用紙またはレーザプリンタ用紙からの可燃性ガスの発生を抑えることで、不燃材料の発熱性試験に合格することができる不燃性インクジェットシートを作製することに思い至った。
【0033】
こうして得られた本発明に係る不燃性インクジェットシートは、不燃材料の発熱性試験において総発熱量は8.0MJ/m2以下であり、最高発熱速度が連続して200kW/m2を超過した時間も10秒未満であって、不燃材料の発熱性試験に合格した。また、凹凸がなく極めて平滑性に優れたケイ酸マグネシウムシート及びインクジェット用紙またはレーザプリンタ用紙を積層してなるものであることから、印刷品質においても平滑性においても極めて優れたものであった。
【0034】
このようにして、含水ケイ酸マグネシウム化合物・パルプ・アルミナホウケイ酸ガラス及びバインダーの配合率を最適にして不燃材料の発熱性試験に合格する優れた不燃性及び防炎性を有するケイ酸マグネシウムシートを開発して、このケイ酸マグネシウムシートを基材とすることによって、不燃材料の発熱性試験に合格できる極めて優れた不燃性を有するとともに、優れた平滑性をも有し、印刷品質が損なわれることがない不燃性インクジェットシートとなる。
【0035】
請求項5の発明に係る不燃性インクジェットシートにおいては、インクジェット用紙またはレーザプリンタ用紙の厚さが50μm〜150μmの範囲内である。
【0036】
本発明者らは、本発明に係る不燃性インクジェットシートにおける第2層の適切な厚さについて、鋭意実験研究を重ねた結果、インクジェット用紙またはレーザプリンタ用紙の厚さが50μm〜150μmの範囲内である場合に、より確実に不燃性と印刷品質を両立できることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成したものである。
【0037】
すなわち、インクジェット用紙・レーザプリンタ用紙の厚さが50μm未満であると、インク受容性被覆層の厚さが薄くなって良好な印刷品質を確保できない場合が生じ、一方、インクジェット用紙・レーザプリンタ用紙の厚さが150μmを超えると、不燃性を確保できない場合が生ずる。したがって、インクジェット用紙・レーザプリンタ用紙の厚さは50μm〜150μmの範囲内であることが好ましい。
【0038】
このようにして、含水ケイ酸マグネシウム化合物・パルプ・アルミナホウケイ酸ガラス及びバインダーの配合率を最適にして不燃材料の発熱性試験に合格する優れた不燃性及び防炎性を有するケイ酸マグネシウムシートを開発して、このケイ酸マグネシウムシートを基材とすることによって、不燃材料の発熱性試験に合格できる極めて優れた不燃性を有するとともに、優れた平滑性をも有し、印刷品質が損なわれることがない不燃性インクジェットシートとなる。
【0039】
請求項6の発明に係る不燃性インクジェットシートは、含水ケイ酸マグネシウム化合物74重量%〜85重量%・パルプ5重量%〜11重量%・アルミナホウケイ酸ガラス4重量%〜12重量%及びバインダー3重量%〜7重量%を含有するケイ酸マグネシウムシートの表面にインク受容性被覆層としての微粒子合成シリカと有機合成樹脂接着剤を主成分とするコーティングを施してなる。
【0040】
上述の如く、上記組成からなるケイ酸マグネシウムシートは、不燃材料の発熱性試験において不燃材料として合格したものであるが、かかるケイ酸マグネシウムシートのみを不燃性インクジェットシートの材料として用いたのでは、印刷品質を確保することができない。そこで、本発明者らは、ケイ酸マグネシウムシートの表面にインク受容性被覆層としての微粒子合成シリカと有機合成樹脂接着剤を主成分とするコーティングを施すことによって、印刷特性を確保するとともに、不燃材料の発熱性試験に合格することができる不燃性インクジェットシートを作製することに思い至った。
【0041】
こうして得られた本発明に係る不燃性インクジェットシートは、不燃材料の発熱性試験において総発熱量は8.0MJ/m2以下であり、最高発熱速度が連続して200kW/m2を超過した時間も10秒未満であって、不燃材料の発熱性試験に合格した。また、凹凸がなく極めて平滑性に優れたケイ酸マグネシウムシートの表面にインク受容性被覆層としての微粒子合成シリカと有機合成樹脂接着剤を主成分とするコーティングを施してなるものであることから、印刷品質においても平滑性においても極めて優れたものであった。
【0042】
このようにして、含水ケイ酸マグネシウム化合物・パルプ・アルミナホウケイ酸ガラス及びバインダーの配合率を最適にして不燃材料の発熱性試験に合格する優れた不燃性及び防炎性を有するケイ酸マグネシウムシートを開発して、このケイ酸マグネシウムシートを基材とすることによって、不燃材料の発熱性試験に合格できる極めて優れた不燃性を有するとともに、優れた平滑性をも有し、印刷品質が損なわれることがない不燃性インクジェットシートとなる。
