説明

中空成形機におけるパリソン偏肉制御方法及び装置

【課題】本発明は、ダイを複数のアクチュエータを用いて偏芯させ、吐出中のパリソンの偏肉制御を行い、複雑な形状の中空成形品を歩留まりよく成形することを目的とする。
【解決手段】本発明による中空成形機におけるパリソン偏肉制御方法及び装置は、ダイ(1)の周面(1a)をアクチュエータ(7)駆動の押圧棒体(6)で押圧して偏芯させ、ダイ(1)から下方へ吐出するパリソン(4)の偏肉を時間軸に沿って制御する方法と構成である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空成形機におけるパリソン偏肉制御方法及び装置に関し、特に、ダイをアクチュエータで偏芯させることにより、ダイから吐出中のパリソンの円周及び長手方向の肉厚を時間軸に対し、予め設定された設定通りに制御することにより、肉厚を自在に制御し、各種形状の中空成形品に自在に対応するための新規な改良に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、用いられていたこの種のパリソン偏肉調整としては、周知のフレキシブルリング方式、セグメント方式、分割リング方式等があるが、文献としては、これらの方式の他の従来構成として、例えば、特許文献1から3で示される構成を挙げることができる。
すなわち、特許文献1の中空成形機のダイヘッド構造においては、筒状に形成されたダイの外周に1ヶ所の位置調節ボルトが設けられ、この位置調節ボルトの出没によってダイの偏芯状態を調節する構成である。
【0003】
また、特許文献2の偏肉調整が容易な押出し成形ダイとその偏肉調整装置においては、マンドレル芯体をX軸又はY軸方向に自動的に変位させることにより、オリフィスダイ開口部を調整可能に形成して偏肉調整が容易な押出しダイの構成である。
【0004】
また、特許文献3の中空成形機のパリソン偏肉調整制御方法においては、ダイヘッドから吐出されたパリソンの曲がりをカメラで検出し、曲がりの量を演算し、その演算結果に応じてダイを動かすことにより、パリソンの偏肉を調整制御する構成である。
【0005】
【特許文献1】特開2000−37768号公報
【特許文献2】特開平11−10706号公報
【特許文献3】特開平9−99481号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来のパリソンの偏肉調整方法は、以上のように構成されていたため、次のような課題が存在していた。
すなわち、前述の何れの従来構成においても、ダイとコアの出口の同心を最初に調整し、吐出中にはダイを動かすことにより偏肉制御を行うことはなく、パリソンの肉厚を均一にして偏肉のない直線状のパリソンを得ることを目的としているため、例えば、図8に示される凹凸のある複雑な形状の中空成形品を得る場合には、部分的にバリが発生することがある。
また、前述の各従来方法とは、別の従来方法として、円周方向の肉厚調整を行うためのラジアル肉調方法が周知であり、円周方向の肉厚が決められる部分において強制的に隙間を変化させて成形品の肉厚制御を行い、成形品の均一化を行う方法であるが、この場合、肉厚変化位置が固定されると云う問題点から成形品に対する自由度が低く、その構造もその装置専用で製作する必要があり、コストが高く、極めて複雑化していると共に、既設の中空成形機に適用することは不可能であった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による中空成形機におけるパリソン偏肉制御方法は、クロスヘッドのダイとコア間に形成されるダイギャップから金型に吐出されるパリソンの肉厚を、前記ダイを偏芯させることにより調整して中空成形品を得るようにした中空成形機におけるパリソン偏肉制御方法において、前記ダイの周面に接し、前記周面を半径方向に押圧可能な複数の押圧棒体と、前記各押圧棒体の押圧を制御するため前記各押圧棒体に接続された複数のアクチュエータと、を用い、前記パリソンを下方へ吐出中に時間軸に対し前記ダイを偏芯させ、前記ダイの長さ方向に沿って肉厚を変える方法であり、また、前記パリソンの肉厚は、前記中空成形品の形状に合わせたアキシャル方向及びラジアル