説明

中空状動力伝達シャフト

【課題】中空状動力伝達シャフトにおいて、その端部外径に塑性加工にて成形される動力伝達用スプライン部の高精度化を図る。
【解決手段】鋼管30の端部に設けた小径部4外径に塑性加工を施すことで成形した動力伝達用スプライン部としてのスプライン2と、このスプライン2の内径側に配置されて鋼管30の端部開口を封止する封止部材31とを備える中間シャフト1である。封止部材31は、スプライン2成形のための塑性加工前から鋼管30の小径部4内径に配置され、この塑性加工時に鋼管30の小径部4内径面を支持する。塑性加工によるスプライン2の成形時において、鋼管30に対する封止部材31の軸方向移動は、鋼管30の小径部4内径に設けた段差面4aと封止部材31の内端面31aとを軸方向で当接させることで形成した軸方向係合構造40で規制される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車や各種産業機械の動力伝達装置に組み込まれる中空状動力伝達シャフトに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車や各種産業機械に組み込まれてエンジンから駆動車輪に動力(回転トルク)を伝達する動力伝達装置として、例えば、軸方向に離隔して配置した2つの等速自在継手を中間シャフトで連結して構成されるドライブシャフトやプロペラシャフトがある。この種のドライブシャフトにおいて、中間シャフトは、その両端外径にスプライン等の動力伝達用スプライン部を有し、2つの等速自在継手をトルク伝達可能に連結する動力伝達シャフトとして機能する。中間シャフトは、中実の棒材を加工して得られる中実タイプと、鋼管を加工して得られる中空タイプとに大別され、近時においては、足回り部品の軽量化、捩り剛性の向上およびNVH特性向上といった機能面での必要性から中空タイプが重用されている。
【0003】
通常、等速自在継手の内部空間にはグリース等の潤滑剤が封入されており、何ら対策を講じることなく中空状の中間シャフトを等速自在継手(厳密には内側継手部材)に連結すると、上記の潤滑剤が中間シャフトの中空部に流入するために継手内部空間で保持すべき潤滑剤量が減少し、その結果、等速自在継手の潤滑性能、ひいては耐久寿命に悪影響を及ぼすおそれがある。このような事態を防止すべく、例えば以下に示す特許文献1には、中間シャフトの開口部を別途の封止部材(同文献中「プラグ」)で封止した構成が開示されている。
【0004】
中間シャフトの端部外径に設けられる動力伝達用のスプライン部は、強度確保と加工コストの抑制とを同時に達成すべく、鋼管の端部外径に転造加工やプレス加工等の塑性加工を施すことによって成形される場合が多い。塑性加工でスプライン部を成形する際には、例えば以下に示す特許文献2に記載のように、鋼管の被成形部内周(端部内周)にバックアップ材を配設する場合がある。このようにすれば、簡素な型構造であっても、塑性加工に伴う鋼管端部の内径側への不当な凹みを可及的に防止して高精度のスプライン部を成形することが可能となる。なお、バックアップ材は、これを塑性加工後に取り除かない限り、そのまま上記の封止部材として利用することができる。
【0005】
動力伝達用のスプライン部を端部外径に有する中空状の動力伝達シャフトは、例えば以下に示す特許文献3に記載のように、等速自在継手を構成する外側継手部材の軸部として用いられる場合もある。この場合、一端外径にスプライン部が設けられた中空の軸部の他端にカップ部(内側継手部材やトルク伝達部材等を内周に収容するもの)を接合することにより、カップ部と中空の軸部とを有する外側継手部材が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−281010号公報
【特許文献2】特開2003−94141号公報
【特許文献3】特開2006−64060号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ドライブシャフト等の動力伝達装置において、高いトルク伝達性能を安定的に維持するには、動力伝達シャフトに設けられる動力伝達用のスプライン部を高精度に成形すると共に、等速自在継手の内部空間に充填された潤滑剤のシャフト内への流入防止を図る必要がある。上記特許文献2に開示された技術によれば、これらの両立を図ることが可能であるとも考えられる。しかしながら、特許文献2を参照するに、バックアップ材(封止部材)は、塑性加工の前段階では鋼管の端部内周に圧入固定されているに過ぎない。そのため、塑性加工に伴って、鋼管にこれを縮径させる方向の加圧力が加わると、封止部材が鋼管内径に沿って軸方向移動する可能性がある。これでは高精度のスプライン部を得ることが困難である。
