中空器官又は中空器官の一部の生体内での再建を促進するためのプロテーゼ
【課題】中空器官又は中空器官の一部の生体内での再建を促進するためのプロテーゼの提供。
【解決手段】本発明は、中空器官又は中空器官の一部の生体内での再建を促進するためのプロテーゼに関する。上記プロテーゼは、少なくとも一種類の生体適合性・生分解性高分子材料を含み、且つ、多孔性の外層及び実質的に無孔性の内層を有する生分解性中空管状支持部材と、上記支持部材の多孔性層の外表面、及び/又は、該多孔性層の少なくとも一部の内側、及び/又は、上記実質的に無孔性の層の上記多孔性層に対向する表面上に配置された生体由来材料とを備え、上記生体由来材料は、上記器官又は器官の一部の生体内での再建が可能となるように選択されることを特徴とする。本発明はまた、このようなプロテーゼの製造方法、及び、その医療用途、特に中空管状器官、とりわけ食道の少なくとも一部を再建するための該プロテーゼの使用に関する。
【解決手段】本発明は、中空器官又は中空器官の一部の生体内での再建を促進するためのプロテーゼに関する。上記プロテーゼは、少なくとも一種類の生体適合性・生分解性高分子材料を含み、且つ、多孔性の外層及び実質的に無孔性の内層を有する生分解性中空管状支持部材と、上記支持部材の多孔性層の外表面、及び/又は、該多孔性層の少なくとも一部の内側、及び/又は、上記実質的に無孔性の層の上記多孔性層に対向する表面上に配置された生体由来材料とを備え、上記生体由来材料は、上記器官又は器官の一部の生体内での再建が可能となるように選択されることを特徴とする。本発明はまた、このようなプロテーゼの製造方法、及び、その医療用途、特に中空管状器官、とりわけ食道の少なくとも一部を再建するための該プロテーゼの使用に関する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空器官又はそのような器官の一部を生体内で再建するのを促進するための新規なプロテーゼに関する。具体的には、ヒト若しくは動物の中空器官又はそのような器官の一部を生体内で再建するためのバイオプロテーゼに関する。
【背景技術】
【0002】
中空組織の置換、特にそのような器官の環状欠損の置換、より具体的には食道の環状欠損の置換は、外科分野、特に消化器外科において、依然として最も困難な課題の1つである。
【0003】
1950年代までは、中空器官(食道、総胆管の一部、膀胱、尿道等)の置換や、卵管の開通に、自己由来の(患者自身から採取した)腸や胃の一部が広く用いられていた。しかしながら、このような自家移植片は術後合併症の頻度が高い。
【0004】
高分子化合物が開発されたおかげで、1960年代にはポリマープロテーゼが種々の用途(食道、胃、胆管、血管)に広く用いられるようになった。このようなプロテーゼは、様々な物質(ポリエチレン、シリコーン、ポリウレタン、アクリレート/アミド三元共重合体、ポリテトラフルオロエチレン)から作られている。通常、これらのポリマープロテーゼの許容性は良好であるが、一体化の点においては最適ではない。このプロテーゼはその一つの面だけで生体組織と接触しているため、定着することはなく、その結果、痂皮の形成や、その分離及び脱離が生じたりする。従って、いかなる組成であっても、これらのプロテーゼは一時的なものでしかなく、定期的な交換が必要である。従って、これらの臨床的使用は、総胆管、膵管、気管及び食道管の排液等、特定の用途に限定されている。
【0005】
重度の食道癌患者の余命は非常に短く、このような患者に対する治療は多くの場合、姑息的治療、即ち、外科的切除や放射線療法/化学療法に限定され、取り立てて効果は得られていない。プロテーゼの使用が、不全失語症の解消及び食道癌患者の生活の質(QOL)の改善に有効であることは証明されているが、移動、穿孔及び食物による閉塞等の合併症により、死亡率が非常に高くなる。
【0006】
バイオプロテーゼは、人工チューブの内壁を培養組織で覆うように構成されている。この選択肢は各種の患部被覆材(通常、「パッチ」と呼ばれている)として、局所的な損傷の置換に有効であることが証明されているが、食道の環状損傷の処置には用いられていない。
【0007】
金属製の拡張型ステントの使用は、非拡張型プラスチックチューブに取って代わる効果的な手段であると考えられているが、上記と同様の合併症(痂皮、脱離)の問題が残されている。
【0008】
器官の全周にわたって切開された損傷ではなく、(例えば憩室切除後の)局所的な損傷の治療においては、パッチが有効な治療法となる。しかしながら、現在、重度の狭窄を伴う癌や熱傷の後に食道に見られるような細胞の損傷の治療における選択肢は、非常に限定されており、よりよい設計の食道プロテーゼが望まれる。
【0009】
生分解性高分子を用いた戦略が、組織を新たに発生又は再生させることを目的とした選択肢として現われた。多くの生分解性材料が、スポンジ、メッシュ生地(「メッシュ」、場合によってはマトリックス、と呼ばれている)、チューブ及びナノファイバーの形状で、食道再生用支持部材としてラット又はマウスの実験モデルに用いられている。この戦略の実施には、ポリ乳酸(PLA)系、ポリグリコール酸(PGA)系及びポリカプロラクトン(PCL)系の生分解性ポリエステル等の合成高分子が利用されている。これらには市販されているものもある(例えば、バイクリル(Vicryl)外科用メッシュ)。
【0010】
しかしながら、生物模倣が不十分であるため、これらの合成高分子単独では組織の再生に至る生体反応を誘導することができず、多くの場合、表面改質(コラーゲン又はフィブロネクチンの移植)が必要となる。
【0011】
食道の損傷の治療を目的とした、成人組織(十二指腸粘膜や、血管再生した回腸の粘膜下組織移植片、凍結乾燥硬膜)の移植や自己由来物質(細胞、粘膜)の移植が開示されている。
【0012】
しかしながら、成人組織は虚血に脆弱であるため、移植後の組織生存率に限界がある。また、成人組織の移植片を無能力化することは困難であり、それに対する処置を繰り返す必要がある。成人組織の移植は、非環状欠損を閉鎖するための選択肢の1つであって、環状損傷に対するものではない。
【0013】
また、胃全体の移植についても開示されているが、これにおいては、逆流や腸への急速な排出等の問題がある。
【0014】
成人組織ではなく、自己由来細胞と組み合わせた人工プロテーゼの使用に基づいた複合的な戦略が提案されている。
【0015】
組織工学と呼ばれるこの考えは、ここ10年、大きな関心を集めている。
【0016】
この方法では、天然又は合成生分解性高分子の支持部材を、事前に生体外で培養したヒト細胞(好ましくは自己由来ヒト細胞)と組み合わせて使用する。この細胞/マトリックス集合体を、損傷した器官又は組織を再建、再生又は修復するために、生体内に移植する。この戦略は、Marzaroら(非特許文献1)によって開発されたものである。Marzaroらは、移植可能な食道を作製するために、食道と相同な無細胞マトリックス及び自己由来平滑筋細胞を生体外で用いることを提案している。
【0017】
また、食道に関する工学技術においては、播種されたコラーゲンネットワークと筋肉層とからなる2層チューブも製造されている。これにより細胞浸潤及び新血管形成が可能となる。
【0018】
また、脱細胞化した食道も、組織工学において生体適合性のある支持部材として利用されている。しかしながらこの選択肢では、組織の入手しやすさの点、及び、修復する器官の大きさ及び容積と合わせるためにプロテーゼを必要とする点が問題となる。更に、食道の再建に用いる人工支持部材及び自己由来組織は、その内表面を上皮組織で完全に覆うことができるわけではないので、長期に渡ると狭窄や漏出等の合併症を引き起こす可能性がある。
【0019】
特許文献1には、皮膚と血管細胞を含む皮下層とからなる2層構造を有する、食道の組織工学用の支持部材が開示されている。この支持部材は、バイオマテリアルであってもよく、合成材料であってもよいが、無細胞マトリックスと組み合わせて用いるのが好ましい。播種する細胞は繊維細胞であってもよく、内皮細胞又はケラチン生成細胞であってもよい。このデバイスは、組織の再生に用いることができるものの、食道等の器官全体の置換には用いることができない。
【0020】
その他のすべての現行の治療法には、細胞の採取や、計画時間の問題及びコストが高いといった問題がある。
【0021】
特許文献2には、多孔性層と無孔性層とを備えたキトサンチューブを製造する方法が記載されている。特許文献2は、管状構造を形成する手段として遠心力を利用することについて記載しており、無孔性層が必ず管状構造の外表面上に配置される。従って、特許文献2には、管状器官の再建における技術的な問題を解決することが可能な管状構造の記載はない。さらに、組織を再建した実施例の記載もない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0022】
【特許文献1】中国特許出願公開第1,410,034号明細書
【特許文献2】国際公開第2006/047758号パンフレット
【非特許文献】
【0023】
【非特許文献1】Marzaro et al.Journal of Biomedical Materials Research,2006,77a(4),795−801
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
本発明の目的は、上記問題を全て解決することであり、特に中空器官又は中空器官の一部の再建を促進するための新規なプロテーゼを提供することにより上記問題を解決することである。
【0025】
本明細書において、本発明は、再建される器官に課される運動に耐える、特には日常的に運動(ねじれ、嚥下等)する身体の領域である頸部の中にその一部が存在する食道の運動に耐えるという技術的課題の解決策を提起する。
【0026】
さらに、本発明の目的は、機械的強度、及び/又は、再建する器官の内表面と常時接触する若しくはしないものであってもよい体液に対するプロテーゼの耐漏出性等、器官の再建に好適な特性を有するプロテーゼの提供という課題を解決することである。
【課題を解決するための手段】
【0027】
キトサンは、キチンを脱アセチル化することによって得られる生体高分子であり、甲殻類の殻、節足動物のクチクラ、頭足類の内骨格、珪藻土中に存在する他、菌類の細胞壁等の菌類由来のものもある。キトサンは、生体適合性、生分解性を有し、細胞外マトリックスのグリコサミノグリカンの構造に類似している、等の有利な特性を有する。キトサンは、創傷治癒、医薬の制御放出機構、止血デバイス、外科的用途(吸収性縫合糸、癒着防止材)、眼科、並びに、組織工学、細胞カプセル化、遺伝子治療及び予防接種での使用などといった生物医学的用途において非常に関心を集めている。
【0028】
Khorらは、キトサンの潜在用途について概説している(Khor and Lim,Biomater 2003;24:2339−2349)。
【0029】
キトサンが多孔性の気泡構造である場合、中空状と考えられる器官の組織工学に好適に用いることができる。“Chitin−based tubes for tissue engineering in the nervous system”,Biomater 2005;26−4624−4632において、Freierらは、キチンをアルカリ加水分解してキトサンチューブを作製する方法を記載している。この著者らは、キトサンフィルムの後根神経節ニューロンとの細胞適合性及び生体外での神経増殖について記載している。
【0030】
国際出願第2007/042281号パンフレット(A2)には、N−アシルキトサンゲルを押出成形することにより、有毒溶媒又は架橋剤や他の有毒化合物を用いることなく、キトサン又はキトサン誘導体からなる十分な機械的強度のチューブ及び繊維を作製する方法が記載されている。
【0031】
Madihallyらは、キトサンを含有する特定の構造体、例えば多孔性構造を有する中空管等の構造体を作製する方法を記載している(Madihally and Matthew,Biomater 1999;20:1133−1142)。この多孔性のチューブ状支持部材は、円筒形のプラスチックチューブ内でキトサン溶液を凍結することにより作製される。無孔性の管腔状の膜を有するチューブを、不活性チューブをまずキトサンフィルムでコーティングすることによって、作製することもできる。ここで、該キトサンフィルムは塩基性媒体でキトサンをゲル化した後、空気中で脱水することにより得られる。支持部材を乾燥させた後、水酸化ナトリウム又はエタノールで処理して再水和し、リン酸緩衝生理食塩水で中和した後、電子顕微鏡検査及び機械的試験によって支持部材の特性が評価される。支持部材について、数種類の生物学的評価が行われたが、上記文献では組織工学用途における技術的な結果が示されていない。
【0032】
Qinらは、組織工学によって食道を作製するためのキトサン系材料の使用の可能性について検討している(Qin,Xiong,Duier Junyi Daxue Xuebao 2002,23,1134−1137)。Qinらは、ラットの食道上皮細胞とともにコラーゲン−キトサン膜を筋肉下に移植し、移植後2週では健康な状態で移植集合体が残存しているが、移植後4週では完全に分解されることを示した。この著者らは、この高分子支持部材の細胞適合性を示したが、支持部材についての説明は他にない。特に支持部材を生分解性の人工食道として使用することについては記載していない。
【0033】
中空器官、とりわけ食道の再建において、特にそれらに環状欠損がある場合に生じる問題を鑑みると、特に環状欠損がある場合に、このような器官の再生を可能にする新規な解決策の開発が実際に求められていることは明らかである。
【0034】
本発明は、中空器官を確実に再生することを目的とした、中空器官内に若しくは中空器官上に移植すること、又は、中空器官に関連して移植することが可能な新規なプロテーゼ又はバイオプロテーゼを提唱する。上記中空器官としては、とりわけ食道が挙げられる。
【0035】
上記バイオプロテーゼは、生体材料と組み合わされた、又は、再建される器官の組織細胞と組み合わされた生分解性の多孔性支持部材を含む。上記生体材料は、好ましくはさほど分化していないか又は未分化であり、且つ、好ましくは胎児材料である。
【0036】
上記生分解性の多孔性支持部材は、キトサンで構成されるのが有利であるが、最終的に所望の多孔性が得られる生分解性・生体適合性の高分子材料であればどのようなもので構成されていてもよい。様々な多孔性支持部材の組み合わせ(例えば、キトサン・コラーゲンの組み合わせ、キトサン・ヒアルロン酸等のキトサン・グリコサミノグリカンの組み合わせ、又は、その他の当業者に周知の組み合わせ)もまた、本発明に包含される。
【0037】
この生分解性管状支持部材は、本質的に、以下の特性を有するように設計されている:
・細胞増殖及び細胞の血管新生を可能にする生分解性の多孔性外表面;
・人工食道である場合には食塊と接触する、又は、より一般的には、中空器官を循環する体液と接触する、生分解性の無孔性内表面;
・再建される器官と同一の、又は、再建される器官に対応する直径及び大きさ;並びに、
・十分な機械的特性。
【0038】
このプロテーゼは、生体適合性・生分解性の生体高分子から容易に製造することができ、且つ、様々な器官の解剖学的特性を妨害しないという長所を有する。驚くべきことに、このプロテーゼによって、再建又は置換すべき中空器官又は中空器官の一部を、狙い通りに首尾よく再建することができる。「狙い通りに再建する」とは、プロテーゼ内の細胞増殖によって器官、又は、器官の一部が再建されることを意味すると解される。特に驚くべきことは、組み合わせた生物材料を介して移植された細胞が増殖可能であり、且つ、生分解性管状支持部材が存在するにもかかわらず、この細胞が細胞外マトリックスの再構築を可能にする機能を果たすことにより、中空器官の置換された部分を再建することができることである。さらには、所望の機械的及び生理学的特性を得ることもできる。
【0039】
上記管状支持部材は、分化した、さほど分化していない、又は、未分化の生体材料とともに使用するのが好ましい。一変形例では、修復する器官に対して特定の胎児材料を用いることにより、この器官の構造、形態及び機能を妨害せずに器官を再生することが可能となる。別の変形例では、再建される器官の組織細胞の少なくとも一部によって構成される生体材料を使用する。この組織細胞は、通常、本発明の多孔性層内で優れた増殖能力を有する細胞である。
【0040】
従って、本発明は複合型バイオプロテーゼに関し、このバイオプロテーゼは、生体適合性・生分解性の管状多孔性支持部材a)と、さほど分化していない又は未分化の生体材料b)、好ましくは、移植の後に異所性マトリックスを形成可能な特定の胎児材料、とを構成要素とする。
【0041】