【0043】
請求項7の発明に係る不燃性インクジェットシートにおいては、ケイ酸マグネシウムシートの厚さが0.2mm〜0.5mm(200μm〜500μm)の範囲内、より好ましくは0.25mm±0.05mmである。本発明者らは、鋭意実験研究の結果、ケイ酸マグネシウムシートの厚さが0.2mm〜0.5mmの範囲内である場合に、より確実に不燃材料の発熱性試験に合格できる不燃性インクジェットシートが得られることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成したものである。
【0044】
すなわち、ケイ酸マグネシウムシートの厚さが0.2mm未満であると、ケイ酸マグネシウムシートが薄過ぎて低熱伝導率による熱遮断効果が充分に得られない可能性があるとともに、ケイ酸マグネシウムシートが割れ易くなるため積層のための施工がし難くなり、一方、ケイ酸マグネシウムシートの厚さが0.5mmを超えると、ケイ酸マグネシウムシートが厚過ぎて、不燃性インクジェットシートの印刷品質が悪くなってしまう。したがって、ケイ酸マグネシウムシートの厚さは、0.2mm〜0.5mmの範囲内であることが好ましい。
【0045】
更に、ケイ酸マグネシウムシートの厚さが0.25mm±0.05mmであると、より確実に不燃性インクジェットシートにおいて高度の不燃性と良好な印刷品質を得ることができるため、より好ましい。
【0046】
このようにして、含水ケイ酸マグネシウム化合物・パルプ・アルミナホウケイ酸ガラス及びバインダーの配合率を最適にして不燃材料の発熱性試験に合格する優れた不燃性及び防炎性を有するケイ酸マグネシウムシートを開発して、このケイ酸マグネシウムシートを基材とすることによって、不燃材料の発熱性試験に合格できる極めて優れた不燃性を有するとともに、優れた平滑性をも有し、印刷品質が損なわれることがない不燃性インクジェットシートとなる。
【0047】
請求項8の発明に係る不燃性インクジェットシートにおいては、ケイ酸マグネシウムシートの材料である含水ケイ酸マグネシウム化合物の平均粒径が10μm〜25μmの範囲内、より好ましくは平均粒径が12μm〜18μmの範囲内である。
【0048】
ここで、「平均粒径」は、ベックマンコールター社製レーザー粒度測定器LS13−320型を用いてエタノール分散で測定した値である。本発明者らは、鋭意実験研究の結果、含水ケイ酸マグネシウム化合物の平均粒径が10μm〜25μmの範囲内である場合に、不燃性インクジェットシートを構成するケイ酸マグネシウムシートがより不燃性及び防炎性に優れていることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成させたものである。
【0049】
更に、本発明者らは、鋭意実験研究の結果、含水ケイ酸マグネシウム化合物の平均粒径が12μm〜18μmの範囲内である場合に、不燃性インクジェットシートを構成するケイ酸マグネシウムシートがより不燃性及び防炎性に優れているとともに、含水ケイ酸マグネシウム化合物を含むスラリーの粘度が適切な値となり、抄紙がよりスムーズに行えるため、より好ましいことを見出した。したがって、含水ケイ酸マグネシウム化合物の平均粒径は10μm〜25μmの範囲内であることが好ましく、12μm〜18μmの範囲内であることが、より好ましい。
【0050】
このようにして、含水ケイ酸マグネシウム化合物・パルプ・アルミナホウケイ酸ガラス及びバインダーの配合率を最適にして不燃材料の発熱性試験に合格する優れた不燃性及び防炎性を有するケイ酸マグネシウムシートを開発して、このケイ酸マグネシウムシートを基材とすることによって、不燃材料の発熱性試験に合格できる極めて優れた不燃性を有するとともに、優れた平滑性をも有し、印刷品質が損なわれることがない不燃性インクジェットシートとなる。
【0051】
請求項9の発明に係る不燃性インクジェットシートにおいては、ケイ酸マグネシウムシートの材料である含水ケイ酸マグネシウム化合物がセピオライト(含水ケイ酸マグネシウム)である。
【0052】
セピオライトは、含水ケイ酸マグネシウム化合物の中でも、吸着性・揺変性・固結性を有し、不燃性と耐水性を兼ね備えたケイ酸マグネシウムシートを抄造することができる無機化合物である。そこで、ケイ酸マグネシウムシートの材料である含水ケイ酸マグネシウム化合物として、セピオライトを用いることによって、より優れた不燃性と耐水性を得ることができる。
【0053】