【0008】
本発明の目的は、この種の中空状動力伝達シャフトにおいて、その端部外径に塑性加工にて成形される動力伝達用スプライン部の高精度化を図ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するためになされた本発明は、鋼管の端部外径に塑性加工を施すことで成形した動力伝達用のスプライン部と、スプライン部の内径側に配置されて鋼管の端部開口を封止する封止部材とを備える中空状動力伝達シャフトであって、封止部材は、塑性加工の前段階から鋼管の端部内径に配置されて、塑性加工時に鋼管の端部内径面を支持するものにおいて、塑性加工中における、鋼管に対する封止部材の少なくとも一方の軸方向に向けての移動を規制したことを特徴とする。ここで、本発明でいう塑性加工にはプレス加工や転造加工が含まれる。また、動力伝達用のスプライン部には、軸方向に延びる山部と谷部が円周方向に交互に形成されたスプラインやセレーションが含まれる。
【0010】
上記本発明の構成において、軸方向両側のうち何れの側への軸方向移動を規制するかは、塑性加工によるスプライン部成形時に、封止部材に何れの向きの加圧力が作用するかに応じて定める。すなわち、選択する加工方法や加工条件により、一端側から他端側又は他端側から一端側の軸方向移動を規制し、あるいは、両方向の軸方向移動を規制する。例えばプレス加工によって鋼管の一端部にスプライン部を成形する場合、スプライン部の成形は、鋼管の先端面側から該一端部をプレス金型(ダイス)に押し込むことにより行われることから、このとき封止部材には、一端側から他端側へ向かう方向の加圧力が作用する。従ってこの場合には、一端側から他端側への軸方向移動を規制する。
【0011】
上記のように、動力伝達用のスプライン部を成形するための塑性加工中における、鋼管に対する封止部材の少なくとも一方の軸方向に向けての移動を規制するようにすれば、上記の塑性加工に伴って鋼管に縮径方向の加圧力が加わり、その結果、封止部材を軸方向移動させるような加圧力が封止部材に作用した場合であっても、封止部材の軸方向移動を規制して、鋼管に対する封止部材の軸方向相対位置を一定に保持することができる。これにより、塑性加工中における、封止部材による鋼管の端部内径面の支持が適切に行われることから、鋼管端部の内径側への凹みを防止して高精度のスプライン部を成形することが可能となる。
【0012】
鋼管に対する封止部材の上記移動は、例えば、鋼管と封止部材との軸方向係合構造で規制することができる。両者の軸方向係合構造は、鋼管の内径に設けた段差面と封止部材の端面とを当接させることにより、あるいは、鋼管の内径面又は封止部材の外径面の少なくとも一方に設けた凹凸形状部を他方に食い込ませることにより形成することができる。また、鋼管に対する封止部材の上記移動は、鋼管の内径面と封止部材の外径面とを接着することにより規制することができる。この手段は、単独で用いても良いし、鋼管と封止部材との軸方向係合構造に組み合わせて用いても良い。また、鋼管に対する封止部材の上記移動は、封止部材を鋼管内に焼き嵌めすることにより規制することもできる。この手段も、単独で用いても良いし、鋼管と封止部材との軸方向係合構造に組み合わせて用いても良い。
【0013】
上記何れの構成においても、封止部材で密封されたシャフト内部空間と大気を連通させる連通路を有するものとすることができる。このようにすれば、連通路を介してシャフト内部空間と大気との間で空気を流通させることができるので、両者間での圧力バランスの狂いを即座に解消することができる。そのため、シャフト内部空間の圧力が大気圧に比べて極度に高まり、その結果、封止部材が鋼管の端部内周から抜け出すような事態を効果的に防止することができる。
【0014】
なお、封止部材で密封されたシャフト内部空間の圧力解放は、例えば鋼管の内径面と外径面とに開口した貫通孔を設けておくことによっても行うことができるが、鋼管にこの種の貫通孔を設けると、例えば動力伝達装置の作動時に、貫通孔に応力集中が生じ、貫通孔が動力伝達シャフトの破損起点となる可能性がある。そのため、鋼管には応力集中を招くような加工を施さないのが得策である。このような理由から、この種の動力伝達シャフトに設けるべき連通路は、封止部材に設けた軸方向の貫通孔で、若しくは、封止部材の外径面に設けた軸方向溝とこれに対向する鋼管の内径面とで形成するのが望ましい。
