中性子計測用ガス検出装置
【課題】計測対象の中性子を高速度且つ正確に計測するための高計数率化を実現する中性子計測用ガス検出装置を提供する。
【解決手段】中性子測定用ガス検出装置において、中性子を計測してその検出量に応じた電荷を出力するガス検出手段11と、前記ガス検出手段11からの出力を積分増幅する第1の積分アンプ手段13と、前記第1の積分アンプ手段13からの出力を微分する微分回路14と、前記微分回路14からの出力を積分増幅する第2の積分アンプ手段15と、から成る波形整形回路16と、前記第2の積分アンプ手段15の出力をA/D変換し、そのデジタル出力値を積分するデジタル積分手段18と、を有し、前記第1の積分アンプ手段13の積分時定数と、前記微分回路14のポールゼロ相殺時定数は等価である。
【解決手段】中性子測定用ガス検出装置において、中性子を計測してその検出量に応じた電荷を出力するガス検出手段11と、前記ガス検出手段11からの出力を積分増幅する第1の積分アンプ手段13と、前記第1の積分アンプ手段13からの出力を微分する微分回路14と、前記微分回路14からの出力を積分増幅する第2の積分アンプ手段15と、から成る波形整形回路16と、前記第2の積分アンプ手段15の出力をA/D変換し、そのデジタル出力値を積分するデジタル積分手段18と、を有し、前記第1の積分アンプ手段13の積分時定数と、前記微分回路14のポールゼロ相殺時定数は等価である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘリウム3ガスの密封空間に飛び込んでくる中性子の量を計測する中性子計測用ガス検出装置に関し、特に、当該ガス検出器内においてトラップされた中性子とヘリウム3ガスとの衝突によって発生する電荷量を検出する信号処理手段における高計数率化と安定化のための処理技術に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、物性物理学や高エネルギー物理学等における種々の実験において、中性子が多く利用されている。例えば、ある物質に高速度の中性子を衝突させた際の種々の現象を観測することにより、物質構造の解析を行うことができる。このような中性子実験においては、近年益々、中性子源の大強度化が進む一方、中性子を高速且つ正確に計測することが重要となり、中性子検出装置の高計数率化が強く要望されてきている。
【0003】
現在、中性子計測用ガス検出器として現在最も多く使用されているのは、高い検出効率とガンマー線感度の低さから、通常のヘリウム4(陽子:2、中性子:2、電子:2)の同位体であるヘリウム3ガス(陽子:2、中性子:1、電子:2から成るヘリウム、以下、「He3」という)を密封したガス検出体の中に中性子が飛び込んできた際に発生する電荷量を計測するタイプの検出器である。
【0004】
図13は、ガス検出器11の構造を説明するための模式図である。図13に示すように、ガス検出器11は、通常、極めて薄いステンレス素材から成る円筒体21を有し、当該円筒体21の内部には、10乃至20気圧のHe3ガスが充填されている。円筒体21の構造及びサイズは種々のものが存在するが、その一例として、直径が2乃至3cm程度、その長さは50乃至60cm程度のものがある。ここで、円筒体21の中心には導電性の芯線22が張られており、円筒体21と芯線22間には1,500乃至2,000V程度の電圧が抵抗を介して印加される。
【0005】
そして、このようなガス検出器11を中性子の計測対象場に置き、He3ガスが充填されている円筒体21内に中性子が飛び込んでくると、飛び込んできた中性子の数に応じた電荷が発生し、芯線22でその電荷量が検出できるのである。つまり、円筒体21内のHe3ガスに1個の中性子が衝突すると、単位電荷が発生するが、この単位電荷は、円筒体21内の電界場においてHe3ガスに連鎖的に衝突してその電荷量を一定の割合で増幅させ、この増幅された電荷が円筒体21内の芯線22に到達するようになっている。
【0006】
ここで、芯線22において検出される電荷は、円筒体21内において2方向に連鎖的に衝突して増幅される。従って、電荷が芯線22に到達するまでの時間は飛ぶ2方向によって異なり、円筒体21の形状や電界強度等に応じて所定の時間だけ広がって検出されることとなる。
【0007】
図14は、従来のガス検出装置の例を示すものである。図14に示すように、従来のガス検出装置では、ガス検出器において検出された電荷を、時定数が大きい第1の積分回路32により積分処理を行い、当該積分処理により得られたアナログ値中のノイズ成分を微分回路33と第2の積分回路34よりなる波形整形回路(帯域フィルター)35により除去し、その電荷積分出力値をA/D変換回路36によりA/D変換した後、デジタル波高処理装置37により波高処理することによって電荷を測定するようにしている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このように、従来のガス検出装置においては、ガス検出器11内で発生した電荷が芯線22に到達するまでの時間が中性子が捕獲された場所や生成された電荷の飛ぶ方向等の条件の違いによりばらつきが生じることから、積分アンプ31において積分処理を行うようにしていたが、当該積分処理においては、中性子とHe3ガスとの反応エネルギーに相当する積分電荷を得るために一番遅く発生する電荷に時定数を合わせる必要があった。さらに、このようにして得られた電荷の積分値を波形整形回路(帯域フィルター)35によって波形整形した後にデジタル波高処理装置37において波高処理を行っていたため、従来のガス検出装置においては、処理速度は非常に遅くなり、通常約0.5μs〜2μs位の値から、ガス検出器11の電荷出力速度に合わせて使用していた。
【0009】
このように、従来のガス検出装置では、ガス検出器11の最高速度を引き出せないため、中性子計測の高計数率化は困難であった。
【0010】
本発明は、このような従来の中性子計測用ガス検出装置が有していた種々の課題を解決するものであり、中性子計測用ガス検出装置において、計測対象の中性子を高速度且つ正確に計測するための高計数率化を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
