説明

不眠症の治療において有用な新規な製剤処方

短時間作用型の催眠薬を含み、投与後10分以内に薬剤の測定可能な血漿濃度を提供する、経粘膜投与に適した製剤が提供される。前記製剤は、要求に応じた睡眠の提供に適当であり、好ましくは薬剤の粒子、例えばゾルピデムまたはその医薬品として許容される塩、及び粘膜接着促進剤の粒子、例えばナトリウムカルボキシメチルセルロースを含み、前記薬剤及び粘膜接着剤の粒子はより大きな担体粒子の表面にある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不眠症、例えば一過性不眠症の短期療において有用な短時間作用型催眠薬を含む、新規な即効性医薬製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
不眠症は、睡眠の開始及び/または維持における困難によって特徴付けられる一般的な疾患である。不眠症は、周期的に成人の30%を侵す。更にまた、全人口の90%より多数が、その一生のある時点で睡眠に問題を抱える。
【0003】
不十分な睡眠により、生活の質及び一般的な意味において正常に機能する能力が損なわれる。このことはしばしば、事故の危険性を増大させることに加えて、個人的に、医療上の、もしくは精神的に、不都合な影響をもたらす。
【0004】
前記疾患は、一過性または慢性でありうる。短期型不眠症の単発での発生は、例えば悲嘆、ストレス、もしくは睡眠を損なうことが知られた物質への短期的暴露によって引き起こされうるが、一過性の不眠症に罹患した患者の多数は、短期ベースで定期的及び/または周期的に当該疾患を経験しうる。
【0005】
短期的不眠症の治療においては、使用する薬剤の、関連するあらゆる薬剤依存症を含む潜在的副作用に配慮する必要がある。施術者はまた、投与の数時間後に起こる望ましからぬ薬剤の吸収の可能性にも留意する必要があるが、これは翌日の通常の活動の間に集中力の低下及び精神運動機能の減衰を引き起こしうる。この点において、可能な限り、いかなる特定の薬剤もできる限り少ない有効用量の、短時間もしくは「要求に応じる」のみの使用に患者を暴露することが重要である。
【0006】
ゾルピデム(N,N-ジメチル-2-(6-メチル-2-p-トリルイミダゾ[1,2-a]ピリジン-3-イル)アセタミド)は、不眠症の短期的管理において使用される短時間作用型鎮静薬である。前記薬剤は、短い半減期を有し、また活性な代謝物を全く生成しない。これは、GABAレセプター複合体のベンゾジアゼピンレセプター成分に結合し、よってベンゾジアゼピンと類似の特性を備えることによって作用するようである。しかしながら、ゾルピデムは、抗不安、筋弛緩、及びけいれん誘発性特性が最少であるという一般的な利点を有する。
【0007】
現在入手可能なゾルピデム製剤は、5乃至10mgの薬剤の用量を、ヘミ酒石酸塩の形態で含む(例えば、British National Formulary, Volume 48, pages 174 and 175参照)。これらの組成物は、典型的には就寝前に経口投与され、胃腸管内で迅速に崩壊して薬剤の全身性吸収をもたらす。
【0008】
ゾルピデムは胃腸管から迅速に吸収されるが、その生物学的利用能は、経口投与後には70%であると報告される。従って、ピーク血漿濃度は、現在の製剤を使用する経口投与の1乃至5時間以内で達成される。
【0009】
このことに照らして、多くの患者において作用の開始が遅延し、「要求に応じた」睡眠のいらだたしい不足をもたらしうることに加えて、多くの場合に翌日の望ましからぬ残留効果(例えば前述のものなど)をもたらしうる。同じく重要なことに、典型的に経口投与と関連する初回通過及び/または前全身性(pre-systemic)代謝に照らして、現在市販されているゾルピデム製剤の使用は、作用の開始及び残留効果の点でかなりの個体間及び個体内変動性によって特徴付けられる(例えば、Holm et al, Drugs (2000)59,895; Darcourt et al, J. Pharmacol., (1999)13, 81; Terzano et al, Drug Safety (2003)26, 261; Salva and Costa, Clin. Pharmacokinet. (1995) 29, 142; Drover et al, Clin. Ther. (2000)22, 1443; 及び"Guidance for Industry; Labelling Guidance for Zolpidem Tablets", US Department of Health and Human Service (1997)参照)。
【0010】
従って、短時間作用型の催眠薬、例えばゾルピデム等を含む改善製剤であって、より迅速に、好ましくはほとんど瞬間的な作用の開始(例えば数時間ではなく数分間で)並びに、翌日のより少ない残留効果を一貫して示す製剤を求める、明かな満たされない要求が存在する。
【0011】
ゾルピデムを含む二相性経口投薬形態が、とりわけ米国特許No.6514531B1に最近開示されている。このシステムは、既存の市販製剤を用いて可能な程度と同程度に迅速に睡眠を誘発する、初期迅速放出相を提供する。この後には、誘発後に睡眠を維持する目的を持った制御放出相が続く。ゾルピデムを含む別の二相性錠剤が、欧州特許出願EP1260216A1に開示されている。
【0012】
米国特許No.6638535B2もまた、短時間作用型催眠薬、例えばゾルピデム、ゾピクロン、及びザレプロン等を含む遅延放出ペレットを開示するが、これはインビトロ試験の最初の5分間で60%未満の有効成分のインビトロ放出を提供する。
【0013】
国際特許出願WO00/16750には、粘膜投与による急性疾患の治療のための薬剤デリバリーシステムが開示されており、その有効成分はミクロ粒子形態であり、且つ生体接着及び/または粘膜接着促進剤の存在下でより大きな担体粒子の表面に接着する。
【0014】
国際特許出願WO03/059349には、溶解度エンハンサー(例えば界面活性剤)及び球形化剤(例えば蒸留モノグリセリド)に加えて、特にゾルピデムを含む経口投薬形態が開示されている。
【0015】
当業者であれば、肺、鼻、もしくは口の粘膜からの有効成分の経粘膜投与(例えば舌下投与)によれば、血漿中への当該活性剤の吸収速度の増大(経口製剤と比較して)、ひいては投与後の早い段階で非常に高い生体利用可能性をもたらすことを予期するであろう。ゾルピデム等の短時間作用型の睡眠薬剤を用いる不眠症の治療においては、こうした吸収速度の増大により、好都合である以上に迅速な睡眠の開始(例えば、入眠準備中の場合;US6638535B2の第2欄、第9乃至18行を参照)等の、望ましからぬ薬理効果をもたらしうる薬剤に対して感受性である患者における、潜在的安全性の問題を生じることが予期されうる。さらにまた、当業者であればこうした迅速な吸収により、懸かる薬剤の作用の持続期間が短縮され、然るに、特に短時間作用型の該化合物が迅速に血漿から排泄されることが既知である場合(例えば、US6638535B2の第2欄、第19乃至31行を参照)には夜間の睡眠を維持する能力が損なわれることを予期するであろう。