方向の肉厚調整を同時に行う方法であり、また、前記ダイを偏芯させるための前記各アクチュエータの動作は、前記中空成形品の形状に合わせて予め設定された設定値に従って前記各アクチュエータを数値制御する方法であり、また、前記各アクチュエータは、エンコーダを有するモータエンコーダからなる方法であり、また、本発明による中空成形機におけるパリソン偏肉制御装置は、クロスヘッドのダイとコア間に形成されるダイギャップから金型に吐出されるパリソンの肉厚を、前記ダイを偏芯させることにより調整して中空成形品を得るようにした中空成形機におけるパリソン偏肉制御装置において、前記ダイの周面に接し、前記周面を半径方向に押圧可能な複数の押圧棒体と、前記各押圧棒体の押圧を制御するため前記各押圧棒体に接続された複数のアクチュエータと、を備え、前記パリソンを下方へ吐出中に時間軸に対し前記ダイを偏芯させ、前記ダイの長さ方向に沿って肉厚を変える構成であり、また、前記パリソン肉厚は、前記中空成形品の形状に合わせたアキシャル方向及びラジアル方向の肉厚調整を同時に行う構成であり、また、前記ダイを偏芯させるための前記各アクチュエータの動作は、前記中空成形品の形状に合わせて予め設定された設定値に従って前記各アクチュエータを数値制御する構成であり、また、前記各アクチュエータは、エンコーダを有するモータエンコーダからなる構成である。
【発明の効果】
【0008】
本発明による中空成形機におけるパリソン偏肉制御方法及び装置は、以上のように構成されているため、次のような効果を得ることができる。
すなわち、ダイから吐出中のパリソンの円周方向及び長手方向の肉厚を時間軸に対し、予め設定された設定通りに制御することにより、肉厚を自在に制御し、各種形状の中空成形品に自在に対応するようにしているため、パリソンを吐出しつつパリソンの長さ方向の厚さを分割制御することができ、凹凸が形成された中空成形品に対する自由度の高い成形を行うことができる。
また、前述のように、パリソンの所要部分を故意に偏肉させることができ、例えば、湾曲した中空成形品等への対応が可能となり、成形条件の幅を広げることができる。
また、ダイを偏芯させるアクチュエータはモータエンコーダを用いた場合、モータエンコーダによる数値制御ができると共に、予め設定した設定値による自在な肉厚及び偏肉制御が可能となる。
また、ダイを偏芯させるためのアクチュエータ等の偏肉制御装置は、既存の中空成形機に対して後付けが可能であり、安価な費用によって既存の中空成形機の機能向上を達成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明は、ダイをアクチュエータで偏芯させることにより、ダイから吐出中のパリソンの円周及び長手方向の肉厚を時間軸に対し、予め設定された設定通りに制御することにより、肉厚を自在に制御し、各種形状の中空成形品に自在に対応できるようにした中空成形機におけるパリソン偏肉制御方法及び装置を提供することを目的とする。
【実施例】
【0010】
以下、図面と共に本発明による中空成形機におけるパリソン偏肉制御方法及び装置の好適な実施の形態について説明する。
図1において、符号1で示されるものは、図示しないクロスヘッドのダイホルダ2に設けられたダイであり、このダイ1の内側に設けられたコア3と前記ダイ1との間には、パリソン4を下方に吐出するためのダイギャップ5が形成されている。
【0011】
前記ダイ1の周面1aには、この周面1aに当接してダイ1の半径方向に押圧自在な複数の押圧棒体6が90度毎に配設されている。
前記各押圧棒体6は、図4及び図5に示されるように基台10に配設されていると共に、各押圧棒体6はアクチュエータによって矢印A(図1に図示)の方向、すなわち、前記ダイ1の半径方向に沿って前記ダイ1を押圧することができるように構成されている。
【0012】
前記各アクチュエータ7は、例えば、数値制御可能なモータエンコーダで構成され、各モータエンコーダ7は、周知のように、図示しないボールねじとナットとからなる回転/直動変換機構を有し、各モータエンコーダ7の作動によって各押圧棒体6の矢印A方向に沿う出没に伴う押圧を行うことができるように構成されている。
【0013】