本発明の目的の一つは、先行技術における自己由来細胞又は成人組織の使用に関する限界を克服するために、中空器官を再生するための複合型バイオプロテーゼを製造することである。このバイオプロテーゼにより、ウィルス感染又は移植片の拒絶反応のリスクを伴わずに器官全体を再生することが可能になる。(同種異系の胎児材料を用いる場合であっても、異種(提供者が受給者とは異なる系統又は種)の胎児材料を用いる場合であっても、免疫抑制又は耐性付与のための通常の処置を考慮しておく必要がある。)
【0042】
第一の態様において、本発明は、中空器官又は中空器官の一部の生体内での再建を促進するためのプロテーゼであって、当該プロテーゼは
・少なくとも一種類の生体適合性・生分解性高分子材料を含み、且つ、多孔性の外層及び実質的に無孔性の内層を有する生分解性中空管状支持部材と、
・上記支持部材の多孔性層の外表面、及び/又は、該多孔性層の少なくとも一部の内側、及び/又は、上記実質的に無孔性の層の上記多孔性層に対向する表面上に配置された生体由来材料とを備え、
上記生体由来材料は、上記器官又は器官の一部の生体内での再建が可能となるように選択されたものであることを特徴とするプロテーゼに関する。
【0043】
実質的に無孔性の層及び多孔性層が異なる材料から構成される変形例も、これらの層が、多孔性が異なることを除き同一の材料から構成されている変形例も、本発明に包含される。
【0044】
第二の態様において、本発明はまた、このようなプロテーゼを製造する方法に関する。この方法は、実質的に無孔性の層を内面上に有する管状多孔性支持部材を用意することと、上記管状支持部材の外表面、及び/又は、上記管状支持部材内に生体由来材料を組み込むこととを含む。この方法は、特に、細胞増殖が可能な多孔性の外層と、(細胞増殖が実質的に不可能な)実質的に無孔性の内層とを有する生分解性管状支持部材を用意することと、上記支持部材の多孔性層の外表面、及び/又は、該多孔性層の少なくとも一部の内側、及び/又は、上記実質的に無孔性の層の上記多孔性層に対向する表面上に、プロテーゼ形成用の生体材料を組み込むこととを含む。
【0045】
本発明の他の特徴及び利点は、下記の詳細な説明及び実施例から明らかとなり、図1〜8により説明される。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明のチューブの断面図である。図1中、参照番号1は生分解性高分子を含むチューブの外層を指し、参照番号2は細胞及び生体器官が成長するための空間を指す。また、参照番号3は実質的に無孔性の内層を指す。参照番号Aは、チューブの外表面上に生体材料が配置又は固定されている第一の実施形態での生体材料を指す。参照番号Bは、生体材料が多孔性の外層と無孔性層との間に配置された第二の実施形態での生体材料を指す。
【図2A】実施例1で得られた多孔性チューブの走査型電子顕微鏡写真である。
【図2B】実施例1で得られた多孔性チューブの走査型電子顕微鏡写真である。
【図2C】実施例1で得られた多孔性チューブの走査型電子顕微鏡写真である。
【図2D】実施例1で得られた多孔性チューブの走査型電子顕微鏡写真である。
【図3】図3A、3B及び3Cは、移植後7日(a、b)及び14日(c)でのキトサン材料の体内への一体化の段階及びその後の吸収段階に関する。
【図4】図4A及び4Bに、2カ月及び3カ月後の、キトサンチューブ存在下、及び、キトサンチューブ消失(吸収)後の胎児由来腸の異所性成長を示す。
【図5】図5A、5B、5C及び5Dに、本発明の管状支持部材の一変形例を挿入する方法を模式的に示す。この方法では、無孔性の内層と多孔性の外層とが物理的に独立している。
【図6】図6A、6B、6C及び6Dに、本発明の管状支持部材の一変形例を挿入する方法を模式的に示す。この方法では、無孔性の内層と多孔性の外層とが物理的に独立している。
【図7】図7A、7B及び7Cに、本発明の管状支持部材の一変形例を挿入する方法を模式的に示す。この方法では、無孔性の内層と多孔性の外層とが物理的に独立している。
【図8】図8A、8B及び8Cに、管状支持部材に柔軟性を付与する手段を含む本発明の変形例を模式的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0047】
本発明は、中空器官の再生、特に病変を呈する食道の一部を再生するための複合型バイオプロテーゼに関する。他の器官、例えば、腸、総胆管、胃、膵管、泌尿器管(尿道及び尿管)、膀胱、血管、卵管及び子宮等も、本発明を用いて修復、置換又は再生することができる。病変としては、例えば癌が挙げられる。即ち、少なくとも一部が癌に冒された中空器官、特に中空器官が食道の場合に、この中空器官を置換するために、全ての変形例を含む本発明のプロテーゼを用いることが本発明に包含される。従って、本発明は、中空器官の少なくとも一部に存在する癌の外科的治療法、特に中空器官の一区域を全体的に摘出又は切除(ablation)する必要がある場合の外科的治療法も包含する。他の病変、例えば重度の狭窄を伴う熱傷等にも、本発明の治療は有益であろう。このように、本発明は、中空管状器官の一区域の少なくとも一部を摘出又は切除する必要がある病変の外科的治療法に関し、この治療法は、中空管状器官の一区域を全体的に又は部分的に摘出又は切除することと、その摘出又は切除部分を生体内で再建するために、全ての変形例を含む本発明で定義されるプロテーゼ、管状支持部材又は高分子材料を摘出又は切除された領域近傍に配置することとを含むことを特徴とする。
【0048】
本発明において、管状支持部材は、生体適合性・生分解性高分子から構成されているのが有利である。チューブは多孔性であるが、その内壁には実質的に無孔性の不活性な表面が備わっている。多孔性層と実質的に無孔性の層とは、同一の生分解性高分子で構成されているのが有利である。
【0049】
本発明において、組織支持部材は十分な機械的特性を有し、生体内での機械的条件に対応可能である。
【0050】
一変形例において、本発明の管状支持部材は、特に再建された器官の運動に対する耐久性を向上させる目的で、支持部材に柔軟性を付与する手段を含む。このような手段としては、以下に限定されないが、例えばアコーディオン構造又は螺旋状構造が挙げられる。
【0051】
本発明において、管状支持部材は、生物材料に適合性があり、好ましくは胎児材料である。
【0052】
本発明において、管状支持部材は、生体内で生分解されるが、新組織の成長及び増殖が可能となるように一時的に支持しながら徐々に分解されるように調整されている。
【0053】
本発明において、管状支持部材は、再建される器官の構造及び機能に応じた特定の大きさ及び構造を有する。実質的に無孔性の層は、再建される器官内に存在するものであっても再建される器官を通過するものであってもよい生体媒質(生体液、食塊等)に対する多孔性層及び/又は生体材料の耐漏出性を確実にするものでなければならない。「耐漏出性」とは、宿主の機能の低下を引き起こす可能性がある物質が通過することがないこと、さらには時間が経過しても自然には消失しない炎症が生じないことを意味すると解される。実質的に無孔性の層の厚さは、60μmから3mmであってもよく、上限は2.5又は2mmであってもよい。また、厚さの下限は100μmであってもよい。実質的に無孔性の層はまた、本発明の一変形例の生体材料の支持部材として、又は、必要に応じて別の変形例の生体材料を含む多孔性層の支持部材として機能する。無孔性の層はまた、食道等の中空管状器官の再建を誘導する機能を有していてもよい。
【0054】
本発明において、管状支持部材は、凍結乾燥法、成形法、押出法、溶媒蒸発法、造孔剤抽出法、浸漬析出法(immersion−precipitation)等の方法で作製されてもよく、これらの方法を組み合わせて作製されてもよい。
【0055】
本発明において、複合型バイオプロテーゼは、胃腸管、消化管、胆管、膵管、泌尿器管及び生殖器管、さらには血管及び神経組織等のヒトの中空器官の修復、置換又は再生に用いることができる。
【0056】
本発明の複合型バイオプロテーゼは、生物材料(好ましくは胎児材料)の異所性増殖に最適な特性を有する支持部材を構成要素として含む。この支持部材は、消化管、胆管、膵管、泌尿器管及び生殖器管(食道、腸、胃、総胆管、尿道、尿管、膀胱、卵管及び子宮)等の中空器官の再生を可能にする生分解性の管状構造体である。本発明の趣旨は、生分解性の管状支持部材で欠損部位を恒久的に置換することではなく、好ましくはさほど分化していない若しくは未分化であり、且つ、好ましくは胎児由来である生体材料の移植と組み合わせて、又は、再建される器官の組織細胞の少なくとも一部と組み合わせて生分解性管状支持部材を用いることにより組織の再生を促進/刺激することである。
【0057】
支持部材は、細胞/組織の移動、中空器官の血管新生及び再生を促進することが可能な多孔性の外層を備えたチューブとして構成されている。チューブの内腔は非透過性であり、食塊、又は、器官の中空部分を循環する他の流体と接触していてもよい。支持部材はまた、再建される器官に応じた容積及び大きさを有する。
【0058】
上述したように、生体材料の支持体としての機能を有する管状支持部材は、種々のポリマーから構成されていてもよく、該ポリマーによって、再建される器官又は再建される器官の一部と同様の大きさのチューブであって、十分な機械的特性(形状及び内腔が収縮することのない弾性、強度及び柔軟性)と、生物材料(好ましくは胎児材料)が生体内で成長中に確実に好適に付着するのに適しつつ、中空器官を通常循環している流体を確実に正常に循環可能とするのにも適した多孔性とを有するチューブを得ることができるであろう。
【0059】
より具体的には、孔は、細胞の浸潤及び血管の定着が可能となるのに、且つ、生物材料(好ましくは胎児材料)が成長可能となるのに十分な大きさでなければならない。
【0060】
孔は、細胞の相互作用、酸素及び代謝産物の拡散が可能となるように相互に連絡しているのが好ましい。
【0061】
チューブの厚さ全体にわたって、その内表面まで連続した多孔性であるのが好ましい。
【0062】
内径は再建される管の大きさに適合していなければならない。外径をどのように選択するかはさほど重要ではない。しかしながら、チューブの柔軟性は保持されなければならず、それも考慮する必要がある。
【0063】
消化管(例えば食道や胃)の場合、このチューブが糜汁に対して耐漏出性を有するように、呼吸器管(例えば気管)の場合、このチューブが気体に対して耐漏出性を有するように、他の器官の場合、他の流体に対してこのチューブが耐漏出性を有するように、また、細菌やウィルスの通過を防止することができるように、チューブの内層又は内表面は非透過性且つ無孔性でなければならない。さらに、管状支持部材の内腔を最終的に閉鎖してしまう可能性のある目的外の細胞増殖を防ぐために、この内表面は実質的に細胞増殖を妨げる実質的に無孔性の層で構成される。
【0064】
チューブは通常、チューブが押しつぶされないように、且つ、空気又は食塊の他、再建される器官に応じてそれぞれ異なる流体が確実に通過可能な内腔(内径)を維持できるように、十分な機械的強度を有することが好ましい。
【0065】
上記高分子材料は、器官の再生に必要な、徐々に分解される性質を有することが好ましい。高分子材料はまた、細胞毒性、炎症反応又は拒絶反応を誘発しないように生体適合性でなければならない。また、高分子材料は生物材料(好ましくは胎児材料)に対して適合性がなければならない。
【0066】
高分子材料はさらに、容易に滅菌できるものでなければならない。
【0067】
上述したように、支持部材は、入手が容易な材料であり、且つ、簡単な工程を経ることにより、上述した利点を全て得ることもできるキトサンで構成されていることが有利である。しかしながら、生分解性であり、生体適合性を有することが知られている他の多くのポリマーを選択することもできよう。
【0068】
より具体的には、上記高分子材料はキトサン、キチン、キチン−グルカン共重合体及びそれらの誘導体又は共重合体からなる群から選択される。ここで、上記高分子は必要に応じて少なくとも一種類の他の生体適合性・生分解性高分子と組み合わされてもよい。
【0069】
特に、細胞増殖能、機械的強度、プロテーゼと接している宿主の生体媒質との接触時の膨潤度、変形能、分解速度、圧縮性、弾性、しなやかさ、柔軟性等の特性のうちの一つ以上を改変するために、上記に定義したキトサン、キチン又はそれらの誘導体若しくは共重合体と組み合わせて、他の様々な生体適合性・生分解性高分子を用いることもできる。
【0070】
生体高分子、特にグリコサミノグリカン(GAG)、とりわけヒアルロナン、コンドロイチン硫酸又はヘパリン、コラーゲン、アルギン酸塩、デキストラン及びそれらの混合物からなる群より選択される生体高分子を特に利用することができる。
【0071】
また、生分解性・生体適合性合成高分子、特に乳酸、グリコール酸、ε−カプロラクトン及びp−ジオキサノンに基づいた単独重合体類及び共重合体類等の生分解性合成ポリエステルからなる群より選択される生体適合性・生分解性合成高分子、又は、ヒドロキシ酪酸塩、ヒドロキシ吉草酸塩、ポリオルトエステル及びポリウレタンに基づいた単独重合体類及び共重合体類等のポリヒドロキシアルカン酸系化合物の天然ポリエステル等の他の天然ポリエステルを選択することも可能である。
【0072】
キトサン又はキトサンを含む高分子材料を用いることが好ましい。
【0073】
キトサンは、キチン(その原料としては様々なものが周知)の脱アセチル化によって製造される。原料としては、甲殻類(主にカニ、エビ及びロブスター類)、頭足類の内骨格、節足動物のクチクラ、珪藻土、及び、菌類の細胞壁等がある。低アレルギー性であること、一定した品質であり容易に追跡可能であること、ほぼ無尽蔵で完全に再生可能な原料であること、さらに農業食品及びバイオテクノロジー産業の副産物の再利用が可能となることから、菌類由来高分子を選択するのが好ましい。キトサンは、Kitozymeの国際公開第03/068824号パンフレットに記載の方法で製造するのが有利であろう。
【0074】
キトサンの脱アセチル化度及び分子量は、確実に最適な速度で分解されるように選択されるのが好ましい。例えば、キトサンの分解速度はその分子量及び脱アセチル化度に大きく依存することが示されており、分子量や脱アセチル化度が低いほど、速く分解される。従って、多孔性の調整が重要であり、孔径が大きく多孔度が高いほど、支持部材の分解は速くなる。
【0075】
支持部材として用いるチューブの作製にキトサンを選択する場合、他の生分解性高分子(例えばキチン又はキチン−グルカン等の別の糖質高分子)と組み合わせてもよい。これらの重合体又は共重合体を形成する方法は、Kitozymeの特許出願(国際公開第03/068824号パンフレット、仏国特許出願公開第05/07066号明細書及び仏国特許出願公開第06/51415号明細書)に記載されている。
【0076】
上述したように、生体内にプロテーゼを組み込んだ後、生物材料(好ましくは胎児材料)の付着及び成長を可能にするために、管状支持部材は多孔性であることが不可欠である。
【0077】
少なくとも血球と、必要に応じてある程度の移植細胞とが通過可能となるのに十分な多孔性が必要である。従って、多孔質部分の孔径は、10μmよりも大きく、好ましくは10〜200μmである。
【0078】
支持部材を構成するチューブの内径及び厚みは、再建されることが望まれる中空器官のものと適合されている。
【0079】
上記高分子の寸法、特に厚みは、どのような物性を目的とするかによって異なる。この物性は再建する器官の特性に応じた弾性と強度とを保証するものでなければならない。厚みはまた、チューブの直径及び再建される器官の特性によっても異なる。いかなる場合でも、再建される器官の直径によってチューブの内径が決まることは明らかである。
【0080】
生体材料は、チューブの多孔性の外層の表面又は内側に配置され、必要であれば外層の周りに巻き付けられた織布によって保持されていてもよい。別の例としては、チューブの不透過性内表面(実質的に無孔性の層)と多孔性の表面との間に生体材料を配置してもよい。この場合、多孔性層及び実質的に無孔性の層は固着されていなくてもよく、別々の独立した物として構成されていてもよい。従って、それらは物理的に独立していてもよい。無孔性層は、フィルム又は別の(第二の)無孔性のチューブであってもよい。「実質的に無孔性」とは、生分解性高分子と組み合わせた細胞又は生物材料が無孔性の層に全く又はわずかしか定着しない、好ましくは定着しないことを意味すると解される。
【0081】
生物材料の、生分解性の管状支持部材への配置又は該管状支持部材の内部への配置は、生体内で又は切除直前に行われるのが好ましい。
【0082】
一実施形態では、生分解性の中空管状支持部材を、中空器官の少なくとも一部を置換するように移植し、次いで、多孔性層の表面若しくは内側、又は、実質的に無孔性の層の多孔性層に対向する表面に生体由来材料を導入する。この結果、生体由来材料が生体内で増殖する。これにより、再建又は置換する中空器官又は中空器官の一部を非常に有利に再建することができる。
【0083】
第二の実施形態では、生物材料の培養工程を省略するため、切除の直前に生物材料を支持部材に配置する。
【0084】
