説明

不純物除去方法及び不純物除去装置

【課題】処理液の水分含有量を維持しながら、処理液の蒸留時に生じる発泡を抑制し、処理液からの揮発性不純物除去を正常に精度よく実施できるようにする。
【解決手段】揮発性不純物1を含む処理液2を、脱気缶3が組み込まれた循環系Rを循環させながら脱気缶3内に処理液2を分散吐出して蒸留することによって、処理液2から揮発性不純物1を除去する不純物除去方法において、循環系Rの内、脱気缶3の上流側の処理液流路に対して、揮発性不純物1を含む処理液2の循環を維持しながらスチームJを導入させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、揮発性不純物を含む処理液を、例えば、脱気缶(蒸発缶)が組み込まれた循環系を循環させながら前記脱気缶内に処理液を分散吐出して蒸留することによって、前記処理液から前記揮発性不純物を除去する不純物除去方法に、及び、その方法の実施に直接使用する不純物除去装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の不純物除去技術の1つ目の技術(以後、単に第1従来技術という)としては、例えば、図4に示すような不純物除去装置(揮発性不純物1を含む処理液2を収容する蒸発缶(脱気缶)3が設けられ、その蒸発缶3に、ジャケット又はコイル等の間接加熱機20が設けられ、間接加熱機20による処理液の加熱沸騰によって発生した揮発性不純物1を含む蒸発物を凝縮回収する凝縮手段10が設けられた不純物除去装置)を使用して、処理液2を蒸発缶3内で沸騰させて揮発性不純物1を蒸留によって除去する方法を実施していた(例えば、非特許文献1参照)。
従来の不純物除去技術の2つ目の技術(以後、単に第2従来技術という)としては、例えば、図5に示すような不純物除去装置(揮発性不純物1を含む処理液2を収容する蒸発缶(脱気缶)3が設けられ、その蒸発缶3内の処理液2にスチームJを吹き込んで加熱する直接加熱機21が設けられ、処理液2に接触して液面を通過した蒸発物を凝縮回収する凝縮手段10が設けられた不純物除去装置)を使用して、処理液2を蒸発缶3内で沸騰させて揮発性不純物1を蒸留によって除去する方法を実施していた(例えば、非特許文献2参照)。
従来の不純物除去技術の3つ目の技術(以後、単に第3従来技術という)としては、例えば、図6に示すような不純物除去装置(揮発性不純物1を含む処理液2を循環自在な循環系Rが設けられ、循環系Rに組み込まれた脱気缶3内に、処理液2を分散吐出自在な分散手段3aが設けられ、処理液2を昇温自在な昇温手段22が設けられ、処理液2の加熱によって発生した揮発性不純物1を含む蒸発物を凝縮回収する凝縮手段10が設けてある不純物除去装置)を使用して、前記循環系R内を処理液2を循環させながら、前記昇温手段22によって処理液2を昇温させると共に、前記分散手段3aによって処理液2を分散吐出することで、処理液2から揮発性不純物1を蒸発させて分離除去(蒸留)する方法を実施していた(例えば、非特許文献3参照)。
【0003】
【非特許文献1】社団法人化学工業会「改訂二版化学装置便覧」丸善株式会社発行、平成8年4月5日、685頁〔図17・1(a)、(b)〕
【非特許文献2】社団法人化学工業会「改訂二版化学装置便覧」丸善株式会社発行、平成8年4月5日、691頁〔図17・8(a)、(b)〕
【非特許文献3】社団法人化学工業会「改訂二版化学装置便覧」丸善株式会社発行、平成8年4月5日、685頁〔図17・1(c)〕
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した第1従来技術によれば、蒸発缶に溜めてある処理液に発泡が見られ、発泡がひどい場合には、前記凝縮手段側にまでその泡が入りこむ危険があり、蒸留工程に支障を及ぼす危険性があった。更には、蒸留を継続させるに伴って処理液の水分含有量が低下して処理液の品質低下を招くことが懸念されるため、後工程で加水を行う必要があり、工程が繁雑となる問題点があった。
【0005】
上述した第2従来技術によれば、蒸発缶に溜めてある処理液に発泡が見られ、発泡がひどい場合には、前記凝縮手段側にまでその泡が入りこむ危険があり、蒸留工程に支障を及ぼす危険性があった。
【0006】
上述した第3従来技術によれば、蒸留を継続させるに伴って処理液の水分含有量が低下して処理液の品質低下を招くことが懸念されるため、後工程で加水を行う必要があり、工程が繁雑となる問題点があった。
【0007】
