説明

不飽和アルコールを製造する方法

【課題】炭素鎖が6以上の不飽和アルコールの製造に適した触媒と、ジオールから不飽和アルコールを副生成物の生成を抑制して、効率よく製造する方法を提供すること。
【解決手段】触媒の存在下、脱水反応により炭素鎖6以上のジオールを原料として不飽和アルコールを製造する方法であって、触媒は、酸化スカンジウムを含有してなる不飽和アルコールを製造する方法とする。なお炭素数6以上のジオールは、1,6−へキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール及び1,8−オクタンジオールの少なくともいずれかを含むことが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不飽和アルコールを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
クロチルアルコールに代表される不飽和アルコール類は、化成品中間体や医薬品中間体として用いられ化学工業上重要な物質である。従来、このような不飽和アルコールは、クロトンアルデヒドのような不飽和アルデヒドの部分水添によって製造されていた(例えば、特許文献1、2参照)。しかしながら、このような製造方法は、二重結合部分が水添されやすく、過剰水添された飽和アルコールが副生成物として多量に生成し、工業的には効率の悪い反応であった。
【0003】
これに対し、上記反応の課題を克服する新たなプロセスとして、酸化セリウムを触媒に用い、両末端ジオールから不飽和アルコールを製造する方法が提案されている(特許文献3参照)。この方法では、例えば1,3−プロパンジオールからアリルアルコールを、1,3−ブタンジオールからクロチルアルコールおよび3−ヒドロキシ−1−ブテンを、それぞれ製造することができる。また、上記方法を用いて1,4−ブタジオールから3−ブテン−1−オールも収率よく製造することができる(特許文献4参照)。さらに、酸化ジルコニウム触媒や塩基処理した酸化ジルコニウムを用いると1,4−ブタジオールから3−ブテン−1−オールを収率よく製造することができる(特許文献5、6参照)。また、テルビウム、エルビウムおよびイッテルビウムなどの希土類酸化物を触媒に用いるとより高効率に1,4−ブタジオールから3−ブテン−1−オールを製造することができる(非特許文献1参照)。ブタジオール以外にも、炭素鎖の長いジオール、たとえば、1,10−デカンジオールをカルボン酸とエステル化して熱分解することにより9−デセン−1−オールを製造できることが知られている(非特許文献2参照)。
【0004】
【特許文献1】西独国特許出願公開第2515422号明細書
【特許文献2】インド国特許出願公開1987−CA996号明細書
【特許文献3】特開2004−306011号公報
【特許文献4】特開2005−238095号公報
【特許文献5】特開2006−212495号公報
【特許文献6】特開2006−212496号公報
【非特許文献1】Catalysis Communications 8巻 2007年 807ページから810ページ
【非特許文献2】Bulletain of the Chemical Society of Japan 54巻 1981年 1585ページから1586ページ
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記非特許文献2に記載の技術では、例えば9−デセン−1−オールを生成させるために、原料ジオールと同量以上のカルボン酸を必要とするといった課題がある。また上記特許文献3、特許文献4、特許文献5、特許文献6、及び非特許文献1に記載の技術で開発した触媒では、例えば低分子量の1,4−ブタンジオールから目的物の3−ブテン−1−オールを生成するのに有効ではあるが、炭素鎖が6以上の分子量の大きなジオールを選択的に1分子脱水させて、不飽和アルコールに転化させるのには、選択率が低いことが課題であった。
【0006】