第三の実施形態では、生分解性の管状支持部材を生物材料なしで移植する。その後、支持部材に宿主の細胞が定着する。
【0085】
第四の実施形態では、管状支持部材は、2つの物理的に独立した個別の(即ち独立して操作可能である)部品、即ち、多孔性層を含む第一の部品、及び、実質的に無孔性の層を含む第二の部品として作製される。この場合、無孔性層が再建される中空管状器官の内側に配置され、次いで、多孔性層がこの器官の外側に配置される。
【0086】
これらの実施形態は、特に生体外で播種し、細胞を培養する状況を回避することを可能にするものであるが、時間及び生産コストも削減することができる。一方、セルバンクを構成する必要はない。これらの有利な実施形態においては、プロテーゼは、生体由来材料が生体内で組み込まれる設計である。生体内で細胞を定着させるのが非常に好ましく、置換された器官全体又は一部の再建が可能となる。
【0087】
ヒト由来の生物材料は、細胞由来のもの(胚性幹細胞以外)であってもよく、生殖幹細胞が好ましく、例えば8週以降の胎児、特に8〜10週の胎児から採取した細胞、又は、生後、臍帯から採取した細胞が挙げられる。用いる生体材料は、さほど分化していないか又は未分化であることが好ましく、胎児由来であることが好ましい。また、再建される組織の増殖細胞で構成されてもよい。
【0088】
成体幹細胞よりも豊富であるため、胎児性幹細胞(8〜10週の胎児から採取)を用いることが好ましい。成体幹細胞は、再建される器官(胃、腸、子宮、膀胱、血管)から採取するのが好ましい。
【0089】
細胞は、少なくとも動物一個体、特に哺乳動物一個体、又は、少なくともヒト一個体から採取した細胞であってもよい。
【0090】
胎児材料は、器官若しくは器官切片、又は、細胞の乳濁液であってもよい。胎児材料は、表面上、即ち、接着又は付着するべきチューブの表面上に広がって、一種の網状被覆材を形成することができるように、湿性且つ粘着性であることが有利である。別の選択肢としては、分化が制御可能な幹細胞の使用がある。
【0091】
配置される層の厚みは、0.1〜1mmが有利であるが、それより厚くてもよい。当業者であれば、この層の厚みは主に器官の特性及びその受給者(ヒト又は動物)の特性に応じて異なることが理解できよう。
【0092】
高分子と生物材料(好ましくは胎児材料)との割合もまた、再建される器官の特性に応じて大きく変化させてもよい。
【0093】
胎児材料を使用する利点は以下の通りである:
・血管新生が生じていない場合でも(宿主の血管が定着するまでの間、栄養素が拡散するおかげで)移植体の生存率が高い。
・胎児の器官は、発達や成長に異常が生じない程度に分化してはいるものの、成熟した器官を成長及び再生させる高い能力を有する程度に未分化な状態である(胎児由来の材料では発達異常が認められない)。胎児材料の分化は容易であり、例えば、幹細胞を用いた場合よりも分化をより好適に制御することができる。
・胎児材料は病原体を含んでいないので、ウィルス感染のリスクが低減される。
【0094】
上述したように、本発明はまた、本発明のプロテーゼを製造する方法を包含する。
【0095】
この方法は、内表面上に実質的に無孔性の層を有する多孔性の管状支持部材を用意することと、上記管状支持部材の表面及び/又は内部に胎児由来の材料を組み込むこととを含む。
【0096】
上述したように、多孔性の管状支持部材、特にキトサンを原料とした支持部材は既に知られている。このような支持部材を本発明のプロテーゼの製造に用いてもよい。
【0097】
一般的に、多孔性の構造及び無孔性(非透過性)の内層を有する、高分子を原料としたチューブを製造するための技術は周知である。
【0098】
凍結乾燥は、多孔性材料を作製するための周知の方法の一つである。その原理は、溶媒を結晶化させるために溶液を凍結させることに基づく。
【0099】
その後、溶媒の結晶を孔に変換するために、真空昇華によって溶媒を除去する。この方法は以下の利点を兼ね備える:
・実施が容易;
・処理パラメーター及び処方パラメーター(冷却速度、高分子溶液の濃度等)により操作することで、多孔度及び孔径を制御可能;
・様々な形態に構成可能(多孔性膜、三次元支持部材、ビーズ又はチューブ);及び、
・工業的な外挿が容易に想定可能。
【0100】
文献:“Porous chitosan scaffolds for tissue engineering”(S.V.Madihally,H.W.T.Matthew,Biomaterials 20(1999),1133−1142)に記載されているように、多孔性のキトサンチューブは、2本の同心チューブ(シリコーン又はポリテトラフルオロエチレン製)の間の環状空間でキトサン溶液を凍結する、凍結乾燥によって作製される。(文献に記載されているように)キトサン溶液は該空間に注入され、その集合体全体を直接接触によって、即ち、−78℃のドライアイスによって凍結する。その後、外側のチューブを取り除き、集合体を凍結乾燥する。この方法を実行することにより、チューブは外表面及び内表面(又は管腔の表面)を含むその厚み全体にわたって完全に多孔性となる。
【0101】
無孔性の管腔壁で特徴づけられるチューブを得るために様々な方法を用いることができるが、上記と同一の著者らは、キトサンフィルムで内側のシリコーンチューブを事前に覆うことに基づいた方法について記述している。このキトサンフィルムは、チューブをキトサン溶液に浸漬し、そのチューブを30%アンモニア水溶液にすぐに浸すことによりゲル化し、放置して乾燥させることで得ることができる。また、実施例1で実施しているように溶媒を単に蒸発させることよってフィルムを直接形成してもよく、この方法はより有利である。
【0102】
水性媒体中で再水和すると、上述の支持部材は急速に膨張し、さらに、凍結乾燥した構造体に可溶性のキトサンアセテートが含まれているため最終的に再溶解する。また、水酸化ナトリウム溶液又は一連のアルコール希釈液へ浸漬してサンプルを中和することにより、支持部材が溶解しないようにしてもよい(S.V.Madihally,H.W.T.Matthew,Biomaterials 20(1999),1133−1142)。
【0103】
凍結乾燥によって多孔性チューブを作製する場合、酢酸中のキトサン濃度は1〜10%であるのが有利であると考えられる。
【0104】
多孔性支持体を作製するために、熱誘起相分離法又は凍結乾燥法に加えて、孔を形成することを目的とした他の方法も周知である。
【0105】
例えば:造孔用塩の抽出、超臨界流体(超臨界二酸化炭素)の気泡形成、さらには、三次元物体の外枠を構築する「固体自由造形法(solid free−forming)」といった表現で呼ばれている方法等の最近の方法が挙げられるが、これらの方法のほとんどでは、多孔性を好適に調整することができず、また、わずかに連結した多孔構造しか形成されない。
【0106】
チューブの内腔を無孔性とするために、無孔性のチューブを多孔性チューブの内部に挿入してもよく、或いは、管状支持部材の外側の多孔性部分を構成する多孔性膜で中空の無孔性チューブを取り囲んでもよい。これらの場合、多孔性層及び無孔性層は物理的に独立していてもよい。この変形例では、無孔性チューブ/食道接合の密閉性が向上するように、無孔性チューブの両端部に隆起を形成してもよい。この隆起は、無孔性チューブに事前に配置した糸によって形成されてもよく、チューブの材料で又は無孔性チューブと異なる材料で厚くしておくことによって形成されてもよい。またこの隆起によって食道へのチューブの装着を容易にすることもできる。
【0107】
キトサン溶液の凍結乾燥によって、十分な機械的強度を有する多孔性のキトサンチューブを得られる。キトサンを溶解するために用いる溶媒は、ギ酸、乳酸、コハク酸、塩酸及びグルコン酸等の有機酸又は無機酸であり、酢酸が好ましい。キトサンチューブの作製にこれらを用いてもよい。
【0108】
酢酸水溶液中に1〜10%の濃度でキトサンを溶解させてキトサン溶液を調製するのが理想的である。
【0109】
バイオプロテーゼの設計において出発原料として用いるキトサンは、理想的には、菌類由来であり、例えば上述のKitozymeの特許出願に記載の方法に従って菌類から抽出したキチンを脱アセチル化することにより得られる。
【0110】
キトサンのアセチル化度及び分子量は、再生する器官の再生速度に合った最適な分解速度となるように選択するのが有利である。
【0111】
生理学的条件に適合性のある支持部材を得るために、水酸化ナトリウム処理によってキトサン支持部材を中和することが有利である。1%水酸化ナトリウム溶液で処理することが好ましい。
【0112】
キトサン支持部材の滅菌は、γ線放射又はエチレンオキサイド法で行ってもよく、オートクレーブによって行ってもよい。
【0113】
本発明は、上記で定義したような、中空器官の少なくとも一部の再建を目的とした生分解性の管状支持部材を包含する。
【0114】
本発明はまた、管状中空器官を修復するための外科手術用の多孔性の生体適合性・生分解性高分子材料を包含する。この高分子材料は、多孔性の外層及び実質的に無孔性の内層を有する、又は、それらの層からなる生分解性の中空管状支持部材の多孔性層を形成するためのものである。
【0115】
生分解性中空管状支持部材は、最終的に、多孔性の外層が中空器官の外表面上に位置し、且つ、実質的に無孔性の内層が中空器官の内表面上に位置するように配置されることが有利である。
【0116】
一実施形態では、管状の高分子材料は遠位端と近位端を有し、近位端は全体又は一部が切断された中空器官の一方の端部に配置されるように構成され、遠位端は全体又は一部が切断された中空器官のもう一方の端部に配置されるように構成されている。
【0117】
この配置により、中空器官の一区域を完全に又は部分的に置換又は再建することが可能となる。
【0118】
「中空器官の端部」とは、広義で解釈されるものであって、中空器官の部分的切除の場合には、器官の組織の一部分であって、組織の切除箇所を通過する直線によって幾何学的に結ぶことができるもう一方の部分の組織と対向している部分であることは容易に理解できる。該直線は中空器官の内腔は通過しない。
【0119】
本発明は、細胞を増殖させる方法、特に中空器官の少なくとも一部を再建するために細胞を増殖させる方法を包含し、多孔性の外層及び実質的に無孔性の内層を有する生分解性の管状支持部材を作製することと、上記支持部材の多孔性層の外表面、及び/又は、該多孔性層の少なくとも一部の内側、及び/又は、上記実質的に無孔性の層の上記多孔性層に対向する表面上に、上記多孔性層内での増殖を可能にする条件下で細胞を播種するか、組織を移植することを含む工程を包含する。
【0120】
当業者にとっては、本発明の他の目的、特徴及び利点は、以下の実施例を参照した説明を読めば明らかであろう。なお、実施例は単に説明の目的で供するものであり、本発明の範囲を何ら制限するものではない。
【0121】
実施例は本発明の一構成部分であり、また、実施例を含む本明細書全体の記載に基づいて、従来技術に照らして新規である特徴は全て、機能的に且つ概略的に本発明の一構成部分である。
【0122】
上記より、実施例は全て、概括的な範囲を有するものである。
【実施例】
【0123】
実施例1:キトサン多孔性チューブの製造
5%(重量/体積)のKitoZyme社製植物由来キトサン(粘度平均分子量42K、アセチル化度11%)を酢酸溶液(1%)に添加する。
【0124】
直径が異なる2本の同心チューブで形成された環状空間へキトサン溶液を事前に注射器で注入し、凍結乾燥することにより、管状の多孔性支持部材を製造する。集合体を15分間液体窒素に直接接触させることによって凍結させる。その後、外側のチューブを取り除き、継続して集合体を24時間凍結乾燥する。乾燥後、今度は内側のチューブを取り除き、得られたチューブを走査型電子顕微鏡検査で分析する。
【0125】
図2A、2B、2C及び2Dは得られた写真であり、チューブの構造を示す。図2Aは、チューブの厚み全体にわたって多孔性であることが明らかに示された横断面図である。図2Bに、この多孔性構造体を特に詳細に示す。図2Cは、チューブの内表面を示し、孔がチューブの内腔に開口していないことを示している。これに対して、図2Dはチューブの外層の外観を示し、チューブの外部には孔が開口していることを非常に明らかに示している。
【0126】
実施例2:ラット及びマウスにおける多孔性チューブ及び膜の皮下移植後の組織構造
キトサンの酢酸溶液を凍結乾燥して作製したチューブ状のキトサン多孔性支持部材を、まず水酸化ナトリウム溶液による処理で中和し(酸性残基の除去のため)、次いで、96度のアルコールに20分間曝露してから生理食塩緩衝液で5分間洗浄するか、又は、オートクレーブによって滅菌した。BALBcマウス10匹及びフィッシャーラット5匹について、各耳に一個のキトサン移植片(膜又はチューブ)を皮下移植した。
【0127】
パラフィン及びポリエチレンでできたチューブを対照として用いた。
【0128】
各期間(7、14、62日)で、外面的な生体計測分析及び組織学的分析を行った。
【0129】
その結果、すべての動物でキトサン移植片の許容性は良好であり(図3A)、7日後では既に周囲の細胞及び組織がキトサン移植片に浸潤していることが明らかとなった(図3B)。中度の炎症反応が認められるものの、どの移植片も拒絶反応を誘発しなかった。キトサン移植片は、1〜4週間の間に分解され始め(図3C)、62日後には完全に吸収される。
【0130】
この実施例から導かれる結論は以下の通りである。キトサンプロテーゼは生体適合性があり、その付近に存在する細胞及び組織が浸潤可能であり、その分解中の炎症反応は極めてわずかである。
【0131】
実施例3:胎児材料と組み合わせた多孔性チューブ及び膜のマウスへの皮下移植
子宮内発育15〜20日のマウスの胎児から腸を採取し、宿主マウス(マウス10匹)のまぶた(ocular pavilion)に形成された皮下嚢に移植した;移植直前にキトサン管状支持部材の外表面を胎児材料で被覆することにより、この胎児材料をチューブ状のキトサン移植片と組み合わせた。免疫生物学的拒絶反応を回避するため、提供者及び受給者を同一系統とする(同系移植)。
【0132】
本実施例では、キトサンチューブを30〜40分間アルコールで処理して滅菌した後、残留アルコールを取り除くために滅菌食塩水で5分間、さらに25分間洗浄した。
【0133】
2カ月後(図4A)及び3カ月後(図4B)では、腸移植片は著しく成長し、この期間の終わりにはキトサン支持部材が完全に分解された。2カ月後(図4A)の胎児移植片の断面においては、キトサンチューブの存在下で、全ての腸の特徴(柔突起構造)を有する、成人の腸と同様の正常な腸の成長が認められ、またキトサンチューブ自体は完全に吸収されている。従って、この実験により、キトサン移植片が消化器官(この場合は腸)の同系胎児移植片の成長と適合性があることが示された。図4Bでは、腸管腔が認められる。
【0134】
3カ月後に宿主の肺、肝臓及び腎臓で採取した組織学的切片では、炎症反応及びこれらの器官に対する有害な影響は認められなかった。
【0135】
実施例4:食道用バイオプロテーゼの模擬実験
キトサンの多孔性チューブ及び胎児腸材料(チューブの外側に、又は、チューブの多孔性層と無孔性内表面との間に配置された胎児材料)からなる複合型プロテーゼを、食道を妨害することなく、ラットの頚筋間に長軸方向に移植した。この実験により、キトサンチューブは胎児腸材料を定着させることができ、頸部の運動に耐え得ることが示された。
【0136】
実施例5:同系胎児の食道又は腸で被覆したキトサン多孔性チューブを用いた食道の一部分の置換
ラットの胎児の腸の切片を子宮内発育14〜18日の間で採取し、キトサンの多孔性チューブの周囲に配置した。ラットの頸部から食道の一部分を0.5〜1cmの長さで切除した後、プロテーゼとこの器官との接合の密閉性又は対漏出性が得られるように、胎児材料と組み合わせたキトサンチューブをラットの食道の切断された両端に固定する。同一の実験を胎児食道材料で繰り返す。
【0137】
実施例6:キトサン中空管状支持部材のラットの頸部への移植後の許容性
実施例6の中空管状支持部材は、国際公開第2007/042281号パンフレットに記載の方法により実施例1のキトサンサンプルから作製した第一の無孔性チューブからなり、その内径は1.5mm、外径は2.5mmである。無孔性チューブは、従来の凍結乾燥法によって実施例1のキトサンから作製した多孔性膜に包まれており、これにより管状支持部材の多孔性の外層が構成されている。無孔性チューブ及び膜はいずれも、滅菌(オートクレーブ滅菌、又は、アルコール含有消毒溶液に15〜20分間浸漬)後、少なくとも20分間生理溶液(0.9%のNaCl)で洗浄される。
【0138】
麻酔をかけたラットの背中を適当な台に当て、頸部の前面が見えるように伸ばす。甲状軟骨から頸切痕まで皮膚を正中で切開し、皮下の筋肉を切開する。気管前方の筋肉を縦に切開し、その隙間にキトサン多孔性膜に包まれたキトサンチューブを長軸方向に配置する。筋肉層及び皮下層を縫合して閉鎖する。