このようにして、含水ケイ酸マグネシウム化合物・パルプ・アルミナホウケイ酸ガラス及びバインダーの配合率を最適にして不燃材料の発熱性試験に合格する優れた不燃性及び防炎性を有するケイ酸マグネシウムシートを開発して、このケイ酸マグネシウムシートを基材とすることによって、不燃材料の発熱性試験に合格できる極めて優れた不燃性を有するとともに、優れた平滑性をも有し、印刷品質が損なわれることがない不燃性インクジェットシートとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0054】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。なお、各実施の形態において、同一の記号及び同一の符号は同一または相当する機能部分を意味し、実施の形態相互の同一の記号及び同一の符号は、それら実施の形態に共通する機能部分であるから、ここでは重複する詳細な説明を省略する。
【0055】
実施の形態1
まず、本発明の実施の形態1に係る不燃性インクジェットシートについて、図1乃至図4を参照して説明する。
【0056】
図1(a)は本発明の実施の形態1に係る不燃性インクジェットシートの全体構造を示す斜視図、(b)は本発明の実施の形態1に係る不燃性インクジェットシートの積層構造を示す断面図である。図2は本発明の実施の形態1に係る不燃性インクジェットシートの不燃性試験の結果を示すグラフである。図3は本発明の実施の形態1に係る不燃性インクジェットシートを構成するケイ酸マグネシウムシートの製造方法を示すフローチャートである。図4は本発明の実施の形態1に係る不燃性インクジェットシートを構成するケイ酸マグネシウムシートに用いられる含水ケイ酸マグネシウム化合物としてのセピオライトの粒度分布を示すグラフである。
【0057】
まず、本実施の形態1に係る不燃性インクジェットシート1の全体構造及び積層構造について、図1を参照して説明する。
【0058】
図1(a),(b)に示されるように、本実施の形態1に係る不燃性インクジェットシート1は、第1層の含水ケイ酸マグネシウム化合物75重量%〜85重量%・パルプ7重量%〜12重量%・ガラス繊維2重量%〜10重量%及びバインダー3重量%〜8重量%を含有するケイ酸マグネシウムシート2と、第2層のインク受容性被覆層としてのポリ塩化ビニルフィルム3と、第3層のラミネートフィルム4とを順次積層させて構成される。ここで、ラミネートフィルム4からなる第3層は、インクジェットプリンタ等による印刷がされた後に形成される。
【0059】
なお、本実施の形態1に係る不燃性インクジェットシート1においては、ケイ酸マグネシウムシート2の厚さは0.25mm(250μm)、ポリ塩化ビニルフィルム3の厚さは80μm、ラミネートフィルム4の厚さは90μmである。この実施の形態1に係る不燃性インクジェットシート1について、不燃材料の発熱性試験を実施して評価した。具体的には、テープ用粘着剤としてのアクリル溶剤型粘着剤4の反対側の面から、輻射強度50kW/m2で加熱して、総発熱量と発熱速度を測定した。測定結果を、図2及び表1に示す。
【0060】
【表1】

【0061】
図2に示されるように、本実施の形態1に係る不燃性インクジェットシート1においては、総発熱量は20分の加熱時間の間ずっと4MJ/m2を下回っており、発熱速度も極めて小さかった。また、最高発熱速度が継続して200kW/m2を超過した時間も6秒であり、合格値の10秒未満という条件を満たしていた。更に、表1に示されるように、防火上有害な変形もなく、着火時間もごく短くなっていた。
【0062】
この結果、本実施の形態1に係る不燃性インクジェットシート1は、不燃材料の発熱性試験に合格し、不燃材料としての認定を受けられることが明らかになった。また、凹凸がなく極めて平滑性に優れたケイ酸マグネシウムシート2及びポリ塩化ビニルフィルム3を積層して、更にラミネートフィルム4を積層してなるものであることから、平滑性においても印刷品質においても、極めて優れたものであった。
【0063】
以上説明したように、本実施の形態1に係る不燃性インクジェットシート1においては、ケイ酸マグネシウムシート2の表面にアルミニウム箔2の層を設けて可燃性ガスを遮断するとともに、熱伝導性に優れたアルミニウム箔2で熱を分散させて局所的な加熱にも強くし、更に熱伝導性の小さいケイ酸マグネシウムシート2によってポリ塩化ビニルフィルム3への熱伝導を遮断して可燃性ガスの発生を抑えることができる。
【0064】
次に、本実施の形態1に係る不燃性インクジェットシートを構成するケイ酸マグネシウムシートの製造方法について、図3を参照して説明する。図3に示されるように、ステップS10の解繊工程においては、主原料であるセピオライト等の含水ケイ酸マグネシウム化合物と、補強材としてのアルミナホウケイ酸ガラス・パルプとを解繊機に入れて、攪拌によって微細繊維の塊からなるセピオライト等を十分に解繊して、その分散性を良くするとともに、アルミナホウケイ酸ガラス・パルプと均質に混合する。
