説明

中空粒子含有断熱塗料及び中空粒子含有断熱塗膜

【課題】中空粒子含有断熱塗料及び中空粒子含有断熱塗膜において、シリカナノ中空粒子の凝集を防止して固形分としてより多くの量を混入でき、より小さい熱伝導率を得ることができること。
【解決手段】シリカナノ中空粒子1及び表面修飾剤としてのTEISをn−ヘキサンに混入して高速攪拌機で攪拌して分散させ(S10)、湿式ジェットミルで強力に微細凝集粒子に分散させ(S11)、オートクレーブを用いて表面修飾処理を行い(S12)、この分散液からエバポレータによってn−ヘキサンを蒸発させて、一旦粉体の状態とした後(S13)、塗料樹脂としてのアクリルウレタン樹脂と、塗料溶媒としてのキシレンが添加され、高速攪拌機によって混合されて(S14)、中空粒子含有断熱塗料11が得られる。この中空粒子含有断熱塗料11におけるシリカナノ中空粒子1の含有率は固形分について約50体積%で、塗膜の熱伝導率は0.027W/mKであった。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、略30nmから略300nmまでの範囲内の外径を有するシリカ殻からなるナノ中空粒子(以下、「シリカナノ中空粒子」ともいう。)の塗料への混入量を増加させることによって、より大きな断熱性を持たせた中空粒子含有断熱塗料及び中空粒子含有断熱塗膜に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、ナノテクノロジー研究の一環として、数百ナノメートル以下の粒子径を有する微粒子についての応用研究が盛んに行われている。その一例として、特許文献1に記載の高分散シリカナノ中空粒子及びそれを製造する方法の発明がある。このシリカナノ中空粒子は、緻密なシリカ殻からなるナノ中空粒子であって、細孔分布において2nm〜20nmの細孔が検出されないものであり、炭酸カルシウムを調整する第1工程、それにシリカをコーティングする第2工程、炭酸カルシウムを溶解させてシリカナノ中空粒子とする第3工程によって製造される。
【0003】
この特許文献1に係る高分散シリカナノ中空粒子は、中空で、かつ、シリカ殻が薄いため、断熱性及び透明性に優れ、特許文献2に示されるように、塗料・フィルム・合成繊維中に均一に分散させることによって、断熱塗料・断熱フィルム・断熱繊維を得ることができて幅広い技術分野に応用することができ、その他にも、多方面に亘る応用が期待されている。
【特許文献1】特開2005−263550号公報
【特許文献2】特開2007−070458号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1に記載の高分散シリカナノ中空粒子においては、略30nm〜略300nmの外径を有する微小粒子であるため、凝集を起こし易く、水・有機溶媒等の溶媒中においても、溶融樹脂等に混入する場合においても、直ちに凝集して数μm〜数十μmの大きさの巨大凝集粒子となってしまい、塗料・フィルム・合成繊維中に数百nmの大きさの微細凝集粒子として均一に分散させることは、実際上は困難であるため、シリカナノ中空粒子の有する断熱性・透明性といった優れた特性を充分に発現させることができないという問題点があった。
【0005】
例えば、断熱性については、上記特許文献2に示されるように、ポリエステル樹脂を固形分で89.19重量%、シリカナノ中空粒子を固形分で10.81重量%配合した断熱塗料を作製して、乾燥して塗膜とした場合の熱伝導率は0.15W/mKであり、ポリエステル樹脂そのものの熱伝導率(0.29W/mK)の約半分と小さくなっていて、シリカナノ中空粒子の断熱性が明確に表れている。しかし、塗料等の中に数百nmの大きさの微細凝集粒子として均一に分散させることができ、かつ、シリカナノ中空粒子の配合量もより増加させることができれば、より小さい熱伝導率が得られることが期待できる。
【0006】
そこで、本発明は、シリカナノ中空粒子の凝集を防止して塗料中に微細凝集粒子として分散させ、かつ、固形分としてより多くの量を混入することができ、より小さい熱伝導率、すなわちより大きな断熱性を得ることができる中空粒子含有断熱塗料及び中空粒子含有断熱塗膜を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1の発明に係る中空粒子含有断熱塗料は、略30nm〜略300nmの範囲内の外径を有するシリカ殻からなるナノ中空粒子を塗料中に略均一に分散してなる断熱塗料であって、前記シリカ殻からなるナノ中空粒子が固形分で30体積%〜70体積%の範囲内で含有されるものである。
【0008】
ここで、「塗料」としては、塗膜構成成分として有機合成樹脂を含有し溶媒として有機溶媒を用いた有機塗料、塗膜構成成分として無機化合物を含有する無機塗料、更には溶媒として水を用いた水性塗料、等のあらゆる塗料を用いることができる。また、「有機溶媒」としては、メタノール、エタノール、プロパノール等の脂肪族アルコール、n−ヘキサン等の脂肪族炭化水素、キシレン等の芳香族炭化水素、等を用いることができる。
【0009】
なお、本発明において数値に「略」が付されているものは、臨界値、境界値として当該値が出てきたものではなく、その数値は大凡の値として捉えているものである。
【0010】