【特許文献1】米国特許No.6514531B1
【特許文献2】欧州特許出願EP1260216A1
【特許文献3】米国特許No.6638535B2
【特許文献4】国際特許出願WO00/16750
【特許文献5】国際特許出願WO03/059349
【非特許文献1】British National Formulary, Volume 48, pages 174 and 175
【非特許文献2】Holm et al, Drugs (2000)59,895; Darcourt et al, J. Pharmacol., (1999)13, 81
【非特許文献3】Terzano et al, Drug Safety (2003)26, 261; Salva and Costa, Clin. Pharmacokinet. (1995) 29, 142
【非特許文献4】Drover et al, Clin. Ther. (2000)22, 1443; and "Guidance for Industry; Labelling Guidance for Zolpidem Tablets", US Department of Health and Human Service (1997)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
驚くべきことに、発明者は、安全且つ信頼のおける、「要求に応じた」睡眠の誘発(及び維持)が、以下に開示する製剤を用いて提供しうることを見いだした。
【0017】
本発明の第1態様によれば、短時間作用型催眠薬を含む経粘膜投与に適当な医薬製剤が提供され、前記製剤は、投与後10分以内に当該薬剤の測定可能な血漿濃度をもたらす。
【0018】
薬剤血漿濃度の測定は、当業者には周知の方法、例えば以下に記載のものなどの技術によって達成して良い。
【0019】
一方、参考のために、発明者は、米国薬局方による標準インビボ溶解(パドル)装置における測定にて、溶出溶媒としてpH6.8(USP)のリン酸緩衝液を使用し、当該有効成分の少なくとも50%が5分以内、好ましくは4分以内、例えば3分以内、さらには2分以内で放出される場合ならば、経粘膜投与に適した製剤が、投与後10分以内に薬剤の測定可能な血漿濃度を提供しうることを見いだした。「放出」なる語によっては、発明者は有効成分が製剤から放出されて溶出溶媒中に溶解することを意味する。
【0020】
発明者は、本発明による製剤が、最初に測定可能となる血漿濃度までの時間について、変動係数(CV:変数のその平均からの偏差の統計的尺度)で表される驚くべき一貫性の程度をもって最初に測定可能となる血漿濃度を提供しうることを見いだした。観察されたCV値は、この変数について50%未満、例えば40%未満であってよい。
【0021】
従って、本発明による製剤が10分以内に薬剤の測定可能な血漿濃度を提供することから、これは一貫して「要求に応じた」睡眠誘発を有効に提供することができる。
【0022】
本発明の別の態様によれば、要求に応じた睡眠の提供に適当な経粘膜製剤が提供され、この製剤は、短時間作用型催眠薬を含む。
【0023】
「要求に応じた睡眠」なる語により、一貫して睡眠を誘発する製剤、すなわち(患者内及び/または患者間ベースで)症例の少なくとも90%において、60分以内、好ましくは45分以内、より好ましくは30分以内、特に20分以内(例えば15分以内)に睡眠を誘発する製剤が包含される。
【0024】
発明者はまた、非常に驚くべきことに、本発明による製剤が、現在入手可能な経口製剤で見られるものと実質的に差異のない、投与後の薬剤の吸収速度を提供しうることを見いだした。この点に鑑みて、本発明による製剤は、睡眠の不都合に迅速な開始あるいは、例えば前述のように懸かる薬剤に対して特に感受性の患者において、迅速な吸収に関連しているかもしれない別の望ましからぬ薬理効果を、低減または回避しうる。
【0025】
これに関して、(a)最初に測定可能となる結晶濃度と(b)測定される最大結晶濃度との間に時間差をもたらし、前記時間差は、約50分から約250分、好ましくは約55分から約230分、更に好ましくは約70分から約180分、特に約80分から約160の範囲内である。
【0026】
同じく驚くべきことに、発明者は、本発明による製剤が、現在入手可能な経口製剤で見られるものと実質的に差異のない、投与後適当な時点で薬剤のレベルをもたらし、次いで睡眠誘発を提供しうることを見いだした。この点に鑑みて、本発明による製剤は、薬剤誘発性睡眠を、夜通し維持することができる。
【0027】
この点において、要求に応じた睡眠の提供に適当な経粘膜製剤が更に提供され、この製剤は、該製剤の投与後少なくとも約3時間、好ましくは投与後少なくとも約4時間、更に好ましくは少なくとも約5時間、特に少なくとも約6時間は睡眠を維持することができる薬剤の血漿濃度をもたらす。それ以外は健康な60歳未満の成人の患者において、睡眠を維持することのできる薬剤の血漿濃度は、例えば血漿の約40乃至約100ng/mL、例えば約50乃至約90ng/mL、例えば約60乃至約85ng/mLの範囲内である。
【0028】
さらにまた、本発明による製剤は、前述の望ましからぬ残留効果を翌日に生じない、投与後の適当な時点での薬剤のレベルを提供することができる。
【0029】
この点において、要求に応じた睡眠の提供に適当な経粘膜製剤が更に提供され、この製剤は、該製剤の投与後少なくとも約8時間、例えば約7時間の睡眠をとった後の患者において集中力の低下及び/または精神運動機能の減衰を引き起こさない薬剤の血漿濃度をもたらす。それ以外は健康な60歳未満の成人の患者において、こうした効果を生じ得ない薬剤の血漿濃度は、その効果は客観的(すなわち、某かの試験またはマーカーによって測定可能)であっても主観的(すなわち、主体がこうした効果を呈するかまたは感じる)であってもよいが、例えば血漿の約40ng/mL未満、例えば約30ng/mL未満、例えば約25ng/mL未満である。
【0030】
当業者には、前述の血漿濃度範囲が平均的症例の例であり、治療しようとする不眠症の重篤性、並びに治療しようとする特定の患者の年齢、体重、性別、腎機能、肝機能、及び反応と共に変化することが認識される。むろん、以上に特定した範囲外の血漿濃度が既述の効果をもたらす個別の事例もありえるが、これらは本発明の範囲内である。例えば、小児または高齢の患者については、懸かる効果を生じさせるため(または生じさせないため)に、前述の血漿濃度範囲をおよそ半分にしてよい。
【0031】