【0065】
続いて、ステップS11の原料混合工程においては、解繊されアルミナホウケイ酸ガラス・パルプと混合されたセピオライト等の含水ケイ酸マグネシウム化合物をバインダーであるバインダー・軟化剤・安定剤等とともに混合タンクに入れ、水と混合してスラリーを作製する。ここで、バインダーとしては、紙力増強用の分子量80万〜100万のポリアクリルアミドを使用した。作製されたスラリーは、紙料化処理工程(ステップS12)において、紙料集束化反応装置によって集束化処理される。この紙料化処理工程によって、粗大化されたフロックが形成され、抄造性が向上したスラリーが形成される。
【0066】
紙料化処理工程(ステップS12)で紙料化調製されたスラリーは、ストックタンクに送出され、沈降分離や調製紙料の崩壊等が生じないように、混合状態が常に均一化されるように維持する蓄積工程に入る(ステップS13)。蓄積工程においてストックタンクに蓄積されたスラリーは、定量ホッパーにポンプアップされ、定量ホッパーで計量されたスラリーは次いで抄造工程に入る(ステップS14)。
【0067】
この抄造工程(ステップS14)において、セピオライト等の含水ケイ酸マグネシウム化合物を主材として含み、粗大化した良好なフロックが形成されたスラリーは、連続抄紙機等によって抄造される。本実施の形態1においては、丸網式抄紙機を用いて抄造した。このとき、スラリー濃度は0.5%〜1.0%であり、抄紙機には60〜80メッシュの抄紙網を使用した。凝集フロックが形成されたスラリーを抄紙網に流し込むと、その凝集フロックを通して水が速やかに抄紙網から流れ落ちて、紙層が形成される。
【0068】
その後、この紙層を乾燥工程(ステップS15)においてプレスを掛けて脱水し、脱水された湿紙を例えばスチーム回転ドライヤーによって、約120℃の温度で所定時間乾燥する。この加熱乾燥によって、紙層の内部の水分が蒸発して、バインダーの凝縮と硬化が促進されて乾燥固化される。乾燥されたケイ酸マグネシウムシートは、スチーム回転ドライヤーのドライヤー面から剥離されて、巻取紙に形成される。以上のステップS10〜ステップS15の工程によって、厚さが0.2mm〜0.3mmのケイ酸マグネシウムシート2が完成する。
【0069】
次に、本実施の形態1に係る不燃性インクジェットシートを構成するケイ酸マグネシウムシート2の原料配合について説明する。本実施の形態1に係るケイ酸マグネシウムシート2は、含水ケイ酸マグネシウム化合物としてセピオライト(含水ケイ酸マグネシウム、「マウンテンレザー(山皮)」、「マウンテンウッド」とも呼ばれる。)のみを用いたものである。実施例に係るケイ酸マグネシウムシート2の原料配合を、表2に示す。
【0070】
【表2】

【0071】
表2に示されるように、実施例に係るケイ酸マグネシウムシート2は、主成分としての含水ケイ酸マグネシウム化合物としてセピオライトを80.0重量%含有している。ここで、セピオライトとしては水澤化学工業(株)のセピオライトを使用した。また、アルミナホウケイ酸ガラス繊維(長さが1mm〜3mm)を5.0重量%、パルプを10.0重量%、バインダー類を5.0重量%含有している。
【0072】
バインダー類としては、紙力増強剤として、セピオライトとの相性が良い昭和高分子化学工業(株)製の湿潤紙力増強剤と乾燥紙力増強剤とを合わせて使用し、無機バインダーとして王子製紙(株)製の硫酸アルミニウムを使用している。更に、高分子凝集剤を使用している。
【0073】
このように、含水ケイ酸マグネシウム化合物としてのセピオライト75重量%〜85重量%、パルプ7重量%〜12重量%、長さが1mm〜3mmのアルミナホウケイ酸ガラス繊維2重量%〜5重量%、及びバインダー3重量%〜8重量%を含有するケイ酸マグネシウムシートとすることによって、耐熱性・不燃性が一段と向上し、実施例に係るケイ酸マグネシウムシート2も、不燃性かつ防炎性で、ガスバーナーの炎にかざしても僅かな発煙を発生して黒色化するだけで、炎が貫通することなく形状を維持するものであり、防炎1級の認定を受けている。
【0074】
また、実施例に係るケイ酸マグネシウムシート2は、不燃材料の発熱性試験において20分の加熱により600℃近くになっても、発熱量は僅かに0.8MJであり、しかも僅か0.25mmの厚さで亀裂もなく形状を保持し、不燃材料として合格しており、極めて優れた不燃性を有している。更に、実施例に係るケイ酸マグネシウムシート2においては、後述する変形例に係るケイ酸マグネシウムシートと異なり、長さが1mm〜3mmのガラス繊維を用いていることによって、内部組織が密になり、その結果表面が極めて平滑になるという作用効果が得られる。