請求項2の発明に係る中空粒子含有断熱塗料は、請求項1の構成において、前記中空粒子含有断熱塗料を基材に塗布して形成される中空粒子含有断熱塗膜の塗膜自体の熱伝導率が0.025W/mK〜0.06W/mKの範囲内であるものである。
【0011】
請求項3の発明に係る中空粒子含有断熱塗料は、請求項1または請求項2の構成において、前記シリカ殻からなるナノ中空粒子を溶媒に湿式ジェットミルで微細分散させた後、有機溶媒と表面修飾剤を加えて前記シリカ殻からなるナノ中空粒子に前記表面修飾剤を反応付加させて表面修飾し、前記塗料中に微細分散させてなるものである。
【0012】
ここで、「表面修飾剤」としては、イソシアネート系化合物、アミン系化合物、ビニル系化合物、エポキシ系化合物、メタクリロキシ系化合物、アクリル系化合物、イミド系化合物、アルキル基を有する化合物、アリール基を有する化合物、等を用いることができる。また、「有機溶媒」としては、メタノール、エタノール、プロパノール等の脂肪族アルコール、n−ヘキサン等の脂肪族炭化水素、キシレン等の芳香族炭化水素、等を用いることができる。更に、「湿式ジェットミル」としては、エス・ジー・エンジニアリング(株)製のナノマイザー、(株)エスエムテー製の超高圧式ホモジナイザーLAB2000、(株)スギノマシン製のアルティマイザー、等を用いることができる。
【0013】
請求項4の発明に係る中空粒子含有断熱塗料は、請求項3の構成において、前記表面修飾は、前記シリカ殻からなるナノ中空粒子に前記有機溶媒と前記表面修飾剤を加えて混合物を作製し、該混合物に高温高圧を加えて前記有機溶媒の超臨界状態として、前記シリカ殻からなるナノ中空粒子の表面に前記表面修飾剤を反応付加させるものである。
【0014】
請求項5の発明に係る中空粒子含有断熱塗料は、請求項4の構成において、オートクレーブを用いて前記混合物に高温高圧を加えて前記有機溶媒の超臨界状態とするものである。
【0015】
請求項6の発明に係る中空粒子含有断熱塗料は、請求項3乃至請求項5のいずれか1つの構成において、前記表面修飾剤はイソシアネート系表面修飾剤であるものである。ここで、「イソシアネート系表面修飾剤」とは、イソシアネート基(−N=C=O)を1つ以上有する化合物からなる表面修飾剤を意味し、アルキル基にイソシアネート基が3個結合したトリイソシアネート化合物、トリエトキシプロピルイソシアネートシラン(TEIS)等の化合物を用いることができる。
【0016】
請求項7の発明に係る中空粒子含有断熱塗膜は、請求項1乃至請求項6のいずれか1つに記載の中空粒子含有断熱塗料を基材に塗布してなるものである。
【0017】
請求項8の発明に係る中空粒子含有断熱塗膜は、請求項7の構成において、塗膜自体の熱伝導率が0.025W/mK〜0.06W/mKの範囲内であるものである。
【0018】
請求項9の発明に係る中空粒子含有断熱塗膜は、請求項7または請求項8の構成において、膜厚が5μm〜200μmの範囲内であるものである。
【発明の効果】
【0019】
請求項1の発明に係る中空粒子含有断熱塗料は、略30nm〜略300nmの範囲内の外径を有するシリカ殻からなるナノ中空粒子を塗料中に略均一に分散してなる断熱塗料であって、シリカ殻からなるナノ中空粒子が固形分で30体積%〜70体積%の範囲内で、より好ましくは45体積%〜55体積%の範囲内で含有される。
【0020】
このように、略30nm〜略300nmの範囲内の外径を有するシリカ殻からなるナノ中空粒子を、凝集を防止して塗料中に微細分散させることによって、シリカ殻からなるナノ中空粒子を固形分で30体積%〜70体積%の範囲内で、塗料中に含有させることができる。
【0021】
この結果、かかる構成の中空粒子含有断熱塗料を基材に塗布してなる塗膜中のシリカナノ中空粒子の含有率は30体積%〜70体積%となり、かかる塗膜の熱伝導率は、上記特許文献2に示される0.15W/mKを大きく下回り、数分の一となって、より断熱性に優れた断熱塗料を得ることができる。これによって、例えば半導体の断熱材料としても用いることができ、その応用分野は大きく拡がることになる。
【0022】
なお、シリカ殻からなるナノ中空粒子が固形分で45体積%〜55体積%の範囲内で含有されることによって、中空粒子含有断熱塗料を基材に塗布してなる塗膜の熱伝導率は、上記特許文献2に示される0.15W/mKを大きく下回り、五分の一(0.03W/mK)以下となるため、より好ましい。
【0023】
このようにして、シリカナノ中空粒子の凝集を防止して塗料中に微細凝集粒子として分散させ、かつ、固形分としてより多くの量を混入することができ、より小さい熱伝導率、すなわちより大きな断熱性を得ることができる中空粒子含有断熱塗料となる。
【0024】
請求項2の発明に係る中空粒子含有断熱塗料においては、中空粒子含有断熱塗料を基材に塗布して形成される中空粒子含有断熱塗膜の塗膜自体の熱伝導率が0.025W/mK〜0.06W/mKの範囲内、より好ましくは0.025W/mK〜0.028W/mKの範囲内である。
【0025】
上述したように、シリカ殻からなるナノ中空粒子が固形分で30体積%〜70体積%の範囲内で含有されることによって、中空粒子含有断熱塗料を基材に塗布してなる塗膜の熱伝導率は上記特許文献2に示される0.15W/mKを大きく下回り、本発明者らが鋭意実験研究を積み重ねた結果、より良い場合には、空気の熱伝導率(0.024W/mK)に近い0.025W/mK〜0.06W/mKの範囲内、より好ましくは0.025W/mK〜0.028W/mKの範囲内の値が得られることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成したものである。