経粘膜薬剤デリバリーは、肺、鼻、より好ましくは口の粘膜から行って良い。経肺粘膜薬剤デリバリーは、例えば有効成分を含む粉末製剤を含む吸入器を用いて行って良い。経鼻粘膜薬剤デリバリーは、例えば有効成分を含む粉末製剤を含む鼻スプレーを用いて行って良い。経口粘膜デリバリーは、例えば舌下にスプレーするための、例えば有効成分を含む粉末製剤を含むスプレーを用いて、あるいは発泡性製剤またはフリーズドライ迅速溶解性錠剤製剤を用いて行って良い。これら全てが、当業者には既知である。
【0032】
しかしながら、本発明による製剤は、舌下錠剤の形態であることが好ましい。要求に応じた睡眠をもたらす舌下錠剤は、以下の説明の通り調製して良い。
【課題を解決するための手段】
【0033】
本発明の別の態様によれば、要求に応じた睡眠の提供に適当な舌下錠剤製剤が提供され、この製剤は(a)短時間作用型の催眠薬;及び(b)粘膜接着促進剤の粒子を含み、成分(a)及び(b)の粒子それぞれが、少なくとも部分的にはより大きな担体粒子の表面に存在する。
【0034】
当業者には、本発明による製剤が、短時間作用型の催眠薬(すなわち、当該製剤の「有効」成分)の薬理学的有効量を含むことが明らかであろう。「薬理学的有効量」なる語は、有効成分の量を意味し、これは単独で投与されるか別の有効成分と組み合わせて投与されるかによらず、治療を受ける患者に所望の治療効果を与えうる量である。こうした効果は客観的(すなわち、某かの試験またはマーカーによって測定可能)であっても主観的(すなわち、主体がこうした効果を呈するかまたは感じる)であってもよい。
【0035】
本発明による製剤において使用して良い短時間作用型の催眠薬には、ゾピクロン、ザレプロン、インデプロン、好ましくはゾルピデムと、製薬品として許容されるこれら全ての塩が含まれる。また、ジアステレオマー(例えば鏡像体)型並びにこれらの化合物/塩の活性代謝物も含まれる。
【0036】
使用して良いゾルピデムの好ましい塩には、塩酸塩、メタンスルホン酸塩、トシル酸塩、フマル酸塩、硫酸塩、及び酒石酸塩、例えば酒石酸水素塩またはヘミ酒石酸塩が含まれる。
【0037】
有効成分は、好ましくはミクロ粒子の形態をとり、好ましくは約0.5μm乃至約15μm、例えば約1μm乃至約10μmの重量基準平均径を有するものである。「重量基準平均径」なる語は、当業者には、平均粒径が重量による粒径分布、すなわち各サイズクラスにおける既存のフラクション(相対量)が、例えば篩い分けによって得られるような重量フラクションとして定義される分布によって特徴付けられ且つ定義されるものを含むことが理解される。
【0038】
有効成分のミクロ粒子は、標準技術、例えば粉砕、乾式粉砕、湿式粉砕、沈殿、微粉化等によって調製して良い。
【0039】
舌下錠剤中に使用して良い有効成分の量は、医師もしくは当業者によって、個別の患者にとって最も適当なように決定して良い。これは、治療しようとする症状の重篤性、並びに治療しようとする特定の患者の年齢、体重、性別、腎機能、肝機能、及び反応と共に変化する。
【0040】
錠剤製剤に使用して良い有効成分の適当量は、当該製剤の全重量に基づいて2乃至20重量%であってよい。より好ましくは、製剤は4乃至17重量%、特に約5乃至約15重量%の有効成分を含んで良い。有効成分の量は、錠剤製剤中の絶対量として表しても良い。こうした場合には、存在しうる有効成分の総量は、錠剤一つ当たり3乃至15mg、例えば4乃至13mg、特に約5乃至約12mgの範囲の用量を提供するために十分であってよい。
【0041】
上述の用量は、平均的症例の例であり、むろんより高用量または低容量の範囲が有利な個別の事例もありえるが、これらは本発明の範囲内である。
【0042】
本明細書に開示される錠剤製剤は、1つ以上の粘膜接着促進剤を含み、然るに有効成分の生物学的表面、例えば粘膜への部分的または完全な接着を促進する。
【0043】
本発明に照らせば、「粘膜接着性」及び「粘膜接着」なる語は、身体内の粘膜への、物質の接着もしくは接着性を意味する。当業者は、「粘膜接着」及び「生体接着」なる表現が、しばしば同意で使用されうることを認識しているであろう。この点において、粘膜接着促進剤の存在により、有効成分を含む舌下錠剤製剤の、舌下粘膜への部分的または完全な接着が促進される。
【0044】
粘膜接着促進剤としては、当該分野において既知の多様な物質、例えばポリマー性物質、好ましくは5000より大なる平均(重量平均)分子量を有するものが使用可能である。こうした物質は、水及び/または、更に好ましくは、粘膜と接触した場合に迅速に膨潤しうる、且つ/あるいは室温及び常圧において実質的に水中に不溶性である。
【0045】
適当な粘膜接着促進剤の例には、セルロース誘導体、例えば変性セルロースガム、特にヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、メチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、及びナトリウムカルボキシメチルセルロース(NaCMC);澱粉誘導体、例えば変性澱粉、ナトリウム澱粉グリコレート、特に中程度架橋澱粉;アクリルポリマー、例えばカーボマー及びその誘導体(Polycarbophyl、Carbopol(登録商標)等);ポリビニルピロリドン;ポリエチレンオキシド(PEO);キトサン(ポリ-(D-グルコサミン));天然ポリマー、例えばゼラチン、アルギン酸ナトリウム、ペクチン;スクレログルカン;キサンタンガム;グアーガム;ポリコ-(メチルビニルエーテル/無水マレイン酸);並びにクロスカルメロース(例えばクロスカルメロースナトリウム)が含まれる。こうしたポリマーは、架橋していて良い。2つ以上の生体/粘膜接着性ポリマーの組み合わせもまた使用可能である。
【0046】
代表的な生体/粘膜接着性ポリマーの適当な販売元には、Carbopol(登録商標)アクリルコポリマー(BF Goodrich Chemical Co, Cleveland, OH, USA);HPMC(Dow Chemical Co., Midland, MI, USA );NEC(Natrosol; Hercules Inc., Wilmington, DE. USA);HPC(Klucel(登録商標);Dow Chemical Co., Midland, MI, USA);NaCMC(Hercules Inc., Wilmington, DE. USA);PEO(Aldrich Chemicals, USA);アルギン酸ナトリウム(Edward Mandell Co., Inc., Carmel, NY, USA);ペクチン(BF Goodrich Chemical Co, Cleveland, OH, USA);架橋ポリビニルピロリドン(Kollidon CL(登録商標), BASF, Germany, Polyplasdone XL(登録商標),Polyplasdone XL-10(登録商標)及び,Polyplasdone INF-10(登録商標), ISP Corp., US);Ac-Di-Sol(登録商標)(高い膨潤性を有する変性セルロースガム;FMC Corp., USA);Actigum(Metro-Rousselot-Satia, Baupte, France);Satiaxana(Sanofi BioIndustries, Paris, France);Gantrez(登録商標)(ISP, Milan, Italy);キトサン(Sigma, St Louis, MS, USA);及びナトリウム澱粉グリコレート(Primojel(登録商標), DMV International BV, Netherlands, Vivastar(登録商標), J. Rettenmaier & Sohne GmbH & Co., Germany, Explotab(登録商標), Roquette America, US)が含まれる。