このため、本発明は、中性子を計測してその検出量に応じた電荷を出力するガス検出手段と、前記ガス検出手段からの出力を積分増幅する第1の積分アンプ手段と、前記第1の積分アンプ手段からの出力を微分する微分回路と、前記微分回路からの出力を積分増幅する第2の積分アンプ手段と、から成る波形整形回路と、前記第2の積分アンプ手段の出力をA/D変換し、そのデジタル出力値を積分するデジタル積分手段と、を有し、前記第1の積分アンプ手段の積分時定数が、前記微分回路のポールゼロ相殺時定数と等価であることを特徴とする中性子測定用ガス検出装置を提供するものである。
【0012】
ここで、本中性子ガス検出装置は、さらに、前記波形整形回路の時定数が、前記電荷の最初の検出時間に合わせて設定されることを特徴とする。
【0013】
そして、前記第1の積分アンプ手段は、第1のアナログ増幅器と、当該第1のアナログ増幅器の入力端と出力端の間に整列接続されたコンデンサC1及び抵抗R1と、により構成される。
【0014】
さらに、前記微分回路は、前記第1のアナログ増幅器の出力に接続されたコンデンサC2及びこれに並列接続された抵抗R2と、その一方の端子が前記コンデンサC2に直列接続されその他方の端子が前記第2の積分アンプ手段の入力に接続された抵抗R3と、により構成される。
【0015】
また、前記第2の積分アンプ手段は、第2のアナログ増幅器と、当該第2のアナログ増幅器の入力端と出力端の間に並列接続されたコンデンサC3及び抵抗R4と、により構成される。
【0016】
また、前記コンデンサC1及び前記抵抗R1の積と、前記コンデンサC2及び前記抵抗R2の積と、が等しいことを特徴とする。
【0017】
さらに、前記コンデンサC2及び前記抵抗R3の積と、前記コンデンサC3及び前記抵抗R4の積と、が等しいことを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明では、従来装置で処理速度が低下する原因であったアナログ回路による積分を行わず、デジタル処理回路で積分を行う方式とした。アナログ回路では発生する電荷を忠実に増幅するだけで、積分はデジタル処理回路により行われるため、ガス検出器の最高速を達成できる。本発明により、従来の方式よりも2倍以上も高計数率のデータが得られることはすでに確認されている。
【0019】
また、従来はアナログ回路で積分するため、速い信号も遅くしてしまう問題があったが、本発明によればデジタル的に積分することにより源信号を再現し、検出効率の低下を防ぐことができる。
【0020】
さらに、積分した後の信号で中性子かどうかの判定ができるため、安定した正確な測定が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0022】
図1は本発明に係る中性子計測用ガス検出装置の構成を示す模式図である。
本発明では、図1に示すように、アナログ回路は発生する電荷を忠実に増幅するだけの構成とする。つまり、従来一番遅い信号に時定数を合わせ、全信号について積分アンプ(図14の34)として用いていたものを、一番速い信号に時定数を合わせ、全信号について通常のアンプ12とする構成とし、ガス検出器11で発生している電荷をそのまま増幅して出力する。このため、これまで高計数率化のネックとなっていたアナログ部分の時定数を0.5μsから0.1μsに取ることができる。パルス幅は電荷発生時間と同じになるので、この時定数よりは長くなるが、従来の中性子計測用ガス検出装置に比べて2倍以上の高速化を図ることができる。電荷の積分は、高速A/D変換回路17でデジタル化してデジタル積分手段18によりデジタル処理を行う。本発明は、リアルタイムに波形処理を行い、パルスごとにデジタル積分が完了する方式であるため、ガス検出器の最大の速度が得られる。また、積分した後の信号で中性子かどうかの判定ができるため、安定した測定が可能となる。
【0023】
以下、本発明の詳細についてさらに具体的に説明する。
【0024】
図2に、中性子計測用ガス検出装置で通常使用される電荷型アンプの部分回路を示す。
【0025】
上述したように、ガス検出器11は中性子を検出すると電荷を発生する。しかし、中性子とHe3ガスとの反応エネルギーで周りのガスをイオン化することにより電荷を得ているため、条件により電荷の発生時間にかなりのばらつきができる。ただし、その反応エネルギーは一定であるので、これらの電荷を積分すれば一定の強度の信号を得ることができる。
【0026】
図14に示した従来の方式では、微分回路33と第2の積分回路34を合わせた波形整形回路35の時定数を一番遅い信号に合わせて、波高値が電荷積分値に等しいパルスにして送り出していた。ここで、微分回路33と第2の積分回路34は帯域フィルターを形成している。これにより、第1の積分回路32の出力の高さを持つパルスが得られる。
【0027】
本発明では、この波形整形回路35における積分回路34(図1の第2の積分回路15)の積分機能を弱め、波形整形回路16を微分回路として動作させる。それにより、波形整形時定数を一番速い電荷発生時間に合わせると、ほとんどの遅い信号に対して波形整形回路16が微分回路として働くため、第1の積分回路13の積分効果を打ち消し、ガス検出器11が発生する電荷をそのまま増幅することとなる。出力されるのは発生する電荷そのものなので、本発明によれば、ガス検出器11の限界の計数率を得ることができる。さらに、この信号をA/D変換回路17によりデジタル化し、デジタル積分手段18によりデジタル的にもう一度積分することで、高速性を保ったままどの信号でも同じ電荷量が得られるようになる。
【0028】
これにより、従来の中性子計測用ガス検出装置では、例えばガス検出器11の一番遅い信号に合わせて時定数を0.5μs、さらにC1=5pF,R1=5MΩ,C2=220pF,R2=220KΩ,R3=2KΩ,C3=10pF,R4=48KΩであったが、本発明を用いた実施例では、一番速い信号を0.1μsと仮定し、C1=5pF,R1=1MΩ,C2=220pF,R2=24KΩ,R3=390Ω,C3=10pF,R4=10KΩとした。
【0029】