【0026】
この値は、従来の断熱塗膜の熱伝導率を大きく低減させた画期的なものであり、上述したように、シリカ殻からなるナノ中空粒子を塗料中に微細分散させて、固形分で30体積%〜70体積%の範囲内で、より好ましくは45体積%〜55体積%の範囲内で塗料中に含有させることによって達成されたものである。
【0027】
このようにして、シリカナノ中空粒子の凝集を防止して塗料中に微細凝集粒子として分散させ、かつ、固形分としてより多くの量を混入することができ、より小さい熱伝導率、すなわちより大きな断熱性を得ることができる中空粒子含有断熱塗料となる。
【0028】
請求項3の発明に係る中空粒子含有断熱塗料は、シリカ殻からなるナノ中空粒子を溶媒に湿式ジェットミルで微細分散させた後、有機溶媒と表面修飾剤を加えてシリカ殻からなるナノ中空粒子に表面修飾剤を反応付加させて表面修飾し、塗料中に微細分散させてなる。
【0029】
ここで、「表面修飾剤」としては、イソシアネート系化合物、アミン系化合物、ビニル系化合物、エポキシ系化合物、メタクリロキシ系化合物、アクリル系化合物、イミド系化合物、アルキル基を有する化合物、アリール基を有する化合物、等を用いることができる。また、「有機溶媒」としては、メタノール、エタノール、プロパノール等の脂肪族アルコール、n−ヘキサン等の脂肪族炭化水素、キシレン等の芳香族炭化水素、等を用いることができる。更に、「湿式ジェットミル」としては、エス・ジー・エンジニアリング(株)製のナノマイザー、(株)エスエムテー製の超高圧式ホモジナイザーLAB2000、(株)スギノマシン製のアルティマイザー、等を用いることができる。
【0030】
このように、略30nm〜略300nmの範囲内の外径を有するシリカ殻からなるナノ中空粒子を、湿式ジェットミルで強力に分散させることによって、その大部分を溶媒に微細分散させ、更にこれらの微細分散粒子に表面修飾剤を反応付加させて表面修飾することによって、凝集を防止して塗料中に微細分散させることができる。
【0031】
ここで、シリカ殻からなるナノ中空粒子は、略150m2 /gという極めて大きい比表面積を有しているため、塗料に混入しようとしても僅かな重量%しか混入することができなかった。この大きな比表面積の値は、シリカ殻からなるナノ中空粒子の表面に微細な分子レベルの凹凸が存在しているためと推測される。しかし、表面修飾することによって、表面修飾剤で微細な分子レベルの凹凸が埋められるものと推測され、比表面積が減少することが分かっている。その結果、微細凝集粒子に分散させた状態で混入するにも関わらず、数μm〜数十μmオーダーの巨大凝集粒子を混入する場合よりも、より多くの量のシリカナノ中空粒子を混入することができる。これによってシリカ殻からなるナノ中空粒子を固形分で30体積%〜70体積%の範囲内で、塗料中に含有させることができる。
【0032】
この結果、かかる構成の中空粒子含有断熱塗料を基材に塗布してなる塗膜の熱伝導率は、上記特許文献2に示される0.15W/mKを大きく下回り、数分の一となって、より断熱性に優れた断熱塗料を得ることができる。これによって、例えば半導体の断熱材料としても用いることができ、その応用分野は大きく拡がることになる。
【0033】
このようにして、シリカナノ中空粒子の凝集を防止して塗料中に微細凝集粒子として分散させ、かつ、固形分としてより多くの量を混入することができ、より小さい熱伝導率、すなわちより大きな断熱性を得ることができる中空粒子含有断熱塗料となる。
【0034】
請求項4の発明に係る中空粒子含有断熱塗料においては、表面修飾は、シリカ殻からなるナノ中空粒子に有機溶媒と表面修飾剤を加えて混合物を作製し、混合物に高温高圧を加えて有機溶媒の超臨界状態として、シリカ殻からなるナノ中空粒子の表面に表面修飾剤を反応付加させる。
【0035】
有機溶媒の超臨界状態とすることによって、有機溶媒が表面修飾剤とともに巨大凝集粒子の中に自由に入り込んで、微細凝集粒子の表面全面に表面修飾剤が反応付加する。このため、湿式ジェットミルで強力な攪拌・分散を行っても微細凝集粒子にまで分散せず、巨大凝集粒子として残存しているシリカナノ中空粒子の各表面をも、表面修飾することができ、これらの巨大凝集粒子をも微細分散させることができる。そして、上述したように、シリカ殻からなるナノ中空粒子の含有量をより大きくすることができる。
【0036】
このようにして、シリカナノ中空粒子の凝集を防止して塗料中に微細凝集粒子として分散させ、かつ、固形分としてより多くの量を混入することができ、より小さい熱伝導率、すなわちより大きな断熱性を得ることができる中空粒子含有断熱塗料となる。
【0037】
請求項5の発明に係る中空粒子含有断熱塗料においては、オートクレーブを用いて混合物に高温高圧を加えて有機溶媒の超臨界状態とする。
【0038】
有機溶媒を超臨界状態として、有機溶媒を表面修飾剤とともに、凝集したシリカナノ中空粒子の巨大凝集粒子の中に自由に入り込ませるためには、有機溶媒と表面修飾剤の混合物に高温高圧を加える必要があるが、オートクレーブを用いることによって、安全かつ自在に高温高圧を加えることができ、シリカナノ中空粒子の微細凝集粒子の表面全面に表面修飾剤を反応付加させることができる。