前記各押圧棒体6は、図1では概略的に示しているが、実際に使用する中空成形機に用いられる場合には、前述の図4及び図5で示されるように構成されており、前記基台10に各アクチュエータ7が設けられ、各一対の自在接手11を介して各押圧棒体6が前記各アクチュエータ7に接続されていると共に、前記ダイ1の周面1aに対して90度毎に前記各押圧棒体6が配設されている。
尚、前記アクチュエータ7としては、モータエンコーダの他に、油圧モータ、油圧シリンダ、リニアアクチュエータ、リニアモータ等を用いることができる。また、各押圧棒体6は前進でダイ1を押すのみで、各押圧棒体6を後退させるとダイ1は動くことはない。
【0014】
次に、動作について説明する。前述のように、4個のアクチュエータ7と押圧棒体6とを用い、コア3に対するダイ1の偏芯状態を制御する場合、まず、前述の各アクチュエータ7を作動させてダイ1の周面1aに接触して当接している各押圧棒体6を選択的に押圧することにより、ダイ1が偏芯し、前記ダイギャップ5から下方へ吐出されるパリソン4を時間軸即ち長手方向に沿って肉厚(偏肉)を自在に制御することができる。
【0015】
尚、図2はダイ1が左側へ、図3はダイ1が右側へ寄った状態のパリソン4の偏肉調整状態を示している。
また、前述の場合、各アクチュエータ7の動作により、前記ダイ1を原点位置(通常は同心)を設定し、パリソン4の偏芯プロファイルを中空成形品に合わせて予め設定して各アクチュエータ7を作動させ、中空成形品の形状に合わせたアキシャル、ラジアル方向の肉厚調整が同時に可能となる。
【0016】
次に、前述の4本の押圧棒体6を用いた実際のダイ1の偏芯動作について述べる。この場合、各押圧棒体6は、説明を容易化するためa,b,c,dに区別して説明する。
前記ダイ1の位置制御(サーボモータエンコーダ)は、押圧棒体a,b,c,d全てにおいて行うが、前述の通り各押圧部材a,b,c,dはダイ1に直結していないため、抜き方向での位置制御はできない。よって移動する側の押圧棒体を引き方向で位置出しし、反対側の押圧棒体を押し方向に回して押し当てる(トルク制限をかけ、モータ回転が停止するところで、押し当てたと判断する)。そのとき、移動方向の押圧棒体(引き方向へ移動する押圧棒体)のモータトルクに対し反移動方向(押し方向へ移動する押圧棒体)のモータトルクは低い制限値とし、移動方向(引き方向)押圧棒体の位置は変化しない(押し側押圧棒体によって位置を狂わされない)ようにする。
次に、目標位置を設定し、その数値を基に位置制御する押圧棒体(2本)を決定しその位置制御を行う。また、反対側の押圧棒体(位置制御をしない2本)はただ単に押し当てによって、ダイ1を押圧棒体の先端に当てて位置出しをするものとする。
【0017】
次に、図6に示すように、より具体的な偏芯動作について述べる。まず、ダイ1がセンターにあるとする。
例えば、ダイ1を押圧棒体Aからθ°反時計方向へずれた位置にSmm偏芯させるとすると、押圧棒体AをScosθmm抜き方向へ回し、押圧棒体BはSsinθmm抜き方向へ回す。そのまま、押圧棒体C,Dを押圧棒体A,Bの移動速度より若干遅い速度にて更に低いトルク(押圧棒体A,B回転トルクより低い値)にて押し当ててやると、ダイ1は目標位置へ移動することになる。
【0018】
そこから、押圧棒体c,d方向へ移動する場合は、上記とは逆に、押圧棒体c,d,を位置制御し、押圧棒体a,bを追従するように押し当てて回転させればよい。
ダイ偏芯の動きは上述の通りであるが、この動きをパリソン4吐出中に時間軸に対し、決められた設定通りに連続的に動作させるものとする。
例えば、図7のようなデータテーブルを作成し、パリソン4が流れ始めたところを0秒とし、それから時間が経過する毎に図7のストローク・角度に従い、ダイ1を偏芯方向へ移動することにより、例えば図9で示されるような予め設定した偏肉に制御されたパリソン4を得ることができ、複雑な形状の中空成形品50の場合でもバリ等の発生の少ない安定した肉厚の中空成形機品50を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明による中空成形機におけるパリソン偏肉制御方法及び装置を示す平面構成図である。
【図2】図1の構成のダイの偏芯状態を示す構成図である。