【0075】
次に、変形例に係るケイ酸マグネシウムシートの原料配合について説明する。変形例に係るケイ酸マグネシウムシートにおいても、含水ケイ酸マグネシウム化合物としてセピオライト(含水ケイ酸マグネシウム)を用いている。但し、アルミナホウケイ酸ガラス繊維の長さが平均6mmと長いものを用いている点が異なっている。変形例に係るケイ酸マグネシウムシートの原料配合を、表3に示す。
【0076】
【表3】

【0077】
表3に示されるように、変形例に係るケイ酸マグネシウムシートは、主成分としてセピオライトを77.0重量%含有し、アルミナホウケイ酸ガラス繊維(平均長さ6mm)を10.0重量%、パルプを8.0重量%、バインダー類を5.0重量%含有している。ここで、セピオライト(含水ケイ酸マグネシウム)としては、水澤化学工業(株)のセピオライトを使用した。
【0078】
また、バインダー類としては、紙力増強剤として、セピオライトとの相性が良い昭和高分子化学工業(株)製の湿潤紙力増強剤と乾燥紙力増強剤とを合わせて使用し、無機バインダーとして王子製紙(株)製の硫酸アルミニウムを使用している。更に、高分子凝集剤を使用している。
【0079】
このように、含水ケイ酸マグネシウム化合物としてのセピオライト75重量%〜85重量%、パルプ7重量%〜12重量%、アルミナホウケイ酸ガラス繊維2重量%〜10重量%、及びバインダー3重量%〜8重量%を含有するケイ酸マグネシウムシートとすることによって、耐熱性・不燃性が一段と向上し、変形例に係るケイ酸マグネシウムシートも、不燃性かつ防炎性で、ガスバーナーの炎にかざしても僅かな発煙を発生して黒色化するだけで、炎が貫通することなく形状を維持するものであり、防炎1級の認定を受けている。
【0080】
更に、変形例に係るケイ酸マグネシウムシートも、不燃材料の発熱性試験において20分の加熱により600℃近くになっても、発熱量は僅かに0.8MJであり、しかも僅か0.25mmの厚さで亀裂もなく形状を保持し、不燃材料として合格しており、極めて優れた不燃性を有している。
【0081】
以上説明したように、本実施の形態1の不燃性インクジェットシートに用いられる実施例に係る配合においては、厚さ約0.25mmの少なくとも片面が極めて平滑なケイ酸マグネシウムシート2が得られるが、変形例に係る配合においては、同じ条件で加圧乾燥を行っているにも関わらず、両面とも表面に細かい凹凸が形成されて完全に平滑な面とはならない。
【0082】
変形例に係るケイ酸マグネシウムシートにおいては、平均長さ6mmのアルミナホウケイ酸ガラス繊維を用いているため、長いガラス繊維が嵩張って、セピオライトやパルプの充填密度も疎となり、この結果、ケイ酸マグネシウムシートの表面に細かい凹凸が一面に形成されて、完全に平滑ではなくなる。
【0083】
これに対して、本実施の形態1の実施例に係るケイ酸マグネシウムシート2においては、最大長さ3mm(1mm〜3mmの範囲内)のアルミナホウケイ酸ガラス繊維を用いているため、ガラス繊維もセピオライトやパルプも密に充填されて、その結果ケイ酸マグネシウムシート2の表面が極めて平滑となり、文字・模様等の印刷が容易に美しくできるという作用効果が得られる。
【0084】
しかしながら、変形例に係るケイ酸マグネシウムシートも、表面の完全な平滑性においては実施例に係るケイ酸マグネシウムシート2には劣るものの、従来の不燃性インクジェットシートと比較すれば平滑性に優れており、しかも実施例に係るケイ酸マグネシウムシート2と同等の極めて優れた不燃性を有しているため、本実施の形態1の不燃性インクジェットシート1において、実施例に係るケイ酸マグネシウムシート2の代わりに変形例に係るケイ酸マグネシウムシートを用いても、同等の不燃性を有する不燃性インクジェットシートを得ることができる。
【0085】
次に、本実施の形態1の実施例及び変形例に係るケイ酸マグネシウムシートに用いられるセピオライトの粒度分布について、図4を参照して説明する。図4は実施例及び変形例に係るケイ酸マグネシウムシートに用いられるセピオライトの粒度分布を、ベックマンコールター社製レーザー粒度測定器LS13−320型を用いてエタノール分散で測定した結果を示すものである。
【0086】
図4に示されるように、実施例及び変形例に係るケイ酸マグネシウムシートに用いられるセピオライトは、いずれも美しい正規分布曲線を描く粒度分布を有しており、実施例に係るセピオライトの平均粒径は12.0μmであり、変形例に係るセピオライトの平均粒径は17.2μmである。これらのセピオライトを含むスラリーの粘度は適切な値となり、図3のステップS14に示される抄造工程をよりスムーズに行うことができる。したがって、セピオライトの平均粒径は、12μm〜18μmの範囲内であることが、より好ましい。