【0039】
このようにして、シリカナノ中空粒子の凝集を防止して塗料中に微細凝集粒子として分散させ、かつ、固形分としてより多くの量を混入することができ、より小さい熱伝導率、すなわちより大きな断熱性を得ることができる中空粒子含有断熱塗料となる。
【0040】
請求項6の発明に係る中空粒子含有断熱塗料においては、表面修飾剤がイソシアネート系表面修飾剤である。ここで、「イソシアネート系表面修飾剤」とは、イソシアネート基(−N=C=O)を1つ以上有する化合物からなる表面修飾剤を意味し、アルキル基にイソシアネート基が3個結合したトリイソシアネート化合物、トリエトキシプロピルイソシアネートシラン(TEIS)等の化合物を用いることができる。
【0041】
このようなイソシアネート系表面修飾剤を、シリカナノ中空粒子の表面に存在する水酸基(−OH)を介して反応付加させ、シリカナノ中空粒子の表面全面をイソシアネート系表面修飾剤でコーティングすることによって、再凝集を防止することができて分散性が向上し、更にイソシアネート系表面修飾剤のイソシアネート基が塗料中の有機化合物及び無機化合物の活性基と反応することによって、強固な結合が形成されて、より一層分散性が向上する。
【0042】
このようにして、シリカナノ中空粒子の凝集を防止して塗料中に微細凝集粒子として分散させ、かつ、固形分としてより多くの量を混入することができ、より小さい熱伝導率、すなわちより大きな断熱性を得ることができる中空粒子含有断熱塗料となる。
【0043】
請求項7の発明に係る中空粒子含有断熱塗膜は、請求項1乃至請求項6のいずれか1つに記載の中空粒子含有断熱塗料を基材に塗布してなる。
【0044】
上述の如く、請求項1乃至請求項6に記載の中空粒子含有断熱塗料は、シリカナノ中空粒子が固形分としてより多くの量が混入されており、これらの中空粒子含有断熱塗料を基材に塗布してなる塗膜中には、より多くの量のシリカナノ中空粒子が略均一に分散されている。これによって、より大きな断熱性を得ることができる。
【0045】
このようにして、シリカナノ中空粒子の凝集を防止して塗料中に微細凝集粒子として分散させ、かつ、塗膜中に固形分としてより多くの量のシリカナノ中空粒子を混入することができ、より小さい熱伝導率、すなわちより大きな断熱性を得ることができる中空粒子含有断熱塗膜となる。
【0046】
請求項8の発明に係る中空粒子含有断熱塗膜においては、塗膜自体の熱伝導率が0.025W/mK〜0.06W/mKの範囲内、より好ましくは0.025W/mK〜0.028W/mKの範囲内である。
【0047】
上述したように、シリカ殻からなるナノ中空粒子が固形分で30体積%〜70体積%の範囲内で含有されることによって、これらの中空粒子含有断熱塗料を基材に塗布してなる塗膜の熱伝導率は上記特許文献2に示される0.15W/mKを大きく下回り、本発明者らが鋭意実験研究を積み重ねた結果、より良い場合には、空気の熱伝導率(0.024W/mK)に近い0.025W/mK〜0.06W/mKの範囲内、より好ましくは0.025W/mK〜0.028W/mKの範囲内が得られることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成したものである。
【0048】
この値は、従来の断熱塗膜の熱伝導率を大きく低減させた画期的なものであり、上述したように、シリカ殻からなるナノ中空粒子を溶媒に湿式ジェットミルで微細分散させた後、有機溶媒と表面修飾剤を加えて表面修飾剤を反応付加させて表面修飾し、塗料中に微細分散させて固形分で30体積%〜60体積%の範囲内で、より好ましくは45体積%〜55体積%の範囲内で塗料中に含有させることによって達成されたものである。
【0049】
このようにして、シリカナノ中空粒子の凝集を防止して塗料中に微細凝集粒子として分散させ、かつ、塗膜中に固形分としてより多くの量のシリカナノ中空粒子を混入することができ、より小さい熱伝導率、すなわちより大きな断熱性を得ることができる中空粒子含有断熱塗膜となる。
【0050】
請求項9の発明に係る中空粒子含有断熱塗膜においては、膜厚が5μm〜200μmの範囲内、より好ましくは10μm〜50μmの範囲内である。
【0051】
本発明に係る中空粒子含有断熱塗膜においては、略30nm〜略300nmの範囲内の外径を有するシリカ殻からなるナノ中空粒子を固形分で30体積%〜70体積%の範囲内で含有させた塗料を塗布することによって、高断熱性の塗膜を形成している。したがって、膜厚が5μm〜200μmの範囲内、より好ましくは10μm〜50μmの範囲内の薄膜であっても、数百層から数千層のシリカナノ中空粒子の断熱層が内包されているため、充分な断熱性を得ることができる。
【0052】
これによって、例えば半導体の断熱材料としても用いることができ、その応用分野は大きく拡がることになる。また、本発明者らは、本発明に係る中空粒子含有断熱塗膜の熱伝導率の測定実験を、膜厚が10μm〜50μmの範囲内の薄膜について実施しており、その結果、塗膜自体の熱伝導率が0.025W/mK〜0.028W/mKの範囲内であるという実験結果を得ているため、膜厚が10μm〜50μmの範囲内においては、より確実に大きな断熱性を得ることができる。