【図3】図1の構成のダイの偏芯状態を示す構成図である。
【図4】図1の構成の実機を示す平面図である。
【図5】図4の正面図である。
【図6】図1の構成によるダイの実際の偏芯動作を示す構成図である。
【図7】図6のダイ偏芯の数値制御の設定したデータテーブルである。
【図8】従来の中空成形品の形状とパリソンの肉厚の状態を示す説明図である。
【図9】本発明の中空成形品の形状とパリソンの偏肉の状態を示す説明図である。
【符号の説明】
【0020】
1 ダイ
1a 周面
2 ダイホルダ
3 コア
4 パリソン
5 ダイキャップ
6 押圧棒体(a,b,c,d)
7 アクチュエータ(モータエンコーダ)
10 基台
11 自在接手
50 中空成形品

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クロスヘッドのダイ(1)とコア(3)間に形成されるダイギャップ(5)から金型に吐出されるパリソン(4)の肉厚を、前記ダイ(1)を偏芯させることにより調整して中空成形品を得るようにした中空成形機におけるパリソン偏肉制御方法において、
前記ダイ(1)の周面(1a)に接し、前記周面(1a)を半径方向に押圧可能な複数の押圧棒体(6)と、前記各押圧棒体(6)の押圧を制御するため前記各押圧棒体(6)に接続された複数のアクチュエータ(7)と、を用い、
前記パリソン(4)を下方へ吐出中に時間軸に対し前記ダイ(1)を偏芯させ、前記ダイ(1)の長さ方向に沿って肉厚を変えることを特徴とする中空成形機におけるパリソン偏肉制御方法。
【請求項2】
前記パリソン(4)の肉厚は、前記中空成形品の形状に合わせたアキシャル方向及びラジアル方向の肉厚調整を同時に行うことを特徴とする請求項1記載の中空成形機におけるパリソン偏肉制御方法。
【請求項3】
前記ダイ(1)を偏芯させるための前記各アクチュエータ(7)の動作は、前記中空成形品の形状に合わせて予め設定された設定値に従って前記各アクチュエータ(7)を数値制御することを特徴とする請求項1又は2記載の中空成形機におけるパリソン偏肉制御方法。
【請求項4】
前記各アクチュエータ(7)は、エンコーダを有するモータエンコーダからなることを特徴とする請求項1ないし3の何れかに記載の中空成形機におけるパリソン偏肉制御方法。
【請求項5】
クロスヘッドのダイ(1)とコア(3)間に形成されるダイギャップ(5)から金型に吐出されるパリソン(4)の肉厚を、前記ダイ(1)を偏芯させることにより調整して中空成形品を得るようにした中空成形機におけるパリソン偏肉制御装置において、
前記ダイ(1)の周面(1a)に接し、前記周面(1a)を半径方向に押圧可能な複数の押圧棒体(6)と、前記各押圧棒体(6)の押圧を制御するため前記各押圧棒体(6)に接続された複数のアクチュエータ(7)と、を備え、
前記パリソン(4)を下方へ吐出中に時間軸に対し前記ダイ(1)を偏芯させ、前記ダイ(1)の長さ方向に沿って肉厚を変えることを特徴とする中空成形機におけるパリソン偏肉制御装置。
【請求項6】
前記パリソン(4)の肉厚は、前記中空成形品の形状に合わせたアキシャル方向及びラジアル方向の肉厚調整を同時に行うことを特徴とする請求項5記載の中空成形機におけるパリソン偏肉制御装置。
【請求項7】
前記ダイ(1)を偏芯させるための前記各アクチュエータ(7)の動作は、前記中空成形品の形状に合わせて予め設定された設定値に従って前記各アクチュエータ(7)を数値制御することを特徴とする請求項5又は6記載の中空成形機におけるパリソン偏肉制御装置。
【請求項8】
前記各アクチュエータ(7)は、エンコーダを有するモータエンコーダからなることを特徴とする請求項5ないし7の何れかに記載の中空成形機におけるパリソン偏肉制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−238727(P2008−238727A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−85249(P2007−85249)
【出願日】平成19年3月28日(2007.3.28)
【出願人】(000004215)株式会社日本製鋼所 (840)
【Fターム(参考)】