【0047】
しかしながら、本明細書に開示される舌下錠剤製剤中に使用して良い、好ましい粘膜接着促進剤には、ナトリウムカルボキシメチルセルロースが含まれる。
【0048】
ナトリウムカルボキシメチルセルロースの適当な形態には、内部架橋したナトリウムカルボキシメチルセルロース、例えばクロスカルメロースナトリウムNF(例えばAc-Di-Sol(登録商標)(FMC Corp., USA))が含まれる。
【0049】
好適には、錠剤製剤中に存在する粘膜接着促進剤の量は、前記製剤全重量に基づいて0.1乃至25重量%、例えば0.5乃至15重量%、好ましくは1乃至10重量%の範囲内であって良い。好ましい範囲は、2乃至8重量%、例えば約3.5乃至約6.5重量%(例えば約5重量%)である。
【0050】
本明細書中に開示される錠剤製剤は、1つ以上の結合剤及び/または崩壊剤もしくは「錠剤分解物質」を含んで良い。結合剤は、結合生成促進剤として作用して、粉末の塊のまとまった成形体への圧縮を促進しうる、あらゆる物質として定義して良い。
【0051】
錠剤分解物質は、本明細書中に定義されるように、錠剤製剤、特に担体粒子の分解/分散を、測定可能な程度に促進することのできるあらゆる物質と定義してよい。これは、例えば水及び/または粘膜(例えば唾液)と接触状態におかれた際に膨潤及び/または膨張しうる物質によって達成されうるが、然るに、かくして湿らせた該錠剤製剤/担体粒子に崩壊がもたらされる。
【0052】
適当な錠剤分解物質には、架橋ポリビニルピロリドン、カルボキシメチル澱粉及び天然澱粉が含まれ、また適当な結合剤にはセルロースガム、特にミクロクリスタリンセルロースが含まれる。
【0053】
ミクロクリスタリンセルロースの好ましい形態には、ケイ化ミクロクリスタリンセルロース(ミクロクリスタリンセルロースと少量のコロイド状二酸化ケイ素との混合物)、例えばProSolv(登録商標)(JRS Pharma, Germany)が含まれる。
【0054】
存在するならば、結合剤及び/または崩壊剤は、製剤全重量に基づいて0.5乃至10重量%の量で使用されることが好ましい。好ましい範囲は、1乃至8(例えば5)重量%、例えば約2.0乃至約3.0(例えば約2.25)重量%である。
【0055】
ナトリウムカルボキシメチルセルロースが、本明細書中に開示される錠剤製剤中において、粘膜接着促進剤と崩壊剤との両方として機能しうることには、留意すべきである。
【0056】
好ましくは、本明細書中に開示される錠剤製剤中に使用する担体粒子は、約50乃至約750μm、好ましくは約100乃至約600μm、例えば約150乃至約400μm(例えば約200μm)のサイズのものである。適当な担体粒子材料には、炭水化物、例えば糖、マンニトール、及びラクトース;製薬品として許容される無機塩、例えば塩化ナトリウム、リン酸カルシウム、リン酸二カルシウム二水和物、リン酸二カルシウム脱水物、リン酸酸カルシウム、炭酸カルシウム、及び亜硫酸バリウム;ポリマー、例えばミクロクリスタリンセルロース、セルロース、及び架橋ポリビニルピロリドン;あるいはこれらの混合物が含まれる。担体粒子材料が、水中に十分に可溶性である(例えば室温及び常圧にて0.01g/mLより大なる溶解度を示す)、製薬品として許容される物質を含むことが好ましい。然るに、好ましい物質は、糖アルコール及び/または糖、例えばマンニトール及びラクトース、あるいは製薬品として許容される無機塩、例えば塩化ナトリウムを含む。
【0057】
好ましい担体粒子材料には、マンニトール、例えば粒状マンニトール(Pearlitol 400 DC; Roquette, France)及び噴霧乾燥マンニトール(Parteck M200; Merk, Germany)が含まれる。
【0058】
担体粒子は、好ましくは当該製剤全重量に基づいて50乃至95重量%の量を占める。
【0059】
使用される有効成分の粒子と担体粒子との相対サイズ及び量は、前記担体粒子が、前記有効成分によって少なくとも約90%は確実に被覆され、例えば、少なくとも約100%及び上限約200%(例えば約130乃至約180%)で確実に被覆されうるために十分なものである。当業者であれば、これに関連して、有効成分による担体粒子の「100%被覆」が、別の成分(例えば粘膜接着促進剤)もまた錠剤製剤中に存在しうるにも関わらず、使用される懸かる粒子の相対粒径及び量が、各担体粒子の全表面積が有効成分の粒子によって被覆されうることを確実にするために十分なものであることを認識する。明らかに、こうした別の成分が使用されるならば、有効成分による担体粒子の被覆の実際の程度は、上記の量よりも低くて良い。200%被覆とは、別の成分の存在にもかかわらず、担体粒子の表面を2度以上被覆するために十分な有効成分の粒子が存在することを意味する。
【0060】
理論上90%を超える被覆をもつこうした錠剤製剤が有効であることは、驚くべきである。現在の知識に基づき、当業者であれば、迅速な溶解を確実にするためには、有効成分/担体粒子の相対サイズ/量が、後者の表面の70%以下が前者によって確実に被覆されるために十分なものであることが重要になると理解するであろう。
【0061】
錠剤製剤は、当業者には既知の標準的装置を用いる標準的技術によって調製して良い。
【0062】
本明細書中に前述した有効成分と別の必須の構成要素とは、こうした調製の分野で使用される従来の製薬添加剤及び/または賦形剤と混合しても良く、またその後好ましくは直接圧迫/圧縮して錠剤としてよい。(例えば、Pharmaceutical Dosage Forms: Tablets. Volume 1, 2nd Edition, Liberman et al. (eds.), Marcel Dekker, New York and Basel (1989)p.354-356及び本明細書中に挙げた文献を参照。)
【0063】
然るに、適当な別の添加剤及び/または賦形剤は、下記を含んで良い。