【0015】
上記した何れの構成においても、封止部材を、鋼管よりも高硬度の材料で形成しておけば、鋼管端部に塑性加工を施す際には鋼管端部の内径側への不当な凹みを効果的に防止して、高精度のスプライン部を成形することができる。なお、鋼管と封止部材の硬度は、例えばビッカース硬さで判断することができる。
【0016】
以上に示した本発明は、2つの等速自在継手をトルク伝達可能に連結する中間シャフトを構成する中空状動力伝達シャフトや、外側継手部材の軸部を構成する中空状動力伝達シャフトに好ましく適用することができる。
【発明の効果】
【0017】
以上に示すように、本発明によれば、この種の中空状動力伝達シャフトにおいて、その端部外径に塑性加工で成形される動力伝達用スプライン部の高精度化を図ることができる。これにより、この種の動力伝達シャフトが組み込まれる動力伝達部材のトルク伝達性能を高いレベルで安定維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】ドライブシャフトの全体構造を示す図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る中空状動力伝達シャフトの側面図であり、図1に示すドライブシャフトに組み込んだ中間シャフトの側面図である。
【図3】図2に示す中間シャフトの要部拡大図である。
【図4】図2に示す中間シャフトの製造工程のうち、スプライン成形工程を模式的に示す要部拡大図である。
【図5】他の実施形態に係る中間シャフトの要部拡大図である。
【図6】他の実施形態に係る中間シャフトの要部拡大図である。
【図7】他の実施形態に係る中間シャフトの要部拡大図である。
【図8】(a)図は他の実施形態に係る中間シャフトの要部拡大図、(b)図は他の実施形態に係る中間シャフトの拡大正面図である。
【図9】本発明に係る中空状動力伝達シャフトを備えた外側継手部材の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態を図1〜9に基づいて説明する。
【0020】
図1に、エンジンから駆動車輪に動力(回転トルク)を伝達する動力伝達装置としてのドライブシャフトの全体構造を示す。このドライブシャフトは、エンジン側に配置される摺動式等速自在継手10と、駆動車輪側に配置される固定式等速自在継手20と、両等速自在継手10,20をトルク伝達可能に連結する動力伝達シャフトとしての中間シャフト1とを主要な構成として備える。
【0021】
摺動式等速自在継手10はいわゆるトリポード型(TJ)であり、カップ部12および軸部13を有する外側継手部材11と、カップ部12の内周に収容されたトリポード部材14と、トルク伝達部材としてのローラ16とを主要な構成として備える。トリポード部材14には径方向に延びる脚軸15が円周方向等間隔で3本設けられており、各脚軸15の外周には、ローラ16が1個ずつ回転自在に嵌合されている。なお、この摺動式等速自在継手10として、ダブルオフセット型(DOJ)が用いられる場合もある。
【0022】
固定式等速自在継手20はいわゆるバーフィールド型(BJ)であり、カップ部22および軸部23を有する外側継手部材21と、カップ部22の内周に収容された内側継手部材24と、カップ部22と内側継手部材24との間に配置されたトルク伝達部材としてのボール25と、カップ部22の内径面と内側継手部材24の外径面との間に配され、ボール25を円周方向等間隔に保持する保持器26とを備える。なお、この固定式等速自在継手20として、アンダーカットフリー型(UJ)が用いられる場合もある。
【0023】
中間シャフト1は中空軸状をなし、その両端部外径には、動力伝達用のスプライン部としてのスプライン2,2が一体的に設けられている。一端側(図中右側)のスプライン2は、摺動式等速自在継手10のトリポード部材14の孔部に嵌合され、これによって中間シャフト1とトリポード部材14とがトルク伝達可能に連結される。また他端側(図中左側)のスプライン2は、固定式等速自在継手20の内側継手部材24の孔部に嵌合され、これによって中間シャフト1と内側継手部材24とがトルク伝達可能に連結される。