そこで本発明の目的は、上記従来の技術課題を解決し、炭素鎖が6以上の不飽和アルコールの製造に適した触媒と、ジオールから不飽和アルコールを副生成物の生成を抑制して、効率よく製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討の結果、触媒として、酸化スカンジウムを含有する触媒を用いることで効率よく不飽和アルコールを製造することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明の一手段に係る不飽和アルコールを製造する方法は、触媒の存在下、脱水反応により炭素鎖6以上のジオールを原料とし、かつ、触媒は、酸化スカンジウムを含有してなることを特徴の一つとする。
【発明の効果】
【0009】
以上により、不飽和アルコール製造に適した触媒を提供することができるとともに、ジエン等の副生成物の生成を抑制しつつ効率よく高い転化率と選択性で不飽和アルコールを製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明する。ただし、本発明は多くの異なる形態による実施が可能であり、以下に示す実施形態、実施例の記載にのみ狭く限定されるものではない。
【0011】
本実施形態に係る不飽和アルコールを製造する方法は、触媒の存在下、脱水反応により炭素鎖6以上のジオールを原料とし、触媒に酸化スカンジウムが含有されていることを特徴の一つとする。
【0012】
本実施形態に係る不飽和アルコールを製造する方法は、炭素数6以上のジオールを用いる場合において特に優れた効果を発揮することができ、炭素6以上のジオールとしては、両末端ジオール、具体的には炭素数6以上8以下の両末端ジオールであることが好ましく、例えば1,6−ジオール、1,7−ジオール及び1,8−ジオール、より具体的には1,6−へキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール及び1,8−オクタンジオールの少なくともいずれかを含むことが好ましい。なお、上記原料を用いて製造される不飽和アルコールは、5−ヘキセン−1−オール、6−ヘプテン−1−オール7−オクテン−1−オールのうち少なくともいずれかを含むものとなる。
【0013】
原材料として1,6−へキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール及び1,8−オクタンジオールを用いる場合、不飽和アルコールの製造において、アルデヒドや飽和アルコール等への分解を非常によく抑えて不飽和アルコールを効率よく得ることができるといった効果がある。なお、本実施形態において原料のジオールは混合物であってもよく、この場合同時に対応する不飽和アルコールの混合物を製造することができる。なお、1,6−ヘキサンジオールの副生成物は微量であるが、ヘキサジエン、4−ヘキセン−1−オール、シクロペンタノン、シクロペンタンメタノール、1−ヘキサノールである。
【0014】
また、本実施形態に係る原料のジオールには水分やその他反応に関与しない溶媒などを含ませてもよい。これらは原料の全重量に対して0重量%以上80重量%以下であれば好ましく許容することができる。なお反応に関与しない溶媒の具体的としては、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド類等を例示することができる。
【0015】
本実施形態に係る触媒は、酸化ジルコニウムを含む。通常、ジオールから不飽和アルコールを製造する際に酸触媒を使用すると、逐次的な脱水反応を抑制できないためにジエンにまで脱水してしまうことが多いが、触媒として酸化スカンジウムを使用した場合、末端の水酸基を選択的に脱水することができるために、通常は製造困難な不飽和アルコールを製造することが可能となる。
【0016】
酸化スカンジウムとしては一般に市販されているものを用いることができるが、スカンジウムの水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、酢酸塩などを熱分解したものなども採用することができる。
【0017】
また本実施形態において、酸化スカンジウムは使用の前に600℃以上1100℃以下の範囲の温度で焼成して使用することが好ましく、より好ましくは700℃以上1000℃以下である。600℃以上の焼成温度とすることで均質な触媒を得ることができるようになるといった効果があり、1100℃以下とすることで比表面積を大きく確保して触媒活性を高く維持できるといった効果がある。なお焼成の時間としては適宜調整可能であり限定されるわけではないが上記好ましい温度範囲において1時間以上5時間以下であることが好ましく、より好ましくは2時間以上4時間以下である。