【0087】
また、セピオライトの平均粒径が10μm〜25μmの範囲内である場合に、ケイ酸マグネシウムシートがより不燃性及び防炎性に優れたものとなることが分かった。したがって、セピオライトの平均粒径は10μm〜25μmの範囲内であることが好ましい。
【0088】
このようにして、本実施の形態1に係る不燃性インクジェットシート1においては、含水ケイ酸マグネシウム化合物・パルプ・ガラス繊維及びバインダーの配合率を最適にして不燃材料の発熱性試験に合格するより優れた不燃性及び防炎性を有するケイ酸マグネシウムシート2と、インク受容性被覆層としてのポリ塩化ビニルフィルム3と、ラミネートフィルム4とを積層することによって、不燃材料の発熱性試験に合格する優れた不燃性を有するとともに、極めて平滑性及び印刷品質に優れたものとなる。
【0089】
更に、本実施の形態1に係る不燃性インクジェットシート1においては、インク受容性被覆層としてのポリ塩化ビニルフィルム3の上に、ラミネートフィルム4を積層しているため、壁紙・ポスター等としての屋外での使用や水の掛かる場所での使用にも耐え、より汎用性の高い不燃性インクジェットシートとなる。
【0090】
実施の形態2
次に、本発明の実施の形態2に係る不燃性インクジェットシートについて、図5及び図6を参照して説明する。図5(a)は本発明の実施の形態2に係る不燃性インクジェットシートの全体構造を示す斜視図、(b)は本発明の実施の形態2に係る不燃性インクジェットシートの積層構造を示す断面図である。図6は本発明の実施の形態2に係る不燃性インクジェットシートの不燃性試験の結果を示すグラフである。
【0091】
図5(a),(b)に示されるように、本実施の形態2に係る不燃性インクジェットシート6は、第1層の含水ケイ酸マグネシウム化合物75重量%〜85重量%・パルプ7重量%〜12重量%・ガラス繊維2重量%〜10重量%及びバインダー3重量%〜8重量%を含有するケイ酸マグネシウムシート2と、第2層のインクジェット用紙7とを積層させて構成される。
【0092】
ここで、図5(b)には示されていないが、本実施の形態2に係る不燃性インクジェットシート7においては、第1層と第2層の間に接着剤としてのポリエチレン樹脂が塗布されている。すなわち、第1層のケイ酸マグネシウムシート2と第2層のインクジェット用紙7とが、ポリエチレン樹脂によって接着されて積層されている。また、インクジェット用紙7の厚さは100μm、ケイ酸マグネシウムシート2の厚さは0.25mm(250μm)である。
【0093】
なお、接着剤としてはポリエチレン樹脂に限られるものではなく、ポリプロピレン、塩化ビニル、アクリル樹脂等の熱可塑性樹脂を始めとして、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ウレタン樹脂等の熱硬化性樹脂を用いることもでき、アクリルゴム等の熱可塑性エラストマーを用いることもできる。
【0094】
この本実施の形態2に係る不燃性インクジェットシート6について、不燃材料の発熱性試験を実施して評価した。具体的には、ケイ酸マグネシウムシート2の側から、輻射強度50kW/m2で加熱して、総発熱量と発熱速度を測定した。測定結果を、図6及び表4に示す。
【0095】
【表4】

【0096】
図6に示されるように、本実施の形態2に係る不燃性インクジェットシート6においては、総発熱量は20分の加熱時間の間ずっと4MJ/m2を下回っており、発熱速度も極めて小さかった。また、最高発熱速度が継続して200kW/m2を超過した時間も0秒であり、合格値の10秒未満という条件を満たしていた。更に、表4に示されるように、防火上有害な変形もなく、着火時間もごく短くなっていた。
【0097】
この結果、本実施の形態2に係る不燃性インクジェットシート6は、不燃材料の発熱性試験に合格し、不燃材料としての認定を受けられることが明らかになった。また、凹凸がなく極めて平滑性に優れたケイ酸マグネシウムシート2及びインクジェット用紙7を積層してなるものであることから、平滑性においても印刷品質においても極めて優れたものであった。
【0098】
このようにして、本実施の形態2に係る不燃性インクジェットシート6においては、含水ケイ酸マグネシウム化合物・パルプ・ガラス繊維及びバインダーの配合率を最適にして不燃材料の発熱性試験に合格するより優れた不燃性及び防炎性を有するケイ酸マグネシウムシート2と、インクジェット用紙7とを積層することによって、不燃材料の発熱性試験に合格する優れた不燃性を有するとともに、極めて平滑性及び印刷品質に優れたものとなる。