【0053】
このようにして、シリカナノ中空粒子の凝集を防止して塗料中に微細凝集粒子として分散させ、かつ、塗膜中に固形分としてより多くの量のシリカナノ中空粒子を混入することができ、より小さい熱伝導率、すなわちより大きな断熱性を得ることができる中空粒子含有断熱塗膜となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0054】
以下、本発明の実施の形態について、図1乃至図8を参照して説明する。
【0055】
図1は本発明の実施の形態に係る中空粒子含有断熱塗料の製造に用いられるシリカ殻からなるナノ中空粒子の製造工程を示す模式図である。図2は本発明の実施の形態に係る中空粒子含有断熱塗料の製造方法及びそれを用いた中空粒子含有断熱塗膜の基板上への形成工程を示すフローチャートである。図3は本発明の実施の形態に係る中空粒子含有断熱塗料を基材に塗布して形成した塗膜試料全体の熱伝導率の測定値を、塗膜の膜厚に対してプロットしたグラフである。
【0056】
図4は本発明の実施の形態に係る中空粒子含有断熱塗膜の膜厚を測定された全熱抵抗の値に対してプロットしたグラフである。図5は本発明の実施の形態に係る中空粒子含有断熱塗膜の有限要素法(FEM)による膜内伝熱シミュレーションに用いた要素モデルと物性値を示すグラフ及び表である。図6(a)は本発明の実施の形態に係る中空粒子含有断熱塗膜の有限要素法(FEM)による熱流束の計算結果を示す図、(b)はその拡大図である。
【0057】
図7(a)は本発明の実施の形態に係る中空粒子含有断熱塗料を自動車の合わせガラスに応用した一例を示す斜視図、(b)は拡大断面図である。図8(a)は本発明の実施の形態に係る中空粒子含有断熱塗料を高層ビルの合わせガラスに応用した一例を示す斜視図、(b)は拡大断面図である。
【0058】
最初に、本発明に係るシリカ殻からなるナノ中空粒子の製造方法の概略について、図1を参照して説明する。図1に示されるように、最初にコア粒子となる炭酸カルシウム微粒子2を結晶成長させる。ここで生成させる炭酸カルシウムの結晶2はカルサイトであり六方晶系であるが、合成条件を制御することにより、あたかも立方晶系であるかのような形状、即ち「立方体状形態」に成長させることができる。ここで、「立方体状形態」とは、立方体に限らず面で囲まれた立方体に似た形状をいう。この炭酸カルシウム2の外径が20nm〜200nmとなるように結晶成長させた後に、ゾル−ゲル法によりシリコンアルコキシドを用いて、炭酸カルシウム微粒子2にシリカ3をコーティングする。
【0059】
続いて、これを水に分散させて酸を添加して内部の炭酸カルシウム2を溶解させて流出させることによって、立方体状形態のシリカ殻からなるナノ中空粒子4が形成される。最後に、800℃で焼成し溶解した炭酸カルシウム2が流出した孔を塞ぐことによって、緻密なシリカ殻からなるナノ中空粒子(シリカナノ中空粒子)1が製造される。シリカナノ中空粒子1の中空部分1bの内径は、コア粒子の炭酸カルシウム微粒子2の外径20nm〜200nmであり、緻密なシリカ殻1aの厚さは1nm〜5nm、厚くても5nm〜20nm前後であるため、シリカナノ中空粒子1の外径は略30nm〜略300nmとなる。
【0060】
次に、本発明の実施の形態に係る中空粒子含有断熱塗料及び塗膜試料の製造方法について、図2のフローチャートを参照して説明する。図2に示されるように、最初にシリカナノ中空粒子1の微細分散処理が実施される(ステップS10〜S12)。すなわち、シリカナノ中空粒子1及び表面修飾剤であるイソシアネート系化合物としてのトリエトキシプロピルイソシアネートシラン(TEIS)を、溶媒としてのn−ヘキサンに混入して、高速攪拌機で攪拌して分散させ(ステップS10)、続いて湿式ジェットミルで強力に分散させて、シリカナノ中空粒子1の大部分を微細凝集粒子に分散させる(ステップS11)。
【0061】
本実施の形態においては、シリカナノ中空粒子1として、略50nm〜100nmの範囲内の外径を有する平均外径70nmの、空隙率が略70%〜80%の立方体状形態のシリカ殻からなるナノ中空粒子1を用いている。また、「高速攪拌機」としては、プライミクス(株)製のT.K.フィルミックスを用いている。更に、「湿式ジェットミル」としては、具体的には、エス・ジー・エンジニアリング(株)製のナノマイザー、(株)エスエムテー製の超高圧式ホモジナイザーLAB2000、(株)スギノマシン製のアルティマイザー、等を用いることができる。
【0062】
続いて、エバポレータによって溶媒としてのn−ヘキサンを蒸発させて、分散液を濃縮した後(ステップS12)、オートクレーブを用いて、シリカナノ中空粒子1の表面修飾処理が行われる(ステップS13)。すなわち、分散液をオートクレーブでn−ヘキサンの臨界温度(234.9℃)・臨界圧力(3.02MPa)において1時間反応させることによって、n−ヘキサンが超臨界状態となり、巨大凝集粒子として凝集しているシリカナノ中空粒子1の間にも自由に入り込んで、分散液に含まれるTEISをシリカナノ中空粒子1の表面の水酸基と反応させて、シリカナノ中空粒子1の表面全面に付加させる。これによって、ほぼ全てのシリカナノ中空粒子1の表面全面がTEISによって表面修飾されて、微細凝集粒子として分散した状態で粉体状態となる。
【0063】