図3は本発明に係る中性子計測用ガス検出装置にステップ信号をコンデンサを通して入力した場合のSPICE(Simulation Program with Integrated Circuit Emphasis)の計算結果を示す図である。図3(a)はステップの立ち上がりが0.1μsの場合、図3(b)はステップの立ち上がりが1μsの場合を示している。アンプ12の波形整形時定数を0.1μsとし、コンデンサを通してステップ信号を入力した。これらの図において、下のグラフがステップ信号で傾きを与えており、上のグラフが出力パルスである。時定数より速い信号は同じ高さの信号となるが、時定数より長い入力は微分回路14による微分効果が働き、背は低いが幅の広い信号になり、電荷の入力量を示す。従って、積分量を示す面積は同じになる。
【0030】
図4にガス検出器11の出力を速い波形整形時定数のアンプに通した時に得られる波形を示す。ここでは波形整形時定数を0.1μsにしている。ガス検出器11の出力信号が速い信号と遅い信号の混合状態で出力されているのを良く表している。速い信号はかなり追いついているが、遅い信号は背が低く幅が広がっていて、SPICEの結果から遅い成分である。このガス検出器では、0.2μs〜1.0μs程度の信号が混在している。
【0031】
図5に実際のガス検出装置の波形を示す。図5(a)は従来の中性子計測用ガス検出装置を用いた波形(0.5μs時定数)、図5(b)は本発明の中性子計測用ガス検出器を用いた波形(0.1μs時定数)を示している。図5(a)に示す従来の中性子計測用ガス検出器では、十分に積分できているが、パルス幅が広がってしまい、高計数率化ができていない。図5(b)に示す本発明の中性子計測用ガス検出器では、速い信号は追いついているが遅い信号はかなり背が低く幅が広がる。このガス検出器では、0.2μs〜1.0μs程度の信号が混在していることを表している。
【0032】
従来の中性子計測用ガス検出装置を用いた図5(a)の信号ではパルス幅が3.6μs程度に広がり、10%ロスの測定をしようと思うと、平均36μsの計数率で、28Kカウント/秒(cps)が限界になる。一方、本発明の中性子計測用ガス検出装置を用いた図5(b)は、最悪で1.6μsの広がりであるので、10%ロスの測定で、63Kcpsの測定で使用できることになる。従って、本発明によれば最悪でも2倍以上の高計数率化が可能になる。また、図5(b)の例のように2信号目が入っても十分に識別できる。
【0033】
次に、本発明において信号の積分をリアルタイムに求める具体的方法について説明する。
【0034】
図4の結果から、速い信号と遅い信号の典型的な波形を想定し、どちらにも対処できるようにした。実際には図6の(a)と(b)の波形を想定している。アンプ12の出力を高速なA/D変換回路17でデジタル化し、処理するアルゴリズムである。ここではサンプリングレートが40MHz、変換ビット数が12bitのA/D変換回路17を使用した。
【0035】
処理の順序は次のようになる。
(1)ベースラインの測定
ここでは、常にA/D変換回路17の信号を一定区間に分けて比較し、最小値をベースラインとして取る。最小値としたのは、試行錯誤の結果それが一番良い結果を得られるためである。図7にベースラインの測定のためのフローチャートを示す。ここでは64ステップ(1.6μs)ごとに最小値を求める。まず、図7(a)に示すように、ベースライン用カウンターSTCTを0から63までカウントアップし、ベースライン用カウンターSTCTが63になったら0に戻す(ステップS1〜S3)。ここでA/D変換回路17の最小出力値を求めるに当たり、さらに精度を上げるために0.8μsずらして二重に測定する。つまり、図7(b)と(c)に示すように、32クロック(0.8μs)ずらして64クロック(1.6μs)の最小値を二重に測定する。図7(b)ではベースライン用カウンターSTCTが31になったときMINI0にその時のA/D変換回路17の出力信号値DADCを入れ(ステップS4、S5)、以降のA/D変換回路17の出力信号DADCとMINI0を比較してより小さい信号値をMINI0として更新し保持する(ステップS6、S7)。それと同時に、図7(c)に示すように、32クロックずらして64クロックごとに最小値MINI1を更新、保持する(ステップS8〜S11)。そして、図7(d)に示すように、ベースライン用カウンターSTCTが0〜31のときは最新のベースラインBBASEをMINI0(ステップS12、S13)に、ベースライン用カウンターSTCTが32〜63のときは最新のベースラインBBASEをMINI1(ステップS12、S14)に設定する。なお、図中のクロック同期位置で基本クロックに同期が取られ、クロック立ち上がりごとに一回動作することとする。
【0036】
(2)立ち上がりの検出
図8にパルス積分の測定のためのフローチャートを示す。
予め設定しておいたステップ数以上において信号の増加(ステップS30)が続いた場合、パルスの立ち上がりがあったものとみなす。
具体的にはまず、制限時間用カウンターADDCTにより制限時間内であるかを調べ(ステップS21)、ベースライン用バッファメモリBASEに記録されたベースラインデータよりA/D変換回路17の出力信号値DADCが大きいか比較し(ステップS22)、さらに立ち上がり用カウンターRISECTが所定のステップ数〔ここでは4ステップ(100ns)〕を超えているか調べ(ステップS23)、これらのいずれの条件も満たしていれば、立ち上がりとする。積分は、A/D変換回路17のデータからベースラインを引いた値を累積していく。その際、A/D変換回路17のデータがベースライン以下になる場合はそのデータを破棄する。データの破棄(ステップS32)は最新のベースラインデータをコピーし、各カウンタをクリアする。
【0037】
(3)最大値(MAX)の検出
次に、A/D変換回路17の出力信号値DADCの最大値MAXを検出し、保存する(ステップS24)。
【0038】
(4)MAX/2の検出
A/D変換回路17の出力信号値DADCがMAX/2を下回る値を検出(ステップS25)したら、パルスの終了と判断し、積分値が設定している閾値以上(ステップS27)であればデータとして保存(ステップS28)し、データの破棄(ステップS32)に移行する。閾値未満であれば何もせずにデータの破棄(ステップS32)に移行する。すなわち、A/D変換回路17の出力信号値DADCがMAX/2以下になっており、最大値をすでに検出していて、積分用カウンターINTEGの積分値が閾値LLDを超えていれば、その積分値を出力波高値PEAKとして保存する(ステップS25〜S28)。
【0039】
(5)制限時間で廃棄