【0139】
90日(3ヶ月)で屠殺したが、その動物の臓器の外観に巨視的な損傷は認められなかった。解剖病理学的な検討により、膜がほぼ完全に消失し、線維組織で良好に包まれてチューブが保存されたことが明らかとなり、臓器及びチューブと膜とを取り囲む組織に巨視的な損傷も微視的な損傷も認められなかった。
【0140】
実施例7:部分的に切断された食道への中空管状支持部材の移植
図5及び図6は、模式的にこの実施例を補助するものである。これらは何ら実際の詳細や大きさを表したものではなく、考慮されるべきものではない。
【0141】
麻酔をかけたラットの頸部の皮膚を縦に切開した後、気管と食道(501)を露出し、食道の一部(502)(周径の約2/3)を切断した(図5A)。その後、実施例6の無孔性チューブ(510)を、切断した器官の一部分(502)から食道(501)の内部に挿入した(図5B)。次いで、事前に食道(501)の周囲に配置した糸(503)を用いて無孔性チューブ(510)を装着し、チューブの端部(511、512)でチューブと食道の集合体を固定した(図5C)。その後、実施例6の多孔性膜(520)を食道+チューブ集合体に巻きつけ、縫合糸(535)により隣接する筋組織(530、531)と接合する(図5D)。こうして生体材料(540)を、管状支持部材(550)の多孔性の外面(520)と無孔性の内面(510)との間に原位置で配置する。
【0142】
術後の衰弱期に局所合併症(縫合裂開、膿瘍、浅在性感染)は見られない。動物は、10日間にわたってわずかに飲食に困難を呈し、体重が減少するが、状況は急速に改善する。このラットを35日後に屠殺する。解剖病理学的観察により、ラットは35日後には最初の体重に回復したことが明らかとなった。臓器の外観は正常である。
【0143】
食道は耐漏出性を有し、狭窄を起こすことなく再建された。局所的な膿瘍又は(食塊、体液等の)漏出は認められなかった。このように、このプロテーゼは食道との耐漏出接続を再構築することができた。
【0144】
組織学的切片を分析した結果、プロテーゼが完全にその場所から消失していた(プロテーゼはこの消化管のどの部分でも認められず、吸収又は消化されていた)こと、並びに、食道及びその近傍の組織の外観は正常であることが明らかとなった。生体材料がわずかしか浸潤していない領域の膜の残留物が、頚部食道付近でいくらか認められた。
【0145】
材料を移植する手順として用いることができる一例としては:
1.オートクレーブで滅菌するか、又は、アルコール含有消毒溶液に15〜20分浸漬して滅菌した無孔性のキトサンチューブ(610)及び多孔性膜(620)を用意する:
・滅菌生理溶液で少なくとも20分間チューブ(610)を洗浄する;
・同じ時間、同じ生理溶液(0.9%塩化ナトリウム)で多孔性膜(620)を洗浄する;
・チューブ(610)の両端部(611、612)の周囲に隆起のようなものを形成する2本のマーカー・接合用縫合糸(613、614)を配置する(図6A)。この隆起によってチューブ(610)の両端部の厚さが増すので、食道へのチューブの装着も容易になる。
2.気管及び食道(601)を露出し、食道を切開する;
3.切除(ablation)して、又は、切除(ablation)することなく食道(601)を部分的に切断(周径の約2/3以上を切断)し、穴(602)を露出する;
4.チューブ(610)の一端を挿入し、糸(613、614)で形成された隆起が食道(601)の内部に位置するように、切断された食道(601)の各開放端に巻きつけた糸(615、616)で食道(601)内に固定し、もう一端も同様に挿入及び固定する(図6B及び6C);
5.食道(601)及びチューブ(610)の外側(食道及びチューブの接触部)に、(チューブの場合と同一の方法で滅菌、洗浄した)多孔性膜(620)を巻きつける。膜(620)を固定するために、膜(620)の端部と隣接する組織(630、631)との間を縫合する(図6D)。糸615、616を用いて多孔性膜(620)を固定してもよい;
6.各層で手術創を閉じる。
【0146】
実施例8:完全に切断した食道への中空管状支持部材の移植
麻酔をかけたラットの頸部の皮膚を縦に切開した後、気管及び食道を露出した。頚部食道を中間の高さで完全に切断する。その後、実施例6の無孔性チューブを食道の内部に挿入し、次いで、チューブの両端部でチューブと食道の集合体が固定されるように、且つ、食道の管構造の再建が可能となるようなチューブの配置となるように、切断した食道の各開放端の周囲に事前に配置した糸を用いて固定する。その後、実施例6の多孔性膜を食道の周囲に巻きつけた後、チューブを隣接する筋組織に縫合糸を用いて固定する。その後、管状支持部材の多孔性の外面と無孔性の内面との間に生体材料を配置する。
【0147】
術後の衰弱期に局所合併症(縫合裂開、膿瘍、浅在性感染)は見られない。動物は、わずかに飲食に困難を呈した。
【0148】
術後1、3、6日後に観察を行うと、チューブ・食道接合は対漏出性を有していた。局部感染又は膿瘍は観察されなかった。各組織学的切片では、わずかに局所的な炎症反応が認められ、チューブ及び膜片が存在していることが確認できる。
【0149】
材料を移植するために用いることができる手順の一例:
実施例8で最初に行う作業工程は、実施例7の工程1及び2と同一の工程である。食道が部分的でなく、全く完全に切断されているため、工程3及び4は異なる。工程を以下に説明する。
3.切除(ablation)して、又は、切除(ablation)することなく中間の高さで頚部食道(701)を全体的に切断し、完全な切断面(702)を形成する;
4.無孔性チューブ(710)の一方の端部(711)を挿入し、チューブ上に糸(713、714)によって形成された隆起が器官(701)の内部に位置するように、切断した食道(701)の各開放端部(703、704)に巻きつけた糸(715、716)を用いて食道(701)の遠位部(703)に固定する。もう一方の端部(712)も同様に近位部(704)に挿入及び固定する(図7A);
5.食道(701)及びチューブ(710)の外側に多孔性膜(720)を巻きつける(図7B);
6.膜(720)を固定するために、膜の両端部と隣接した組織(730)との間を一箇所以上縫合又は接着(735)する(図7C);
7.筋肉及び皮膚の2層で創を縫合する。
【0150】
実施例9:本発明の中空管状支持部材の変形実施形態
上述の実施例に従って製造した本発明の管状支持部材は、アコーディオン型構造を形成するように、断面に連続した変化を有する部分を含んでいてもよい。このアコーディオン型構造はチューブの柔軟性を向上させることができるので、宿主の運動及び嚥下に対する耐久性も向上させることができる。例えば、直径が異なる2本の同心チューブによって形成された環状空間ではなく、それぞれが断面に連続して変化する部分を有する2つの同心環状空間を用いて実施例1の方法を実施することもできる。また、ある構造、特にチューブの柔軟性を向上させることができるアコーディオン型構造を有する無孔性チューブを作製するために、実施例6の無孔性チューブを作製する方法を実施することもできる。
【0151】
図8A及び8Bに、チューブのこの部分の2変形例を模式的に表す。
【0152】
また、同心環状空間は、例えばらせん状で厚みを変化させるようになど、様々な形状であってもよい。図8Cに、らせん状の変形例を模式的に表す。
【0153】
実施例10:胎児の腸又は食道単独での移植
第一工程:実施例6と同様に動物(ラット4匹)を準備するが、チューブは同一系統の17日齢のラット胎児から採取した腸の切片とする。
第二工程(1〜2ヵ月後):頸部を再び切開し、成長中の胎児の食道又は腸によって形成された包嚢を開放、洗浄し、受給者血管系と連絡した血管を損傷することなく、食道と同等の大きさの縦方向のチューブに成形する。受給者の食道を露出し、マーカー用糸を一区域の両側の端部に配置した後、この区域を切除する。次いで、6.0縫合糸を用いた連続縫合によって食道の両端部に「胎児」チューブを縫合する。可能であれば、縫合の密閉性を補強するために、生体接着剤を縫合部に加えてもよい。2層で手術創を閉じる。
【0154】
この実施例により、管状器官の再建用の胎児由来生体材料の移植の実現可能性が示される。
【0155】
実施例11:チューブと移植片とを組み合わせた食道部分の形成外科手術
方法:実施例10を同じく繰り返すが、剛性及び強度を向上させるために、キトサン製の無孔性チューブ(国際公開第2007/042281号パンフレットに基づいて作製)を、縫合の強化及び体内での食道の環状欠損の「修復」に要する期間、「胎児」チューブの内側に固定する。その後、該チューブを取り除くことができる。
【符号の説明】
【0156】
1 生分解性高分子を含むチューブの外層
2 細胞及び生体器官が成長するための空間
3 実質的に無孔性の内層
A 第一の実施形態での生体材料
B 第二の実施形態での生体材料
501 食道
502 切断部
503 糸
510 無孔性チューブ
511 端部
512 端部
520 多孔性膜
530 筋組織
531 筋組織
535 縫合糸
540 生体材料
550 管状支持部材
601 食道
602 穴
610 無孔性のキトサンチューブ
611 端部
612 端部
613 マーカー・接合用縫合糸
614 マーカー・接合用縫合糸
615 糸
616 糸
620 多孔性膜
630 隣接する組織
631 隣接する組織
701 頚部食道
702 完全な切断面
703 開放端部
704 開放端部
710 無孔性チューブ
711 端部
712 端部
713 糸
714 糸
715 糸
716 糸
720 多孔性膜
730 隣接した組織
731 隣接した組織
735 縫合又は接着部
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空器官又はそのような器官の一部を生体内で再建するのを促進するための新規なプロテーゼに関する。具体的には、ヒト若しくは動物の中空器官又はそのような器官の一部を生体内で再建するためのバイオプロテーゼに関する。
【背景技術】
【0002】
中空組織の置換、特にそのような器官の環状欠損の置換、より具体的には食道の環状欠損の置換は、外科分野、特に消化器外科において、依然として最も困難な課題の1つである。
【0003】
1950年代までは、中空器官(食道、総胆管の一部、膀胱、尿道等)の置換や、卵管の開通に、自己由来の(患者自身から採取した)腸や胃の一部が広く用いられていた。しかしながら、このような自家移植片は術後合併症の頻度が高い。
【0004】
高分子化合物が開発されたおかげで、1960年代にはポリマープロテーゼが種々の用途(食道、胃、胆管、血管)に広く用いられるようになった。このようなプロテーゼは、様々な物質(ポリエチレン、シリコーン、ポリウレタン、アクリレート/アミド三元共重合体、ポリテトラフルオロエチレン)から作られている。通常、これらのポリマープロテーゼの許容性は良好であるが、一体化の点においては最適ではない。このプロテーゼはその一つの面だけで生体組織と接触しているため、定着することはなく、その結果、痂皮の形成や、その分離及び脱離が生じたりする。従って、いかなる組成であっても、これらのプロテーゼは一時的なものでしかなく、定期的な交換が必要である。従って、これらの臨床的使用は、総胆管、膵管、気管及び食道管の排液等、特定の用途に限定されている。
【0005】
重度の食道癌患者の余命は非常に短く、このような患者に対する治療は多くの場合、姑息的治療、即ち、外科的切除や放射線療法/化学療法に限定され、取り立てて効果は得られていない。プロテーゼの使用が、不全失語症の解消及び食道癌患者の生活の質(QOL)の改善に有効であることは証明されているが、移動、穿孔及び食物による閉塞等の合併症により、死亡率が非常に高くなる。
【0006】
バイオプロテーゼは、人工チューブの内壁を培養組織で覆うように構成されている。この選択肢は各種の患部被覆材(通常、「パッチ」と呼ばれている)として、局所的な損傷の置換に有効であることが証明されているが、食道の環状損傷の処置には用いられていない。
【0007】
金属製の拡張型ステントの使用は、非拡張型プラスチックチューブに取って代わる効果的な手段であると考えられているが、上記と同様の合併症(痂皮、脱離)の問題が残されている。
【0008】
器官の全周にわたって切開された損傷ではなく、(例えば憩室切除後の)局所的な損傷の治療においては、パッチが有効な治療法となる。しかしながら、現在、重度の狭窄を伴う癌や熱傷の後に食道に見られるような細胞の損傷の治療における選択肢は、非常に限定されており、よりよい設計の食道プロテーゼが望まれる。
【0009】
生分解性高分子を用いた戦略が、組織を新たに発生又は再生させることを目的とした選択肢として現われた。多くの生分解性材料が、スポンジ、メッシュ生地(「メッシュ」、場合によってはマトリックス、と呼ばれている)、チューブ及びナノファイバーの形状で、食道再生用支持部材としてラット又はマウスの実験モデルに用いられている。この戦略の実施には、ポリ乳酸(PLA)系、ポリグリコール酸(PGA)系及びポリカプロラクトン(PCL)系の生分解性ポリエステル等の合成高分子が利用されている。これらには市販されているものもある(例えば、バイクリル(Vicryl)外科用メッシュ)。
【0010】
しかしながら、生物模倣が不十分であるため、これらの合成高分子単独では組織の再生に至る生体反応を誘導することができず、多くの場合、表面改質(コラーゲン又はフィブロネクチンの移植)が必要となる。
【0011】
食道の損傷の治療を目的とした、成人組織(十二指腸粘膜や、血管再生した回腸の粘膜下組織移植片、凍結乾燥硬膜)の移植や自己由来物質(細胞、粘膜)の移植が開示されている。
【0012】
しかしながら、成人組織は虚血に脆弱であるため、移植後の組織生存率に限界がある。また、成人組織の移植片を無能力化することは困難であり、それに対する処置を繰り返す必要がある。成人組織の移植は、非環状欠損を閉鎖するための選択肢の1つであって、環状損傷に対するものではない。
【0013】
また、胃全体の移植についても開示されているが、これにおいては、逆流や腸への急速な排出等の問題がある。
【0014】
成人組織ではなく、自己由来細胞と組み合わせた人工プロテーゼの使用に基づいた複合的な戦略が提案されている。
【0015】
組織工学と呼ばれるこの考えは、ここ10年、大きな関心を集めている。
【0016】
この方法では、天然又は合成生分解性高分子の支持部材を、事前に生体外で培養したヒト細胞(好ましくは自己由来ヒト細胞)と組み合わせて使用する。この細胞/マトリックス集合体を、損傷した器官又は組織を再建、再生又は修復するために、生体内に移植する。この戦略は、Marzaroら(非特許文献1)によって開発されたものである。Marzaroらは、移植可能な食道を作製するために、食道と相同な無細胞マトリックス及び自己由来平滑筋細胞を生体外で用いることを提案している。
【0017】
また、食道に関する工学技術においては、播種されたコラーゲンネットワークと筋肉層とからなる2層チューブも製造されている。これにより細胞浸潤及び新血管形成が可能となる。
【0018】
また、脱細胞化した食道も、組織工学において生体適合性のある支持部材として利用されている。しかしながらこの選択肢では、組織の入手しやすさの点、及び、修復する器官の大きさ及び容積と合わせるためにプロテーゼを必要とする点が問題となる。更に、食道の再建に用いる人工支持部材及び自己由来組織は、その内表面を上皮組織で完全に覆うことができるわけではないので、長期に渡ると狭窄や漏出等の合併症を引き起こす可能性がある。
【0019】
特許文献1には、皮膚と血管細胞を含む皮下層とからなる2層構造を有する、食道の組織工学用の支持部材が開示されている。この支持部材は、バイオマテリアルであってもよく、合成材料であってもよいが、無細胞マトリックスと組み合わせて用いるのが好ましい。播種する細胞は繊維細胞であってもよく、内皮細胞又はケラチン生成細胞であってもよい。このデバイスは、組織の再生に用いることができるものの、食道等の器官全体の置換には用いることができない。
【0020】
その他のすべての現行の治療法には、細胞の採取や、計画時間の問題及びコストが高いといった問題がある。
【0021】
特許文献2には、多孔性層と無孔性層とを備えたキトサンチューブを製造する方法が記載されている。特許文献2は、管状構造を形成する手段として遠心力を利用することについて記載しており、無孔性層が必ず管状構造の外表面上に配置される。従って、特許文献2には、管状器官の再建における技術的な問題を解決することが可能な管状構造の記載はない。さらに、組織を再建した実施例の記載もない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0022】
【特許文献1】中国特許出願公開第1,410,034号明細書
【特許文献2】国際公開第2006/047758号パンフレット
【非特許文献】
【0023】