【0024】
両等速自在継手10,20の内部空間には潤滑剤としてグリースが封入されている。グリースの外部漏洩や継手内部空間への異物侵入を防止するため、摺動式等速自在継手10の外側継手部材11と中間シャフト1との間、および固定式等速自在継手20の外側継手部材21と中間シャフト1との間には、筒状のブーツ8,9がそれぞれ装着されている。
【0025】
図2に、図1に示す中間シャフト1を抜き出して示す。中間シャフト1は、鋼管(パイプ材)30から成形された中空軸状部材であり、軸方向中間部に配された大径部3と、軸方向両端部に配され、外径面にスプライン2が設けられた小径部4,4とを備える。大径部3と各小径部4,4とは、テーパ部5、ブーツ固定部6および最小径部7を介して繋がっている。中間シャフト1成形用の鋼管30としては、例えば、SKTMやSTMA等の機械構造用炭素鋼からなるもの、あるいはSCrやSCM等の機械構造用合金鋼からなるもの等を使用することができる。
【0026】
中間シャフト1を構成する鋼管30には硬化層が形成されている。本実施形態において、硬化層は図2中にクロスハッチングで示す部分、すなわち、鋼管30全体に亘って形成されている。なお、硬化層は、特に強度が必要とされる部位に形成されていれば足り、必ずしも鋼管30の軸方向全域に亘って形成する必要はない。例えば、小径部4のうち、外径面にスプライン2が形成された領域よりも軸端側の部分には硬化層を形成せずとも足りる。また、硬化層は必ずしも鋼管30の肉厚全体に亘って形成されていなくても良く、鋼管30の内径側一部厚みに硬化層が形成されないようにしても良い。このようにすれば、熱硬化処理時に焼き割れが発生するのを防止することができる。
【0027】
中間シャフト1(鋼管30)の両端部内径、より詳細にはスプライン2,2の内径側直下位置に、スプライン2の軸方向寸法と略同一の軸方向寸法を有する封止部材31,31がそれぞれ配設されており、これによって中間シャフト1の端部開口が封止されている。各封止部材31,31は、鋼管30よりも高硬度の材料、例えばSK材(工具鋼)、S38C〜S53C材(機械構造用炭素鋼)で中実軸状に形成される。なお、鋼管30と封止部材31の硬度は、例えばビッカース硬さで判断することができる。
【0028】
中間シャフト1の端部近傍を図3に拡大して示す。なお、中間シャフト1の端部構造は、両端部共に基本的に同一であるので、図3を含め、以下では、中間シャフト1の両端部のうち、摺動式等速自在継手10のトリポード部材14に連結される側(図2中、右側)の端部を拡大して示し、これとは軸方向反対側の端部の図示を省略する。
【0029】
図3に示すように、封止部材31と鋼管30とは軸方向で係合している。両者の軸方向係合構造40は、塑性加工でスプライン2を成形する際に、封止部材31が鋼管3に対して軸方向移動するのを規制するために設けられたものであり、ここでは、鋼管30のうち、小径部4内径に設けた段差面4aと、封止部材31の内端面(鋼管30の軸方向中央部側に位置する端面)31aとを軸方向で当接させることで形成される。さらに本実施形態では、小径部4の軸端側内径部に、封止部材31の外端面(鋼管30の軸端側に位置する端面)31bと軸方向で係合した突起部4bが設けられていることから、封止部材31の軸方向両側への移動が規制される。なお、封止部材31の外端面31bと鋼管30の突起部4bとの軸方向係合によって封止部材31の抜脱が可及的に防止されることから、継手内部空間に充填されたグリースが中間シャフト1(鋼管30)の内部空間に流入するような事態、ひいては等速自在継手の内部潤滑不良が生じるような事態が効果的に防止される。
【0030】
上記構成の中間シャフト1は、概ね次のようにして製作される。まず、鋼管30の軸方向所定部位に絞り加工を施して大径部3や小径部4等を成形した後、小径部4の内径に封止部材31を配設した状態で小径部4に塑性加工を施して小径部4の外径面にスプライン2を成形する。そして、鋼管30の所定部位に高周波焼入れ、浸炭焼入れ、あるいは浸炭窒化焼入れ等の熱硬化処理を施すと共に、適当な仕上げ加工を必要に応じて施す。これにより完成品としての中間シャフト1を得る。このような工程を経て製作される中間シャフト1の製造工程のうち、塑性加工によるスプライン2の成形工程を、図4を参照しながら説明する。
【0031】
