説明

両開き防火扉の密閉ラッチ機構

【課題】任意の方向から扉を押し開くことができ、避難行動の自由を拡大でき、なおかつ防火構造の基準を満たす両開き防火扉の密閉ラッチ機構を提供する。
【解決手段】扉本体1は、常時は、錠装置5,6におけるラッチボルト9,12の衝止面9a,12aをそれぞれラッチ受け凹部20,21の当接面20a,21aに当接させ、また自由端4を密閉部材7に弾性的に当接させた閉鎖状態にあり、扉本体1の自由端4と建物の枠体2との間は密閉され、煙等を内外に流通させない。扉本体1の内側と外側のハンドル8,11を外方又は内方へ押せば、ラッチボルト9,12が錠箱10,13内へ後退して扉本体1が解錠され、扉本体1をいずれの方向へも押し開くことができる。扉本体1は、自動復帰し、いずれかの錠装置5,6におけるラッチボルト9,12の衝止面9a,12aがラッチ受け凹部20,21の当接面20a,21aに当接して再び閉鎖位置に保持される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、扉本体の周囲に防火構造としての要件を充足するための気密性を有しながら、内方外方の両側に開閉できる両開き防火扉に関する。
【背景技術】
【0002】
扉本体を防火構造のものとして建物に建て付けるには、扉本体とそれを取り付ける建物の枠体との間に、火炎や熱気、煙が通過する隙間があってはならないとされる。したがって、防火構造を実現するには、建物の枠体に、扉本体と一定範囲で重なる戸当り桟を取り付ける必要がある。この場合、扉本体は、必然的に戸当り桟のない前後方向のいずれか一方にのみ開閉可能な一方開きのものとなる。
通常使用においては、前後方向一方開きの防火構造の扉としての要件を充足しながら、災害非難の必要に応じては、扉本体を通常時とは前後逆方向に開くことを可能とする逆開き可能な防火扉装置が特許文献1に記載されている。この防火扉装置においては、建物の枠体の左右側縁部と上縁部に、それぞれ縦枠と横枠が取り付けられる。縦枠と横枠には、それぞれヒンジ金具を介して縦戸当り桟と横戸当り桟が回動自在に取り付けられる。縦戸当り桟は回動自在であり、ラッチロック機構によってロックされる。ラッチロック機構は、横戸当り桟を扉本体から退避させるように操作することによって解除され、左右の縦戸当り桟も扉体から退避する向きに回動可能となる。縦戸当り桟を退避させて扉体を前後逆方向に開くことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−180125号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来の防火扉装置においては、縦横の戸当り桟がヒンジにより回転して待避可能に構成され、必要に応じて戸当たり桟を待避させるための操作を行って、戸当たりが存在する方向へ扉を開くことができるようにするものである。したがって、常時両方向へ押し開きができるものではない。このため、非常事態時に誰でもが任意の方向から扉を押し開くことはできないから、避難行動の融通性に欠けるという課題がある。
したがって、この出願に係る発明は、常時、誰でもが任意の方向から扉を押し開くことができ、したがって、避難行動の自由を拡大することができ、なおかつ防火構造の基準を満たすことができる両開き防火扉の密閉ラッチ機構を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以下、添付図面の符号を参照して説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