【非特許文献1】Marzaro et al.Journal of Biomedical Materials Research,2006,77a(4),795−801
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
本発明の目的は、上記問題を全て解決することであり、特に中空器官又は中空器官の一部の再建を促進するための新規なプロテーゼを提供することにより上記問題を解決することである。
【0025】
本明細書において、本発明は、再建される器官に課される運動に耐える、特には日常的に運動(ねじれ、嚥下等)する身体の領域である頸部の中にその一部が存在する食道の運動に耐えるという技術的課題の解決策を提起する。
【0026】
さらに、本発明の目的は、機械的強度、及び/又は、再建する器官の内表面と常時接触する若しくはしないものであってもよい体液に対するプロテーゼの耐漏出性等、器官の再建に好適な特性を有するプロテーゼの提供という課題を解決することである。
【課題を解決するための手段】
【0027】
キトサンは、キチンを脱アセチル化することによって得られる生体高分子であり、甲殻類の殻、節足動物のクチクラ、頭足類の内骨格、珪藻土中に存在する他、菌類の細胞壁等の菌類由来のものもある。キトサンは、生体適合性、生分解性を有し、細胞外マトリックスのグリコサミノグリカンの構造に類似している、等の有利な特性を有する。キトサンは、創傷治癒、医薬の制御放出機構、止血デバイス、外科的用途(吸収性縫合糸、癒着防止材)、眼科、並びに、組織工学、細胞カプセル化、遺伝子治療及び予防接種での使用などといった生物医学的用途において非常に関心を集めている。
【0028】
Khorらは、キトサンの潜在用途について概説している(Khor and Lim,Biomater 2003;24:2339−2349)。
【0029】
キトサンが多孔性の気泡構造である場合、中空状と考えられる器官の組織工学に好適に用いることができる。“Chitin−based tubes for tissue engineering in the nervous system”,Biomater 2005;26−4624−4632において、Freierらは、キチンをアルカリ加水分解してキトサンチューブを作製する方法を記載している。この著者らは、キトサンフィルムの後根神経節ニューロンとの細胞適合性及び生体外での神経増殖について記載している。
【0030】
国際出願第2007/042281号パンフレット(A2)には、N−アシルキトサンゲルを押出成形することにより、有毒溶媒又は架橋剤や他の有毒化合物を用いることなく、キトサン又はキトサン誘導体からなる十分な機械的強度のチューブ及び繊維を作製する方法が記載されている。
【0031】
Madihallyらは、キトサンを含有する特定の構造体、例えば多孔性構造を有する中空管等の構造体を作製する方法を記載している(Madihally and Matthew,Biomater 1999;20:1133−1142)。この多孔性のチューブ状支持部材は、円筒形のプラスチックチューブ内でキトサン溶液を凍結することにより作製される。無孔性の管腔状の膜を有するチューブを、不活性チューブをまずキトサンフィルムでコーティングすることによって、作製することもできる。ここで、該キトサンフィルムは塩基性媒体でキトサンをゲル化した後、空気中で脱水することにより得られる。支持部材を乾燥させた後、水酸化ナトリウム又はエタノールで処理して再水和し、リン酸緩衝生理食塩水で中和した後、電子顕微鏡検査及び機械的試験によって支持部材の特性が評価される。支持部材について、数種類の生物学的評価が行われたが、上記文献では組織工学用途における技術的な結果が示されていない。
【0032】
Qinらは、組織工学によって食道を作製するためのキトサン系材料の使用の可能性について検討している(Qin,Xiong,Duier Junyi Daxue Xuebao 2002,23,1134−1137)。Qinらは、ラットの食道上皮細胞とともにコラーゲン−キトサン膜を筋肉下に移植し、移植後2週では健康な状態で移植集合体が残存しているが、移植後4週では完全に分解されることを示した。この著者らは、この高分子支持部材の細胞適合性を示したが、支持部材についての説明は他にない。特に支持部材を生分解性の人工食道として使用することについては記載していない。
【0033】
中空器官、とりわけ食道の再建において、特にそれらに環状欠損がある場合に生じる問題を鑑みると、特に環状欠損がある場合に、このような器官の再生を可能にする新規な解決策の開発が実際に求められていることは明らかである。
【0034】
本発明は、中空器官を確実に再生することを目的とした、中空器官内に若しくは中空器官上に移植すること、又は、中空器官に関連して移植することが可能な新規なプロテーゼ又はバイオプロテーゼを提唱する。上記中空器官としては、とりわけ食道が挙げられる。
【0035】
上記バイオプロテーゼは、生体材料と組み合わされた、又は、再建される器官の組織細胞と組み合わされた生分解性の多孔性支持部材を含む。上記生体材料は、好ましくはさほど分化していないか又は未分化であり、且つ、好ましくは胎児材料である。
【0036】
上記生分解性の多孔性支持部材は、キトサンで構成されるのが有利であるが、最終的に所望の多孔性が得られる生分解性・生体適合性の高分子材料であればどのようなもので構成されていてもよい。様々な多孔性支持部材の組み合わせ(例えば、キトサン・コラーゲンの組み合わせ、キトサン・ヒアルロン酸等のキトサン・グリコサミノグリカンの組み合わせ、又は、その他の当業者に周知の組み合わせ)もまた、本発明に包含される。
【0037】
この生分解性管状支持部材は、本質的に、以下の特性を有するように設計されている:
・細胞増殖及び細胞の血管新生を可能にする生分解性の多孔性外表面;
・人工食道である場合には食塊と接触する、又は、より一般的には、中空器官を循環する体液と接触する、生分解性の無孔性内表面;
・再建される器官と同一の、又は、再建される器官に対応する直径及び大きさ;並びに、
・十分な機械的特性。
【0038】
このプロテーゼは、生体適合性・生分解性の生体高分子から容易に製造することができ、且つ、様々な器官の解剖学的特性を妨害しないという長所を有する。驚くべきことに、このプロテーゼによって、再建又は置換すべき中空器官又は中空器官の一部を、狙い通りに首尾よく再建することができる。「狙い通りに再建する」とは、プロテーゼ内の細胞増殖によって器官、又は、器官の一部が再建されることを意味すると解される。特に驚くべきことは、組み合わせた生物材料を介して移植された細胞が増殖可能であり、且つ、生分解性管状支持部材が存在するにもかかわらず、この細胞が細胞外マトリックスの再構築を可能にする機能を果たすことにより、中空器官の置換された部分を再建することができることである。さらには、所望の機械的及び生理学的特性を得ることもできる。
【0039】
上記管状支持部材は、分化した、さほど分化していない、又は、未分化の生体材料とともに使用するのが好ましい。一変形例では、修復する器官に対して特定の胎児材料を用いることにより、この器官の構造、形態及び機能を妨害せずに器官を再生することが可能となる。別の変形例では、再建される器官の組織細胞の少なくとも一部によって構成される生体材料を使用する。この組織細胞は、通常、本発明の多孔性層内で優れた増殖能力を有する細胞である。
【0040】
従って、本発明は複合型バイオプロテーゼに関し、このバイオプロテーゼは、生体適合性・生分解性の管状多孔性支持部材a)と、さほど分化していない又は未分化の生体材料b)、好ましくは、移植の後に異所性マトリックスを形成可能な特定の胎児材料、とを構成要素とする。
【0041】
本発明の目的の一つは、先行技術における自己由来細胞又は成人組織の使用に関する限界を克服するために、中空器官を再生するための複合型バイオプロテーゼを製造することである。このバイオプロテーゼにより、ウィルス感染又は移植片の拒絶反応のリスクを伴わずに器官全体を再生することが可能になる。(同種異系の胎児材料を用いる場合であっても、異種(提供者が受給者とは異なる系統又は種)の胎児材料を用いる場合であっても、免疫抑制又は耐性付与のための通常の処置を考慮しておく必要がある。)
【0042】
第一の態様において、本発明は、中空器官又は中空器官の一部の生体内での再建を促進するためのプロテーゼであって、当該プロテーゼは
・少なくとも一種類の生体適合性・生分解性高分子材料を含み、且つ、多孔性の外層及び実質的に無孔性の内層を有する生分解性中空管状支持部材と、
・上記支持部材の多孔性層の外表面、及び/又は、該多孔性層の少なくとも一部の内側、及び/又は、上記実質的に無孔性の層の上記多孔性層に対向する表面上に配置された生体由来材料とを備え、
上記生体由来材料は、上記器官又は器官の一部の生体内での再建が可能となるように選択されたものであることを特徴とするプロテーゼに関する。
【0043】
実質的に無孔性の層及び多孔性層が異なる材料から構成される変形例も、これらの層が、多孔性が異なることを除き同一の材料から構成されている変形例も、本発明に包含される。
【0044】
第二の態様において、本発明はまた、このようなプロテーゼを製造する方法に関する。この方法は、実質的に無孔性の層を内面上に有する管状多孔性支持部材を用意することと、上記管状支持部材の外表面、及び/又は、上記管状支持部材内に生体由来材料を組み込むこととを含む。この方法は、特に、細胞増殖が可能な多孔性の外層と、(細胞増殖が実質的に不可能な)実質的に無孔性の内層とを有する生分解性管状支持部材を用意することと、上記支持部材の多孔性層の外表面、及び/又は、該多孔性層の少なくとも一部の内側、及び/又は、上記実質的に無孔性の層の上記多孔性層に対向する表面上に、プロテーゼ形成用の生体材料を組み込むこととを含む。
【0045】
本発明の他の特徴及び利点は、下記の詳細な説明及び実施例から明らかとなり、図1〜8により説明される。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明のチューブの断面図である。図1中、参照番号1は生分解性高分子を含むチューブの外層を指し、参照番号2は細胞及び生体器官が成長するための空間を指す。また、参照番号3は実質的に無孔性の内層を指す。参照番号Aは、チューブの外表面上に生体材料が配置又は固定されている第一の実施形態での生体材料を指す。参照番号Bは、生体材料が多孔性の外層と無孔性層との間に配置された第二の実施形態での生体材料を指す。
【図2A】実施例1で得られた多孔性チューブの走査型電子顕微鏡写真である。
【図2B】実施例1で得られた多孔性チューブの走査型電子顕微鏡写真である。
【図2C】実施例1で得られた多孔性チューブの走査型電子顕微鏡写真である。
【図2D】実施例1で得られた多孔性チューブの走査型電子顕微鏡写真である。
【図3】図3A、3B及び3Cは、移植後7日(a、b)及び14日(c)でのキトサン材料の体内への一体化の段階及びその後の吸収段階に関する。
【図4】図4A及び4Bに、2カ月及び3カ月後の、キトサンチューブ存在下、及び、キトサンチューブ消失(吸収)後の胎児由来腸の異所性成長を示す。
【図5】図5A、5B、5C及び5Dに、本発明の管状支持部材の一変形例を挿入する方法を模式的に示す。この方法では、無孔性の内層と多孔性の外層とが物理的に独立している。
【図6】図6A、6B、6C及び6Dに、本発明の管状支持部材の一変形例を挿入する方法を模式的に示す。この方法では、無孔性の内層と多孔性の外層とが物理的に独立している。
【図7】図7A、7B及び7Cに、本発明の管状支持部材の一変形例を挿入する方法を模式的に示す。この方法では、無孔性の内層と多孔性の外層とが物理的に独立している。
【図8】図8A、8B及び8Cに、管状支持部材に柔軟性を付与する手段を含む本発明の変形例を模式的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0047】
本発明は、中空器官の再生、特に病変を呈する食道の一部を再生するための複合型バイオプロテーゼに関する。他の器官、例えば、腸、総胆管、胃、膵管、泌尿器管(尿道及び尿管)、膀胱、血管、卵管及び子宮等も、本発明を用いて修復、置換又は再生することができる。病変としては、例えば癌が挙げられる。即ち、少なくとも一部が癌に冒された中空器官、特に中空器官が食道の場合に、この中空器官を置換するために、全ての変形例を含む本発明のプロテーゼを用いることが本発明に包含される。従って、本発明は、中空器官の少なくとも一部に存在する癌の外科的治療法、特に中空器官の一区域を全体的に摘出又は切除(ablation)する必要がある場合の外科的治療法も包含する。他の病変、例えば重度の狭窄を伴う熱傷等にも、本発明の治療は有益であろう。このように、本発明は、中空管状器官の一区域の少なくとも一部を摘出又は切除する必要がある病変の外科的治療法に関し、この治療法は、中空管状器官の一区域を全体的に又は部分的に摘出又は切除することと、その摘出又は切除部分を生体内で再建するために、全ての変形例を含む本発明で定義されるプロテーゼ、管状支持部材又は高分子材料を摘出又は切除された領域近傍に配置することとを含むことを特徴とする。
【0048】
本発明において、管状支持部材は、生体適合性・生分解性高分子から構成されているのが有利である。チューブは多孔性であるが、その内壁には実質的に無孔性の不活性な表面が備わっている。多孔性層と実質的に無孔性の層とは、同一の生分解性高分子で構成されているのが有利である。
【0049】
本発明において、組織支持部材は十分な機械的特性を有し、生体内での機械的条件に対応可能である。
【0050】
一変形例において、本発明の管状支持部材は、特に再建された器官の運動に対する耐久性を向上させる目的で、支持部材に柔軟性を付与する手段を含む。このような手段としては、以下に限定されないが、例えばアコーディオン構造又は螺旋状構造が挙げられる。
【0051】
本発明において、管状支持部材は、生物材料に適合性があり、好ましくは胎児材料である。
【0052】
本発明において、管状支持部材は、生体内で生分解されるが、新組織の成長及び増殖が可能となるように一時的に支持しながら徐々に分解されるように調整されている。
【0053】
本発明において、管状支持部材は、再建される器官の構造及び機能に応じた特定の大きさ及び構造を有する。実質的に無孔性の層は、再建される器官内に存在するものであっても再建される器官を通過するものであってもよい生体媒質(生体液、食塊等)に対する多孔性層及び/又は生体材料の耐漏出性を確実にするものでなければならない。「耐漏出性」とは、宿主の機能の低下を引き起こす可能性がある物質が通過することがないこと、さらには時間が経過しても自然には消失しない炎症が生じないことを意味すると解される。実質的に無孔性の層の厚さは、60μmから3mmであってもよく、上限は2.5又は2mmであってもよい。また、厚さの下限は100μmであってもよい。実質的に無孔性の層はまた、本発明の一変形例の生体材料の支持部材として、又は、必要に応じて別の変形例の生体材料を含む多孔性層の支持部材として機能する。無孔性の層はまた、食道等の中空管状器官の再建を誘導する機能を有していてもよい。
【0054】
本発明において、管状支持部材は、凍結乾燥法、成形法、押出法、溶媒蒸発法、造孔剤抽出法、浸漬析出法(immersion−precipitation)等の方法で作製されてもよく、これらの方法を組み合わせて作製されてもよい。
【0055】
本発明において、複合型バイオプロテーゼは、胃腸管、消化管、胆管、膵管、泌尿器管及び生殖器管、さらには血管及び神経組織等のヒトの中空器官の修復、置換又は再生に用いることができる。
【0056】
本発明の複合型バイオプロテーゼは、生物材料(好ましくは胎児材料)の異所性増殖に最適な特性を有する支持部材を構成要素として含む。この支持部材は、消化管、胆管、膵管、泌尿器管及び生殖器管(食道、腸、胃、総胆管、尿道、尿管、膀胱、卵管及び子宮)等の中空器官の再生を可能にする生分解性の管状構造体である。本発明の趣旨は、生分解性の管状支持部材で欠損部位を恒久的に置換することではなく、好ましくはさほど分化していない若しくは未分化であり、且つ、好ましくは胎児由来である生体材料の移植と組み合わせて、又は、再建される器官の組織細胞の少なくとも一部と組み合わせて生分解性管状支持部材を用いることにより組織の再生を促進/刺激することである。
【0057】
支持部材は、細胞/組織の移動、中空器官の血管新生及び再生を促進することが可能な多孔性の外層を備えたチューブとして構成されている。チューブの内腔は非透過性であり、食塊、又は、器官の中空部分を循環する他の流体と接触していてもよい。支持部材はまた、再建される器官に応じた容積及び大きさを有する。
【0058】