上記の(1)〜(4)が設定している制限時間内に終了していない場合、データを廃棄して(ステップS32)次の信号待ちに移行する。この他にも、A/D変換回路17の出力信号値DADCがベースラインデータを超えていなかったらいつでもデータを廃棄し、偽信号の混入を防ぐ。
【0040】
図9にコンデンサを通してステップ信号を入力した場合のアンプ出力波形を示す。図9(a)はステップ信号傾きが200ns、図9(b)は500ns、図9(c)は1.3μsの波形を示している。下の波形が傾きを与えた入力のステップ信号で、上のグラフがアンプ出力波形である。ステップ信号に0.5pFのコンデンサを通して入力したので、どれもが0.5pCの電荷量を受けた時の出力である。波形整形時定数は0.1μsに設定している。この図からSPICEの計算結果と同じ出力が得られていることが分かる。
【0041】
図10は従来の中性子計測用ガス検出装置でパルス波高値から波高分布図を得たデータである。図10(a)はステップ信号傾きが200ns、図10(b)は500ns、図10(c)は1.3μsの波形を示している。横軸がパルスの波高値、縦軸がカウント数である。図9のアンプ出力波形のピーク値と合った位置に分布しているのが分かる。
【0042】
図11は本発明の中性子計測用ガス検出装置でパルス積分値から波高分布図を得たデータである。図11(a)はステップ信号傾きが200ns、図11(b)は500ns、図11(c)は1.3μsの波形を示している。横軸がパルス積分値、縦軸がカウント数である。図9のアンプ出力波形の積分値(面積)と合った位置に分布しているのが分かる。
【0043】
図12に、実際の中性子測定における、従来の中性子計測用ガス検出装置で計測したパルス波高値と、本発明の中性子計測用ガス検出装置で計測したパルス積分値の比較データを示す。図12(a)が従来の中性子計測用ガス検出装置で計測したパルス波高値、図12(b)が本発明の中性子計測用ガス検出装置で計測したパルス積分値を示している。これらの図より明らかなように、図12(b)では高い波高データが多くなっていて、理想の分布を示しているのが分かり、本発明が十分に効果的であることが証明できている。
【0044】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づき種々の変形が可能であり、これらを本発明の範囲から排除するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明は、He3ガスの密封空間に飛び込んでくる中性子の量を計測する中性子計測用ガス検出装置に関し、特に、当該ガス検出器内に中性子が飛び込んできた際に発生する電荷量を検出する信号処理手段における高計数率化と安定化のための処理技術に関するものであり、産業上の利用可能性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明に係る中性子計測用ガス検出装置の構成を示す模式図である。
【図2】中性子計測用ガス検出装置で通常使用される電荷型アンプの部分回路を示す。
【図3】ステップ信号をコンデンサを通して入力した場合のSPICE(SimulationProgram with Integrated Circuit Emphasis)の計算結果を示す図である。
【図4】ガス検出器の出力を速い波形整形時定数のアンプに通した時に得られる波形を示す図である。
【図5】従来と本発明の実際のガス検出装置の波形を示す図である。
【図6】速い信号と遅い信号の想定された典型的な波形を示す図である。
【図7】本発明に係る中性子計測用ガス検出装置におけるベースラインの測定のためのフローチャートである。
【図8】本発明に係る中性子計測用ガス検出装置におけるパルス積分の測定のためのフローチャートである。
【図9】コンデンサを通してステップ信号を入力した場合のアンプ出力波形を示す図である。
【図10】従来の中性子計測用ガス検出装置でパルス波高値から波高分布図を得たデータを示す図である。
【図11】本発明の中性子計測用ガス検出装置でパルス積分値から波高分布図を得たデータを示す図である。
【図12】実際の中性子測定における、従来の中性子計測用ガス検出装置で計測したパルス波高値と、本発明の中性子計測用ガス検出装置で計測したパルス積分値の比較データを示す図である。
【図13】ガス検出器の構造を説明するための模式図である。
【図14】従来のガス検出装置の例を示す図である。
【符号の説明】
【0047】
11 ガス検出器
12 アンプ
13 第1の積分回路
14 微分回路
15 第2の積分回路
16 波形整形回路
17 A/D変換回路
18 デジタル積分手段
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘリウム3ガスの密封空間に飛び込んでくる中性子の量を計測する中性子計測用ガス検出装置に関し、特に、当該ガス検出器内においてトラップされた中性子とヘリウム3ガスとの衝突によって発生する電荷量を検出する信号処理手段における高計数率化と安定化のための処理技術に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、物性物理学や高エネルギー物理学等における種々の実験において、中性子が多く利用されている。例えば、ある物質に高速度の中性子を衝突させた際の種々の現象を観測することにより、物質構造の解析を行うことができる。このような中性子実験においては、近年益々、中性子源の大強度化が進む一方、中性子を高速且つ正確に計測することが重要となり、中性子検出装置の高計数率化が強く要望されてきている。
【0003】
現在、中性子計測用ガス検出器として現在最も多く使用されているのは、高い検出効率とガンマー線感度の低さから、通常のヘリウム4(陽子:2、中性子:2、電子:2)の同位体であるヘリウム3ガス(陽子:2、中性子:1、電子:2から成るヘリウム、以下、「He3」という)を密封したガス検出体の中に中性子が飛び込んできた際に発生する電荷量を計測するタイプの検出器である。
【0004】
図13は、ガス検出器11の構造を説明するための模式図である。図13に示すように、ガス検出器11は、通常、極めて薄いステンレス素材から成る円筒体21を有し、当該円筒体21の内部には、10乃至20気圧のHe3ガスが充填されている。円筒体21の構造及びサイズは種々のものが存在するが、その一例として、直径が2乃至3cm程度、その長さは50乃至60cm程度のものがある。ここで、円筒体21の中心には導電性の芯線22が張られており、円筒体21と芯線22間には1,500乃至2,000V程度の電圧が抵抗を介して印加される。