まず、適当な手段によって小径部4内径に段差面4aを形成した鋼管30の内周に、軸端(端面30a)側から封止部材31を挿入する。封止部材31を鋼管30の軸方向中央部側に押し進め、封止部材31の内端面31aを段差面4aに当接させる。これにより、封止部材31の内端面31aと鋼管30の段差面4aとが軸方向で係合し、軸方向係合構造40が構成される。鋼管30の段差面4aと端面30aとの間の軸方向離間距離は、封止部材31の軸方向寸法よりも大きく設定されている。従って、軸方向係合構造40の構成時において、封止部材31は、その外端面31bが、隣接する鋼管30の端面30aから軸方向に離隔するようにして配置される。この状態で、図4中の白抜き矢印で示すように、鋼管30を、成形すべきスプライン2形状に対応した型部を有する図示しないプレス金型(ダイス)に対して軸方向に押し込むと、鋼管30の小径部4には図4中黒塗り矢印で示すような縮径方向の加圧力が付加される。これにより、小径部4外径にスプライン2が成形される。
【0032】
さらに詳述する。小径部4外径面へのスプライン2の成形は、鋼管30の軸端側から軸方向中央部側に向かって順次進行するかたちで行われる。そのため、鋼管30の小径部4がプレス金型内に押し込まれると、まず鋼管30の軸端に縮径方向の加圧力が付加され、その結果、鋼管30(小径部4)の軸端内径に突起部4b(図3を参照)が形成される。これにより、封止部材31は、段差面4aと突起部4bとで軸方向に挟持され、これ以降は、封止部材31が軸方向に挟持された状態でスプライン2の成形が進行する。
【0033】
プレス金型に対する鋼管30の押し込みをさらに進行させると、封止部材31には当該封止部材31を鋼管30の軸方向中央側に押し込む方向の加圧力が作用する。このとき、封止部材31と鋼管30との間に軸方向係合構造40が設けられていることから、スプライン2成形の進行(プレス金型に対する鋼管30の押し込み)に伴う封止部材30の軸方向移動は効果的に規制される。そのため、プレス加工によってスプライン2を成形している最中にも、鋼管30に対する封止部材31の軸方向相対位置は一定に保持され、封止部材31は、スプライン2が成形される小径部4の内径面を適切に支持する(スプライン2成形時のバックアップとして適切に機能する)。これにより、スプライン2の高精度化が達成される。そして、所定の軸方向寸法を有するスプライン2が成形された後、鋼管30をプレス金型から抜き取る。なお、詳細な説明は省略するが、鋼管30の反対側の小径部4外径にも、上記同様にしてスプライン2を成形する。
【0034】
以上で説明したように、本発明に係る中間シャフト1においては、鋼管30と封止部材31とを軸方向で係合させる軸方向係合構造40が設けられ、この軸方向係合構造40によって、プレス加工によるスプライン2の成形中における、鋼管30に対する封止部材31の軸方向移動(ここでは、鋼管30の軸方向中央部側への軸方向移動)が規制される。このようにすれば、プレス加工に伴って鋼管30に縮径方向の加圧力が加わり、その結果、鋼管30の軸方向中央側へ移動させるような加圧力が封止部材31に作用した場合であっても、封止部材31の軸方向移動が規制され、鋼管30(の小径部4)に対する封止部材31の軸方向相対位置が一定に保持される。これにより、プレス加工によるスプライン2成形時における、封止部材31による鋼管30の小径部4内径面の支持が適切に行われることから、鋼管30の小径部4の内径側への凹みを防止して高精度のスプライン2を成形することができる。
【0035】
特に、封止部材31を、鋼管30よりも高硬度の材料で形成すると共に、成形すべきスプライン2の軸方向寸法と概ね同一の軸方向寸法に設定し、これを成形すべきスプライン2の内径側直下位置に配置したことから、小径部4の内径面のうちスプライン2成形領域は、その全体が塑性加工に伴って封止部材31の外径面と密着する。これにより、スプライン2の更なる高精度化を達成することができる。
【0036】
以上、本発明の一実施形態に係る中間シャフト1について説明を行ったが、本発明は上記した構成に限定されるものではなく、種々の変更を施すことが可能である。例えば、プレス加工によるスプライン2成形時における、鋼管30に対する封止部材31の軸方向移動を規制するための構造は上記したものに限定されるわけではなく、図5〜7に示すような構成とすることもでき、これら何れの構成を採用した場合であっても上記同様の作用効果を得ることができる。
【0037】