上述したように、生体材料の支持体としての機能を有する管状支持部材は、種々のポリマーから構成されていてもよく、該ポリマーによって、再建される器官又は再建される器官の一部と同様の大きさのチューブであって、十分な機械的特性(形状及び内腔が収縮することのない弾性、強度及び柔軟性)と、生物材料(好ましくは胎児材料)が生体内で成長中に確実に好適に付着するのに適しつつ、中空器官を通常循環している流体を確実に正常に循環可能とするのにも適した多孔性とを有するチューブを得ることができるであろう。
【0059】
より具体的には、孔は、細胞の浸潤及び血管の定着が可能となるのに、且つ、生物材料(好ましくは胎児材料)が成長可能となるのに十分な大きさでなければならない。
【0060】
孔は、細胞の相互作用、酸素及び代謝産物の拡散が可能となるように相互に連絡しているのが好ましい。
【0061】
チューブの厚さ全体にわたって、その内表面まで連続した多孔性であるのが好ましい。
【0062】
内径は再建される管の大きさに適合していなければならない。外径をどのように選択するかはさほど重要ではない。しかしながら、チューブの柔軟性は保持されなければならず、それも考慮する必要がある。
【0063】
消化管(例えば食道や胃)の場合、このチューブが糜汁に対して耐漏出性を有するように、呼吸器管(例えば気管)の場合、このチューブが気体に対して耐漏出性を有するように、他の器官の場合、他の流体に対してこのチューブが耐漏出性を有するように、また、細菌やウィルスの通過を防止することができるように、チューブの内層又は内表面は非透過性且つ無孔性でなければならない。さらに、管状支持部材の内腔を最終的に閉鎖してしまう可能性のある目的外の細胞増殖を防ぐために、この内表面は実質的に細胞増殖を妨げる実質的に無孔性の層で構成される。
【0064】
チューブは通常、チューブが押しつぶされないように、且つ、空気又は食塊の他、再建される器官に応じてそれぞれ異なる流体が確実に通過可能な内腔(内径)を維持できるように、十分な機械的強度を有することが好ましい。
【0065】
上記高分子材料は、器官の再生に必要な、徐々に分解される性質を有することが好ましい。高分子材料はまた、細胞毒性、炎症反応又は拒絶反応を誘発しないように生体適合性でなければならない。また、高分子材料は生物材料(好ましくは胎児材料)に対して適合性がなければならない。
【0066】
高分子材料はさらに、容易に滅菌できるものでなければならない。
【0067】
上述したように、支持部材は、入手が容易な材料であり、且つ、簡単な工程を経ることにより、上述した利点を全て得ることもできるキトサンで構成されていることが有利である。しかしながら、生分解性であり、生体適合性を有することが知られている他の多くのポリマーを選択することもできよう。
【0068】
より具体的には、上記高分子材料はキトサン、キチン、キチン−グルカン共重合体及びそれらの誘導体又は共重合体からなる群から選択される。ここで、上記高分子は必要に応じて少なくとも一種類の他の生体適合性・生分解性高分子と組み合わされてもよい。
【0069】
特に、細胞増殖能、機械的強度、プロテーゼと接している宿主の生体媒質との接触時の膨潤度、変形能、分解速度、圧縮性、弾性、しなやかさ、柔軟性等の特性のうちの一つ以上を改変するために、上記に定義したキトサン、キチン又はそれらの誘導体若しくは共重合体と組み合わせて、他の様々な生体適合性・生分解性高分子を用いることもできる。
【0070】
生体高分子、特にグリコサミノグリカン(GAG)、とりわけヒアルロナン、コンドロイチン硫酸又はヘパリン、コラーゲン、アルギン酸塩、デキストラン及びそれらの混合物からなる群より選択される生体高分子を特に利用することができる。
【0071】
また、生分解性・生体適合性合成高分子、特に乳酸、グリコール酸、ε−カプロラクトン及びp−ジオキサノンに基づいた単独重合体類及び共重合体類等の生分解性合成ポリエステルからなる群より選択される生体適合性・生分解性合成高分子、又は、ヒドロキシ酪酸塩、ヒドロキシ吉草酸塩、ポリオルトエステル及びポリウレタンに基づいた単独重合体類及び共重合体類等のポリヒドロキシアルカン酸系化合物の天然ポリエステル等の他の天然ポリエステルを選択することも可能である。
【0072】
キトサン又はキトサンを含む高分子材料を用いることが好ましい。
【0073】
キトサンは、キチン(その原料としては様々なものが周知)の脱アセチル化によって製造される。原料としては、甲殻類(主にカニ、エビ及びロブスター類)、頭足類の内骨格、節足動物のクチクラ、珪藻土、及び、菌類の細胞壁等がある。低アレルギー性であること、一定した品質であり容易に追跡可能であること、ほぼ無尽蔵で完全に再生可能な原料であること、さらに農業食品及びバイオテクノロジー産業の副産物の再利用が可能となることから、菌類由来高分子を選択するのが好ましい。キトサンは、Kitozymeの国際公開第03/068824号パンフレットに記載の方法で製造するのが有利であろう。
【0074】
キトサンの脱アセチル化度及び分子量は、確実に最適な速度で分解されるように選択されるのが好ましい。例えば、キトサンの分解速度はその分子量及び脱アセチル化度に大きく依存することが示されており、分子量や脱アセチル化度が低いほど、速く分解される。従って、多孔性の調整が重要であり、孔径が大きく多孔度が高いほど、支持部材の分解は速くなる。
【0075】
支持部材として用いるチューブの作製にキトサンを選択する場合、他の生分解性高分子(例えばキチン又はキチン−グルカン等の別の糖質高分子)と組み合わせてもよい。これらの重合体又は共重合体を形成する方法は、Kitozymeの特許出願(国際公開第03/068824号パンフレット、仏国特許出願公開第05/07066号明細書及び仏国特許出願公開第06/51415号明細書)に記載されている。
【0076】
上述したように、生体内にプロテーゼを組み込んだ後、生物材料(好ましくは胎児材料)の付着及び成長を可能にするために、管状支持部材は多孔性であることが不可欠である。
【0077】
少なくとも血球と、必要に応じてある程度の移植細胞とが通過可能となるのに十分な多孔性が必要である。従って、多孔質部分の孔径は、10μmよりも大きく、好ましくは10〜200μmである。
【0078】
支持部材を構成するチューブの内径及び厚みは、再建されることが望まれる中空器官のものと適合されている。
【0079】
上記高分子の寸法、特に厚みは、どのような物性を目的とするかによって異なる。この物性は再建する器官の特性に応じた弾性と強度とを保証するものでなければならない。厚みはまた、チューブの直径及び再建される器官の特性によっても異なる。いかなる場合でも、再建される器官の直径によってチューブの内径が決まることは明らかである。
【0080】
生体材料は、チューブの多孔性の外層の表面又は内側に配置され、必要であれば外層の周りに巻き付けられた織布によって保持されていてもよい。別の例としては、チューブの不透過性内表面(実質的に無孔性の層)と多孔性の表面との間に生体材料を配置してもよい。この場合、多孔性層及び実質的に無孔性の層は固着されていなくてもよく、別々の独立した物として構成されていてもよい。従って、それらは物理的に独立していてもよい。無孔性層は、フィルム又は別の(第二の)無孔性のチューブであってもよい。「実質的に無孔性」とは、生分解性高分子と組み合わせた細胞又は生物材料が無孔性の層に全く又はわずかしか定着しない、好ましくは定着しないことを意味すると解される。
【0081】
生物材料の、生分解性の管状支持部材への配置又は該管状支持部材の内部への配置は、生体内で又は切除直前に行われるのが好ましい。
【0082】
一実施形態では、生分解性の中空管状支持部材を、中空器官の少なくとも一部を置換するように移植し、次いで、多孔性層の表面若しくは内側、又は、実質的に無孔性の層の多孔性層に対向する表面に生体由来材料を導入する。この結果、生体由来材料が生体内で増殖する。これにより、再建又は置換する中空器官又は中空器官の一部を非常に有利に再建することができる。
【0083】
第二の実施形態では、生物材料の培養工程を省略するため、切除の直前に生物材料を支持部材に配置する。
【0084】
第三の実施形態では、生分解性の管状支持部材を生物材料なしで移植する。その後、支持部材に宿主の細胞が定着する。
【0085】
第四の実施形態では、管状支持部材は、2つの物理的に独立した個別の(即ち独立して操作可能である)部品、即ち、多孔性層を含む第一の部品、及び、実質的に無孔性の層を含む第二の部品として作製される。この場合、無孔性層が再建される中空管状器官の内側に配置され、次いで、多孔性層がこの器官の外側に配置される。
【0086】
これらの実施形態は、特に生体外で播種し、細胞を培養する状況を回避することを可能にするものであるが、時間及び生産コストも削減することができる。一方、セルバンクを構成する必要はない。これらの有利な実施形態においては、プロテーゼは、生体由来材料が生体内で組み込まれる設計である。生体内で細胞を定着させるのが非常に好ましく、置換された器官全体又は一部の再建が可能となる。
【0087】
ヒト由来の生物材料は、細胞由来のもの(胚性幹細胞以外)であってもよく、生殖幹細胞が好ましく、例えば8週以降の胎児、特に8〜10週の胎児から採取した細胞、又は、生後、臍帯から採取した細胞が挙げられる。用いる生体材料は、さほど分化していないか又は未分化であることが好ましく、胎児由来であることが好ましい。また、再建される組織の増殖細胞で構成されてもよい。
【0088】
成体幹細胞よりも豊富であるため、胎児性幹細胞(8〜10週の胎児から採取)を用いることが好ましい。成体幹細胞は、再建される器官(胃、腸、子宮、膀胱、血管)から採取するのが好ましい。
【0089】
細胞は、少なくとも動物一個体、特に哺乳動物一個体、又は、少なくともヒト一個体から採取した細胞であってもよい。
【0090】
胎児材料は、器官若しくは器官切片、又は、細胞の乳濁液であってもよい。胎児材料は、表面上、即ち、接着又は付着するべきチューブの表面上に広がって、一種の網状被覆材を形成することができるように、湿性且つ粘着性であることが有利である。別の選択肢としては、分化が制御可能な幹細胞の使用がある。
【0091】
配置される層の厚みは、0.1〜1mmが有利であるが、それより厚くてもよい。当業者であれば、この層の厚みは主に器官の特性及びその受給者(ヒト又は動物)の特性に応じて異なることが理解できよう。
【0092】
高分子と生物材料(好ましくは胎児材料)との割合もまた、再建される器官の特性に応じて大きく変化させてもよい。
【0093】
胎児材料を使用する利点は以下の通りである:
・血管新生が生じていない場合でも(宿主の血管が定着するまでの間、栄養素が拡散するおかげで)移植体の生存率が高い。
・胎児の器官は、発達や成長に異常が生じない程度に分化してはいるものの、成熟した器官を成長及び再生させる高い能力を有する程度に未分化な状態である(胎児由来の材料では発達異常が認められない)。胎児材料の分化は容易であり、例えば、幹細胞を用いた場合よりも分化をより好適に制御することができる。
・胎児材料は病原体を含んでいないので、ウィルス感染のリスクが低減される。
【0094】
上述したように、本発明はまた、本発明のプロテーゼを製造する方法を包含する。
【0095】
この方法は、内表面上に実質的に無孔性の層を有する多孔性の管状支持部材を用意することと、上記管状支持部材の表面及び/又は内部に胎児由来の材料を組み込むこととを含む。
【0096】
上述したように、多孔性の管状支持部材、特にキトサンを原料とした支持部材は既に知られている。このような支持部材を本発明のプロテーゼの製造に用いてもよい。
【0097】
一般的に、多孔性の構造及び無孔性(非透過性)の内層を有する、高分子を原料としたチューブを製造するための技術は周知である。
【0098】
凍結乾燥は、多孔性材料を作製するための周知の方法の一つである。その原理は、溶媒を結晶化させるために溶液を凍結させることに基づく。
【0099】
その後、溶媒の結晶を孔に変換するために、真空昇華によって溶媒を除去する。この方法は以下の利点を兼ね備える:
・実施が容易;
・処理パラメーター及び処方パラメーター(冷却速度、高分子溶液の濃度等)により操作することで、多孔度及び孔径を制御可能;
・様々な形態に構成可能(多孔性膜、三次元支持部材、ビーズ又はチューブ);及び、
・工業的な外挿が容易に想定可能。
【0100】
文献:“Porous chitosan scaffolds for tissue engineering”(S.V.Madihally,H.W.T.Matthew,Biomaterials 20(1999),1133−1142)に記載されているように、多孔性のキトサンチューブは、2本の同心チューブ(シリコーン又はポリテトラフルオロエチレン製)の間の環状空間でキトサン溶液を凍結する、凍結乾燥によって作製される。(文献に記載されているように)キトサン溶液は該空間に注入され、その集合体全体を直接接触によって、即ち、−78℃のドライアイスによって凍結する。その後、外側のチューブを取り除き、集合体を凍結乾燥する。この方法を実行することにより、チューブは外表面及び内表面(又は管腔の表面)を含むその厚み全体にわたって完全に多孔性となる。
【0101】
無孔性の管腔壁で特徴づけられるチューブを得るために様々な方法を用いることができるが、上記と同一の著者らは、キトサンフィルムで内側のシリコーンチューブを事前に覆うことに基づいた方法について記述している。このキトサンフィルムは、チューブをキトサン溶液に浸漬し、そのチューブを30%アンモニア水溶液にすぐに浸すことによりゲル化し、放置して乾燥させることで得ることができる。また、実施例1で実施しているように溶媒を単に蒸発させることよってフィルムを直接形成してもよく、この方法はより有利である。
【0102】
水性媒体中で再水和すると、上述の支持部材は急速に膨張し、さらに、凍結乾燥した構造体に可溶性のキトサンアセテートが含まれているため最終的に再溶解する。また、水酸化ナトリウム溶液又は一連のアルコール希釈液へ浸漬してサンプルを中和することにより、支持部材が溶解しないようにしてもよい(S.V.Madihally,H.W.T.Matthew,Biomaterials 20(1999),1133−1142)。
【0103】
凍結乾燥によって多孔性チューブを作製する場合、酢酸中のキトサン濃度は1〜10%であるのが有利であると考えられる。
【0104】
多孔性支持体を作製するために、熱誘起相分離法又は凍結乾燥法に加えて、孔を形成することを目的とした他の方法も周知である。
【0105】
例えば:造孔用塩の抽出、超臨界流体(超臨界二酸化炭素)の気泡形成、さらには、三次元物体の外枠を構築する「固体自由造形法(solid free−forming)」といった表現で呼ばれている方法等の最近の方法が挙げられるが、これらの方法のほとんどでは、多孔性を好適に調整することができず、また、わずかに連結した多孔構造しか形成されない。
【0106】
チューブの内腔を無孔性とするために、無孔性のチューブを多孔性チューブの内部に挿入してもよく、或いは、管状支持部材の外側の多孔性部分を構成する多孔性膜で中空の無孔性チューブを取り囲んでもよい。これらの場合、多孔性層及び無孔性層は物理的に独立していてもよい。この変形例では、無孔性チューブ/食道接合の密閉性が向上するように、無孔性チューブの両端部に隆起を形成してもよい。この隆起は、無孔性チューブに事前に配置した糸によって形成されてもよく、チューブの材料で又は無孔性チューブと異なる材料で厚くしておくことによって形成されてもよい。またこの隆起によって食道へのチューブの装着を容易にすることもできる。
【0107】
キトサン溶液の凍結乾燥によって、十分な機械的強度を有する多孔性のキトサンチューブを得られる。キトサンを溶解するために用いる溶媒は、ギ酸、乳酸、コハク酸、塩酸及びグルコン酸等の有機酸又は無機酸であり、酢酸が好ましい。キトサンチューブの作製にこれらを用いてもよい。
【0108】
酢酸水溶液中に1〜10%の濃度でキトサンを溶解させてキトサン溶液を調製するのが理想的である。
【0109】
バイオプロテーゼの設計において出発原料として用いるキトサンは、理想的には、菌類由来であり、例えば上述のKitozymeの特許出願に記載の方法に従って菌類から抽出したキチンを脱アセチル化することにより得られる。
【0110】
キトサンのアセチル化度及び分子量は、再生する器官の再生速度に合った最適な分解速度となるように選択するのが有利である。
【0111】
生理学的条件に適合性のある支持部材を得るために、水酸化ナトリウム処理によってキトサン支持部材を中和することが有利である。1%水酸化ナトリウム溶液で処理することが好ましい。
【0112】
キトサン支持部材の滅菌は、γ線放射又はエチレンオキサイド法で行ってもよく、オートクレーブによって行ってもよい。
【0113】
本発明は、上記で定義したような、中空器官の少なくとも一部の再建を目的とした生分解性の管状支持部材を包含する。
【0114】
本発明はまた、管状中空器官を修復するための外科手術用の多孔性の生体適合性・生分解性高分子材料を包含する。この高分子材料は、多孔性の外層及び実質的に無孔性の内層を有する、又は、それらの層からなる生分解性の中空管状支持部材の多孔性層を形成するためのものである。