次に、この粉体状態の表面修飾されたシリカナノ中空粒子1を用いて、中空粒子含有断熱塗料の調製が行われる。すなわち、TEISで表面修飾されたシリカナノ中空粒子1に、塗料樹脂としてのアクリルウレタン樹脂と、塗料溶媒としてのキシレン(オルト、メタ、パラの混合物)が添加され、高速攪拌機によって混合されて(ステップS14)、シリカナノ中空粒子1がアクリルウレタン樹脂塗料中に均一に微細分散した中空粒子含有断熱塗料11が得られる。この中空粒子含有断熱塗料11におけるシリカナノ中空粒子1の含有率は、固形分について約50体積%であった。
【0064】
この中空粒子含有断熱塗料11を、基材としての銅円板及びステンレス(SUS304)円板(φ60mm,厚さ5mm)にエアスプレー塗布して(ステップS15)、170℃で30分間乾燥固化させ(ステップS16)、これを繰り返すことによって所定の厚さの塗膜11Aが形成されたシリカナノ中空粒子内包薄膜コート基材(塗膜試料)10が得られる。この塗膜試料10を用いて、熱伝導率の測定を行った(ステップS17)。
【0065】
次に、塗膜試料10を用いた熱伝導率の測定方法について、図3及び図4を参照して説明する。まず、塗膜試料10全体の熱伝導率の測定を、図3に示されるようにして実施した。熱伝導率の測定用の機器としては、英弘精機(株)のHC110を使用した。すなわち、28℃の高温側プレートと22℃の低温側プレートとの間に塗膜試料10を挟んで、高温側熱流量Qhと低温側熱流量Qcとを測定し、図3に示される次式(1)によって、塗膜試料10全体の熱伝導率λを算出した。
λ=(Qh+Qc)・L/(2・ΔT)‥‥(1)
【0066】
ここで、L:塗膜試料10の厚さ、ΔT:(高温側プレート温度−低温側プレート温度)=28℃−22℃=6[K]、である。こうして算出した熱伝導率λの値を、コーティング膜(塗膜)11Aの厚さに対してプロットしたのが、図3に示されるグラフである。図3のグラフに示されるように、基材5が銅円板の場合にもステンレス(SUS304)円板の場合にも、コーティング膜(塗膜)11Aが10μm形成されるだけで、基材5のみの場合に比較して、熱伝導率λの値は急激に減少している。
【0067】
これによって、基材5に中空粒子含有断熱塗料11を塗布して形成されたコーティング膜(塗膜)11Aの断熱性が極めて優れていることが判明した。そこで、次に、基材5を除いた塗膜11A自体の熱伝導率の値を算出した。その算出方法について、図4を参照して説明する。
【0068】
すなわち、図4に示されるように、形成された塗膜11Aの膜厚を測定された全熱抵抗の値に対してプロットして、プロットされた複数の点に対して最小自乗法によって直線を引き、その傾き(膜厚/全熱抵抗)から、それぞれの基材5についての塗膜11A自体の熱伝導率を算出した。
【0069】
その結果、図4に示されるように、基材5が銅円板の場合には塗膜11A自体の熱伝導率=0.028W/mK、基材5がステンレス(SUS304)円板の場合には塗膜11A自体の熱伝導率=0.026W/mKと、いずれも非常に小さい値であることが分かった。これは、空気の熱伝導率=0.024W/mKに匹敵する程度の、非常に小さい値である。
【0070】
このようにして、本実施の形態に係る中空粒子含有断熱塗料11及び中空粒子含有断熱塗膜11Aにおいては、シリカナノ中空粒子1の凝集を防止して塗料中に微細凝集粒子として分散させることによって、固形分としてより多くの量を混入することができ、より小さい熱伝導率、すなわちより大きな断熱性を得ることができる。
【0071】
次に、このような小さい熱伝導率が得られる理由について、有限要素法(FEM)を用いた膜内伝熱シミュレーションを行い、理論値としての熱伝導率を算出することによって検討を行った。図5に示されるように、中空粒子含有断熱塗膜11Aの要素モデルとして、中空粒子含有断熱塗膜11Aのシリカナノ中空粒子1の体積含有率が約50%であることから、体積充填率50%に相当する粒子面積比75%の要素モデル15を用いた。
【0072】
この要素モデル15は、アクリルウレタン樹脂部分6A、シリカシェル1A、粒子内部空間(空気と仮定)1Bから構成されている。なお、シリカシェル1Aは計算を容易にするために球形と仮定し、その厚さは5nm、粒径は50nmとした。また、粒子数は50個、測定温度は298K(温度差20K)とした。計算に用いた物性値は、図5に示される表の通りである。
【0073】
図5に示される要素モデル15と図5に示される表の物性値を用いて、計算した熱流束の結果を、図6(a),(b)の解析モデル16,16Aに示す。図6(b)の拡大解析モデル16Aに示されるように、シリカシェル1Aにおける熱流束が、アクリルウレタン樹脂部分6Aにおける熱流束よりも大きいことが分かる。この計算結果から算出された理論値としての熱伝導率は、0.244W/mKとなり、実測値の平均値=0.027W/mKよりも約10倍も大きいことが分かった。
【0074】
そこで、この相違の理由を検討するために、上記のシミュレーション計算を条件を変えて行ってみた。具体的には、上述の如く、シリカシェル1Aにおける熱流束が大きいことから、表1に示されるように、シリカシェル1Aが無いものと仮定した場合も含めて、粒子内部空間1Bが空気(バルク)の場合、ナノ細孔と仮定した空気である場合、及び真空である場合について、シミュレーション計算を実施して熱伝導率を算出した。結果を表1に示す。