従って、本発明の目的は、上記問題点を解消し、処理液の水分含有量を維持しながら、処理液の蒸留時に生じる発泡を抑制し、処理液からの揮発性不純物除去を正常に精度よく実施できる不純物除去技術を提供するところにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の特徴構成は、揮発性不純物を含む処理液を、脱気缶が組み込まれた循環系を循環させながら前記脱気缶内に処理液を分散吐出して蒸留することによって、前記処理液から前記揮発性不純物を除去する不純物除去方法において、前記循環系の内、前記脱気缶の上流側の処理液流路に対して、前記揮発性不純物を含む処理液の循環を維持しながらスチームを導入させるところにある。
【0009】
本発明の第1の特徴構成によれば、この不純物除去方法においても、脱気缶から処理液を払い出させ、払い出された処理液が脱気缶の気相部に戻される。そして、処理液にはスチームが導入される。結果、導入後、液は処理液とスチームとの混合液又は一部揮発性不純物が気化した気液混相液となる。そして、この液が脱気缶の気相部に導入される。従って、スチームの導入によって加熱された処理液は、脱気缶内の気相部での分散状態において、発泡、及び、沸騰、及び、蒸発物(揮発性不純物の蒸気を含む)と処理液との分離が終了し、処理液が脱気缶に溜まる段階での発泡を抑えることができる。従って、揮発性不純物の除去をスチームの熱を有効に利用して行える。
また、蒸留に伴っては処理液が水分を含む場合、その水分が蒸発して失われるものの、スチームの導入によって水分補給が行われているから、極端に処理液の水分が低下することを防止でき、水分含有量の維持を図り易い。従って、従来のように、後工程で加水を行う必要が無くなり、処理液からの不純物除去全体とした効率向上を図ることが可能となる。
【0010】
本発明の第2の特徴構成は、前記脱気缶内の前記処理液の沸点が、前記スチームを導入する前の前記処理液の温度と等しくなるように、前記脱気缶内の圧力を調整するところにある。ここでは、処理液は、揮発性不純物と水との混合液であり、処理液の沸点は、この液において、水が水蒸気となって気化してくる温度を意味する。
【0011】
本発明の第2の特徴構成によれば、本発明の第1の特徴構成による上述の作用効果を叶えることができるのに加えて、導入したスチームの分だけ、脱気缶内での蒸発又はスチームの分離が起こるため、処理液の水分含有量の維持を、より精度よく実施することが可能となる。
【0012】
本発明の第3の特徴構成は、揮発性不純物を含む処理液を循環ポンプにより循環自在な循環系が設けられ、前記循環系に組み込まれた脱気缶内に、前記処理液を分散吐出自在な分散手段が設けられ、前記脱気缶内を減圧環境にする減圧手段が設けてある不純物除去装置において、前記循環系の内、前記循環ポンプより前記脱気缶側の処理液流路に対してスチームを導入自在な導入手段が設けられているところにある。
【0013】
本発明の第3の特徴構成によれば、本発明の第1又は2の特徴構成による不純物除去方法を、より確実に、且つ、効率的に実施することが可能となる。
即ち、前記循環系の内、前記循環ポンプより脱気缶側の処理液流路に対してスチームを導入自在な導入手段が設けてあるから、前記導入手段によってスチームを導入することができ、そのスチームの導入によって加熱された処理液は、脱気缶内での分散状態において、発泡、及び、沸騰、及び、蒸発物と処理液との分離が終了し、処理液が脱気缶に溜まる段階での発泡を抑えることができる。
また、蒸留に伴っては処理液から水分が蒸発して失われるものの、スチームの導入によって水分補給が行われているから、極端に処理液の水分が低下することを防止でき、水分含有量の維持を図り易い。従って、従来のように、後工程で加水を行う必要が無くなり、処理液からの不純物除去全体とした効率向上を図ることが可能となる。
【0014】
本発明の第4の特徴構成は、前記脱気缶内の前記処理液の沸点が、前記スチームを導入する前の前記処理液の温度と等しくなるように、前記減圧手段を運転制御する運転制御部を設けてあるところにある。
【0015】
本発明の第4の特徴構成によれば、本発明の第4の特徴構成による上述の作用効果を叶えることができるのに加えて、運転制御部によって、脱気缶内の処理液の沸点が、スチームを導入する前の処理液の温度と等しくなるように、前記減圧手段を運転制御することができるようになり、その結果、導入したスチームの分だけ、脱気缶内で蒸発又はスチームの分離が起こるようになり、処理液の水分含有量の維持を、より精度よく実施することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。尚、図面において従来例と同一の符号で表示した部分は、同一又は相当の部分を示している。