【0115】
生分解性中空管状支持部材は、最終的に、多孔性の外層が中空器官の外表面上に位置し、且つ、実質的に無孔性の内層が中空器官の内表面上に位置するように配置されることが有利である。
【0116】
一実施形態では、管状の高分子材料は遠位端と近位端を有し、近位端は全体又は一部が切断された中空器官の一方の端部に配置されるように構成され、遠位端は全体又は一部が切断された中空器官のもう一方の端部に配置されるように構成されている。
【0117】
この配置により、中空器官の一区域を完全に又は部分的に置換又は再建することが可能となる。
【0118】
「中空器官の端部」とは、広義で解釈されるものであって、中空器官の部分的切除の場合には、器官の組織の一部分であって、組織の切除箇所を通過する直線によって幾何学的に結ぶことができるもう一方の部分の組織と対向している部分であることは容易に理解できる。該直線は中空器官の内腔は通過しない。
【0119】
本発明は、細胞を増殖させる方法、特に中空器官の少なくとも一部を再建するために細胞を増殖させる方法を包含し、多孔性の外層及び実質的に無孔性の内層を有する生分解性の管状支持部材を作製することと、上記支持部材の多孔性層の外表面、及び/又は、該多孔性層の少なくとも一部の内側、及び/又は、上記実質的に無孔性の層の上記多孔性層に対向する表面上に、上記多孔性層内での増殖を可能にする条件下で細胞を播種するか、組織を移植することを含む工程を包含する。
【0120】
当業者にとっては、本発明の他の目的、特徴及び利点は、以下の実施例を参照した説明を読めば明らかであろう。なお、実施例は単に説明の目的で供するものであり、本発明の範囲を何ら制限するものではない。
【0121】
実施例は本発明の一構成部分であり、また、実施例を含む本明細書全体の記載に基づいて、従来技術に照らして新規である特徴は全て、機能的に且つ概略的に本発明の一構成部分である。
【0122】
上記より、実施例は全て、概括的な範囲を有するものである。
【実施例】
【0123】
実施例1:キトサン多孔性チューブの製造
5%(重量/体積)のKitoZyme社製植物由来キトサン(粘度平均分子量42K、アセチル化度11%)を酢酸溶液(1%)に添加する。
【0124】
直径が異なる2本の同心チューブで形成された環状空間へキトサン溶液を事前に注射器で注入し、凍結乾燥することにより、管状の多孔性支持部材を製造する。集合体を15分間液体窒素に直接接触させることによって凍結させる。その後、外側のチューブを取り除き、継続して集合体を24時間凍結乾燥する。乾燥後、今度は内側のチューブを取り除き、得られたチューブを走査型電子顕微鏡検査で分析する。
【0125】
図2A、2B、2C及び2Dは得られた写真であり、チューブの構造を示す。図2Aは、チューブの厚み全体にわたって多孔性であることが明らかに示された横断面図である。図2Bに、この多孔性構造体を特に詳細に示す。図2Cは、チューブの内表面を示し、孔がチューブの内腔に開口していないことを示している。これに対して、図2Dはチューブの外層の外観を示し、チューブの外部には孔が開口していることを非常に明らかに示している。
【0126】
実施例2:ラット及びマウスにおける多孔性チューブ及び膜の皮下移植後の組織構造
キトサンの酢酸溶液を凍結乾燥して作製したチューブ状のキトサン多孔性支持部材を、まず水酸化ナトリウム溶液による処理で中和し(酸性残基の除去のため)、次いで、96度のアルコールに20分間曝露してから生理食塩緩衝液で5分間洗浄するか、又は、オートクレーブによって滅菌した。BALBcマウス10匹及びフィッシャーラット5匹について、各耳に一個のキトサン移植片(膜又はチューブ)を皮下移植した。
【0127】
パラフィン及びポリエチレンでできたチューブを対照として用いた。
【0128】
各期間(7、14、62日)で、外面的な生体計測分析及び組織学的分析を行った。
【0129】
その結果、すべての動物でキトサン移植片の許容性は良好であり(図3A)、7日後では既に周囲の細胞及び組織がキトサン移植片に浸潤していることが明らかとなった(図3B)。中度の炎症反応が認められるものの、どの移植片も拒絶反応を誘発しなかった。キトサン移植片は、1〜4週間の間に分解され始め(図3C)、62日後には完全に吸収される。
【0130】
この実施例から導かれる結論は以下の通りである。キトサンプロテーゼは生体適合性があり、その付近に存在する細胞及び組織が浸潤可能であり、その分解中の炎症反応は極めてわずかである。
【0131】
実施例3:胎児材料と組み合わせた多孔性チューブ及び膜のマウスへの皮下移植
子宮内発育15〜20日のマウスの胎児から腸を採取し、宿主マウス(マウス10匹)のまぶた(ocular pavilion)に形成された皮下嚢に移植した;移植直前にキトサン管状支持部材の外表面を胎児材料で被覆することにより、この胎児材料をチューブ状のキトサン移植片と組み合わせた。免疫生物学的拒絶反応を回避するため、提供者及び受給者を同一系統とする(同系移植)。
【0132】
本実施例では、キトサンチューブを30〜40分間アルコールで処理して滅菌した後、残留アルコールを取り除くために滅菌食塩水で5分間、さらに25分間洗浄した。
【0133】
2カ月後(図4A)及び3カ月後(図4B)では、腸移植片は著しく成長し、この期間の終わりにはキトサン支持部材が完全に分解された。2カ月後(図4A)の胎児移植片の断面においては、キトサンチューブの存在下で、全ての腸の特徴(柔突起構造)を有する、成人の腸と同様の正常な腸の成長が認められ、またキトサンチューブ自体は完全に吸収されている。従って、この実験により、キトサン移植片が消化器官(この場合は腸)の同系胎児移植片の成長と適合性があることが示された。図4Bでは、腸管腔が認められる。
【0134】
3カ月後に宿主の肺、肝臓及び腎臓で採取した組織学的切片では、炎症反応及びこれらの器官に対する有害な影響は認められなかった。
【0135】
実施例4:食道用バイオプロテーゼの模擬実験
キトサンの多孔性チューブ及び胎児腸材料(チューブの外側に、又は、チューブの多孔性層と無孔性内表面との間に配置された胎児材料)からなる複合型プロテーゼを、食道を妨害することなく、ラットの頚筋間に長軸方向に移植した。この実験により、キトサンチューブは胎児腸材料を定着させることができ、頸部の運動に耐え得ることが示された。
【0136】
実施例5:同系胎児の食道又は腸で被覆したキトサン多孔性チューブを用いた食道の一部分の置換
ラットの胎児の腸の切片を子宮内発育14〜18日の間で採取し、キトサンの多孔性チューブの周囲に配置した。ラットの頸部から食道の一部分を0.5〜1cmの長さで切除した後、プロテーゼとこの器官との接合の密閉性又は対漏出性が得られるように、胎児材料と組み合わせたキトサンチューブをラットの食道の切断された両端に固定する。同一の実験を胎児食道材料で繰り返す。
【0137】
実施例6:キトサン中空管状支持部材のラットの頸部への移植後の許容性
実施例6の中空管状支持部材は、国際公開第2007/042281号パンフレットに記載の方法により実施例1のキトサンサンプルから作製した第一の無孔性チューブからなり、その内径は1.5mm、外径は2.5mmである。無孔性チューブは、従来の凍結乾燥法によって実施例1のキトサンから作製した多孔性膜に包まれており、これにより管状支持部材の多孔性の外層が構成されている。無孔性チューブ及び膜はいずれも、滅菌(オートクレーブ滅菌、又は、アルコール含有消毒溶液に15〜20分間浸漬)後、少なくとも20分間生理溶液(0.9%のNaCl)で洗浄される。
【0138】
麻酔をかけたラットの背中を適当な台に当て、頸部の前面が見えるように伸ばす。甲状軟骨から頸切痕まで皮膚を正中で切開し、皮下の筋肉を切開する。気管前方の筋肉を縦に切開し、その隙間にキトサン多孔性膜に包まれたキトサンチューブを長軸方向に配置する。筋肉層及び皮下層を縫合して閉鎖する。
【0139】
90日(3ヶ月)で屠殺したが、その動物の臓器の外観に巨視的な損傷は認められなかった。解剖病理学的な検討により、膜がほぼ完全に消失し、線維組織で良好に包まれてチューブが保存されたことが明らかとなり、臓器及びチューブと膜とを取り囲む組織に巨視的な損傷も微視的な損傷も認められなかった。
【0140】
実施例7:部分的に切断された食道への中空管状支持部材の移植
図5及び図6は、模式的にこの実施例を補助するものである。これらは何ら実際の詳細や大きさを表したものではなく、考慮されるべきものではない。
【0141】
麻酔をかけたラットの頸部の皮膚を縦に切開した後、気管と食道(501)を露出し、食道の一部(502)(周径の約2/3)を切断した(図5A)。その後、実施例6の無孔性チューブ(510)を、切断した器官の一部分(502)から食道(501)の内部に挿入した(図5B)。次いで、事前に食道(501)の周囲に配置した糸(503)を用いて無孔性チューブ(510)を装着し、チューブの端部(511、512)でチューブと食道の集合体を固定した(図5C)。その後、実施例6の多孔性膜(520)を食道+チューブ集合体に巻きつけ、縫合糸(535)により隣接する筋組織(530、531)と接合する(図5D)。こうして生体材料(540)を、管状支持部材(550)の多孔性の外面(520)と無孔性の内面(510)との間に原位置で配置する。
【0142】
術後の衰弱期に局所合併症(縫合裂開、膿瘍、浅在性感染)は見られない。動物は、10日間にわたってわずかに飲食に困難を呈し、体重が減少するが、状況は急速に改善する。このラットを35日後に屠殺する。解剖病理学的観察により、ラットは35日後には最初の体重に回復したことが明らかとなった。臓器の外観は正常である。
【0143】
食道は耐漏出性を有し、狭窄を起こすことなく再建された。局所的な膿瘍又は(食塊、体液等の)漏出は認められなかった。このように、このプロテーゼは食道との耐漏出接続を再構築することができた。
【0144】
組織学的切片を分析した結果、プロテーゼが完全にその場所から消失していた(プロテーゼはこの消化管のどの部分でも認められず、吸収又は消化されていた)こと、並びに、食道及びその近傍の組織の外観は正常であることが明らかとなった。生体材料がわずかしか浸潤していない領域の膜の残留物が、頚部食道付近でいくらか認められた。
【0145】
材料を移植する手順として用いることができる一例としては:
1.オートクレーブで滅菌するか、又は、アルコール含有消毒溶液に15〜20分浸漬して滅菌した無孔性のキトサンチューブ(610)及び多孔性膜(620)を用意する:
・滅菌生理溶液で少なくとも20分間チューブ(610)を洗浄する;
・同じ時間、同じ生理溶液(0.9%塩化ナトリウム)で多孔性膜(620)を洗浄する;
・チューブ(610)の両端部(611、612)の周囲に隆起のようなものを形成する2本のマーカー・接合用縫合糸(613、614)を配置する(図6A)。この隆起によってチューブ(610)の両端部の厚さが増すので、食道へのチューブの装着も容易になる。
2.気管及び食道(601)を露出し、食道を切開する;
3.切除(ablation)して、又は、切除(ablation)することなく食道(601)を部分的に切断(周径の約2/3以上を切断)し、穴(602)を露出する;
4.チューブ(610)の一端を挿入し、糸(613、614)で形成された隆起が食道(601)の内部に位置するように、切断された食道(601)の各開放端に巻きつけた糸(615、616)で食道(601)内に固定し、もう一端も同様に挿入及び固定する(図6B及び6C);
5.食道(601)及びチューブ(610)の外側(食道及びチューブの接触部)に、(チューブの場合と同一の方法で滅菌、洗浄した)多孔性膜(620)を巻きつける。膜(620)を固定するために、膜(620)の端部と隣接する組織(630、631)との間を縫合する(図6D)。糸615、616を用いて多孔性膜(620)を固定してもよい;
6.各層で手術創を閉じる。
【0146】
実施例8:完全に切断した食道への中空管状支持部材の移植
麻酔をかけたラットの頸部の皮膚を縦に切開した後、気管及び食道を露出した。頚部食道を中間の高さで完全に切断する。その後、実施例6の無孔性チューブを食道の内部に挿入し、次いで、チューブの両端部でチューブと食道の集合体が固定されるように、且つ、食道の管構造の再建が可能となるようなチューブの配置となるように、切断した食道の各開放端の周囲に事前に配置した糸を用いて固定する。その後、実施例6の多孔性膜を食道の周囲に巻きつけた後、チューブを隣接する筋組織に縫合糸を用いて固定する。その後、管状支持部材の多孔性の外面と無孔性の内面との間に生体材料を配置する。
【0147】
術後の衰弱期に局所合併症(縫合裂開、膿瘍、浅在性感染)は見られない。動物は、わずかに飲食に困難を呈した。
【0148】
術後1、3、6日後に観察を行うと、チューブ・食道接合は対漏出性を有していた。局部感染又は膿瘍は観察されなかった。各組織学的切片では、わずかに局所的な炎症反応が認められ、チューブ及び膜片が存在していることが確認できる。
【0149】
材料を移植するために用いることができる手順の一例:
実施例8で最初に行う作業工程は、実施例7の工程1及び2と同一の工程である。食道が部分的でなく、全く完全に切断されているため、工程3及び4は異なる。工程を以下に説明する。
3.切除(ablation)して、又は、切除(ablation)することなく中間の高さで頚部食道(701)を全体的に切断し、完全な切断面(702)を形成する;
4.無孔性チューブ(710)の一方の端部(711)を挿入し、チューブ上に糸(713、714)によって形成された隆起が器官(701)の内部に位置するように、切断した食道(701)の各開放端部(703、704)に巻きつけた糸(715、716)を用いて食道(701)の遠位部(703)に固定する。もう一方の端部(712)も同様に近位部(704)に挿入及び固定する(図7A);
5.食道(701)及びチューブ(710)の外側に多孔性膜(720)を巻きつける(図7B);
6.膜(720)を固定するために、膜の両端部と隣接した組織(730)との間を一箇所以上縫合又は接着(735)する(図7C);
7.筋肉及び皮膚の2層で創を縫合する。
【0150】
実施例9:本発明の中空管状支持部材の変形実施形態
上述の実施例に従って製造した本発明の管状支持部材は、アコーディオン型構造を形成するように、断面に連続した変化を有する部分を含んでいてもよい。このアコーディオン型構造はチューブの柔軟性を向上させることができるので、宿主の運動及び嚥下に対する耐久性も向上させることができる。例えば、直径が異なる2本の同心チューブによって形成された環状空間ではなく、それぞれが断面に連続して変化する部分を有する2つの同心環状空間を用いて実施例1の方法を実施することもできる。また、ある構造、特にチューブの柔軟性を向上させることができるアコーディオン型構造を有する無孔性チューブを作製するために、実施例6の無孔性チューブを作製する方法を実施することもできる。
【0151】
図8A及び8Bに、チューブのこの部分の2変形例を模式的に表す。
【0152】
また、同心環状空間は、例えばらせん状で厚みを変化させるようになど、様々な形状であってもよい。図8Cに、らせん状の変形例を模式的に表す。
【0153】
実施例10:胎児の腸又は食道単独での移植
第一工程:実施例6と同様に動物(ラット4匹)を準備するが、チューブは同一系統の17日齢のラット胎児から採取した腸の切片とする。
第二工程(1〜2ヵ月後):頸部を再び切開し、成長中の胎児の食道又は腸によって形成された包嚢を開放、洗浄し、受給者血管系と連絡した血管を損傷することなく、食道と同等の大きさの縦方向のチューブに成形する。受給者の食道を露出し、マーカー用糸を一区域の両側の端部に配置した後、この区域を切除する。次いで、6.0縫合糸を用いた連続縫合によって食道の両端部に「胎児」チューブを縫合する。可能であれば、縫合の密閉性を補強するために、生体接着剤を縫合部に加えてもよい。2層で手術創を閉じる。
【0154】
この実施例により、管状器官の再建用の胎児由来生体材料の移植の実現可能性が示される。
【0155】
実施例11:チューブと移植片とを組み合わせた食道部分の形成外科手術
方法:実施例10を同じく繰り返すが、剛性及び強度を向上させるために、キトサン製の無孔性チューブ(国際公開第2007/042281号パンフレットに基づいて作製)を、縫合の強化及び体内での食道の環状欠損の「修復」に要する期間、「胎児」チューブの内側に固定する。その後、該チューブを取り除くことができる。
【符号の説明】
【0156】
1 生分解性高分子を含むチューブの外層
2 細胞及び生体器官が成長するための空間
3 実質的に無孔性の内層
A 第一の実施形態での生体材料
B 第二の実施形態での生体材料
501 食道
502 切断部
503 糸
510 無孔性チューブ
511 端部
512 端部
520 多孔性膜
530 筋組織
531 筋組織
535 縫合糸
540 生体材料