【0075】
【表1】

【0076】
表1に示されるように、シリカシェル1Aが存在するものとしてシミュレーション計算を行った場合には、理論上の熱伝導率は、粒子内部空間1Bが空気(バルク)の場合、ナノ細孔空気の場合、真空の場合のいずれについても、少しずつ小さくなってはいるが、大きな違いはなく、実際の測定値より一桁大きいことには変わりがない。
【0077】
これに対して、シリカシェル1Aが無いものとしてシミュレーション計算を行った場合には、理論上の熱伝導率は、粒子内部空間1Bが空気(バルク)の場合には0.049W/mK、ナノ細孔空気の場合には0.036W/mKと、次第に実際の測定値の平均値(0.027W/mK)に近づいており、真空の場合には0.025W/mKとなって、ほぼ実測値と等しくなっている。
【0078】
このように、シリカナノ中空粒子1の凝集を防止して塗料中に微細凝集粒子として分散させることによって得られる本実施の形態に係る中空粒子含有断熱塗料11は、基材5に塗布した場合に、シリカナノ中空粒子1のシリカシェル1Aが存在せず、粒子内部空間1Bが真空とした場合のシミュレーション計算結果に近い、非常に小さい熱伝導率を有する中空粒子含有断熱塗膜11Aが得られることが明らかになった。
【0079】
このような優れた断熱性を有する本実施の形態に係る中空粒子含有断熱塗料11の応用分野について、図7及び図8を参照して説明する。
【0080】
図7に示されるように、自動車30用の窓ガラス、特にフロントガラス31においては、異物等が衝突して割れた場合にガラス破片の飛散を防止するために、強化ガラスとしての合わせガラスを使用することが義務付けられている。図7(b)の拡大断面図に示されるように、この合わせガラス31は、2枚のガラス32A,32Bの間に接着剤としてのポリビニルブチラール(PVB)33を挟んで貼り合わせたもので、割れた場合にガラス破片の飛散を防止するだけでなく、耐貫通性に優れているため、事故の場合に乗員がフロントガラス31を突き破って飛び出すのを防ぐことができる。
【0081】
しかしながら、自動車30においては、特に夏季における太陽光線による車内温度の上昇という問題があり、従来のフロントガラスでは、熱線である赤外線の透過率は低いものの、太陽光線によって暖められたフロントガラスの外表面から内部に熱貫流が生じて、自動車30内部の温度を上昇させていた。
【0082】
そこで、図7(b)の拡大断面図に示されるように、このポリビニルブチラール(PVB)33を基材として、本実施の形態に係る中空粒子含有断熱塗料11と同様の製造工程によってシリカナノ中空粒子1を多量に混入した中間層11Bを、フロントガラス(合わせガラス)31内に設けることによって、シリカナノ中空粒子1の断熱性が発揮されて、フロントガラス31の外表面から内部への熱貫流が遮断され、自動車30の内部の温度上昇を顕著に低減する効果が期待できる。
【0083】
また、図8(a)に示されるように、高層ビル35において大通りに面した壁面の大部分をガラス張りとすることも行われているが、かかる窓ガラス36としても強化ガラスとしての合わせガラスが用いられている。このような高層ビル35用の窓ガラス36としても、図8(b)に示されるように、ポリビニルブチラール(PVB)33に本実施の形態に係る中空粒子含有断熱塗料11と同様の製造工程によってシリカナノ中空粒子1を多量に混入した中間層11Bを、窓ガラス(合わせガラス)36内に設けることによって、シリカナノ中空粒子1の断熱性が発揮されて、窓ガラス36の外表面から内部への熱貫流が遮断され、高層ビル35の室内の温度上昇を顕著に低減する効果が期待できる。
【0084】
本実施の形態に係る中空粒子含有断熱塗料11の応用分野としては、その他にも、シリカナノ中空粒子1を多量に塗料中に分散してなる断熱塗料(特に、シリカナノ中空粒子1の透明性を生かした透明断熱塗膜を形成するための透明断熱塗料)や、透明合成樹脂フィルムの片面に金属を蒸着して他方の面に上記断熱塗料を均一に塗布してなる断熱フィルムや、合成樹脂中にシリカナノ中空粒子1を混入してこれをフィルムに加工してなる断熱フィルムや、合成繊維原料中にシリカナノ中空粒子1を混入してこれを紡糸してなる断熱繊維、等を挙げることができる。
【0085】
本実施の形態においては、シリカ殻からなるナノ中空粒子として、略50nm〜100nmの範囲内の外径を有する平均外径70nmの、空隙率が略70%〜80%の立方体状形態のシリカ殻からなるナノ中空粒子1を用いた場合について説明したが、略30nm〜略300nmの外径を有するシリカ殻からなるナノ中空粒子であれば、その他の特性を有するものを使用しても良い。
【0086】
また、本実施の形態においては、表面修飾用の有機溶媒としてn−ヘキサンを用いた場合についてのみ説明したが、これに限られるものではなく、他の有機溶媒、例えばメタノール、エタノール、プロパノール等の脂肪族アルコール、キシレン等の芳香族炭化水素、等を用いることができる。
【0087】
更に、表面修飾剤として、イソシアネート系化合物としてのトリエトキシプロピルイソシアネートシラン(TEIS)を用いた場合についてのみ説明したが、これに限られるものではなく、他の表面修飾剤、例えばアミン系化合物、ビニル系化合物、エポキシ系化合物、メタクリロキシ系化合物、アクリル系化合物、イミド系化合物、アルキル基を有する化合物、アリール基を有する化合物、等を用いても良い。