(a)界面活性剤または湿潤剤。これは有効成分及び担体粒子の水和を促進して、粘膜接着と溶解との両方のより迅速な開始をもたらす。存在するならば、前記界面活性剤は微細に分散した形態で提供され、且つ有効成分と密に混合されていなければならない。適当な界面活性剤の例には、ナトリウムラウリルサルフェート、ポリソルベート、胆汁酸塩、及びこれらの混合物が含まれる。存在するならば、前記界面活性剤は該錠剤製剤の全重量に基づいて0.3乃至5重量%、好ましくは0.5乃至3重量%を占める。
(b)滑剤(例えばナトリウムステアリルフマレート、好ましくはマグネシウムステアレート)。滑剤が使用される場合には、これは非常に少量(例えば該錠剤製剤の全重量に基づいて上限約3重量%、好ましくは上限約2重量%)で使用されねばならない。
(c)風味剤(例えばレモン、メントール、好ましくはペパーミント粉末)、甘味料(例えばネオヘスペリジン)、及び染料;並びに/または
(d)別の成分、例えば運搬剤、保存剤、及び滑沢剤(gliding agent)。
【0064】
混合物を造成するために、様々な成分を、十分な時間に亘って幾つかの方法で乾燥混合して良い。これにより、薬剤の不連続な粒子及び懸かる別の賦形剤、特に粘膜接着促進剤は、担体粒子の表面上に存在し、且つ/または前記表面に接着する。これに関して、標準的な混合装置を使用して良い。混合時間は、使用する装置によって変化する。
【0065】
適当な圧縮装置には、標準的な打錠機、例えばKilian SP300またはKorsch EK0が含まれる。
【0066】
前述とは無関係に、錠剤製剤は、本質的に水を含むべきでない(例えば該製剤全重量に基づいて20重量%未満の水含量)。当業者には、「早期」水和によって該錠剤製剤の粘膜接着促進特性が劇的に低下し、且つ有効成分の早期溶解をもたらしうることが明かである。
【0067】
適当な最終舌下錠剤重量は、30乃至400mg、例えば50乃至200mg、例えば60乃至180mg、更に好ましくは約70乃至約160mgである。適当な最終錠剤直径は、4乃至10mm、例えば5乃至9mm、更に好ましくは約6乃至約8mmの範囲である。好ましい錠剤重量は約80mg、好ましくは錠剤直径は約6mmである。
【0068】
濃度(例えば結晶中の薬剤の濃度)、時間区分(例えばインビトロ薬剤放出及び測定された/測定可能な薬剤血漿濃度)、寸法(例えば粒子及び錠剤サイズ)、表面被覆率(例えば有効成分による担体粒子の表面被覆率)、及び量(例えば有効成分の絶対用量及び個別の成分の相対量)に関連して「約」なる語が使用される場合は、こうした変数はおおよそのものであり、本明細書中に特定される数値から±10%、例えば±5%変動して良いことが理解される。
【0069】
本明細書に開示される錠剤製剤は、当業者には既知の適当な投薬手段を用いて舌下投与してよい。舌下錠剤は舌の下においてよく、該有効成分が周囲の粘膜を通って吸収される。
【0070】
本発明による製剤は、不眠症、特に一過性不眠症の治療において有用である。本発明の別の態様によれば、不眠症の治療の方法が提供され、この方法は、こうした症状に罹患したまたは罹患しやすい人に、本発明による製剤を投与する工程を含む。
【0071】
疑念を避けるために、「治療」には、症状の治療上の処置並びに対処療法、予防、または診断が含まれる。
【0072】
本発明による製剤は、製造が容易且つ安価であり、粘膜、例えば口腔粘膜を通って有効成分を迅速に取り込むことが、一貫して可能なものである。これにより「要求に応じた」睡眠が可能になり、就寝前、睡眠中断の後、または別の迅速な睡眠誘発が望ましい場合において達成することができる。もっとも有用には、本発明による製剤はこの効果を提供でき、一方ではこれと同時に、例えば懸かる薬剤に対して特に敏感な患者において、不都合に迅速な睡眠の開始を低減または回避することができる。
【0073】
さらにまた、本発明による製剤は、夜通し薬剤誘発睡眠を維持することができ、一方では同時に前述の睡眠後残留効果を回避または低減することができる。
【0074】
最後に、本発明は、これらの驚くべき効果をかなりの一貫性をもって達成可能にするが、ここで個人間及び個人内の変動が著しく低減または消去され、医師及び末端利用者に、誘発と維持との両面において格段に信頼性のおける睡眠を提供しうる投薬形態が提供される。
【0075】
本発明による製剤はまた、確立された製薬加工方法を利用し、食品または製薬品における使用向けに認可された、または規制状況に見合った物質を用いて調製して良い。
【0076】
本発明による製剤はまた、不眠症の治療における使用のためであるなしによらず、従来知られた製剤処方よりも有効であり、より毒性が低く、より強力であり、副作用の随伴がより少なく、より容易に吸収され、且つ/またはより良好な薬物動態プロファイルを有し、且つ/または他の有利な薬理、物理、もしくは化学特性を有してよい。
【0077】
本発明は、図1を参照しつつ以下の実施例を用いて詳説されるが、ここでは、市販の経口製剤に対する、本発明による2つの舌下錠剤製剤を用いて得られるゾルピデムの血漿濃度の比較が示される。
【実施例】
【0078】
(実施例1:舌下錠剤の調製)
5mg及び10mgのゾルピデムヘミ酒石酸塩を含む舌下錠剤を、以下のように調製した。
ヘミ酒石酸ゾルピデム(Boehringer Ingelheim, Germany)を、まず20分間に亘りボールミルにて粉砕した。
その後前記有効成分を、以下に挙げる様々な成分の絶対量を有する錠剤の製造を可能にする適当な割合で、他の賦形剤(下記参照)と共に正確に計量した。
【0079】
その後、予め計量した量のゾルピデムヘミ酒石酸塩及びマンニトール(Parteck M200; Merck, Germany)を、Turbulaミキサーで96時間に亘り混合した。その後、予め計量した量のケイ化ミクロクリスタリンセルロース(ProSolv(登録商標);JRS Pharma, Germany)、ナトリウムカルボキシメチルセルロース(クロスカルメロースナトリウムNF(例えばAc-Di-Sol(登録商標);FMC Corp., USA)、ネオヘスペリジンDC(Exquim, Spain)、及びペパーミント粉末(Firmenich, Germany)を加え、撹拌を30分間に亘って継続した。最後に、予め計量した量のステアリン酸マグネシウム(Peter Greven, Netherland)を加え、撹拌を更に2分間継続した。
【0080】
その後、前記粉末混合物を、6mmの平縁(flat bevel edge)パンチを備えた単式打錠機(Korsch EK0)を使用して圧縮し、総重量80mgの錠剤を製造した。
個別の成分の絶対量は、下記の表に示したとおりである。
試験試料を打錠処理の全般に亘って回収しつつ、作業間調整を行った(錠剤重量、破砕強度、脆弱性、及び崩壊時間)。錠剤を実装して、実施例2における使用のためにラベルを付けた。
【0081】
【表1】

【0082】
(実施例2:臨床研究)