550 管状支持部材
601 食道
602 穴
610 無孔性のキトサンチューブ
611 端部
612 端部
613 マーカー・接合用縫合糸
614 マーカー・接合用縫合糸
615 糸
616 糸
620 多孔性膜
630 隣接する組織
631 隣接する組織
701 頚部食道
702 完全な切断面
703 開放端部
704 開放端部
710 無孔性チューブ
711 端部
712 端部
713 糸
714 糸
715 糸
716 糸
720 多孔性膜
730 隣接した組織
731 隣接した組織
735 縫合又は接着部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空器官又は中空器官の一部の生体内での再建を促進するためのプロテーゼであって、当該プロテーゼは
・少なくとも一種類の生体適合性・生分解性高分子材料を含み、且つ、多孔性の外層及び実質的に無孔性の内層を有する生分解性中空管状支持部材と、
・前記支持部材の多孔性層の外表面、及び/又は、該多孔性層の少なくとも一部の内側、及び/又は、前記実質的に無孔性の層の前記多孔性層に対向する表面上に配置された生体由来材料とを備え、
前記生体由来材料は、前記器官又は器官の一部の生体内での再建が可能となるように選択されたものであって、
前記生体由来材料は、ヒト胚由来ではない
ことを特徴とするプロテーゼ。
【請求項2】
前記高分子材料は、キトサン、キチン及びこれらの誘導体又は共重合体、とりわけキチン−グルカン、からなる群より選択される高分子であり、
前記高分子は、少なくとも一種類の他の生体適合性・生分解性高分子と組み合わされてもよい
ことを特徴とする、請求項1に記載のプロテーゼ。
【請求項3】
前記少なくとも一種類の他の生体適合性・生分解性高分子は、グルコサミノグリカン類(GAG)、特にヒアルロナン、コンドロイチン硫酸又はヘパリン、コラーゲン、アルギン酸塩、デキストラン及びこれらの混合物からなる群より選択される生体高分子である
ことを特徴とする、請求項2に記載のプロテーゼ。
【請求項4】
前記少なくとも一種類の他の生体適合性・生分解性高分子は、乳酸、グリコール酸、ε−カプロラクトン及びp−ジオキサノンに基づいた単独重合体類及び共重合体類等の生分解性合成ポリエステルからなる群より選択される生体適合性・生分解性合成高分子であるか、又は、ヒドロキシ酪酸塩、ヒドロキシ吉草酸塩、ポリオルトエステル及びポリウレタンに基づいた単独重合体類及び共重合体類等のポリヒドロキシアルカン酸系化合物の天然ポリエステル等の他の天然ポリエステルである
ことを特徴とする、請求項2に記載のプロテーゼ。
【請求項5】
前記高分子はキトサンを含む、又は、キトサンからなる
ことを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載のプロテーゼ。
【請求項6】
前記キトサンは、キチンの脱アセチル化によって得られ、
キチン源は、有利には、甲殻類の殻、頭足類の内骨格、節足動物のクチクラ若しくは珪藻土であるか、又は、菌類の細胞壁等の菌類由来であり、好ましくは菌類由来である
ことを特徴とする、請求項5に記載のプロテーゼ。
【請求項7】
前記多孔性部分の孔の直径は、10μmよりも大きく、好ましくは10〜200μmである
ことを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項に記載のプロテーゼ。
【請求項8】
前記管状支持部材の内径及び厚みは、前記中空器官の内径及び厚みに適合している
ことを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項に記載のプロテーゼ。
【請求項9】
前記中空器官は、消化管、胆管、膵管、泌尿器管、生殖器管又は血管、とりわけ、食道、腸、胃、総胆管、膵管、尿道、尿管、膀胱、卵管、子宮又は血管である
ことを特徴とする、請求項1〜8のいずれか一項に記載のプロテーゼ。
【請求項10】
前記中空器官は、食道である
ことを特徴とする、請求項9に記載のプロテーゼ。
【請求項11】
前記生体由来材料は、再建される器官の組織細胞、又は、さほど分化していない若しくは未分化の細胞を含み、好ましくは該細胞はヒト由来である
ことを特徴とする、請求項1〜10のいずれか一項に記載のプロテーゼ。
【請求項12】
前記生体由来材料は、胎児由来材料である
ことを特徴とする、請求項1〜11のいずれか一項に記載のプロテーゼ。
【請求項13】
前記胎児由来材料は、胎児由来の器官、胎児由来の器官の一部、又は、胎児由来の細胞の乳濁液である
ことを特徴とする、請求項12に記載のプロテーゼ。
【請求項14】
前記胎児由来材料は湿性且つ粘着性であって、それにより前記支持部材の表面及び/又はその内部に対する前記胎児由来材料の接着性が向上する
ことを特徴とする、請求項13に記載のプロテーゼ。
【請求項15】
請求項1〜14のいずれか一項に記載のプロテーゼを製造する方法あって、当該方法は
細胞が増殖可能な多孔性の外層、及び、実質的に無孔性の内層を有する生分解性管状支持部材を用意することと、
前記支持部材の多孔性層の外表面、及び/又は、該多孔性層の少なくとも一部の内側、及び/又は、前記実質的に無孔性の層の前記多孔性層に対向する表面上に、プロテーゼ形成用の生体材料を組み込むこととを含み、
前記生体由来材料は、ヒト胚由来ではない
ことを特徴とする方法。
【請求項16】
前記多孔性の外層の作製は、凍結乾燥によって行う
ことを特徴とする、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
中空器官の少なくとも一部を再建するための、請求項1〜14のいずれか一項に規定される生分解性管状支持部材。
【請求項18】
管状中空器官の手術用の多孔性の生体適合性・生分解性高分子材料であって、
多孔性の外層及び実質的に無孔性の内層を有するか、又は、これらの層からなる生分解性中空管状支持部材の多孔性層を形成するための高分子材料。
【請求項19】
前記生分解性中空管状支持部材は、最終的に、前記多孔性の外層が前記中空器官の外表面上に位置し、且つ、前記実質的に無孔性の内層が前記中空器官の内表面上に位置するように配置される
ことを特徴とする、請求項18に記載の高分子材料。
【請求項20】
前記高分子材料は、管状に配置され、遠位端及び近位端を有し、
前記近位端は、全体又は一部が切断された中空器官の一方の端部に配置されるように構成され、
前記遠位端は、全体又は一部が切断された中空器官のもう一方の端部に配置されるように構成されている
ことを特徴とする、請求項18又は19に記載の高分子材料。
【請求項21】
管状中空器官の手術用の無孔性の生体適合性・生分解性高分子材料であって、
多孔性の外層及び実質的に無孔性の内層を有するか、又は、これらの層からなる生分解性中空管状支持部材の無孔性層を形成するための高分子材料。
【請求項22】
請求項17に記載の管状支持部材、又は、請求項18〜21のいずれか一項に記載の高分子材料の、中空器官を再生するためのプロテーゼを製造するための使用。
【請求項23】
病変を呈する食道の一部を再生するための、
請求項22に記載の使用。
【請求項24】
前記器官は、腸、総胆管、胃、膵管、泌尿器管(尿道及び尿管)、膀胱、血管、卵管及び子宮から選択される
ことを特徴とする、請求項22に記載の使用。
【請求項25】
前記中空器官は、任意の病変、又は、癌に罹患した部位を有する
ことを特徴とする、請求項22〜24のいずれか一項に記載の使用。
【請求項26】
中空管状器官の一区域の少なくとも一部を摘出又は切除することを必要とする病変の外科的治療法であって、
中空管状器官の一区域を全体的に又は部分的に摘出又は切除することと、
その切除部分を生体内で再建するために、請求項1〜14のいずれか一項に記載のプロテーゼ、請求項17に記載の管状支持部材、又は、請求項18〜21のいずれか一項に記載の高分子材料を摘出又は切除した領域の近傍に配置することとを含む
ことを特徴とする方法。
【請求項27】
重度の狭窄を伴う癌又は熱傷の外科的治療の過程として行われる
ことを特徴とする、請求項26に記載の方法。
【請求項1】
中空器官又は中空器官の一部の生体内での再建を促進するためのプロテーゼであって、当該プロテーゼは
・少なくとも一種類の生体適合性・生分解性高分子材料を含み、且つ、多孔性の外層及び実質的に無孔性の内層を有する生分解性中空管状支持部材と、
・前記支持部材の多孔性層の外表面、及び/又は、該多孔性層の少なくとも一部の内側、及び/又は、前記実質的に無孔性の層の前記多孔性層に対向する表面上に配置された生体由来材料とを備え、
前記生体由来材料は、前記器官又は器官の一部の生体内での再建が可能となるように選択されたものであって、
前記生体由来材料は、ヒト胚由来ではない
ことを特徴とするプロテーゼ。
【請求項2】
前記高分子材料は、キトサン、キチン及びこれらの誘導体又は共重合体、とりわけキチン−グルカン、からなる群より選択される高分子であり、
前記高分子は、少なくとも一種類の他の生体適合性・生分解性高分子と組み合わされてもよい
ことを特徴とする、請求項1に記載のプロテーゼ。
【請求項3】
前記少なくとも一種類の他の生体適合性・生分解性高分子は、グルコサミノグリカン類(GAG)、特にヒアルロナン、コンドロイチン硫酸又はヘパリン、コラーゲン、アルギン酸塩、デキストラン及びこれらの混合物からなる群より選択される生体高分子である
ことを特徴とする、請求項2に記載のプロテーゼ。
【請求項4】
前記少なくとも一種類の他の生体適合性・生分解性高分子は、乳酸、グリコール酸、ε−カプロラクトン及びp−ジオキサノンに基づいた単独重合体類及び共重合体類等の生分解性合成ポリエステルからなる群より選択される生体適合性・生分解性合成高分子であるか、又は、ヒドロキシ酪酸塩、ヒドロキシ吉草酸塩、ポリオルトエステル及びポリウレタンに基づいた単独重合体類及び共重合体類等のポリヒドロキシアルカン酸系化合物の天然ポリエステル等の他の天然ポリエステルである
ことを特徴とする、請求項2に記載のプロテーゼ。
【請求項5】
前記高分子はキトサンを含む、又は、キトサンからなる
ことを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載のプロテーゼ。
【請求項6】
前記キトサンは、キチンの脱アセチル化によって得られ、
キチン源は、有利には、甲殻類の殻、頭足類の内骨格、節足動物のクチクラ若しくは珪藻土であるか、又は、菌類の細胞壁等の菌類由来であり、好ましくは菌類由来である
ことを特徴とする、請求項5に記載のプロテーゼ。
【請求項7】
前記多孔性部分の孔の直径は、10μmよりも大きく、好ましくは10〜200μmである
ことを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項に記載のプロテーゼ。
【請求項8】
前記管状支持部材の内径及び厚みは、前記中空器官の内径及び厚みに適合している
ことを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項に記載のプロテーゼ。
【請求項9】
前記中空器官は、消化管、胆管、膵管、泌尿器管、生殖器管又は血管、とりわけ、食道、腸、胃、総胆管、膵管、尿道、尿管、膀胱、卵管、子宮又は血管である
ことを特徴とする、請求項1〜8のいずれか一項に記載のプロテーゼ。
【請求項10】
前記中空器官は、食道である
ことを特徴とする、請求項9に記載のプロテーゼ。
【請求項11】
前記生体由来材料は、再建される器官の組織細胞、又は、さほど分化していない若しくは未分化の細胞を含み、好ましくは該細胞はヒト由来である
ことを特徴とする、請求項1〜10のいずれか一項に記載のプロテーゼ。
【請求項12】
前記生体由来材料は、胎児由来材料である
ことを特徴とする、請求項1〜11のいずれか一項に記載のプロテーゼ。
【請求項13】
前記胎児由来材料は、胎児由来の器官、胎児由来の器官の一部、又は、胎児由来の細胞の乳濁液である
ことを特徴とする、請求項12に記載のプロテーゼ。
【請求項14】
前記胎児由来材料は湿性且つ粘着性であって、それにより前記支持部材の表面及び/又はその内部に対する前記胎児由来材料の接着性が向上する
ことを特徴とする、請求項13に記載のプロテーゼ。
【請求項15】
請求項1〜14のいずれか一項に記載のプロテーゼを製造する方法あって、当該方法は
細胞が増殖可能な多孔性の外層、及び、実質的に無孔性の内層を有する生分解性管状支持部材を用意することと、
前記支持部材の多孔性層の外表面、及び/又は、該多孔性層の少なくとも一部の内側、及び/又は、前記実質的に無孔性の層の前記多孔性層に対向する表面上に、プロテーゼ形成用の生体材料を組み込むこととを含み、
前記生体由来材料は、ヒト胚由来ではない
ことを特徴とする方法。
【請求項16】
前記多孔性の外層の作製は、凍結乾燥によって行う
ことを特徴とする、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
中空器官の少なくとも一部を再建するための、請求項1〜14のいずれか一項に規定される生分解性管状支持部材。
【請求項18】
管状中空器官の手術用の多孔性の生体適合性・生分解性高分子材料であって、
多孔性の外層及び実質的に無孔性の内層を有するか、又は、これらの層からなる生分解性中空管状支持部材の多孔性層を形成するための高分子材料。
【請求項19】
前記生分解性中空管状支持部材は、最終的に、前記多孔性の外層が前記中空器官の外表面上に位置し、且つ、前記実質的に無孔性の内層が前記中空器官の内表面上に位置するように配置される
ことを特徴とする、請求項18に記載の高分子材料。
【請求項20】
前記高分子材料は、管状に配置され、遠位端及び近位端を有し、
前記近位端は、全体又は一部が切断された中空器官の一方の端部に配置されるように構成され、
前記遠位端は、全体又は一部が切断された中空器官のもう一方の端部に配置されるように構成されている
ことを特徴とする、請求項18又は19に記載の高分子材料。
【請求項21】
管状中空器官の手術用の無孔性の生体適合性・生分解性高分子材料であって、
多孔性の外層及び実質的に無孔性の内層を有するか、又は、これらの層からなる生分解性中空管状支持部材の無孔性層を形成するための高分子材料。
【請求項22】
請求項17に記載の管状支持部材、又は、請求項18〜21のいずれか一項に記載の高分子材料の、中空器官を再生するためのプロテーゼを製造するための使用。
【請求項23】
病変を呈する食道の一部を再生するための、
請求項22に記載の使用。
【請求項24】
前記器官は、腸、総胆管、胃、膵管、泌尿器管(尿道及び尿管)、膀胱、血管、卵管及び子宮から選択される
ことを特徴とする、請求項22に記載の使用。
【請求項25】
前記中空器官は、任意の病変、又は、癌に罹患した部位を有する
ことを特徴とする、請求項22〜24のいずれか一項に記載の使用。
【請求項26】
中空管状器官の一区域の少なくとも一部を摘出又は切除することを必要とする病変の外科的治療法であって、
中空管状器官の一区域を全体的に又は部分的に摘出又は切除することと、
その切除部分を生体内で再建するために、請求項1〜14のいずれか一項に記載のプロテーゼ、請求項17に記載の管状支持部材、又は、請求項18〜21のいずれか一項に記載の高分子材料を摘出又は切除した領域の近傍に配置することとを含む
ことを特徴とする方法。
【請求項27】
重度の狭窄を伴う癌又は熱傷の外科的治療の過程として行われる
ことを特徴とする、請求項26に記載の方法。
【図1】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図2D】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図2D】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【公表番号】特表2010−537681(P2010−537681A)
【公表日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−522401(P2010−522401)
【出願日】平成20年9月1日(2008.9.1)
【国際出願番号】PCT/EP2008/061473
【国際公開番号】WO2009/027537
【国際公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【出願人】(510054119)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年9月1日(2008.9.1)
【国際出願番号】PCT/EP2008/061473
【国際公開番号】WO2009/027537
【国際公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【出願人】(510054119)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]