【0018】
また、この手段において、限定されるわけではないが、上記の触媒の比表面積は、10m/g以上60m/g以下であることが好ましい。触媒の比表面積が小さくなるほど触媒活性は下がる傾向となるため、10m/g以上とすることでこれを回避することができる。一方60m/g以下とすることで副反応を抑制できるため目的物の選択性を向上できる。なおここで「比表面積」とは窒素吸着によって測定されるBET比表面積を意味するものとする。
【0019】
また、本実施形態において、酸化スカンジウムは、酸化スカンジウムのみで構成させてもよいが、担体に担持させておくことはより有用である。特に、担体として酸化ジルコニウムを用い、この表面に酸化スカンジウムを担持させることで相乗効果により触媒活性を更に向上させることができるといった効果がある。
【0020】
本実施形態における不飽和アルコールの製造方法における反応は250℃以上450℃以下の温度範囲で行うことが好ましく、300℃以上420℃以下の温度範囲で行うことがより好ましい。250℃以上とすることで原料ジオールの転化率を向上させることができ、300℃以上とするとこの効果がより顕著となる。また450℃以下とすることで副生成物であるカルボニル化合物や過剰脱水物の生成を効率的に抑制し、目的生成物である不飽和アルコールの選択率を効率的に向上させることができ、420℃以下にすることでこの効果がより顕著となる。
【0021】
本実施形態に係る不飽和アルコールを製造する方法は、限定されるわけではないが、触媒にジオールを気相で接触させる方法で製造することができる。
【0022】
本実施形態に係る不飽和アルコールを製造する方法を実現するための装置は特に限定されないが、たとえば気相流通反応装置に所定料の触媒前駆体を所定量取り入れ、これを焼成、活性化することで触媒層とすることができる。ここに原料となるジオールを供給することで不飽和アルコールを製造することができる。
【0023】
以上、本実施形態により、不飽和アルコール製造に適した触媒を提供することができるとともに、ジエン等の副生成物の生成を抑制しつつ効率よく高い転化率と選択性で不飽和アルコールを製造することができる。
【実施例】
【0024】
以下、実施例および比較例により本発明の効果を具体的に説明するが、本発明は、その趣旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0025】
本実施例、本比較例では不飽和アルコールの製造方法を実施するために固定床常圧気相流通反応装置(以下単に「本反応装置」という。)を用いた。本反応装置は、内径18mm、全長300mmの反応器を主たる構成要件として有している。反応器の上端には、キャリアガス導入口と原料流入口が形成され、下端には、ガス抜け口の形成された反応粗液捕集容器が配置されている。反応器中には触媒を含む触媒層が配置され、更に、あらかじめ原料を加熱して気化させるために原料流入口と触媒層の間に気化層を設けている。なお、反応の結果得られる反応粗液は捕集容器で捕集し、ガスクロマトグラフィー(島津製作所製GC−8A、TC−WAXキャピーラリーカラム)で測定し、検量線補正後、目的物の収量、原料の残量を決定し、この値から転化率(%;モル基準)、選択率(%;モル基準)を求めた。転化率は(原料の量−原料の残量)/原料の量であり、選択率は目的物の収量/(原料の量−原料の残量)であり、それぞれ反応開始後5時間の平均値である。
【0026】
(実施例1)
(触媒調製)
酸化スカンジウム(関東化学製Sc、純度99.9%以上、比表面積100m/g)を500℃で3時間焼成したもの0.5gを触媒とした。
【0027】
(実施例2)
(1,6−ヘキサンジオールの脱水反応)
上述実施例1にて調製した触媒を固定床気相流通反応装置に充填した。触媒層がある固定床常圧気相流通反応装置の上部からキャリアガスとして窒素ガスを1.8l/hの流速で流した。この窒素ガスと共に、気化層で気化させた1,6−ヘキサンジオール(和光純薬製、特級)の20重量%エタノール溶液1.77ml/hを供給した。反応は400℃で行った。触媒焼成温度は、500℃以外に、600℃、700℃、800℃、900℃および1000℃とした。触媒の焼成温度の相違による1,6−ヘキサンジオールの転化率、5−ヘキセン−1−オールの選択率および収率を表1に示す。
【表1】