詳細に述べると、図5は、段差面4aを上記した実施形態に比べて軸端側に配置すると共に封止部材31を段付き軸状に形成し、封止部材31の肩面(大径部の内端面)31cと鋼管30の段差面4aとを当接させることで形成した軸方向係合構造40で、プレス加工によるスプライン2成形時における、鋼管30の軸方向中央側への封止部材31の移動を規制したものである。また、図6は、径一定の中実軸状に形成した封止部材31の外径面31dに形成した凹凸形状部32を鋼管30の内径面に食い込ませることにより形成した軸方向係合構造41で、プレス加工によるスプライン2成形時における、鋼管30に対する封止部材31の軸方向移動を規制したものである。また、図7は、封止部材31の外径面31dと鋼管30の内径面とを接着することにより両者間に形成した接着剤層42で、鋼管30に対する封止部材31の軸方向移動を規制したものである。図5〜図7に示す何れの構成においても、封止部材31は、鋼管30よりも高硬度の材料で形成されたものであり、また、その軸方向寸法はスプライン2の軸方向寸法と略同一である。なお、図7においては、封止部材31の外径面31dと鋼管30の内径面との間に形成した接着剤層42のみにより、鋼管30に対する封止部材31の軸方向移動を規制するようにしているが、接着剤層42は、軸方向係合構造40,41に加えて採用しても良い。
【0038】
図示は省略するが、プレス加工によるスプライン2成形時における、鋼管30に対する封止部材31の軸方向移動は、封止部材31を鋼管30内に焼き嵌めしておくことで規制することもできる。この焼き嵌めも上記の接着剤層42と同様に、単独で採用しても良いし、軸方向係合構造40,41に加えて採用しても良い。
【0039】
なお、図6に示す凹凸形状部32は、封止部材31の外径面31dに替えて鋼管30の内径面に形成しても良いし、封止部材31の外径面31dおよびこれに対向する鋼管30の内径面の双方に形成しても良い。凹凸形状部32の形成手段は特に問わず、ローレット加工、ブラスト処理、転造加工(ねじ加工)等を採用することができる。また、図7では、突出部4bの図示を省略しているが、図3、図5および図6に示す構成と同様に突出部4bを形成することができる。
【0040】
また、本発明に係る中空状の中間シャフト1には、図8(a)(b)に示すように、封止部材31で密封されたシャフト内部空間と大気を連通させる連通路33を設けることができる。図8(a)は、図7に示す構成に連通路33を追加した構成であって、この連通路33は、封止部材31を軸方向に貫通する(封止部材31の両端面31a,31bに開口する)貫通孔31eを設けることによって得られたものである。また、図8(b)は、封止部材31の外径面31dに設けた軸方向溝31fと鋼管30の内径面とで連通路33を形成した中間シャフト1の一例である。図8(a)は、図7に示す中間シャフト1に連通路33を追加したものであるが、この種の連通路33を、図3、図5および図6に示す構成の中間シャフト1に追加可能であることは言うまでもない。
【0041】
このような連通路33を設けておけば、連通路33を介してシャフト内部空間と大気との間で空気を流通させることができるので、両者間の圧力バランスの狂いを即座に解消することができる。そのため、シャフト内部空間の圧力が大気圧に比べて極度に高まり、その結果、封止部材31が鋼管30から抜け出すような事態を効果的に防止することができる。
【0042】
なお、シャフト内部空間の圧力解放は、例えば鋼管30の内径面と外径面とに開口した貫通孔を設けておくことでも実行することができる。しかしながら、鋼管30にこの種の貫通孔を設けると、ドライブシャフトの作動に伴って中間シャフト1に種々の応力が作用した時に、貫通孔に応力が集中し、貫通孔が中間シャフト1の破損起点となる可能性がある。そのため、鋼管30には応力集中を招くような加工を施さないのが得策である。このような理由から、連通路33は、上記したような軸線に沿って延びるもの、具体的には、封止部材31に設けた軸方向の貫通孔31eで、若しくは、封止部材31の外径面31dに設けた軸方向溝31fとこれに対向する鋼管30の内径面とで形成するのが望ましい。
【0043】
以上で説明した中間シャフト1は、プレス加工によってスプライン2を成形したものであるが、プレス加工以外の塑性加工、例えば転造加工でスプライン2を成形する場合にも本発明は好ましく適用できる。
【0044】