【0099】
実施の形態3
次に、本発明の実施の形態3に係る不燃性インクジェットシートについて、図7及び図8を参照して説明する。図7(a)は本発明の実施の形態3に係る不燃性インクジェットシートの全体構造を示す斜視図、(b)は本発明の実施の形態3に係る不燃性インクジェットシートの積層構造を示す断面図である。図8は本発明の実施の形態3に係る不燃性インクジェットシートの不燃性試験の結果を示すグラフである。
【0100】
図7(a),(b)に示されるように、本実施の形態3に係る不燃性インクジェットシート11は、の含水ケイ酸マグネシウム化合物75重量%〜85重量%・パルプ7重量%〜12重量%・ガラス繊維2重量%〜10重量%及びバインダー3重量%〜8重量%を含有するケイ酸マグネシウムシート2の表面に、インク受容性被覆層としての微粒子合成シリカと有機合成樹脂接着剤を主成分とするコーティング12が形成されて構成される。
【0101】
ここで、インク受容性被覆層としての微粒子合成シリカと有機合成樹脂接着剤を主成分とするコーティング12として、より具体的には、微粒子合成シリカとしての水澤化学工業(株)製の「ミズカシル」100部に、有機合成樹脂接着剤としてのクラレ(株)製のシラノール化ポリビニルアルコールR−1130を40部加えたものを、バーコーターで8g/m2の割合で塗工・乾燥することによって形成した。
【0102】
この本実施の形態3に係る不燃性インクジェットシート11について、不燃材料の発熱性試験を実施して評価した。具体的には、ケイ酸マグネシウムシート2の側から、輻射強度50kW/m2で加熱して、総発熱量と発熱速度を測定した。測定結果を、図8及び表5に示す。
【0103】
【表5】

【0104】
図8に示されるように、本実施の形態3に係る不燃性インクジェットシート11においては、総発熱量は20分の加熱時間の間ずっと2MJ/m2を下回っており、発熱速度も極めて小さかった。また、最高発熱速度が継続して200kW/m2を超過した時間も0秒であり、合格値の10秒未満という条件を満たしていた。更に、表5に示されるように、防火上有害な変形もなく、着火時間もゼロであった。
【0105】
この結果、本実施の形態3に係る不燃性インクジェットシート11は、不燃材料の発熱性試験に合格し、不燃材料としての認定を受けられることが明らかになった。また、凹凸がなく極めて平滑性に優れたケイ酸マグネシウムシート2に、インク受容性被覆層としての微粒子合成シリカと有機合成樹脂接着剤を主成分とするコーティング12を施してなるものであることから、平滑性においても印刷品質においても、極めて優れたものであった。
【0106】
このようにして、本実施の形態3に係る不燃性インクジェットシート11においては、含水ケイ酸マグネシウム化合物・パルプ・ガラス繊維及びバインダーの配合率を最適にして不燃材料の発熱性試験に合格するより優れた不燃性及び防炎性を有するケイ酸マグネシウムシート2にインク受容性被覆層としての微粒子合成シリカと有機合成樹脂接着剤を主成分とするコーティング12を施すことによって、不燃材料の発熱性試験に合格する優れた不燃性を有するとともに、極めて平滑性及び印刷品質に優れたものとなる。
【0107】
上記各実施の形態においては、ケイ酸マグネシウムシートの主成分である含水ケイ酸マグネシウム化合物としてセピオライト(含水ケイ酸マグネシウム)を用いた場合について説明したが、セピオライト以外にも、またセピオライトと混合して、アタパルジャイト(含水ケイ酸マグネシウムアルミニウム)、タルク(滑石、含水ケイ酸マグネシウム)等を用いることもできる。
【0108】
本発明を実施するに際しては、不燃性インクジェットシートのその他の部分の構成、構造、材質、成分、配合、厚さ、数量、形状、大きさ、製造方法等についても、上記各実施の形態に限定されるものではない。なお、本発明の実施の形態で挙げている数値は、臨界値を示すものではなく、実施に好適な好適値を示すものであるから、上記数値を若干変更してもその実施を否定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0109】
【図1】図1(a)は本発明の実施の形態1に係る不燃性インクジェットシートの全体構造を示す斜視図、(b)は本発明の実施の形態1に係る不燃性インクジェットシートの積層構造を示す断面図である。
【図2】図2は本発明の実施の形態1に係る不燃性インクジェットシートの不燃性試験の結果を示すグラフである。
【図3】図3は本発明の実施の形態1に係る不燃性インクジェットシートを構成するケイ酸マグネシウムシートの製造方法を示すフローチャートである。