【0028】
(実施例3)
上述実施例2にて使用した800℃で焼成した酸化スカンジウムを触媒として、反応温度を変更した以外は実施例2に準じた方法で反応を行った。反応温度は、400℃以外に、325℃、350℃、375℃および425℃とした。反応温度の相違による1,6−ヘキサンジオールの転化率、5−ヘキセン−1−オールの選択率および収率を表2に示す。
【表2】

【0029】
(実施例4)
(1,8−オクタンジオールの脱水反応)
触媒を800℃で焼成した酸化スカンジウムとして、反応原料を1,8−オクタンジオール(和光純薬製、特級)の20重量%エタノール溶液に変更し、反応温度を350℃に変更した以外は実施例2に準じた方法で反応を行った。800℃で焼成した触媒以外に500℃で焼成した酸化スカンジウムを触媒に使用した。触媒の相違による1,8−オクタンジオールの転化率、7−オクテン−1−オールの選択率および収率を表3に示す。
【表3】

【0030】
(比較例1)
(1,6−ヘキサンジオールの脱水反応)
酸化ルテチウム(関東化学製Lu、純度99.9%以上、比表面積57m/g)を500℃で3時間焼成して調製した試料0.5gを触媒として使用した。触媒を変更した以外は実施例2に準じて反応を行った。また、焼成温度を500℃以外に800℃および1000℃にした。触媒の相違による1,6−ヘキサンジオールの転化率、5−ヘキセン−1−オールの選択率および収率を表4に示す。
【表4】

【0031】
(比較例2)
酸化セリウム(関東化学製、比表面積70m/g)および酸化ジルコニウム(第一稀元素化学工業製、比表面積100m/g)を800℃で3時間焼成した試料0.5gを触媒とした。また、酸化イットリウム(関東化学製、比表面積39m/g)、酸化ホルミウム(関東化学製、比表面積44m/g)、酸化エルビウム(関東化学製、比表面積39m/g)、酸化ツリウム(関東化学製、比表面積50m/g)、および酸化イッテルビウム(関東化学製、比表面積44m/g)を1000℃で3時間焼成した試料0.5gを触媒とした。触媒を変更した以外は実施例3に準じて反応を行った。触媒の相違による1,6−ヘキサンジオールの転化率、5−ヘキセン−1−オールの選択率および収率を表5に示す。
【表5】

【0032】
(比較例3)
(1,8−オクタンジオールの脱水反応)
比較例2に記載した酸化セリウム、酸化ジルコニウム、酸化イットリウム、および酸化イッテルビウムおよび比較例1で使用した1000℃で焼成した酸化ルテチウムに触媒を変更した以外は実施例4に準じて反応を行った。触媒の相違による1,8−オクタンジオールの転化率、7−オクテン−1−オールの選択率および収率を表6に示す。
【表6】

【0033】
以上、本実施例により、炭素鎖が6以上の不飽和アルコールの製造に適した触媒と、ジオールから不飽和アルコールを副生成物の生成を抑制して、効率よく製造する方法を提供できることを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明は、不飽和アルコールの製造方法、そのための触媒として産業上の利用可能性がある。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒の存在下、脱水反応により炭素鎖6以上のジオールを原料として不飽和アルコールを製造する方法であって、
前記触媒は、酸化スカンジウムを含有してなる不飽和アルコールを製造する方法。
【請求項2】
前記炭素数6以上のジオールは、1,6−へキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール及び1,8−オクタンジオールの少なくともいずれかを含む、請求項1記載の不飽和アルコールを製造する方法。
【請求項3】
製造される不飽和アルコールは、5−ヘキセン−1−オール、6−ヘプテン−1−オール及び7−オクテン−1−オールのうち少なくともいずれかを含む、請求項1記載の不飽和アルコールを製造する方法。
【請求項4】
前記触媒は、酸化スカンジウムのみからなる請求項1記載の不飽和アルコールを製造する方法。
【請求項5】
前記触媒は、酸化ジルコニウムを含む担体に、酸化スカンジウムが担持されているものである請求項1記載の不飽和アルコールを製造する方法。
【請求項6】
前記触媒は、600℃以上1100℃以下の範囲で焼成されたものである請求項1に記載の不飽和アルコールを製造する方法。
【請求項7】
前記脱水反応は、250℃以上450℃以下の範囲で行われる請求項1記載の不飽和アルコールを製造する方法。


【公開番号】特開2010−47505(P2010−47505A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−212391(P2008−212391)
【出願日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【出願人】(304021831)国立大学法人 千葉大学 (601)
【Fターム(参考)】