上述の実施例1により調製された、ゾルピデム5mg及び10mgの舌下錠剤の薬物導体プロファイルを、経口ゾルピデム製剤(Stilnoct(登録商標)10mg;Sanofi-Synthelabo, France)と比較して評価するために、オープンの無作為3時点交差単一施設研究を考案した。
【0083】
試験は、2種類の舌下錠剤製剤間で用量比例関係を試験するための、健康な男性及び女性のボランティアにおける薬学動態研究であった。吸収の速度及び時間及び生物学的利用能に着目して、薬学動態プロファイルを評価した。この研究にはまた、有効性の主観的評価、すなわちが被験者に認識される鎮静の程度が含まれていた。
【0084】
18歳から40歳までの年齢の18名の健康な被験者をこの研究に用いた。全ての患者に、署名したインフォームドコンセントを得た。
3種の各製剤を、18名のボランティアそれぞれに、研究センターへの3度の訪問(以下、「訪問1、2、及び3」と略記)の際に適当な順序で与えた。訪問1及び2の後には、少なくとも2日間の洗い出し期間をとった。
【0085】
研究前の訪問時に、被験者は、病歴の評価、血液学、臨床化学、薬剤、及びアルコールについて、ルーチン検査を含む健康診断に及ぶ、徹底した臨床試験を経た。この研究前訪問は、訪問1の14日前以降に行われた。
【0086】
血漿中のゾルピデムの濃度の測定のための血液サンプルは、各研究日に14回採取した。サンプルは、投与の直前及びその後5、10、15、30、45、60、90、120、180、240、300、360、480、及び600分間隔で採取した。その研究日を通して、耐性及び安全性のパラメータを追った。被験者が視覚アナログ尺度により評定した鎮静スコアを、各研究日を通して評価した。
【0087】
身体検査を含む、血液及び臨床化学についてのルーチン検査を伴う安全性についての追跡訪問を、訪問3の後10日以内に行った。
【0088】
下記のいずれでも、この研究からの除外のための判定基準と見なした。
1.被験者が体重過剰である(すなわち、30より大なる肥満度指数を有する);
2.被験者が喫煙者である;
3.被験者が研究前24時間以内に飲酒していた場合;
4.被験者が薬物乱用の兆候を僅かでも示した場合;
5.被験者が研究前14日以内に処方薬を使用していた場合;
6.研究者の判断において、被験者が健康診断または実験室試験の結果において臨床的に顕著な異常を示した場合;
7.被験者が女性であり、妊娠中、授乳中、または出産可能であって適当な避妊をしていない場合。
【0089】
被験者は、いつでも自由にこの研究への参加を中止してよいとされた。被験者を、研究者の裁量において、いつでもこの研究から離脱させてよいとされた。被験者は、例えば、
1.許容しがたい有害事象;
2.研究プロトコルに対する違反;または
3.研究訪問への欠席;
の場合には研究から離脱させられることになっていた。
しかしながら、全ての被験者はプロトコルに従って研究を完了し、被験者の入れ替えはなかった。
【0090】
各被験者は、3つの製剤それぞれの、3度の単回投与を受けた。この研究における看護人が、前記製剤が正確に投与されること、舌下錠剤が舌下深くに投与されて被験者が少なくとも10分間に亘って仰臥位を維持することを確認した。経口錠剤は嚥下された。
【0091】
確認を受けた適格な被験者は、厳密に連続した順番で被験者番号を与えられた。各被験者番号を、この研究における統計学者によって提供されたコンピュータ処理ランダム化リストに従って、6つの可能な治療シーケンス(3×2×1)の一つにランダム化した。こうして、3名の被験者が各治療シーケンスに割り当てられた。
【0092】
血漿サンプル採取に10時間の時間をとるために、研究薬剤製剤の投与は、各訪問の際の朝、およそ8時に行った。
【0093】
被験者は各訪問の前には一晩断食していた。クリニックに到着するとすぐ、被験者は標準的な朝食をとり、その後試験薬剤が投与された。標準的な食事が研究日を通して、昼食は12時に、夕食は17時に供された。被験者は、血液サンプル摂取後240分及び480分の時点で食事をとり、決して血液サンプル摂取の直前にはとらなかった。
【0094】
血液サンプル(7mL)を、ヘパリン化Vacutainer(登録商標)管に採取した。このサンプルは氷温で維持し、10分間に亘り2000×gで遠心分離した。血漿をラベルをつけたプラスチック管に移し、分析まで−20℃にて貯蔵した。冷凍血漿サンプルを、Quintiles, Uppsala, Swedenに輸送し、ここでサンプル中のゾルピデム濃度を測定した。
【0095】
薬物動態変数を、ゾルピデム血漿濃度時間曲線から導き出した。原始薬物動態変数は、AUC0-1、すなわち研究薬剤の投与後0分から600分までの、ゾルピデム血漿濃度時間曲線下面積であった。
【0096】
舌下ゾルピデム製剤の薬物動態プロファイルをさらに評価するために、以下の二次的薬物動態変数を、血漿濃度時間曲線から導き出した:
(a)0分から無限時間までに推定される曲線下面積(AUC0-∞);
(b)最高血漿濃度(Cmax);
(c)最高血漿濃度到達時間(tmax);
(d)有効成分の半減期(t1/2);
(e)最初に測定可能となる血漿濃度(Cfirst);及び
(f)最初に測定可能となる血漿濃度までの時間(tfirst)。
【0097】
一次有効性変数は、VASで測定される被験者評定鎮静であった。前記VASは、「完全に覚醒」と「実質的に睡眠」との両極端の間の100mmの目盛り無しスケールから構成された。被験者は、研究薬剤の投与直前及び、その後30、60、90、120、150、180、210、240、270、300、330、360、390、420、450、480、510、540、570、及び600分の時点で鎮静スケールに記入することとした。被験者が入眠した場合は、研究における看護人が症例報告用紙にこの旨を記入した。
安全性変数には、報告された有害事象及び実験室評価が含まれていた。
【0098】
有害事象の記録は、各研究訪問及び研究後訪問の際に行われた。患者は、訪問の場以外でも自由に有害事象を報告して良いとされた。有害事象は、自発的に言及される症状の報告及び自由回答式質問によって記録することとされた。研究者及び医療/研究室スタッフもまた、研究の間に彼らが観察したいかなる有害事象も記録するよう指示された。
【0099】
ゾルピデムの血漿濃度を、蛍光検出を伴うHPLCを使用して測定した。この分析操作法によれば、1.0乃至400ng/mLの範囲内のヒト血漿中のゾルピデムの濃度を測定することができる。ゾルピデム及び内部標準トラゾドンを、Bond Elute C18カートリッジを使用して固相抽出し、水及び溶出エタノールで濯ぐことにより、ヒトのヘパリン血漿から精製した。溶出液を、逆相C18 LCカラム(150×4.6mm、5μm)に注ぎ、移動相にpH6.0のアセトニトリル:50mMリン酸カリウムバッファ(4:6、v/v)を用いて、蛍光検出により測定した(254nmにて励起、400nmにて発光)。
【0100】