【0017】
図1は、本発明の不純物除去技術を実施する不純物除去装置Sの一例を示すもので、当該実施形態の不純物除去装置S1は、揮発性不純物(例えば、アルコール系物質やケトン系物質等)1を含む処理液(例えば、塗料や液状醗酵食品等)2を循環ポンプPにより循環自在な循環系Rが設けられ、前記循環系Rに組み込まれた脱気缶3内に、前記処理液2を分散吐出自在な分散手段3aが設けられ、前記脱気缶3内を減圧環境にする減圧手段4が設けられ、前記循環系Rの内、前記循環ポンプPより前記脱気缶3側の処理液流路に対してスチームJを導入自在な導入手段8が設けられ、脱気缶3内の前記処理液2の沸点が、前記スチームJを導入する前の処理液2の温度と等しくなるように、前記減圧手段4を運転制御する運転制御部6を設けて構成してある。
以下の説明では、処理液として揮発性不純物が水に混在又は溶解された液について説明する。この液は、常圧又は減圧化で加熱された場合、揮発性不純物がまず気化・脱気され、その後、水の蒸発が起こる。
【0018】
前記循環系Rは、図に示すように、脱気缶3から払出ポンプ(循環ポンプPに相当)7を経由して脱気缶3に至る配管9を備えた環状に構成してある。
脱気缶3内に溜まった処理液2は、前記払出ポンプ7の駆動に伴って、脱気缶3の下端部に連通接続された配管9から払出ポンプ7を経て脱気缶3の上端部に連通接続された配管9で脱気缶3に戻される。
【0019】
前記脱気缶3は、金属製の容器で構成してあり、その内空部を減圧状態に維持できるように、気密構造に構成してある。そして、前記循環系Rを連通接続してある一方、脱気缶3内での蒸留によって気化したものを凝縮させる凝縮装置10、及び、前記脱気缶3の内空部を減圧環境とする減圧装置(減圧手段4に相当)4A等が、前記配管9とは別系統の配管12を介して連通接続してある。
【0020】
前記分散手段3aは、例えば、処理液をノズルから霧状(又は、液滴状、液膜状)に吐出させることで分散を図ったり、回転分散板に処理液2を滴下させることで分散を図る等の形式のものを採用してあり、その外にも、公知の分散手段を用いることができる。
【0021】
前記導入手段8は、図には示していない蒸気発生装置から前記配管9(処理液流路に相当)に達する導入管8aで構成してあり、バルブの開閉操作制御によって、スチームJの導入を切り替えることができるように構成されている。
そして、スチームJの導入については、前記運転制御部6によってコントロールされる。
【0022】
前記減圧装置4Aは、前記配管12の最下流側に接続された真空ポンプによって構成してあり、この真空ポンプを稼働させることによって、前記脱気缶3内を減圧環境とすることができると共に、前記脱気缶3内で気化した溶存ガスや揮発性不純物や水蒸気等を凝縮装置10側に引き込むことが可能である。
尚、減圧の度合等については、前記運転制御部6による真空ポンプの稼働状況の制御によってコントロールされる。そして、前記脱気缶3内の処理液2の沸点が、スチームJを導入する前の処理液2の温度と等しくなるように、前記脱気缶3内の圧力は調整される。
【0023】
前記凝縮装置10は、熱交換器10Aと、受けタンク10Bとを備えて構成してある。
前記熱交換器10Aは、冷却水を流路壁の外周部に接触させることで流路壁を介して熱交換を行い、流路内を流れる気体(少なくとも揮発性不純物の蒸気を含む)から熱を奪って凝縮させるように構成してある。凝縮した揮発性不純物は、受けタンク10B内に収容されて回収される。
【0024】
前記運転制御部6は、前記処理液2から揮発性不純物1を除去する工程として、所定の制御内容で、各装置機器(払出ポンプ7・分散手段3a・導入手段8・減圧装置4A・熱交換器10A)をコントロールするように構成してある。
尚、運転制御は、当該不純物除去装置S1内の該当位置にそれぞれ設置されている各種センサー類(不図示)やメーター類(不図示)からの情報をもとに実施され、更に、各流路の開閉弁(不図示)等の開閉操作制御も、運転制御部6によって実施される。
【0025】
当該不純物除去装置S1を用いた不純物除去方法の実施諸元の二例を示すと、図2に示すとおりである。
【0026】