【0005】
そして、このようなガス検出器11を中性子の計測対象場に置き、He3ガスが充填されている円筒体21内に中性子が飛び込んでくると、飛び込んできた中性子の数に応じた電荷が発生し、芯線22でその電荷量が検出できるのである。つまり、円筒体21内のHe3ガスに1個の中性子が衝突すると、単位電荷が発生するが、この単位電荷は、円筒体21内の電界場においてHe3ガスに連鎖的に衝突してその電荷量を一定の割合で増幅させ、この増幅された電荷が円筒体21内の芯線22に到達するようになっている。
【0006】
ここで、芯線22において検出される電荷は、円筒体21内において2方向に連鎖的に衝突して増幅される。従って、電荷が芯線22に到達するまでの時間は飛ぶ2方向によって異なり、円筒体21の形状や電界強度等に応じて所定の時間だけ広がって検出されることとなる。
【0007】
図14は、従来のガス検出装置の例を示すものである。図14に示すように、従来のガス検出装置では、ガス検出器において検出された電荷を、時定数が大きい第1の積分回路32により積分処理を行い、当該積分処理により得られたアナログ値中のノイズ成分を微分回路33と第2の積分回路34よりなる波形整形回路(帯域フィルター)35により除去し、その電荷積分出力値をA/D変換回路36によりA/D変換した後、デジタル波高処理装置37により波高処理することによって電荷を測定するようにしている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このように、従来のガス検出装置においては、ガス検出器11内で発生した電荷が芯線22に到達するまでの時間が中性子が捕獲された場所や生成された電荷の飛ぶ方向等の条件の違いによりばらつきが生じることから、積分アンプ31において積分処理を行うようにしていたが、当該積分処理においては、中性子とHe3ガスとの反応エネルギーに相当する積分電荷を得るために一番遅く発生する電荷に時定数を合わせる必要があった。さらに、このようにして得られた電荷の積分値を波形整形回路(帯域フィルター)35によって波形整形した後にデジタル波高処理装置37において波高処理を行っていたため、従来のガス検出装置においては、処理速度は非常に遅くなり、通常約0.5μs〜2μs位の値から、ガス検出器11の電荷出力速度に合わせて使用していた。
【0009】
このように、従来のガス検出装置では、ガス検出器11の最高速度を引き出せないため、中性子計測の高計数率化は困難であった。
【0010】
本発明は、このような従来の中性子計測用ガス検出装置が有していた種々の課題を解決するものであり、中性子計測用ガス検出装置において、計測対象の中性子を高速度且つ正確に計測するための高計数率化を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
このため、本発明は、中性子を計測してその検出量に応じた電荷を出力するガス検出手段と、前記ガス検出手段からの出力を積分増幅する第1の積分アンプ手段と、前記第1の積分アンプ手段からの出力を微分する微分回路と、前記微分回路からの出力を積分増幅する第2の積分アンプ手段と、から成る波形整形回路と、前記第2の積分アンプ手段の出力をA/D変換し、そのデジタル出力値を積分するデジタル積分手段と、を有し、前記第1の積分アンプ手段の積分時定数が、前記微分回路のポールゼロ相殺時定数と等価であることを特徴とする中性子測定用ガス検出装置を提供するものである。
【0012】
ここで、本中性子ガス検出装置は、さらに、前記波形整形回路の時定数が、前記電荷の最初の検出時間に合わせて設定されることを特徴とする。
【0013】
そして、前記第1の積分アンプ手段は、第1のアナログ増幅器と、当該第1のアナログ増幅器の入力端と出力端の間に整列接続されたコンデンサC1及び抵抗R1と、により構成される。
【0014】
さらに、前記微分回路は、前記第1のアナログ増幅器の出力に接続されたコンデンサC2及びこれに並列接続された抵抗R2と、その一方の端子が前記コンデンサC2に直列接続されその他方の端子が前記第2の積分アンプ手段の入力に接続された抵抗R3と、により構成される。
【0015】
また、前記第2の積分アンプ手段は、第2のアナログ増幅器と、当該第2のアナログ増幅器の入力端と出力端の間に並列接続されたコンデンサC3及び抵抗R4と、により構成される。
【0016】
また、前記コンデンサC1及び前記抵抗R1の積と、前記コンデンサC2及び前記抵抗R2の積と、が等しいことを特徴とする。
【0017】
さらに、前記コンデンサC2及び前記抵抗R3の積と、前記コンデンサC3及び前記抵抗R4の積と、が等しいことを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明では、従来装置で処理速度が低下する原因であったアナログ回路による積分を行わず、デジタル処理回路で積分を行う方式とした。アナログ回路では発生する電荷を忠実に増幅するだけで、積分はデジタル処理回路により行われるため、ガス検出器の最高速を達成できる。本発明により、従来の方式よりも2倍以上も高計数率のデータが得られることはすでに確認されている。
【0019】
また、従来はアナログ回路で積分するため、速い信号も遅くしてしまう問題があったが、本発明によればデジタル的に積分することにより源信号を再現し、検出効率の低下を防ぐことができる。
【0020】
さらに、積分した後の信号で中性子かどうかの判定ができるため、安定した正確な測定が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0022】
図1は本発明に係る中性子計測用ガス検出装置の構成を示す模式図である。