上記課題を解決するための、この出願に係る発明の両開き防火扉の密閉ラッチ機構3は、内方及び外方の両方向に開閉自在で、閉鎖位置に復帰するように回転付勢されて建物の枠体2に取り付けられる両開き防火扉における扉本体1の自由端4側に設けられる。密閉ラッチ機構3は、扉本体1と、扉本体1の自由端4に上下に並んで取り付けられる第1、第2の2つの錠装置5,6と、閉鎖位置における扉本体1の自由端4に弾性的に当接するように付勢されて建物の枠体2側に取り付けられる密閉部材7とを具備する。第1、第2の錠装置5,6の一方は、扉本体1の内側に設けられるハンドル8を外方へ押すことにより、ラッチボルト9を錠箱10内へ後退させて解錠する錠機構を有する。当該ラッチボルト9は、外向きの衝止面9aを有し、この衝止面9aが、扉本体1の自由端4における厚さ方向の中央に配置されるように設けられる。他方の錠装置6は、扉本体1の外側に設けられるハンドル11を内方へ押すことにより、ラッチボルト12を錠箱13内へ後退させて解錠する錠機構を有する。当該ラッチボルト12は、内向きの衝止面12aを有し、この衝止面12aが扉本体1の自由端における厚さ方向の中央に配置されるように設けられる。密閉部材7は、扉本体1の自由端4に摺接して扉本体1の開閉動を許容する膨出部19と、扉本体1の閉鎖位置において上記2つのラッチボルト9,12を受け止める第1、第2の2つのラッチ受け凹部20,21を有する。第1のラッチ受け凹部20は、第1の錠装置5の外向きの衝止面9aが当接する内向きの当接面20aを有し、第2のラッチ受け凹部21は、第2の錠装置6の内向きの衝止面12aが当接する外向きの当接面21aを有する。
【発明の効果】
【0006】
この出願に係る発明の装置によれば、扉本体1は、常時は、第1、第2の錠装置5,6におけるラッチボルト9,12の衝止面9a,12aをそれぞれ第1、第2の2つのラッチ受け凹部20,21の当接面20a,21aに当接させ、また自由端4を密閉部材7に弾性的に当接させた閉鎖状態にある。この状態で扉本体1の自由端4と建物の枠体2との間は密閉され、煙等が内外に流通することはない。扉本体1の内側と外側にそれぞれ設けられるハンドル8,11を外方又は内方へ押せば、ラッチボルト9,12が錠箱10,13内へ後退して扉本体1が解錠され、扉本体1を内方、外方のいずれの方向へも押し開くことができる。開放された扉本体1は、閉鎖方向へ自動復帰し、いずれかの錠装置5,6におけるラッチボルト9,12の衝止面9a,12aがラッチ受け凹部20,21の当接面20a,21aに当接して再び閉鎖位置に保持される。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】この発明に係る両開き防火扉の密閉ラッチ機構の概略的説明図である。
【図2】図1の密閉ラッチ機構の要部の正面図である。
【図3】(a)は図2におけるIIIa−IIIa断面図、(b)は図2におけるIIIb−IIIb断面図である。
【図4】(a)は図3(a)の一部拡大図、(b)は図3(b)の一部拡大図である。
【図5】扉本体の側面図である。
【図6】密閉部材の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
図面を参照してこの発明の実施の形態を説明する。
図1において、建物の枠体2に取り付けられる扉本体1は、左端側を吊元として、内方(紙面手前方向)及び外方(紙面奥行き方向)の両方向に開閉自在で、閉鎖位置に復帰するように回転付勢される。密閉ラッチ機構3は、扉本体1の自由端4側に設けられる。
【0009】
密閉ラッチ機構3は、第1、第2の2つの錠装置5,6と、密閉部材7とを具備する。錠装置5,6は、扉本体1の自由端4に上下に並んで取り付けられる。密閉部材7は、閉鎖位置における扉本体1の自由端4に弾性的に当接するように付勢されて建物の枠体2側に取り付けられる。
【0010】