この研究は、Good Clinical Practise (GCP)及びGood Laboratory Practise (GCP)に従って行った。標準用語の使用と、正確な、一貫した、完全且つ信頼性のあるデータの収集とを確実にするために、この研究は研究者及び研究看護人のために講習会を行った。
【0101】
この研究は、研究スポンサーにより選定された外部モニターによって定期的に観察された。全パラメーターの完全な原始データ確認を行った後、研究現場から症例報告用紙を回収した。データは、スポンサーが校正して正確性をチェックし、データベースに入力し、確認し、更に分析した。全ての訂正及び追加については、研究者が日付を入れて署名した。
【0102】
Log AUC及びlog用量調整AUCを、被験者、治療、及び期間をクラス変数として用い、SAS統計プログラムPROC GLM (SAS Institute Inc., Cary, NC, USA)を使用して分析した。治療間の差異は、90%信頼区間として示した。同等性及び用量比例性は、それぞれ、治療/用量間の差異についての90%信頼区間が±20%を超えないならば(あるいは前記比が0.80乃至1.25の範囲内ならば)、証明されたと見なされる。
【0103】
ゾルピデム濃度の測定の品質は満足のいくものであり、±15%の品質管理(QC)採用基準内であった。ヒト血漿中のゾルピデムについて、定量化の下限は1.00ng/mlであった。QCサンプルの分析から決定されるアッセイの平均精度は、±1.0%以内であった。
【0104】
(結果)
全被験者についての薬物動態データを、平均値として表1に示す。
表1:舌下及び経口の投与後の、ゾルピデムの非コンパートメントパラメーター(平均及びSD)(n=18)
【表2】

【0105】
これらの結果は、10mgの舌下錠剤とStilnoct(登録商標)(10mg)との、AUC0-tについての生物学的等価性を示す。用量調整AUC0-tについての舌下ゾルピデム5mg及び10mg錠剤の間の用量比例性が確立された。
【0106】
最も驚くべきことに、最初に血漿濃度(tfirst)が測定可能になるまでの時間と、最大血漿濃度(tmax)達成までの時間とは、Stilnoct(登録商標)に比べて著しく短い(それぞれp<0.0001及び0.0165)。この点については図1も参照のこと。吸収曲線の傾斜、すなわち吸収率の差異は、統計的に顕著ではない(p=0.478)。平均吸収率を表2に示す。
【0107】
表2:治療による吸収率(濃度時間曲線の吸収相の傾斜)、平均(SD)(n=18)
【表3】

【0108】
ゾルピデムの排出半減期(t1/2)は、2つの舌下錠剤について同等であり(それぞれ2.57時間及び2.56時間)、排泄動態は直線的である。また、2つの舌下錠剤とStilnoct(登録商標)(2.58時間)との間には、t1/2にも統計的に顕著な差異は無かった。排出速度を、表3に示す。
【0109】
表3:治療による排出速度(濃度時間曲線の排出相の傾斜)、平均(SD)(n=18)
【表4】

【0110】
被験者評定鎮静VASスコアを評価し、治療毎に比較する。治療間には、有効性における顕著な差異は見られなかった。しかしながら、期間基線VAS値(基線からの変化)についての調整の後には、基線からの平均VAS変化について、舌下10mg錠剤とStilnoct(登録商標)との間には、前者(p=0.0062)を有利なものとして統計的に顕著な差異があった。
【0111】
睡眠した被験者の数を、研究薬剤の投与後10時間の間観察した。舌下10mg錠剤を用いると、Stilnoct(登録商標)の場合よりも多くの被験者が90分の時点で睡眠していた。
【0112】
様々な研究薬剤投与の後の睡眠をさらに評価及び比較するために、以下の値を算出した:
(a)入眠の最初の時点(すなわち、睡眠潜時;治療毎の平均);
(b)睡眠エピソードの合計数(すなわち、治療毎にどの被験者であっても睡眠していた30分間エピソードの合計数、総計377エピソードが生じた);及び
(c)合計睡眠時間(治療毎の平均)。
【0113】
表4:付加的睡眠変数(n=18)
【表5】

【0114】
舌下10mg錠剤及びStilnoct(登録商標)については、合計睡眠時間並びに睡眠エピソードの数が同等であり、これら2つの研究薬剤の投与後、被験者は同等の長さ及び深さで睡眠したことが示された。しかしながら、初回の睡眠は、舌下10mg錠剤についてより早く起こり、催眠効果の開始は経口投与に比べて舌下ゾルピデムの方がより迅速であることが示された(表4)。
【0115】
安全性の点では、研究薬剤のいずれについても予期せぬまたは深刻な有害事象は全く起こらなかった。
【0116】
(結論)
この研究により、舌下ゾルピデム(10mg)錠剤は、経口ゾルピデム製剤(Stilnoct(登録商標);10mg)と、AUC0-1、AUC0-∞、及びCmaxに関して、生物学的に同等であることが示される。薬物動態学的分析により、ゾルピデムの吸収及び生体利用能の程度が研究用量区間全般に亘って直線的であったことが示される。更に、舌下ゾルピデムの当初吸収率は前記用量による影響を受けないが、このことは、いずれの用量についても同時に効果の開始が期待できることを示す。
【0117】
用量を調整したAUC及びCmaxについて、用量間に顕著な統計的差異はなく、舌下ゾルピデム5mgと10mgとの用量比例性が証明された。増大用量でのAUCの直線状増加は、これら被験者における研究用量の舌下投与の後に、ゾルピデムの吸収が同程度であることの強力な証拠を提供する。
【0118】
舌下ゾルピデム(5mg及び10mg錠剤)の用量比例性が、tfirstとtmaxとが舌下ゾルピデムについて著しく短かったことで証明された。このことは、経口投与に比べて血流へのより早い吸収が達成されることを示した。血漿時間濃度曲線の吸収相の傾斜から評価するに、舌下ゾルピデム及びStilnoct(登録商標)について吸収率における統計的に顕著な差異は全くない。
【0119】
健康なボランティアにおいて、舌下ゾルピデム対経口ゾルピデムの薬物動態パラメーターが、より低い個体間および個体内変動性を示したことは、舌下錠剤のインビボ性能がより優れることを示唆している。
【0120】
舌下10mg錠剤の投与後、別の研究治療の場合と比べてより早く入眠する被験者の数が多かった。平均合計睡眠時間並びに睡眠エピソードの数は、舌下10mg錠剤とStilnoct(登録商標)とを用いた治療後では同等であった。
【0121】
これらの結果は、本発明による製剤が、不眠症の患者に、要求に応じた睡眠を、一貫した方式で提供しうることを示す。
【図面の簡単な説明】
【0122】
【図1】市販の経口製剤に対する、本発明による2つの舌下錠剤製剤を用いて得られるゾルピデムの血漿濃度の比較を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
短時間作用型の催眠薬を含み、投与後10分以内に薬剤の測定可能な血漿濃度を提供する、経粘膜投与に適した医薬製剤。