本発明では、図1に示すように、アナログ回路は発生する電荷を忠実に増幅するだけの構成とする。つまり、従来一番遅い信号に時定数を合わせ、全信号について積分アンプ(図14の34)として用いていたものを、一番速い信号に時定数を合わせ、全信号について通常のアンプ12とする構成とし、ガス検出器11で発生している電荷をそのまま増幅して出力する。このため、これまで高計数率化のネックとなっていたアナログ部分の時定数を0.5μsから0.1μsに取ることができる。パルス幅は電荷発生時間と同じになるので、この時定数よりは長くなるが、従来の中性子計測用ガス検出装置に比べて2倍以上の高速化を図ることができる。電荷の積分は、高速A/D変換回路17でデジタル化してデジタル積分手段18によりデジタル処理を行う。本発明は、リアルタイムに波形処理を行い、パルスごとにデジタル積分が完了する方式であるため、ガス検出器の最大の速度が得られる。また、積分した後の信号で中性子かどうかの判定ができるため、安定した測定が可能となる。
【0023】
以下、本発明の詳細についてさらに具体的に説明する。
【0024】
図2に、中性子計測用ガス検出装置で通常使用される電荷型アンプの部分回路を示す。
【0025】
上述したように、ガス検出器11は中性子を検出すると電荷を発生する。しかし、中性子とHe3ガスとの反応エネルギーで周りのガスをイオン化することにより電荷を得ているため、条件により電荷の発生時間にかなりのばらつきができる。ただし、その反応エネルギーは一定であるので、これらの電荷を積分すれば一定の強度の信号を得ることができる。
【0026】
図14に示した従来の方式では、微分回路33と第2の積分回路34を合わせた波形整形回路35の時定数を一番遅い信号に合わせて、波高値が電荷積分値に等しいパルスにして送り出していた。ここで、微分回路33と第2の積分回路34は帯域フィルターを形成している。これにより、第1の積分回路32の出力の高さを持つパルスが得られる。
【0027】
本発明では、この波形整形回路35における積分回路34(図1の第2の積分回路15)の積分機能を弱め、波形整形回路16を微分回路として動作させる。それにより、波形整形時定数を一番速い電荷発生時間に合わせると、ほとんどの遅い信号に対して波形整形回路16が微分回路として働くため、第1の積分回路13の積分効果を打ち消し、ガス検出器11が発生する電荷をそのまま増幅することとなる。出力されるのは発生する電荷そのものなので、本発明によれば、ガス検出器11の限界の計数率を得ることができる。さらに、この信号をA/D変換回路17によりデジタル化し、デジタル積分手段18によりデジタル的にもう一度積分することで、高速性を保ったままどの信号でも同じ電荷量が得られるようになる。
【0028】
これにより、従来の中性子計測用ガス検出装置では、例えばガス検出器11の一番遅い信号に合わせて時定数を0.5μs、さらにC1=5pF,R1=5MΩ,C2=220pF,R2=220KΩ,R3=2KΩ,C3=10pF,R4=48KΩであったが、本発明を用いた実施例では、一番速い信号を0.1μsと仮定し、C1=5pF,R1=1MΩ,C2=220pF,R2=24KΩ,R3=390Ω,C3=10pF,R4=10KΩとした。
【0029】
図3は本発明に係る中性子計測用ガス検出装置にステップ信号をコンデンサを通して入力した場合のSPICE(Simulation Program with Integrated Circuit Emphasis)の計算結果を示す図である。図3(a)はステップの立ち上がりが0.1μsの場合、図3(b)はステップの立ち上がりが1μsの場合を示している。アンプ12の波形整形時定数を0.1μsとし、コンデンサを通してステップ信号を入力した。これらの図において、下のグラフがステップ信号で傾きを与えており、上のグラフが出力パルスである。時定数より速い信号は同じ高さの信号となるが、時定数より長い入力は微分回路14による微分効果が働き、背は低いが幅の広い信号になり、電荷の入力量を示す。従って、積分量を示す面積は同じになる。
【0030】
図4にガス検出器11の出力を速い波形整形時定数のアンプに通した時に得られる波形を示す。ここでは波形整形時定数を0.1μsにしている。ガス検出器11の出力信号が速い信号と遅い信号の混合状態で出力されているのを良く表している。速い信号はかなり追いついているが、遅い信号は背が低く幅が広がっていて、SPICEの結果から遅い成分である。このガス検出器では、0.2μs〜1.0μs程度の信号が混在している。
【0031】
図5に実際のガス検出装置の波形を示す。図5(a)は従来の中性子計測用ガス検出装置を用いた波形(0.5μs時定数)、図5(b)は本発明の中性子計測用ガス検出器を用いた波形(0.1μs時定数)を示している。図5(a)に示す従来の中性子計測用ガス検出器では、十分に積分できているが、パルス幅が広がってしまい、高計数率化ができていない。図5(b)に示す本発明の中性子計測用ガス検出器では、速い信号は追いついているが遅い信号はかなり背が低く幅が広がる。このガス検出器では、0.2μs〜1.0μs程度の信号が混在していることを表している。
【0032】
従来の中性子計測用ガス検出装置を用いた図5(a)の信号ではパルス幅が3.6μs程度に広がり、10%ロスの測定をしようと思うと、平均36μsの計数率で、28Kカウント/秒(cps)が限界になる。一方、本発明の中性子計測用ガス検出装置を用いた図5(b)は、最悪で1.6μsの広がりであるので、10%ロスの測定で、63Kcpsの測定で使用できることになる。従って、本発明によれば最悪でも2倍以上の高計数率化が可能になる。また、図5(b)の例のように2信号目が入っても十分に識別できる。
【0033】
次に、本発明において信号の積分をリアルタイムに求める具体的方法について説明する。
【0034】
図4の結果から、速い信号と遅い信号の典型的な波形を想定し、どちらにも対処できるようにした。実際には図6の(a)と(b)の波形を想定している。アンプ12の出力を高速なA/D変換回路17でデジタル化し、処理するアルゴリズムである。ここではサンプリングレートが40MHz、変換ビット数が12bitのA/D変換回路17を使用した。
【0035】
処理の順序は次のようになる。
(1)ベースラインの測定