以上のように、当該不純物除去技術によれば、脱気缶内の減圧制御において、処理液の沸点をスチーム導入前の処理液の温度と等しくなるように制御しているから、スチームJの導入によって加熱された処理液2は、脱気缶3内の気相部での分散状態において、発泡、及び、沸騰、及び、蒸発物と処理液2との分離が終了し、処理液2が脱気缶3に溜まる段階での発泡を抑えることができると共に、スチームJの導入によって水分補給が行われているから、極端に処理液2の水分が低下することを防止でき、水分含有量の維持を図り易い。従って、従来のように、後工程で加水を行う必要が無くなり、処理液からの不純物除去全体とした効率向上を図ることが可能となる。
【0027】
〔別実施形態〕
以下に他の実施の形態を説明する。
【0028】
〈1〉 当該不純物除去方法は、先の実施形態で説明した仕様に限るものではなく、適宜変更することができる。
例えば、各制御温度や、制御圧力等については、先の実施形態の設定値に限るものではなく、適宜、変更が可能である。また、対象とする処理液が異なれば、その処理液に適する設定値に変更して実施することが好ましい。
〈2〉 当該不純物除去装置Sは、先の実施形態で説明したものに限るものではなく、例えば、図3に示すように、循環系R内に、脱気缶3とは別に、循環タンク13を設ける構成であってもよい。この場合には、循環タンク13と脱気缶3との間に送液ポンプ(循環ポンプPに相当)14を設けることが好ましい。また、この実施形態の不純物除去装置S2によれば、循環タンク13において処理液2を収容できるから、脱気缶3の内容積を小さくすることができ、高い真空度を要求されるこの脱気缶3を小さくできることによってコストダウンを図ることが可能となる。
〈3〉 これまで説明してきた例にあっては、不純物が揮発性のものであり、それが水中に混合、溶解または分散された例を示した。即ち、処理液が水溶性またはエマルジョンの形態をとっている液状製品の場合を主に説明した。しかしながら、処理液が微少な固体粒子を含み、前記不純物が水中に混合溶解または分散させられている場合も、本願の装置を採用できる。即ち、粒子が多く、発泡の問題が脱気缶内で発生し易い場合に、本願装置を採用できる。
【0029】
尚、上述のように、図面との対照を便利にするために符号を記したが、該記入により本発明は添付図面の構成に限定されるものではない。また、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施し得ることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】不純物除去装置を示す模式図
【図2】不純物除去方法の実施諸元を示す説明図
【図3】別実施形態の不純物除去装置を示す模式図
【図4】従来の不純物除去装置を示す模式図
【図5】従来の不純物除去装置を示す模式図
【図6】従来の不純物除去装置を示す模式図
【符号の説明】
【0031】
1 揮発性不純物
2 処理液
3 脱気缶
3a 分散手段
4 減圧手段
6 運転制御部
8 導入手段
J スチーム
P 循環ポンプ
R 循環系

【特許請求の範囲】
【請求項1】
揮発性不純物を含む処理液を、脱気缶が組み込まれた循環系を循環させながら前記脱気缶内に処理液を分散吐出して蒸留することによって、前記処理液から前記揮発性不純物を除去する不純物除去方法であって、
前記循環系の内、前記脱気缶の上流側の処理液流路に対して、前記揮発性不純物を含む処理液の循環を維持しながらスチームを導入させる不純物除去方法。
【請求項2】
前記脱気缶内の前記処理液の沸点が、前記スチームを導入する前の前記処理液の温度と等しくなるように、前記脱気缶内の圧力を調整する請求項1に記載の不純物除去方法。
【請求項3】
揮発性不純物を含む処理液を循環ポンプにより循環自在な循環系が設けられ、前記循環系に組み込まれた脱気缶内に、前記処理液を分散吐出自在な分散手段が設けられ、前記脱気缶内を減圧環境にする減圧手段が設けてある不純物除去装置であって、
前記循環系の内、前記循環ポンプより前記脱気缶側の処理液流路に対してスチームを導入自在な導入手段が設けられている不純物除去装置。
【請求項4】
前記脱気缶内の前記処理液の沸点が、前記スチームを導入する前の前記処理液の温度と等しくなるように、前記減圧手段を運転制御する運転制御部を設けてある請求項3に記載の不純物除去装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−202057(P2009−202057A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−44748(P2008−44748)
【出願日】平成20年2月26日(2008.2.26)
【出願人】(000127237)株式会社イズミフードマシナリ (53)
【Fターム(参考)】