第1の錠装置5は、図2、図3(a)、図4(a)に示すように、扉本体1の内側に設けられるハンドル8を外方へ押すことにより、レバー8aと図示しない内部機構を介して、ラッチボルト9を錠箱10内へ後退させて解錠する錠機構を有する。ラッチボルト9は、外向きの衝止面9aを有し、この衝止面9aが扉本体の自由端における厚さ方向の中央に位置するように配置される。このような錠機構を有する錠装置としては、美和ロック株式会社製のプッシュプル錠を用いることができる(例えば特開2003−74245号公報)。錠装置5の詳細な構造の説明は省略する。他方の錠装置6も同様のものであり、図3(b)に示すように、扉本体1の外側に設けられるハンドル11を内方へ押すことにより、レバー11aを介して、ラッチボルト12を錠箱13内へ後退させて解錠する錠機構を有する。当該ラッチボルト12は、図4(b)に示すように、内向きの衝止面12aを有し、この衝止面12aが扉本体の自由端4における厚さ方向の中央に配置されるように設けられる。
【0011】
扉本体1の自由端4には、内側縁と外側縁から建物の枠体側2へ突出して上下方向に延びる一対の突条14と、両突条14,14間に形成される上下方向の条溝15が設けられる。
【0012】
密閉部材7は、閉鎖位置にある扉本体1の自由端4に沿い、これに対向して、建物の枠体2に上下方向に延びるように設けられる。密閉部材7は、枠体2側へ水平に延出する複数のプッシュバー16を有する。プッシュバー16は、枠体2に設けられたガイド部材17に軸線方向移動自在に支持される。プッシュバー16の外周には、密閉部材7とガイド部材17との間に位置して、密閉部材7を扉本体1の自由端4へ圧接させるように付勢するばね18が嵌め込まれている。図3,4,6に示すように、密閉部材7は、膨出部19と第1、第2の2つのラッチ受け凹部20,21とを有する。膨出部19は、扉本体1の閉鎖時に自由端4に圧接され、開閉動作時には自由端4に摺接して動作を許容する。第1、第2の2つのラッチ受け凹部20,21は、扉本体1の閉鎖位置において2つのラッチボルト9,12を受け止める。
【0013】
密閉部材7の膨出部19は、横断面円弧状で、扉本体1の突条14に弾性的に摺接して扉本体1の開閉動を許容し、扉本体1の閉鎖位置においては、条溝15の底面に当接して、扉本体1と枠体2との間を密閉する。
【0014】
図4(a)、(b)、図6に示すように、第1のラッチ受け凹部20は、第1の錠装置5の外向きの衝止面9aが当接する内向きの当接面20aを有し、第2のラッチ受け凹部21は、第2の錠装置6の内向きの衝止面12aが当接する外向きの当接面21aを有する。ラッチ受け凹部20,21は、ラッチボルト9,12が扉本体1の閉鎖位置で当接面20a,21aに当接するまで進入するのを許容するように、膨出部19の一部を内方又は外方へ切り欠いて形成される。
【0015】
なお、図示しないが、扉本体1の吊り元側の端、及び上下端と建物の枠体2との間も適宜の密閉措置が講じられている。
【0016】
図に示す扉本体1の閉鎖状態において、錠装置5,6のラッチボルト9,12の衝止面9a,12aが密閉部材7の20a,21aに当接しており、自由端4と建物の枠体2との間は密閉部材7により密閉されている。したがって、ここから煙等が内外に流通することはない。
【0017】
いま、扉本体1の内側から、第1の錠装置5のハンドル8を押すと、駆動レバー8aが回動して錠機構を駆動し、ラッチボルト9を錠箱10内へ後退させ、ラッチ受け凹部20との係合が外れるから、扉本体1は、密閉部材7を押し込みながら、外方向へ押し開くことができる。扉本体1を押し開いて放置すると、図示しないクローザが働いて扉本体1は閉鎖方向へ回動復帰する。この際、復元したラッチボルト9は、斜面9bを密閉部材7に摺接させつつ、錠箱10内へ押し込まれ、膨出部19の頂点を越えると、ラッチ受け凹部20内へ再び突出する。これとほぼ同時に、図4(b)に示すように、第2の錠装置5のラッチボルト12の衝止面12aが、ラッチ受け凹部21の当接面21aに当接して、扉本体1は閉鎖位置に保持される。
【0018】