以上で説明した本発明の構成は、2つの等速自在継手10,20をトルク伝達可能に連結する中間シャフト1にのみ限定適用されるものではなく、他の中空状動力伝達シャフト、例えば図9に示すような外側継手部材の軸部にも好ましく適用することができる。同図に示す外側継手部材50は、例えば図1に示すドライブシャフトの摺動式等速自在継手10に組み込み可能なものであって、内側継手部材やトルク伝達部材を内周に収容可能なカップ部51と、カップ部51の底部から軸方向に延びた中空の軸部52とを備えるものである。カップ部51と軸部52とは、摩擦圧接あるいは溶接(ここでは摩擦圧接)によって接合一体化されている。軸部52のうち、反カップ部51側の端部外径に小径部4が設けられ、この小径部4の外径面にスプライン2が塑性加工によって成形されている。そして、スプライン2の内径側直下位置には、図3、図5〜図8を参照して説明した何れかに準ずる態様で封止部材31が配設されている。
【0045】
以上では、本発明を、ドライブシャフトを構成する中空状動力伝達シャフトに適用しているが、本発明は、プロペラシャフト等、その他の動力伝達装置を構成する中空状動力伝達シャフトにも好ましく適用することができる。
【符号の説明】
【0046】
1 中間シャフト(中空状動力伝達シャフト)
2 スプライン(動力伝達用のスプライン部)
4 小径部
4a 段差面
4b 突起部
30 鋼管
31 封止部材
32 凹凸形状部
33 連通路
40 軸方向係合構造
41 軸方向係合構造
42 接着剤層
50 外側継手部材
52 軸部(中空状動力伝達シャフト)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼管の端部外径に塑性加工を施すことで成形した動力伝達用のスプライン部と、該スプライン部の内径側に配置されて鋼管の端部開口を封止する封止部材とを備える中空状動力伝達シャフトであって、封止部材は、前記塑性加工の前段階から鋼管の端部内径に配置されて、前記塑性加工時に鋼管の端部内径面を支持するものにおいて、
前記塑性加工中における、鋼管に対する封止部材の少なくとも一方の軸方向に向けての移動を規制したことを特徴とする中空状動力伝達シャフト。
【請求項2】
鋼管に対する封止部材の前記移動を、鋼管と封止部材との軸方向係合構造で規制した請求項1に記載の中空状動力伝達シャフト。
【請求項3】
前記軸方向係合構造を、鋼管の内径に設けた段差面と封止部材の端面とを当接させることで形成した請求項2に記載の中空状動力伝達シャフト。
【請求項4】
前記軸方向係合構造を、鋼管の内径面又は封止部材の外径面の少なくとも一方に設けた凹凸形状部を他方に食い込ませることで形成した請求項2に記載の中空状動力伝達シャフト。
【請求項5】
鋼管に対する封止部材の前記移動を、鋼管の内径面と封止部材の外径面とを接着することにより規制した請求項1〜4の何れか一項に記載の中空状動力伝達シャフト。
【請求項6】
鋼管に対する封止部材の前記移動を、封止部材を鋼管内に焼き嵌めすることにより規制した請求項1〜4の何れか一項に記載の中空状動力伝達シャフト。
【請求項7】
封止部材で密封されたシャフト内部空間と大気を連通させる連通路を有する請求項1〜6の何れか一項に記載の中空状動力伝達シャフト。
【請求項8】
前記連通路を、封止部材に設けた軸方向の貫通孔、若しくは、封止部材の外径面に設けた軸方向溝とこれに対向する鋼管の内径面とで形成した請求項7に記載の中空状動力伝達シャフト。
【請求項9】
封止部材を、鋼管よりも高硬度の材料で形成した請求項1〜8の何れか一項に記載の中空状動力伝達シャフト。
【請求項10】
2つの等速自在継手をトルク伝達可能に連結する中間シャフトを構成するものである請求項1〜9の何れか一項に記載の中空状動力伝達シャフト。
【請求項11】
外側継手部材の軸部を構成するものである請求項1〜9の何れか一項に記載の中空状動力伝達シャフト。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−235317(P2011−235317A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−109162(P2010−109162)
【出願日】平成22年5月11日(2010.5.11)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】