ここでは、常にA/D変換回路17の信号を一定区間に分けて比較し、最小値をベースラインとして取る。最小値としたのは、試行錯誤の結果それが一番良い結果を得られるためである。図7にベースラインの測定のためのフローチャートを示す。ここでは64ステップ(1.6μs)ごとに最小値を求める。まず、図7(a)に示すように、ベースライン用カウンターSTCTを0から63までカウントアップし、ベースライン用カウンターSTCTが63になったら0に戻す(ステップS1〜S3)。ここでA/D変換回路17の最小出力値を求めるに当たり、さらに精度を上げるために0.8μsずらして二重に測定する。つまり、図7(b)と(c)に示すように、32クロック(0.8μs)ずらして64クロック(1.6μs)の最小値を二重に測定する。図7(b)ではベースライン用カウンターSTCTが31になったときMINI0にその時のA/D変換回路17の出力信号値DADCを入れ(ステップS4、S5)、以降のA/D変換回路17の出力信号DADCとMINI0を比較してより小さい信号値をMINI0として更新し保持する(ステップS6、S7)。それと同時に、図7(c)に示すように、32クロックずらして64クロックごとに最小値MINI1を更新、保持する(ステップS8〜S11)。そして、図7(d)に示すように、ベースライン用カウンターSTCTが0〜31のときは最新のベースラインBBASEをMINI0(ステップS12、S13)に、ベースライン用カウンターSTCTが32〜63のときは最新のベースラインBBASEをMINI1(ステップS12、S14)に設定する。なお、図中のクロック同期位置で基本クロックに同期が取られ、クロック立ち上がりごとに一回動作することとする。
【0036】
(2)立ち上がりの検出
図8にパルス積分の測定のためのフローチャートを示す。
予め設定しておいたステップ数以上において信号の増加(ステップS30)が続いた場合、パルスの立ち上がりがあったものとみなす。
具体的にはまず、制限時間用カウンターADDCTにより制限時間内であるかを調べ(ステップS21)、ベースライン用バッファメモリBASEに記録されたベースラインデータよりA/D変換回路17の出力信号値DADCが大きいか比較し(ステップS22)、さらに立ち上がり用カウンターRISECTが所定のステップ数〔ここでは4ステップ(100ns)〕を超えているか調べ(ステップS23)、これらのいずれの条件も満たしていれば、立ち上がりとする。積分は、A/D変換回路17のデータからベースラインを引いた値を累積していく。その際、A/D変換回路17のデータがベースライン以下になる場合はそのデータを破棄する。データの破棄(ステップS32)は最新のベースラインデータをコピーし、各カウンタをクリアする。
【0037】
(3)最大値(MAX)の検出
次に、A/D変換回路17の出力信号値DADCの最大値MAXを検出し、保存する(ステップS24)。
【0038】
(4)MAX/2の検出
A/D変換回路17の出力信号値DADCがMAX/2を下回る値を検出(ステップS25)したら、パルスの終了と判断し、積分値が設定している閾値以上(ステップS27)であればデータとして保存(ステップS28)し、データの破棄(ステップS32)に移行する。閾値未満であれば何もせずにデータの破棄(ステップS32)に移行する。すなわち、A/D変換回路17の出力信号値DADCがMAX/2以下になっており、最大値をすでに検出していて、積分用カウンターINTEGの積分値が閾値LLDを超えていれば、その積分値を出力波高値PEAKとして保存する(ステップS25〜S28)。
【0039】
(5)制限時間で廃棄
上記の(1)〜(4)が設定している制限時間内に終了していない場合、データを廃棄して(ステップS32)次の信号待ちに移行する。この他にも、A/D変換回路17の出力信号値DADCがベースラインデータを超えていなかったらいつでもデータを廃棄し、偽信号の混入を防ぐ。
【0040】
図9にコンデンサを通してステップ信号を入力した場合のアンプ出力波形を示す。図9(a)はステップ信号傾きが200ns、図9(b)は500ns、図9(c)は1.3μsの波形を示している。下の波形が傾きを与えた入力のステップ信号で、上のグラフがアンプ出力波形である。ステップ信号に0.5pFのコンデンサを通して入力したので、どれもが0.5pCの電荷量を受けた時の出力である。波形整形時定数は0.1μsに設定している。この図からSPICEの計算結果と同じ出力が得られていることが分かる。
【0041】
図10は従来の中性子計測用ガス検出装置でパルス波高値から波高分布図を得たデータである。図10(a)はステップ信号傾きが200ns、図10(b)は500ns、図10(c)は1.3μsの波形を示している。横軸がパルスの波高値、縦軸がカウント数である。図9のアンプ出力波形のピーク値と合った位置に分布しているのが分かる。
【0042】
図11は本発明の中性子計測用ガス検出装置でパルス積分値から波高分布図を得たデータである。図11(a)はステップ信号傾きが200ns、図11(b)は500ns、図11(c)は1.3μsの波形を示している。横軸がパルス積分値、縦軸がカウント数である。図9のアンプ出力波形の積分値(面積)と合った位置に分布しているのが分かる。
【0043】
図12に、実際の中性子測定における、従来の中性子計測用ガス検出装置で計測したパルス波高値と、本発明の中性子計測用ガス検出装置で計測したパルス積分値の比較データを示す。図12(a)が従来の中性子計測用ガス検出装置で計測したパルス波高値、図12(b)が本発明の中性子計測用ガス検出装置で計測したパルス積分値を示している。これらの図より明らかなように、図12(b)では高い波高データが多くなっていて、理想の分布を示しているのが分かり、本発明が十分に効果的であることが証明できている。
【0044】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づき種々の変形が可能であり、これらを本発明の範囲から排除するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明は、He3ガスの密封空間に飛び込んでくる中性子の量を計測する中性子計測用ガス検出装置に関し、特に、当該ガス検出器内に中性子が飛び込んできた際に発生する電荷量を検出する信号処理手段における高計数率化と安定化のための処理技術に関するものであり、産業上の利用可能性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明に係る中性子計測用ガス検出装置の構成を示す模式図である。
【図2】中性子計測用ガス検出装置で通常使用される電荷型アンプの部分回路を示す。
【図3】ステップ信号をコンデンサを通して入力した場合のSPICE(SimulationProgram with Integrated Circuit Emphasis)の計算結果を示す図である。