【請求項2】
溶出溶媒としてpH6.8(USP)のリン酸緩衝液を使用し、米国薬局方による標準インビトロパドル装置で測定して、前記製剤中に最初に存在する薬剤の少なくとも50%が5分以内に放出される、請求項1に記載の製剤。
【請求項3】
前記薬剤が3分以内に放出される、請求項2に記載の製剤。
【請求項4】
短時間作用型の催眠薬を含む経粘膜製剤。
【請求項5】
要求に応じた睡眠の提供に適した、請求項4に記載の製剤。
【請求項6】
前記製剤が、該製剤の投与後の薬剤の(a)最初に測定可能となる結晶濃度と(b)測定される最大結晶濃度との間に時間差をもたらし、前記時間差が、約80分から約160の範囲内である、請求項1乃至5の何れか一項に記載の製剤。
【請求項7】
前記製剤が、投与後少なくとも約6時間の睡眠を維持することのできる薬剤の血漿濃度をもたらす、請求項1乃至6の何れか一項に記載の製剤。
【請求項8】
前記製剤が、投与後少なくとも約7時間の睡眠をとった後に集中力の低下及び/または精神運動機能の減衰を引き起こさない薬剤の血漿濃度をもたらす、請求項1乃至7の何れか一項に記載の製剤。
【請求項9】
口腔粘膜経由の投与に適した、請求項1乃至8の何れか一項に記載の製剤。
【請求項10】
舌下錠である、請求項9に記載の製剤。
【請求項11】
(a)短時間作用型の催眠薬;及び
(b)粘膜接着促進剤;
の粒子を含み、成分(a)及び(b)の粒子それぞれが、少なくとも部分的にはより大きな担体粒子の表面にある、請求項10に記載の製剤。
【請求項12】
前記薬剤が、ゾルピデムまたはその医薬品として許容される塩である、請求項1乃至11の何れか一項に記載の製剤。
【請求項13】
前記塩が、ヘミ酒石酸ゾルピデムである、請求項12に記載の製剤。
【請求項14】
前記薬剤が、ミクロ粒子の形態である、請求項1乃至13の何れか一項に記載の製剤。
【請求項15】
前記ミクロ粒子が、約1μm乃至約10μmの重量基準平均直径を有する、請求項14に記載の製剤。
【請求項16】
前記薬剤の量が、約5乃至約15重量%の範囲内である、請求項1乃至15の何れか一項に記載の製剤。
【請求項17】
錠剤一つ当たりの薬剤の用量が、約5mg乃至約12mgの範囲内である、請求項1乃至16の何れか一項に記載の製剤。
【請求項18】
前記粘膜接着促進剤が、ナトリウムカルボキシメチルセルロースである、請求項11乃至17の何れか一項に記載の製剤。
【請求項19】
前記ナトリウムカルボキシメチルセルロースが、内部架橋したナトリウムカルボキシメチルセルロース(クロスカルメロースナトリウム)である、請求項18に記載の製剤。
【請求項20】
存在する前記粘膜接着促進剤の量が、約3.5乃至約6.5重量%の範囲内である、請求項11乃至19の何れか一項に記載の製剤。
【請求項21】
結合剤または崩壊剤を更に含む、請求項11乃至20の何れか一項に記載の製剤。
【請求項22】
前記結合剤が、ミクロクリスタリンセルロースである、請求項21に記載の製剤。
【請求項23】
前記ミクロクリスタリンセルロースが、ケイ化ミクロクリスタリンセルロースである、請求項22に記載の製剤。
【請求項24】
前記結合剤/崩壊剤の量が、約2.0乃至約3.0重量%の範囲内である、請求項11乃至23の何れか一項に記載の製剤。
【請求項25】
前記担体粒子のサイズが、約150乃至約400μmの範囲内である、請求項11乃至24の何れか一項に記載の製剤。
【請求項26】
前記担体粒子がマンニトールを含む、請求項11乃至25の何れか一項に記載の製剤。
【請求項27】
前記マンニトールが、噴霧乾燥マンニトールである、請求項26に記載の製剤。
【請求項28】
前記担体粒子が、約70乃至約85重量%の範囲の量で存在する、請求項11乃至27の何れか一項に記載の製剤。
【請求項29】
使用される有効成分の前記粒子及び前記担体粒子の相対サイズ及び量が、前記担体粒子が前記有効成分に少なくとも約90%被覆されることを確実にするために十分である、請求項11乃至28の何れか一項に記載の製剤。
【請求項30】
前記被覆が、約130乃至約180%である、請求項29に記載の製剤。
【請求項31】
さらに滑剤を含む、請求項11乃至30の何れか一項に記載の製剤。
【請求項32】
前記滑剤が、ステアリン酸マグネシウムである、請求項31に記載の製剤。
【請求項33】
前記錠剤重量が約80mgであり、前記錠剤直径が約6mmである、請求項10乃至32の何れか一項に記載の製剤。
【請求項34】
前記成分を共に乾燥混合して混合物を生成させる工程、次いで生じた混合物を直接錠剤形態に圧迫または圧縮する工程を含む、請求項11乃至33の何れか一項に記載の製剤の調製方法。
【請求項35】
(i)前記薬剤をまず担体粒子と混合し;
(ii)前記粘膜接着促進剤、他のあらゆる任意の添加剤または成分(例えば結合剤または崩壊剤)を、その後継続的に撹拌しつつ前記混合物に添加し;
(iii)滑剤を、その後継続的に撹拌しつつ前記混合物に添加し;
(iv)その後単式打錠機で圧縮を実行する;
請求項34に記載の方法。
【請求項36】
請求項34または35に記載の方法によって得られる製剤。
【請求項37】
不眠症の治療のための薬剤の製造のための、請求項1乃至33まてゃあ36の何れか一項に規定される製剤の使用。
【請求項38】
前記不眠症が、一過性不眠症である、請求項37に記載の使用。
【請求項39】
請求項1乃至33または36の何れか一項に規定される製剤を、不眠症に罹患したまたは罹患しやすい患者に投与する工程を含む、前記症状の治療方法。
【請求項40】
前記不眠症が、一過性不眠症である、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
請求項1乃至33または36の何れか一項に規定される製剤を、睡眠を必要とする患者に投与する工程を含む、要求に応じて睡眠を提供する方法。
【請求項42】
短時間作用型の催眠薬を用いる一人以上の患者における睡眠誘発及び/または維持の、患者間及び/または患者内変動性レベルの低減方法であって、請求項1乃至33または36の何れか一項に規定される製剤を、一人以上の前記患者に投与する工程を含む方法。

【図1】
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【公表番号】特表2008−517988(P2008−517988A)
【公表日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−538505(P2007−538505)
【出願日】平成17年10月26日(2005.10.26)
【国際出願番号】PCT/GB2005/004147
【国際公開番号】WO2006/046041
【国際公開日】平成18年5月4日(2006.5.4)
【出願人】(505141945)オレクソ・アクチエボラゲット (11)
【Fターム(参考)】