これに対して、扉本体1の外側から、第2の錠装置6のハンドル11を押すと、ラッチボルト12とラッチ受け凹部21との係合が外れるから、扉本体1は、密閉部材7を押し込みながら、内方向へ押し開くことができる。扉本体1を押し開いて放置すると、扉本体1は閉鎖方向へ回動復帰する。この際、ラッチボルト12は、斜面12bを密閉部材7に摺接させつつ、錠箱10内へ押し込まれ、膨出部19の頂点を越えると、ばね力でラッチ受け凹部21内へ再び突出する。これとほぼ同時に、図4(a)に示すように、第1の錠装置5のラッチボルト9の衝止面9aが、ラッチ受け凹部20の当接面20aに当接して、扉本体1は閉鎖位置に保持される。
【0019】
したがって、いずれの方向へ扉本体1を押し開いても、扉本体1は自動的に閉じて、常に閉鎖位置で停止して保持される。
【符号の説明】
【0020】
1 扉本体
2 建物の枠体
3 密閉ラッチ機構
4 自由端
5 第1の錠装置
6 第2の錠装置
7 密閉部材
8 ハンドル
8a レバー
9 ラッチボルト
9a 衝止面
9b 斜面
10 錠箱
11 ハンドル
12 ラッチボルト
12a 衝止面
12b 斜面
13 錠箱
14 突条
15 条溝
16 プッシュバー
17 ガイド部材
18 ばね
19 膨出部
20 第1のラッチ受け凹部
20a 当接面
21 第2のラッチ受け凹部
21a 当接面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内方及び外方の両方向に開閉自在で、閉鎖位置に復帰するように回転付勢されて建物の枠体に取り付けられる両開き防火扉における扉本体の自由端側に設けられ、
前記扉本体の自由端に上下に並んで取り付けられる第1、第2の2つの錠装置と、
閉鎖位置における前記扉本体の自由端に弾性的に当接するように付勢されて建物の枠体側に取り付けられる密閉部材とを具備し、
前記第1、第2の錠装置の一方は、前記扉本体の内側に設けられるハンドルを外方へ押すことによりラッチボルトを錠箱内へ後退させて解錠する錠機構を有し、当該ラッチボルトの外向きの衝止面を扉本体の自由端における厚さ方向の中央に配置するように設けられ、
前記第1、第2の錠装置の他方は、前記扉本体の外側に設けられるハンドルを内方へ押すことによりラッチボルトを錠箱内へ後退させて解錠する錠機構を有し、当該ラッチボルトの内向きの衝止面を扉本体の自由端における厚さ方向の中央に配置するように設けられ、
前記密閉部材は、前記扉本体の自由端に摺接して扉本体の開閉動を許容する膨出部と、扉本体の閉鎖位置において前記第1、第2の錠装置のラッチボルトをそれぞれ受け入れる第1、第2のラッチ受け凹部を具備し、
前記密閉部材の第1のラッチ受け凹部は、前記一方の錠装置におけるラッチボルトの外向きの衝止面が当接する内向きの当接面を有し、
前記密閉部材の第2のラッチ受け凹部は、前記他方の錠装置におけるラッチボルトの内向きの衝止面が当接する外向きの当接面を有することを特徴とする両開き防火扉の密閉ラッチ機構。
【請求項2】
前記扉本体は、自由端の内側縁と外側縁から建物の枠体側へ突出して上下方向に延びる一対の突条と、両突条間に形成される上下方向の条溝とを自由端に具備し、
前記密閉部材の膨出部は、前記扉本体の開閉時に、前記突条に弾性的に摺接して扉本体の開閉動を許容し、扉本体の閉鎖位置において前記条溝の底面に当接することを特徴とする請求項1に記載の両開き防火扉の密閉ラッチ機構。
【請求項3】
前記密閉部材の膨出部は、横断面円弧状に形成され、前記第1、第2のラッチ受け凹部は、それぞれ前記ラッチボルトが扉本体の閉鎖位置で前記当接面に当接するまで進入するのを許容すべく膨出部の一部を内方又は外方へ切り欠いて形成されることを特徴とする請求項1に記載の両開き防火扉の密閉ラッチ機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−242370(P2010−242370A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−92042(P2009−92042)
【出願日】平成21年4月6日(2009.4.6)
【出願人】(000108708)タキゲン製造株式会社 (256)
【Fターム(参考)】