【図4】ガス検出器の出力を速い波形整形時定数のアンプに通した時に得られる波形を示す図である。
【図5】従来と本発明の実際のガス検出装置の波形を示す図である。
【図6】速い信号と遅い信号の想定された典型的な波形を示す図である。
【図7】本発明に係る中性子計測用ガス検出装置におけるベースラインの測定のためのフローチャートである。
【図8】本発明に係る中性子計測用ガス検出装置におけるパルス積分の測定のためのフローチャートである。
【図9】コンデンサを通してステップ信号を入力した場合のアンプ出力波形を示す図である。
【図10】従来の中性子計測用ガス検出装置でパルス波高値から波高分布図を得たデータを示す図である。
【図11】本発明の中性子計測用ガス検出装置でパルス積分値から波高分布図を得たデータを示す図である。
【図12】実際の中性子測定における、従来の中性子計測用ガス検出装置で計測したパルス波高値と、本発明の中性子計測用ガス検出装置で計測したパルス積分値の比較データを示す図である。
【図13】ガス検出器の構造を説明するための模式図である。
【図14】従来のガス検出装置の例を示す図である。
【符号の説明】
【0047】
11 ガス検出器
12 アンプ
13 第1の積分回路
14 微分回路
15 第2の積分回路
16 波形整形回路
17 A/D変換回路
18 デジタル積分手段
【特許請求の範囲】
【請求項1】
中性子を計測してその検出量に応じた電荷を出力するガス検出手段と、
前記ガス検出手段からの出力を積分増幅する第1の積分アンプ手段と、
前記第1の積分アンプ手段からの出力を微分する微分回路と、前記微分回路からの出力を積分増幅する第2の積分アンプ手段と、から成る波形整形回路と、
前記第2の積分アンプ手段の出力をA/D変換し、そのデジタル出力値を積分するデジタル積分手段と、を有し、
前記第1の積分アンプ手段の積分時定数が、前記微分回路のポールゼロ相殺時定数と等価であることを特徴とする中性子測定用ガス検出装置。
【請求項2】
前記波形整形回路の時定数が、前記電荷の最初の検出時間に合わせて設定されることを特徴とする請求項1に記載の中性子測定用ガス検出装置。
【請求項3】
前記第1の積分アンプ手段は、第1のアナログ増幅器と、当該第1のアナログ増幅器の入力端と出力端の間に整列接続されたコンデンサC1及び抵抗R1と、により構成された請求項1又は2に記載の中性子測定用ガス検出装置。
【請求項4】
前記微分回路は、前記第1のアナログ増幅器の出力に接続されたコンデンサC2及びこれに並列接続された抵抗R2と、その一方の端子が前記コンデンサC2に直列接続されその他方の端子が前記第2の積分アンプ手段の入力に接続された抵抗R3と、により構成された請求項3に記載の中性子測定用ガス検出装置。
【請求項5】
前記第2の積分アンプ手段は、第2のアナログ増幅器と、当該第2のアナログ増幅器の入力端と出力端の間に並列接続されたコンデンサC3及び抵抗R4と、により構成された請求項1又は2に記載の中性子測定用ガス検出装置。
【請求項6】
前記コンデンサC1及び前記抵抗R1の積と、前記コンデンサC2及び前記抵抗R2の積と、が等しいことを特徴とする請求項4又は5に記載の中性子測定用ガス検出装置。
【請求項7】
前記コンデンサC2及び前記抵抗R3の積と、前記コンデンサC3及び前記抵抗R4の積と、が等しいことを特徴とする請求項4乃至6の何れかの項に記載の中性子測定用ガス検出装置。
【請求項1】
中性子を計測してその検出量に応じた電荷を出力するガス検出手段と、
前記ガス検出手段からの出力を積分増幅する第1の積分アンプ手段と、
前記第1の積分アンプ手段からの出力を微分する微分回路と、前記微分回路からの出力を積分増幅する第2の積分アンプ手段と、から成る波形整形回路と、
前記第2の積分アンプ手段の出力をA/D変換し、そのデジタル出力値を積分するデジタル積分手段と、を有し、
前記第1の積分アンプ手段の積分時定数が、前記微分回路のポールゼロ相殺時定数と等価であることを特徴とする中性子測定用ガス検出装置。
【請求項2】
前記波形整形回路の時定数が、前記電荷の最初の検出時間に合わせて設定されることを特徴とする請求項1に記載の中性子測定用ガス検出装置。
【請求項3】
前記第1の積分アンプ手段は、第1のアナログ増幅器と、当該第1のアナログ増幅器の入力端と出力端の間に整列接続されたコンデンサC1及び抵抗R1と、により構成された請求項1又は2に記載の中性子測定用ガス検出装置。
【請求項4】
前記微分回路は、前記第1のアナログ増幅器の出力に接続されたコンデンサC2及びこれに並列接続された抵抗R2と、その一方の端子が前記コンデンサC2に直列接続されその他方の端子が前記第2の積分アンプ手段の入力に接続された抵抗R3と、により構成された請求項3に記載の中性子測定用ガス検出装置。
【請求項5】
前記第2の積分アンプ手段は、第2のアナログ増幅器と、当該第2のアナログ増幅器の入力端と出力端の間に並列接続されたコンデンサC3及び抵抗R4と、により構成された請求項1又は2に記載の中性子測定用ガス検出装置。
【請求項6】
前記コンデンサC1及び前記抵抗R1の積と、前記コンデンサC2及び前記抵抗R2の積と、が等しいことを特徴とする請求項4又は5に記載の中性子測定用ガス検出装置。
【請求項7】
前記コンデンサC2及び前記抵抗R3の積と、前記コンデンサC3及び前記抵抗R4の積と、が等しいことを特徴とする請求項4乃至6の何れかの項に記載の中性子測定用ガス検出装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2009−97967(P2009−97967A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−269254(P2007−269254)
【出願日】平成19年10月16日(2007.10.16)
【出願人】(504151365)大学共同利用機関法人 高エネルギー加速器研究機構 (125)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年10月16日(2007.10.16)
【出願人】(504151365)大学共同利用機関法人 高エネルギー加速器研究機構 (125)
【Fターム(参考)】
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