【図4】図4は本発明の実施の形態1に係る不燃性インクジェットシートを構成するケイ酸マグネシウムシートに用いられる含水ケイ酸マグネシウム化合物としてのセピオライトの粒度分布を示すグラフである。
【図5】図5(a)は本発明の実施の形態2に係る不燃性インクジェットシートの全体構造を示す斜視図、(b)は本発明の実施の形態2に係る不燃性インクジェットシートの積層構造を示す断面図である。
【図6】図6は本発明の実施の形態2に係る不燃性インクジェットシートの不燃性試験の結果を示すグラフである。
【図7】図7(a)は本発明の実施の形態3に係る不燃性インクジェットシートの全体構造を示す斜視図、(b)は本発明の実施の形態3に係る不燃性インクジェットシートの積層構造を示す断面図である。
【図8】図8は本発明の実施の形態3に係る不燃性インクジェットシートの不燃性試験の結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0110】
1,6,11 不燃性インクジェットシート
2 ケイ酸マグネシウムシート
3 ポリ塩化ビニルフィルム
4 ラミネートフィルム
7 インクジェット用紙(レーザプリンタ用紙)
12 コーティング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
含水ケイ酸マグネシウム化合物74重量%〜85重量%・パルプ5重量%〜11重量%・アルミナホウケイ酸ガラス4重量%〜12重量%及びバインダー3重量%〜7重量%を含有するケイ酸マグネシウムシートからなる第1層と、
インクジェット用紙またはポリ塩化ビニルフィルムからなる第2層と、
を具備することを特徴とする不燃性インクジェットシート。
【請求項2】
前記第1層と前記第2層に加えて、ラミネートフィルムからなる第3層を具備することを特徴とする請求項1に記載の不燃性インクジェットシート。
【請求項3】
前記インクジェット用紙または前記ポリ塩化ビニルフィルムの厚さが40μm〜80μmの範囲内であり、前記ラミネートフィルムの厚さが50μm〜90μmの範囲内であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の不燃性インクジェットシート。
【請求項4】
含水ケイ酸マグネシウム化合物74重量%〜85重量%・パルプ5重量%〜11重量%・アルミナホウケイ酸ガラス4重量%〜12重量%及びバインダー3重量%〜7重量%を含有するケイ酸マグネシウムシートからなる第1層と、
インクジェット用紙またはレーザプリンタ用紙からなる第2層と、
を具備することを特徴とする不燃性インクジェットシート。
【請求項5】
前記インクジェット用紙または前記レーザプリンタ用紙の厚さが50μm〜150μmの範囲内であることを特徴とする請求項4に記載の不燃性インクジェットシート。
【請求項6】
含水ケイ酸マグネシウム化合物74重量%〜85重量%・パルプ5重量%〜11重量%・アルミナホウケイ酸ガラス4重量%〜12重量%及びバインダー3重量%〜7重量%を含有するケイ酸マグネシウムシートの表面にインク受容性被覆層としての微粒子合成シリカと有機合成樹脂接着剤を主成分とするコーティングを施してなることを特徴とする不燃性インクジェットシート。
【請求項7】
前記ケイ酸マグネシウムシートの厚さが0.2mm〜0.5mm(200μm〜500μm)の範囲内であることを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれか1つに記載の不燃性インクジェットシート。
【請求項8】
前記ケイ酸マグネシウムシートの材料である前記含水ケイ酸マグネシウム化合物の平均粒径が10μm〜25μmの範囲内であることを特徴とする請求項1乃至請求項7のいずれか1つに記載の不燃性インクジェットシート。
【請求項9】
前記ケイ酸マグネシウムシートの材料である前記含水ケイ酸マグネシウム化合物がセピオライト(含水ケイ酸マグネシウム)であることを特徴とする請求項1乃至請求項8のいずれか1つに記載の不燃性インクジェットシート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−178963(P2009−178963A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−20764(P2008−20764)
【出願日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【出願人】(593173840)株式会社トッパン・コスモ (243)
【出願人】(504067365)グランデックス株式会社 (37)
【Fターム(参考)】