【0088】
本発明を実施するに際しては、中空粒子含有断熱塗料及び中空粒子含有断熱塗膜のその他の部分の構成、成分、形状、数量、材質、大きさ、製造方法等についても、本実施の形態に限定されるものではない。
【0089】
なお、本発明の実施の形態で挙げている数値は、臨界値を示すものではなく、実施に好適な好適値を示すものであるから、上記数値を若干変更してもその実施を否定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】図1は本発明の実施の形態に係る中空粒子含有断熱塗料の製造に用いられるシリカ殻からなるナノ中空粒子の製造工程を示す模式図である。
【図2】図2は本発明の実施の形態に係る中空粒子含有断熱塗料の製造方法及びそれを用いた中空粒子含有断熱塗膜の基板上への形成工程を示すフローチャートである。
【図3】図3は本発明の実施の形態に係る中空粒子含有断熱塗料を基材に塗布して形成した塗膜試料全体の熱伝導率の測定値を、塗膜の膜厚に対してプロットしたグラフである。
【図4】図4は本発明の実施の形態に係る中空粒子含有断熱塗膜の膜厚を測定された全熱抵抗の値に対してプロットしたグラフである。
【図5】図5は本発明の実施の形態に係る中空粒子含有断熱塗膜の有限要素法(FEM)による膜内伝熱シミュレーションに用いた要素モデルと物性値を示すグラフ及び表である。
【図6】図6(a)は本発明の実施の形態に係る中空粒子含有断熱塗膜の有限要素法(FEM)による熱流束の計算結果を示す図、(b)はその拡大図である。
【図7】図7(a)は本発明の実施の形態に係る中空粒子含有断熱塗料を自動車の合わせガラスに応用した一例を示す斜視図、(b)は拡大断面図である。
【図8】図8(a)は本発明の実施の形態に係る中空粒子含有断熱塗料を高層ビルの合わせガラスに応用した一例を示す斜視図、(b)は拡大断面図である。
【符号の説明】
【0091】
1 シリカ殻からなるナノ中空粒子
2 コア粒子(炭酸カルシウム)
3 シリカコーティング
5 基材
11 中空粒子含有断熱塗料
31,36 合わせガラス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
略30nm〜略300nmの範囲内の外径を有するシリカ殻からなるナノ中空粒子を塗料中に略均一に分散してなる断熱塗料であって、
前記シリカ殻からなるナノ中空粒子が固形分で30体積%〜70体積%の範囲内で含有されることを特徴とする中空粒子含有断熱塗料。
【請求項2】
前記中空粒子含有断熱塗料を基材に塗布して形成される中空粒子含有断熱塗膜の塗膜自体の熱伝導率が0.025W/mK〜0.06W/mKの範囲内であることを特徴とする請求項1に記載の中空粒子含有断熱塗料。
【請求項3】
前記シリカ殻からなるナノ中空粒子を溶媒に湿式ジェットミルで微細分散させた後、有機溶媒と表面修飾剤を加えて前記シリカ殻からなるナノ中空粒子に前記表面修飾剤を反応付加させて表面修飾し、前記塗料中に微細分散させてなることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の中空粒子含有断熱塗料。
【請求項4】
前記表面修飾は、前記シリカ殻からなるナノ中空粒子に前記有機溶媒と前記表面修飾剤を加えて混合物を作製し、該混合物に高温高圧を加えて前記有機溶媒の超臨界状態として、前記シリカ殻からなるナノ中空粒子の表面に前記表面修飾剤を反応付加させることを特徴とする請求項3に記載の中空粒子含有断熱塗料。
【請求項5】
オートクレーブを用いて前記混合物に高温高圧を加えて前記有機溶媒の超臨界状態とすることを特徴とする請求項4に記載の中空粒子含有断熱塗料。
【請求項6】
前記表面修飾剤はイソシアネート系表面修飾剤であることを特徴とする請求項3乃至請求項5のいずれか1つに記載の中空粒子含有断熱塗料。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6のいずれか1つに記載の中空粒子含有断熱塗料を基材に塗布してなることを特徴とする中空粒子含有断熱塗膜。
【請求項8】
塗膜自体の熱伝導率が0.025W/mK〜0.06W/mKの範囲内であることを特徴とする請求項7に記載の中空粒子含有断熱塗膜。
【請求項9】
膜厚が5μm〜200μmの範囲内であることを特徴とする請求項7または請求項8に記載の中空粒子含有断熱塗膜。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−108222(P2009−108222A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−282906(P2007−282906)
【出願日】平成19年10月31日(2007.10.31)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 研究集会名 第20回秋季シンポジウム 主催者名 日本セラミックス協会 開催日 平成19年 9月13日
【出願人】(304021277)国立大学法人 名古屋工業大学 (784)
【出願人】(504067365)グランデックス株式会社 (37)
【Fターム(参考)】